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自称『整備士』の異世界生活

九九 零

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『紳士淑女の皆々様ぁぁ!お待たせ致しましたぁぁ!!新入生舞踏大会の最後の部!決勝戦を始めますよっ!!』

会場全体がハチきれんばかりの歓声で震え、ファンファーレが鳴り響き、楽曲隊が軽快な音楽を奏でる。

『今年の入学生は粒揃い!そんな中勝ち抜いてきた2名!その力は昨日観ていた方なら判るはずですっ!!私達の常識の埒外!理解などできやしないっ!!しかぁしっ!!強いのは事実!!実況は昨日に引き続き、私!ロォーニが努めます!そして解説にはーー』

『同じく昨日に引き続かせて頂きます。魔法魔術専門の教師を務めているヘリーナです。よろしくお願いします』

『そんでもって俺は冒険者科を受け持ってるバリドンだ!こう見えてAランク間近でーー』

『はい!私達の紹介も終わった事ですし、お待ちかね!選手の紹介をしましょうっ!!』

『ちょっ!俺はまだーー』

パシンッと平手打ちの音が会場中に響き渡ると、全ての音が一斉に掻き消えた。

『ではでは!そうですね…まずはこちらから紹介しましょう!昨日の戦いで付いた異名は"爆炎の一撃"っ!!んぅぅ〜っ!いかにもって感じですねぇっ!これまで開始早々の一撃で相手選手は成す術もなく敗退させられて来てますっ!!しかぁしっ!!事前にこちらが仕入れている情報では彼女の真価は魔法ではないと判明しております!試験官を務めてくれた冒険者の方に話を聞いた所、な、な、なんとっ!?殴り飛ばされたそうですっ!!その実力は底が知れないっ!』

『聞いた話じゃおかしな戦い方をするんだってな』

『なんでも、師匠は第一試合に凄まじい戦いを見せ、第二試合を棄権敗退したエルだそうです!!一体、今回はその力を観れるのでしょうか!?フィィィーネェェッ!!』

ドッと歓声が沸き立ち、フィーネが舞台に足を踏み入れる。

『対するは……っ!?えっ!?これ本当ですかっ!?』

何があったのか、放送室が混乱し始めた。ダッタンバッタンと会場に音が響き『確認を急いで!』と何やら慌ただしい。
そして、数秒もせずに会場全体に届けられる驚愕の出来事。

『取り乱しましたが、それも仕方ないっ!まさかこんな人材が入学してくるなんて誰が予想できたでしょうかっ!?気を取り直して、紹介しましょぉぉぉうっ!』

本当に何かあったようで、実況のロォーニのテンションがおかしくなってしまっているまま選手の説明が続けられる。

『これまでの戦闘は圧倒的な格の差を見せつけての完全勝利!向かう所に敵なしとは彼女に相応しい言葉!まるで踊るような動きで敵を翻弄し、彼女に触れられたが最後!どんな屈強な者であろうと強制的に意識を刈り取られるっ!!しかぁしっ!!注目すべきはそこではないっ!!な、なななな、なんとっ!?彼女は最近頭角を現した超が付く程有名な商団!メンテナンス・ハンガーに所属しているらしいのですっ!!驚かないはずがないっ!』

『メンテナンス・ハンガーと言えば、有名なのは簡易スクロールですね』

『それは発案者からメンテナンス・ハンガーが利権を買い取っただけらしいぞ?』

ゴンっと、まるで今必要ないことを言った人を黙らせる為に何か固い物で頭を殴ったかのような鈍い音が響き渡る。

『メンテナンス・ハンガーに所属している人達は化け物揃いの噂は本物かぁぁ!?未だに謎が多いメンテナンス・ハンガー!しかし、その組員がここにいるっ!!その名もクロエ・メカニック!!』

フィーネが入場した時よりも大きな歓声が上がり、会場全体が揺れたように錯覚する。

『尚、今回の試合は苛烈になると判断され、審判はーー』

『俺が勤める事になった!』

『バリドン先生が執り行ってくれる事になりました。では、バリドン先生』

『両者、構えろっ!!』

フィーネはエルに教わった桐乃絵流の構えを。クロエはーー構えない。まるでエルを彷彿させる余裕の態度。さすがにポケットに手を突っ込んだままではないにしろ、腕を胸元の前で組んで仁王立ちだ。

「その構え…ふーん。なるほどね」

「なんか腹の立つ構えね…。ぶっ飛ばしてやるわ!!」

『始め!!』

二人の呟きが終わるタイミングを見計らったように、開始の合図が出された。
早速動きを見せたのはフィーネだ。

「『ライジング・ボム!』」

本来、魔法を使用するには魔法の杖が必要となる。が、フィーネは媒介である杖を必要とせずに魔法発動が出来る。故に、開始早々の魔法発動が可能でありーー多数の魔法を同時に発動させる事もできる。

同時展開された雷の球が無防備なクロエ目掛けて放たれる。その速度は雷が落ちるが如き勢い。爆音を轟かせ、刹那の内にクロエに直撃。間髪入れずに爆発。

砂煙が巻き上がる中、爆発に次ぐ爆発。連続した爆発がまるで一つの音を奏でる。

『出たぁぁ!!フィーネ選手の十八番!"ライジング・ボム"だぁぁ!!こんなものを食らえば流石のクロエ選手もーー』

砂煙の中で揺らぐ影。咄嗟に第二波を放つフィーネだが、しかし、少し遅かった。

「ツメが甘いわね。注意されなかったの?」

「っ!?」

砂煙から現れたのは黒い影デコイだった。本命はーーフィーネの右横から伸ばされる手。

咄嗟に左手で弾き、反撃にクロエの顔面に裏拳を放つ。

「読みも甘いわね」

しかし、この攻撃はお見通しと言わんばかりにヒョイっと避けられ、膝蹴りを脇腹にモロに食らってしまった。勘と直感で寸前の所で背後に後退する事で威力は削いだが、だと言うのに、クロエの攻撃が予想以上に重く、後退した先で痛みに顔を歪める。

『うおおおおっ!!あの状況から反撃!?っと言うか、クロエ選手!どうやってあの魔法から回避したぁぁ!?』

『あれはだな!わからんっ!!』

『魔法の多重発動なんて…え、すご…』

『ヘリーナ先生!地が出てますっ!あと、どうやらバリドン先生は使い物にならないようですっ!!』

『んなっ!?そんな言い方しなくても…』

そんな実況が行われる中、クロエの追撃が開始される。

「痛がってる暇はないわよ?」

その動きは陽炎のように揺れ動き、その速さは足の動きと噛み合わない。

「なんなのよっ!アンタ!『サンダーボルト!』」

直感で近寄られると不味いと感じたフィーネは後退しつつ視界を遮らない魔法を連続して放つ。が、どれも当たらない。
まるで目の前のクロエが実態のない影のように、全ての魔法がすり抜けているような気すらする。

「なんで当たらないのよっ!!」

と言いつつ、後退する足を止めてほんの僅かな時間だけ全神経を集中させ、更に無詠唱で魔法を追加。

『ど、どう言う事だぁぁ!!火、水、土、雷…ぜん…全属性魔法での攻撃ぃぃっ!?』

『あり…有り得ない…。ロォ…ロォーニさん!フィーネさんの適正魔法は!?』

『え?火と雷ですが?』

『そんな…私は幻でも見てるのでしょうか…』

火、水、氷、雷、土、風、光、闇。の剣型魔法を同時展開した。その数…100本以上。
さすがにその量が降り注げば避け切れないのか、クロエは足を止めてフィーネの出方を伺う。

「まぁ、あの人から直接教わってるだけはあるわね」

いや、伺っていたのではない。少しだけ感嘆して足を止めてその光景を見て笑ったのだ。

「これで終わりよっ!!」

「でも、まだまだ」

振り下ろされるフィーネの手。しかし、クロエの手がゆっくりと上がりーー剣型の魔法が降り注いだ。

全てとまでは言わないまでも、何本かはクロエに当たるかと思われた大量の魔法剣。だが、全て地中から這い出した黒い影によって吸い込まれてしまった。

「そんな…でも、これならっ!?」

先程とは比べ物もならないほど巨大な魔法剣が計8本。各属性につき一本形作られ、今度は落とすのではなく、大きく振りかぶられる。

しかし、それすらもクロエは軽々と。なんでもないかのように新たに展開した黒い影で受け止めてしまった。が、それはただの囮。本命はーー。

「っ!!」

同時に作っていた普通サイズの魔法剣での直接攻撃。クロエの意識は完全に上を向いており、その隙を付いた一撃だった。

だと言うのにーー。

「く…っ!」

クロエの手にはいつのまにか黒い剣が握られ、それによって受け止められた。

「あの人から直接教わったって聞いたから少し期待してたんだけど、とんだ期待外れね」

『なんつー力任せな剣技だ。つか、あの剣どっから湧いたんだ?』

『魔法の剣!あれは魔法で作られた剣ですよっ!バリドン先生!』

クロエが剣を軽く振るった。ただそれだけなのに、そこに込められている力は尋常じゃなく、否応なくフィーネは後退させられてしまう。しかし、それで終わりではない。

『おぉっとぉ!?ヘリーナ先生の様子が少しおかしいぞぉぉ!?』

縮地を使っての一撃離脱の戦法に切り替えたフィーネ。もはや誰も姿を追う事など出来やしない速度で舞台を駆け回り始める。

対して、クロエはフィーネの攻撃を一歩も動く事なく受ける。受ける。受け続ける。

『フィーネ選手が消えた!?なんだ!?何が起きている!?剣撃は聴こえるのにフィーネ選手が見当たりませんっ!!』

魔法で形作られた剣に耐久力なんて存在しない。魔力が続く限り持続し続ける。もはや魔力の持久戦のようなものだ。

いいや。フィーネは動き回っている。しかも、先程大量に魔力を消耗してから、体力を異様に消耗する縮地を使用している。魔力が尽きるか、体力が先に尽きるかのどちからだろう。もはやフィーネに勝ち目はない。ーーかと思えた。

何撃目になるだろうか。その一撃を受けて、次の攻撃を受けようと身を捻ろうとしたクロエだったが、ほんの少しだけ油断をして何かに足を躓いた。

何か。いや、地面の凹みに。

たった一瞬。されど一瞬。その一瞬の隙を突いた怒涛の攻撃。全方位からの魔法攻撃にダメ押しとばかりのフィーネ自身の被弾覚悟の攻撃。

爆風と爆煙によって包み込まれる会場中央。

そこから自身の魔法によって弾き飛ばされるフィーネとフィーネの攻撃が当たって腹部に軽い火傷を負ったクロエが別々の方向へと弾き出される。

「少し侮っていたわね…」

クロエは大した事なさそうだが、フィーネは満身創痍だ。自身の放った魔法の中に特攻したのだから無理もないだろう。
しかし、それでも立ち上がって油断ない瞳で相手を見据える。

「でも、これじゃあまだ私に届かないわ。格の違いを見せてあげる」

クロエが片手を扇げば砂煙が竜巻の如く巻き込まれ、空へと巻き上げられてゆく。

これで視界は晴れた。

と言わんばかりの瞳でフィーネを指差す。途端に出現する黒い影ーーいや。クロエの魔法。黒魔法の源。

地面から水滴が宙に溢れるかの如く、墨汁の黒のような水滴が宙に浮き上がり、不定形な形を象る。

それは機械と呼ばれるモノ。

それはエルも使用する特殊な魔法。

その名もーー。

「機関銃」

真っ黒な砲身が急速に回転を始める。まるで今にも何かが始まるかのように。いや、始まるのだ。

初撃はいつ放たれたのだろう。もはや一発一発が速すぎて分かりもしない。ただ、それが放たれた時には着弾地は爆ぜている。追撃なんて言葉はない。終わりのない連続掃射。

放たれる弾丸型の黒魔法は一撃は岩さえ砕き、跡形もなく粉微塵にしてしまう。

咄嗟の直感で横に跳ぶように逃げたフィーネだったが、それは逃げたフィーネを追うように地面を粉微塵にしながら掃射され続けている。

魔法障壁を張って時間を稼ごうとしても数秒も保たずに破壊されてしまい、打つ手なしだ。
避ける。ではなく、逃げる事しか出来ないフィーネ。しかし、彼女の瞳は決して諦めた者がするものではなかった。

逃げつつも槍系統や剣の形を模した魔法でクロエに牽制を放つ。そのどれもがクロエの周囲に未だに漂う"黒"によって吸い込まれてしまうが、それでも放ち続ける。

機関銃の周囲を逃げ回るフィーネ。近付いたとしても、まだ隠し球を持つクロエが待ち構えており、その周囲には待機状態の"黒"がある。フィーネに逃げ場なんてどこにもなく、誰もがクロエの勝利を確信する状況。

なのにーーフィーネは笑っていた。






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