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自称『整備士』の異世界生活

九九 零

閑話@2


「う、うわあああああああっ!」

森の中を逃げ惑う小影。そして、それを追う超巨大な影。それこそ、小山のような巨大さだ。

「なぜ逃げる」

そんな問いと共にフワリとどこからか現れた影が小影の隣を並走し始める。

「あんなのっ!あんなの無理!」

「なぜだ?」

「オイラじゃ倒せないからだよぉぉっ!!」

「軟弱な」

影が停止し、小影に置いていかれる。

刹那、その影ーーメカニックは殺意を剥き出しにした巨影に呑まれーーなかった。

あっという間に、彼の立つ箇所から前面に掛けて跡形もなく綺麗さっぱりと木々諸共、爆風と轟音と共に巨影を吹き飛ばしたのだ。

ただ一発の軽いパンチ・・・?によって。

先程まで必死に生きる為に走っていた小影が走りながら振り返り、その光景を目にして驚愕。からの、前方にあった木に激突して走っていた勢いを止める。

「うっ…うぅ…」

鼻を抑えて立ち上がる小影ーークラフトは、再びその光景を目にして鼻血が垂れるのも気付かないほど驚愕し、唖然とする。

圧倒的力技。と言うよりも、圧倒的すぎる。

まるで巨大な大砲を撃ったかのような生々しい痕跡。地を抉り、木々を吹き飛ばし、数百メートル先の崖に大穴を空けるほど。

もはや人間業ではないのは冒険者稼業の人の実力を知らないクラフトでも分かった。

「何を呆けている」

高揚のない声を投げかけられ、ビクッとなって慌ててメカニックに向き直るクラフト。しかし、何も言葉が出てこない。

メカニックは今起こした出来事に誇るわけでも、自慢気にするわけでもなく、ただ冷たい眼差しでクラフトを見つめていた。

それが言いようのない恐怖を煽り、クラフトは一歩後退りし、木の根に足を引っ掛けて転んで後頭部を打ち付ける。

その時に、ふと思い出した。

冒険者ギルドでギルド長のテリーが言っていた言葉を。

ーー暴れないでくれ。

ああ、今なら理解できる。どうしてメカニックにそう言ったのかを。

ーーくれぐれも死ぬなよ?

この最後の言葉も理解できた。こんなのを一発でも貰えば即死はま逃れないだろう。

メカニックが転けたクラフトを見下す。そこに助けてやろう。なんて慈愛の篭った感情なんてなく、いや、何一つとしてその瞳には感情が映っていない。

怖い。怖い。怖い。

メカニックの。いいや。エルの事が何一つとして理解できず、怖くて仕方がない。

ジリジリと無意識に後退りしてしまうクラフト。それを見て、メカニックは少し考えるような仕草を見せたと思えば「ふむ」と呟いて言う。

「休憩だ」

それだけ。たったそれだけ言って、クラフトを置いてどこかへと歩き去ってしまった。

メカニックが立ち去った後、暫くクラフトは動かなかった。

どうやっても勝ち目がない巨大な魔物を一瞬にして屠り、周囲の地形すらも変えてしまう力。魔物の強さやその力の本当の強さすら知らないが、それでもメカニックの異様さは理解できる。
なぜなら、同じ事をやってみろと言われても、クラフトにそんな事は出来ないからだ。せいぜい腰に携えた剣を振るって小動物一匹倒せる程度。

なのに、あんなものを目の当たりにさせられて、恐怖で動けなくなっていた。思考が追いつかない。

クラフトは普通の冒険者の強さを知らない。故に、冒険者とはあんなにも巨大な魔物を一撃で倒すような化物の事を指すのかと畏怖し、冒険者を目指すならあの強さまで至らなければならないと思って心が折れそうになった。

圧倒的。そんな言葉に収まらないほど、理解の範疇を超えていたのだ。そんなものを会って間もない時に、なんの情報もなく目の当たりにさせられれば誰だってこうなるだろう。

そんな時だった。

「怖くて動けねぇか?」

ふと頭上から聴き慣れた声が聞こえた。ここにはいないはずの人の声で、幻聴かと自分の耳を疑うような声。
しかし、彼は確かにそこにいた。クラフト…シルバの背後にある木に背中を預けて楽な体制をして、ニカニカと笑ってそこに居た。

「カッカさん…」

シルバをエルに紹介したカッカだ。本来なら、こんな所にいるはずがない人物が、なぜかここにいた。
シルバはボソリと彼の名を呟き、泣き付きたい気持ちで一杯になった。怖かったと叫びたかった。だけど、その反面、情けない所を見られてしまったと歯を食いしばる。

冒険者になりたいと言ったのはシルバ本人だ。その本人がこの様だと良い笑い者になってしまう。でも、カッカは別にシルバを笑う為に現れたのではない。

「まぁ、初めてアレを見せつけられたら怖ぇだろうな」

カッカはカッカなりにシルバを心配して出てきたのだ。

シルバはカッカに向き合おうと思って体勢を立て直そうとするが、今更腰を抜かしている事に気が付き、再び尻餅をつく。

そんな彼にカッカは手を差し伸べながら語る。

「俺も未だに旦那が何を考えてるかワカンねぇ時がある。お前の抱くその気持ちはよく分かるぜ」

その手を取ろうとして、躊躇する。色々な疑問などが頭に湧いて消えてゆく。

例えば、どうしてここにいるのか。どうしてこの光景を見ても平然としていられるのか。どうしてオイラをあの人に紹介したのか。そもそも、エルと言う人物は一体なんなのか。
聴きたい事が山程ある。ありすぎて頭の整理が全く追いつかない。

「でもな、お前の目指す"優しくて困ってる人達を助ける冒険者"ってのはアレぐらい力がなきゃなれねぇぞ?あの人が良い例だ。つっても、旦那は自分から進んで人助けはしないがな」

そう言いながらカッカは手を取るのを躊躇するシルバの手を無理矢理取って、肩を貸して立たせる。

「カッカさん…どうして…?」

ようやく口から出た質問にカッカは暫し思案する。
カッカがここにいる理由はまだシルバが知るような事ではなく、シルバのような子供に気軽に話せるような内容でもない。だから、それを誤魔化すようにニヤッと笑って言う。

「いつか分かる事だが、お前が今知る事じゃねぇな。まっ、俺が言えるのはもう少しあの人の側で頑張ってみろ。そうすりゃ色々と分かってくるからよ」

シルバが自分の足で立ったのを確認したカッカは自分のやるべき事は終えたと言わんばかりにシルバに背を向け立ち去ろうとし、「あ、そうそう」と言って何かを思い出したかのように足を止めて少し上を向いて言葉を選ぶ。

「最後にあの人との付き合い方を助言をしてやるよ」

首だけを動かして振り返り、シルバの怯えが残った瞳を真っ直ぐに見つめる。シルバも一言一句聴き逃さないように真剣に見つめ返す。

「怖がらずに一歩踏み出してみろ。そうすりゃ旦那はお前の気持ちに答えてくれるからよ」

そう言い残し、片手をプラプラと振って木の裏へと隠れるように立ち去って行った。


○○○


カッカが立ち去った数分後、メカニックが大きな荷物を引き摺って帰ってきた。今の今まで何をしていたかなんて聞くまでもなく、一目瞭然だ。

彼が引き摺る巨大な猪。その光景を見れば。

「肉だ。捌け」

そう言って軽々とクラフトの前に猪と短剣を放り投げる。

猪の名前はビック・ボア。Dランク冒険者がパーティーを組んでようやく倒せるような魔物。見る限り、それを一人で、しかも心臓を一突きと言う離れ業で倒している。

しかし、クラフトはその魔物の強さも、その技量の凄さも知らない。ただ、大物を軽々と運んできた事が余りにも異様に映り、普通じゃなさすぎて、一瞬だけ思考が固まってしまった。が、短剣と猪を何度か巡視し考える事をやめた。

考える事が無駄だとようやく気付き、メカニックに言われた通りに行動を開始する。そうすれば、きっとメカニックのように強くなれると信じて…。

肉の捌き方は知っている。孤児院で料理の手伝いをしていた頃に動物を捌いた事がある。だけど、今回はかなりの大物だ。

短剣を鞘から抜いて柄を握りしめ…メカニックをチラリとみやる。

「無理なら言え。教える」

「で、できる!」

「そうか」

メカニックが険しい瞳で見守る中、クラフトは緊張に震える手を抑えながら恐る恐る猪の体に短剣を突き立てた。


○○○


受けた依頼の一つはメガ・ボアと言う名前の魔物の討伐だった。ビック・ボアの亜種で、それはそれは巨大な猪の魔物だったのだが、メカニックがワンパンで跡形もなく消し去ってしまったので、討伐証明が回収できず依頼失敗判定となる。

そして、今はその次の依頼へと赴いていた。

サルークから直線距離で10kmほど離れた所にある村からの依頼で、依頼内容は近隣に出没したオークの討伐。

オークとは豚を人形にしたみたいな魔物であり、Dランク冒険者が一対一で勝てるかもしれない相手だ。故に、単体ではDランク魔物として数えられる。

で、だ。

「ふむ」

村の入り口が見える所でメカニックは足を止めて、辺りを見渡す。

「どうしたんですか…?じゃなくて、どうしたんだ?」

言い間違えたが、メカニックは特に気にした素振りを見せずにクラフトの質問にゆっくりと答える。

「多い」

「………?」

メカニックはいつも言葉足らずだ。だから、その意図はとても掴み辛く、クラフトは頑張って意味を理解しようとしたが…やはり無理だった。
だから、もう少し詳しく話を聞こうと思ったがーーその前にメカニックが言葉を続けた。

「離れるな」

「う、うん?…うん」

最後まで何が言いたいのか理解できないまま、先を歩くメカニックの後に続く。

村へ近付くにつれて、鉄の臭いがし始め、妙に鼻腔に突き刺さる感じがする。その臭いをどこかで嗅いだ事がある。しかし、思い出せない。

そうしている内に村の入り口はもう目の前に差し掛かり、鼻につく鉄の臭いも先程とは比べ物にならないぐらいキツく感じて来た。

村の入り口には門番はおらず、簡素な木製の門は閉じられたまま。見張り台を見上げて確認してみるも、人気はない。
耳を澄ませても自然の音しかなく、村の中から住人達の声も聞こえない。

少し違和感を感じる。

しかし、クラフトはその違和感の正体が解らず、心の中にモヤモヤとした物を覚えた。

軽く辺りを見渡して村に入れそうな箇所を探すも、木製の壁の高さはおおよそ3mほどあり、飛んでも届かないし、登れそうにもない。

どうするのかと思ってメカニックに視線を向けてみれば、彼は既に無人の門の前で。手を門に当ててーードンッと門を軽く吹っ飛ばし、粉砕してしまっていた。

「………」

色々と諦めたクラフトは遠い目をしつつパラパラと降り注ぐ木の屑を暫し眺め、我に帰ってから急ぎ足でメカニックの後を追う。

と、すぐに騒ぎを聞きつけて人ーーではなく、魔物が駆け付けてきた。

二足歩行の豚ーーオークの姿。二体だけだ。おそらく様子見に来たのだろう。
しかし、どうして村の中に魔物が?なんて疑問を感じる前に、クラフトはオークを初めて見て、メカニックを追う足を止めた。
オークを一眼見て理解できた。その生物がどれほど危険で怖い存在かを。体長は個体差はあれど2m程だろうか。横にも大きく、クラフトからすれば豚の面をした凶悪な巨人に見えたのだ。

しかし、メカニックは毛ほども気にした素振りはなく、これまた一瞬で、なんの躊躇もなくーー。

「爆ぜろ」

二体のオークの頭をたった一言で吹き飛ばした。

さっき抱いた恐怖の感情はなんだったのかと言わんばかりの僅かな時間。クラフトはなんとも言えない顔をしてメカニックを見上げる。
だけども、メカニックはクラフトにも、先程倒したオークにすら一瞥もせず足を進ませる。

その足取りはいつもと変わらず、普通だ。歩幅も、歩く速度も、ポケットに手を突っ込む所も、メカニックから発せられる謎のプレッシャーも、何一つ変わらない。

置いていかれてると気付き、慌ててメカニックの後を追うクラフト。

左右へ分かれるT字路に辿り着くと、早速オークの群れと遭遇した。左側には道のど真ん中で死肉を貪る食事中のオーク。家の中を漁るオーク。右側には積荷を積んだ荷車を押すオーク。家々から奪った物を荷車に荷物を載せているオーク。

総勢で三十を超えるだろうオーク達がいた。

がーーメカニックにとってオークとはゴブリンと同じく実験動物であり、もっと言えば、脅威度はその辺に転がる小石程度としか捉えられていない。故に、怖気付いて足を止めたクラフトとは違って、気にした素振りもなくT字路の中央へと歩き続ける。

一匹、また一匹とオークがメカニック達の存在に気が付いて雄叫びをあげ、武器を振り上げる。挟み撃ちにされたような状態だ。
しかし、オーク達はまだ襲いかかりはしない。

一匹が雄叫びを上げて武器を振り上げれば、近くのオークがその雄叫びに反応して武器を振り上げる。そうして周囲のオーク達がメカニック達の存在に気が付き『獲物がやって来たと嗤い』ようやく行動を開始する。

「ふむ」

各々が武器を振り上げて襲い来るオーク達を横目に、そう一言呟いたメカニックは、おもむろにポケットから手を引きーーいや、ポケットからどう考えても入りきらないような鉄の塊を取り出し、鉄の塊の先端にある穴を一番近かったオークに向けた。

刹那ーー連続する破裂音。あっという間に一匹のオークを蜂の巣のようにしてしまった。

オーク達が一斉に足を止めて、謎の攻撃で死んだ仲間を見る。
その瞳に映るのは恐怖だろうか。どうして仲間が死んだのか。どうして身体に無数の穴が空いているのか。理解できず、また、その謎の力を恐れてその場で足踏みする。

メカニックがもう片方の手をポケットから抜くと、先程と同じ形をした鉄の塊が姿を表す。

ギラリと太陽の光が反射し、妖艶に黒光りする鉄の塊ーー銃の存在がオーク達を威嚇をする。

銃口をグルリとオーク達に向け、空に向けーー手放す。

「クラフト。使え」

地面に落ちた銃が二丁。ハッとしたオーク達が『今がチャンスだ!』と言わんばかりに駆け出す。

余りにも唐突な事だった為、暫し茫然としていたクラフトだったが、迫り来るオーク達が視界に入ると慌てて地面に落ちた銃を拾いーー戸惑う。

使い方が判らない。どうすればさっきのメカニックのような事が出来るのか判らない。

もうオーク達は目前だ。どうすれば…どうすれば…。

痺れを切らしたメカニックがクルリと向きを反転させ、銃を逆さ向きに持っていた手を正しくさせ、引き金に人差し指を掛けさせ、握らせる。

刹那ーー無差別に乱射される弾丸の嵐。

「う、うわあああああああっ!?」

連続する銃声と共にはち切れんばかりの怯えが混ざった仰天の声が村中に響き渡る。

「離すな、持て。狙いを定めろ」

メカニックが注意と使い方を説明するが、そんな言葉は銃声とクラフト本人の口から出る声によって届きはしない。

結果、この場に居合わせたオークを殲滅し、装填されていた弾を全て使い切ってしまうまで無差別な乱射は続けられた。



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