自称『整備士』の異世界生活

九九 零

39

すみません。38話で抜けている箇所があり、更新しました。即興で書いたので雑かもしれませんが、読んでもらえると嬉しいです。

そのお詫びと言っては何ですが、39話が書き終わったので投稿しときます。








家に帰ってから一月が経った。

その間。っと言うか、帰ってきた当初は色々と大変だった。

慣れて忘れていたけど、俺は右目が見えない。それに気が付いた母ちゃんが大激怒して、疲れ切った顔で帰ってきたばかりの父ちゃんを村の外まで殴り飛ばしたりしていた。

その後は旅の最中に何があったのか根掘り葉掘り訊かれて、答えれる範囲でだけ答えた。

一応、俺は魔法が使えないって事も言っておくと、母ちゃんが号泣しながら俺を絞め殺そうとしてきた。
溢れんばかりの愛情は嫌ってほど伝わるけど、本当に抱き着くのだけは勘弁して欲しい。

その他にも色々とあったけど、一番は料理をするのがハクァーラになったのが大きいだろう。
毎日美味しい料理を頑張って作ってくれている。たまにカルッカンの街まで行ったりして買い出しついでに新しいレシピを手に入れたりもしててレパートリーは多い。

あっ、あと、大事な事を一つ忘れていた。

家が落ち着いてから、俺、村で子供達に"先生"って呼ばれるようになった。事の発端はフィーネが「遊ぼっ!」って俺に言ってきた所辺りだったと思う。

この世界の子供達の遊びは、お遊戯が一般的なようで、誰かが勇者役。誰かが魔王や魔物の役割をするんだけど…フィーネが木剣で殴る殴る…。

他の子供達は涙目だった。

だから、もっと安全なオセロや将棋なんかの遊びを提供してやると、みんな食い付いてくれて、調子に乗って玩具オモチャを作りまくったらいつの間にか子供達から先生って呼ばれてた。

そんな感じで一月が過ぎた頃。

父ちゃんは仕事に。母ちゃんは弟妹を連れて隣街へ。ハクァーラもついでに俺が造ったアクセサリーを売りに隣街へ出掛けている最中。

そんな中、俺一人で留守番をしてる最中にその人物はやってきた。

「お久しぶりです、エルさん」

知らない女の子が俺を訪ねて来たのだ。

「……誰だ?」

「えっ…。お、覚えてないのですか…?わ、私ですっ。マリアンナですっ」

女の子が涙目になって必死に訴えかけてきた。

「………」

でもなぁ…記憶にないんだもんなぁ。
記憶を探ってはみたものの、こんな可愛らしい子、一目見たら忘れられないとは思うんだけど…はてさて、一体どこで知り合ったのか?

「もしかして本当にお忘れに…」

突然両目を覆い隠したかと思えば、グスグスと鼻を啜る音が…。え、泣かした?

え?なんで?どうして?彼女が泣いた原因が全く判らない。

「………入れ」

こんな場面を誰かに…特にフィーネに見られる訳にはいかないので、取り敢えず家にあげておこう。

泣き止むのを待ってから詳しい話を聞かせて貰えば良いだろう。

はぁ…面倒だ…。


○○○


ハクァーラお気に入りの紅茶を女の子に出してから暫くすると徐々に落ち着きを取り戻し始めて、小さな声で謝罪を口にしながら泣き止むと、どこで知り合ったのか少しづつ話してくれた。

まず、女の子の名前はアリアンナだそうだ。

出会い方は面白い事に、サルークの街の宝石店で俺が物盗りと間違われていた時にアリアンナの家のお抱え騎士と一悶着あって、その時に知り合ったそうだ。

俺が物盗りに間違われるって…いやいや。無いだろ。

それはそうと。……あぁサルークか。
一月前ほど、神の祝福とやらを受けに旅をした時に立ち寄った町の名前だ。

…の筈なんだけど、なぜか記憶がゴッソリと抜けてるんだよな。サルークから旅立つ記憶はあれど、サルークに到着した記憶が全くない。

「………すまない」

これは俺に非があるかもな。

「サルークでの記憶がない」

「記憶が…。何も覚えてないのでしょうか…?」

「ああ」

何一つ覚えていない。
まるで未来の自分に乗り移ったかのような感覚で、起きた当初は酷く混乱した覚えがある。

「そんな…」

アリアンナが今にも泣きそうな顔で俯いてしまった。これは完全に俺が悪そうだな。

うーむ…困った…こう言う時にどうすれば良いのか俺には判らないぞ?

「………」

何か言おうかと思ったけど、言葉が思い付かない。無理だ。黙っとこ。

黙り込んで下を向くアリアンナを見てると気不味くなってくるから、天井でも見上げて物作りの妄想をしつつ時間を潰す。

暫くそうしていると、ポツリポツリとアリアンナが語り始めた。

「覚えてますか?私とミリアとサルークの街を歩いたこと…」

覚えてないな。

「覚えてますか?ミリアの我儘で露店で沢山の買い物をしたこと…」

……したのか?

「覚えでまずが…エルざん、魔石を買えた時、ずっごく喜んでたごど…」

鼻声が酷い。え、まさか、また泣いた?

俯いてて顔が見えないけど、ズズズッと鼻を啜る音が聞こえる。

「酷いですっ!酷いですよっ!なんで忘れちゃうんですかっ!エルさんのバカ!バカバカバカァァッ!」

えぇ…。


○○○


またもやアリアンナが落ち着くのを待って、どうして俺の元に訪ねてきたのか質問してみた。

「前にサルークで馬車の修理を依頼したのを覚えてますか?」

いや、覚えてないな。

首を横に振るうと、アリアンナがまた泣きそうになった。
どうしろって言うんだ。

まぁ涙を堪えてくれたから良かったけど。

「そ、その件で一度お父様に伺いを立ててみたら是非頼みたいと言ってくれたので、お迎えに来たつもりだったんですけど…」

そうか。そうだな…よしっ。考えは纏まった。

「分かった」

記憶はないけど、約束したんだったら守らないとな。これ以上泣かれるのもなんだか嫌だし。

「行こう」

早速とばかりに立ち上がったのは良いけど、その前に書き置きは残しておかないとな。

一応は軽い読み書きぐらいは出来るようになっている。母ちゃん直伝だ。
『少し旅に出る』とでも書いておけば良いだろう。

ちなみに、言葉も一月前と比べてかなり覚えた。話す言葉はゆっくりだけど、それなりに話せるようにはなったと自負している。

それに、以前までは常に身体をマナで強化してしまっている状態だったが、今はこうして強化せずに生活できるようになるまでに至った。

こう見えて俺は頑張ってるんだ。

ーーさて。行くか。


○○○


アリアンナの家は、サルークを中間地点に置いて、そこから南東方面に向かった所にあるらしい。

一月前に向かったラフテーナとは逆方向だな。

アリアンナが乗ってきた箱馬車に乗って片道およそ一週間ほどの旅路だ。
距離を軽く計算すると約910kmほどある。東京から大阪までの距離が高速道路を乗って約500kmと考えて…山口県辺りは確か900kmぐらいあったっけ?

そう考えると、かなり遠いな。

つくづく思うけど、この世界は交通の便が悪すぎる。
前世の基準で考えるとするなら、高速バスで14時間ほど。新幹線で4時間。飛行機で1時間半ほどで着ける距離だ。

不便だなぁ…。

そう思いながら、俺は吐き気と激闘しながら馬車に揺られている。

この馬車にはリーフサス…リーフサスペンションと呼ばれる板を重ねたバネ…主に板バネの愛称で呼ばれる物が使われている。要するに、トラック御用達のサスペンションだ。

だが、トラックのサスペンションよりも出来が酷い。普通の馬車よりも格段に跳ねるし、揺れる。

作ったやつは何も考えてなさすぎる。

これは余りにも酷すぎる。酷すぎて…。

「おえぇぇぇ…」

吐いた。

勿論、馬車の外にだ。
慌てて扉を開けると馬の背に乗った護衛の騎士達が『何事かっ!?』と言わんばかりに驚いた顔をしていたけど、そんな事は御構い無しに汚物を外にまき散らす。

これでも努力した方だ。アリアンナの話を聞く余裕すらないほど酔ってたんだ。だから、極力酔いを忘れられるような事ばかり考えてたのに…やっぱ無理だったみたい。

出発から1時間足らずの出来事だった…。

「エ、エルさんっ!?急いで馬車を止めてくださいっ!!」

突然馬車が急停止したもんだから、それに備えてなかった俺は反動で馬車から転がり落ちてしまった。

痛い…。気持ち悪い…。しんどい…。

あぁ…もうヤダ…。

「だ、大丈夫ですかっ!?」

慌てたアリアンナが馬車から降りてきて、仰向けに倒れ込む俺の側に座り、心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。

「大丈…」

その顔を見てると…。

「ばない…うっぷ…」

吐き気が…。

すぐに立ち上がって、脇目も振らずにダッシュ!

今更馬から降りて駆け寄ってきた騎士達の脇を通り越して、茂みの中へダイブっ!

「おえぇぇぇぇ…」

ギモヂ悪い…。


〜〜休憩中〜〜


ふぅ…。酷い目にあった。

遠い所にある緑を眺めているだけで、だいぶ馬車酔いがマシになった。
あんなに酷い馬車…いや、乗り物に乗ったのは初めての経験だ。金輪際、この世界の人が作った馬車に乗りたくないって思えるほど酷い目にあった。

で、だ。休憩中は極力考えないようにしていたけど…。

チラリとアリアンナの座る向こう側にある馬車を見やる。アリアンナがコテンッと小首を傾げているが、今それは関係ない。

問題はその向こう。馬車にある。
その馬車に…また…乗るのか…。

嫌だ。全力で拒否したい。でも、乗らなきゃアリアンナの家まで行けないし…。

……乗らなきゃ?

よく考えろ、俺。今、何か思い出しかけたぞ?大事なことだ。思い出せ。思い出すんだっ。

乗らなきゃ…乗らなきゃ…。乗る…乗る…。………あ。そうだ!その手があったかっ!
要は乗らなきゃ良いんだ!

よし、走ろうっ!

いつもやってる持久走とそう変わらない。違いがあるとすれば、走る時間がいつもより少し長い事だけだ。

大丈夫。俺なら出来る。出来るさ。


○○○


俺は基本的にポケットに手を突っ込んで行動する事が多い。なぜか。癖になってるからだ。
人前で異空間倉庫を使う時は誤魔化す為にポケットに手を突っ込んで物を取り出したりする。それが常習になってしまった結果だ。

側から見れば態度が悪いクソガキにしか見えないだろう。だから俺は何も言えない。

「おいっ!聞いてるのかっ!?お前はアリアンナの何だと聞いてるんだっ!!」

俺に突っかかって来る態度の悪いポッチャリ体型のクソガキ。
ポケットに手を突っ込み、どこぞのヤンキーの如く下から覗き込むように睨み付けてくる。

おそらく嫉妬だろう。

どうしてこうなったのか。ここまでの経緯を軽く説明するとだなーー。


○○○


ようやく辿り着いた。アリアンナの住む街。アルタバフ。疲れる度に休憩を挟んでたけど、ここまで走った俺を褒めて欲しい。

凄いなぁ、俺。よく頑張ったな、俺。

誰も褒めてくれないって分かってるから、心の中で自画自賛しとく。
寂しい奴とは言ってくれるな。

さて。話を戻そう。街に着いてからは馬車も馬も走らせる訳にはいかず、騎士達は馬から降りて、馬車は徐行運転になる。
そうすると、必然的に俺が歩く速度よりも少し早いぐらいになるわけだが、騎士の一人が「お疲れさんっ!」って言いながら馬の背に乗せてくれた。

馬車よりも乗り心地は良いけど、バイクには劣る。それに、獣臭が凄い。

まぁ、向こうは労ってくれてやってくれた事だから、口に出しての文句は言うまい。

「おう坊主!お前、見た目によらず根性あるなっ!見直したぞ!」

道中に仲良くなったっぽい騎士の一人がワシワシっと頭を乱暴に撫でてくる。
悪い気はしないが、ガントレットを付けたままだと撫でられた頭が痛いから止めてほしい。

「あんな事を言い出した時は何バカな事を言ってるんだって思ったけどよ、まさか、本当に走るなんてな」

「ホントですよ。僕なら一日目でバテてる自信がありますっ!」

「お前は変なとこで威張んなっ!」

「アハハハ」

俺の周りを囲む騎士達が笑いに包まれる。

そうこうしながら街の中にあるもう一つの門を通過した途端、賑やかだった街中の風景が一変し、大きな屋敷が建ち並ぶ裕福層の居住区に入った。

そこで一行は一時足を止めた。

騎士達の中から一人が前に出てきて、また頭を撫でられる。

「よく頑張ったね、エル君」

今度は乱暴じゃいし、ガントレットも外してくれてたから痛くはなかった。ついでに、馬から降ろしてくれた。

「じゃあ、俺達は用事があるからここでお別れだなっ!」

「んじゃなっ!エル坊!」

「またねー」

そんな感じで騎士達とはお別れとなった。

「終わりましたか?エルさん」

馬車に備え付けの窓からヒョッコリと顔を覗かせているアリアンナ。どうやら騎士達との別れの挨拶で待たせていたみたいだ。

「ああ」

返事を返しつつ馬車に歩みよろうとすると、ゆっくりと馬車の扉が開かれた。

アリアンナは窓付近に居るのになぜ?と、思ったが、その疑問は一瞬で解決した。

「辺境の地から遥々ご苦労様です。お話はアリアンナ様から伺っております。エル様」

メイドだ。いつのまにか馬車にメイドが乗っていた。

全く気付かなかった。
マナ感知に彼女の反応はある。街の住人達のマナを一々確認なんてしてないし、おそらくは、俺が全く気にしてなかったから気付けなかったんだろう。

「もう暫くでお屋敷に着きますので、どうぞ馬車にお乗り下さい」

もう暫くって事は、もう少しで着くんだろ?だったら、俺の取る行動は一つしかないだろう。

「歩く」

「遠慮の必要はございません。どうぞ、お乗り下さい」

あれ?話通じてないのかな?

「あるーー」

「馬車にお乗り下さい」

もう一度言おうとしたら、途中で言葉を遮られた。
なぜか、メイドが執拗に俺を馬車に乗せようとしてくる。新手の嫌がらせか何かか?

「………」

「馬車に」

「分かった」

俺は何度も言われるのが嫌いだ。

まぁ、俺のそんな性格はどうでもいい。
俺が黙り込んだのが悪いからな。

出来ればこの馬車に乗りたくなかったけど、このままだと何度でも言われそうだし、仕方なしにメイドの言葉に従って渋々馬車に乗り込む。

「すみません、エルさん。シルは少し強引な所があるのです」

強引…か。確かにそうだな。

「アリアンナ様。それは違います。貴族街でエル様のような平民が歩いていると、他の貴族様からのどんなやっかみを受けるか判らないからです。最悪、騎士に捕らえられる事があるかもしれないので馬車にお連れさせてもらいました」

あー、成る程な。
メイドの言いたい事はなんとなく理解した。

「すみません、エルさん」

申し訳なさそうに頭を下げるアリアンナ。それを見てもメイドは無反応だ。
普通は主人が頭を下げれば従者みたいな扱いのメイドも頭を下げるもんじゃないのか?

いや、別に頭を下げて欲しい訳じゃないし、そもそもアリアンナが謝る必要なんてないけど、ふと思ったんだ。

この世界の主従関係はどうなってるんだ?

っと。この疑問は取り敢えず置いておこう。

「謝罪の必要はない。メイドの言う事は正しい」

「ご理解頂きありがとうございます」

「ああ」

なんだか、このメイドとは仲良くやっていけそうな気がする。

メイドが「失礼します」と言って俺を抱き上げて、椅子に座らせた。
正直言うと、座ると酔いが酷くなるから立ったままが良かった。けど、わざわざ手を貸してくれたんだし、文句は言うまい。

「では、馬車を出して下さい」

メイドが御者に声を掛けると、馬車がゆっくりと走り始めた。

そして、数分ほどで馬車がゆっくりと停車する。その間の会話はゼロ。
まぁ、原因は俺が喋らないからだとは思うけどな。それに、アリアンナが終始落ち着きなさそうにソワソワとしていたから、ソッとしておいてあげた。

特に深い意味はない。
ただ、話を切り出すのが面倒…じゃない。俺の話なんてつまらないだろうからな。

馬車の扉をメイドが開けると、まず目に入ったのは巨大な扉だった。一般家庭の扉が約2mほどだとすると、その三倍はある。絶対にそこまでの大きさが必要ないって思えるほどの観音扉…両開き扉だ。

その前に執事っぽい初老の爺さんが背筋をピンッとして立っている。
立ち姿が随分と似合っていて、全く違和感がない。っと言うか、姿勢が綺麗だ。

メイドに先に降りるよう促されて降車すると、執事が胸に手を置いて深々と一礼。

「ようこそいらっしゃいました、エル様」

「ああ」

俺の後に続いて、メイドに手を引かれながらアリアンナが降りてくる。

「お帰りなさいませ。お嬢様」

「ただいまです。セバス」

そんなやりとりを聴きながら、目の前に聳え立つ建物を見上げる。

一般家庭の家とは違って、見事な建造物だ。
おそらく三階建てだな。主体は木造で外壁は岩か何かを加工しているようだ。木製の窓枠は防腐処理の為なのか、漆のようなものが使われている。
近くの艶のある窓枠に触れてみれば、とても手触りが艶やかだ。

見た感じでの広さは高校の校舎を思い出す。いや、あれは4階建てだったか。
でも、一階は随分と高く作られてるし、高さは同じぐらいだとは思う。

「エル様。アリアンナ様はご主人様に帰還のご報告に参りますので、この私めが客間までご案内させていただきます」

「ああ」

メイドの役割は執事に受け継がれたようで、俺は執事に連れられて客間とやらに連れて行かれた。

そして、出会ってしまった。例のバカにーー。







コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です!
    即興でも更新して頂けるなら此方は有り難いです
    次も楽しみにしてます!

    1
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