自称『整備士』の異世界生活

九九 零

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遅くなりましたーっ!
私事ですが、先日新しいバイクを買い、朝からカスタムに励んでいると、熱中しすぎて気が付けば23時半!?

何事も程々が一番ですね^ - ^







ウィックの質問はすごく簡単なものばかりだった。

Q:宿屋で先に手を出したのはどっちだ?
A:相手。

Q:股間を狙って倒したのはなぜだ?
A:そうしないと勝てないから。

Q:武器を使ったか?
A:使ってない。

Q:なぜ狙われたか分かるか?
A:俺の知識。

Q:ブルタークの泊まっていた宿屋に向かった理由は?
A:宿の修繕費と迷惑料を払わせる。

Q:倒した相手の中に冒険者が入っていたのは知っているか?
A:知らなかった。

Q:敵の判断基準は?
A:攻撃してくるのが敵。

実際は聞くに耐えないほど俺の口下手が炸裂していたけど、要約するとこんな感じだ。

「ガハハッ!なるほど!そう言う事だったのかっ!」

拙い言葉でも理解してくれたウィックは、満足そうに頷くと表情から真剣な表情を消し去って、豪快に笑い始めた。

「最後に、ブルタークが狙っていた知識ってのがどんなのか聴いてもいいか?」

まるで、ついでと言わんばかりに尋ねてきた。

ウィックの表情や態度を見る限りだと、この質問は冒険者ギルドのギルド長としてではなく、ウィック個人の興味の部分が大きそうだ。

別に隠す事もないので、ポケットから実物を取り出してウィックに渡す。
説明するよりも実物を見せた方が早いと思った。

今渡したのは魔法の指輪と適当に呼んでる物だ。
俺の作ってるアクセサリーは全て内側に筆記魔法を刻んだもので、マナを流す。または呪文を口にする事で、事前に設定された魔法が発動する仕組みになっている。

今回のは光を灯す球を出すものだ。

魔法を一つしか埋め込んでないから構造は凄く簡単で、素材や材質を気にしなければ1分につき60個ぐらいは量産できる自身がある。
要するに、そこまで重要でも何でもないガラクタだ。

ただ、これはかなり本気で作った自信作だから売らずに取っておいた。他のゴミは全部売ってしまったから、手頃なのはこれしかない。

「んん?これは…なんだ?」

ウィックが指輪を色んな方向から観察しながら訊いてきた。

何かと訊かれれば…そうだな。

「マジックリング」

とでも名付けておこう。

「マジックリング?」

「ああ」

今命名した。

材質はアルミニウム合金。主にジュラルミンと呼ばれる合金で構成した指輪で、装飾として敢えて表面に文字を掘っているものだ。
文字盤には透明感のあるガラスのようなもので埋め尽くされていて、表面に一切のデコボコはない。

シンプルだが綺麗な装飾となった。
それに、副産物として面白い性能も付与されている。

エーテル結晶はマナを流すと仄かに光を発する性質がある。それを利用したものだ。

内側を空洞にしてエーテルで充満させ、強度を底上げするために空洞の外壁部分をエーテル結晶でコーティングする。
すると、マジックリングにマナを蓄積出来るようになり、文字盤を埋め尽くすエーテル結晶がマナ残量を表示させるゲージのような物になった。

マジックリング内のマナが減ってくると、それに合わせて文字盤の光が頭から徐々に失われて行く。と言ったものだ。

我ながら面白いものができた。

だけど、一つ難点がある。

俺は使う事が出来ないんだ…。
使うと、内側に封入したエーテルが全て一瞬で結晶化させてしまい、酷い場合は爆散する。

ジュラルミンはステンレス程の硬度はないものの、アルミ合金と言うだけあって凄く軽い。
肌に身に付けていても本当に付けているのか忘れてしまうほど。だけど、腐食され易く、表面を別の何かで覆って対食性をカバーしないといけない。

まぁ、そんな難点のある素材だけど軽くて丈夫で使い勝手も良さそうだから、弟(アック)か妹(マリン)に挙げようと思っていた物になる。

「随分と綺麗な細工だなっ!」

一度隅から隅までジックリと観察したウィックが笑顔で褒めてくれた。

「ああっ」

褒められたのが嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。

こんな玩具でも本気で考えに考え抜き、幾つもの苦難や自問自答を繰り返す過程を終えた末にようやく出来た物だ。

だから、その過程を褒められたようで素直に嬉しく思える。

「物の目利きには余り自信はないが、これなら欲しがる輩は山程いそうだっ!かく言う俺も欲しい!」

「そうか」

くれてやってもいいが、それはアックかマリンに挙げる予定の物だ。

「っと言っても、俺にはコイツを渡すような相手はいないがなっ!ガハハハハッ!」

要するに、恋人はいないと。

前世の俺同様に独身貴族か。
その方が背負う重荷もなくて楽だもんな。その気持ち、よく分かる。

決して結婚出来ないわけじゃない。する気がないだけだ。

でも、同じ穴の貉(ムジナ)だ。
ウィックには筋トレを教えてもらった借りもあるし、特別に専用の物を作ってやってもいいかもな。

ちょっと試してみたい試作品もあった事だし、それを改良して渡すか?

いや、その前に欲しいかどうかの確認だな。

「いるか?」

「遠慮しておこう!だが、結婚が決まれば、改めて坊主に作ってもらおうっ!」

そう言ってマジックリングを返却された。

そうか。
試作品の威力を試したかったんだけどな…。

まぁ、断られたのなら仕方ない。
気持ちを切り替えて行こう。

「さて、今回の件の質問は以上だ!長くなってすまなかったなっ!」

ガハハッと豪快に笑いながら席を立つウィック。

そして、俺の背後にある扉を開けた。

話は終わったし、言外に出て行けって言ってるのか?
そう思って俺も立ち上がると、ウィックに手で『座れ』と示された。

「まだ坊主にはヤボ用が残ってるんだ!そこで少し待っててくれ!」

「ああ」

分かった。


○○○


ギルド長室で暫く待っていると、ウィックが二人の人物を連れてきた。

一人は俺をここまで案内してくれた受付嬢。そしてもう一人が、

「父ちゃん…」

今一番会いたくなかった人だ。

宿屋が出禁になった事どうやって説明しよう…。

「聴いたぞ、エル。お前、宿屋を破壊したんだってな?それに、貴族様にまで手を出したり、襲ってきた男達のアレを再起不能にしたんだって?」

うぅむ…。

後ろめたい事がありすぎて、父ちゃんの目を真っ直ぐ見れない。

確かに宿屋を潰したのは俺だ。否定できない。
でも、それはあのブタタークが原因で…って、言い訳はやめよう。
壊したのは俺だし、事実なんだからな。

でもな、貴族は知らない。
襲ってきた男達の件については、全て襲ってきた奴らが悪い。

父ちゃんも冒険者だった時の武勇を話す時は盗賊や魔物は倒すべき悪で、悪には容赦しなくていいって言ってたから、その辺は反省するつもりは全くない。

「エル。父ちゃんは怒ってるんだ」

ゆっくりと父ちゃんの目を見ると、言ってる通り、瞳に怒りが宿っていた。
直視できずにすぐに目を逸らしてしまった。

「今回は何とかなったが、次はないからな?」

「……分かった」

シッカリと憶えておく。
次は宿屋を破壊しないように倒す。

「話は終わったか?ドンテ」

「ああ。時間を取らせてしまってすまないな。ウィック」

「他でもないお前の頼みだ!これぐらい気にするなっ!」

なんだろう。なんだか、ウィックと父ちゃんがやけに仲が良さそうに見える。

「ギルド長とドンテ様は昔に何度かパーティーを組んでいた時期があったらしいですよ」

なるほど。だからこんなにも仲が良さそうに見えるのか。
いや、実際に仲が良いんだろうな。お互いの素直な表情を見てるとそう思えてくる。

「坊主。いや、これからは親しみを込めてエル坊と呼ばせてもらう!あと、今日この場で冒険者ギルドに登録しておけ!」

「………?」

なぜ?
嫌なんだけど。

「ガハハッ!ドンテの言った通りの反応だなっ!」

「だろ?コイツ、冒険者になりたがらねぇんだよ」

そりゃそうだ。
危険が伴う仕事なんて就きたくないからな。

生きていく上でも危険が付くのなら、それはそれで仕方ないと割り切れる。
だけど、自分から危険な事に首を突っ込むほど俺は自殺志願者じゃないんだ。

「まぁ、なんだ!……。ナタリー、説明してやってくれっ!」

ウィックが何か言おうとしたけど、何を言えばいいのか分からないように頬をポリポリと掻いて、受付嬢に話を全部丸投げした。

受付嬢…ナタリーはウンザリとしたような顔を浮かべて、小さく溜息を吐いてから口を開く。

「エル君には商業ギルドに登録してもらおうと思っています。それには、エル君の年齢が些か足りずに他の商人達に白い目で見られると思われましたので、冒険者ギルドが貴方の後ろ盾に成ろうと考えております」

なるほど。
実に分かりやすくて納得の行く説明だ。

受けても損はなさそうだな。

「その代わりと言うと何だがーーっと何でもない」

ウィックが何かを言おうとしたが、ナタリーに睨み付けられて引き下がってしまった。

今の結構重要な話だったんじゃないのか?

「まったく…ウチのギルド長は…」

などと言って諦念が含まれた深い溜息を吐くナタリー。
そして息を大きく吸い込むと、ゆっくりと吐き出して俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。

いやん、照れちゃうっ。

なんて冗談を言っていい雰囲気じゃなさそうだ。

「…エル様。大切な事を言い忘れておりました。これは当ギルドとエル様とによる商談となります。ですが、もし貴方に商談事が無理だと感じたら遠慮なく仰って下さい」

「ああ」

あれ?呼び名が変わってる?

「では、話させて頂きます。当ギルドはエル様の後ろ盾に成る代わりに一月に一度で構わないので、簡易スクロールを定期的に販売して欲しいのです」

別にいいけど?

「エル坊はまだ10歳になったばかりだろ?商談は難しいと俺は思うんだが?」

「だけどよ、エルに黙って勝手に決めちまうとスゲェー怒られるんだよ。それこそ、殴る蹴るの暴行は当たり前だぜ?この前だって殴られたしよ…」

「ガハハッ!随分と素行がファミナに似てきたなっ!確か、お前が冒険者だった頃も同じように愚痴られた覚えがあるぞ」

「そうだったか?」

いつのまにかソファに座って寛いでいた父ちゃんとウィックの話し声が聞こえてきた。

父ちゃんも成長してる事が伺える雑談だ。
いや、さすがに何度も殴られてたら嫌でも覚えるか。

って言うか、母ちゃんも俺と同じような事をしてたってマジ?それだけ父ちゃんがダメダメだったって事なのか?

ちょっと気になる。

「エル様。やはり、ご判断をドンテ様に委任しますか?」

いや、その必要はない。
俺の結論は既にでている。

どうやって返答すればいいか迷ってただけだ。
決して、背後のオッサン共の会話が気になって耳を傾けてたわけじゃない。

「……受ける」

「ありがとうございます。では、細かい話を煮詰めていきたいのですが……」

俺の返答に顔に花を咲かせたナタリーが窓の外を見やると、一気に気落ちした。
ようやく咲いた花が一瞬で枯れ行く場面を見てしまった気分だ。

なぜかと思って振り返ってみれば、窓の外から見える景色に朝日が差し込んでいた。

通りで妙に明るいと思った。

「出来れば、このお話の続きは明後日の昼頃にして頂けるとありがたいのですが、構わないでしょうか?」

「ああ」

どうも何か別件の用事がありそうな雰囲気だ。

俺はそれを邪魔するほど野暮ったい人間じゃない。2日ぐらい別にこの街に留まっても良いだろう。

急いで帰る理由もないしな。

「でよ、俺が勝手に決めたら怒る癖に、アイツは俺に何の相談もなくーー」

「ギルド長!」

父ちゃんが愚痴を零してる最中だったが、遠慮なくナタリーがそれを上回る声でウィックを呼んだ。

「販売の件は了承を得ました!詳しい話は後日することになったので、私は一足先に上がります!失礼しますっ!」

と、早口でまくし立てて、ウィックの返答も聞かずに急いで立ち去るナタリー。

受付嬢と言うのは随分と忙しそうだ。

でも、立ち去る間際に見えたあの顔は、とても嬉しそうな笑顔で、遣り甲斐を感じていそうだった。


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コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です!
    バイク弄り楽しそうですけど熱中症とかには気を付けてください
    次も楽しみに待ってます!

    1
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