羊飼いの王様シリーズ

Marrjskaja=Hanna

羊飼いの王様は夜霧の中

『羊飼いの王様は夜霧の中』

   アミンタとエリーザ、野原で羊と遊んでいる。

アミンタ「ふぁー!今日は穏やかないい日だなぁ…な、バルブンヤにブリヌイ、ケバブ!」

エリーザ「バルブンヤにブリヌイ、ケバブだって…変な名前!」

アミンタ「いいじゃないいか!これのどこが変だと言う!?」

エリーザ「十分変よ!というのか羊ちゃんたちが可哀想よ!」

アミンタ「なぜだ!」

エリーザ「だってあなたのつけたお名前ってみんな食べ物ばっかりじゃないの。もしかしてあなたって、まさか自分の子供にまでそんなお名前つけるつもりじゃないでしょうね?」

アミンタ「僕の子?」

   エリーザを見る

アミンタ「バカ言うなよ!僕はまだ15歳にもならない子供だろ?当たり前だけど奥さんだってまだいない。なのに僕の子って君は一体何年先の話をしているんだ!?」

エリーザ「勿論、いつかあなたがお嫁さんをもらってお父様になったときの話よ」

   いたずらっぽく

エリーザ「あなただっていつかは大人になって結婚する、そして結婚すればお父様にだってなる」

アミンタ「まだ子供の僕にそんな話よせよ!第一結婚するかもわからないのに…今のところそういうのは考えたこともないしね」

エリーザ「そう?でも恋とかはもうするんでしょ?」

   アミンタ、むせ混む

エリーザ「図星?」

アミンタ「もうその話はよせ。僕はただ…」

エリーザ「タミーリさんかしら?彼女とっても美人ですものね」

アミンタ「誰があんな女相手にするか!天地がひっくり返っても違うね」

エリーザ「ならエレクトラさん?」

アミンタ「ありえない!」

エリーザ「だったらエウリディーチェ?」

アミンタ「ひつこいぞ!だから僕にはそんな女はいない!」

エリーザ「もう一人忘れていたわ」

アミンタ「だーかーらー」

エリーザ「みんな違うんなら残るは…わ・た・し・ね?」

   アミンタ、動揺

アミンタ「いい加減にしろ!他の女はともかく、君だけは例外だ!大体いつ誰が君のような女を好きだと言った!?君の子の父親になるのだけは死んでも断る!」

エリーザ「まぁ酷い人!そこまで言う必要ないじゃないの!アミンタがそんな人だったなんて…私こそお断りよ。誰があなたのような無情な人に嫁ぐものですか!!私もう疲れたわ、帰る!」

   走って帰っていく

アミンタ「何一人で怒ってるんだ!勝手に想像されて不愉快なのは僕の方なんだぞ!おいっ!」

   鼻を鳴らして笛を吹き出す。


   夕方。強い風。

アミンタ「クシュンッ!あぁ…さすがに冷えてきたな。そろそろ家に帰ろう」

   羊たちに

アミンタ「君たちも今日はもう帰ろう、
   羊を連れて帰って行く」


   アミンタの小屋家。アミンタ、暖を取りながらミルクを飲む。

アミンタ「はぁ…」

   近くの棚に一枚のレリーフ

アミンタ「パパ…」

   寂しげ。

アミンタ「何で僕、エリーザとあんなつまらない事で喧嘩しちゃったんだろ…」

   強い風。

アミンタ「(羊たちに)なぁ…やっぱり僕から謝りに行った方がいいのかな?」

   飲み干して立ち上がる。

アミンタ「よしっ!僕も男だ。行こう!…ていっても」

   外を見る

アミンタ「もう夜だよな。もしもう眠っちゃっていたらまた怒らせちゃうかもてんどうしよう?」

   雨。

アミンタ「雨かよ…最悪だ」

   雷。

アミンタ「ひっ」

   ベッドに潜る


   エリーザの家。エリーザ、横になっている。

エリーザM「何よアミンタったら…あんなに酷いこと言っておいて謝りにさえ来ないなんて」

   布団を被る

エリーザ「もう本当に知らないんだから!」


   アミンタの小屋家。アミンタ、布団から顔を出す。

アミンタ「もう止まったか?」

   出てくる。

アミンタ「はぁビックリした…ビックリしてすっかり目が覚めちゃったよ。ん?」

   目を凝らす。

アミンタ「何だ?」

   立ち上がって恐る恐る近づく。

アミンタM「僕の家はこの部屋だけのはず…それに僕の家の周りには隣に二軒しかないはずなのに…家の裏って…何?」

   扉の前、立ち止まる。アミンタ、唾を飲み込んで手をかける。

メタスタージォの声「友よ!」

   アミンタ、ビクリと振り返る。ピエトロ・メタスタージォが入ってくる。

アミンタ「誰だ!?」

メタスタージォ「怖がらなくてもよろしい。私の名前はピエトロ・メタスタージォだ」

アミンタ「そんなやつ知らないよ!帰れ!」

メタスタージォ「君が知らなくても無理はない。私は時の劇作家だからね」

アミンタ「時の劇作家?何じゃそりゃ?」

   雷。

アミンタ「うあぁっ!」

   メタスタージォに抱きつく。

メタスタージォ「ハ、ハ、ハただの雷だよ」

アミンタ「僕はその雷が怖いんだよ!いつもならこんな日は友達の家に逃げ込んで一晩過ごさせてもらうけど、今日はその二人の友達は遠くに行っていていないし、唯一近くに住んでいる幼馴染みの友達とは喧嘩中…だから会えない」

   寂しげ。

アミンタ「ねぇ、だったらおじさんでもいいよ。時の劇作家が何か知らないけど、今夜は僕の家にいてよ…独りぼっちは怖いんだ」

メタスタージォ「ご両親は?」

アミンタ「僕がまだ赤ちゃんの時に死んだよ」

   レリーフに目をやる

アミンタ「優秀な兵士だったと聞いてる。でも何で死んだのかは知らない。勿論、パパの事もママの事も顔すら知らないんだ。僕がそのあと誰に育てられてどうやってここまで生きてきたかさえも…物心がついたときには僕、この家に独りぼっちだったんだもん」

   アミンタ、泣きそう

メタスタージォ「友よ、泣くな。では今夜は私が君と共にここにいよう」

アミンタ「僕はおじさんなんか知らないよ!気安く友と呼ぶな!」

メタスタージォ「では君の名を教えてくれるかね?」

アミンタ「アミンタ」

メタスタージォ「それから明日、君の生い立ちと生活について教えてくれるかね?」

アミンタ「何で?」

メタスタージォ「君を私の物語の題材にしたいのだよ」

アミンタ「僕を物語に?」

   鼻を鳴らして笑う

アミンタ「僕の人生を物語にって…僕はただの羊飼いだ。物語にできるようなことなんて何もない。だから聞いたって面白くもない、時間の無駄だよ」

メタスタージォ「では時に聞くが、君の父親の名は知っているかね?」

アミンタ「アルチェウス」

   胡散臭そうにメタスタージォを見つめる。

   歌劇場。麗奈悦、アンネン、ティフィー、リーオ・エレオナード、大和田美和子が雑談をしている。

アンネン「いよいよね、あぁてんドキドキする」

悦「アンネン、そう緊張しなさんな」

アンネン「おぉ!」

悦「うおっ!」

   アンネン、わざとらしい演技

アンネン「聞いておくれ我が友よ!愛しい小川よ!」

   歌い出す。


   タチャーナ・ロイス、マルチェリーナ・フィソ

マルチェリーナ「アンネン、早速始めているわね」

悦「違うんですよ姉さん、アンネンったら緊張のあまりおかしくなっちゃっただけなんです」

タチャーナ「あらまぁ…大丈夫?」

アンネン「あ…」

タチャーナ「あなた一体デビューして何年目よ?しっかりなさい」

アンネン「だって私、あがり性なんだもん」

マルチェリーナ「緊張しすぎて失神しないでね」

   手を叩く

マルチェリーナ「ほら、みんな練習を始めるわよ!」

全員「はーい!」

タチャーナ「“はい”は短く」

全員「はい」

タチャーナ「もっと大きな声で!」

全員「はいっ!」

タチャーナ「よろしい」

   持ち場につく



   中世オーストリア。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、テーブルに向かって書き物をしている。

モーツァルト「うーむ…あとはこのキャラクターだけなのになぁ…イメージが湧かん」

   むしゃくしゃ

モーツァルト「エリーザは美しい貴婦人でまだ若い女性だからソプラノだろ?そして第一アリアは技巧をたっぷり使って小粋な場面にすればいい。でも問題は恋人のアミンタだ。アミンタはどんな人物として作曲すりゃいいんだ?デブでブスのバリトン…いやいやこりゃないな。なら女々しくて泣き虫なソプラノ?これもなんか違うような…ん。アミンタもまだ若い青年なんだから、あるとかメッツォソプラノかソプラノってことは決まりだよな…」

   手を打つ

モーツァルト「そうだ!いい事がある!」



   草原。アミンタ一人、寂しげに羊と遊んでいる。



   歌劇場。ステージにてリハーサル。

タチャーナ「はいOK。では次のシェーナ。悦とアンネンね。悦、アリアはしっかりと歌うのよ」

悦「はーい!」

タチャーナ「“はい”は短く大きな声で!」

悦「はいっ!」

   面倒くさそうに笑う。


   演技が始まる。

悦M「あぁ…なんだか今日は歌っていると本当に森にいる気分だわ。爽やかなそよ風と緑の草原にはあの人と羊たち…」

   悦、ステージの際へ進み出す。

アンネン「悦!悦ったら!危ないよ!」

悦M「本物のアミンタ様ってどんな殿方だったのかしら?きっとスラーっと背が高くて美しい容姿の素敵な方だったんでしょうね」

ティフィー「悦!落ちるぞ!」

   悦、足を踏み外す。


悦「っ!」

   メンバー、目を覆う。


   
   草原。アミンタ一人。近くに深い森。

悦「きゃっ!」

   悦、森の中に落ちる。

悦「いたたたたた」

   きょろきょろ

悦「て…ここ何処?私は確かステージで歌っていて転落したはず…じゃあまさか」

   青ざめる

悦「死んだの!?」

   嘘泣き

悦「う、う、う、可哀想なえっちゃん…こんなに若くして死んでしまうなんて。ティフィーも私の家族もきっとみんな悲しんでいるんだわ」

   歩き出す。

悦「それにしてもこの森…抜けるとどうなっているのかしら?」

アミンタ「!?」

   耳を済ます

アミンタ「何っ!?」

   立ち上がる

アミンタ「何か聞こえる…人の足音?」

   歩き出す。

アミンタ「森の方からだ」



   悦「あ、やっと出口が見えてきたわ」

アミンタ「誰か来るっ!!」

   アミンタ、羊飼いの杖を構える。

アミンタ「く…来るなら来い!」



   悦とアミンタ。

悦「あ…」

アミンタ「ん?」

悦「あんた誰?」

アミンタ「誰って…君、何故ここに?」

悦「何故って…」

アミンタ「もう怒ってないのか?」

悦「はい?」

アミンタ「だからその…僕、昨日酷い事言っちゃったから…」

悦「昨日?酷い事?一体何の話よ?」

アミンタ「忘れたふりするなよ!僕が必死で謝っているのに!」

   アミンタ、じわじわ。悦、後退り。

悦「な…何よ…やめなさいよ。そんな物騒な物持って一体私に何するつもりよ?」

アミンタ「エリーザ!」

悦「きゃあっ!」


   舞台上。悦、目を開ける。アンネン、キョトン。

アンネン「どうしたの?」

悦「アンネン…それにみんな」

   キョトン

悦「私今までどうしてた?」

ティフィー「どうしてたって…」

アンネン「歌ってた」

悦「え?」

   きょろきょろ

悦「だって私、ステージから転落…」

アンネン「しなかった」

   悦、頭を抱える

アンネン「んもぉ、一体どうしたってんのよ!あんたは普通に歌ってたし、普通にステージ上で演じてた」

ティフィー「夢でも見てたんじゃないか?脳だけ…」

エレオナード「少し疲れているんじゃない?」

美和子「ここんとこハードだったしな」

タチャーナ「仕方ないわね。明日は本番なのよ、本番中に倒れられても困るからあんたはもう帰りなさい」

悦「いえ!私は大丈夫!最後までやります!」

マルチェリーナ「分かったわ。その代わり、明日出られないとかは言わないでちょうだいね」

悦「わかってます!」

タチャーナ「じゃあ休憩入れたら2幕行くわよ。一同休憩!」



   女子トイレ。

悦「ねぇ、アンネン」

アンネン「何?」

悦「この練習が終わったら、ちょっと私に付き合ってほしいんだけど…いい?」

アンネン「いいけど…何処?またいいカフェでも見つけた?」

悦「違うの。終わったら私とステージから飛び降りて欲しいのよ」

   うがいをしているアンネン、吹き出す。

アンネン「は…はぁ!?」

アンネン「は?い…今何て言った?」

悦「だから一緒にステージから飛び降りて欲しいって」

アンネン「それって…二人で自決しようっていってる?」

悦「まさか!大体ステージから落ちたくらいじゃあ死ねないわよ!」

アンネン「それもそうよね…ならあんた、頭でもおかしくなった?」

悦「何度だって言いなさいよ」

   時計を見る

悦「もう時間だわ。アンネン、戻ろう」

アンネン「そうね」

   二人、トイレを出る。


   練習後。悦とアンネン。

アンネン「ねぇ、本当にやるつもり?」

悦「もちろん。私の言った事を証明しないと帰れないのよ!」

アンネン「悦…」


悦「覚悟はいい?やるわよ!」

アンネン「はいはい」

悦「いっせーのーで」

   転落


アンネン「いったーい!何も起きないじゃないの!」

悦「おかしいわね…確かにさっきはステージから落ちたと思ったら見た事もない草原にいて…」

アンネン「だからそれは夢なんだったら!」

悦「うるさい!ほら、もう一度よ」

アンネン「もういいじゃん、あんたの言うこと信じるからさ」

悦「何を言う!実証するまでやるに決まっているじゃないの!」

アンネン「もうあんたの好きにしろ!」

悦「行くわよぉ!」

   二人、転落を繰り返す。



   アミンタの小屋家。アミンタ一人、ホットミルクを飲んでいる。

アミンタM「嫌だなぁ…今日はもうあの変な奴もいないしエリーザは逃げちゃうし…叉独りぼっちの夜か。どうか強い風が吹きませんように…雷が鳴りませんように…」

   怖そうにキョロキョロ。

アミンタ「ん…叉だ」

   立ち上がって扉に近づく。

アミンタ「今日こそ見てろよ!絶対に招待を突き止めてやる!」

   扉を少しずつ開ける。

アミンタM「何だ?お化け?」

   目を閉じる。

アミンタM「開いちゃうよ…嫌だ、やっぱり怖いよ…」



   居酒屋。悦、アンネン。完全に酔っぱらっている。

アンネン「ほーら、だから言ったじゃないの!そんなのね、えっちゃんの夢か幻なのよ」

悦「はぁ!?確かめもしないで何でそんなの分かるのよ!?」

アンネン「誰が考えたってそんなの分かるっつーの!」

   二人、酒をどんどんお代わり。

店員さん「お嬢さん方、もうその辺でやめましょう!飲みすぎですよ!」

アンネン「うるさいっ!」

悦「そうよ、黙れ!」

   二人、ふらふらしながら飲んでいる。


   夜道。悦とアンネン、ふらふらしながら歩く。前方からティフィーとエレオナード。

ティフィー「ん?おいおい!」

   二人を支える。

ティフィー「大丈夫か!?って…うぅっ!」

   顔をしかめる。

エレオナード「君たちかなり飲んでるね」

   エレオナード、アンネンをおぶる。

ティフィー「僕らが来なかったら君たち、どうするつもりだったんだ?明日からは本番なんだぞ、しっかりしてくれよ!」

   ティフィー、悦をおぶる。
   
ティフィー「リオ、お前はアンネンを頼む。僕はこのバカ悦を連れてく」

エレオナード「わかった…」

   アンネンに

エレオナード「アンネン、帰るよ」

   二人、それぞれに別れて帰る。



   悦の家。ティフィー、悦を玄関で下ろす。

ティフィー「全く、世話の焼けるお嬢さんだ。あとは知らないから自分でどうにかしろよ。僕は帰るてんお休み」

   ティフィー、呆れて帰る。悦、熟睡。


悦「んっ…」

   目を覚ます。

悦「何で私、こんなところで眠っているのかしら?」

   あくびを死ながら家に入っていく。



悦「すっかり遅くなっちゃったわ。もうこんな時間、うぅ…頭痛い…飲みすぎたわ」

   居間に入る。

悦「ただいまぁ…ても誰もいないか」

   悦、ソファーに座る。隣にアミンタ。

悦「はぁ…悪酔いだ…気持ち悪い…ん?」

   アミンタと目が合う。

悦「うわぁっ!」

   悦、ソファーから落ちる。アミンタ、ビクリ。

悦「あんた…誰?」

アミンタ「お前こそ誰だ!」

   悦をまじまじ

アミンタ「あ!」

悦「何よ?」

アミンタ「エリーザなのか?」

悦「いきなり何よ!勝手に人の家に上がり込んでおいて!」

アミンタ「なぁエリーザ、一体ここは何処なんだ?」

悦「何処って…私の家に決まっているじゃないの!」

アミンタ「君の家だって!?嘘こけ!だって僕は僕の家の扉を開けたらここに来ちゃったんだ。君ん家は僕の家からずっと離れているだろ?しかも…入ってきた扉がなくなってるから帰ることすらできない!一体どうなってるんだ!」

悦M「一体どうなってるんだって…それは私の台詞よ!」

  悦、咳払い。

悦「どうせもいいけどさ、坊やはどこの子なの?お家は?ご両親には言ってきたの?大体どこから入ってきたのよ!!」

アミンタ「一度に質問するなよ」

悦「ごめんごめん。とにかく、お姉ちゃん送っていってあげるからもうこんな時間なんだし帰りましょう」

アミンタ「だから戻れないと言っている!」

悦「困ったわね…ならまずは私の取り調べに応じなさい」

アミンタ「僕を拷問する気か!?股裂けか!?火炙りか!?」

悦「バカ!ただ君の話を一つずつ詳しく聞きたいだけよ。そんな事したら私、幼児虐待で捕まっちゃうでしょ?」

アミンタ「無礼者!僕は幼児じゃない!」

悦「そこの椅子にお座り!」

   アミンタのお腹が鳴る。

アミンタ「…」

悦「坊や、お腹空いてるの?」

アミンタ「うん…」

悦「全く…仕方がないわね。待っていなさい、今何か作るから」

   台所に立つ。

悦「困ったわ…すぐに食べられるようなものが何もない…どうしよう」

   カップ焼きそばに目をつける

悦「あ、これ!」

   悔しそう


悦「私が食べようと思って楽しみにとっておいたのに…えーい!この際仕方ないわ!」

   アミンタ、うとうと

悦「焼きそばでいいでしょう?今作るから待ってなさい」

   作り出す。

悦「まずはかやくを入れずに麺にお湯を入れて三分待つ!」

   携帯電話が鳴る。

悦「(イライラ)んもぉっ!何よこのくそ忙しいときに!」

アミンタ「何?」

悦「ちょっと待ってなさい!」

   受話。
悦「はい。麗奈悦ですが?」

アンネン「あ、悦?」

悦「アンネン?あんた大丈夫だった?」

アンネン「や、悪酔いで気分最悪。あんたは?」

悦「私も同じ…」


   アミンタ、イライラ


アミンタ「おいっ!」

悦「今いくわよ!」

アンネン「何?誰かいるの?」

悦「あ、えぇ…弟の杉よ。今実家にいるの」

アンネン「ふーん…なら明日の本番に備えてお母さんに介抱して貰いな」

悦「うん、あんたもな」


   戻る。アミンタ、不貞腐れている。

悦「悪かったわね…お腹ペコペコでしょ?今度こそ今すぐ作るわね」

   お湯を捨てようとする。携帯電話が鳴る。

悦「んもぉっ!」

   アミンタ、がくり。

 
   悦、話をしている。アミンタ、台所に忍び寄る。
 



   悦、戻る。

悦「ごめんよ…今度こそ作ってあげるからね」

   カップを手に取る

悦「3分…以上経っちゃったけど、3分経ったらお湯を捨てて…あら?やけに軽いわね」

カップを振って中身を見る

悦「うわぁっ!」

   アミンタ、ビクリと顔を上げる。

悦「ないわ!ないわ!どうしましょう!?」

  青ざめる。

悦「この子のご飯が何処かにいっちゃったわ!私ってまだ酔っているのかしら!?」

   アミンタを見る

悦「?」

アミンタ「…」

悦「あ…君、ごめんよ」

   悦、申し訳なさそう。アミンタ、満面の笑み。

アミンタ「いただきました!」

悦「え?」

アミンタ「食べた事もないものだったが、とっても美味しかった!」

悦「美味しかったって…君、まさか」
 
アミンタ「食べたよ」

悦「食べたって…このまま!?味もまだ付けていなかったのに!?じゃあお汁は?」

アミンタ「勿論飲んださ」

悦「あきれた子!」

   悦、あきれてアミンタを見つめている。アミンタ、悦をまじまじ見つめているがうとうと。



   悦。テーブルセッティング。

悦「さぁ、気を取り直して坊や、取り調べを始めるわよ。準備が整ったわ…って」

   アミンタ、熟睡。

悦「こいつ寝てるよ」

アミンタ「…」

悦「仕方ないわ…あんたの取り調べは明日にしてやる。今日は留置所で寝てな」

   アミンタを抱いて部屋を出る。



   翌朝。アミンタ、部屋の扉を激しく叩く。

アミンタ「僕をここから出せ!こんなに狭い部屋に閉じ込めて何が目的だ!早くここから出せ!」

悦「全く何の騒ぎ!?煩いわね!」

   悦、扉を開ける。アミンタ、転げ出る。

アミンタ「何をする!?」

悦「何をするって…君がここから早く出せって言うから開けてあげたんじゃないの!」

アミンタ「エリーザ!僕は君にここまで酷い事をした覚えはないぞ!確かに酷い事は言ったけどさ、でもこんな仕返しってないだろ!?」

悦「ちょっとさぁ…私は見ず知らずのあんたを私のベッドで眠らせてあげたのよ!?親切に食事だってさせてあげたのよ!?それなのにこの恩人に向かってその態度は何よ!?それに私の事、気安くエリーザって呼ばないでちょうだい!」

アミンタ「だったら何と呼べばいい!?」

悦「えっちゃってお呼びなさい!」

アミンタ「え…っちゃん!?エリーザ…君、怒りで気が変になったか?」

悦M「生意気なやつ…本当ならあんたなんか交番までぶっとばしてやりたい気分よ!」

   咳払い。

悦「まぁいいわ。とにかく朝の準備をして台所へおいでなさい、朝ごはんよ。ご飯を食べたら今日こそ君の事情聴取をするから。分かった!?」

アミンタ「分かったよ…それで?」

   キョロキョロ

アミンタ「ここが何処か何をすればいいのかも分からないのに、僕にはどうしたらいいと言う!?」

悦「どうしたらって…」

   ポカーン

悦M「この子…本当に何いってんの?」



   悦、アミンタを洗面所に案内。

悦「いい事?おトイレはここだから行きたくなったら断らなくていいから自由に使って。そして洗面台はここよ。きちんと顔を洗ってうがいをなさいよ」

アミンタ「分かった…家の中に泉があるとは変わっているんだな」

悦M「変わっているのは君の方でしょうに…」

   アミンタ、トイレに顔を突っ込む。悦、慌てて止める。

悦「バカ!何やっているのよ!?ひょっとして…気分悪いの?」

アミンタ「な訳ないだろう!顔を洗おうとしている」

悦「トイレの水で顔を洗うバカ、何処にもいないわよ!顔は…」

   水道を出す

悦「ここでしょうに!」

アミンタ「ん?」

   恐る恐る水に触って顔を洗う。

悦M「本当に変な子だわ…」

悦「私、台所にいるから終わったら来なさいよ」



   台所。アミンタ、入ってくる。

悦「おはよう!…って、どうしたのよ。君、お洋服びしょびしょじゃないの!まさか…お漏らししちゃった!?」

アミンタ「違う!」

   大声で

アミンタ「君がやれと言った通りにやったらこうなったのだ!」

悦「全く…何て世話のやける子なの!?これじゃあ君、風邪引いちゃうじゃないの!」

   アミンタの服を脱がす

悦「まぁ嫌だ、下着も着てないの!?」

アミンタ「バカ!見るな!」

悦「じっとしてらっしゃい!困ったわ…何着せよう?」



   衣装ケースを探る。

悦「私が中学の時にやった劇の衣装か…仕方ない…それと」

   衣装と下着をアミンタに渡す。

悦「ほらよ、これでも着てな」

アミンタ「これ?」

悦「ハンサムな男の子がいつまでも女性の前で、そんな姿をしているもんじゃありません」

アミンタ「勝手に僕を脱がせたのは君だろうに!」

悦、アミンタのお尻を叩く。

アミンタ「いたっ!」

悦「さっさと着替えろ。下着は私のだけど我慢しな」


   食卓。悦とアミンタ。

悦「はい、お食べなさい…」

アミンタ「これは?」

悦「そういえば君、日本人っぽくないけど…何処の国の子?」

アミンタ「日本人だぁ!?君、変になったのか?僕らがいるのはシドンだろ?僕らはフェニキア人じゃないか!」

悦「シドン!?フェニキア!?いいわ…詳しい事は後で聞く」

悦「とにかく今はいっぱいお食べなさい。これはバルブンヤの塩焼き、これは空豆と海老のピラフ、そしてこれは大根おろしサラダよ」

アミンタ「ん…」

   食べる。

アミンタ「ん!!」

   目を丸くして掻き込む

アミンタ「美味しい!」

悦「よかった」

アミンタ「お代わり!」

悦「お魚はもうないわよ」

アミンタ「ケーチ!」

悦「仕方ないでしょう!まさか君と一緒に朝食をする事になるだなんて思わなかったんだから。仕方なく私と君で一匹を半分にしたのよ」



   悦、片付けを終える。

アミンタ「それで?」

悦「そうね、そろそろ君の事情聴取を開始しますか。そこにお座りなさい」

   アミンタ、椅子に座る。悦、プリンを出す。

アミンタ「これは何だ?」

悦「プリンよ。カツ丼の代わり」

   咳払い。

悦「(声色低く)それではまず、君の出身地、名前、両親の名前、君の年齢をお聞かせ願おうか?」

アミンタ「そんなに一度に聞くな!順番に聞いてくれなくちゃ僕もわからない」

悦「分かったわ。じゃあまず君の出身地は?」

アミンタ「だからさっきも言っただろ?フェニキア人のシドン生まれだ」

悦「シドンのフェニキア人…君の名前は?」

アミンタ「アミンタだろうが!」

悦「アミンタ君…と。え…アミンタ君!?」

アミンタ「なぜそんなに驚く?」
悦「だって…」
アミンタ「続けろ」
悦「年齢は?」
アミンタ「僕はまだ…」

   悦、アミンタをまじまじ

アミンタ「何だよ?」

悦「君はまだ中学生にはなっていない。正解?」

アミンタ「は?」

悦「小学…五年生か、六年生ってところかしら?じゃあとりあえず12歳っと…」

悦「じゃあ君のご両親の事を教えてくれたまえ」

   アミンタ、曇る

悦「どうしたの?」

アミンタ「父はアルチェウス、母はエウリディーチェ…二人とも僕がまだ赤ちゃんの時に死んだよ」

悦「え…あ、ごめん」

アミンタ「気にしてない。続けてくれ」

   玄関ベル

悦「誰かな?」

   アミンタに

悦「ここでいい子にしてるのよ」

   玄関を開ける。アンネンが仁王立ちで立っている

悦「はい?ん?アンネン、どうしたの?」

アンネン「(イライラ)どうしたのじゃないわよ!今何時だと思ってんのよ!」

悦「え、今?」

   時計を見る

悦「9時ですね」

アンネン「みんな練習始められなくて困ってんのよ!ターニャ姉さんなんてカンカンで早く呼んでこいって!あんたのせいで私がとばっちり受けてお説教よ!」

悦「あ…」

   急ぐ

悦「ごめーん!忘れてた。すぐに準備するから上がってその辺で待っててよ!」

アンネン「ったく、早くしろよ」



   居間。

悦「そこにコーヒーと紅茶、何でもあるから好きなの飲んでて」

アンネン「分かった」

   アミンタを見る

アンネン「ん、君…誰?」

   アミンタ、警戒。

アミンタ「お前こそ誰だ!?女のくせに男の様な格好して!」

アンネン「あ…衣装脱ぐの忘れちゃったのよ。私はアンニーダ・バッハ。みんなからはアンネンって呼ばれてる…あんたは?悦の弟ってこんなに小さかったっけ?」

悦「どこをそう見りゃ弟に見えるのよ!?」

アンネン「じゃあひょっとして…隠し子?」

   悦、ずっこける

悦「んな訳ないでしょ!」

アンネン「だったら何?」

悦「知らないわよ!私に聞かないで!」


悦「って事なの」

アンネン「じゃあ何?この子は迷い子って事?」

悦「ある意味そういう事になるのかもね」

アンネン「交番に届けた方がいいんじゃない?」

悦「ご両親亡くなってるって言うし、変なこと言うし、身元もはっきりしないのにどう警察に説明しろってんのよ!」

アンネン「それもそうね…じゃあ」

悦「そう。しばらくは私が預かるしかないから…私がこの子の保護者になるってことになるわ」

   アミンタに

悦「いい事?これからは絶対に私の事をエリーザって呼ばないでちょうだい!これからは私も君にできる限りの事はするわ。だから君もできる限りいい子に過ごすこと。分かった!?」

アミンタ「心配するな。僕はいつでもいいこだから」

悦M「自分で言ってるよこいつ…」

アンネン「悦!」

悦「分かった!」

   アミンタの手を取る

悦「ほら、出掛けるわよ」

アミンタ「どこに?」

悦「私の職場よ。君を一人で
ここに残して行けないでしょ?」



   歌劇場。リハーサル中のステージ。エレオナード、美和子、ティフィー、タチャーナ、マルチェリーナ。 

タチャーナ「(イライラ)遅いわね…何やっているのかしら?」

マルチェリーナ「ターニャ、先に始めましょ」

タチャーナ「始められるわけないでしょ!主役二人がいないんですもの!」


   控え室。アミンタ、悦、アンネン。

アミンタ「ここは何処だ?」

悦「劇場よ」

アミンタ「職場ってここ?」

悦「そうよ!だから君はここで大人しくしてて、私たちが戻るまでは絶対にここを出ちゃダメよ」

アミンタ「分かった」

悦「行ってくるわね」

   悦、アンネン、出ようとする 

アミンタ「お姉ちゃん!」

悦「何?」

悦M「お姉ちゃんか…こいつも可愛いじゃん」

   アミンタ、顔をしかめてもじもじ

アミンタ「おしっこ!」

悦「はぁ!?何よ、このくそ忙しい時に!終わって帰ってくるまで我慢できないの!?」

アミンタ「どれくらいだ?」

アンネン「や、悦…そりゃ無茶だって!半日も我慢させたらこの子死んじゃうよ!」

   悦、ため息。

悦「いいわ。トイレまでは一緒にいきましょう。終わったら叉ここにお戻りなさいよ」

アンネン「そんなこと言っても悦、まだこの場所そう簡単に覚えられないって」

アミンタ「大丈夫。僕、一人でちゃんと戻ってこれるから」

悦「そう?」

アミンタ「早くぅ!」



   アンネンと悦、トイレ前でアミンタと別れる。


   リハーサルステージ。

タチャーナ「全く!二人とも、いつまで待たせるの!」

悦「ごめんなさい。でも今日はアミンタが…」

美和子「アミンタ?」

マルチェリーナ「叉アンネンが何かやらかしたの?」

アンネン「叉は酷いなぁ…」

悦「とにかく事情は今話すと長くなるんです。だからどうか今日は許して!」

タチャーナ「仕方がないわね…今日は見逃してあげる。さぁ、練習始めるわよ」

全員「はいっ!」

   練習が始まる。


   アミンタ、トイレを出てうろうろ。

アミンタM「お姉ちゃんはさっきの部屋に戻れっていってたけど…ちょっとくらい探検んしてからでもいいよな」

   歩き出す。


   大きな扉の前。中からオペラが聞こえる

アミンタ「行き止まり?中から歌が聞こえるぞ」

   そわそわ

アミンタM「どうやったらこの奥に行けるんだ…気になるなぁ」

   後ろからモーツァルト。

アミンタ「(ハッとする)誰だ!?」

モーツァルト「坊や、こんなところで何をしているのかな?」

アミンタ「お前誰だ?」

モーツァルト「僕か?僕はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、音楽家さ。君は?」

アミンタ「(喧嘩腰)アミンタだ!羊飼いのアミンタ!」

モーツァルト「ほぉ…アミンタ君ねぇ…実に興味深い」

   意味深にアミンタをまじまじ。アミンタ、後ずさり。

アミンタ「な…なんだ?」

   モーツァルト、高笑い。

モーツァルト「まぁいいさ。アミンタ君、ところで君もこの中に入りたいのかい?」

アミンタ「そうだ。お前もか?」

モーツァルト「この中に用事があるからね…一緒に入ろう」

アミンタ「んむ」

   モーツァルト、扉を開けて二人、なかに入る。


   悦たちが練習中。

モーツァルト「僕はこの劇の作者なんだ。だから自分で書いた完成品を見に来たのさ」

アミンタ「この劇はお前の作品なのか。しかし妙な作品だ。僕の国にも劇はあるがこんなにやかましくてへんてこなものは初めてだ。お前は外国のやつか?衣装も僕の国では見た事がない」

モーツァルト「僕はオーストリアと言う国から来た。君はひょっとすると…シドンからかい?」

アミンタ「なぜにそれを知っている!?」

悦の声「(演技で)アミンタ!」

アミンタ「え?」

   モーツァルトを見る。

アミンタ「今の…僕の名前じゃないか?」

   モーツァルト、意味深に高笑い。アミンタ、舞台とモーツァルトを交互に見つめる

アミンタ「あ」

   悦を見つける

アミンタ「あのお姉ちゃん…」

モーツァルト「知り合いかい?」

アミンタ「え…まぁ…」

アンネン「(演技で)エリーザ!」

アミンタ「エリーザ!?僕にはエリーザって呼ぶなって言ったくせに!やっぱりエリーザじゃないか!でも僕の知ってるエリーザではないような…」

   練習が終わる。悦、アミンタに気づく。

悦M「あ、あいつ!」

   アミンタに近寄る

悦「ちょっと!控え室でじっとしてろって言ったでしょ!何でここにいるの!?てかどうやって入ったの!?」

アミンタ「こいつに開けてもらったんだ」

   空を指す。

アミンタ「だからずっと今までこいつと話してた」

悦「こいつって…誰もいないじゃないの?」

アミンタ「よく見ろよ、こいつだよ!どこ見てるんだ!」

悦「だから誰よ!」

   モーツァルト、悦にウインク

アミンタ「な?」

   悦、身震い。

悦「ちょっと君…なにかヤバイもんが見えてんじゃないでしょうね?」

   ステージに戻る

アミンタ「(モーツァルトに)お姉ちゃんにはお前の事がわからないみたいだ。こんなに目の前にいるのに」

モーツァルト「らしいね。無理もないかもしれないけど」


   美和子、ティフィー、エレオナード、アンネンを連れてくる。

悦「どう?」

アンネン「どうって…何もないじゃないの?」

美和子「あんたひょっとしてなにかヤバイもんでも見えてる?」

悦「ヤバイもんが見えてるらしいのは私じゃなくてこの坊やよ!」

   全員、アミンタを見る。

アンネン「マジ?」

美和子「その前に…この子誰?」

エレオナード「ひょっとして…」

美和・エレ「隠し子!?」

ティフィー「え?」

悦「だから違うてんでしょうに!ティフィーまで真に受けるな!」

   気を取り直す

悦「この子はちょっと事情があって、今私のところで預かっている子なのよ」

美和子「親戚かい?」

悦「まぁ…そんなところ、って言えば分かってくれる?」

美和子「しかし驚きだなぁ…まさかあんたに白人系の親戚がいただなんて」

   にやり

美和子「てっきりあたい、エレオナードとの間の隠し子かと思ったよ」

   悦、美和子をこずく。エレオナード、赤くなって下を向く。

悦「坊や、とにかく気持ちの悪い冗談はもうよして。一度帰るわよ」

アミンタ「僕はアミンタだ!それに冗談なんか僕は言ってない!」

悦「はいはい」

アンネン「でも悦…帰るってあんた…帰るって」

悦「本番までには戻るわよ。この子がここにいたんじゃ気が散っていけないわ。だから実家に預けに行くの」

   悦、強引にアミンタの手を引いていく。アミンタ、微笑んでモーツァルトに手を振る。

全員「やっぱりまだ見えてるんだぁ…」

   身震い


   町中。悦、アミンタを車に乗せる。

アミンタ「今度は何処に行くと言う?」

悦「私の実家よ。今日は私、これから大切な仕事があるの。終わったら必ず迎えに来るからそれまで私の実家でちゃんといい子にしていてちょうだい」

アミンタ「ちぇっ」



   悦の実家。麗奈市蔵、麗奈文恵、麗奈杉太郎がお茶をしている。呼び鈴。

悦「お母さん、いる?」

杉太郎「あ、姉ちゃんじゃね?」

文恵「あら本当…たしかあの子m今日が本番って言ってなかったかしら?」

悦「お母さん!」

文恵「悦!一体どうしたって言うのよ!?」

悦「ちょっとお願いがあって来たのよ」

文恵「なに?」

悦「(アミンタに)入って!」

   アミンタ、やって来る。

悦「この子を私の仕事が終わるまで預かって欲しいのよ」

文恵「預かるってそんな急に言われてもねぇ」

市蔵「大体この子、どこの子なんだい?」

文恵「そうよね…瞳も青いし…」

杉太郎「まさかと思うけど姉ちゃん…」

悦「言っておきますけど隠し子じゃあありません!」

杉太郎「まだ何も言ってねぇよ!」

市蔵「ならあれかい?ティフィーさんとの…」

文恵「言われてみれば確かにティフィーさん似ね」

悦「だーかーらー!どうしてそうなるのよ!似てもいなければ私とティフィーとの子でもないから!」

杉太郎「じゃあ誰の子だよ!?」

悦「あかの他人よ」

杉太郎「は?」



悦「って事なのよ。だから劇場になんて連れていったらそれこそ気が散ってだめだわ。だから今日だけ、ね、ね、お願い!」

   アミンタ、頭を下げる。

アミンタ「おばちゃん、どうか今日一日だけ僕をここにおいてください。お願いします!」

文恵「(にっこり)まぁまぁ、なんて礼儀正しい良い子でしょう!?いいわ、こんなにかわいい良い子ならおばちゃん大歓迎!」

アミンタ「やったぁ!」

悦「可愛いと思うのははじめの数分だけよ。すぐにお母さんも手に終えなくなるわ」

   悦、出ていく。

悦「叉夜になったら迎えに来るわね。いい子にしてるのよ」


文恵「ねぇ、坊やの名前は何て言うの?」

アミンタ「アミンタだよ」

文恵「どこから来たの?」

アミンタ「シドン。でも僕は貧しい羊飼いだから市街地へは出た事がなかった。まさかこんなに大きな町だったなんて知らなかったよ!シドンの町は大きいんだね」

文恵「坊や、ここをシドンかと思っているの?」

アミンタ「違うの?」

文恵「おばちゃんもシドンが何処にあるのかは詳しくないけど、ここはシドンじゃなくて日本って言うお国なのよ。たしか君、アミンタちゃんって言ったわね」

アミンタ「うん…」

文恵「アミンタちゃんはどうしてここに来たの?まさか飛行機乗り間違えちゃったの?」

アミンタ「飛行機?」

   少し考える。

アミンタ「じゃあここは別の都市ってこと?なら僕はどうして見知らぬ土地にいるの?だって僕は…僕は…」

   混乱して泣きそうになる

アミンタ「あぁ…」

文恵「ごめんなさい、混乱させてしまったわね。いいわ、この事は少し忘れましょう。でもおばちゃん、君がどんな子であろうとアミンタちゃんを見捨てないわ。えっちゃんが戻るまでここにいましょうね」


文恵「そうだアミンタちゃん、もうすぐお昼だから買い物に行きましょうか?」

アミンタ「はい!」

杉太郎「昼!?俺、カツカレー!」

文恵「却下。今日はアミンタちゃんのリクエストメニューが優先よ」

杉太郎「ちぇ!」

文恵「全くあんたは…大学へは行かない、仕事もしない…いい加減何かしたらどうなの!?」

杉太郎「うっせーなぁ、叉それかよ」

   文恵、杉太郎をこずく。

文恵「さぁアミンタちゃん、行きましょう」

アミンタ「はーい!」


   文恵。スクーターを出す。

文恵「さぁ、アミンタちゃん乗って。おばちゃん、これしか運転できないのよ」

アミンタ「これに?」

文恵「バイクは初めて?ヘルメットもつけてね。」

   アミンタを荷台のチャイルドシートに乗せる

文恵「チャイルドシートをとっておいてよかったわ。とっておくもんね」

アミンタ「おばちゃん?」

文恵「はいはい、じゃあ出発するわね。しっかり捕まっているのよ」

   走行。アミンタ、目を丸くして縮む。

文恵「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」




   ショッピングセンター。アミンタ、バイクから降りるとフラフラ。

文恵「大丈夫?酔っちゃったかしら?」

アミンタ「少し…」

文恵「困ったわ。少し休みましょうね」


   ベンチ。アミンタ、水を飲む。

文恵「少し落ち着いた?」

アミンタ「うん…」

文恵「よかった…」

   うっとり

文恵「こうしているとまるで孫といる様だわ」

アミンタ「え?」

文恵「悦も早く結婚して、孫の顔を見せてくれないものかしら?」

   アミンタを見る

アミンタ「なに?」

文恵「ねぇ、たしかアミンタちゃんはご両親がいらっしゃらないっていってたわね?」

アミンタ「うん…僕のパパとママは、僕がまだ赤ちゃんの時に死んじゃったんだ。だから僕、パパの顔もママの顔も知らないの」

文恵「そう…」

   泣きそうなアミンタを抱き寄せる

文恵「だったらもし…あなたさえよければ家の子にならない?」

アミンタ「え?」

文恵「悦もまだあんな調子だし、杉もあんな感じだけど…私はあなたの様な子ならきっと二人とすぐに仲良くなれると思うの。だから私の子になってほしいわ」

アミンタ「おばちゃんてんうっ!」

   口を押さえる

文恵「どうしたの!?」

アミンタ「気持ちが悪い…」

文恵「えぇ!?大変、どうしましょう!??」

   アミンタ、草むらに飛んでいく。


   文恵、アミンタの背を擦る。

文恵「驚いたわよ。大丈夫?少し落ち着いたかしら?」

アミンタ「おばちゃん…」

   文恵を見る。泣いている

文恵「あらあら可哀想に…どうしたの?」

   アミンタ、文恵の胸に寄り添う

文恵「よしよしよし」



   歌劇場・ステージ裏。

アンネン「悦、本当は今も気になっているんでしょ?」

悦「何が?」

アンネン「アミンタの事よ」

悦「べーつーにー!」

アンネン「又々、強がっちゃって!」

悦「強がってなんかないわよ」

アンネン「どうだか」

悦「お黙り!」

   モーツァルト、近くで聞いている。

モーツァルト「アミンタ君はいないのか。せっかく知り合ったのに残念だ」

   そこへメタスタージォ。

メタスタージォ「モーツァルトさん」

モーツァルト「これはこれはピエトロさん」

メタスタージォ「どうだね?上手く行きそうかね?」

モーツァルト「まだ分からないよ。これから開幕だからね」

メタスタージォ「それもそうだ」




   ショッピングセンター

文恵「さぁアミンタちゃん、もう泣いちゃあいけませんよ。涙を拭いて」

アミンタ「ありがとう」

文恵「せっかくこんなに美人さんなのにお顔がグショグショよ。今日はなんでもあなたの好きなお料理を作ってあげるわ。何がいい?」

アミンタ「本当!?」

文恵「えぇ勿論よ。おばちゃんの作れるものだったらね」

アミンタ「じゃあ…」



   悦の実家。アミンタ、美味しそうに食べている。

文恵「でもまさかあなたがね…こんなものが好きだったなんて…」

アミンタ「僕が小さい頃から食べていた料理なの。そしたら偶然、お姉ちゃんが昨日作ってくれた」

文恵「お姉ちゃんって…悦の事?」

アミンタ「エリーザって名前じゃないの?」

文恵「エリーザはあの子が今演じている役名よ。嫌なお姉ちゃんね、あなたがアミンタちゃんだからエリーザってお呼びとか言ったんでしょ?」

杉太郎「ふんっ!俺は空豆なんて大嫌いだね!」

   といいながら食べている。

市蔵「お前は好き嫌いが多すぎるんだ。しっかり食え!」

杉太郎「言われなくても食ってるよ!」

文恵「カップ焼きそばはどうする?」

アミンタ「叉夜に食べるよ。お姉ちゃんと帰ったら」

文恵「ここでお夕食食べてもいいのよ。どうせあの子、飲み会でもやって来るんでしょうからきっと遅くなるわ」

杉太郎「はぁ!?こいつも夕食ここで食うのかよ?」

市蔵「杉、嫌ならお前は外で食え」

杉太郎「金ねぇもん!」

文恵「だったら文句言わない!アミンタちゃんはまだ小さいんだからお兄ちゃんのあなたがしっかり支えてあげなくちゃダメなのよ」

杉太郎「嫌だよ、こんな赤の他人!」

文恵「これっ!」

杉太郎「いただきました!」

   書き込んで退室。

アミンタ「僕、お兄ちゃんに嫌われてるみたいだね」

文恵「気にしなくていいのよ。元々あの子はあんな子なの」

市蔵「君にやきもち妬いているだけだと思うよ」

アミンタ「やきもち…僕に…」



   歌劇場。公演中。

モーツァルトM「ほぉほぉ…なるほどね。アミンタは女性ソプラノか。ということはやはりまだ相当若い少年なんだな…メモメモ」

モーツァルトM「しかし何故、あの様な技巧を使っているんだろう?自分で書いた曲ながら実に謎だ」

   アンネン、モーツァルトにぶつかる

アンネン「(演じながら)?」

悦M「アンネン?」

アンネンM「何か今、ひんやりする様なものを触ったような…」



   アンネン、キョロキョロ。

アンネンM「ん、ここ何処?」

   広い草原。前方にエリーザ。


アンネンM「誰かしら?」

エリーザ「アミンタのバカ…あんなに酷いことを言ったくせに謝りにすら来てくれないだなんて…もう一生遊んでなんてやらないんだから」

アンネンM「彼女何か言ってる…一人で何をいっているんだろ?」

   エリーザ、アンネンを見る

アンネンM「やばっ!」

   慌てて身を伏せる。



   大拍手。

アンネンM「え?」

   キョトンとする中、カーテンコール。



   女子トイレ。

アンネン「ねぇ美和子に悦…」

悦「なに?」

アンネン「私、カーテンコールの前って何してた?」

   悦、美和子、顔を見合わせる。

美和子「何してたって…」

悦「普通に…アミンタ演じてたじゃん…」

アンネン「そうなんだけどさ…」

   もどかしそう

アンネン「私、2幕のアリア歌っている時に何かヒヤッとするものに触れたのよ」

悦「それで?

アンネン「幻覚かもしれないんだけど、気がついたら見知らぬ草原に立っていたの。近くに女の子がいたわ。一人で何か喋ってた」

美和子「ほぉ…」

アンネン「でも気づかれそうになったから私、慌てて身を伏せたの。そして…気がついたらステージに戻っていたわ」

美和子「なんか、悦といいアンネンといい…この間から不思議なことばっかり言ってるね」

悦「しかも、私が体験した事にそっくり!こりゃ偶然じゃないわ。何か関係があるのかもね」

アンネン「どうかこれ以上変なことがありませんように…」




   トイレの外。ティフィーとエレオナード。

美和子「うおっ!ビックリした!」

アンネン「なにさ、男共!」

悦「女子トイレの前で待ち伏せ!?嫌らしいわ!このド変態ら!」

ティフィー「おいおい悦、そこまで言うなよ!」

エレオナード「これから…」

   ジェスチャー


エレオナード「どう?打ち上げ」

アンネン「お、いいねぇ!」

美和子「でも悦…」

悦「アミンタの事ならご心配なく。遅くなるかもってこともお母さんに言ってあるから」

ティフィー「なら決まりだな」

エレオナード「もう飲みすぎるなよ」

悦・アンネン「わかっているわよ!」



   悦の実家。バルコニー。アミンタ、ぼんわりとホットココアを飲んでいる。



   居酒屋。どんちゃん騒ぎ。

ティフィー「女性群、飲みすぎだぞ!」

美和子「あたいは大丈夫さ。このバカ共とは違うからね」

アンネン「ちょっとバカ共って誰の事よ!?」

悦「そりゃもちろん、私たちの事でしょ!」

   アンネン、悦をこずく。



エレオナード「えっちゃんにアンネン、いい加減にやめろよ!」

ティフィー「リオの言う通りだぞ。もうやめろ、この間で十分に懲りてるだろ?」

悦「まだまだじゃい!」

アンネン「そうそう、あんたら男共が飲み無さすぎるのよ!


ティフィー「もう勝手にしろ!」



   町中。夜道。ティフィー、酔いつぶれたアンネンと悦を支えて歩く。

ティフィー「言わんこっちゃない…」

悦・アンネン「うぅっ…」

ティフィー「大丈夫か?こんなところで吐くなよ」

アンネン「わかっているわよ」

悦「おえっ!」

ティフィー「言ってる端っからこれだもんな」

アンネン「おえっ!」

   ティフィー、二人の背を擦る。



   悦の実家。悦、具合悪そうに帰宅。

悦「ただいまぁ…あぁ、頭いたっ…ムカムカするぅ…」

文恵「あ、悦おかえり」

悦「お母さん…水ちょうだい」

文恵「いやね。叉そんなに飲んできたの?お酒もいいけどほどほどにね」

   鼻を覆う

文恵「でもやっぱり…いい加減お酒はもうお止めなさい!今はアミンタちゃんもいるんだからもっとしっかりしてくれなくちゃ」

悦「あぁ…」

   思い出したように

悦「アミンタは?」

文恵「アミンタちゃん?もうお夕食食べてお風呂にも入って眠っちゃったわ」

悦「寝てるの?じゃあ私、おぶって連れて帰るわ」

文恵「待って…」


   寝室。アミンタ、一人で眠っている。

文恵「かわいそうよ。起こさないであげて…それにお風呂上がりだから風邪引かせないように、今夜はうちに泊めてあげて」

悦「そうね。じゃあ今夜は私もここで寝るわ。アミンタの隣で寝てあげる」

   アミンタの隣へ布団を敷いて横になる。

悦「ん?」

   アミンタの顔を見る。アミンタ、泣いたまま眠っている。

悦M「君…泣いているの?」


アミンタ「パパ、ママ…エリーザ…ごめんなさい」

悦M「エリーザ!?私の事?何で謝ってるのよ!?」

   アミンタ、熟睡。時々涙を流して者繰り上げている

悦「よしよし泣くな、今夜は私もここにいるから」



   アンネンの自宅。アンネン、熟睡。

アンネン「(寝言)ん…気持ち悪いっ…頭痛いよぉ…飲みすぎたぁ…」


   情景。深夜。晴れて満月。


   草原。エリーザ一人。

エリーザ「あーあ…あれから一週間もたったのに…アミンタのバカ」

   アジェーノレとタミーリ。

アジェーノレ「やぁ!」

タミーリ「一人で何やってるの?アミンタは?」

エリーザ「あんな人知らない…」

タミーリ「は?」

アジェーノレ「喧嘩でもしたのかい?」

エリーザ「ちょっと聞いてよ!」


   タミーリちアジェーノレ、話を聞いて笑う。

エリーザ「酷いわ!何故に笑うのよ!」

タミーリ「だってそれ、本気で言っていると思う?あの子の性格を考えてみたって分かるわ」

アジェーノレ「素直じゃないってことさ。つまりは突然君にそんな事を言われたもんだからついつい裏返しの感情が表に出ちゃったって訳」

タミーリ「あなた、アミンタの事が好きなんでしょ?」

エリーザ「それは…」

アジェーノレ「あいつだって、本当は君と同じ気持ちだと思うよ」

エリーザ「アミンタ…」

   決意

エリーザ「よしっ!」

タミーリ・アジェーノレ「おぉっ!」

エリーザ「私、彼に会って彼の本心を確かめてみるわ。ねぇ…でも今、アミンタが何処にいるか知らない?もう一週間も姿を見ていないのよ」



   アンネン、寝返りを打っている。

アンネン「ん…っ」

  

   エリーザ、指を指しながらタミーリとアジェーノレと話をしている。

エリーザ「ん?これ、何かしら?」

   何かに触れようとする。



アンネン「うわぁっ!」

   飛び起きる

アンネン「嫌だなぁ…変な夢見ちゃった。最近少し飲みすぎてたからなぁ…」

   起きて水を飲む。

アンネン「何よ…まだ2時か…寝よ」

   再び熟睡。



   翌朝。文恵、食卓を整える。悦、アミンタ、杉太郎、市蔵が揃う。

杉太郎「んだよ、お前結局朝までいたのかよ?」

アミンタ「いちゃ悪いか!?」

杉太郎「居候の癖にまぁ…よくも堂々とここにいられたものですね」

文恵「こらっ!杉!」

アミンタ「おばちゃんやめて!本当の事だもの…だから僕、食べたら出てくよ」

悦「ダメよ!」

アミンタ「なんてだよ!」

悦「今日と明日までは私、大事な仕事があるの。だから君みたいな子を職場に連れていくなんてとてもじゃないけど出来ないの」

アミンタ「だったらお姉ちゃん家にいるよ」

悦「もっとダメよ!」

   文恵に

悦「だからお母さんお願い、明日まででいいからもう少しだけこの子を預かってくれる?」

文恵「えぇ勿論いいわよ。明日までと言わずにいつまでだって大歓迎よ!」

悦「ありがとう」

文恵「ところでこの子の戸籍ってどうなっているの?」

悦「シドンって言ってたからレバノンじゃない?」

文恵「私、シドンにこの子の戸籍を問い合わせてみるわ」

悦「私も、これからの将来のためにこの子の身元を詳しく調べてみるわ」

   時計を見る。

悦「じゃあ私、行ってくる。アミンタ、いい子にしているのよ」

   出掛ける。


文恵「ねぇアミンタちゃん、君の事をおばちゃんにもう少し詳しく教えてくれる?」

アミンタ「いいよ」



   歌劇場。あんねん、辛そう。

悦「何?どうしたの?」

   ニヤリ

悦「さては二日酔いだな?」

アンネン「もあるけど…昨日、変な夢ばっかり見て眠れなかったのよ」

悦「どんな?」

アンネン「私、昨日の舞台の時に変だったでしょ?」

悦「みたいだったわね」

アンネン「出てきたのよ…」

悦「何が?」

アンネン「あの時の女の子よ」

悦「夢に?」

アンネン「そう。それでね…」


アンネン「って訳…あの女の子と草原…何か私と関係あるのかな?」

悦「出身何処だっけ?」

アンネン「バイエルン」

悦「うーん…」


   文恵とアミンタ。

文恵「うーん…何処に聞いてもあなたの言っている身元情報が見つからないわ…まさか出生登録していない訳じゃないわよね?」

アミンタ「分からない」



   歌劇場。

悦「実は私も、一つ悩んでいることがあるんだ」

アンネン「アミンタの事でしょ?」

   悦、頷く。

悦「そうなの…あの子に聞いた情報で母と私、出生と身元を調べているんだけど…」

アンネン「見つからない?」

悦「とりあえずレバノン国内には母が問い合わせてくれているみたいだけど」

アンネン「よしっ!そういう事なら私にも協力させておくれ!こう見えても私、そういう分野は割りと得意なんだ」

悦「ありがとう」

アンネン「じゃあ今日、終わったらあんたの実家にお邪魔していい?あんたのお母さんとアミンタにも直接色々聞きたいし」



   その日の夜。悦の実家。

アンネン・悦「え?レバノン国内の何処にもそんな子の身元がない?」

文恵「えぇそうなの。私も子の子に聞いた情報を
レバノン中の都市に問い合わせたんだけど…」

悦「(アミンタに)君、本当にシドンの生まれなの?」

アミンタ「だからそうだと言っている!」

アンネン「ねぇアミンタ君、しつこいかも知れないけど、私にもう一度君の事を教えてくれないかな?」

アミンタ「えー!?叉ぁ!?一体これで何度目だ!!」

アンネン「ごめんよ。後もう一回だけ!頼むよ!」

アミンタ「(不貞腐れて)わかったよ…」


アミンタ「ん、これでいいだろ?これで全てだ」

   アンネン、目を丸くする。

アミンタ「おーい!」

   アンネンの目の前、強く手を打つアミンタ。アンネン、正気に戻る。

悦「どうしたの?」

アンネン「私…」

   アミンタと悦を交互に見る 

アンネン「子の少年の身元、知ってる気がする」

全員「えぇっ!?」

アンネン「悦、私と一緒に図書館に来てちょうだい!」  
   図書館。アンネン、古い分厚い本を何冊も抱えてくる。

悦「どうすんのよ?何を調べるの?」

アンネン「決まっているじゃない!アミンタの身元よ」

悦「は?」

アンネン「私の仮説が正しければこの本の何処かに…」

   ページを素早く捲る


   手を止める。

アンネン「あったわ!ここよ、ここを読んでみて」

悦「何々?」

アンネン「何々?」

   二人、読み出す。


アンネン「ね?」

悦「ね…って…じゃあまさかあんた、アミンタは古代からタイムスリップしてきたとでも言うの!?」

アンネン「可能性はあるわよ。だってアミンタが来てから今までの事考えても見てよ。水洗トイレを知らなかったり、現代の食べ物を知らなかったり、服装もそうだけどちっとも現代の子供らしくなかったり…って」

悦「確かに。でもまさか!流石にそんなSF小説の様なこと、現実にあり得ないわよ」

アンネン「(構わずに)私の仮説が正しければ更に…アミンタはきっと羊飼いの王様・アミンタなのよ!」

悦「はぁ!?」

アンネン「つまり私…私のモデル!本物の…古代から来た…将来シドンの王様になる…羊飼いのアミンタなのよ!それだったら話が合うじゃない!アミンタの出生届がこの世にないのも頷ける」

悦「アンネン…悪いけど私、そんなSFのような話、信じられないわ」



   悦の実家。

アミンタ「ねぇおばちゃん、アンネンとお姉ちゃんは何処に行ったの?確か僕の身元がどうのとか…」

文恵「あなたが幸せに暮らせるように二人とも必死なのよ。口ではあんなこと言ってるけど、二人ともあなたの事をとても気にかけてくれているの。だから出掛けていったの…何処に行ったか分からないけど、アミンタちゃんのために動いてくれていることは確かよ」

アミンタ「お姉ちゃん…」


悦「ただいま!」

文恵「あ、噂をすればね」

悦「アミンタ、帰るわよ」

アミンタ「はーい!」

悦「何よ?今日はえらく聞き分けがいいのね。なんだか気持ち悪いわ」

   アミンタ、悦の手を握る。悦、キョトンとアミンタと文恵を交互に見る。

悦「どういう風の吹き回し?」


   悦のアパート。悦、ソファーに仰向けになって考え事。


   悦の実家。翌朝。

悦「じゃあお母さん、叉アミンタの事頼むわね。」

文恵「任せておいて」

悦「それと戸籍の事だけど…ちょっといい?」


   人っ気のない場所。

文恵「あの子の事が分かったのね」

悦「えぇ…分かったことには分かったわ。でもなんて説明したらいいのかしら」

文恵「何でも聞くわ。話して」

悦「私とアンネンの仮説が正しければなんだけど…」

文恵「えぇ」

悦「アミンタは出生届も…勿論戸籍もないの。世界中何処の役所を調べたって見つからないわ」

文恵「え?」

   キョトン 

文恵「今…何て?」

悦「だから私、登録がないのなら改めてあの子の戸籍を申請しようと思ってるの」

文恵「でもそれは…」

悦「大丈夫。私に任せて」


悦「じゃあアミンタ、私は仕事に行ってくるから大人しくしているのよ」

アミンタ「分かってるよ」

   悦、出掛ける

アミンタ「ねぇおばちゃん、お姉ちゃんと何を話していたの?」

文恵「ん、何でもないのよ。ただの世間話」


   悦、運転しながら電話。

悦「あ、ターニャ姉さん?すみません、とっても大切な用事が出来てしまったので…え?大丈夫です。公演には必ず戻りますから!すみませーん!では」

   切る。

悦「さてと…まずは」



   歌劇場。

アンネン「悦のやつ、叉無断遅刻か?」

タチャーナ「いいえ、今連絡があったわ。なんだかとっても大切な用事が出来てしまったから公演までにはくるけど遅れるんですって」

アンネン「ふーん」


   悦、実家に戻ってアミンタを車に乗せる。

アミンタ「おいちょっと!」

悦「やっぱり今日は一緒に来なさい」



アミンタ「そこら中を飛び回って一体何をしているのだ?」

悦「あんたのために飛び回っているの」

アミンタ「僕のために?」

悦「あんたがもっと、この地で過ごしやすく幸せにいられるように…だから私に付き合いなさい」

アミンタ「お姉ちゃん…はい、分かった。」

   後部座席にモーツァルト。

モーツァルト「よかったなぁ、アミンタ君」

アミンタ「あ?お前、いつの間に乗り込んだんだ!?」

   車、急停止。

悦「叉誰と話しているのよ?」

アミンタ「だから…」

   指差す 

アミンタ「こいつと」

悦「こいつって?」

アミンタ「お姉ちゃん分からないのか?すぐ後ろに乗ってるんじゃん!」

悦「誰が?」

アミンタ「うーんて…確か、モーツァルトとか言ってたかな?」

悦「モーツァルトって…本気で言ってる?」


   アミンタ、モーツァルト、頷く。

悦「あのさ、あんたモーツァルトって誰か知ってんの?250年前に死んだ作曲家なのよ?」

アミンタ「でもこいつがそう言ってる…」

悦「気持ちの悪いこと言うのはよしてよ。仮にモーツァルトがいるとしたらそれ、完璧に幽霊だから」

アミンタ「幽霊だって!?」

   アミンタ、モーツァルトを見る

モーツァルト「失敬だ!人を幽霊呼ばわりしやがって!」

アミンタ「失敬だ!人を幽霊呼ばわりしやがって!…といっております」

悦「ひぃいぃいぃ!」

   急いで車を降りる。

アミンタ「お姉ちゃん、どうしたの?」

   悦、足を止める

悦「ん…幽霊?」

   アミンタを降ろして抱き上げる。

悦「あんた…あんたここに来る前に住んでいた場所で何があったの?」

アミンタ「え、何があったって?」

悦「事故に遭ったとか、病気になったとか」

アミンタ「急にどうしたの?僕は何もないよ?幼馴染みの友達と喧嘩ならしたけど…」

悦「まぁ…」

   同情。

悦「可哀想な男の子…それを思い詰めて自害してしまったのね。あるいはその人に殺されてしまったの?」

アミンタ「へ?」

悦「どうりで君には幽霊が見えるはずだわ…でもどおして私たちに君の事は見えてもモーツァルトの事は見えないの?」

アミンタ「ちょっとお姉ちゃん…」

   気を悪くする

アミンタ「ひょっとして僕の事を幽霊だって言いたいわけ?」

悦「だって…」

アミンタ「冒涜だ!」

悦「違うの?」

アミンタ「もう知らない!」

悦「ごめんごめん!」

   アミンタ、悦の手を離れて走り去る。

悦「おいっ!アミンタ!」

   モーツァルト、悦を睨む。

モーツァルト「そりゃあ誰だって死人呼ばわりされりゃあ傷つくのは当たり前だよな」

   モーツァルト、アミンタを追いかける。

悦「え?今、何かが聞こえたような…」

   正気に戻る

悦「しまった!アミンタを見失った!」

   急いで探し出す。


   上川橋。アミンタとモーツァルト。

アミンタM「お姉ちゃん、何で急に僕を幽霊だなんて言ったんだろ?」

モーツァルト「全くだ。酷い女だよな」

アミンタ「お前、着いてきたのか?」

モーツァルト「しかし君は幽霊なんかではない。タイムスリップしてきただけなんだ。生きたままね」

アミンタ「タイムスリップ?何だそれは?」

モーツァルト「君が本来いるべき時代から、別の時代へ突然異動をしてしまう事だよ…生きた体のままで」

アミンタ「どういう事?」

モーツァルト「この僕みたいにね」

アミンタ「詳しく教えろよ!」

モーツァルト「ただ君がタイムスリップさせられた理由は僕には分からない。しかしきっとその内に分かるだろうさ」

   消える。

アミンタ「おいっ!」

   考える。

アミンタ「あいつと僕はタイムスリップした?何の事だ?でも…あいつと同じなのなら何であいつは姿を消せて僕には出来ない?」

   アミンタ、踏ん張る。

アミンタ「はぁ…どうもやっぱり無理みたい」

   歩き出す。


   悦の家の前。

アミンタ「あ…」

   アンネンが走ってくる。

アンネン「悦ーっ!悦ーっ!」

   アミンタに気付く。

アンネン「あ、アミンタ君」

アミンタ「アンネン。どうしたの?」

アンネン「ちょっとね…」

   急いでベルを鳴らす

アンネン「悦!悦!」

   悦、出てくる。

悦「アンネン!丁度よかった!アミンタが!」

アンネン「アミンタがどうかしたの?」

悦「アミンタがいなくなっちゃったの!」

アンネン「アミンタがいない?」

   悦、蒼白になって頷く。

アンネン「じゃあ…これは誰?」  

   悦、アミンタを見る。

悦「アミンタ!一体何処に行っていたのよ!」

アミンタ「それは僕の台詞だ!酷いじゃないか、僕の事を探しもしないで放ったらかしにするだなんて!」

   すねる

アミンタ「そうか。どうせ僕なんて幽霊なんだもんなてんお姉ちゃんから見れば」

アンネン「幽霊?何の話?」
悦「ごめん、私が悪かったよ。だからもう機嫌直してね」

アンネン「そんなことより悦、早く私のアパートに来てよ!大変なんだから!」

   アンネン、強引に悦の手を引いて歩く。アミンタも同行。



   アンネンの自宅。

アンネン「入って…」

   三人、中に入る。

アンネン「帰ったら突然
、家の中に夢に出てきた少女がいるのよ」

   指差す。

悦「アンネンが以前に夢で見たって言う草原の少女の事?」

   エリーザ、アミンタ、互いに気付く。


アミンタ「エリーザ!」

エリーザ「アミンタ?」

悦「何?君たちって知り合い?」

   エリーザとアミンタ、気まずく下を向いて頷く。

アンネン「ところで悦、さっき話していた幽霊って?」

悦「あぁ…」



悦「って訳でアミンタを傷つけちゃったのよ」

   アンネン笑う、

アンネン「なんだ。そんな事か!そりゃ悦、あんたが悪いよ。生きている人間が死人呼ばわりされれば誰だって気を悪くするわ」

悦「じゃあもし、本当にアミンタがアミンタなのならここにタイムスリップして来た理由って何だと思う?」

アミンタ「あ!」

悦「っ!」

   悦、しまったと口を覆う。

アミンタ「お姉ちゃん、タイムスリップの事知っているんだね!教えてよ!タイムスリップって何!」

悦「え、それは…」

アミンタ「さっきモーツァルトもいっていたんだ!“僕と君はここにタイムスリップしてきたんだ”って。そして僕が本来生きる時代がどうたらこうたらとも言ってた。ねぇ、これって一体何の事だよ?僕にも分かるように説明してよ!」

エリーザ「じゃあアミンタがそうなら、私だって同じってことでしょ?私も知りたいわ。お願い!教えて!」

   悦とアンネン、顔を見合せる。

悦「どうする?」

アンネン「理解に苦しむとは思うけど話してあげてもいいんじゃない?」

悦「そう?」

   真剣

悦「じゃあどんな話でも落ち着いて聞くのよ。一切の意義は認めません。以上」

   咳払い。

アミンタ「じゃあ…つまり」

エリーザ「ここはシドンでなければ」

アミンタ「僕らのいた時代でもないって事だね?」

悦「そうよ、信じられないかも知れないけどここは日本。しかも君たちの生きている時代よりも2300年くらい未来の時代なの。私だってこんな話は信じられないんだから君たちが混乱して当然よね…」

アミンタ「じゃあ僕はやっぱり、お姉ちゃんが言った通り幽霊なんだ」

悦「だからそれは!!」

アミンタ「だってそういう事だろ?本来ならば僕はこの時代にはもう死んでるはずなんだもん!」

   泣きそう

アミンタ「じゃあお姉ちゃんたちは僕たちの生涯を全部知ってるってことなの?僕が2300年前に生きた人間だって知ってるってことは僕が誰で、どんな人生を送るかもみんな知ってるって事だよね?だったら教えてよ!僕のパパとママが死んだ原因だって知ってるのなら知ってることみんな教えてよ!何を聞いても驚かないって約束するから!」

悦「アミンタ…」

アンネン「まだ話すのは少し早かったみたいね」

悦「こりゃ信じてくれない方がまだ良かったわ。信じないより厄介な事になったわね」

アミンタ「もしかして…僕やパパは歴史に名を残すほどの大犯罪者なの?それでパパは大罪をおかして死刑になったの?」

悦「いいえ、決してそれは違うわ」

アミンタ「じゃあ…」

   悦、言葉を遮る。

悦「今は何も聞くな。その時が来たら全部ちゃんと話してあげるから」

   アミンタ、涙を堪える

悦「泣きたかったら泣いていいのよ」

   アミンタ、首を振って涙を拭う。

アンネン「運命って残酷だよな…」

   エリーザ動揺

アンネン「君までそんな顔するなよ」

悦「ねぇ、君はアミンタの幼馴染みなんだって?」

エリーザ「はい」

悦「だったら昔からこのこの事をよく知る君がアミンタの側にいてあげて。今にこの子には心の支えが必要よ。だから君も、これからしばらくは私の家に住んで、そしてアミンタをフォローしてあげて」

エリーザ「でも…」

   アミンタを見る

アミンタ「エリーザ…この間はごめん…」

エリーザ「アミンタ…」

   照れる

エリーザ「もういいのよ。私こそどうかしてたわ。あなたの気持ちも知らないで勝手に嫉妬してしまったの…ごめんなさい」

悦「何?アミンタのいっていた喧嘩相手って…ひょっとして彼女の事?」

   エリーザとアミンタ、ばつが悪い。

アンネン「ふふーん…恋だね?」

エリーザ・アミンタ「え…」

アンネン「大丈夫。そんなに心配しなくたって君らはまだうんと若いんだから」

悦「そうそう。いずれは結ばれる運命にある二人なんだし」

エリーザ・アミンタ「えぇ!?」

   二人、顔を見合せる。

悦「ね!」



   車内。エリーザとアミンタ。気まずそうに乗っている。悦の運転。

悦「何よ二人とも。もっと楽にしてなさいよ」

エリーザ「でも…」

悦「エリーザはともかく、アミンタまで何よ!」

アミンタ「だってあんなこと聞いちゃったんだもん…普通に何てしていられないよ」
悦「何、結ばれるって話?」

アミンタ「あり得ないよ!だって僕は彼女の事…」

エリーザ「アジェーノレとタミーリから聞いたわ。本当は私の事好きなんでしょ?」

アミンタ「バカいえ!そんなの100%…」

エリーザ「叉意地張っちゃって!」

アミンタ「意地なんて張ってないよ!」

   悦、くすくす。



   悦の実家。

悦「というわけで、今日から私、この二人の子を預かることになったの。でもお母さん、私が忙しい時は…」

文恵「分かっているわ。あぁ、一気に二人もこんなに可愛らしい孫が出来たようだわ。嬉しい」

悦「君ら、今日はここで眠りなさい」



   深夜。文恵と悦。

悦「お母さん」

文恵「何?」

悦「今日、市役所や司法事務所に行ってきたわ」

文恵「え?」

悦「今は詳しくは言えないけど、私、あの子がここで幸せに暮らせるようにあの子の事に関する色々な手続きを申請に行ったの」

   真剣。

悦「お母さん、私ね…」



   寝室。アミンタとエリーザ、熟睡。

アルチェウスの声「アミンタ、アミンタ。起きなさい」

アミンタ「んーっ…」

アルチェウスの声「アミンタ!」

アミンタ「誰?」

   目の前にアルチェウス。

アミンタ「うわぁっ!」

アルチェウス「怖がるなアミンタ、私だ。そなたの父だ」

アミンタ「パパ?」

アルチェウス「そうだ」

アミンタ「ねぇパパ、僕はもう死んでるの?ここは何処?僕は何でここにいるの?」

アルチェウス「アミンタ、そんなに一度に聞くな」

   咳払い。

アルチェウス「ではまず、今のそなたについて話そう。そなたは死んではいない、ちゃんと生きている。そして今、そなたがいるこの国はそなたの生まれ育ったシドンよりも遥か東の“日本”という国だ。今そなたを私の代わりに養ってくれている“悦”という女性の言う通り、そなたの生まれた時代よりも2300年近く未来の時代だ。しかしそなたが何故この地にいるのかは今はまだ話せぬ。その時が来れば必ず分かるだろう」

アミンタ「じゃあもう一つだけ教えて。パパはどうしていなくなっちゃったの?どうして僕が大きくなる前に死んじゃったの?」

   アルチェウス、消えて行く。

アルチェウス「もしそなたがどうしてもそれを知りたいと言うのであれば図書館に行くとよい。そこで私とそなたの人生の真実が全て分かるのだ。私は…殺された…」

   アルチェウス、いなくなる

アミンタ「パパーっ!」


   アミンタ、飛び起きる。息を切らして汗びっしょり。

アミンタ「夢…」

   エリーザも起きる。

エリーザ「アミンタ、どうしたの?」

アミンタ「殺された…」

エリーザ「え?」

   アミンタ、布団を出る。

エリーザ「ちょっと、どうしたのよ!?」

アミンタ「図書館に行く!」

エリーザ「急に何よ!」

   アミンタ、部屋を飛び出る。


   悦と文恵、居間にいる。エリーザ、アミンタを追う。

エリーザ「お姉さん、アミンタを止めて!」

悦「どうしたのよ?」

エリーザ「これから図書館に行くって聞かないのよ」

悦「図書館に?」

   簡単にアミンタを捕まえる

悦「バカ!時間を考えてもご覧なさいよ!こんな真夜中に図書館がやっているとでも思うの!?」

アミンタ「でも、でも早く調べなくちゃいけないんだ!」

悦「何を?」

アミンタ「パパの事だよ!」

   寂しげ。

アミンタ「さっき夢にパパが出てきたんだ…パパは殺されたって言ってた。そして詳しいことは図書館に行けば分かるって…僕がパパに聞いたけどパパからは教えてもらえずに消えちゃった」

悦「つまり君はパパの事を知りたいって訳ね」

   アミンタ、強く頷く。

悦「あのね、君のパパは当時シドンを治めていた暴君・ストラトネっていう男に殺されたのよ」

アミンタ「お姉ちゃん…やっぱりパパの事も知ってるんだね」

悦「そして当時、まだ赤ちゃんだった君はパパ亡き後、マケドニアに移されて育ったの」

アミンタ「マケドニア…!?」

悦「私から今話せるのはここまで。さぁ、もう今日は寝なさい。図書館には今度、私が連れていってあげるから」

アミンタ「ん…」

   アミンタとエリーザ、寝室に戻っていく。



   数週間後。悦の家。悦、アンネン。隣の部屋にアミンタとエリーザ。

アンネン「あれからアミンタ君の様子は?」

悦「落ち着いているわ。図書館に連れて行ってあげたら大人しく借りた本を読んでる。ラテン語と古典ギリシャ語の本だから私には全く分からないけど…」

   真剣に

悦「それでアンネン、私ちょっと心に決めたのよね」

アンネン「何を?」

悦「(小声)私、あの子達の母親になろうと思うの。だからアミンタとエリーザと養子縁組をとるわ」

   アンネン、飲み物を吹き出す。アミンタ、話を聞いている。

アンネン「悦、養子ってあんた…意味分かって言ってるの?」
悦「いくら私だって冗談や意味も理解しないでこんなこと言わないわよ!」

アンネン「おいおい!あんたはまだ結婚もしてないし、ティフィーさんの事だってあるじゃんか!それに養子にするってことはあんたがアミンタのお母さんになるって事なのよ?あんたにはこれから一生アミンタを養っていく義務が発生するって事なのよ?」

悦「そんなの承知の上よ!」

アンネン「あんたにだって夢があんだろ!?目標があんだろ!?これからだってソプラノ歌手として世界へ羽ばたいて行きたいんだろ!?」

悦「もちろん今までの私はそうだったわ。でももうそんなのどうでもいいわよ!あの子がここへ来て以来、そんな夢もうとっくに捨てたわ!最初はうざくて本当に鬱陶しかったけど…今の私はあの子さえ幸せになってくれればいいって本気で思ってる。もちろん、あの子を育てていかなくちゃいけないから仕事は続けるけど、夢なんて本当にもうどうでもいい。来年にはアミンタを学校に通わせてあげたいって思ってる」

アンネン「悦…あんたずいぶん変わったね。もう今のあんたの顔は“日本を代表するトップオペラ歌手”じゃなくて“家庭を代表する専業主婦”って感じだよ」

   アンネン、呆れてため息

アンネン「まぁあんたの人生に私がとやかく言う資格はないからね…好きにすりゃいいよ」

   アミンタ、部屋に入ってきてアンネンと悦をまじまじ見つめる。無言で部屋を出ていく。

悦「何処行くの?」

アミンタ「ちょっと出掛けてくる」

悦「気を付けて。夕方には戻りなさいよ」

   

   アミンタ、足早に通りを歩く。途中、モーツァルトとぶつかる。隣にメタスタージォ。

モーツァルト「アミンタ君じゃないか。どうしたんだ?」

アミンタ「モーツァルト!」

   急ぐ

アミンタ「頼む、教えてくれ!お前はどうやってここに来たの?僕、お前が言っていたタイムスリップってものを本で色々調べてみたんだ。でもみんな病気や死といったことばかりで生きたまま出来るやり方は分からなかった。だから!」

モーツァルト「僕にそれを聞きたいって訳か。でも本当に知りたいか?僕がどうやってここに来たか…」

アミンタ「うん!」

モーツァルト「これを飲んだんだ」

   ワインを手にする

アミンタ「ワイン?」

モーツァルト「水銀入りのね」

アミンタ「水っ…」

モーツァルト「僕はつまり一回死んでる身って事さ。しかしどうしても心残りがあって、僕はまだ若い時代の僕がいる時代に戻った。そして幽霊の僕の体は少年時代のモーツァルトの体に入ってそれを成し遂げようとしたがどうしても僕の思い描くアイデアが出ない…特にアミンタ君、君におけるキャラクター作りがどうしてもできなかった」

アミンタ「どう言うこと?」

メタスタージォ「以前に会ったときに言っただろう?私は君を題材にした劇を書いていると」

アミンタ「あ…」

メタスタージォ「モーツァルト君が悩んでいたのはまさにそれだよ。私の書いた君の劇に曲を付けてくれていたんだが。君と言う登場人物像がなかなか定まらずに苦しんでいた」

モーツァルト「だから僕は考えた。未来に行けば、未来に残された僕の作品がどう変えられているかが分かる。未来に演奏されている僕のオペラがどんなものなのか…君と言う人物をどう描いているのか…それを知りたくてここへ来たんだ。僕の体は生きている人には見えないが、半霊体な訳だから時空は自由自在に移動可能なんだ」

アミンタ「じゃあ…僕もやっぱりもう死んでるって事?」

モーツァルト「いや、君はまだ一回も死んではいない。だってこの世の人たち全員に君の姿は見えているだろう?」

アミンタ「じゃあ何で…」

モーツァルト「きっと君は未来を作るためにここに来たんじゃないか?」

アミンタ「未来を…作る?」

メタスタージォ「そう。ここに来たことにより君のこれからの将来の人生が作られる」

アミンタ「じゃあつまり、タイムスリップで時代を変えられるって事?」

モーツァルト「まぁつまり…」

メタスタージォ「そういう事だが…」

アミンタ「分かった!ありがとう!」

   アミンタ、モーツァルトから水銀入りワインを取り上げて走り去る

メタスタージォ「おいちょっと!何をするつもりだ!」

モーツァルト「まさか彼…」

   二人、アミンタを追いかける。

モーツァルトM「しかしやっと分かった…このアミンタと言う役に何故僕が技巧を使ったのか。どうもあの性格と喋り方とすばしっこさと足の速さだろう…」



   アミンタ、走っている。

アミンタM「これを飲めば、僕もあいつみたいな体になれるんだ。お姉ちゃんたちにはもう、僕の事が見えなくなっちゃうけど…お姉ちゃんがお姉ちゃんの夢を叶えて幸せになるにはこれしかないんだ!僕がいたらいけないんだ!だから僕…やります!」



   19時。悦の家。

アンネン「ねぇ、もう7時になるわよ。アミンタ君、何処まで行っちゃったのかしら?」

悦「そうよね、ちょっと心配だわ。私、近くを探してみる!」

エリーザ「お姉さん!」

悦「エリーザ、あなたは私の家族と私の実家で待ってて!アンネン!」

アンネン「えぇ!」



   悦の実家。

文恵・市蔵「えぇ!?アミンタちゃんが行方不明!?」

悦「えぇ…お昼過ぎに遊びに行くって出ていったきり帰らないのよ。あぁ…あの子を一人で行かせた私がバカだったわ。何処まで心配かけさせれば気が済むのよ!」

アンネン「アミンタ君のやつ…ひょっとしてさっきの養子縁組の話を聞いていたのかも!」

杉太郎「はぁ!?あんな奴を養子だと!?冗談じゃねぇよ!」

文恵「杉!今はそんな事を言っている場合ですか!アミンタちゃんが行方不明なのよ、少しは心配なさい!」

杉太郎「ふんっ!あいつなんかどうせ一人で国にでも帰ったんじゃねぇの?俺の知ったこっちゃねぇ!いなくなって清々するね」

   市蔵、杉太郎を殴る

杉太郎「ってぇ!なにするんだよ!」

市蔵「お前はそれでも人間か!?」

悦「待って!」

   考える

悦「国に帰る…?」

   アミンタの読んでいた本を思い出す。

悦「杉、確かあんたって高校の時から古典ギリシャ語とラテン語を専攻してたわよね?」

杉太郎「あ?あぁ…」

悦「だったら…」



   悦の家。杉太郎、本を読んでいる。アンネンと悦がいる。

悦「何て書いてあるの?」

杉太郎「“タイムスリップに関するメカニズム”
そしてこっちが“シドンにおける今と昔”」

悦「そして?タイムスリップの方の本には何て?」

杉太郎「あいつが付箋を挟んだと思われる箇所には…“タイムスリップを今現在において実現させる方法とは…”」

悦「方法とは?」

   杉太郎、読み進めて青ざめる。

悦「どうしたの?早く続きを読みなさいよ」

杉太郎「姉ちゃん…俺、あいつの事嫌いだけど、もしあいつがこの本の通りの事をしようとしてたらかなりヤバイぜ?早く探して止めなくちゃ!」

悦「だからなんなのよ!」

杉太郎「病による死…事故死…自決…」

   悦、アンネン、蒼白になって走り出す。杉太郎も蒼白で放心状態。



   悦とアンネン、町中を走り回る。そこへモーツァルト。

モーツァルト「二人共待てっ!」

   悦、アンネン、キョロキョロ。

悦「誰?」

モーツァルト「君の隣だよ」

   悦、身震い

悦「誰かいるの?」

モーツァルト「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」

悦「え…」

モーツァルト「僕はアミンタ君の居場所を知っている。とにかく今は僕の言う通りに動いて!早くしないと取り返しのつかない事になるぞ!」



   空港。搭乗のアナウンス。


アミンタM「この便か…」

   アミンタ、送迎デッキへの階段を登っていく。ワイン瓶を隠す。


   送迎デッキ。

アミンタM「あいつが飛び立つ前にこの酒を飲み干してここから飛び降りる…自決の瞬間、時空は歪み…そうだ。そして僕はパパが死ぬ前の時代に行くんだ!そしてパパを助けてストラトネって男をやっつけるんだ!僕はやるぞ…僕のため、パパのため…そして何よりもお姉ちゃんのために」

   アミンタ、震えている

アミンタ「みなさん…そしてお姉ちゃん…さようなら。今までお世話になりました」

   飲み干そうとするが震えて飲めない。足元が徐々にもつれていく。

アミンタ「どうしよう…やっぱり怖いよ、お姉ちゃん!」


   悦、アンネン、モーツァルトが空港に着く。フロアー。

悦「空港じゃないの?ここにあの子がいるって言うの?」

モーツァルト「早く送迎デッキへZ!」

悦「あんた、中世の男のくせにやけに現代の事に詳しいのね」

   送迎デッキ。

悦「アミンタ


   アミンタ、悦に気付いて逃げようとする。悦、アミンタの手を握る。

悦「待ちなさいよ!どうして逃げるのよ!」

アミンタ「放せよ!お姉ちゃんには関係ない!」

悦「バカなこといっていないで!あんたもし私がここに来なければどうなってた?ここから飛び降りるつもりだったんじゃないの?」

アミンタ「そうだよ!それの何がいけない!?」

悦「いけないに決まっているじゃないの!あんた死にたいの!?」

アミンタ「悪いか!?そのつもりでここに来たんだ!僕はこの世界にいるべき人間じゃない…どうせこの時代にはもう死んでる人間なんだもの、ここで僕が死んだって何も変わらないと思う…全てが元に戻るだけ」

悦「そんな事ない!残された私たちの事だって考えなさいよ!君のせいで色々振り回されてきて…それにもやっと慣れてきたのに、最後は私たちをかき乱して一人で逝くつもり!?」

アミンタ「僕は…パパの生きていた時代に行くんだ!死ねば自在にタイムスリップ出来るんだって!運命を変えられるんだってモーツァルトが言ってたもん!だから僕、パパを殺したストラトネって男を倒してパパを救うんだ!」

悦「仮に戻ったとしても…君に暴君ストラトネを倒せると思ってるの?パパさえ敵わない相手だったのに?」

アミンタ「うるさい!」

悦「アミンタ、お願いだからバカな考えはよして!死ねば確実にあんたの時代に戻れる何て言う保証はないのよ!親を悲しませないで!」

アミンタ「親?僕の親はもういない…」

悦「いるじゃない!私があんたの母親になる!」

アミンタ「ダメだよ…」

   力なく泣きそうになる。

アミンタ「そんなのダメだ…僕がいるせいでお姉ちゃんは夢や目標を諦めなくちゃいけないんだろ?だから僕がいるとお姉ちゃんは幸せになれないんだ。僕はお姉ちゃんに迷惑ばっかりかけてる」

悦「そんな事ない!確かにはじめの頃は何て言うわがままでうざい子だって思ったこともあったわ。生意気だしすぐに何処かに行っちゃうし落ち着きはないし何も知らないし…でもそんな風に思っていた初めの頃でさえ、君を捨てようとか、煙たいとか、追い出してやるなんて思ったことは一度もない!君のせいで私の人生がどうこうなんて考えた事もない!寧ろ今の私には君のいない人生なんて考えられない!君の事はしっかり守ってあげるし助けてあげる。これからも生意気言っていいから!迷惑いくらだってかけていいから!戻るなんて言うな!死ぬなんて言うな!」

アミンタ「お姉ちゃん…」

悦「今の私の夢と目標は君なの。君の幸せ…これからは私が君の保護者になるから…また一緒にこれからも暮らそう」

アミンタ「お姉ちゃん…」

   アミンタ、泣き出す

アミンタ「ううん、お母さん…」

悦「おいで」

   アミンタを抱き締める

悦「よしよしよし…ん?」

   アミンタの足元を見る

悦「あらあら…本当はすごく怖かったんでしょ?こんなにお漏らししちゃって」

アミンタ「え…あ!」

   アミンタ、慌ててあたふた

悦「大丈夫よ…」

   ハンカチでアミンタの足を拭く。

悦「さぁ帰ろう。家に帰ったら着替えようね」

アミンタ「うん」

   モーツァルトとメタスタージォ。

メタスタージォ「アミンタ君、君を題材にした劇が完成しているよ。だから私の劇を見て少しでも元気になってくれれば嬉しいんだが」

悦「ひょっとして…」

メタスタージォ「そうです。君が演じてくれているあのオペラだよ。アミンタ君、私の劇を演じてくれているのはこの悦さんとアンネンだよ」

   二人に

メタスタージォ「だから改めて、アミンタ君に見せてあげるために再演してくれないかい?」

アンネン「どうする?」

悦「いいわ、私は賛成よ。ターニャ姉さんに頼んでみる!それと」

   モーツァルトを見る。

悦「あんたがモーツァルトね?肖像がそのものだからすぐ分かる」

モーツァルト「何?」

悦「アミンタに聞いたわ。今まであんた、アミンタに付き纏ってたんですってね」

モーツァルト「大正解」

悦「だったらあんたにも連帯責任ってものがあるわ。よってあんたにも代償ってものを支払ってもらわなければ困ります!」

モーツァルト「責任?代償?何の?」

悦「私の可愛いアミンタちゃんに接触しているんですから当然の報いよ!」

   書類を突きつける

悦「これにサインなさい!それと…これにもサインなさい!」

モーツァルト「こりゃ何だ?」

悦「ぶつくさいわずに早くしろっ!」

   モーツァルト、言われるままに書く。

悦「どうも。じゃあ明日正式に役所に提出するわ」

   アミンタの手を取る。

悦「坊や、帰ろう」

アミンタ「うん!」

悦「あんたもよ!着いてきなさい!」

モーツァルトM「役所?」


   悦の実家。

悦「ただいまぁ!」

文恵「悦!」

   アミンタを見る  

文恵「アミンタちゃん!無事でよかった!」

悦「お母さん、正式に役所に書類出してきたわ。これで私、正式にアミンタとは親子関係になったの」

モーツァルト「親子関係ってまさか…昨日僕にサインさせた書類ってのは…」

悦「そうよ。あんたに書かせたのは出生登録票と私との婚姻届…そしてアミンタとの親子縁組みの書類よ」

モーツァルト「っ…マジか」

悦「私実は、長年ずっとあんたの大ファンだったの!もう200年以上前に死んだ人だって諦めてたけど、まさか生きた本人にこの世で会えるだなんて思わなかったわ!愛してるわダーリン!」

   悦、モーツァルトにベタベタ

モーツァルト「やめろ、やめろってば!」

文恵「まぁ!では悦、この方と正式に結婚する事にしたのね!なら、近々血の繋がった孫も期待出来そうだわ」

モーツァルト「だから違いますって!悦、放せ!放せったら!」

モーツァルトM「何でいきなりこのタイミングで僕の姿が見えるようになっちゃったんだ?せめてこの女の前にだけは姿を見せなきゃよかったよ」

   そこへ杉太郎。

杉太郎「よ、お前無事だったんだな」

アミンタ「うん」

杉太郎「てかお前…漏らした?」

   アミンタ、真っ赤になって下を向く。

杉太郎「いいよ、上がれよ。とりあえず今回は俺のお下がり貸してやるけど…早く新しい服、姉ちゃんに買ってもらえよ」

アミンタ「ありがとう」

   アミンタ、杉太郎について行く。

悦「よかった…心配してたけどあの二人、何だかんだで仲良くなれそう」

   モーツァルト、複雑そうに笑う。



   数ヵ月後。歌劇場。

ティフィー「ねぇ悦、何で僕に言ってくれなかったんだ?」

悦「何を?」

ティフィー「アミンタを養子にしたんだろ?」

悦「誰から聞いたの?」

ティフィー「アンネンさ。もう劇場中の噂だよ」

悦「あ、そうなの?」

ティフィー「つまり君はアミンタの継母になったってことだろ?」

悦「まぁ…戸籍上はそういうことになるわね」

ティフィー「じゃあ…僕ら婚約者同士だろ?結婚しよう悦、僕がアミンタの父親になるよ」

悦「はい?」

ティフィー「女性一人じゃあ何かと大変だろ?だからさ悦、僕らも籍を入れよう!」

悦「ごめん」

ティフィー「え?」

悦「私、やっぱりあんたとは結婚できないわ」

ティフィー「え、え、何で?急にどうしたの?」

悦「だって私、もう夫も息子もいるから」

ティフィー「どう言うこと?息子ってのはアミンタの事だろ?夫ってのは誰の事?」

悦「紹介するわ。ヴォッフェルルよ」

   モーツァルト、会釈。

ティフィー「うわぁっ!」



   さらに一ヶ月後。

悦「アンネン!」

アンネン「へへーん!なんかさ、あんたら見てたら羨ましくなっちゃってさ、私ももうエリーザと養女縁組みしちゃったんだよね!悦のお陰よ、ありがとう」

悦「いや、それはいいんだけどさ…」

   メタスタージォを見る

悦「何で?」

アンネン「実はあれからピエトロといい感じになっちゃってさ…」

   婚約指輪を見せる。

アンネン「こういう関係になっちゃったって訳」

悦「わぉ、おめでとう!」

   悦も婚約指輪を見せる

モーツァルト「いい加減もう諦めました…」

悦「でも…リオ君とはどうなったの?」

アンネン「あぁ…あんなのとはとっくに別れたわよ!あんななよなよ男となんてやってらんないわ!」

   エレオナードとティフィー、アンネンと悦を見る。

エレオナード「結局僕ら、捨てられたね」

ティフィー「悔しいけど…そうみたいだな」

エレオナード「ねぇティフィー、僕らフラれたもの同士…一緒になる?僕らも籍、入れようか?」

ティフィー「気持ちの悪い冗談はよせ!」

エレオナード「ですよねて…ごめん」



   羊飼いの王様のオペラ公演。アミンタ役をアミンタ、エリーザ役をエリーザが演じて歌っている。

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