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イタリアの四季シリーズ

Marrjskaja=Hanna

プリーマヴェーラ春の夢

○ヴェネツィア・劇場

   中洲所縁里、柳平麻衣、シルヴィーラ・カッツータ

麻衣「所縁里君、お疲れ様」

所縁里「麻衣ちゃん、おつかれ」

シルヴィーラ「あなたたち、いつでも仲がいいわね」

麻衣「姉さん!」

シルヴィーラ「もうすぐ結婚するんですってね、お二人さん。おめでとう」

   麻衣、所縁里、照れる

シルヴィーラ「麻衣、今度こそ幸せになるのよ」

麻衣「えぇ」

シルヴィーラ「結婚式にはぜひ呼んでね」

所縁里「もちろんですよ、ね、麻衣ちゃん」

麻衣「はい!」

   そこに佐藤加奈江

加奈江「でもくれぐれも気をつけな」

麻衣「何を?」

加奈江「こんな噂があるんだよ」

   話し出す。

麻衣「まさかぁ!」

   笑い出す

麻衣「そんなの迷信よ!なえちゃんもバカね!そんなの信じてるの!?」

加奈江「そんなこと言ってていいの!?現に私の親戚だってそうなっちゃったんだからね!」

麻衣「偶然でしょ。それにもし、そんな状況になったとしてもそんなふうになるわけ無いわ。だって私…」

   自信満々

麻衣「生まれてこの方、健康診断でマイナスが出たことないもの。健康そのものなのよ」

加奈江「そんな状況に遭遇しないことを願うけど…もうどうなったって知らないんだから!」


○ヴェネツィア・教会

   結婚式。麻衣、所縁里、口づけして微笑む。

加奈江M「でも、なんだかんだ無事この日が迎えられたわ。良かった…」

麻衣M「なえちゃんの言っていた状況に遭遇しちゃったけどなによ、大丈夫だったわ」

所縁里M「麻衣ちゃん…」

   加奈江、麻衣の手元を見る。

加奈江「っ!?」

   ***

   数ヶ月後。

麻衣「所縁里君」

所縁里「ん?」

麻衣「あのね…」

所縁里「なんだよ?」

麻衣「私…」

所縁里「早く言えって」

麻衣「懐妊したみたいなのよ」
所縁里「(お茶を吹き出す)な、なんだって!?」

   麻衣を強く抱きしめる

所縁里「本当!?」

麻衣「えぇ!!」

   ***

   約一年後。分娩室、慌ただしい。

所縁里「ど、どうしたんですか!?一体何が!?」

   心電図の音

所縁里M「ま…まさか…麻衣ちゃん!?」


○教会

   告別式。

麻衣「赤ちゃん…」

   麻衣を慰める

麻衣「なんで…」

所縁里「麻衣ちゃん…」

麻衣「健康だったのよ…何も異常がなかったのに…生まれてすぐに死んじゃったのよ…」

   ***

   麻衣と所縁里、暗い新婚生活を送る。

所縁里「麻衣ちゃん、いい加減元気出せよ」

麻衣「所縁里君こそ…」

   カレンダーを見る
麻衣「早いもんだわ…あれからもう3ヶ月だなんて…あの子がいれば喜んだでしょうね…」

   お腹を触る。

   ***

   約一年後。

産婆「おめでとうございます、奥様。元気な男の子ですよ」

麻衣「あぁ…」

所縁里「良かった…麻衣ちゃん、ありがとう」

麻衣「えぇ…」

   ぼんわり

麻衣「名前はもう、決まっているわね」

所縁里「あぁ」

   ***

   『千鶴』と書く。

所縁里「今度は元気で育ってほしいから」

麻衣「千鶴…」

所縁里「届けるよ」

麻衣「いいわ」

   二人、提出する。

麻衣「私達、今度こそ幸せになれるのね」

所縁里「うん…穏やかな家庭を創って行こう」


   ***
   5年後。中洲家自宅。麻衣、食事の準備をしている。中洲千鶴、一人遊び。そこへ所縁里が帰宅。

所縁里「ただいま」

麻衣「あ、父様のお帰りよ」

   所縁里、入ってくる

麻衣「所縁里君おかえりなさい」

所縁里「麻衣ちゃんに千鶴、ただいま。ほら、お土産買ってきたよ」

千鶴「やったぁ!父さんありがとう」

麻衣「ありがとう、何を買ってきてくれたの?」

所縁里「ほら、君がずっと食べたいって言ってたろ!駅前に出来たブレーミャマガジンのピロシキだよ」

麻衣「わぁ嬉しい!所縁里君ありがとう」

   いたずらっぽく

麻衣「じゃあ今日はロシア気分ね」

所縁里「え?」

麻衣「お夕食よ」

  

所縁里「へぇ、本当だ!ボルシチにオリヴィエ…ペルメニにストロガノフか」

   微笑む

所縁里「麻衣ちゃんの作るロシア料理って最高なんだよね」

千鶴「うん!」

麻衣「嬉しいわ。いっぱいあるからどんどん食べてね」

   麻衣、二人を見て微笑む。


   食後。

所縁里「はぁ美味しかった」

麻衣「じゃあ、食後は父さんの買ってきてくれたピロシキでも食べるか?」

所縁里「たしか僕、イチゴとルバーブといちじくのやつを買ってきたと思うよ。何がいい?」

千鶴「じゃあ僕、イチゴ!」

所縁里「麻衣ちゃんは?」

麻衣「私、最後でいいわ。先に所縁里君決めて」

所縁里「そう?じゃあね、君ルバーブが好きだって言ってたから僕はいちじくだ」

麻衣「ありがとう。じゃあ」

全員「いただきます!」

麻衣「美味しい!」

千鶴「美味しい!」

所縁里「本当?そりゃ良かった」


   麻衣、洗い物。所縁里は千鶴と遊んでいる


麻衣「あら、もう7時…ちょっと所縁里君、もうこんな時間よ!早く千鶴をお風呂に入れちゃってよ」

所縁里「分かった、いいよ」

   千鶴を抱き上げる

所縁里「千鶴、父さんと一緒にお風呂行くか」

千鶴「うん!」

麻衣「よろしく」


   浴室。


所縁里「ほら千鶴、ちゃんと肩まで浸かれ」

千鶴「だって溺れちゃうんだもん」

所縁里「溺れないよ、ほら」

千鶴「怖いよ!」

   おどおど

千鶴「ふぅ…」

所縁里「な、大丈夫だろ」

千鶴「うん!大丈夫だった」

   笑いながら

千鶴「ねぇ父さん…」

所縁里「んー?」

千鶴「今日僕、明るい時にお祖父ちゃんとお婆ちゃんの家に行ったんだよ」

所縁里「へー、何しに行ったんだい?」

千鶴「母さんがご用があるんだって。だからその間、預けられてたんだ」

所縁里「ご用?母さん何処行ったんだって?」

千鶴「教えてくれないんだ」

所縁里「聞いても?」

千鶴「そう、だから何しに行ったのかは知らないよ」


   数十分後、千鶴が上がる。

所縁里「麻衣ちゃん、千鶴上がったよ」

千鶴「母さん!」

麻衣「はいはい」

   千鶴の体を拭く

麻衣「あらあら、ちゃんとお風呂で体を拭いてから出ないとダメじゃないの!こんなにびしょ濡れになっちゃって。ほら、お髪もきちんと拭きましょうね」

   そこに所縁里

所縁里「千鶴、早くお洋服着ないとそのままじゃ風引いちゃうぞ」

   麻衣に

所縁里「ねぇ、ところで千鶴から聞いたんだけど…麻衣ちゃん、昼間何処に行ったんだって?」

麻衣「千鶴から聞いたのね」

所縁里「何しに行ったの?」

麻衣「病院に行ったのよ」

所縁里「え?」

麻衣「いいわ、全部話す…あとで千鶴が眠ったら居間に来て」

所縁里「わかったよ…」




  居間。


麻衣「眠ったわ」

所縁里「そうか…それで」

   不安げ

所縁里「君、何しに行ってたって?千鶴を連れていけないようなところに行ったのか?」

麻衣「だから病院よ」

所縁里「びょ…病院?何で?」

麻衣「外科の中郡先生に会いに行ってたの」

所縁里「中郡先生って…中郡勉先生?」

麻衣「そうよ」

所縁里「何で…?まさか」


   不安げに笑う

所縁里「不倫…とかじゃないよな?」

麻衣「まさか!私がそんな事するように見える?」

所縁里「じゃあ…」

麻衣「実は最近ずっと体調が悪かったの。だから念の為に行っておいたほうが安心かしらと思って、健康診断がてら行ったのよ…そしたら」

   諦めたように笑う

麻衣「具合が悪いのも当然だと思ったわ。だって、私の体にガンがあるっていうんですもの。しかも悪性の末期よ…びっくりしちゃったわ」

所縁里「え…」

麻衣「余命宣告まで受けちゃったんだから。私、あと1年しか生きられないんですって」

所縁里「そ、そんな」

   笑う。

所縁里「バカな冗談よせよ!いくらエイプリルフールだからって…冗談がきつすぎるぞ!」

   カレンダーを指す

所縁里「そんな見え透いた嘘で僕を騙そうってか?」

   笑う

所縁里「さぁ言ってご覧。本当は何しに何処へ行っていたんだい?浮気ってのは無しだぞ」

麻衣「あなたこそ」

  診断書を見せる。

麻衣「これでもまだ私が冗談いっていると思う?」

   所縁里、診断書と麻衣を交互に見る。

所縁里「え…」

   麻衣、頷く。


所縁里「じゃあ…まさか君、本当に?」

麻衣「だからそうだって言っているじゃない!」

所縁里「そんな…」

   麻衣を抱きしめる

麻衣「ちょっと何よ、やめてよ」

所縁里「じゃあ君を救うにはどうすればいいの?僕には何が出来る?どうすれば君は死なずに済むの?生きられるの?」

麻衣「そんな顔しないでよ。まだ私は元気じゃないの!余命宣告を受けたからって明日すぐ死ぬわけじゃないのよ」

所縁里「でも」

麻衣「あなたにそんな顔されたんじゃ私が切なくなっちゃうわ!」

   笑う

麻衣「まだ1年も先の話なんだし、第一本当に死んじゃうとも限らないのよ。余命宣告を受けたって生涯天寿を全うする人だって何人もいるでしょ!」

   タフに

麻衣「私、これからもいつも通り過ごす。私は何も言ってない…だからあなたも何も聞かなかったことにして今まで通りに過ごしてね」

   小粋

麻衣「この事はくれぐれもあの子にはまだ内緒よ。あの子はまだ5歳なんだからあの子を不安にさせたり心配かけたくないの。わかった?」

所縁里「う…うん」

所縁里N「妻は依然タフだった。この翌日からも毎日毎日いつも通り、まるであの日の告白は本当にエイプリルフールの冗談だったんじゃないかって思うくらいに元気で過ごしていました。だから僕も麻衣ちゃんは本当は重い病気で余命があるだなんて夢か嘘かって思いたかった。でも…」


   麻衣、時々苦しみや痛みを訴える。所縁里、支える。

所縁里N「半年も経つと、妻の体は日常にも支障をきたすようになっていて、痛みや苦しみを訴える回数も多くなったみたい。それに病院の薬による副作用…流石に5歳の千鶴も…」

   麻衣、千鶴、所縁里。公園で遊んでいる。


千鶴「母さん、どうしたの?大丈夫?」

麻衣「大丈夫大丈夫、ちょっと待ってね。母さん疲れちゃった」

千鶴「本当に?母さん最近変だよ。」

麻衣「大丈夫。母さん、千鶴と違って若くないからすぐ疲れちゃうのよ」

   麻衣、水を飲む

麻衣「さぁ、もう大丈夫!遊びましょうか」

所縁里「とか言って、麻衣ちゃん無理するなよ!」

麻衣「所縁里君まで私を年寄り扱い?酷いわ」

   立ち上がる

麻衣「ほら、母さんもうこんなに元気!次は何する?」

千鶴「良かった!じゃねじゃね、鬼ごっこ」

麻衣「いいわよ!」

   所縁里、不安げに笑う。

麻衣「所縁里君も早く!」



所縁里N「でもあの日から丁度一年後の春…恐れていたその日がついにやって来てしまった」


   諏訪桑原城。麻衣、所縁里、千鶴

麻衣「ふぁー。気持ちがいい!あれから今日で一年経つのね」

   桜を見る

麻衣「こんなにいいお天気なのにまだ蕾だなんて残念ね」

   寂しそうに

麻衣「見たかったわ…人生最後の桜」

所縁里「何縁起でもないこと言ってるんだよ!死に際でもあるまいし」

   笑う

所縁里「いつだって見に来れるだろ。晴れる日は続くみたいだし、この分だと1週間後には満開だろ」

   微笑む。

所縁里「だったら来週また見に来よう」

麻衣「来週!?あら所縁里君、お仕事は?」

所縁里「有給とっちゃおうかな」

麻衣「まぁ!」

千鶴「ねぇお腹空いた。僕、お団子食べたいよ」

所縁里「お、いいね。ならみんなで食べるか、麻衣ちゃんは?」

麻衣「勿論!」

千鶴「僕みたらし!」

麻衣「じゃあ私はクルミ味噌!」

所縁里「僕はよもぎつぶあんにしてみようかな」

麻衣「所縁里君、おじいさんみたい!」

所縁里「おじいさんで悪ござんしたね」

   


   数分後。三人で分けあって食べる。

麻衣「美味しい…」

千鶴「ねぇ、母さんのお団子一つちょうだい」

麻衣「いいわよ。はい」

   千鶴、かじる

千鶴「わぁ美味しい!なら僕んのも一つあげるね」

麻衣「ありがとう!」

所縁里「僕も仲間にいれてくれよ」

麻衣「じゃあ所縁里君のもちょうだい」

   所縁里の串をかじる

麻衣「んーっ、春の味!美味しい!」

所縁里「あれ、さっきは小馬鹿にしていた人誰だったっけ?」

麻衣「ごめん、悪気はなかったのよ。許してね」

所縁里「意地悪…じゃあ、君んのも貰っちゃう」

   所縁里、麻衣の串をかじる

麻衣「あーっ!」

千鶴「父さん、僕にもちょうだい!」

所縁里「千鶴にはまだこの味は早いんじゃないかな?」

千鶴「大丈夫だもん!食べれるもん!」

   所縁里の串をかじって顔をしかめる

所縁里「ほらね、だから言っただろ」

   そこへ強い風。三人、手で風を遮る。麻衣、同時に倒れる。

所縁里「すごい風だったな。千鶴、大丈夫だったか?」

千鶴「目にゴミが入っちゃったよ…」

所縁里「ちょっと待ってろ、擦っちゃダメだぞ」

   千鶴、目を擦りながらキョロキョロ

千鶴「あれ?母さんは?」

所縁里「本当だ。おーい、麻衣ちゃん?」

   麻衣、地面に倒れている

所縁里「麻衣ちゃん!?」

千鶴「母さん!?」

   所縁里、麻衣を抱き抱える

所縁里「おい麻衣ちゃん!どうしたんだよ、しっかりしろよ!」

麻衣「…」


   


   病院。麻衣、心電図をつけられて昏睡状態。


千鶴「ねぇ父さん、何で母さん急に倒れちゃったの?母さん、病気なの?」

所縁里「千鶴…」

千鶴「目を覚ますでしょう?このまま死んでしまわないでしょ?」

   麻衣にかけよってすがる

千鶴「母さん僕だよ!千鶴だよ!何で目を開けてくれないの?僕が悪い子だから?だったら僕、いい子になるから、これからは言うこともちゃんと聞くしお手伝いもする。ご飯も残さないから!」

麻衣「…」

所縁里「千鶴…実はな」

   ためらいながら

所縁里「お前に心配させたくないから黙っててくれって母さんに言われたんだ」

   声をつまらせて冷静に

所縁里「母さん、ガンって言う病気なんだって」

千鶴「ガン?それって治るの?」

医師「中洲さん、奥さんはもうこのまま意識が戻らない可能性が高いです。ベストは尽くしますが覚悟はしていてください。今の状態ですといつ何が起きてもおかしくはないでしょう」

所縁里「そんな…」

千鶴「何?母さんどうなるの?死んじゃうの?」

   所縁里、麻衣をまじまじ

所縁里「いや、母さんは死なない」

所縁里M「麻衣ちゃんきっと僕が君を再び元気にさせる。絶対に死なせやしない!」

   ***

   小口千里、病院で横たえている。

麻衣M「誰…?せんちゃん?」

   若き日の麻衣、千里の側にいる。

千里「麻衣ちゃん…手を貸して」

麻衣「何?」

   千里、麻衣に指輪をはめる。

千里「僕はきっともう長くない…」

麻衣「何言っているのよ!退院してピアニストになるんでしょ!?そんな弱気に成らないでよ!」

   千里、弱々しく笑う。

千里「だから…死ぬ前に君に、一言だけ言いたいんだ…どうか…一日だけでもいいから…僕の妻になってください。結婚しよ、麻衣ちゃん…」

麻衣「バカ!一日だけの妻って何よ!結婚するなら責任持って一生私と側にいなさいよ!」

千里「もちろん…僕だってできればそうしたいさ」

   わざと小粋に
千里「明日…外出許可をもらってあるんだ。だから君に…来てほしい場所がある」

麻衣「何処よ?ってより、その体で外出なんて無理よ!」

   ***

   国立歌劇場。

麻衣「劇場…?」

千里「うん…」

   もじもじと咳払い

千里「小口千里22歳、本日は君だけに聞かせるオリジナルリサイタルを開催しようと思います。君へのプロポーズ…」

麻衣「え?」

千里「ねぇ、このリサイタルが終わったら…」

   麻衣に指輪をはめる

千里「僕と結婚してくれませんか?いつも二人で行っていた街の教会に、お願いもしてあるんだ。二人だけの結婚式をあげよう」

麻衣「このあとに!?急だわ」

千里「君のためのウエディングドレス…僕、実は作ってあるんだよ」

麻衣「手作り!?」

千里「あぁ…気に入ってくれるといいけど」

麻衣「いえ…でも何も今すぐじゃなくてもいいんじゃない?もっとあなたが元気になったときだって、結婚式は挙げられるじゃない」

千里「僕には」

   寂しげに微笑む

千里「もう時間がないんだ…僕、自分がもう長くないってことは知ってるんだ…だから、君への本心と…僕へのレクイエムに」

麻衣「縁起でもないこと言わないでよ!あんた、レクイエムの意味、知って言ってんの!?」

千里「バカにするなよ。これでも一応名門音大卒業してるんだぜ」

   小粋にピアノに向かう。

   ***

   演奏が始まる。麻衣、うっとりと聞いている。

   ***

千里「これが最後の演奏です。心して聞いてください…」

   演奏しだす。

   ***

   終わる。

千里「…」

麻衣M「せんちゃん?」

   千里、ピアノに突っ伏せている。

麻衣「せん…ちゃん?」

   恐る恐るピアノに近づく。

麻衣「ちょっと…」

   千里に触れる。千里、冷たくなって床に倒れる。

麻衣「おいっ!ちょっとせんちゃん!」

   ***

   病院。霊安室。

麻衣「バカ…リサイタル終わったら、結婚してくれるって言った人誰よ…」

   指輪を見る。千里の指の指輪も触る

麻衣「あんたの指…冷たいわ…。さっきまであんなになめらかに動いていたじゃないの…なんで」
   
   
   ***

   ベッドに横絶える麻衣、涙を流す。側で見守る所縁里と千鶴。


麻衣M「そうよ…そして丁度1年後の今日…私は闇の床に伏した」

   記憶が遡り出す

麻衣M「人ってこうやって死んでいくんだわ…」

   心電図が鳴り出す

麻衣M「そう…私は今、死んでいく…そう、あなたのいる国に行くの…待っててせんちゃん…もうすぐ会いに行くわ」

千鶴「母さん!」

所縁里「麻衣ちゃん!」

   医師、看護婦、飛んできて処置。

所縁里「先生、妻は!?」   

   ***
   

   光のトンネル。麻衣、目を覚ます。

麻衣「ここは…」

   きょろきょろ


麻衣「そうだは、確か私は死んだんだわ。ここはじゃあ黄泉ってこと?」

   歩き出す。

麻衣「あら…出口?いえ、ここが黄泉の国への入り口かしら?」

   

   広大な草原


麻衣「わぁあ!」


   うっとり


麻衣「美しい場所ね…」

   空気を吸う

麻衣「空気が美味しいわ!ここが黄泉なのね…こんなに場所、現世では見たことないわ」

   不思議そう

麻衣「でも何でこんなに静かなのかしら?だって黄泉の国なら今まで何億年もの歴史の中で亡くなった数えられない数の人がいてもおかしくないのに…天使達すらいない」

   歩き続ける

麻衣「永遠に広いのね」



   数時間後。麻衣、しゃがみこむ。

麻衣「あぁ…もうダメ。疲れちゃった」

   木陰で休む

麻衣「歩いても歩いても何もないだなんて…これから私、一体どうすればいいって言うのよ」


   百メートルくらい先。シヴェーノが倒れている。

麻衣「あれ…何?」

   近寄る。

麻衣「まぁ、男の子だわ!ちょっと君、大丈夫?しっかりなさい!」

シヴェーノ「ん…」

麻衣「大丈夫?」

   シヴェーノ、麻衣を見る

シヴェーノ「お前…」

   立ち上がって剣を向ける

シヴェーノ「誰だ!?」

麻衣「誰って…無礼な子ね!助けようとしてあげた人にいきなり何するのよ!」

   シヴェーノの剣を意図も簡単に取り押さえる。

シヴェーノ「お前、ペキン族か!?それともジャワ族か!?」

   警戒

シヴェーノ「私の事を追ってここまで来たのだろう?私を殺すために来たのであろう?」

麻衣「失礼ね!私があなたを殺すですって!?何でそんな風に思うのよ!」


   シヴェーノに近寄る

麻衣「第一、初対面なんですから男のあなたから名乗るのが礼儀ってものよ!さぁ!お名乗り!」

   シヴェーノ、圧倒されながら警戒

シヴェーノ「私の名はシヴェーノ、タルタラ族でシンナナ皇帝摂政の息子。10歳」

麻衣「やっと名乗ってくれたのね。なら私も名乗るわ。私はウラニア、ロマの女よ」

   手を差し出す

麻衣「何でそんな誤解をされたのか分からないけど、私は君を殺そうとも捕らえようともしていないから安心なさい」

シヴェーノ「本当か?」

麻衣「ええ、勿論。だから君の身の上を詳しく教えて」

   シヴェーノ、警戒しつつ

シヴェーノ「私は10年前にタルタラ人でありシンナナ皇帝の摂政の息子として生まれた。生まれはタタロニア。多々ロニアで育った私達タルタラはずっと平和で穏やかに暮らしてきたんだ。でも…1年くらい前からジャワ族とペキン族、そして私たちテュルク族タルタラ人との戦が始まってしまった。私の父も出兵させられ戦っていたけど…父は敵軍に殺された。だから私は…」

   言葉を飲む。

麻衣「辛いのなら無理しないで」

   考える。

麻衣M「この子今、ジャワ族とかペキン族って言った?そしてこの子自身はタタロニアのテュルク族?タルタラ人とかも言っていたわね。戦とかも…大体黄泉の国に戦なんてあるわけないわ」

シヴェーノ「ウラニア?」

麻衣M「ってことはここは黄泉ではない?黄泉の国じゃなくて地球なのかも…しかもまだ原始時代の!だとしたら私の魂もとんでもないところに連れてこられたもんだわ」

シヴェーノ「ウラニアったら!」

麻衣「ではシヴェーノ、君のお母様は?」

シヴェーノ「母はこの戦よりもずっと前に病で死んだ…私が幼き頃から交友のあった仲間とも今は離れ離れさ」

麻衣「そう…独りぼっちなのね。おばさんも独りぼっちなの」

シヴェーノ「ウラニアも?」

麻衣「えぇ…じゃあシヴェーノ、しばらくここでおばさんと暮らしましょうか?」

シヴェーノ「え?」

麻衣「ここだったら見る限りきっとあなたの敵だって追ってこないだろうし、少し静かすぎて寂しいけど穏やかで平和に暮らせると思うわ。それに君は…おばさんの生き別れになった息子によく似てる。安心して、私はあなたの味方よ。これからは何があってもおばさんがあなたを守るわ」

シヴェーノ「うん…」

   麻衣の胸に顔を埋める。

シヴェーノ「私はここに逃げてくるまで味方となってくれる人間に会う事がなかったんだ。一人っきりでいつも敵から逃げていた…怖かったんだ。でもこうやってやっと味方になってくれる人間と出会えた。私は嬉しい…」



麻衣N「こうして、後に“旧石器時代”と呼ばれるこの時代で私とシヴェーノの二人っきりの生活が始まったの。ところが実は…」



   現世。教会で告別式。所縁里と千鶴と参列者。千鶴、泣き崩れている、所縁里も涙を堪えながらそれを支える。

麻衣N「私は死んだ後、一人でここへ連れてこられたと思っていたけど、そうではなかったと言うことに数ヵ月経って気がついた」  


   麻衣の遺体を見て悲しみ泣く人々。


女性1「中洲麻衣さんは本当に良い方で。うちの息子の面倒なんかもいつも見てくれていましたわ」

女性2「うちの娘も千鶴ちゃんの母さんっていつも言っていました。だから麻衣さんが亡くなってしまった事を聞いてから毎日泣いていますわ」

   女性3、所縁里の元へ来る

女性3「あの、旦那様…」

所縁里「あ、あなたは確か同級生の…」

女性3「はい。麻衣とは小学生時代からの同級生で向山…旧姓佐藤といいます」


所縁里「僕に何か?」

女性3「はい…実は麻衣からあなたには絶対にまだ言わないでくれって言われていたんですけど、麻衣が亡くなってしまった今、最後に話しておいた方が良いんじゃないかと」

所縁里「何をです?」

女性3「実はね…」


   所縁里、話を聞いてショックを受ける。

所縁里「そんな…そんな事って…」


麻衣N「夫にずっと内緒だった事…実は生前私は妊娠をしていたの。でも、その子も生まれる事なく私と共に亡くなってしまった。だから今の私のこの体には…」

   お腹を触る。

麻衣N「この子が生きているのです」



   数週間後。シヴェーノ、帰宅。

シヴェーノ「ウラニア!ウラニア!見ておくれよ!向こうの広場に美味しそうな野草がこんなに出来ていたよ!それとほら、湖にはこんなに蜆や鯉がいたんだ!」

麻衣「まぁ!」

   シヴェーノの頭を撫でる

麻衣「シヴェーノは本当に釣りが上手ね。君みたいな男の子がいてとても助かるわ」

   シヴェーノ、照れる。麻衣、うっとりと微笑む。

シヴェーノ「どうした?なんか嬉しそうだね」

麻衣「嬉しいのよ!だって君以外にもう一人、家族が増えるんですもの」

シヴェーノ「え、どういう事?」

麻衣「あと数ヵ月もすれば赤ちゃんが産まれるのよ」

シヴェーノ「赤ちゃん!?」

麻衣「えぇシヴェーノ」

   シヴェーノ、赤くなってもじもじ。

麻衣「そうなったらそうね、私の子からどんどん子孫を広げてこの地を統一し、国らしくしていくの。そのためにはシヴェーノ、これからは唯一の男性であるあなたの協力も必要になってくるわ」

シヴェーノ「待てよウラニア!私はまだ10歳で元服も前の子供だよ!いくら男と言えどまだ子供の私に一体何が出来ると言う!?」

麻衣「子供でも君は立派な男よ。現に私を支えてくれているじゃない!君がいるといなかったとじゃあ全く今がちがかったと思うし、私もひょっとして生きていかれなかったかもしれない」

   シヴェーノを支える

麻衣「だから二人で頑張ればきっとこれから良くなっていくわ。善は急げよ!二人でも少しずつ準備をしていればきっとこれから何世代か後には王国を築くことも不可能じゃない」

シヴェーノ「お…王国だって!?」

   目を丸くする

シヴェーノ「だから…一体私に何をしろと?」

麻衣「あなたには沢山して貰わなければならないことがあるわ。でも…」

   小粋

麻衣「んー…とりあえずこの話はもっと考えが纏まってからにしよう!そんな事よりも今は…」

   シヴェーノ、お腹が鳴る

シヴェーノ「ごはんだね」

麻衣「今、急いで作るわ」

シヴェーノ「私も手伝うよ」

麻衣「何が食べたい?」

シヴェーノ「何でも良いよ、ウラニアの作るものは何をとっても格別だからさ!」

麻衣「じゃあストロガノフとボルシチでも作りましょうか?」

シヴェーノ「なんだ?それは?」

麻衣「あ、この時代じゃあまだいくら君がロシア人って言っても知らないのね」


   作りながら

麻衣「おばさんの住んでいた国の料理よ。とっても美味しいんだから!」

   

   数十分後、二人で簡素な食卓を囲む。


麻衣「どう?」

シヴェーノ「とっても美味しいよ!」

   麻衣をチラチラ気にする

麻衣「ん?」

シヴェーノ「いや…何でもないよ」

麻衣M「シヴェーノはとてもよく飲んでよく食べるとっても元気な男の子…」

   シヴェーノ、沢山食べている。

麻衣M「一緒に生活していく中で思ったの…この子は本当に、私の実の息子のように愛おしいって。だからこの子をきっと立派に育てていこうって」



   数ヵ月後。洗濯物を干す麻衣。


麻衣「毎日いいお天気が続いて嬉しいわね」

   布団を干す

麻衣M「あの子ったら…こんなにお布団を汚してくれて」

   微笑む。直後、苦しみだす。


麻衣「うぅっ…」

   河辺で朦朧。

麻衣「どうしましょう…誰もいないわよね」


   シヴェーノ、数百メートル離れた自宅で薪割り。


麻衣「シヴェーノ…助けて…」

   

   反対側の岸。ジルとミンティオが歩いている。


麻衣「あぁっ…」

   倒れてもがく。二人、気がついて駆け寄る。



   シヴェーノ、風の知らせに仕事の手を止める。


ジル「まぁ!こんなところに娘さんがいるだなんて!大変だわ!ミンティオ坊っちゃん、この方を運ぶのを手伝ってくださいませ」

ミンティオ「うん!」

   
   麻衣とシヴェーノの住居。


ミンティオ「ジル、家があるよ!この住居を借りよう!ごめんください!」

シヴェーノM「ん?ウラニアの声じゃないぞ?この土地に他の住人を見た事がないが…」

   
   恐る恐る近づく


シヴェーノ「誰だ!?」

   
   三人、顔を合わせる。


シヴェーノ「ひょっとして…ジルと…ミンティオ?」

ミンティオ「そういう君は…シヴェーノ?」

ジル「シヴェーノお坊っちゃん!」

シヴェーノ「どうしてここに…」

ジル「お話は後ですわ。とにかく今は彼女を!」

シヴェーノ「ウラニア!」

ミンティオ「知り合い?」

シヴェーノ「この国で知り合って一緒に暮らし始めた母のような人だ」

   
   急いで中へ案内。


シヴェーノ「丁度にジルが見つけてくれて良かった!ジル、ウラニアを頼む!」

ジル「分かりましたわ。シヴェーノ坊っちゃん、ミンティオ坊っちゃん、あなた方は外に出ていらしてください」

   シヴェーノとミンティオ、外に出る。


   現世。所縁里と千鶴、教会墓地にいる。


所縁里「麻衣ちゃん…今日で君が死んで4ヶ月だね…今日が4回目の君の月命日なんだよ、早いよね」

千鶴「母さん…何で死んじゃったの…戻ってきてよ、また一緒に暮らそうよ」

所縁里「麻衣ちゃん…」

   悲しげに花束とピロシキの箱を置く。


所縁里「君の大好きだった花とあのピロシキを持ってきたよ…これを食べて僕らを思い出して」


   旧石器時代。数時間後、産声。


シヴェーノ「ウラニア!」

ミンティオ「生まれたのか!?」

   
   ジル、顔を出す。


ジル「お坊っちゃん方、お嬢様がお二人お生まれになられましたよ」

シヴェーノ「女の子か」

ミンティオ「お名前は?」

ジル「中にお入りになって奥様に直接お聞きになってください」


ミンティオ「シヴェーノ、まさか奥さんの子供だが…君との子ではないだろう?」

シヴェーノ「まさか!」

   
   動揺

シヴェーノ「違うと思うが…」


   住居の中。


シヴェーノ「ウラニア!」

麻衣「シヴェーノ…それに…どなた?」

ミンティオ「彼の友人のミンティオです」

麻衣「ミンティオ…それにジル、本当にどうもありがとう。見て、双子の女の子よ」

シヴェーノ「名は?」

麻衣「右の子がリシンガ、左の子がウラルジアよ」

シヴェーノ「リシンガにウラルジアか…」

ジル「きっとこのお嬢様方も奥様に似て将来美人になりますわ」

   シヴェーノ、麻衣を見て赤面。

ミンティオ「お、シヴェーノが赤くなった!さては君、奥様の事が好きなんだな!」

シヴェーノ「そんなんじゃない!」

麻衣「冗談よして。私はこの子よりも30歳近く年上なのよ。シヴェーノから見ればお母さんの様な年の差なんですもの、そんな事を言ったらシヴェーノが可哀想よ」

   テーブルに目をやる

麻衣「あら…何かしら?」

ジル「いいですわ、私が取ります」

   麻衣、ピロシキの箱と花束を手にする

麻衣「これって…」

   所縁里を思い出して涙ながらに微笑む

麻衣「所縁里君ね…」

シヴェーノ「それは一体何なのですか?」

麻衣「私のとても好きなものよ」

ミンティオ「出産祝いかな?でも誰が?いつ?」

シヴェーノ「さっきまでこんな箱はなかったのに」

麻衣「私の夫だわ、きっと」

シヴェーノ「ウラニアの!?ここに来たのか?」

麻衣「いいえ…来ていないわ」

   不思議そうに

麻衣「でも絶対そうよ…所縁里君…」



   現世。

所縁里「千鶴、帰ろうか」

千鶴「嫌だ、まだ母さんのところにいるの!」

所縁里「無茶言うなよ…ここにいたってもう母さんは帰ってこないんだよ」

千鶴「まだここにいるの!」

   子猫が二匹、墓地裏から出てくる

千鶴「あれ…」

所縁里「猫?捨て猫かな?」

千鶴「母さんだ!」

所縁里「え?」

千鶴「母さんが僕らに会いに来てくれたんだよ!だってほら見て!」

   子猫を抱く

千鶴「母さんの髪の毛の色と同じ色をしている、それに、眼鏡だってかけているんだよ」

所縁里「本当だ」

千鶴「ねぇ、母さんと一緒に帰りたいよ。僕らのお家に連れて行っていいでしょう」

所縁里「うーん、でもなぁ」

千鶴「父さんだって母さんのこと今でも好きなんでしょ!だからね、おねがい!」

   所縁里、少し考える。

所縁里「分かった、家で飼おう!」

千鶴「やったぁ!父さんありがとう!」

   千鶴、所縁里と手を繋いで帰り道を歩く。所縁里、墓地を振り返る。ピロシキの箱と花束はない。

所縁里「あれ…」

千鶴「父さん早く行こうよ!」

所縁里「う、うん…」

   所縁里、首を傾げながら歩いていく。



   旧石器時代。麻衣、ミンティオ、シヴェーノ、ジル、ピロシキを食べている。花束、石の花瓶に飾られている。



   5年後。小柄な城が出来ている。

麻衣「すごいわ!私達4人でここまで出来ちゃうだなんて!」

ジル「これも皆さんの信念の賜物ですわ」

ミンティオ「でも広い地域に城だけがポツリ、住人は私達だけ…なんだか寂しい様な…」

シヴェーノ「確かに…」
  
麻衣「いいえシヴェーノ、これからだわ」

シヴェーノ「え?」

麻衣「今はまだ寂しい国だけど、将来にはきっと大勢の人たちで繁栄する賑やかな国になっているわ。その国をシヴェーノ、これからあなたが作っていくのよ」

シヴェーノ「わ…私が?」

麻衣「そうよシヴェーノ!さぁ、城も出来上がったんだから本格的に始めるわよ!これからは君と私達の居場所はこのお城の中!ここに住みながらこれから王国をどう作っていくかを考えていきましょう!」

シヴェーノ「でもウラニア、王国と言うからには王がいなければ王国とは言えないだろう?一体誰が王だと言う?」

麻衣「さっきも言ったでしょう?シヴェーノ、君がこの国を作っていく初代王様になるのよ」

シヴェーノ「そんな!ちょっと!」

ジル「私も賛成ですわ!坊っちゃんでしたら忠実で誠なるお心のお父上・レアンゴ様のお心を受けているのですもの、きっと聖君となり、より良いお国をお作りになられますわ」

ミンティオ「そうだシヴェーノ」

麻衣「なら早速、まだ私達しかいない静かなものだけど、戴冠式を執り行いましょう!」

シヴェーノ「待てよ!私が確かに摂政の息子ではあるが王族や王子ではない!国王になる教養も知識もない!」

麻衣「その点は心配ご無用。私が君を聖君にする指導係になるわ」

シヴェーノ「お前が!?」

麻衣「そうよ。私の夫は王族で、私も王族の育ちなの。だから少しは私も王政学の知識があるわ」

ジル「ウラニア様は頼もしいですわ!では坊っちゃんをよろしくお願いします」

麻衣「任せておいて!」


   翌日。城の中、学修堂。


麻衣「見てシヴェーノ!昨日私が徹夜で仕上げた教科書よ!今日からこれをお使いなさい」

シヴェーノ「おぉ…」

   目を丸くして教科書をペラペラ

シヴェーノ「ウラニア…お前と言うやつは…」

麻衣「では王様、やりますよ!1ページ目を開いて。ではまず…“聖君とは、民の事を重んじ、民を第一に考え、民のために最善のよりよい政治を執り行う。民が安心して暮らせる、気持ち良く生活が出来る国にしていく事が出来、裕福、貧困を差別して貧困の民を傷つける事なく、どんな人々も争いを起こす事なく平和に暮らしていける国、秩序を保って過ごせる国に導くことが聖君としての第一歩である”」


   シエネオとアルシンゴ、広野を歩いている。

シエネオ「いつの間にかこんなところまで来てしまったが…一体ここは何処なんだ?」

アルシンゴ「それよりも私達の仲間はどうしちまったんだ!」

シエネオ「おい!あれ見ろよ!」

   目の前に城。

シエネオ「城があるぞ!ってことはここは王政がある王国で人が住んでるって事なのか?」

アルシンゴ「バカ言うな!これが…」

   何もない荒れ果てた地。

アルシンゴ「人が住んでいる様に見えるか?」

シエネオ「とにかく、城の近くまで行ってみよう」

   
   2人、城を目指して歩く。



   シヴェーノ、伸びをする


麻衣「お疲れ様、良く頑張りました」

シヴェーノ「ありがとう。とても良い授業だったよ!では…私は少し出てくる」

麻衣「何処へ?」

シヴェーノ「湖と山さ。今夜のごはんに困るだろ?」

   小粋に

シヴェーノ「聖君はまず美味しいごはんをいっぱい食べる事からさ!腹が減っては戦は出来ぬ…だろ」

麻衣「まぁ!」

   シヴェーノ、走っていく。麻衣、ククッと笑う。



   庭。シヴェーノ、屋内から飛び出す。そこへシエネオとアルシンゴ。


シヴェーノ「あ…」

   固まる。

シエ・アル「あ…」

シヴェーノ「シエネオ、それにアルシンゴ!」

シエネオ「シヴェーノ!一体どうしたんだ?何故こんなところにいる?」

アルシンゴ「この城には一体どなたが住んでいるのかね?」

シヴェーノ「私とジル、そしてミンティオとウラニアっていう女性さ」

   アルシンゴ、シエネオ、ちんぷんかんぷん

シヴェーノ「詳しく話せば長くなる。ほら、とりあえずは入って!中にジルとミンティオもいるよ」

   シヴェーノ、二人を中に案内。


ミンティオ「シエネオ!アルシンゴ!」

ジル「まぁ!」

麻衣「お知り合い?」

シヴェーノ「ほあ、前に話したろ?私の育て親のアルシンゴとシエネオだよ」

麻衣「まぁ!ではタルタラの?」

シエネオ「シヴェーノから、もう私達の事を聞いていたんですね。お察しの通りです。あなたは?」

麻衣「ウラニアと申します。でも私の事をお話するにはここまでの経緯を詳しく話さなくてはなりませんから長くなります。故に順に追ってゆっくり話していきますわ」


   城の中で。


麻衣「という訳なんです。それで一週間の後に戴冠式をと」

アルシンゴ「では何か?つまりこの国の城主はシヴェーノになると言う事か」

シエネオ「なるほど。ではもしそちらが構わなければ私達も共にしてよろしいかな?」

シヴェーノ「大歓迎さ!」

アルシンゴ「ありがとう。しかし父ではなく、息子が王になるとはなぁ…」

   アルシンゴ、笑う。シヴェーノも恥ずかしそうに笑う。


   一週間後。麻衣、シヴェーノをめかしこくっている。

シヴェーノ「ウラニア、そんなにまでしなくても良い!」

麻衣「そんなわけにはいかないわ。だって大切な息子の晴れ日なんですもの!」

シヴェーノ「え?」

麻衣「私にとって君は実の息子の様に愛しい…だから私、正式に君の養母になりたいと思う。君はどう?私の事…母親としてみれる?」

シヴェーノ「ウラニア…」

麻衣「何て急に言われても困っちゃうわよね…ごめん、今の話は忘れてね」

シヴェーノM「母親か…」


   全員。一生懸命準備をする。


   数キロ先。レアンゴが歩いている。遠くに城を見つけて立ち止まってまじまじ見上げる。
 

ジル「さぁ、全てが整いましたわ。ウラニア様、始めましょうか?」

麻衣「えぇそうね」



シエネオ「それではこれより、戴冠式と建国記念の儀を執り行う。シヴェーノ氏、祭壇へ」

   シヴェーノ、祭壇へ上る。

シエネオ「では始めに…」


   レアンゴ、城の下に到着。


レアンゴ「こんなところにこんな城があったとは…一体誰の城だろう?」

   
   石の階段を登って中庭の方を見る 


レアンゴM「ほぉ…どうも新王の戴冠式らしい」

   
   シヴェーノを見る


レアンゴM「っ!!」

   
   目を見開く。


レアンゴ「シヴェーノ!」

   
   シヴェーノ、ハッとする


シエネオ「王様?」

麻衣「シヴェーノ、どうしたの?」

シヴェーノ「誰かが私の名を呼んだ」

麻衣「え?」

シヴェーノ「こっちからだ!」

   
   玉座を降りて走り出す。


麻衣「シヴェーノお待ちなさい!」


   シヴェーノ、正門を抜けて立ち止まる。


シヴェーノ「あ…」

レアンゴ「お前は…まさか」

シヴェーノ「お父上…?」

   
   麻衣も追いかけてくる


麻衣「え?」

レアンゴ「そうだ、お前の父のレアンゴだ。しかし何故お前がここにいる?それにお前が新皇帝と言っていたがどう言う事だ?」

   
   麻衣、レアンゴをまじまじ。


麻衣「所縁里君!」

   
   レアンゴとシヴェーノ、驚いて麻衣を見る。


麻衣「ご…ごめんなさい。この方、シヴェーノの実のお父上なの?」

シヴェーノ「あぁ」

   
   シヴェーノ、レアンゴの胸に泣いて寄り添っている。


麻衣「あなたは…私の生き別れた夫にそっくりだわ」

レアンゴ「この方は?」

シヴェーノ「私の母親代わりになってくれている女性です。私がこの国に迷ってきた7年前から私の側にいて私を育ててくれました。彼女のお陰で私はここまでになれたのです、恐らく彼女に出会っていなかったら私は死んでいた…彼女は私の命の恩人なのです」

レアンゴ「そうだったのか」

シヴェーノ「しかし私は父上と再会した以上、このような式典は私には必要はありません。この国の皇帝になるべきは父上です!」

レアンゴ「しかし…」

麻衣「私もそれが良いと思いますわ。だってシヴェーノのお父上なんですもの」


麻衣「こうして後日、改めてレアンゴ様の戴冠式が行われたの。しかも…」

   
   麻衣とレアンゴ、祭壇に座っている。


シエネオ「それでは本日、改めて新王様の戴冠式を執り行う。国王・レアンゴ、新后妃・ウラニアは慎んで冠を受けよ」

   
   麻衣とレアンゴに戴冠する。


シエネオ「そして王子・シヴェーノも慎んで冠を受けなさい」

   
   シヴェーノ、レアンゴ、麻衣、晴々しく微笑む。


麻衣N「そして更に数年後…17歳になったシヴェーノは7歳の我が娘、リシンガを王子妃に迎え、親友のミンティオも双子のウラルジアをお嫁に迎えたの!そして私も…」

   
   麻衣とレアンゴ


麻衣N「なり行きでのスピード結婚だったけど、王様の后になってからは私の心も王様を愛するようになっていきました…だって王様はお心もお姿も最愛の夫・所縁里君にそっくりなんですもの、きっとこの方が後の所縁里君の祖先なんだわと思ったわ。


麻衣N「そして更に翌年…私のその気持ちが実り、確信に変わる様な出来事がありました」

   
   麻衣、子供を産む。


麻衣N「44歳という体で私は叉も双子の子供を生みました。今度は王子と王女。平和で穏やか、数人しかまだいない静かな国だけどとても幸せな毎日…しかしそんなささやかな幸せでさえ長くは続かなかった…」


   リヴァニオ、王国にやって来る。


麻衣N「このリヴァニオという男性の登場によって日常は大きく変わってしまったの」



シヴェーノ「ねぇ父上、戦は今、どうなっているのでしょう?」

レアンゴ「私が逃れてきた時には休戦状態に入っていた。でもいつ叉、ペキン族とジャワ族が動き出すか分からない…用心はしておけ」

麻衣「嫌だわ、怖いわね」

レアンゴ「大丈夫だよ王妃。まさか流石に奴等もここまでは攻めて来ないだろう」

シヴェーノ「もし次に戦が再会したとしたならば、今度は私も共に戦います!」

麻衣「シヴェーノ!」

レアンゴ「王子!」

シヴェーノ「私とてもう元服を過ぎた男です。戦に出ることこそ大人の男の証明ではありませぬか!」

   
   レアンゴ、少し考える。


レアンゴ「分かった」

麻衣「王様!」

レアンゴ「この国には万が一があった場合、リヴァニオがいる。故に私達二人が死んだとて国の将来は安心だ。シヴェーノ、お前も男だ。その時は私と共に来い!」

シヴェーノ「はい!」


   回想。


ジル「この分ですとしばらく大きな戦は起きぬでしょう。休戦したばかりなんですもの」

シエネオ「このまま終戦してくれりゃあありがたいんだけどね」

アルシンゴ「いい若者が何言ってるんだ!」

   
   シエネオをこずく


アルシンゴ「戦に出てこそ今の時代の男だろう!」

   
   そこにリヴァニオ


アルシンゴ「お」

リヴァニオ「アルシンゴにシエネオ、久しぶりだ」

シエネオ「リヴァニオ、何故ここが分かった!?今まで何処にいたんだ!?」

リヴァニオ「ペキン族の弾圧より逃れるために転々としていたらここにたどり着いた。二人がいるという事は、ここにはまだタルタラの仲間がいるのかい?」

シエネオ「いるも何も我がタルタラ人のレアンゴが城主の城がここにはある、つまりレアンゴ新王様の王国なんだ!」

リヴァニオ「なんだって!?」

アルシンゴ「すごいだろう!それもこれもウラニアっつーレアンゴの王妃様とシヴェーノとの出会いのお陰で私達は再会できたわけだし、こんなに国も整える事が出来たんだ」

シエネオ「せっかく再会したんだ。お前もこれからは一緒にこの国を作っていこう!お前には妻と息子もいよう、お前がいれば国作りも捗る!」

リヴァニオ「分かった。私の家族もここに連れてこよう」

アルシンゴ「しかし叉ここを出たらリヴァニオ、敵に狙われるんじゃないか?」

シエネオ「しかもリヴァニオの家族は今、シンナナにいるのだろう?アルシンゴ、そこまで叉戻らせる気か!?」

リヴァニオ「なーに、私は男で兵士でもあるから大丈夫さ。家族をつれたら叉ここに戻るさ」

   
   歩きつつ。


リヴァニオ「では私はすぐに立つが、その前に新王と王子、ウラニア様にご挨拶をしていこう」

   
   歩きながら


リヴァニオM「レアンゴよりも私の方が身分が上で順番的には私が先に王にならなくてはならぬのに…どうにかして王座を乗っとる方法はないものか?」


   王室。


リヴァニオ「レアンゴ様にシヴェーノ様」

シヴェーノ「誰だ!?」

レアンゴ「おぉ!お前は!」

リヴァニオ「リヴァニオにございます」

レアンゴ「よくぞ生きていた!だが良くここまで来る事ができたな」

リヴァニオ「敵から逃れながらさ迷い続けこの土地にたどり着きました」

レアンゴ「また会えて嬉しい」

リヴァニオ「私もです」

   
   キョロキョロ


リヴァニオ「ウラニア様は?」

レアンゴ「王女の事か?それとも私の妻か?」

リヴァニオM「ウラニア…二人いるのか?ではどっちだ?シヴェーノと知り合ったという事は王女か?でも国を作ったとなると妻の方か?」

レアンゴ「どちらを呼べば良い?」

リヴァニオ「では王女様をお願いします」


   数分後。ウラルジアとリシンガが連れて来られる。


リヴァニオM「っ…こ、子供!?」

   
   リシンガとウラルジア、深々とお辞儀。


ウラルジア「旦那様、私に何用でしょう?」

リシンガ「ウラルジアにご用なのでございましょう?」

リヴァニオ「ウラルジア?ウラニア様では…」

ウラルジア「ウラニアは私のあだ名でございます。母と同じ名になりますが、皆は私をウラニアと呼びます」

リヴァニオ「(気を取り直す)い、いや…ただ王女様方に挨拶をしたかったのです。私は王様の古い友人でリヴァニオと言います。お見知りおきを」

   
   リシンガ、ウラルジア、顔を見合わせる。


レアンゴ「では改めて紹介しよう。リシンガとウラルジアだ。リシンガはシヴェーノの妻でウラルジアはミンティオの妻なのだ。まぁ王女といっても私やシヴェーノとは全く血の繋がりもないんだけどね」

リヴァニオM「もう何でも良いわ。とりあえずこの二人は虜にでもしておこう。後で使い物になる!では息子・シヴェーノとミンティオをどうするかだ。レアンゴのやり方はもう決まっておる」

  
   ニタリ


   回想終わり。


   夜中。全員、城内で眠っている。リヴェニオ、レアンゴの寝室に忍び込む。


リヴェニオM「さてと…」

   
   短剣でレアンゴを一思にする。死んだレアンゴに短剣を持たせる。


リヴェニオM「計画は完璧だ。さて、お次は?」

 
   リシンガとウラルジアの部屋に忍び込む。リヴァニオ、二人の口を閉じて袋を被せる。


リヴァニオ「大人しくしろ!大人しくしていれば命はとらない。お前たちには捕虜になってもらうからね」

  
   リヴァニオ、二人を担いで城を出る。


   翌朝


麻衣「皆さんおはよう」


   シヴェーノ、寝室から出てくる。


シヴェーノ「おはようございます、母上」

   
   麻衣、驚いたように微笑む。


麻衣「おはようシヴェーノ、レアンゴ様から聞いたわ。リヴェニオ様って方がここに来たって言うのは本当?」

シヴェーノ「はい。でもシンナナに一度戻って妻と息子を連れて再びここに来たいとの事。その前に私達に挨拶をしたいと父上の元に顔を出しに来たのですが…母上はお会いになられてはいないのですか?」

麻衣「えぇ…それで今その方は?」

シヴェーノ「さぁ…今日はまだ姿を見かけてはいません。私も今起きたばかりなので…」

   
   そこへアルシンゴとシエネオ


シヴェーノ「アルシンゴ、シエネオ」

アルシンゴ「私達も今朝はまだ会っていない」

シエネオ「もしかしたらすぐに立つって言っていたから、もう昨日の内にシンナナに向かったんじゃないか?」

シヴェーノ「そうか。折角再会できたばかりなのに残念だ…もう少し話したかった」

   
   キョロキョロ

シヴェーノ「そういえば、父上のお姿がお見えにならないが…母上、知りませんか?」

麻衣「私も今朝はまだお会いになっていないわ。そういえばウラルジアとリシンガにもまだ会っていない」

シヴェーノ「ジル!」

ジル「わかりましたわ。私、ジルめがご様子を見に行って参ります」

   
   一礼して向かう


ジルの声「きゃあっ!」

全員「っ!?」

麻衣「何…今の?」

シヴェーノ「ジルの声だ!」

   
   シヴェーノ、麻衣、声の方に向かう。


麻衣「みんなはここにいなさい!」


   レアンゴの部屋。


麻衣「っ!??」

   
   手で口を覆って失神。ジル、体を支える。


シヴェーノ「父上!」

   
   血まみれのレアンゴ。シヴェーノ、泣きつく。


シヴェーノ「短剣だ!父上、何故この様な愚かなことを為さるのです!?お悩みがあるのでしたら何故、息子の私にお話しくださらなかったのです!?」

麻衣「シヴェーノ、心当たりは?」

シヴェーノ「いえ…全く。表では何も変わった様子はなく、昔と変わらぬご様子でした」

ジル「もしかして…刺されたのでは?」

シヴェーノ「ジル!」

ジル「こんな事は考えたくはありませんが、レアンゴ様がこんな風になってしまったのはリヴァニオ様がお戻りになられてからでございましょ?そして今、そのリヴァニオ様はいらっしゃらない…あの方はレアンゴ様よりもご身分は上でした。それに以前もシンナナの皇帝にご不満を抱き、謀反を起こしかけたことがございます」

   
   麻衣、シヴェーノ、顔を見合わせる。


シヴェーノ「そんな…まさか」

   
   シヴェーノ、へなへなと崩れ落ちる。麻衣、シヴェーノの体を支える。


麻衣「!!!」

   
   ハッとする。


麻衣「もしそうなるとリシンガとウラルジアは!?」


   リシンガとウラルジアの部屋。


麻衣「あぁ…」

シヴェーノ「リシンガ!?ウラルジア!?」

   
   悔しそう


シヴェーノ「じゃあひょっとして二人は奴に連れ去られたのか?」

麻衣「一体何処へ!?」


   全員、事情を聴く。


アルシンゴ「なんとおぞましい奴なのだ!?」

シエネオ「そんな奴にこの国を作らせるわけにはいかない!それよりものこのこと生かしておけん!」

ミンティオ「とにかく早くウラルジアとリシンガを探さなくてはならないだろ?」

ジル「しかしあの方がレアンゴ様を殺した動機って…」

シヴェーノ「決まっているよ」

   
   ショックを受ける


シヴェーノ「権力欲しさにさ…それしか考えられない」

   
   悩む。


シヴェーノ「しかし、何故無関係のリシンガとウラルジアを傷つける?奴にとって邪魔なのは次にこの私なのに…」

麻衣「えぇ…シヴェーノ」

   
   シヴェーノを抱き締める


麻衣「でもあなたには何もなくて良かったわ」

シヴェーノ「母上…」

   
   赤くなって微笑む


シヴェーノ「お止めください。みなが見ています」



   数日後。ジル、伝書鳩を受ける。
  

ジル「伝書鳩だわ、何かしら?」

   
   封を開けて青ざめる


ジル「まぁ…何て事!」


ジル「ウラニア様!シヴェーノ様!大変にございます!」

麻衣「ジル、そんなに慌ててどうしたの?」

ジル「ぺ…ペキン族より文が届けられたのです!ここに文が届けられたの言うことは!?」

シヴェーノ「つまり…この場所に私達がいる事がバレた!?」

麻衣「ジル、その文には何と?」

ジル「それが更に大変なのでございます!」

シヴェーノ「早く教えろ!」

   
   ジル、蒼白


麻衣「ジル?」

ジル「ウラルジア様とリシンガ様はペキン族の宮殿の宮に捕まっているのです」

麻衣「何ですって!?」

   
   そこへミンティオ


ミンティオ「ウラルジアが何だって!?」

シヴェーノ「ペキン族の宮殿にリシンガと共に囚われているらしい」

ミンティオ「ペキン族に!?しかし二人はずっとここにいただろう?何故…」

シヴェーノ「恐らく…我が部族の裏切り者によって敵の手に渡ってしまったんだろ」

ミンティオ「裏切り者?」

シヴェーノ「リヴァニオの仕業だろう」

ミンティオ「まさか!」

シヴェーノ「よしっ!」

   
   決意を示す。


シヴェーノ「私はその真実を必ず突き止めて、ウラルジアとリシンガを救い出す!そのために私は行きます!」

ミンティオ「行くって何処へ!?」

シヴェーノ「もちろん決まっているよ!ペキン族の宮殿さ!そして二人を助けると共にペキン族とジャワ族、そして私達タルタラの争いにも決着をつけてくる!」

麻衣「シヴェーノ、あなたまで行くなんてやめて!これ以上母を悲しませるな!」

シヴェーノ「母上、ご心配なさらず。私は二人を連れて生きて戻ります。仮に私が死んだとしてもリシンガとウラルジアだけは無事に救い出します。」

麻衣「シヴェーノ!バカ言うのはよして!」

シヴェーノ「王位の後継でしたら私がいなくても弟たちやミンティオに任せられます」

ミンティオ「だったら私もこの男と共に参ります!」

   
   シヴェーノに


ミンティオ「シヴェーノ、共に戦おう。友である君を見捨てて私だけがここでのうのうとしていることなどできぬ!そして彼女たちを救い出して4人で生きて戻ろう!もし仮に君の運命に死が待ち受けているのであれば…その時は私も共に死のう」

シヴェーノ「ミンティオ…」

麻衣「分かったわ…」

ジル「ウラニア様!」

   
   麻衣、シヴェーノとミンティオを抱き締める。


麻衣「その代わり約束してちょうだい。死ぬだなんて決して言わないで!ちゃんと生きて戻ってきてちょうだい!」


   数日後。シヴェーノとミンティオ。軍服姿で旅立つ。麻衣とジル、心配そうに見守る。後ろから軍服姿のアルシンゴとシエネオ。


シエネオ「それでは私達も」

麻衣「頼みました。呉々もお気を付けて」

アルシンゴ「ご安心ください。私達は6人全員で必ず帰省致します」



   麻衣、頭を抱えて落ち込んでいる。


ジル「ウラニア様、お気を確かに。大丈夫ですわ、皆様は必ずやここへご無事にお戻りになられます」

  
 近くにアラダートとマホメルダ


アラダート「その通りです!皆を信じて待ちましょう!」

マホメルダ「きっと大丈夫です。兄上様も…姉上様も…」

   
   麻衣、二人を抱き寄せる


麻衣「そうね…信じて待ちましょう。でも…あぁ、あなたたちの存在が知られなくて良かったわ」



   ペキン族の宮殿前。数週間後。


シヴェーノ「やっと着いた。ここが…ペキン族の宮殿か」

ミンティオ「シヴェーノ」

シヴェーノ「覚悟は出来ている。行こう…」

   
   二人、忍び込む。


   宮殿・地下路。二人、進む。


シヴェーノ「二人が閉じ込められているところは何処だ?」

ミンティオ「分からない…でも宮殿はそんなに広くないから見つかるまでにそんなにはかからないだろ。見つからぬ様に片っ端から探してみよう」

シヴェーノ「あぁ…では手分けした方が良さそうだ」

   
   二人、それぞれに別れる。


   シヴェーノ、移動を続けている。しばらく後、目の前に階段。


シヴェーノM「階段…?ヨシッ、登ってみよう」

   
   上り出す。


   頂上。小さな部屋がある。ウラルジアとリシンガ。


シヴェーノ「ハァハァ…」

   
   目を上げる


シヴェーノ「リシンガ!ウラルジア!」

リシンガ「シヴェーノ様!」

ウラルジア「何故ここがお分かりに!?」

シヴェーノ「そなたたちがここにいるという文が届いた。だからそなたたちを助け出しに来た。ほら、一緒に戻ろう!ミンティオもいる」

ウラルジア「ミンティオ様も?」

シヴェーノ「彼も無事だから安心して。さぁ、急いでここから逃げるんだ!ウラルジア!」

   
   縄を渡す。


シヴェーノ「私は外へ回って塔下に出る。二人はその縄を窓の突起に縛り付けて!」

   
   二人、言われた通りにする。


シヴェーノ「よしっ!縄が固く縛られているのを確認して!では、私は下に行く。私が合図をしたらその縄をつたって下りておいで」

   
   三人、頷き合って別れる。


   十数分後。シヴェーノとミンティオ、合流。

   塔下。二人に合図。二人、少しずつ降りる。


   地上。


シヴェーノ「よしっ!じゃあ二人はミンティオと共に逃げて!」

リシンガ「シヴェーノ様は?」

シヴェーノ「私もすぐに行く。ペキン族達が追ってこないのを確認したら…」

ウラルジア「必ずあなた様も来ますのよね?」

シヴェーノ「あぁ、勿論さ」

ミンティオ「では私達は先に行く。君も見つかる前に早く逃げてこい!」

   シヴェーノ、三人が見えなくなるのを見届けてから走り出す。

リヴァニオ「シヴェーノだ!皇帝の息子が早速殺されに来たぞ!」

シヴェーノ「くそっ、見つかったか!」

   
   シヴェーノ逃げる。兵士たち、石弓を一斉に打つ。


ミンティオ「シヴェーノ!」

   
   ミンティオ。戻ってくる。


シヴェーノ「何故戻ってくる!?君は二人と共に逃げろ!」

ミンティオ「友を見捨てて私だけ逃げられるか!」

シヴェーノ「私の事はいいから!早く君はウラルジアとリシンガを連れて城に戻れ!」

   
   そこへリシンガとウラルジア。


リシンガ「いいえ、シヴェーノ様を残して一人逃げることなどできません!」

   
   シヴェーノの手を引く。


リシンガ「早く!」

シヴェーノ「リシンガ!」

リシンガ「早くこちらに!」

シヴェーノ「あ…」

   
   背に石矢を受ける。


リシンガ「シヴェーノ様?」

   
   シヴェーノ、倒れる。


リシンガ「いやぁ!」

ミンティオ「シヴェーノ!」

   
   シヴェーノを介抱しながら


ミンティオ「こいつの事は私が何とかする。二人は早く逃げろ!少し先の森でアルシンゴとシエネオが待っている筈だ!」

リシンガ「でも…」

ミンティオ「早く!そなたらまで追っ手に合う前に逃げろ!私達は必ず後から行くから先に!」

ウラルジア「分かりましたわ!ではあなた方を信じて先に行っております。どうか必ずご無事にお戻りください」

   
   ウラルジアとリシンガ、先を急ぐ。


シヴェーノ「ミンティオ、何故一緒に行かぬ!?」

ミンティオ「言ったであろう、私は君の友だ」

シヴェーノ「私の事はいいから先に行け!」

ミンティオ「何を言う!?言ったであろう、私は必ず君を救う。もしも最悪な事になろうとも私は君を見捨てはしない。君が死ぬなら私も共に死のう」


リシンガ「もう大分歩いたわ…夜明けも何度見たかしら?シヴェーノ様とミンティオ様はご無事かしら?」

ウラルジア「絶対に大丈夫だわ。お二人を信じましょう」

リシンガ「そうね」


   森の中。アルシンゴとシエネオに合流。


ウラルジア「アルシンゴ様」

リシンガ「シエネオ様」

アルシンゴ「お二人!良かった、ご無事だったのですか!」

シエネオ「シヴェーノ様とミンティオは?」

リシンガ「それが…」


シエネオ「そうか…しかしここからはもうあの場所まではかなりある。それに戻れば今度はあなた方や私達の身も危険に晒されるでしょう」
 
アルシンゴ「ここはお二人を信じて私達は帰路を急ぎましょう!きっと城ではウラニア様たちもお心を痛めて私達の帰りをお待ちになられているでしょうから」

リシンガ「えぇ…」

   
   肩を落とす。ウラルジア、慰める。


ウラルジア「リシンガ…」

   
   4人、歩き出す。


   数週間後、帰省。


アルシンゴ「ただいま帰りました」

麻衣「おぉ、よく無事にお戻りになられました!」

アルシンゴ「お代わりはございませんか?」

麻衣「えぇ、お陰さまで」

   
   不安そうにキョロキョロ


シエネオ「ご安心下さいませ。ウラルジア様とリシンガ様はご無事です」

ウラルジア「母上様!」

リシンガ「母上様!」

麻衣「ウラルジア!リシンガ!」

   
   二人を抱き締める。


麻衣「生きて戻ってくれて本当に良かった!」

リシンガ「しかし母上様…」

   
   重く

リシンガ「シヴェーノ様が…」

麻衣「シヴェーノが?どうかしたの!?」



   シヴェーノ、ミンティオに支えられて歩いている。シヴェーノ、朦朧としてふらついている。


リシンガ「ペキン族の者に弓を射られ、その弓でお刺されに…」

ウラルジア「ミンティオ様がお側につき介抱なさっております。あれから数週間経っていますがご無事ならいいのですが…」

麻衣「何ですって!?」

ジル「ウラニア様」

   
   麻衣、蒼白。ジル、麻衣を支える。ウラルジア、リシンガは肩を落として涙を啜る。


   半年後。


ジル「あれから半年も経ちますね」

麻衣「いくらなんでももう帰ってきていい頃よ…もしかして二人に何かあったのかしら?」

   
   考えて手で口を覆う


ジル「如何なされたのですか!?」

麻衣「そういえばミンティオ…」

ミンティオ(麻衣の回想)「もし友の運命に死が待ち受けているのなら私も共に死のう」

麻衣「こう言っていたわ…と言うことは?」

   
   目眩を起こす。


ジル「ウラニア様!」

   
   麻衣を支える。


ジル「誰か!ウラニア様をお部屋にお連れして!」

   
   アルシンゴとシエネオが麻衣を運ぶ。


   寝室。麻衣、目を覚ます。


ジル「ウラニア様!」

麻衣「ここは?私…」

ジル「寝室ですわ。ウラニア様、お加減は如何でしょう?」

麻衣「あぁ…」

   
   悲しげ

麻衣「恐ろしい夢を見たのです。シヴェーノやミンティオ、愛するもの達がみんな私の前から消えて行く夢よ」

   
   手で顔を覆う


麻衣「もしもこれが正夢になるのではと思うと恐ろしくて息が詰まりそうよ!もう私、死んでしまいそうだわ!」

ジル「そんな!ウラニア様、お気を確かにお持ちください!」

   
   ミンティオとシヴェーノ。


シヴェーノ「母上!」


麻衣「ほら…こんな風にあのこの声の幻聴までが聞こえるようになってしまっているのですもの」

シヴェーノ「母上ったら!」

ジル「シヴェーノ様!」

   
   取り乱す麻衣を落ち着かせる。


ジル「ウラニア様!ウラニア様!出入り口をご覧下さいませ!」

麻衣「え?」

  
    シヴェーノを見る


麻衣「血まみれのあの子だわ…私はついに幻覚まで見るようになってしまったのね。それとも死んだあの子が私に会いに来たとでも言うの?」

   
   シヴェーノ、涙に微笑んで少しずつ近寄る


麻衣「シヴェーノ、早く母も連れていっておくれ…」

シヴェーノ「何をおっしゃいますか母上!お気を確かにお持ちください!」

   
   麻衣の手を握る。


シヴェーノ「私は死んでなどいません。今、生きてあなたの元へ帰って参りました」

麻衣「シヴェーノ?では、あなたは死んでないの?本当に生きているあなたなの?」

シヴェーノ「はい」

麻衣「あぁ…あなたが刺されたと言う知らせを聞いて、母はどれ程苦しめられた事か知れません!よく生きて帰ってくれました」

   
   シヴェーノを強く抱き締めて口付ける。


麻衣「でもどうやって…」

シヴェーノ「ミンティオの支えがあったお陰です。彼が私を見捨てる事なく、最後まで付き添っていてくれたお陰なのです。彼がいなければ私は死んでいました」

麻衣「そうなの…ミンティオ、あなたに何といってお礼を言ったらよいか…」

ミンティオ「いえ、礼には及びません。シヴェーノは私にとって無二の親友です。苦しむ友を誰が見捨てましょう?当然の事です」

シヴェーノ「母上、私は決めました。近い内に改めてリシンガとの結婚披露パーティーを致します。そして彼女を正式に妻とし、改めてこの国を私が建て直します」

ミンティオ「私からもお願いがございます。姉君のウラルジアを正式に私の妻として迎えさせてください。きっと彼女を大切に致します」

   
   出入り口にリシンガとウラルジア。頬を染めて聞いている。


麻衣「いいでしょう。あなた方でしたらきっと娘を幸せにしてくださると信じております」

   
   微笑んでリシンガとウラルジアを見る。


麻衣「リシンガもウラルジアも幸福者ね」



   数ヵ月後。


全員「リシンガ様、ウラルジア様、おめでとうございます!」

   リシンガとシヴェーノ、ウラルジアとミンティオの結婚披露パーティー。麻衣、シヴェーノに戴冠する

麻衣「シヴェーノ、今日からあなたがこの国の新しい国主です。これからは戦や争い事のない国造りをしていってください。これからは慎ましく生きなさい、リシンガの事も頼みましたよ」

シヴェーノ「はい、母上」

麻衣「そしてミンティオもウラルジアの事を頼みましたよ」

ミンティオ「お任せください」

シヴェーノ「皆のもの!今日から私は、このテュリュク族タルタラの帝国を、王国と改め、“アズノシュキン”と名付ける。これからはまだまだ人も少ないがみんなで国を一つに纏め上げて立派な国造りをしていこう!」

全員「はい、王様」

ミンティオ「では私はこの式典が終わり次第、西に立ちます。西にいって良い大工や石工を探して参りましょう」

アルシンゴ「私もこの国の存在を広めるために西に出向きます。そして力ある人材を探して連れてきましょう」

シエネオ「そういうことなら私も協力…といいたいが、そうすると元服を迎えた男は王様の周りに一人もいなくなる」

アルシンゴ「そうか。だったら私は行かぬから私の代わりにお前が西に行け。一応私は王様の育て親だ。故にここに居残る義務があるしな」

シエネオ「わかった。頼んだ」


   翌日。


麻衣「皆さん、本当に行ってしまわれるのですね」

ミンティオ「はい。しかし必ずや叉、ここに戻って参ります。その時には何倍もの人手を共に連れているでしょう」

麻衣「ミンティオはどちらへ?」

ミンティオ「私は、西にギリシアと言う国があると聞きましたのでその周辺へ行こうと思います」

シエネオ「私はエジプトと言う国があると聞いておりますのでその周辺へ行って参ります」 

麻衣「そうですか…ウラルジア、あなたもミンティオと共に行くのですね」

ウラルジア「えぇ母上様」

麻衣「体に気を付けてね。そしてどうか、私が生きている間には戻ってきてちょうだい」

ウラルジア「母上様…」

   
   麻衣とウラルジア、抱き合う。


   三人、旅立つ。


   25年後。ミンティオとウラルジアが帰国。多くの男女が一緒。麻衣とウラルジアとミンティオ、抱き合って再会を喜ぶ。


   3年後。麻衣、一羽の伝書鳩を受ける。


麻衣N「しかし、私の人生の終わりに訃報が届きました。エジプト周辺を廻っていたシエネオが重い病に倒れて、そのまま亡くなってしまったというのです。シエネオはこの国にもどってはくれませんでしたが、代わりに多くの新しい人をこの新しい国へ送ってくれたんです」

   国らしくなってかなり賑わっている。

麻衣N「彼らのお陰で国は大きな変化を見せていったわ。どんどん新しい町が出来て、国らしくなっていく…でももう私は80歳の高齢、この時代の人から見れば大長寿。だから国の完成まで見られるはずがないって分かっていたし、最期は近いとも分かっていたわ…」


   一年後。


麻衣「そしえ今日が私の、満80歳の誕生日」

   
   麻衣、新しくなった城の寝室で横たわっている。


ウラルジア「母上様!」

麻衣「早いもんだわ…月日が流れるのって。思い返せば色々あった人生だった」

リシンガ「何を言っているのです!まだまだですわ!」

麻衣「いいえ…私はもう80歳にもなった老人ですもの、もう十分。これ以上長くは生きられないわ…とてもいい人生だった」

シヴェーノ「母上!」

麻衣N「そう…私はもう、多分…これで死んで行く」

麻衣「シヴェーノ、ミンティオ、これからはあなたたちだけでこの国を纏めていくのです」

シヴェーノ「なりません!私はまだまだ未熟なのです!母上のお支えなしに…」

麻衣「何を弱気な事を言っているのです?あなたはもう立派な国王なのですよ?私なしでもあなたなら…二人とも残された娘や息子の事や孫の事を頼みました」

   
   目を閉じる


シヴェ・ウラ・リシ「母上!」

ミンティオ「ウラニア様!」


麻衣M「末期のガンによって死んだ私はこの世界に連れて来られた事によって、現世では決して体験できなかった“長生き”と“老衰”というものを体験した。そして今、一度死んだ私が旧石器の世で叉死のうとしている…あの日と同じ、プリーマヴェーラの日差しの中で。では、一体今までの私は何だったのでしょう?生きていたのか?死んでいたのか?それとも黄泉で私の魂が見ていた幻だったのか?」

    
   麻衣、光のトンネルの中で目を覚ます。


麻衣M「あの時と同じトンネルだわ…じゃあ私の魂は今、何処へ行こうって言うの?今度は何処へ連れてかれようとしているのかしら?」

   
   麻衣、トンネルの出口へと歩き出す。  



   アズノシュキン王国。人で賑わい、王国らしく栄えた国が出来上がっている。


                                        続。

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