アラセルバ王国シリーズ

Marrjskaja=Hanna

ティオフェルは橋の上

○アラセルバ王室・学修堂
   
   ティオフェル、ペドロ。ティオフェル、ノートを取りながらうとうと。

ペドロ「王様!王様!」

ティオフェル「んんっ…」

ペドロ「その様な態度ではなりませんといつもあれほど言っているではありませんか。」

ティオフェル「だって…こんな毎日毎日勉強ばかりで息が集まりそうだもん。政務、勉強、政務、勉強の繰り返しでさ、こんな面白くない単調な人生ってあるか!そりゃ誰だって頭もボーッとするよ。どうにかなりそうさ」

ペドロ「それは、王様に集中力がないからです!隣の部屋をご覧ください王様よりもまだずっと小さな王族たちとてあれほど真面目にお勉強をなさっているのです!」

ティオフェル「だから?」

ペドロ「王子様がまだお生まれになられる前のイプスハイム様のお姿を見せてあげたかった…イプスハイム様など自ら進んで…」

ティオフェル「また兄上との比較かよ…兄上は兄上、ティオフェルはティオフェルだろ!」

ペドロ「その様な事をおっしゃられ、一体これからどうなさるおつもりです!?貴方様は王様であられ一刻を担う国の父なのでございます!」

ティオフェル「その言葉も…耳に穴が開くほど聞いてるよ…」

   不貞腐れて

ティオフェル「言わせてもらうが、私はなりたくて国王になったわけじゃない!兄上さえこの城にいてくれればこの様な事にはならなかったはずだ!」

ペドロ「いい加減に過去をお恨みになられるのはおやめください!」

   ため息

ペドロ「貴方様のような王様が、国民の支持を受け、聖君と持て囃され、国が平和を保っているのが不思議でなりません…」

ティオフェル「おい、無礼ではないか?」

ペドロ「そうお思いになるのでしたら真面目な国王におなりくださいませ。王様たるもの、私生活を作ることがまず基本ですぞ」

   咳払い

ペドロ「とにかくです、王様がまだ王子様だったときは多目に見ていましたが…国王として即位してもう4年も経つのです。いくら王様と言えど、ペドロめは心を鬼にしてでも王様を叩き直しますぞ」

ティオフェル「分かったよ。ちゃんとやればいいのだろう、ちゃんとやれば」

   真面目にノートを取り出す。ペドロ、授業を続ける。


   ***

ペドロ「王様、本日の授業は終了です。よくぞお頑張りになられましたな」  

ティオフェル「そなたが強引に私を引き止めていたのだろう」

ペドロ「さて、お次は広間にて王族会議がございますのでお急ぎくださいませ」

   ティオフェル、ガクリ

ペドロ「くれぐれもお逃げになりませんように」

ティオフェル「逃げないよ!」

ペドロ「本当ですかな?ではブブをここへ呼びますゆえ、ブブと共に」

ティオフェル「待て!」

ティオフェル「私とて休息というものが必要だ。5時間もぶっ続けの授業の後で休憩なしに会議だって!?そりゃないよ!」

   もぞもぞ

ティオフェル「それに先程から用を足したい…」

ティオフェル「広間には必ず行くからブブには同行不要と伝えろ!では…」

   急いで退室

ペドロM「誠に信用してよいものか…」   



   ティオフェル、小粋に舌を出す。

ティオフェル「なんちゃってね。嘘に決まってらぁ!すぐに会議!?更に数時間!冗談じゃないよ、私の一日が台無しだ!」


○同・寝室
   
   ティオフェル、女装をする

ティオフェル「よし、これでオッケー。ではルル」

   おかめインコを檻から出す

ティオフェル「誰もいないな…よしっ!」

   慎重に退室して走っていく

   ***

   クレオ、ティオフェル。ティオフェル、走ってくる

ティオフェルM「まずい…母上だ」

クレオ「おや?」

   ティオフェル、スカーフをかぶって女中を装う

ティオフェル「(声色)クレオ様、ごきげんよう…」

クレオ「そなたは?見かけん容姿だが…何処の女中だ?」

ティオフェル「(声色)女庭師のイェヌーファと申しますの…これから上司のアレクサンドラに頼まれ、市場へ買い出しに…それでは…ご、ごきげんよう」

   走り去る

クレオ「イェヌーファ…?」


○アラセルバ市街地・市場街
   
   ティオフェル、竪琴を抱えて歩いている。複数の子供がいる

ルエデリ「あ、イェヌーファだ!」

クンドリ「本当だ、おーい!イェヌーファ!」

ティオフェル「(声色)あ!」

   微笑む

ティオフェル「ごきげんよう。」

ユリ「僕らと一緒に遊ぼうよ。」

マルコシュ「また竪琴聴かせてよ。」

ティオフェル「(声色)いいわよ、分かったわ。」

   竪琴を弾いて子供たちと共に歌って遊んでいる。


   後ろの道から、エゼルとリータが歩き売り

エゼル「シジミ屋、シジミ屋にご用はいかが!?シジミ屋のエゼルが来たよ!」

ティオフェル「(声色)ん?」

エゼル「エゼルの作ったシジミの焼きおにぎり、シジミのカレーはいかが?デザートにどんぐりパフェも美味しいよ!」

   ティオフェルたちに

エゼル「みなさんもいかがですか?」

ティオフェル「(声色)あらまぁ、なんて可愛らしい坊やだこと!何を売ってるの?」

エゼル「今言った通りさ、シジミ料理だよ。みんな僕の手作り」

ティオフェル「(声色)へぇ…ならお一つくださいな」

エゼル「何がいい?」

ティオフェル「じゃあ…カレーをちょうだい」

エゼル「毎度」

   エゼル、作る。

エゼル「君たちにも作っとくね。お代はいらんよ」

   リータ、ティオフェルをまじまじ

リータ「あんた、見かけない顔だね。何処の女だい?」

ティオフェル「イェヌーファっていうの。エギ通りに住んでいるのよ」

リータ「エギって…あの城下町のかい?通りで垢抜けてるはずだ」

ティオフェル「あなた達は?」

ルエデリ「こいつらはケト村のエゼルとリータだよ。­ケト族ジプシーで今はアラセルバに出稼ぎに来てるんだってさ」

クンドリ「しじみ汁やしじみご飯、子羊カツの串揚げとかを作ってるんだ。味はかなり美味いんだけどな」

テオドル「エゼルの料理の腕だけは認める。でも、関わり合いにはならないほうがいいぜ」

ティオフェル「何故?」

クンドリ「あんなのと友達んなったらいつ俺たちも犯罪に巻き込まれるか知らないからな」

リータ「おいっ!てめぇら黙って聞いてりゃいいたい放題いいやがって!」

   食ってかかろうとする

クンドリ「これだもん、これだからジプシーとは関わりたくないんだ…」

テオドル「そうそう、それに父親は謀反人だしな。そんな危ないやつとなんて一緒に遊びたくないよ」

テクラ「蛙の子は蛙ですものね所詮」

ティオフェル「謀反人?どういう事?」

ユリ「エゼルは元は落ちぶれた王族の子なんだ。本当はエゼルの父ちゃんが王様になるわけだったんだって。でもそれが叶わなかったからエゼルの父ちゃんは王位を奪ったティオフェル王子様を殺して王位を乗っ取ろうとしたんだ」

ティオフェル「え?」

テクラ「昔、今の王様がまだティオフェル王子さまだった頃、王子様にお仕えしていた伯爵様だったのよ。エゼルも自慢してたでしょ。ね、エゼル」

エゼル「父さんは悪くない!父さんは操られていただけなんだってば!」

リータ「そうさ。それに親父、今はもうアラセルバ宮殿に戻って働いてる。伯爵として、なんと王様のお側でお使えしているんだ!」

子供達「嘘だぁ!」

クンドリ「だって僕、重在任ブブは太宰府で処刑されたって…」

ティオフェル「エゼルのリータの言っていることは本当よ」

エゼル「え?」

リータ「あんた、信じてくれるのかい?」

ティオフェル「えぇ勿論。あなた達、ブブ様とメデア様の子なのね」

エゼル「そうだよ…で、でも何で!?僕の父さんと母さんを知っているの?」

ティオフェル「よく知っているわ、だって私の…」

   口を抑えて咳払い。

ティオフェル「とにかくエゼルもリータも折角こうしてあったんですもの、あなたもちょっと休憩して一緒に遊びましょ」

エゼル「う…うん」

ティオフェル「あなたたちも、もう過ぎた事よ。エゼル達の言う通り伯爵のブブは宮殿にお戻りになられて、王様のご側近として働いておられるわ。だからいつまでもエゼルの事を責めないの」

子供達「はーい」

ティオフェル「それでは王女になった王子のお話をしましょうか」

   物語を語り出す。

ティオフェルM「エゼルか。まさかこの様なところで側近ブブの息子に会えるだなんて。しかもこの子何処と無く」

   千里を思い出して微かに笑う。

ティオフェルM「麻衣…千里…健司」


○尖り石縄文公園・縄文の森
   
   柳平麻衣、一人。小さな橋の上で歌いながらミルテで鎹を編んでいる。

麻衣「よし、出来たかしら?」

   小さな笹舟にそれを乗せる

麻衣「素敵…」

   小川に流す


○アラセルバ王室
   
   クレオ、ペドロ

クレオ「なんだと!?王がいないと!?」

ペドロ「はい、故に王族会議も乱れており王様ご不在の件で持ちきりでして」

クレオ「そなたもそなただ!何故に王を一人にした!?あの子のやることくらい分かっておろう!」

   イェヌーファを思い出す

クレオ「まさか…」

ペドロ「クレオ様?」

クレオ「まさかティオフェルのやつ…」

   やきもき

クレオ「あぁ、こんな事でどう国の安泰を保てるか!あの子には国王としての自覚があるのだろうか!」

ペドロ「クレオ様…恐れながらそんなもの王様にないかと…」

クレオ「無礼者!黙れ!」


○アラセルバ市街地
   
   橋の上。ティオフェル、竪琴を弾いている。

ティオフェル「日がな一日のんびりと、政務から解放されたこの安らぎのひととき。あーあ、城下の民の様に暮らしたいな」

   遠くから音楽

ティオフェル「音楽だ。あぁ…今年もこの季節がやって来たんだな」

   解いた髪を編む

ティオフェルM「今年は、女中イェヌーファとして参加してみようかしら?ひょっとして以前の様に、隠された何かが分かるかもしれないわ」

   小粋

ティオフェル「この髪型も私に似合うわね」


○尖り石縄文公園・縄文の森
   
   笹舟、流れていく。麻衣、踊りながら笹舟を追いかける


○アラセルバ市街地
   
   橋の上。ティオフェル、竪琴をやめて遠くの音楽に合わせてステップを始める


   麻衣、笹舟を追いかけてやって来る。お互いに気がつかない

ティオフェル「ん?」

   笹舟を拾い上げる

ティオフェル「笹舟…に、ミルテ?」

   そこへ麻衣、ティオフェルにぶつかる

ティオフェル「わぁ!」

麻衣「きゃっ!」

   ティオフェル、足を滑らせる麻衣を助けようとして二人で川に落ちる

二人「あ!!」

   ティオフェル、麻衣を抱いて顔を出す。

ティオフェル「大丈夫?怪我はないか?」

麻衣「ちょっとあんた!何そんな所で突っ立っているのよ!危ないじゃないの、前を見なさいよね!前を!」

   ティオフェルを見る

麻衣「ちょっと聞いてんの!?」

ティオフェル「え?」

麻衣「な…何よ?」

ティオフェル「ひょっとして…麻衣?」

麻衣「そうだけど?あんた誰よ?」

ティオフェル「私の事が分からない?ひょっとして忘れた?」

   首飾りを見せる

ティオフェル「これでも?」

麻衣「何よ…」

   少し考える

麻衣「あ…」

   ティオフェル、そっと微笑む

ティオフェル「やっと気づいてくれたか。私があまりにも綺麗だから気が付かなかったでしょ?」

麻衣「え…何で?何であんたはここにいるの?だってここは?」

ティオフェル「アラセルバ王国だから」

   麻衣、キョロキョロ

ティオフェル「そなたこそ、ここへ一体どうやって来たんだ?」

   空を見る

ティオフェル「あの日と同じ様に星に乗ってきたのか?」

麻衣「いえ、ついさっきまで私、尖り石の縄文公園でせんちゃんと遊んでいたのよ」

ティオフェル「千里と?」

麻衣「そうよ。この笹舟を作って、ミルテで鎹を編んで流して遊んでいたの」

ティオフェル「では…これはそなたが作ったものだったのか」

麻衣「これもここに流れてきたのね」

麻衣「でもどうして又アラセルバ王国に来ちゃったのかは私にも分からない…だから帰り方だって分からない。だから」

ティオフェル「しばらくはこの国で世話んなるわ…だろ?」

麻衣「その通り」

ティオフェル「いいよ」

   微笑む


ティオフェル「丁度そなたの事を考えていたんだ。そしたら本当にそなたに会えた」

麻衣「じゃあ、あんたに呼ばれたってわけね」

   いたずらっぽく

麻衣「じゃあ、今でも私の事を愛してる?」

ティオフェル「え…」

   動揺

ティオフェル「な、何故にその様な事を聞く!?」

麻衣「だって私が恋しいから、私に会いたいから私の事を考えていてくれたんでしょ?そうじゃなかったら私みたいな女の事なんてとっくに忘れているはずよ」

ティオフェル「はいはい」
 
   照れながら堪忍したように

ティオフェル「今でも君を愛しています、死ぬほど恋しかった…これでいいんだろ」

麻衣「認めればよろしい」

   ティオフェルに抱きつく

麻衣「私も、大好き」

ティオフェル「やめろ、人がいるんだぞ!」

   麻衣を見る

ティオフェル「でも…あれ」

麻衣「どうしたの?」

ティオフェル「后の証の指輪は?どうした?」

麻衣「売ったわ」

ティオフェル「う…売っただって!?何処に!?」

麻衣「縄文考古博物館よ」

ティオフェル「そなた…とんでもない事をしてくれたな」

麻衣「とんでもない事?何でよ?」

ティオフェル「王の寵愛を受け、リングを受け取った王妃は死ぬまでリングを外してはならない…はずしたら最後、その王妃は一生宮殿を追放され、二度と戻ることが出来ない…或いは死ぬと昔からの言い伝えなんだ」

麻衣「なんだ…」

ティオフェル「なんだって…そなた!」

麻衣「あんた、言い伝えなんて信じてるの?だって卑弥呼の呪いはもう過ぎ去ったのでしょう?だったらこの国にはもうそんな呪いはないはずじゃないの」

ティオフェル「しかし…」

麻衣「仮にあったとしても私には関係のない事だわ」

ティオフェル「どうして?」

麻衣「だって私、ずっと長い事アラセルバ王国にはいなかったのよ。宮殿にも住んでいなかったんだから、追放も何もないんじゃないの?」

ティオフェル「言われてみれば…それもそうか」

麻衣「だから今の私は普通の柳平麻衣なの」

ティオフェル「おいおい、ちょっと待て!」

麻衣「まだ何かあるの?」

ティオフェル「だったら私との関係はどうなる!?そなたはもうこの国では母親なんだぞ!忘れたのか!?」

麻衣「そうね…じゃあとりあえず、あんたとの関係は又じっくり1からやり直しましょう」

   小粋に

麻衣「ここにいる間はあんたの恋人でいてあげるわ。勿論、王子と王女にも会いたいけど…」

   面倒臭そうに

麻衣「折角私の世界ではまだ結婚前で子供もいない青春時代を送っていたのに…まだ私も17なのよ!子育てなんて荷が重すぎるわ」

ティオフェル「そう重く考えるなよ。確かにアラダートとシルヴィレッタとリヴィエッタの母親はそなただけどさ…王室の子として育てられている以上乳母という者がいる。だからその辺は心配するな、3人とも元気に育ってるしね」

麻衣「乳母?」

ティオフェル「会ってみればそなたも知っている女性さ。信頼の置けるものだから安心して任せられる」

    言いにくそう

ティオフェル「ところで…そなたを王室に招く前に…そなたに来て欲しいところがあるんだ…いいかい?」

麻衣「え?」

ティオフェル「逢わせたいものがいるんだ」

麻衣「誰?」

○尖りの森

麻衣「ここって…」

ティオフェル「尖りの森だろ」

麻衣「こんなところに?」

ティオフェル「ここを頂上まで登ると、アズノシュキン離宮ってところがあるんだ。王国最古の建築物でね、15000年以上も前の創始の王国・アズノシュキンの初代女王ウラルジアが建てたと言われている。そこが今は代々後宮女性達の別荘となっているんだ」

麻衣「そんなところに誰がいるっていうの?」

ティオフェル「まぁ着いて来いって」


○アズノシュキン離宮

   とある一部屋。アナスターシャ一人、裁縫をしている。ティオフェル、呼び鈴を鳴らす。

アナスターシャ「誰だ?」

ティオフェル「アラセルバのティオフェルです。お目通りを」

アナスターシャ「入りなさい」

ティオフェル「アナスターシャ、ご無沙汰です」

アナスターシャ「そなたは王だ、敬語はよせ」

   微笑む

アナスターシャ「しかし、遠き所をよくここまで来てくれました」

   麻衣を見る

アナスターシャ「彼女はもしや…」

ティオフェル「はい、まさにその彼女です」

アナスターシャ「おぉ!」

   近寄って麻衣を抱きしめる

アナスターシャ「そなたは無事だったのだな、生きていたのだな。良かった…」

麻衣「あ、あの…誰?」

ティオフェル「覚えていないのか!?」

アナスターシャ「覚えていなくても無理もない…」

ティオフェル「元私のインコのピペだったアルプラート女王の!」

麻衣「アナスターシャさん!?」

   混乱

麻衣「え、え、何で?だってあの時に確か…」

アナスターシャ「確かに…」

   静かに

アナスターシャ「わたくしはあの後、戦が終わってから黄泉に旅立ちました…人間に戻ってしまった今、私はもうこの世で生きているべき人間ではないからです…しかし何故か」

ティオフェル「あれは麻衣が国に帰って間もない頃だった…」


○回想・アラセルバ宮殿

   3年前。ティオフェル、歯を磨きながらあくびをしている。

ティオフェル「はぁ…今日も疲れたな…」

   満月。

ティオフェル「麻衣と別れた夜も確かこんな夜だった…今どうしているかな、彼女…」

   ドスン。

ティオフェル「え、何?」

アナスターシャの声「キャアーっ!」

ティオフェル「うおっ!何!?」

   キョロキョロ

ティオフェル「中庭の方だ!」

   走る。


○同・中庭

   エリカの花壇。アナスターシャが倒れている。

ティオフェル「っ!誰かいる!」

   駆け寄る

ティオフェル「おいっ!大丈夫か!?」

   顔を見る

ティオフェル「って…まさか…」


○戻って・アズノシュキン離宮

アナスターシャ「分からぬままに、わたくしは人間の姿でこの世に引き戻されてしまったのだ」

麻衣「そうだったの…では女王様は3年間ずっとここで暮らしているの?」

アナスターシャ「そう…しかし一つだけ分かっている事がある」

ティオフェル「なんですか?」

   アナスターシャを見る

ティオフェル「いや…なんだ?」

アナスターシャ「わたくしは黄泉の国で、わたくしの従兄であったニルセン大公に会った。しかしニルセンの妻でありわたくしの侍女であったエレン・リュセットがいないと彼は嘆いていた…エレンは恐らくまだこの世の何処かにいるのだ!だからわたくしは彼女を探しださねばなるまい」

ティオフェル「この世にいるって…」

アナスターシャ「以前わたくしがセキセイインコとして死ぬことすら出来ずに5000年間この世を彷徨ったように、恐らくエレンも」

   頭を抱える

アナスターシャ「わたくしはエレンと約束をしたのだ。あの恐ろしき大戦争が起こる前、わたくしたちは死ぬときでさえも一緒だと契を交わした…それが最後に交わした言葉だ。それ以来エレンとは一度も会えぬまま、わたしたちは戦に巻き込まれてしまった…」

麻衣「でも何故ここに?宮殿でお暮らしになればいいのに…」

アナスターシャ「それは出来ない…」

麻衣「何故」

アナスターシャ「わたくしが生きてここにいる存在を知るのはティオフェル国王のみなのです…故、他の方にわたくしの存在が知れ、またもアラセルバに混乱を招きたくはない。封印されたとは言えども、わたくしに対する卑弥呼の怒りは鎮まった訳ではない…」

   外を見る

アナスターシャ「さぁ、みなももう宮殿に帰ったほうが良いだろう。外も間もなく暗くなる」

   ティオフェルに

アナスターシャ「彼女の事が好きなのだろう…幸せにあげなさい」

   ティオフェル、真っ赤になる。麻衣、クスクス。

麻衣「では、女王様…ごきげんよう。又来ます」


○アラセルバ王室
   
   麻衣とティオフェル。

麻衣「私まで来ちゃったわ…3年も経っているとやはり入るにくいわ…当時はやっぱり若気の至りってやつよね」

ティオフェル「何を申す、そなたらしくない」

   入城

ティオフェル「そなたが無礼でないと私も調子狂うわ」

麻衣「まぁ失礼ね」

   二人、門を通る


○同・寝室
   
   エステリアとメデア。寝具を整えている。ティオフェル、麻衣をつれて入室

エステリア「王様!」

   大声で

エステリア「メデア、王様がお帰りになられました」

メデア「王様!」

   駆け寄る

メデア「心配なさったんですよ、どちらにお出掛けになられていたのですか!?クレオ様も大層ご立腹になられていますわ」

ティオフェル「母上が!?そりゃ困ったなぁ…」

エステリア「王様、クレオ様に叉お叱りをお受けですよ」

   ティオフェル、複雑そうにそわそわ。エステリア、麻衣を見る

エステリア「あ!」

麻衣「エステリア!」

エステリア「麻衣様!」

   微笑む

エステリア「まさかこうして叉お会いになれるだなんて、エステリアは嬉しゅうございます」

麻衣「私もよエステリア。それと麻衣様はやめて、私はそんな高貴な身分じゃないし気持ち悪いわ」

ティオフェル「エステリア…」

エステリア「王様のおっしゃりたいことは分かっておりますわ。以前からの王様がお望みだった事ですものね」

ティオフェル「え?」

エステリア「今度麻衣様がお戻りになられたら、正式に麻衣様との婚姻発表をなさりたいと」

麻衣「えぇっ!?」

ティオフェル「エステリア!」

   真っ赤になりながらあたふた。エステリア、クスクス。

エステリア「王様は一日たりとも麻衣様をお忘れになられた日はございません。お側におられなくとも、誰にも心移さず、一途に麻衣様だけを愛しておられました」

麻衣「まぁ…」

ティオフェル「(真っ赤になりながら)ところでメデア」

   改めて

ティオフェル「そなたの家にエゼルとリータと言う者がいるだろう?」

メデア「え、え…エゼルは私どもの息子でリータは娘でございますが…何故にそれを?」

ティオフェル「やはりそうであったか。今日たまたま城下で会って話を聞いたもんでね」

   微笑む

ティオフェル「そのエゼルとリータを一度私の元へ呼んで欲しいのだが…」


メデア「こ、こちらへですか!?うちの子供達が何かご無礼でも!?」

ティオフェル「いや、そうではない…私的に話したいことがあるのだ」

メデア「か、かしこまりました」   

ティオフェル「しかしくれぐれも私が街で話をしたことは二人に話さないでくれ。ただ、アラセルバ国王が呼んでいるとだけ伝えて欲しい」

   メデア、退室


   十時間後。

メデアの声「王様、乳母のメデアにございます」

ティオフェル「何の用だ?入れ」

メデア「息子と娘を連れてまいりました」

ティオフェル「こんなに早くに連れてきてくれたのか!しかもこんな夜中に!通せ!」


   エゼルとリータ、緊張して入室。

ティオフェル「又会えて嬉しいよ、エゼル、リータ」

   二人、ティオフェルを見て目を丸くする

ティオフェル「何故その様な顔をする?」

エゼル「お、お、お、王様…あなた様はまさか」

ティオフェル「そう。私はアラセルバの国王ティオフェル、またの名をイェヌーファというの」

   エゼルとリータ、ひれ伏す

エゼル「ぼ、ぼぼぼ、僕達に一体何のご用でしょう?先程の件で僕らをお罰しとおっしゃるのでしたらどうか命だけはお助けくださいませ」

リータ「私達は王様とは知らずに大変なご無礼を働いてしまいました」

   ティオフェル、笑う

ティオフェル「私がそなたたちを罰す?命をとる?何故その様な事をする必要があるのだ?」

エゼル・リター「え?」

ティオフェル「安心しな、罰しもしなければ殺しもしないから」

ティオフェル「ただ、二人に頼み事があって呼び出したのだ。聞いてくれるか?」

エゼル「はい…」

リータ「私達に出来る事でしたら何でも…」

ティオフェル「本日よりエゼルは私の小姓に、リータは小間使いになって欲しいのだ。どうだい?やってくれる?」

ブブ「王様!?」

   そこへツェルナとスー

ツェルナ「お待ちください王様!」

スー「では、僕らはどうなるのです!?」

ティオフェル「ツェルナとスーは本日よりこの…」

   麻衣を指す

ティオフェル「マリッツァの小間使いと小姓になって貰う」

スー「マリッツァ様…ですか?」

ツェルナ「このお方は一体…」

ティオフェル「私がこの世で一番愛するおなごだ、近い将来正式に私の后となるもの…」

メデア「王様はマリッツァ様を忘れることもなく一途に愛しておられましたからね…」

   微笑む

メデア「マリッツァ様がお戻りになられ、王子様と王女様も大層お喜びになられるでしょう…」

ブブ「ちょっと待て!王子様と王女様のお母君ですと!?つまり…あの、アラダート様とシルヴィレッタ様という事か?」

ティオフェル「他に誰がいるという…それしかいないだろう…」

ブブ「そ、そんな話ブブめは初耳にございます!王様、恐ろしきジョークで王室をおからかいになられるのはおやめください!現に、王室で王女様と王子様のお母上を巡る論争が起こっているではないですか!」

ティオフェル「ブブは覚えていないのか!?メデアやエステリアはきちんと覚えているのに…あの満月の夜、マリッツァがこの宮殿で双子の王子と王女を生んだこと、そして2年後の満月の日にも王女を生んだこと…」

ブブ「しかしそれならクレオ様とメディオス様とてご存知のはずだろう!そのお二人ですらお子のお母上をご存知ないのだ!」

メデア「あなた!」

   麻衣を見る

メデア「マリッツァ様も何かお言いくださいませ!」

麻衣「ティオフェルの言うとおりね…」

メデア「え?」

麻衣「指輪のせいだわ…私が指輪を売ったがためにアラセルバ王国ではこんな事が起こってしまっているのね…」

   きっぱり

麻衣「そうよ、そうですわ。王子と王女の母親はこの私です!」

ブブ「怪しきおなご、王子様と王女様のお母上を名乗るとはなんと無礼な!」

麻衣「みなさんにすぐに信用してくれとはいいません、時間がかかっても信用して、思い出していただけるまで私は待ちます」

ティオフェル「麻衣!」

麻衣「だから私、図々しくもお城に身を置かせてほしいなんて言わないわ。みなさんが私を迎えてくれるまで、子供達に会わせてくれるまで、私は城下にてひっそりと暮らします」

ティオフェル「そんな事言うな!そなたの部屋はもうちゃんと用意してあるのだ!何のためにそなたをここに連れてきたか、そなたを正式に私の王妃として迎えるため、王子と王女の母親としてあの子らの側にいられるようにするためであろう!?」

ブブ「王様、絶対になりませぬ。この者の言葉をお信じになられるのですか!?」

ティオフェル「ブブ、本当にそなたは何も覚えていないのか?5年前、私はこの者と公の場で即位の儀を挙げたではないか!指輪と宝石の授与もしたではないか!口づけだって交わしたし、初夜も交わした。全てブブ、そなたが仲介に立ち会ってくれたであろう!?なのになにゆえ…」

エステリア「ブブ!」

ブブ「では、その指輪と宝石を見せてはくれぬかね?」

麻衣「え…」

ブブ「見せられませぬか?」

   笑う。

ブブ「では…言って事の次第をクレオ様とメディオス様にも話してこよう」
   
   クレオとメディオスがやってくる。

クレオ「一体何事だ!」

ティオフェル「母上…」

クレオ「ブブから話は聞いた。そなたは一体何を考えているのだ!いきなり城下より連れてきたおなごを王子と王女の母親にするだと!?そしてそなた自身の后に娶る!?そなたはそれでも一刻の王か!!そんな単純な考えで城の論争を収めようとしているのか!?」

   鼻を鳴らす

クレオ「聞いて呆れるわ。そんなもの、猿でも出来るわい」

ティオフェル「母上、母上まで覚えていらっしゃらないのですか!?婚姻当時、あれほど褒めて祝福下さったではないですか!酷すぎる…」

   クレオ、強く咳払い

クレオ「とにかくティオフェル、そなたももう大人なのじゃ!王子と王女のためにも一刻も早く正式な后を娶らねばならぬ」

ティオフェル「故に!」

クレオ「この際、血の繋がりは関係ない!狂ってしまった王のため、王族の娘でかつデリヴォルと繋がりのある者と婚姻式をあげるのだ!」

ティオフェル「母上!」

クレオ「ティオフェル、まだ口答えするか!」

ティオフェル「えぇ、母上のお許しあるまでいくらだってします」

クレオ「頑固な王だ、誰かおるか!?ひつこい王を黙らせろ!寝所にお連れするのだ!」

ティオフェル「お待ちください母上、私の話もお聞きください!母上!」

   アミンタ、メルセイヤ、ブブ、ティオフェルを担いで連れて行く

ティオフェル「待て、無礼者!私を降ろせ、私は国王だぞ!無礼者!」

   麻衣、静かに出口に向かう。 

ティオフェル「麻衣!麻衣!待って、待ってくれ!」

 
○ティオフェルの寝所

エゼル「王様…」

ティオフェル「エゼル…スーとツェルナは?」

エゼル「お二人ならお部屋の外におられます…」

   そこへスーとツェルナ

ツェルナ「王様、お声が聞こえましたので…」

スー「僕らをお呼びでしょうか」

ティオフェル「スー、ツェルナ、そなたらはアズノシュキン離宮においでのアナスターシャ妃を知っておろう」

スー・ツェルナ「はい…」

ティオフェル「今から私の言う通り、アナスターシャに文を送ってくれ。そしたらそなたらは麻衣を追って、麻衣を見つけたら彼女と共に離宮に向かって女王を訪ねてくれ」

スー「分かりました」


   数分後。オカメインコのルルが手紙を結わえて飛んでいく

ティオフェル「あいつが伝書インコで助かるよ」


○城下町

   麻衣、一人で歩いている。

スー「麻衣様!」

ツェルナ「お待ちくださいませ」

麻衣「?」

   振り返る

麻衣「あなたたちは…さっきの」

スー「申し遅れました」

   深々

スー「僕は王様にお仕えしていました小姓のスーです」

ツェルナ「私は同じく、王様にお仕えしていました小間使いのツェルナと申します」

麻衣「スーにツェルナね、私に何か用?」

スー「王様からのご命令です」

麻衣「えぇ?」

ツェルナ「さぁ参りましょう」

麻衣「参りましょうって…何処へ?」

スー「女王様の離宮にございます。王様は麻衣様をお連れしてアズノシュキン離宮へお行きになれと」

ツェルナ「女王様には先程伝書を飛ばしましたゆえ、そろそろお読みになられる頃でしょう」

麻衣「何のために!?」

スー「とにかく、まずは行きましょう!この様な暗い夜道を一晩中さまようおつもりですか?」

ツェルナ「今頼れるのは、女王様しかいないのです。さぁ早く!」


○同・寝室
   
   ティオフェル、一人。ぼんわり心ここに在らず

ティオフェル「はぁ…」

   そこへエステリア

エステリア「王様」

ティオフェル「エステリア、どうした?」

エステリア「王様こそ、お顔の色が優れませんわ」

エステリア「麻衣様の事をお想いになられていたのですね」

ティオフェル「あぁ…なぁ、何故にエステリアやメデアは麻衣をはっきりと覚えているのに、ブブや母上は枚を覚えていないのだ?」

エステリア「王様…」

   思い出したように

エステリア「ところで王様、先ほど麻衣様がおっしゃっていた指輪と宝石の事とは?」

ティオフェル「あぁ…麻衣のやつ、国に戻った後で婚約の宝石と指輪を手放して売っちまったんだとさ。もう私には会うことがないと思ったらしい…」

エステリア「え?」

ティオフェル「麻衣はそれが原因じゃないかと言っていたがまさか…」

エステリア「いえ、それだと私も思いますわ」

ティオフェル「エステリア?」

エステリア「麻衣様を責めるわけではありませんが、それの他原因はないと思います」

ティオフェル「で、では…その場合、その呪いを取り消すには…」

エステリア「売った宝石を再び取り戻す…」

ティオフェル「いや、それは無理な話だ…この時代に麻衣の売った店が存在するわけないし、同じ宝石など手に入るわけもない。あれは一組につき一つとして同じものがない不思議なリングなんだ」

エステリア「そうですか…」

   悩む

エステリア「分かりましたわ!エステリアめも王様のためでしたらこの身削ってでもお力になりましょう!ご協力いたしますわ。エステリアめは麻衣様と王様にお幸せになっていただきたいのです」

リータ「なら私だって!」

エゼル「僕も!だって僕、王様の小姓ですもの。早速お役に立てるだなんて…」

ティオフェル「エステリア、エゼルにリータ…ありがとう」

エステリア「王様と麻衣様が幸せになれます様、心より応援致しますわ。他、私達に出来ることあらば何でもお申し付けくださいませ」

ティオフェル「ありがとう」

   涙を隠すように金星を見つめる

ティオフェル「今夜も星が綺麗だね」
 
   涙を流す。

ティオフェル「目にゴミが入ったようだ…涙が出る」

エステリア「王様…」


   ***

   アナスターシャ、手紙を読む。

アナスターシャ「承知した…」

   庭に出る

アナスターシャ「そろそろだろう…」

   そこへ麻衣、ツェルナ、スー

ツェルナ「女王様!」

スー「何故に」

アナスターシャ「文は受け取ったいたのだ」

麻衣「そんな女王様、お寒いのに」

アナスターシャ「(笑う)何、構わぬ。はよ上がれ」


○離宮

   アナスターシャ、お茶を入れてミートローフとヨークシャープディングを出す。

アナスターシャ「食べるが良い、夕食はまだなのだろう」

麻衣「じょ、女王様…その様な事までしていただくても」

アナスターシャ「なに、構わぬ。わたくしもまだなのだ、共に食べよう。ほらスーにチェルナーも」

スー「い、いえ!」

ツェルナ「わたくしたちは…」

   お腹がなる

アナスターシャ「遠慮するでない。さぁ、はよ」


   食卓。

麻衣「わぁ、美味しいわ。これをみんな女王様がお一人で?」

アナスターシャ「勿論だ。王族とて女の仕事は一通り出来る」

   食べながら

アナスターシャ「ティオフェルの手紙より状況は分かった。そなた、城下には住む場所がなかろう。しばらくはわたくしのところに見を置けば良い」

麻衣「そ、そんな女王様恐れ多い!」

アナスターシャ「謙遜するでない」

   笑う

アナスターシャ「わたくしも全く知らぬものばかりのこの国で、いつも一人ここに住まっていることは退屈で寂しいと思っていたのだ。しかしそなたなら信頼が置ける…わたくしの友として、ここにいてくれぬか?これはわたくしの望みでもある」

麻衣「は…はい」


○王室・ティオフェルの寝室

   翌朝。ティオフェル、ブブ

ブブ「王様なりません!」

ティオフェル「放せ放せ!!」

ブブ「王子様!」

   ティオフェル、寝巻きを脱いで女物のドレスを着る

ブブ「叉もその様な格好をなされ、何処へ行かれるというのです?」

   振り子時計を見る。5時。

ブブ「まだこの様な時間ですぞ」

メデア「メデアめがクレオ様に怒られてしまうのですよ!」

   そこへエステリア

エステリア「何事か?」

メデア「エステリア様、どうかあなた様からも言ってあげてくださいな」

ブブ「本日、6時よりこれからの方針についての講義と、9時からは弓術のお稽古があると言うのに、王様はお食事もなさらずにこれから城下に行くと聞かないので」

エステリア「王様を生かせてお上げなさい」

ブブ・メデア「エステリア様!」

エステリア「王様にも何かお考えがあるのです。ですてこの国を担うは王様ではございませぬか!何故に家臣のそなたらが王様の行動に口を出すという!?」

メデア「エステリア様!」

エステリア「クレオ様と王宮の者達には私が上手く話しておきます」

ティオフェル「エステリア、ありがとう」

   化粧をしている

ティオフェル「よし出来た、これで完璧ね」

エステリア「お髪は私が…」

   ティオフェルの髪を結ってリボンで留める

エスエリア「出来ましたわ」

ティオフェル「ん!」

   ポーズをとる

ティオフェル「どう?私って美しいかしら?」

エステリア「えぇ王様。誰が見たってお美しいお嬢様そのものですわ」

ティオフェル「そう?ありがとう。では行ってくるわ、ブーチュ!」

   窓から飛び降りる。エステリア、メデアは目を覆う

   ティオフェル、辺りを警戒しながら走っていく


○アラセルバ市街地
   ティオフェル、竪琴を抱えてスキップ。おかめインコのルルが一緒に翔んでいる

ティオフェル「♪町を抜け、山を抜け、王宮抜け出しアラセルバ!」

   前方にイプスハイム

ティオフェル「ん?」

   立ち止まってキョロキョロ

ティオフェル「何か匂うわね?」

イプスハイム「お嬢さん、お嬢さん」

ティオフェル「私?」

イプスハイム「可愛いお嬢さん、こんなに朝早く何処に行くんだい?」

ティオフェル「旦那様こそ」

イプスハイム「私は邪馬台国から出てきて今、この町についたばかりなんだ」

ティオフェル「まぁ邪馬台国から?」

イプスハイム「あぁ、この国の王室に用事があって馬を飛ばしてきた」

ティオフェルM「王室に?何奴?」

イプスハイム「とにかく私は急いでいるんでね、もう行く」

ティオフェル「王室の場所は分かるの?」

イプスハイム「あぁ大丈夫だ、それでは」

ティオフェルM「ますます怪しいやつ…一体何者なんだ?」

ティオフェルM「よしっと面白い、こいつの事を調べてみる価値はありそうだ」

   ティオフェル、時計を見る

ティオフェル「ふむ…離宮に着けば丁度7時だな…よっしゃあ!」    


○アズノシュキン離宮
   
   7時。街の鐘がなる。

チェルナ「7時だわ…ねぇスー、王様に麻衣様がここにお住まいになることはもうご報告した?」

スー「昨日の夜、鳩を飛ばしたよ…そしたら早速お返事があった」

チェルナ「内容は?」

スー「今日の朝早くお見えになるってさ」

  麻衣、赤くなって吹き出す。

麻衣「本当に!?バカな人…」

   そこにティオフェル

ティオフェル「麻衣っ!」

麻衣「ティオフェル!あんた本当に来たの?午前中お仕事はないの?」

ティオフェル「あるよ」

麻衣「だったらお戻りなさい!」

ティオフェル「嫌だ」

   不貞腐れる

ティオフェル「どうせつまらないペドロの方針講義だし、その後は私が大嫌いな弓術の稽古…」

   鼻を鳴らす

ティオフェル「特に講義の方なんか私が出たって出なくたって関係ないし…」

   手でプディングを食べる。

ティオフェル「それよりもここでそなたと一緒にいたほうがずっといいよ」

麻衣「まぁ!」

   ティオフェルをこずく

麻衣「でもあんた、今日は何用でここに来て?私か女王様に、或いはスーとツェルナに用事がおありなんでしょう?」

ティオフェル「ただそなたに会いに来ただけだよ」

   わざと不機嫌そうに

ティオフェル「それではいけないか?」

麻衣「バカな人…もうどうなったって私は知らないわよ」


○アラセルバ市街地・橋の上
   
   ティオフェル一人、竪琴を弾いている。同日午後。

ティオフェルM「今は麻衣がいる…私がおなごに対してこんな気持ちになったのは初めての事だ」 


○アラセルバ王室
   
   エステリア、窓辺に一人

エステリアM「王様のお気持ちは存じておりますわ」

   そこへエゼル、リータ

エゼル「エステリア様!」

リータ「ちょっとこちらに来てください、大変にございます!」

エステリア「何事だ!?」

   ***

   別室。メデア、ブブもいる

エステリア「メデアにブブ、どうなされたのですか?」

メデア「エステリア様、王様はまだお戻りではないのですか?」

エステリア「えぇ…」

ブブ「全く、この様な大変な時に」

エステリア「一体どうなされたか?」

ブブ「イプスハイム様がお見えになられているのです」

エスエリア「えぇ!?」


○アラセルバ市街地
 
ティオフェル「ん、さてと。そろそろ王宮に帰ろうか?」

   歩き出す

ティオフェルM「あーあ、叉もし母上に私がいないことがバレていたらお説教喰わされるんだろうなぁ…」


○アラセルバ宮殿・正門
   
   城中が大騒ぎ


○同・王室
   
   メデア、ブブ、クレオ、エステリア、エゼル、リータ

ティオフェル「ただいま、みんなしてどうした?」

   クレオを見る

ティオフェル「母上!?」

クレオ「王よ!メデアとブブから聞いた。一体どちらにおいでだったか!?」

ティオフェル「そ、それは…」

クレオ「もしや叉、あの卑しき者のところではあるまい?」

ティオフェル「卑しき者とは…麻衣…いや、マリッツァの事ですか?」

クレオ「この間ここに来たおなごだ」

ティオフェル「彼女は卑しきものではございません!列記とした王子と王女の母親です!」

クレオ「では、その者の元へ行っていたと言うのだな」

ティオフェル「…」

クレオ「この様な時に一体王は何をやっているのだ!?いま王室がどれだけ大変な騒ぎになっているか、王はご存じないでしょう」

ティオフェル「大変な騒ぎ?」

   メデアとブブを見る

メデア「王様」

ブブ「イプスハイム様がお見えになられたのです」

ティオフェル「イプスハイム?」

ブブ「お忘れですか!?あの王様の兄上様であられるイプスハイム様です」

ティオフェル「兄上が?かて、兄上は確か邪馬台国に…」

   事を思い出す

ティオフェル「あ…」

エステリア「王様、どうなされましたか?」

ティオフェル「私…会ったかも」

エステリア「え?」

ティオフェル「兄上に会った」

メデア・ブブ「え!?」

ティオフェル「そう、宮殿を出てエギ通りをハーロム街へ向けて歩いている時に声をかけられたんだ…お嬢さんって…」

クレオ「ティオフェル!!」

   ティオフェル、クレオを遮る

ティオフェル「何か匂って怪しかったから、そいつを調べてみようと思ってた。だってそいつはこれから王宮に向かうと言っていたからね、誰だって怪しいと思うだろう」

ティオフェル「では、あの者が私の兄上だったということか!?」


○アラセルバ王室・ティオフェルの寝室
   
   ティオフェル、あとからエゼルとリータ

ティオフェル「はぁ…」

エゼル「王様?いかがなされましたか?」

リータ「叉も麻衣様の事をお考えになっていたのでしょう?」

ティオフェル「…」

リータ「やっぱり。では何故に王様がお心病まれるほどにお慕いしていらっしゃる方ですのに、何故この宮殿にお呼びになられないのですか?」

ティオフェル「呼ぶ事が出来るのなら、側で暮らせるのなら、私とてとっくに呼んで麻衣を私の后に迎えているさ。しかしそれが出来ぬからこうして患っているのだろう!」

   そこにエステリア

エステリア「しかし恐れながら王様、王様は昔からいつでもクレオ様にはご容赦なしに立ち向かい、意を貫いてきたお方ではありませぬか?何故この肝心な時には弱気になられるのです?」

ティオフェル「私に一体どうしたらいいと言う?何か母上やブブに信用してもらういい案でもあるか?」

   寂しそう

ティオフェル「何故に…何故にこの様な事になってしまう…あの子達の実の母は麻衣なのに、誰も覚えていないなんて…こんなのってあんまりだろう、酷すぎるだろう!母親なのに一目も我が子を見て抱けぬだなんて…」

エゼル「それでしたら…」

   悪戯っぽい

エゼル「いっそのこと、王女様と王子様をお連れして王宮以外のところで麻衣様と密会させるのは如何でしょうか?」

ティオフェル「王女と王子を?宮殿の外に連れ出す…でもどうやって」

エゼル「視察を装うのです」

ティオフェル「え?」

エゼル「王様の視察に王女様と王子様もお連れするという事にして、麻衣様とお会いするのです」

ティオフェル「まさか…アナスターシャの離宮にか?」

エゼル「いえ、そこではあまりにも危険すぎるでしょう…なのでナグカプ村のケト族ジプシー邸などはいかがかと」

ティオフェル「ケト族ジプシー邸?」

エゼル「えぇ、僕の故郷のケト村にはハマロ山脈と言う8つに割れた山があるんです。その山を横断して渡っていくと、一番北のニョーウィツ山という山にぶつかります。その頂上にあるのがナグカプという無人の村で、そこにケト族のジプシー邸があるんです。そこで数日お過ごしになってはいかがでしょう?」

ティオフェル「ジプシーの館か、危険ではないか?」

エゼル「えぇ。勿論?」

   小粋

エゼル「現に僕だってジプシーの子です。ナグカプ村ニョーウィツ山は、今言ったとおりに無人の村です。時々、僕らのようなケト族ジプシーが訪れることがありますが、それ以外はほとんど誰もいません。勿論、そのジプシー邸もただの空き家です…アズノシュキン時代、タルタラのジプシーが住んでいたといわれる建物なのですが、冬場だけは僕らの学校として使われているんです。でもこの時期は毎年空き家になっていて誰もいない…だからいつもはその時を狙ってケト族の子供たちが秘密基地や遊び場にしている所なんですよ。」

リータ「私もそれはいい考えだと思います。古いけれど立派な建物ですし、とても広いので王様にも心地よくお住まい戴ける事と思いますし…」

ティオフェル「しかしそんな事、母上に知れたらどうする?ブブやメデアとて反対するに決まっているであろう?」

リータ「王様も男らしくないなぁ…そんなのこっそり抜け出すに決まってんだろ」

エステリア「お任せください、私とリータとで上手くやっておきますから」

エゼル「僕はケト族にその事を伝えておきます」

ティオフェル「分かった、みんなありがとう。しかしエゼル、間違っても王が泊まるとは言うんじゃないぞ」

エゼル「分かっています。では、麻衣様にもすぐに書状をお出し致しますね」

ティオフェル「頼む」


○アズノシュキン離宮
   
麻衣「え、王様から?」

スー「はい、この書状にはそう書いてありますが…」

麻衣「バカな人…また無理なこと計画しちゃって。どうなったって知らないんだから」

ツェルナ「王様はきっと麻衣様にお会いになりたいだけじゃなくて、お慶びになる顔が見たいんでしょう。私には王様がどれだけ純粋に麻衣様を愛しておられるか見てとれますわ」

スー「麻衣様とて、まことは王様にも王女様にも王子様にもお会いになりたいのでございましょ?」

麻衣「まぁ…それはそうだけど…」

ツェルナ「それから…」

   手紙を渡す

ツェルナ「麻衣様宛にも一通お預かりしているんです」

麻衣「私に?」


○同・麻衣の寝室
   
   麻衣、手紙を読み返す

麻衣《親愛なる麻衣へ。元気か?といってもつい先程あったばかりだね。会ったばかりなのに何故かもう一年も会っていないかのようにそなたが懐かしい。それで、もうスーとツェルナから聞いていると思うがひと月の後、満月の日の午後2時に尖りの森の入り口で待っていて欲しい。小姓のエゼルと小間使いのリータが取り計らってくれるゆえ上手い事王宮を抜け出す。王子と王女をそなたに会わせたいんだ…親子5人で、そしてそなたと私、恋人として、数日間静かな時を過ごそう。ではそなたを信じて楽しみに待っているよ。ティオフェル》

麻衣「王宮を抜け出すだなんて…何考えているんだか」

   笑う


○同・学修堂
   
   1ヶ月後。ティオフェル、ペドロ

ペドロ「さぁ王様!今日こそはしっかりと授業を受けていただきますぞ」

ティオフェル「はーい…」

ペドロ「いいですか?これも王様のこれからのためなのです。民の信頼を得る、より良い聖君となられるためのお勉強なのです」

ティオフェル「分かってるよ、その言葉も耳に穴が開くほど聞いてる」

   授業が始まる

ペドロ「では王様、まもなく我が国もギリシャとマジャールとの貿易が始まりますが…」

ティオフェル「基本はギリシャ語とマジャール語だと言いたいのだろ?それくらい私にだって分かるさ。ペドロ、私が言語学には長けている事はそなたも知っているだろう?」

ティオフェル「(悪戯っぽく)なんてったって幼い頃…」


○(回想)同・学修堂
   
   幼いティオフェル、ペドロ

ティオフェル「これは…?」

ペドロ「全て王子様がお勉強なさらなければならぬ言語学の教科書です」

ティオフェル「全てか?」

ペドロ「左様です。これからのアラセルバ貿易を担っていくのは王子様、あなた様なのですから!ペドロめは心を鬼にしてでも王子様にこれら全てを叩き込んでいきますぞ!」

ティオフェル「しかしどう覚えろと言うのだ?私はまだ国語すらわからぬのだ!」


○同・ティオフェルの寝室
   
   ティオフェル、布団の中でうとうと

ティオフェル「ペドロ…もう眠いよ…。」

ペドロ「王子様、もう少しご辛抱下さい。今日はここまでやってしまいましょう。」

ティオフェル「んーっ…」


○同・食堂

ティオフェル「ペドロ、食事くらいゆっくりさせてくれ。これでは味も分からない!」

ペドロ「王子様、この食材はギリシャの言葉では何といいますか?」

ティオフェル「βραστά(ブラスター)」

ペドロ「それは料理の名前ですよ王子様!」


○同・露天風呂
   
   ティオフェル、体を洗われている

ペドロ「王子様、体の部位をそれぞれマジャール語でお言い下さい。」

ティオフェル「嫌だよそんなの!何故その様な言葉も覚える必要があるのだ?」

ペドロ「胸」

ティオフェル「Mell(メール)」

ペドロ「頭」

ティオフェル「Fej(フェーイ)」

ペドロ「足」

ティオフェル「láb(レーブ)」

ペドロ「手」

ティオフェル「kéz(キーズ)」

ペドロ「顔」

ティオフェル「arc(アルツ)」

ペドロ「では…」

   ティオフェルを指す

ティオフェル「…!?」

   真っ赤になってペドロに水をかける

ティオフェル「無礼者!!」


○(戻って)同・学修堂

ティオフェル「ここまでやられたんだからな、覚えざるを得ないよ」

   鼻で笑う

ペドロ「分かりました…言語には自身がお有りとの事ですね、ではお勉強を続けても?」

ティオフェル「宜しいよ」

   授業を続ける

   ペドロ、鐘を鳴らす

ペドロ「では本日はここまで。王様、今日は本当によく頑張りになられました」

ティオフェル「ありがとう」

ペドロ「今日は特別に王様がよく頑張られた御褒美として」

   羊皮紙の山をティオフェルに渡す

ペドロ「宿題をお出しすることにいたしましょう」

ティオフェル「え…」

ペドロ「この次までにきちんとやっておく様に。もしおサボりになられれば…」

   真剣

ペドロ「たとえ王様と言えど、こちらにも考えがあります」

ティオフェル「…」


○同・ティオフェルの書斎
   
   ティオフェル、テーブルに向かう

ティオフェル「はぁ…こんな山ほど出されたって出来るわけないだろう!大体…この暦から見れば麻衣との約束の日は三日の後だろ?そして次のペドロの講義は1週間の後だろ?」

   頭を抱える

ティオフェル「やれと言う方が無理な話ではないか!!」

   エゼル、羊皮紙を覗く

ティオフェル「なんだ?」

エゼル「でしたらご心配に及びません」

ティオフェル「何だと?」

エゼル「あなた様はただ筆を走らせてくださるだけでいいのです」

   ニヤリ

エゼル「この問題、全て僕にお任せください。王様は僕の言う通りの事をお書きくださればいいのです。そうすれば早く終わるでしょ」

ティオフェル「そなた…」

   きょとん

ティオフェル「まさかこの問題が分かると言うのか?」

   エゼル、自信満々に微笑む

   
   数時間後

ティオフェル「ありがとうエゼル…」

   延びをする

ティオフェル「しかし驚いたよ、そなたあがこの様な事を知っているとは…一体どこで学んだんだ?」

エゼル「父上です」

ティオフェル「ブブから?」

エゼル「はい。父上は僕が幼い頃から難しい学問を教えてくださいました。ティオフェル王子様もこのお勉強をなさっているんだよって言って…」

   エゼル、口を押さえる

ティオフェル「(笑う)構わぬ。なるほどね、ブブも大した息子を持ったものだ」

   
   ブブとティオフェル

ティオフェル「ブブ!」

ブブ「はい王様」

ティオフェル「私の小姓のエゼルの事だが…」

ブブ「エゼルが…倅が何かご無礼でも…?」

ティオフェル「いや、その逆だよ。誉めたいのだ」

ブブ「はい?」

ティオフェル「大層出来の良い大した息子に育てたな、感心したよ」

ブブ「それは王様、勿体無いお言葉!」

   深々とお辞儀

ティオフェル「ハハハ!本当の事だよ、エゼルにはいつも助けられている。エゼルは私にとって最高の右腕だ」

ブブ「王様…」


   三日後の朝。ティオフェル、目覚めて起きる

ティオフェル「っ!?」

   アミンタ、メルセイヤ、ガーボル、フィス

ティオフェル「お前たち…一体何の用だ?」

ペドロ「王様、私達のご無礼をお許しください…」

   4人、ティオフェルを束縛する

ティオフェル「ぶ、無礼者!何をするのだ!?」


○同・牢獄
   
   ティオフェル、入れられて鍵をかわれる

ティオフェル「無礼者!何の真似だ!?ここから出せ!」

ガーボル「王様…」

ティオフェル「王にこの様な事をしてただで済むと思っているのか?」

フィス「お許しくださいませ、クレオ様のお申し付けなのでございます…」

ティオフェル「母上の?」

   そこへクレオ

ティオフェル「母上っ!?」

クレオ「ティオフェル、母を許せ」

ティオフェル「何故私をこの様なところに閉じ込めるのです?私が一体何をしたと言うのです?」

クレオ「今日が何の日かご存じですか?」

ティオフェル「今日が…?」

クレオ「母がなにも知らないとでも思ったか?」

   ティオフェルの下書きの手紙を取り出す

ティオフェル「あ…」

クレオ「これが何かお分かりですね?」

ティオフェル「はい…」

クレオ「1ヶ月後の満月の日、昼2時…つまり今日。そなたは宮殿を数日間抜け出し、王子と王女を連れて、あの卑しい女と密会して共に過ごすつもりだったのだろう?」

ティオフェル「それの何がいけないというのです!?実の母親に王女と王子を会わせることがそんなにいけない事ですか!」

クレオ「まだ言うか!?あんな何処から来た女かも分からぬものを王子と王女の母親だと!?いい加減にしろ!そなたはしばらく…そこで頭を冷やし、考えを改める必要がある」

   去る

ティオフェル「母上!母上!」

   ティオフェル一人。キョロキョロ。

ティオフェルM「ここって…」

ティオフェルM「いつぞや麻衣達が入っていた獄ではないか?」

   石の天井を見る

ティオフェルM「恐らく今は7時くらいだろうか?麻衣との約束までおよそ時は7つ…どうしよう、どうやってここを抜け出そう?」


○使用人の家
   麻衣、スー、ツェルナ

スー「いよいよ今日ですね」

麻衣「えぇ!」

   笑う

麻衣M「ティオフェルったら無理しちゃって…」

アナスターシャ「これが…国王の精一杯の愛情表現なのだ。そなたも素直に受け取ってやれ、楽しんでこい」

   ツェルナとスーに

アナスターシャ「わたくしの大切な友であり、ティオフェル国王の大切な方だ。ツェルナ、スー、しっかりと彼女の護衛を頼んだ」

ツェルナ「女王様、ご安心を。麻衣様のことは、ツェルナめの命に変えてでもお守りいたしますわ」

ツェルナ「麻衣様、待ち合わせはナグカプ村入り口でよろしいのですね?」

麻衣「お手紙にはそうあったわ」

スー「場所はナグカプ村・ケト族ジプシー邸か…地図まで同封してあるなんて、エゼルもなかなか物知りだよな」

ツェルナ「それにあの子は驚くほど頭が切れて天才頭脳ですものね」

   麻衣、腕時計を見る

麻衣「ここからナグカプ村まではどれくらいあるの?」

ツェルナ「4刻位だと思います」

麻衣「4刻…結構あるわね。じゃあそろそろ歩き出すわ!もし思った以上に時間がかかってティオフェルを待たせてしまったら…あぁ」

   小粋に身震いしてみせる

麻衣「王を待たせたバツとして…ティオフェルに殺されるわ」

   アナスターシャ、ツェルナ、スー、麻衣、笑う。


○アラセルバ王室・牢獄

ティオフェルM「あぁ…一体どうすればここを出られるのだ?ここって確か鉄壁の牢獄で一番刑の重い者が入る場所…脱獄なんて到底不可能…」

   そわそわ

ティオフェルM「用を足したくなってきた…何かいい手はないだろうか?」


○同・宮殿内
   
   エゼルとリータ、うろうろ

メデア「エゼルにリータ、こんなところで何やっているの?」

   二人、顔を見合わす

メデア「あなた達は王様の側近なんですから、お側にいないといけないでしょう?」

エゼル「その王様がいないんだ母上!」

メデア「えぇ?」

リター「ご寝室にもいらっしゃらないし、書斎にもいらっしゃらない…」

メデア「そんなバカな!ですて…」

   そこへブブ

ブブ「私も王様がお起きになられたところを見ておりませんし、朝のご準備にも今朝は同行しておりません。それにご朝食にもいらっしゃっておりませんでした」

メデア「これは一大事だわ!早くクレオ様とメディオス様にもご報告を…」

クレオ「その必要はない。」

4人「クレオ様!」

クレオ「王はきちんとこの宮殿内にいらっしゃるゆえ案ずるな」

   メデア、胸を撫で下ろす

ブブ「しかしクレオ様、王様は一体どちらに?」

クレオ「牢の中だ。」

ブブ「ろ、牢って…何ゆえに?」

クレオ「少しあの子にはお仕置きが必要です。あの子はとんでもない事を計画していたのです!ですから牢に閉じ込めました」

   エゼル、リータ、顔を見合わせる

ブブ「なんと!?」

   そこへ

ブブ「ご無礼ながらクレオ様…」

クレオ「何だ?」

ブブ「わたくしブブめは王様にお仕えする側近にございます。故、せめて私とエゼルだけでも王様にお会いさせて下さい」

クレオ「いいだろう。しかし私の許可なしに王を逃がしたり脱獄を手助けするなどしたらその時はお前たちの命はないと思え!これは王室の権威を守るため、良いな」

ブブ・エゼル「は!」


○同・牢獄
   
   ティオフェル一人。キョロキョロ

ティオフェルM「時はどれくらい経つんだろう?」

   立ったり座ったり、うろうろしたり

ティオフェルM「母上もむごいお人だ、実の息子にこの様な仕打ちをお与えになられるとは…」

ティオフェルM「この様な状況下では、流石の私でも何も名案が浮かばない…」

   隙間から外を見る

ティオフェルM「どうするか?」

   ざわめきが聞こえる

ティオフェルM「外の音が聞こえるのは唯一の慰めだが…」

ティオフェルM「当時の麻衣達もこんなに辛い現実を味わったのか…。今頃になってあの時のしっぺ返しが私にまわってくるとは」

   そこにブブ、エゼル

ティオフェルM「ん?」

エゼル「王様!王様!」

ティオフェルM「あの声はエゼルか?」

ブブ「王様、いらっしゃるか?お返事をなさってください!」

ティオフェルM「ブブ!助かった!」

ティオフェル「ブブ!エゼル!」

ブブ・エゼル「王様!どちらに?」

ティオフェル「私はここだ!囚人ヨドムとシッラの近くにいる!」

   ブブとエゼルが来る

ブブ「王様!一体どうなさったのですか?クレオ様から簡単なお話しは聞きましたが何があったのです?またクレオ様をご立腹させたのですか?」

ティオフェル「ブブ、それは後程ゆっくり話す。とりあえず今は一度外に出してくれ!もう我慢が出来ないのだ!」
 
   ブブ、状況を察する

ブブ「王様、私におつかまりを…」

   ティオフェルをおぶる

ブブ「もう少しお待ちください!」

   ブブ、小走り


○同・厠

   数分後。ティオフェル、出てくる

ティオフェル「はぁ…」

   ブブとエゼルを見る

ティオフェル「ここでブブとエゼルが来てくれなければ私は…大変恥をかいていた」

   真っ赤になって下を向く

ティオフェル「第一母上、実の息子に酷すぎるではありませんか!これでは王子と王女のためにもよくありません。私は国王である前に、3人の子の父親です!」

クレオ「ティオフェル!そなたのやろうとしていることと、母のしていることとではどちらが子供達の教育に悪いか!」

クレオ「よく考えてみろ!そなたのしようとしていることは王室と国に混乱を招き、乱すことなのだぞ!もう一度、王族史を勉強し直せ!」

クレオ「と言うことで…王様のご用がお済みでしたらブブ、王様を元の牢へお連れせよ!」

   ティオフェル、逃げ出そうとしている

ブブ「はっ!は?」

クレオ「はよ!」

ブブ「は!王様、大変ご無礼ながら…」

   逃げようとするティオフェルを捕まえる

ブブ「お戻りいたしましょう!」

ティオフェル「母上…」

   連れられていく


○同・牢獄
   
   ティオフェル、同じ部屋に戻されて鍵をかけられる

ティオフェル「母上っ!」

クレオ「さぁティオフェル、今回は特別でしたが次に叉この様な事があっても出してはあげぬ!」

ティオフェル「そんな母上…なにゆえに私達の話を信じてくれぬのです!?なにゆえに思い出してくださらないのですか…」

クレオ「まだその様な寝言を言っているのか!そなたはもう一国の王なのだ、私利私欲の恋に心を乱し、あろうことか恋に溺れ狂ったジプシーの遊女を王室の母につけようだとは!」

ティオフェル「何故そうなるのです!あの者は遊女などでも、ジプシーなどでもございません!」

クレオ「黙れ!そなたはまだ勉強不足だ。とてもそなたにこれからの王族の継承を任せてはおけぬ」

   クレオ、戻っていく

クレオ「何をしておる!?ブブにエゼル、そなたたちも戻れ!」

ブブ・エゼル「はい…」

   エゼル、ティオフェルを気にしながら去る

エゼルM「王様…」

ティオフェル「…」

   小窓を見上げる

ティオフェルM「こっちにも窓がある…先程は気がつかなかったが、何処に通じているのだ?」

エステリアの声「王様?王様?」

ティオフェル「あの声は、エステリア?」

エステリアの声「王様、どちらにいらっしゃいますか?」

エステリアの声「おいイェドゥーナ、王様をお見かけしなかったか?」

女中の声「いいえエステリア様、それが今朝からお姿を見ておりません」

ティオフェル「(大声)エステリア、エスエリア聞こえるか?私はここだ!」

エステリア「王様?」

   キョロキョロ

エステリア「王様?」

   走り去る。ティオフェル、小窓によじ登って外を見るが力尽きて落下

ティオフェル「あぁ…」

   数十分後

ティオフェルM「陽が昇る…そろそろ昼か。麻衣、すまない…」

   ガーボル、食事を持ってくる

ティオフェル「?」

ガーボル「王様、お食事のお時間です」

ティオフェル「ありがとう…」

   受けとる

ティオフェル「食事か…」

   恨めしそうに食事を眺める。お腹がなる

ティオフェルM「腹が減った…」

   空腹

ティオフェルM「しかし…」

   ため息

ティオフェルM「どうしてこの状況の中、手がつけられよう…麻衣の事を按じると食事も喉を通らない」

   左隣にヨドム、右隣にシッラ。

ティオフェル「なぁヨドム、シッラ…お前たちはいつからここにいるのだ?」

ヨドム「わたくしは国王・ギルデンバッハの時代にここに入れられました…わたくしはじぷしーの出でしたがあまりの貧しさに耐えかねてエギの市で盗みを働いたのでございます」

シッラ「わたくしは国王・イリヤの時代からここにおります」

ティオフェル「イリヤだと!?ではそなた、今いくつだ!?」

シッラ「250になります…牢に入れられたのが丁度20の誕生日、今の王様と同じ年の頃でした。しかしわたくしは何も罪となることをしておりません!」

ティオフェル「では何故にそんな何百年も入れられているのだ!?」

シッラ「わかりません…しかしイリヤ様は大変お早くに亡くなってしまわれたので、その後わたくしの存在など忘れられてしまったのでしょう…わたくしはただ、王様のお后様とお話をしていただけなのでございます」

ティオフェル「ミネシータ?」

シッラ「左様でございます…私は当時、アルプラート宮殿で働く役人だったのです。王様もご存知の通り、このアラセルバ宮殿の東棟と、今はもうありませんが豊平棟と湖東棟がかつての建て直されたアルプラート宮殿だったのです」

ティオフェル「知らなかった…」

シッラ「そこでわたくしはミネシータと話をしていただけなのでございます。ミネシータはわたくしの姉でございますから何もやましい関係ではございません。イリヤ様もそれをご存知だった…なのにそれを目にして怒られたイリヤ様がわたくしを…」

ティオフェル「酷いことをしたもんだ…イリヤはかなりの暴君であったと聞いてはいたが、それほど酷かったとは」

ティオフェル「ヨドムの刑も重すぎる、単に盗みなのだろう?」

ヨドム「は、はい…しかしわたくしは当然の報いで…」

ティオフェル「いや、こんな酷な刑はない!人生の半分以上を犠牲にされているだなんて!」

   涙ぐむ

ティオフェル「よしっ、待ってろ。今の国王はこの私だ。そなたらを絶対にここから救い出す!そのためにどうすればいいか考えよう…しばし時間をくれ」

ヨドム「おやめくださいませ王様!わたくしたちの事などはもういいのでございます。どうで人生残り少ない老いぼれだ…地上に帰ったところで何も希望もねぇ」

シッラ「それよりか、今はあなた様自身の身をお按じください!」

ティオフェル「そなたら…本気で言ってる?」

ヨドム「貴方様はこんな囚人の私達にすらいつでも心をかけ、他の囚人が亡くなればお涙を流されて悲しまれていらっしゃることをよく存じております」

シッラ「長年ここにいますが、今までそんな王様を見たことがない…」

ヨドム「わたくしたちだけではございません。囚人達全員が王様に感謝をしております」

シッラ「故に、今こそ今度はわたくしたちが貴方様をお助けする番です。何があったか存じ上げませんが、あなた様が無実であられることは確かです」

ティオフェル「そなたたち…」

   泣き出す

ティオフェル「ありがとう…」

ヨドム「ほら、まずは何かを口にして力をおつけください」

シッラ「ここは体力勝負の場所なのです。パニックを起こしたり、衰弱しているものほど早く死んでゆく場所…」  


○ナグカプ村入り口
   
   2時。麻衣、スー、ツェルナ

麻衣「着いたわ、ぎりぎりね」

スー「えぇ…」

ツェルナ「ここにいれば…」

   十数分後

ツェルナ「参りませんね…」

スー「全く王様ったら、お約束をすっぽかすなど」

麻衣「ティオフェルのやつ…無計画に口約束なんてするからよ」

   山を登り出す

麻衣「いいわ、スーにツェルナは帰って女王様のお側にいてあげて」

ツェルナ「麻衣様は?」

麻衣「私は折角ここに来たんですもの、少し探検をするわ。一人でケト族のジプシー邸に行ってみるわ」

スー「なりません麻衣様!お一人などと…」

麻衣「あら?私は今までずっと一人で危険な場所にも行っているのよ?大丈夫、私は警察官の娘なんですから!」


○アラセルバ宮殿・牢獄
   
   ティオフェル、失望に生き倒れ状態

ティオフェル「…」

   そこにエゼル

エゼル「(小声)王様!」

ティオフェル「誰だ?」

ティオフェル「エゼル!」

エゼル「しっ!」

   キョロキョロ

エゼル「大きなお声で呼ばないで下さい!僕がここにいる事はみんなには秘密なのですから…」

ティオフェル「何をしに来た?」

エゼル「今日が麻衣様とのお約束の日なのでございましょ?故にあなた様をお助けに参りました」

ティオフェル「え?」

   エゼル、鍵穴を弄り出す

ティオフェル「何をやっている?」

エゼル「鍵を開けているのです」

   悪戯っぽく石のこよりを見せる

エゼル「こいつで」

   ニヤリ

エゼル「僕が無計画でここへ来たとでもお思いですか?ここを出たら僕とお入れ替わりいただきます」

ティオフェル「は?」

エゼル「故に王様と僕の衣装と取り替えるのです。そのあと王様は僕になりきってお逃げ下さい」

ティオフェル「しかし…」

エゼル「牢獄西の門を出るとエステリア様がお待ちです。故にエステリア様と共に湖東口(こひがしぐち)の門へとお行きください。そこで姉のリータが待っています。なので彼女と共に約束の場所へ…」

ティオフェル「エゼル…」

エゼル「やった開いた!さぁ、王様早くお着替えを!」

ティオフェル「あ、あぁ…」

   着替え終わる

ティオフェル「しかしエゼル、そなたは?」

エゼル「王様が戻られるまで僕はここで王様のふりを致します」

ティオフェル「エゼル、そなたと言うやつはなんと賢い小姓なんだ!」

   牢を出る

ティオフェル「しかし…牢の中は寒いし辛い。エゼル、お前に本当にこんな重荷を着せてしまってもいいのかい?」

エゼル「何をお言いになります!僕は王様の小姓です、それにジプシーとして16年間過ごしてきたんですから、柔ではありません」

ティオフェル「後で私を恨んで裏切るなよ」

エゼル「まさか!」

ティオフェル「分かった、恩に着るよエゼル!」

エゼル「それと…」

   ルルの鳥かごをティオフェルに渡す

エゼル「これ、王様の大切なインコなのでしょう?連れていって下さい。」

ティオフェル「ありがとう…」

   ヨドムとシッラを見る

ティオフェル「ヨドム、シッラ」

ヨドム「ご安心ください。この事は私達以外誰にも漏らしません」

シッラ「なぁみんな」

   他の囚人、声を揃えてうなずく。

ティオフェル「ありがとう、みんな本当にありがとう。この恩は必ず返す…」

   エゼルに

ティオフェル「エゼル、そなたにも」

   ティオフェル、辺りを警戒しながら牢を出る。エゼル、牢に入って中から器用に鍵をかう


○同・牢獄西の門

ティオフェル「エステリア!」

エステリア「王様っ!事の次第は皆聞きましたわ

エステリア「さぁこちらへ!」

   ティオフェルを案内して小走り


○同・湖東口   

リータ「王様!」

エステリア「リータ、王様を頼んだ」

リータ「わかりました。王様、尖りの森へ参りましょう!」

ティオフェル「あぁ!」

   リータ、ティオフェルをつれて警戒しながら門を出る。


○アラセルバ市内・エギ通り
   
   リータとティオフェル。通りは賑わっている

リータ「王様、この辺りでエゼルに扮していてはちょっとまずいかもしれません。エゼルの知り合いが沢山います。故…」

   女物のドレスをティオフェルに渡す

リータ「これにお召し換え下さい。」

ティオフェル「叉私に女装をしろと?」

リータ「お許しください王様、しかし安全にここを抜けるにはこれしかありません。おなごに扮して私の友を
お演じになってください」

ティオフェル「わかりましたわ。でも…」

   キョロキョロ

ティオフェル「どこで着替えようかしら?」

リータ「あの東谷でもお借りいたしましょう」
ティオフェル「そうね」

   二人、東谷に入る


   数分後。ティオフェル、女装をしてしおらしくしなしな。

リータ「では王…」

ティオフェル「イェヌーファと呼んでちょうだい」

リータ「では…ではイェヌーファ、参りましょう」

ティオフェル「敬語は不自然だわ。友達同士ならタメ口で結構でしてよ?」

リータ「は、はい…」

リータM「王様、すっかり女に成りきっているよ…私よりも女らしいや」

   二人、歩き出す


○ニョールツ山脈
   
   麻衣、登っている。ツェルナ、追いかける

ツェルナ「麻衣様!麻衣様お待ちください!」

   麻衣、立ち止まって振り向く

麻衣「あら、あなたも来たの?私一人でもよかったのに…」

ツェルナ「そんなわけには行きません!お共致します」

麻衣「スーは?」

ツェルナ「先程の入り口にて王様をお待ちになられています」

麻衣「王様を…帰ってもらってもいいのに」


○同・入り口
   
   スー、ティオフェル、リータ

スー「!!」

ティオフェル「スー!」

スー「王様!」

ティオフェル「遅くなってすまなかった。麻衣は?」

スー「麻衣様でしたら…先にお登りになられました」

ティオフェル「なんだって!?」

スー「王様がなかなかお見えになられないものですから“王様はお忙しいお方ですので私ごときのために来られないのよ。いいわ、私一人で登る”とお言いになり…」

   ティオフェル、登り出す

スー「王様!?」

ティオフェル「私は麻衣の後を追う!スー、リータ、お前たちは先に帰れ!」

スー「何をおっしゃいます?僕も共に行きます!」

リータ「私もです!」

ティオフェル「バカを申せ!ダメだ!」

リータ「いいえ王様!いくら王様のご命令と言え、それにお従いする事は出来ません」

スー「王様をお守りするのが僕らの役目ですから」
   

   三キロ先

麻衣「ちょっとツェルナ!」

ツェルナ「麻衣様、もう少しゆっくりお歩き下さい…ツェルナはもうダメにございます」

麻衣「使用人なのにだらしないわね。それじゃあとても王様をお守りすることなんてできないわよ?」

ツェルナ「申し訳ございません…」

ティオフェルの声「麻衣ーっ!麻衣ーっ!」
   
   麻衣、立ち止まる。

ツェルナ「麻衣様、どうなされましたか?」

麻衣「今、誰かが私を呼ぶ様な声が聞こえたのよ…」

   笑う

麻衣「気のせいね。先を急ぎましょ!」

ツェルナ「麻衣様、それより少し休憩を…」

麻衣「んもぉっ!ほら!」

   背中を向ける

麻衣「乗りな。」

ツェルナ「え?」

麻衣「こう見えても私、かなりの力もちなんだで!」

ツェルナ「しかし…」

麻衣「ぐずぐずしてると日が暮れるに!ナグカプ村はまだまだ先なんずら?」

   ツェルナをおぶる

麻衣「さぁ、行くに!」

ツェルナ「忝ない…」


   数十キロ前。ティオフェル、へとへとしながら歩いている

ティオフェル「はぁ…はぁ…」

   崩れ去る

ティオフェル「もうダメだ…。麻衣のやつ、こんなに歩いても行き合えぬとは…」

ティオフェル「おなごゆえこの険しい道をそう速くは歩けるはずがないと思うんだが、一体何処に行ってしまったのだ?」

   ティオフェル、再びよろよろと歩き出す


○ナグカプ村
   
   十数時間後。山を抜ける

麻衣「山を抜けたわ、ここは…?」

ツェルナ「ここはもうナグカプ村にございます。」

麻衣「ナグカプ村…」

麻衣M「現代で言うのならば今のどの辺りなのかしら?」

ツェルナ「そして目の前数キロ先に見えますのがハマロ山なんです。ジプシー邸はあの頂上ですわ」

麻衣「分かったわ、行きましょう!」

ツェルナ「えぇ!?麻衣様…」

麻衣「少しも休まないわよ」

   勇んで歩き出す


○アラセルバ宮殿・牢獄
   
   エゼル、王の格好をして食事をとっている。役人が通る度に顔を隠す

エゼルM「王様…無事麻衣様にお会いになれたかな?」

   食べ終わる

エゼルM「いただきました。ふぅ…」

   うとうと

エゼルM「お腹一杯になったらなんだか眠くなっちゃった…」

   外を見る

エゼルM「当たり前だよな…もう夜だもの、おやすみ。お休みなさいませ王様…」

   石の床に横たわって目を閉じる


○同・クレオの書斎

クレオ「メデア、ブブ、王からまだ連絡は入らんのか?」

アミンタ「降参のですか?」

メルセイヤ「お言葉ですがクレオ様、王様はそう簡単に考えをお変えになられるお方ではありません。王様はとても頑固なお方です」

メデア「クレオ様、なにゆえに王様やマリッツァ様のお言葉を信じてあげられないのです!?クレオ様は王様にとって実のお母上様ですのに」

クレオ「黙れ!そなたもティオフェルの味方か!」

メデア「メデアめも王様達のお言いになります通り、王妃様の戴冠式をきちんとこの目で見て覚えておりますし、王子様と王女様をお産みになられた日の事ですて、つい昨日の事のように覚えておりますわ。なのに何故、あれほどめでたく大きな祝儀でしたのに…」

   メデア、泣き出す。

メデア「メデアめは王様がお可哀そうで仕方ございませんわ」

ブブ「クレオ様、わたくしの考えもクレオ様と同じではございますが…ティオフェル様は王様にあられますぞ?あの様な石の地下牢で、もしお体でもお壊しになられたらどうなさるおつもりですか?」

メデア「そうでございますよ。もし王様に何かおありなら一体…」

クレオ「按ずるな。ティオフェルはそれほど柔ではない!」

メデア「しかし…」

   そこへエステリア

ブブ「エステリア様…」

クレオ「そなた、まだ起きていたのか?」

エステリア「お話の途中立ち入ってしまい申し訳ございません。しかしクレオ様、私もメデアの言う通りだと…」

クレオ「なんだと?」

エステリア「私も、ご出産の時の事も戴冠式のこともよく覚えておりますわ。私とて、マリッツァ様のお子ゆえに王子様と王女様の乳母となったのでございます」

クレオ「そなたもティオフェルたちとのグルか」

エステリア「クレオ様!」

   クレオ、エステリアを見つめる。

クレオ「なるほど…」

クレオ「それほど言うのであれば、私を納得させる決定的な証拠を見せろ。あの子達がティオフェルとあのおなごの子供だと証明できる証拠をもってこい!そうすれば認めてやっても良いだろう」


○ハマロ山・ジプシー邸
   
   翌朝。麻衣、ツェルナ

麻衣「わぁ…ここなのね?」

   きょろきょろ

麻衣「あら?」

   (フラッシュ)
   
   現代の世界・北八ヶ岳。

麻衣「ここって…」

   麻衣、微笑む。ツェルナ、へとへと

ツェルナ「麻衣様、夜中も一睡もお休みにならず歩き続けるだなんて酷いですよ…」

麻衣「お疲れ様…流石に私もごしたいわ」

   延びをして邸に入る

麻衣「少し休みましょう」

ツェルナ「はい!」


○ジプシー邸・邸内
   
麻衣「見た目以上に広いのね…」

   歩き回る

ツェルナ「麻衣様?どちらへ?」

   藁が積まれている。

麻衣「まぁ素敵…」

   藁の中へ入る

ツェルナ「ちょ、ちょっと麻衣様!?一体何を…?」

麻衣「暖かくてとっても気持ちがいいのよ。私、今夜はここで眠るわ」

ツェルナ「そんな…」

麻衣「おツェルナもおいでなさいよ!」

ツェルナ「ん…」
 

   数時間後。麻衣とツェルナ、藁の中で寝てしまう。そこへティオフェル


ティオフェル「やっと着いた」

   ときめく

ティオフェル「麻衣はもういるかな?」

   邸内を散策

ティオフェル「なかなか広いもんだね…アラセルバでは見ない建物だ」

ティオフェル「なるほど…」

   一部屋ずつ覗く

ティオフェル「キッチン…温泉にトイレか。エゼルはこんな村で育ったんだ」

   笑う

ティオフェル「通りで品が言いわけだ。なんでアラセルバなんかに来たんだろ?この村にいても何不自由ない生活が出来たろうに…」

   一周回ってくる

ティオフェル「これで終わりか…結局誰もいなかったな」

   寂しげ

ティオフェル「麻衣はここまで繰る事なく帰ってしまったのか?」

   微笑む

ティオフェル「これほど道のりも過酷なんだもんな…そうであっても仕方あるまい」

   近くに藁

ティオフェル「藁の布団か…内装には似合わずだな…」

ティオフェル「もうくたくただよ…折角来たんだ、私だけでもここでゆっくりしていこう」

   藁の中に入る

ティオフェル「はぁ気持ちがいい…とりあえずはここで一休みをしよう」

   麻衣の足にぶつかる

ティオフェル「!?」

   
   ***

ティオフェル「ん…何?」

   恐る恐る

ティオフェル「まさか人がいるとか…ないよな?」

ティオフェル「うおっ!何!?」

   飛び起きる。麻衣も驚いて飛び起きる

麻衣「何っ!?」

   ツェルナも飛び起きる

ツェルナ「麻衣様、如何なさいましたか?」

   麻衣とティオフェル、顔を見合わせている

ティオフェル「麻衣なのか?」

麻衣「あんた…ティオフェル?」

   ティオフェル、微笑んで麻衣を軽くハグ

麻衣「ティオフェル…」

ティオフェル「良かった、そなたが無事で本当に良かった」

ティオフェル「麻衣、約束の時間に来れず本当にすまなかった…」

麻衣「本当よ!大体出来もしない口約束をするあんたが悪いんですからね!私だって、本当かどうかもわからないのに、もしあんたが本当に待ち合わせ場所に来ていたらなんて思って…」

ティオフェル「すまない、麻衣」

   恥ずかしそう

ティオフェル「実は…」

麻衣「何よ?」

ティオフェル「母上に監禁されていたため、約束の時間に間に合わなかった…」

麻衣「監禁ですって!?」

ティオフェル「そう、母上私の計画を知られてしまってさ、それで大層ご立腹なのだ…」

麻衣「そうだったの…じゃあ王子と王女は?」

ティオフェル「連れてくることが出来なかった…王子と王女が城にいないことが分かったら母上にバレてしまうからね」

麻衣「何が?」

ティオフェル「私の脱走さ」

麻衣「えぇ!?」

   呆れ驚く

麻衣「あんた何バカなことしてんのよ!あんたは王様なのよ!?いますぐ王宮へお戻り下さい!何でそういう事になったのか詳しい事情はわからないけれども、もしあんたが悪を下ならばきちんとお母様のお許しを頂いてからおいでらっしゃい!」

ティオフェル「それではなんのためにここにいるのか分からないではないか!」

   気を取り直して

ティオフェル「ということで、当初の計画とはかけ離れてしまったが…私と共にここで数日間ゆっくりとすごさないか?」

麻衣「別に、悪くないわね」

ティオフェル「そなたからすれば平凡かもしれぬが長年の私の夢なんだ…平民の恋人のように自由気ままに過ごすこと…」

ティオフェル「だから、ね。今は恋人同士として」

   ツェルナ、藁の中から出てくる

ツェルナ「お熱いお二人さん」

ティオフェル「ツェルナ!」

ツェルナ「はいはいツェルナですよ。ではお二人の無事再会を見届けましたので、ツェルナめはこれで失礼致します」

   いたずらっぽく

ツェルナ「素敵な夜を」

ティオフェル「無礼者!」

   ツェルナ、逃げるように山を降りてゆく。

    ***

   しばらく

ティオフェル「麻衣、やっと二人っきりになれたね」

麻衣「えぇ…」

ティオフェル「私はここ数日王ではない、普通の民だ」

ティオフェル「と、そなたにいっても、あまり意味がないがな」

麻衣「どういう事?」

ティオフェル「そなたはいつも身分構わず無礼だからさ」

麻衣「失礼しちゃう!」

ティオフェル「誤解するな、決して変な意味じゃないよ。寧ろそのほうが心地よい…だから、ここでも今まで通り私と接してほしいと言いたいのだ」

麻衣「言われなくてもそのつもりよ。あんたに敬語なんて」

   おどけて

麻衣「虫唾が走るわ」

ティオフェル「無礼者!」

麻衣「私もあんたの“無礼者”…心地良いわ」

   ティオフェルと麻衣、悪戯っぽく微笑む

ティオフェル「では麻衣、ちょっとナグカプの村へ降りて町を見物してみようか?」

麻衣「えぇ!行きましょう!」

   ティオフェル、麻衣の手をとって邸を出る


○アラセルバ王宮・クレオの書斎

クレオ「あれから一日…ティオフェル王の様子は?」

ブブ「はい…王様はまだ眠っておいでです」

クレオ「まだ?」

   立ち上がる

クレオ「私が様子を見に行こう。ブブ!」

ブブ「は!」


○同・牢獄
   
   エゼル、眠っている。そこへブブとクレオ

クレオ「王よ!ティオフェル!いい加減に起きなさい!」

エゼル「ん…」

クレオ「ティオフェル!」

エゼル「王様…」

   目を覚ます

エゼル「お父上に…クレオ様?」

   クレオ、ブブ、顔を見合わせる

クレオ「お父上に、クレオ様だと?」

   エゼル、口を押さえる

エゼル「す、すまない…つい小姓のエゼルの言い方がうつってしまった」

   エゼル、後ろを向く。クレオ、胡散臭そう

エゼル「何の用ですか?」

クレオ「そなたの姿が見えないと王子も王女も心配している。3人にはティオフェルは街に視察に出ているといってあるが、いつまでも隠し通すことは出来ぬまい。かといって父親が牢獄にいると知ればどれほどショックを起こすことか」

エゼル「では、子供達のためにも私をここから出してください」

クレオ「ではもうバカな考えを持たぬと約束できるか?国のための王として真面目に務めると約束するか?」

   エゼル、頑固にクレオを睨む

クレオ「その目は何だ?」

エゼル「それは一体どういう意味です?まさか、私に、王であるこの私に事実を伏せ、偽りを国民にも子供達にも告げて生きろと?」

エゼル「皆が言っているではないですか!私と彼女だけでなく、エステリアも、メデアも承認なのに…なにゆえに母上は頑なにも信じようとしないのです!現実を見、事実を認めようとしないのです!?」

クレオ「母に口答えか!!そなたのことなど知らぬ。これからは王室のことは全て母が仕切るゆえ、そなたは黙って母にだけ従え!そなたになど任せて置けぬわ!」

エゼル「クレオ様!」

   クレオ、去ろうとするが振り向いてエゼルを見る

クレオ「そなた…」

ブブ「クレオ様!」

   エゼルの腕を見る

ブブ「ご覧ください、この者は王様ではございません」

クレオ「なんだと!?」

ブブ「この者は王の腕輪をしておりませんし、耳飾りさえもしておりません」

エゼルM「しまった、忘れていた!王様は腕輪と耳飾りをしていたんだっけ」

クレオ「そなたは一体誰だ!」

   他の囚人達、息を呑む。

エゼルM「あぁ…もうこれ以上隠しておくのは不可能だ…仮に黙っていたとしたら王室冒涜の罪で僕だけじゃなく、王様まで危険にさらされてしまう…王様、どうか僕を打首にしてください!」

   堪忍したように

エゼル「お許しくださいませクレオ様!」

クレオ「そなたは…」

   エゼル、髪を解いて衣装を脱ぐ

エゼル「僕は…僕は小姓のエゼルです!」

クレオ「エゼルだと?」

   エゼルを睨む

ブブ「間違いありません、こいつはうちのエゼルです」

エゼル「父上」

クレオ「エゼル?まことにエゼルか?」

エゼル「はい…」

クレオ「何ゆえだ?だったらティオフェルは何処に行った?」

   閃く

クレオ「ひょっとして…」

   エゼルを睨む

クレオ「ジプシーの邸か?」

   エゼル、目を白黒

クレオ「今すぐに使用人と兵をケト村に派遣しろ!王を宮殿に連れ戻すのじゃ!」

   ブブを見る

クレオ「ブブも同行するように…」

ブブ「はい」

クレオ「それからエゼル…」

エゼル「はい…」

クレオ「そなたも同行する様に。場所は恐らくそなたが一番知っておろう、案内しろ」

エゼル「はい…」

   エゼル、俯いて震えたまま。影からエステリア、リータが見ている

エステリア「王様と麻衣様、どうなってしまわれるのでしょうか?」

リータ「分からないですけど、クレオ様は相当ご立腹だ…こりゃヤバイね」

エステリア「そんな…」

   エステリア、走る

リータ「エステリア様、何処に?」

エステリア「王様と麻衣様に宮殿でのこの状況をお知らせに上がるのです!そうしないとお二人が!」

リータ「なりません!エステリア様はここに、私が参りますわ」

エステリア「いや、大丈夫だ。私が行く!リータ、城の事を頼んだ」

   リータ、不安げ。

リータ「はい…」


○ナグカプ村・蚤の市
   
   賑わっている。麻衣とティオフェル、歩く。

ティオフェル「素顔の私のままでこんなにのんびりできたのは生まれて初めてだ!」

麻衣「まぁ!王子様の時はのんびり出来なかったって言うの?」

ティオフェル「とんでもない!物心着いた時には既に兄上はいらっしゃらなかったから弟の私が王位後継だと決めつけられ、毎日勉強勉強、食事のマナーに竪琴と躍りの稽古、時たま外に出られたとしても猟や弓術…私
が一人になれる時なんてありゃしない!」

麻衣「王族の子も可哀想ね」

ティオフェル「そうなんだ、王族の子ってなんて可哀想なんだ…特に王位後継の子は」

麻衣「同情するわ…」

ティオフェル「麻衣…私、婿養子になって王室を出たいよ」

麻衣「何バカなこと考えてるんよ」  

ティオフェル「いや…本気だよ」

   ため息をついて麻衣を見る

ティオフェル「麻衣、私と一緒になって駆け落ちしないか…?」

麻衣「王子と王女はどうなるのよ!」

麻衣「さ、バカはもうよして。今を楽しみましょう」

   ティオフェルに活を入れる

ティオフェル「ぶ、無礼者!何をするか!?」

麻衣「ハハッ、やっといつものあんたに戻ったわね」

ティオフェル「…」

麻衣「そのほうがあんたらしいわ。あんたがあんたらしくないと私まで調子狂うもの」

ティオフェル「そなた…黙って聞いてりゃいいたい放題言いやがって。王に戻ったら覚えてろよ!」

麻衣「あら、結局王様に戻るつもりじゃないの!」

   笑う

麻衣「いいわ、覚悟の上よ」
 
   ティオフェル、口負け

麻衣「ほら、今夜は私がなんか美味しいもの作るわ。二人で楽しく過ごしましょう」

ティオフェル「(気を取り直して)だったら私もやるよ。二人で作ろう!」

麻衣「あら?あなたは王族育ちですのにお料理出来るの?」

ティオフェル「バカにするな!こう見えても私とて料理と繕いはお手のものでね」

麻衣「まぁ意外!期待してるわ、王様レシピ…」

ティオフェル「王様レシピ?」

麻衣「なんでもないわ」

   二人、買い物をしている。

   ***

   (フラッシュ)

   宮殿一行とクレオとエゼル、ナグカプ村に向けて行列を作っている


○ナグカプ村・ハマロ山
   
   麻衣、ティオフェル、たっぷり買い込んで歩いている

麻衣「ティオフェルったらいくら安いからってこんなに買い込んで…あなた本当に王族なの?」

ティオフェル「人から聞いた。民はこうして安い日に安いものを狙っては数日分買い込むのだろ?」

麻衣「よく調べる事…」

   笑う

麻衣「じゃあこれがあなたの一週間分のバカンス材料って訳か」

ティオフェル「私ではない」

麻衣「え?」

ティオフェル「私とそなたのだ」

   麻衣、ティオフェルをこずく


○同・ジプシー邸
   
   ティオフェルと麻衣。捕った鹿と猪などを置く

麻衣「でもこんなに食べきれないわね」

ティオフェル「いいよ、ここに置いておいてまたちょくちょく来よう。ここはケト族だけじゃなく今日から私とそなたの秘密基地でもある」

麻衣「(笑う)ちょくちょくって、バカはよして!あんたは一国の王なんですから!そんなにバカンスは許しませんよ」

   キョロキョロ

麻衣「でも…お肉を市場でかうなんて、あんた狩りはしないの?私、縄文人の男性は狩りをしていたって歴史の授業で習ったわ」

ティオフェル「狩りぃ!?ダメダメ、あいにく私は苦手なんでね。兄上は名射手だったらしいけど」

麻衣「何よ、男気ないの!王様のくせに」

ティオフェル「そなたはぁ!」

   咳払い

ティオフェル「まぁいいや…とりあえず腹が減った。食事でも作るか?」

麻衣「何にしようかしら?」

   いたずらっぽく

麻衣「でもどうせあんたがお料理出来るんなら、あんたにお任せしようかしら」

ティオフェル「いいよ、そなたは休んでな」

   麻衣を麻の敷布に座らせる。麻衣、頬を赤らめてティオフェルを見つめる

ティオフェル「ん?」

   照れる

ティオフェル「何を見ているのだ?」

麻衣「なんでもないわ…」

麻衣M「ティオフェルって…こんなにも素敵だったのかしら?」

   ティオフェル、調理を始める

   ***

麻衣「わぁいい香り…キノコのスープかしら?」

ティオフェル「正解!ティオ特製キノコのシチュー!」

麻衣「ティオ?」

ティオフェル「私が幼い頃呼ばれていたあだ名だよ。しかし兄のイプスハイムがどうもこのあだ名をどうも嫌ったらしい…なんだか初恋の相手を奪った男の名前と同じだとか」

   麻衣、ティオフェルの手元を見つめる

ティオフェル「今度はなんだ?」

麻衣「やっぱり私も何かやるわ、手伝わして!」

ティオフェル「いいよ、休んでろって」

麻衣「あんただけにこんな事をやらせて女はただ見ているだけなんてだめよ!お貸しなさい」

   麻衣、ティオフェルから杓文字をとってシチューをかき回し出す。

   麻衣の袖口、シチューに入りそう。ティオフェル、気になって仕方がない

ティオフェル「…」

麻衣「何?」

   ティオフェル、黙って麻衣の袖を捲る

麻衣「え?」

ティオフェル「袖…」

麻衣「ありがとう…」

   ティオフェル、小さな土器にシチューを少し盛る

ティオフェル「飲んでみな」

麻衣「えぇ…」

   飲む

麻衣「美味しい!」

   ティオフェル、微笑む

   ***

   食事

麻衣「いただきます!」

ティオフェル「どうぞ」

   二人、食べ出す

麻衣「美味しい…」

   食べながら

麻衣「あんたがもし普通の民だったらきっと素敵な旦那さんになっているわね…」

ティオフェル「え?」

麻衣「だってこんなにも美味しいお料理が出来て…こんなにも優しいんだもの…」

   ティオフェル、赤くなる

麻衣「あんたに惚れない女性はいないわ…」

麻衣「なんか嫉妬しちゃうわ…あんたがこんなに出来のいい美男子で」

   ボンワリとため息

麻衣「一番最初に私がアラセルバに迷い混んだあの日のままが良かったのかもね…あなたの事が大嫌いで、あなたも私が…」

ティオフェル「嫌いではなかった…」

麻衣「え?」

ティオフェル「初めてそなたと逢ったあの時も私はそなたの事、嫌いではなかった…」

   麻衣を見る

ティオフェル「実はそなただってそうだったのであろう?」

麻衣「そんな…」

ティオフェル「そなただって本心から私を嫌っていたのではあるまい?」

   微笑む

ティオフェル「何故その様な顔をする?」

麻衣「だって…」

   動揺して放心状態

麻衣「だったらティオフェル、あんたは?何故初めの日に私に冷たくしたの?私を嫌いだって言ったの?」

   もじもじ

麻衣「あんたがもっと素直に優しくしてくれていたら私だって…」

   麻衣の唇にパンくず

ティオフェル「麻衣…」

   指で麻衣の顎を上げる

麻衣M「え?ティオフェル…何をなさる?」

   麻衣、目をそらす。ティオフェル、麻衣の唇のパンくずをとる

ティオフェル「ついてる…」

麻衣「え?」

ティオフェル「気がつかなかったのか?おなごなのに恥ずかしいぞ!」

   麻衣、唇を触る

ティオフェル「(笑う)もうとれてるよ」

   再び食べ出す

ティオフェル「私はそう言うのを見ているといてもたってもいられなくなるのだ!」

麻衣「別にいいじゃないの…私は…気にならないんだから」

   ティオフェル、笑う。麻衣も再び食べ出す

   ***

麻衣「はぁお腹いっぱい!美味しかった!」

ティオフェル「よかった」

   立ち上がる

ティオフェル「じゃあちょっと腹ごなしでもしようか?」

麻衣「何?」

   ティオフェル、手を叩く。ジプシーたちが現れる

麻衣「え?え?何?」

ティオフェル「ケト族ジプシー達だよ」

麻衣「でも、この期間ここには誰も住んでいないんじゃあ…」

ティオフェル「エゼルが気を利かせて声をかけてくれたんだってさ。伴奏も必要だろ?」

麻衣「伴奏?」

   ティオフェル、踊り出す

ティオフェル「ほら、麻衣も早く!そなたも踊れるんだろ!」

麻衣「えぇ…」

   ジプシーたち、伴奏や歌をする


○アラセルバ市内
   
   王宮行列が歩いている。人々、見物に出ている。町中にティオフェルと麻衣の描かれた羊皮紙が貼られている

クレオ「何としてでも国王ティオフェルと共にいるおなごを捕まえるのだ!誰か、国王を見たものはおらぬか!?」

クンドリ「あれ?王様の顔ってどっかで見たことあるよな?」

テオドル「本当だ…」

テクラ「いつも会っているような…」

子供達「エギ通りのイェヌーファだ!」

ルエデリ「でも、まさかなぁ…」

ユリ「ひょっとしてイェヌーファは王族の女の子だったりして?」

テオドル「嘘だろ?」

ルエデリ「ってことは、王様とご親戚って事か?」

テクラ「だったらそっくりなのも頷ける…」

クンドリ「ケト村のエゼルに聞いてみようぜ。あいつなら今、王様の小姓になってるから何か分かるかも」

   エゼル、行列と共に歩いていく

子供達「あ!エゼルだ!」


○ハマロ山・ジプシー邸
   
   数日後。麻衣とティオフェル、食事をしている

麻衣「ねぇティオフェル、もう流石にもうお城に帰った方がよろしくってよ?」

ティオフェル「そうだな…」

   気乗りしない

ティオフェル「私の身代わりになってくれているエゼルの事を思うと心が痛むが、王室に戻るとなるとやはり足が重いよ…」

   寂しげ

ティオフェル「きっと戻ってしまったら母上の監視が厳しいゆえ、当分そなたとも会えなくなる…」

麻衣「私はいいの。こうしてあんたと大きな思い出が作れたんだから…それだけで十分。もうあんたと一生会えなくたってあんたを恨まないわ」

ティオフェル「おい麻衣っ、安安と悲しいことを口にするでない!」

麻衣「いいえ、やっぱりあんたは私から見れば雲の上の男性なんだもの…そんなあんたが私みたいな平凡な女と付き合っていてはいけないわ。だから王室に戻って、これからはあんたの歩むべき道へ羽ばたいて…」

ティオフェル「麻衣っ!」

   麻衣、ティオフェルの言葉を遮る

麻衣「何も言わないで…だから最後に一つだけ。あんたと思い出作りに行きたいところがあるの?いい?」


○尖りの森・露天風呂
   
   麻衣が入っている

麻衣「イェヌーファ、いいわよ」

   女に扮したティオフェル、麻のタオルを巻いてしなしなと入ってくる

ティオフェル「(真っ赤)まさかそなたと共に入ることになるとは…」

麻衣「そんなに恥ずかしがらないでよ」

ティオフェル「おなごに扮していても中身は男なのだ!おなごであるそなたと湯を共にして平常である方がおかしいだろう?」

麻衣「確かに…」

   笑う

麻衣「でも変態よりかはずっといいわね」

ティオフェル「そなた…」

麻衣「でもイェヌーファ、いえ…ティオフェル…」

   遠くを見つめたまま

麻衣「あんただって本当はお分かりだったのでしょ?」

ティオフェル「え?」

麻衣「お分かりだったから今回、私を誘ってくれたんでしょ?」

ティオフェル「何を?」

麻衣「私知っているのよ、あんたもうすぐ結婚するんですってね」

   ティオフェルを見る

麻衣「おめでとう…心から祝福するわ」

ティオフェル「麻衣…」

麻衣「ご婚礼を挙げれば今までのように私と会う事もなくなる…例え友としてでも。そうでしょ?だから最後の思い出作りに…でしょ」

   ティオフェル、水で涙を隠す

麻衣「ちょっと泣かないでよ!涙は別れの時だけよ」

ティオフェル「全ては私が王族であるから悪いんだ…麻衣、私の身分を許してくれ…」

麻衣「ティオフェル…」

   ティオフェルの背中を擦る

ティオフェル「しかしきっと、そなたがまことの母親であること、正式に私と婚礼も挙げた仲だということを証明して見せるから、だから頼む…どうかそれまでずっと、私を信じて待っていてくれないか?」

   泣きながら

ティオフェル「麻衣、私にそなた無しでどうやって生きていけという!?そなた以外の女を娶れというか!?」


○同・山中
   
   山を下る麻衣、ティオフェル

ティオフェル「ついにここまで来てしまったか…」

麻衣「思うと寂しいわ…」

   二人、しんみり。そこへ血相を変えたエステリア

エステリア「麻衣様!王様!」

麻衣「エステリア!?」

ティオフェル「そんなに急いで一体どうしたのだ?顔色も真っ青だぞ?」

エステリア「王様も麻衣様は何処か遠くにお逃げになってください!」

ティオフェル「何があったのだ?説明しろ!」

エステリア「クレオ様が護衛達を派遣し、町中をナグカプ村まで範囲を広げて王様と麻衣様を探しておいでなのです!」

ティオフェル「母上が!?」

   麻衣を見る

ティオフェル「麻衣、その内必ず迎えに行くから今は私から離れて逃げろ!」

麻衣「ティオフェルは!?」

ティオフェル「私は宮殿に戻る!騒ぎの発端は私なのだ!尻拭いは私がしなければならぬ」

エステリア「しかし今戻れば、王様の自由は一生なくなってしまうのです!それだけではありません、これからはクレオ様に服従しなくてはならなくなるのです!」

ティオフェル「分かってる、そんなの覚悟の上だ」

麻衣「だったら私も宮殿に行くわ!」

ティオフェル「バカか、よせ!そなたが宮殿に顔を出すということは何を意味するか分かっているのか!?そなた、宮殿に戻って母上にお会いしてでも見ろ!八つ裂きにして殺されるぞ」

   泣いて震える

ティオフェル「冗談だと思うか?いや、母上は何をするか分からぬ、とても恐ろしいお方なのだ」

麻衣「殺されるのは覚悟の上よ!!さぁ、殺すんならいつでも殺すがいいわ!」

   麻衣、走って山を下る

ティオフェル「麻衣っ!」
   
エステリア「麻衣様!」

○アラセルバ市内

   麻衣とティオフェルとエステリア

麻衣「っ!?」

   そこにブブ、アミンタ、メルセイヤ

ティオフェル「あ…」

   麻衣を庇う

ティオフェル「ブブ、アミンタ、メルセイヤ!」

ブブ「王様、探しましたぞ!早くお戻りを!」

ティオフェル「今帰るとこだ!」

ブブ「アミンタ、メルセイヤ、王様をお連れせよ!」

   麻衣を見る

ブブ「そのおなごは捕らえ、チャルダの丘に送るのだ!」

ティオフェル「待てっ!チャルダの丘とは?一体麻衣をどうするつもりか?」

ブブ「それは後々クレオ様より処分を下してもらう…」

ティオフェル「そんな…どうして…」

ブブ「さぁ王様、あなた様も早くお戻りください。あなた様とてきっとクレオ様よりお叱りを受けますでしょう…」

ティオフェル「私など構わぬ、母上に殺されてもいいくらいだ!しかし何故麻衣が罰を受けるのだ?麻衣にはなんの罪もないだろう!」

ブブ「そのおなごは無礼にも王子様と王女様のお母上を名乗り、后の座を得ようと企んでいた謀反人ですぞ!その様な罪は死罪に該当するもの。しかしおなごよ、もしここで全ての罪を認めて謝罪するのであれば刑を取り下げることも出来るのですぞ」

麻衣「いいえ、何度同じ事を聞かれようが無駄でございます。私に嘘をつけと!?それこそ王室を冒涜する罪ではございませぬか!」

ブブ「何?」

麻衣「何度だっていいますわ。私は王子・アラダートと王女・シンティエルラとリヴィエッタの母親です!」

ティオフェル「麻衣!」

麻衣「以上です。死ぬことなど怖くないわ、さぁ!私をお殺しなさい!」

ティオフェル「ダメだ!」

ブブ「ほぉ…自分から死の道を選ぶとは」

ティオフェル「ブブ!」

   駆け寄る

ティオフェル「何故だ?何故に麻衣をここまでひどい目に合わすのだ!?一体麻衣が何をしたという!?」

ブブ「王様、ご無礼ながら王様もご存知でしょう…この者は無礼にも世継ぎであられるアラダート王子様のお母上を堂々と名乗っているのです。王室とは関係もない、ましてや見たこともない平民のおなごが何故に王子様のお母上だと言えましょう」

ティオフェル「だから何度も言っているであろう!なにゆえにそなたは私や麻衣の事を信用してくれぬ?そなたは私の重臣であろう!?私のことだったら幼き頃から今まで、何でも分かってくれていると思っていたのに…」

ブブ「王様…」

ティオフェル「確かに…そなたら城のものが国の将来を按じることも、私のことも世継ぎのことも按じているのはよく分かる。しかし、少しも信用できぬというか!?そなたの妻のメデアも、エステリアだってそう言っているのに?私はそんなに信用に足らぬ王か?私の目はそんなに嘘を言っているように見えるか?」

   麻衣を指す

ティオフェル「あの者が、権力だけを狙う強欲で嫉妬に狂うような女に見えるか!?」

   感情余って泣きそう

ティオフェル「そうか…私はそんなに信用されぬ人間なんだね」

ブブ「王様、その様な事…」

   ティオフェル、涙を隠して俯く

ティオフェル「国王は王室にいる女以外には恋をしてはいけぬのか?その様な想いを抱く事すらもいけぬのか?私の人としての自由も全て奪われる?だったら一体私は何を希望に、何を糧に生きていけばいいんだよ!」

   そこへクレオ

クレオ「ティオフェル!」

ティオフェル「(ハッと顔を上げる)母上…」

クレオ「何をまだ寝言を言っているのだ?目を覚まさぬか!」

ティオフェル「いいえ母上、私は正気です!何度も言っているではありませぬか!何ゆえにご理解くださらないのです?麻衣を悪者扱いするのです?」

クレオ「それはこの者が王室の冒涜者であり謀反者だからだ」

ティオフェル「母上こそ、目をお覚ましください!たったの数年前、数年前の出来事なのです!あの様に大きな出来事を何故に思い出していただけぬのですか!」

クレオ「黙れ!」

   兵士に

何をしておる!?王をはよお連れしろ!!」

アミンタ・メルセイヤ「は!」

麻衣「お待ちくださいませクレオ様!」

クレオ「気安く呼ぶ出ない!」

麻衣「でしたら私も共に連れて行ってください!私は八つ裂きでも毒酒でも何でも受ける覚悟ですわ!」

クレオ「なかなかのおなごだ、言われなくともそのつもりだわい!」

ティオフェル「母上!」

麻衣「もし王様をお辛い目に合わされるのでしたら、私をこの国で最も残酷で辛い殺し方でご処刑ください」

クレオ「それがそなたの望みであればそれもよかろう」

ティオフェル「母上!」

クレオ「そうだな、そなたがこの世にいなくなれば王とてもうそなたゆえに心患う事もないし、王室の騒ぎも落ち着く」

   アミンタとメルセイヤ、暴れるティオフェルの手足を縛って連れていく

ティオフェル「放せ!放せ!」

   エゼルが目に留まる

ティオフェル「エゼル…」

   エゼル、泣きそうに目を伏せてお辞儀

エゼル「王様、申し訳ございません…」

   ティオフェル、担架に乗せられて連れられていく

麻衣「ティオフェルーっ!」

ガーボル「黙らぬか!フィス、こやつの手足を縛れ!」

フィス「は!」

   麻衣の手足を縛る

フィス「小娘、大人しくしろ!」

ガーボル「覚悟しろ、これからお前をギタギタ八つ裂きにしてやるわ」

   ガーボルとフィス、麻衣を連れていく

麻衣「覚悟の上よ!その代わりあんたらの名は後世に語り継がれるわ!」

   大声で

麻衣「世継ぎの王子の実の母親を殺した大罪人ってね!」

フィス「こやつまだ言うか!」

ガーボル「口を引き裂くぞ!」

麻衣「好きになさい!」

   ガーボル、麻衣の口を切る

麻衣「うっぅ…」


○アラセルバ王室・ティオフェルの寝室
   
   ティオフェル、虫の知らせにハッとする

メデア「王様…?」

ティオフェル「麻衣っ!」

   ティオフェル、取り乱す

ティオフェル「麻衣は!麻衣は!」

メデア「王様、お気を確かに!」

   ***

   ティオフェル、落ち着くが放心状態。

ティオフェル「エゼルは?」

エゼル「はい…」

   入室。

ティオフェル「エゼル、何故下を向いている?顔をあげよ」

エゼル「僕は…王様に合わせる顔がないのでございます…」

ティオフェル「どういうことだ?」

   静かに

ティオフェル「何かあったみたいだね…一体何があったんだ?話しておくれ」

エゼル「僕、王様をお裏切りしてしまったのです…絶対誰にも漏らさないってお約束したのに」

ティオフェル「え?」

   エゼル、泣き出す

エゼル「本当に申し訳ございませんでした!僕にはもう小姓の資格がありません!どうか僕を打ち首にしてください!」

ティオフェル「まず理由を話してくれないと分からないだろ?一体何があったんだ?」

   エゼル、暫く口ごもっている

エゼル「忘れてしまったのです…」

ティオフェル「え?」

エゼル「王様がお体につけていらっしゃるイヤリングと腕飾りのことをすっかり忘れてしまっていました。故に何もつけていないことがバレ、自白をせざるを得なくなってしまったのです」

   者繰り上げている

エゼル「僕さえきちんと準備をしていればこんな事にはならなかったのに、王様のお役に立つどころか多大なご迷惑をおかけしてしまいました…」

   ティオフェル、黙って話を聞いてる

エゼル「だからここまでバレてしまった以上、自白をしなければ僕だけでなく王様までが危険に晒されてしまうと思ったから…」

   ティオフェルを見る

エゼル「僕なんてどうなったって構わなかったんです…でも、王様が…王様が」

   ティオフェル、笑う

ティオフェル「お前は…」

エゼル「え?」

ティオフェル「容姿や性格だけじゃなくて、そんなとこまでも千里にそっくりなんだな」

エゼル「千里って…?」

ティオフェル「私の古い友さ。歳は麻衣と一緒なんだ…」

エゼル「僕をお咎めにならないのですか?」

ティオフェル「そなたを咎めるだって?まさか!」

   微笑む

ティオフェル「何故にそなたを咎める必要がある?」

エゼル「だって僕は…」

ティオフェル「ありがとう、そなたには感謝してる。私こそ本当に申し訳なかった…私のためにそなたにこんな辛くて怖い思いをさせてしまって…」

エゼル「王様…」

ティオフェル「本当はものすごく辛くて怖かったはずなのに、そなたは最後の最後まで自らを犠牲にしてまで私の事を守ってくれようとした」

エゼル「…」

ティオフェル「そなたは最高の小姓だよ…」

エゼル「王様…」

   泣き出す
 
エゼル「僕は王様の小姓失格です!使用人としてあってはならぬことをしてしまいました!どうかその様にお優しくおっしゃらないで下さい!もっと僕をお責めください!いえ、どうかどうか僕をお殺しください、僕は死に値する大罪を犯したんです!」

ティオフェル「泣き虫なところまであいつそっくりだ…おいで」

   エゼルを側に引き寄せて抱く

ティオフェル「全く…だから私はそなたを責めてもいないし怒ってもいないといっているだろう?もう泣くな…」

エステリア「しかし恐れながら王様…」

ティオフェル「何だ?」

エステリア「この国の王様はあなた様なのです!クレオ様ではありません!」

ティオフェル「そんな事は分かっているよ…」

エステリア「実権をお握りなのは王様ではありませぬか!何ゆえにお弱気になっておられるのです?何故にクレオ様のお言いなりになるのです!」

ティオフェル「今の母上に何を言ったって無駄ではないか。私が母上に抗議したところで聞く耳を持たない」

リータ「こんな話を聞いても…そんな事をお言いになるおつもりですか?」

リータ「先程…牢獄の刺客がチャルダの丘に派遣されました。クレオ様は本気で麻衣様をお殺しになられるお
つもりです!」

ティオフェル「何だって!?」

エステリア「このままでは取り返しのつかぬことになってしまいます!麻衣様をこのまま見殺しになさるおつもりですか?王様!」

   ティオフェル、立ち上がり退室


○同・クレオの書斎
   
   ティオフェル、入室

ティオフェル「母上っ!」

クレオ「ティオフェル、何の用だ?」

ティオフェル「この国の王は母上ではありません、私です!」

クレオ「今更何を言っておる?」

ティオフェル「王である私に何の断りもなしにお決めになるなどどういうおつもりですか?」

クレオ「何がだ?」

ティオフェル「麻衣の事です」

クレオ「叉もあのおなごの事か…」

   ティオフェルも見ずに

クレオ「そなたは王とは名ばかりで、政務もろくにこなさず学業もしない…なのに都合のいい時だけ王の面か?」

ティオフェル「母上!」

ティオフェル「とにかく、これからは王である私が決めますので母上は口出ししませんよう…」

   ティオフェル、去ろうとする

クレオ「あのおなごの事だったら、もう時は遅い…」

ティオフェル「え?」

クレオ「既にチャルダの丘へ刺客が送られた。まもなくあの者は首をとられるか八つ裂きであろう…そなたがどんなに急いだとて間に合わぬだろう」

ティオフェル「そんな!」

   走って退室

   ***

   ティオフェル、イェヌーファになって王室を飛び出る


○チャルダの丘
   
   麻衣、火刑台にかけられている

ガーボル「さぁ、言い残すことと心残りはもうないか?」

麻衣「心残り…一つだけあるわ」

ガーボル「何だ?」

麻衣「私が死ぬ前にこれだけは教えてちょうだい。王様はご無事なの?」

ガーボル「その様なことお前には関係ない!」

麻衣「教えてくれたっていいじゃないの!」

フィス「あぁ、なら教えてやるよ。王様はご無事さ。しかし生きながら死の苦しみを味わっているだろう」

麻衣「何ですって!?」

フィス「全てはそなたのせいなのだ、そなたが悪い」

麻衣「あぁ…」

ガーボル「そんなにも恋しきゃ、いつしか冥土でお会いすりゃいいさ。そこなら誰も咎めやしん」

   火を燃やそうとする

ガーボル「んじゃ、短い生涯で悪いな…でも悪いのはお前さんだ。あばよ…」

麻衣「なんて薄情な人たちなの!?」

   麻衣、目を閉じる。火が燃え上がる。

麻衣M「あぁ…私、死んでいくんだわ…死ねば私、平成に戻るのかしら」


   数時間後。ティオフェル、息を切らしてやってくる

ティオフェル「麻衣?麻ー衣っ!」

   きょろきょろ

ティオフェル「麻衣は一体何処に連れていかれたんだ?まさか…」

   蒼白

ティオフェル「まさか、もう殺されてしまったのでは…」

   走って回る

ティオフェル「麻ー衣!麻ー衣っ!」

   火刑台が目につく。

ティオフェル「あれは…」

   周りには処刑者の生々しいミイラと生首。ティオフェル、その中の一つに恐る恐る近寄る。

ティオフェル「嘘だ…まさか…」

   一つの女性のミイラと生首。マリシュカ・マリッツァと書かれている。

ティオフェル「これって…麻衣…?」

   崩れ去る

ティオフェル「そんな…麻衣が…嘘だ!嘘だ…」

   静かに泣き出す。ルル、悲しげにティオフェルの肩に止まる

ティオフェル「ルル…」

   ルルを抱き寄せて泣く

ティオフェル「私はなんてダメな王なんだ…王としての責務さえ果たせず母上に逆らえず言いなりにばかりなって…その結果こんな事になってしまった。もう取り返しもつかぬことになってしまって…私は一体どうすればいいのだ…」

   ルル、ティオフェルを慰めるように頬を擦り寄せる

ティオフェル「ルル…私を慰めてくれるのだね、ありがとう…」

   ***

   暫くして。ティオフェル、丘をとぼとぼ下る


○エギ通り
  
   人通りは多い。ティオフェル、とぼとぼ歩いている


ティオフェル「あ…」

   アッコールントルタの前で立ち止まる。泣きそう

アデレ「おや?」

   にっこり

アデレ「お前さんあの時の娘さんかい?まだ名前も聞いていなかったねぇ、なんて言うんだい?」

ティオフェル「イェヌーファと申します」

アデレ「まぁまぁイェヌーファちゃん、可愛らしいお名前だこと。暫く見ないうちに立派な娘さんになって!ここ何年も顔を見せなかったからどうしたんだろうと心配していたんだよ」

ティオフェル「ごめんなさい…でもお婆様がまだお元気そうで嬉しいわ」

アデレ「ドングリ餅を食べに来たんだろ?焼きたてだよ、食べな」

ティオフェル「えぇ…ありがとう…」

   悲しげ

アデレ「どうした?元気ないじゃないか?何かあったの?」

   ティオフェル、手で顔を覆って泣き出す

アデレ「まぁまぁどうしたの?」

   アデレ、ティオフェルを抱き寄せる

ティオフェル「お婆様、私どうしたらいいの?もう分からない…」

   者繰り上げながら

ティオフェル「私の大切な親友が火刑台で…火刑台で殺されてしまったのよ!」

アデレ「まぁ!?またどうして…」

ティオフェル「分からないわ…彼女になんの罪はないのよ。それなのにどうして殺されなくてはいけなかったの!?」

   大声で泣き続けている。アデレ、ティオフェルを慰める

   ***

   ティオフェル、涙を拭う

ティオフェル「お婆様ありがとう、もう大丈夫よ…」

アデレ「もう帰るの?一人で帰れるかい?」

ティオフェル「大丈夫…さようなら…叉来るわ」

   ティオフェル、魂が抜けたように歩いていく


○アラセルバ宮殿・ティオフェルの書斎
   
   ティオフェル、塞ぎ混んでいる

メデア「王様…」

ティオフェル「なんだ?」

メデア「クレオ様がお見えです」

ティオフェル「母上が?」

   クレオ入室

クレオ「ティオフェル」

ティオフェル「なんのご用でしょうか?」

クレオ「母に向かいその口の聞き方はなんだ?」

   咳払い

クレオ「まぁ良いわ。それより喜べ!正式にそなたの婚礼の準備を始める事が決まったのだ」

ティオフェル「婚礼ですって!?」

ティオフェル「言った筈です!この国の王は私だと!何ゆえに母上が私の了承を得ずに勝手にお決めになられるのです?」

ティオフェル「婚礼に関しては、私は一切納得をしておりません!」

クレオ「そなたの慕ったあのおなごは死んだ。もう未練はあるまい」

ティオフェル「いいえ母上、私は彼女がこの世にいなくなったとて彼女以外のおなごを愛するつもりはありませんし、彼女なしに后を迎えたいとも思いません」

クレオ「何を戯け事を!そなたは…何度も言うがこの国の王であるぞ。その様な心でどうやって安泰な国を築く?」

ティオフェル「私の事を王だとおっしゃるのならば、何故私の断りなしに母上が勝手に事を進めるのです!?」

クレオ「そなたは…母に対してどれだけ口答えをすれば気が済む!?」

ティオフェル「それに…安泰な国なら私でなくとも築けるはずでは?」

クレオ「なんだと?」

ティオフェル「政治や学業には少しも興味がなく、王としての自覚のない私に王位を任せるよりかは邪馬台国におられる私の兄上・イプスハイムや伯爵のブブに国の将来を任せるのが懸命ではないでしょうか?ブブとて落ちぶれてはいるが、ギルデンバッハの血を受ける王族の端くれであります」

クレオ「そなた…このアラセルバ…我がデリヴォル家の血統をなんだと思っている?」

ティオフェル「母上こそ、私の人生を一体何だと思っておいでなのですか?王を何だと思っておいでなのですか?私は母上の人形ではありません!」

クレオ「ティオフェル!」

ティオフェル「王子と王女のこともお考えください!」

クレオ「なんだと?」

ティオフェル「ご覚悟ください…きっとこの3人が後に真の母のことを知った時、母上やブブ、その他の重臣たちはきっと恨まれ、アラダートが王位についた時きっとみなに思い復讐をお与えになるでしょう…だって実の母親は無実冤罪で殺されたのですから!」

クレオ「ティオフェル!」

ティオフェル「もしお母上が、どうしても私に正室をとれと仰せなのであれば、私とて考えはあります」

クレオ「そなたの考えですと?一体どのようなものじゃ?聞かせてみよ」

   クレオ、笑う

ティオフェル「分かりました、では言いましょう。もし本当に婚礼をとお考えならば…私は婚礼前に王座を放棄し、別の信頼のおけるものに譲位いたします」

クレオ「なんじゃと?ティオフェル、もう一度申してみよ!正気で言っているのか?」

ティオフェル「えぇ、もちろん私は本気です。これで私は王位とは関係なくなります」

クレオ「ティオフェル!」

ティオフェル「政治は私でなければ出来ないということはということではありません。では…」

   退室


○同・ティオフェルの書斎
   
   ティオフェル一人

ティオフェル「はぁ…」


   舞踏会前日


○ケト村・ブブ宅
   
   エゼル一人

エゼルM「こうして王様が休暇を下さったのはいいけど…やっぱり王宮にいないと王様が気がかりだな…」

   そこへリータ

リータ「エゼル」

エゼル「姉さん…」

リータ「また王様と麻衣様の事を考えていたんだろ?」

エゼル「はい…」

エゼル「姉さん、王様はいつも麻衣様をお想いになりお心痛めておいでなんだ。僕見ていられないよ…」

リータ「見ていられないのに王様のお側にいないと落ち着かないのかい?」

エゼル「だって…」

リータ「んじゃ王様にお話しするかい?クレオ様からのお罰し覚悟で…」

エゼル「何を?」

リータ「実はアナスターシャ女王様から聞いたんだ」

   エゼルに耳打ち

   エゼル驚く

エゼル「姉さん、それって…」

リータ「本当さ。嘘だと思うんなら確かめてごらん」

エゼル「じゃあ今、何処に…?」

リータ「ケスポントゥだよ」

エゼル「ケスポントゥ…?」

リータ「知らないかい?アラセルバ北部の里村だよ」

エゼル「しかしなんでアナスターシャ女王様が…あ!」

   手を打つ

エゼル「姉さん、僕にいい考えを思いつきました!ちょっとお耳を…」

   ブブ、こっそり影で見ている。


○ケスポントゥ村・小屋家
   
   麻衣、眠る準備。かたんと物音

麻衣「ん?」

   きょろきょろ

麻衣「何?」

アナスターシャの声「麻衣、そなた宛の手紙が来ているぞ」

麻衣「私宛の手紙?こんな時間に?」

   ***

   麻衣、手紙を持って部屋に戻る。読み出す。

手紙文《親愛なるマリッツァ嬢。この度あなた様を優先的に霧の舞踏会へとご招待致します。明日深夜の鐘がなる頃、あなた様の家へ霧の使者がお迎えに上がりますゆえどうかご準備を。霧の男爵E・アールフォン》

麻衣「どなたかしら?それより舞踏会への招待状って…?」

   笑って横になる

麻衣「まさか!きっといたずらに決まってる!お休み」

   眠る


○アラセルバ王室・ティオフェルの寝室
   
   ティオフェルとエゼル

エゼル「王様、今日から舞踏期間です。王様確か今年は行かれたいとおっしゃっていたではありませんか!」

ティオフェル「行きたくはない…」

   虚ろ

ティオフェル「私の最愛の者がいないんだ…麻衣無しで一体どうやって踊れという?」

エゼル「王様…」

エゼル「いえ王様、エゼルは何としてでも王様に舞踏会にご出席していただきます!」

ティオフェル「行かぬといっている!」

エゼル「いいえ!」

ティオフェル「しつこいなぁ!そんなに踊りたければエゼル、そなたが一人でいけばよかろう!」

エゼル「いいえいけません、王様がご一緒でなければ意味がないのでございます!」

ティオフェル「え?」


○アッコールントルタ・麻衣の寝室
   麻衣、時計をチラチラ

麻衣M「悪戯だって分かっているのに時間を気にしてしまうのは何故…?」

   横になる

麻衣「あぁ馬鹿馬鹿しい!寝よ…」

   ***

   深夜12時。鐘が鳴る。麻衣、熟睡。

   ***

   エゼル、髭面の紳士に扮して部屋に侵入

エゼル「マリッツァ嬢、マリッツァ嬢!」

麻衣「ん…」

エゼル「マリッツァ嬢、お起きなさい」

麻衣「煩いなぁ、誰?」

   うっすら目を開ける

麻衣「…?」

   飛び起きる

麻衣「あんた誰っ!?」

エゼル「シッ!」

   丁寧に

エゼル「申し遅れました。私は霧の国から参りました、男爵のE・アールフォンと申します」

麻衣「E・アールフォン…手紙の?」

エゼル「はい。今宵はあなた様を霧の舞踏会にお迎えに上がりました」

麻衣「舞踏会?ではあれは悪戯ではなくて本気だったの?でもどうして私なんかに…?」

   エゼル、黙って微笑む

エゼル「詳しいお話は行ってから。さぁマリッツァ嬢、参りましょう!」

麻衣「参りましょうと言っても私は…」

エゼル「そのままで大丈夫です。それでは…」

   麻衣の手をとって外へ出る

麻衣M「まぁ…寝巻きのままの舞踏会なんて聞いた事ないわ」


○ハーロム中央広場
   
   女装ティオフェル、リータに連れられてくる

ティオフェル「おい、本当に行くのか?」

リータ「もうここまで来てしまって ”やっぱり帰る” はありませんよ!王様でして本当は踊りたいのでしょう?」

   ニヤリ

リータ「王様の踊りは天下一品との噂ですからね」

ティオフェル「煩い!それに王様と呼ぶな!」

リータ「分かりました、イェヌーファ」

   ティオフェル、テラスに向かう

リータ「お…イェヌーファ、一体何処へ?」

ティオフェル「ちょっと休憩よ」

リータ「今来たばかりなのに!?」

   ティオフェル、座る

ティオフェル「旦那様、ワインを一本ちょうだいな」

リータ「ま、ここに座っておとなしく待ってて貰ったほうがいいかもね。さて、私は…」

   近くの青年をナンパ

リータ「兄ちゃん、私と一緒に踊らないかい?」


サルヴァート「娘さん一人かい?」

ティオフェル「えぇ…」

サルヴァート「そうか。でも君みたいな美人なら、ここにいりゃすぐにでも誘いが来るよ」

   持ってくる

サルヴァート「はいワイン、つまみはいるかい?」

ティオフェル「ウズラのジャーキーを…」

サルヴァート「畏まりました」

   ***

   ティオフェル、泥酔状態になりかけている。リータ、ティオフェルに駆け寄る。

リータ「(小声)王様、王様、確りなさってください!」

リータ「全く…こんなに飲んで、わたしゃ飲ませるために連れてきたんじゃないよ…」

ティオフェル「麻衣ぃ…んーん…」

リータM「エゼルは一体何やってるんだ?」


○オクターブの店
   
   仕立て屋。

エゼル「さぁ、入って」

   大声

エゼル「オクターブ!」

   オクターブ、出てくる

エゼル「この娘にとっておきの衣装を合わせてやってくれ」

麻衣「男爵、困りますわ!私は一文なしなのです!」

エゼル「ご心配なく」

オクターブ「お代入りません。それではマリッツァ嬢、こちらへ…」

   ドレスを選びながら

オクターブ「あなた様の事はよく存じております。王様のご正室になられる方でございましょう」

麻衣「あの…」

オクターブ「故にうんと綺麗にして差し上げます」

オクターブ「ハハハ…私はただの老いぼれ仕立て人ですから王室との繋がりはございませんし、貴方様がご来店なさったことを誰かに喋るなんてことも致しませんのでご安心を」

麻衣「はい…ありがとうじいや」


○ハーロム中央広場
  
    麻衣とエゼル

エゼル「マリッツァ嬢、ここが会場です」

麻衣「まぁ…」

エゼル「あちらのテラスにてお待ちくださいませ」

麻衣「何するの?」

エゼル「あなた様にお会わせしたい方がいるのです」

麻衣「誰かしら?」

   ***

   テラス。ティオフェル、泥酔。そこへ麻衣。

エゼル「ほらマリッツァ嬢、あの娘さんです」

麻衣「あの方は?」

エゼル「とても高貴なお方です。貴方様もお会いになれば分かりますでしょう」

   ティオフェル、朦朧と二人を見る

ティオフェル「誰…」

エゼル「(小声)王様、僕ですよ。エゼルです」

ティオフェル「エゼル…?私にそんな知り合いいたかしら?」

エゼルM「んもぉ、こりゃダメだ!王様は完全に酔っていらっしゃる…」

麻衣「旦那様、私にもこれと同じワインを一本!」

   麻衣も飲み出す

   ***

   麻衣も朦朧

麻衣「ところでお姉さんはこの町の方?」

ティオフェル「えぇ…私はエギ通りのイェヌーファって言うの…」

麻衣「誰かと待ち合わせ?踊らないの?」

ティオフェル「踊りたくないの…独りぼっちなんですもの、寂しい」

   飲み続けている

麻衣「そう…私もよ。あなたと同じ…」

   酔に任せて

麻衣「でも、折角来てるのですもの踊らなくっちゃ!」

ティオフェル「でも…」

麻衣「存分に踊って寂しい気持ちなんか吹き飛ばしましょう」

ティオフェル「ちょっと!」

   無理矢理ティオフェルの手をとって踊りの輪の中に入って踊りながら

麻衣「私はケスポントゥ村のマリッツァ。周りの人は私を王様のご正室とかデマをいっているわ…フッ」

麻衣「もう死んでる人間なのにね、人間に私の事が見えるのが不思議だわ」

麻衣「私はもう幽霊でこの世にはいないのよ。でもきっと、彼への未練がまだ冥界へ行けずにいるんだわ…」

ティオフェル「…」

   ティオフェル、眠る

麻衣「まぁ眠ってしまったのね…女の子なのにあんなに飲むからよ」

   ティオフェルをテラスに座らせる

麻衣「イェヌーファって言ったわね、お家は何処?」

   そこにリータ

リータ「イェヌーファ!」

麻衣「お友達ですか?」

リータM「マリッツァ様だよ…あぁ、お二方とも折角会えたってんのにどちらも酔いつぶれちまってるよ…」

   咳払い

リータ「や、私はこの子の姉さ。もう、言わんこっちゃない!さぁ」

   ティオフェルをおぶる。リータ、麻衣に頭を下げて帰っていく。麻衣、欠伸

麻衣「私も何だか眠くなってきちゃった…お休み…」

   テーブルに突っ伏せる

   ***

   イプスハイムが来る。きょろきょろ。

イプスハイムM「おぉ、なにか賑やかいと思ってきてみたら…今日はアラセルバの祭りであったか。懐かしい…」

   少年時代を思い出す。

イプスハイム「昔よく、エステリア嬢や姉上と共にここで踊ったっけ」   

   
   酒場付近

イプスハイム「ん?」

   麻衣に近づく

イプスハイム「そなた、大丈夫か?」

   揺する

イプスハイム「これ、起きなさい!風引くぞ!」

   麻衣、起きない

イプスハイム「全く…おなごなのに酔いつぶれるとはみっともないぞ」


○ホテルロコモコ・一室
   
   麻衣、寝かせられる

イプスハイム「この娘は一体何処のおなごなのだ?まぁ良いわ…明日身の上を聞こう」

   伸びて

イプスハイム「邪馬台国からの旅はほとほと疲れるわい…私も寝るとしよう」

   イプスハイム、麻衣を寝かせた部屋を出る。


   ***

   翌朝。麻衣、起きる。そこへイプスハイム。

麻衣「ん…んーっ」

   イプスハイムを見て警戒

麻衣「どなた?」

イプスハイム「起きたか?」

   笑う

イプスハイム「何、私は怪しいもんじゃない。それほど警戒するな」

麻衣「何故私はこんなところに?」

イプスハイム「そなた、昨日の晩の出来事を覚えとらんかね?」

麻衣「昨日?」

イプスハイム「まぁ…あれだけ酔いつぶれてりゃ、覚えてろって方が無理な話だが」

イプスハイム「私は昨晩、舞踏の会場で酔いつぶれているそなたを見つけたんだ。何度も声をかけたが起きんかったから身元も分からぬゆえここに連れてきた」

麻衣「あぁ…そうだったの」

イプスハイム「何だってあんなに飲んだんだ?」

   麻衣、警戒している

イプスハイム「訳があるんだろ、話せ。聞くぞ」

麻衣「その前にまず旦那様が誰なのかを教えてくださいませ。そうしたら私の身の上もお話ししましょう」

イプスハイム「何ゆえ私をそこまで警戒するのだ」

   改めて

イプスハイム「私の名前はイプスハイム。邪馬台国から来た」

麻衣「邪馬台国から?イプスハイム様?」

麻衣M「何処かで聞いた事のあるような名前ね…」

イプスハイム「こんな身なりはしているが一応は私も王子だ。元アラセルバのな…」

麻衣「え?」

イプスハイム「私には長年会っていない年の離れた弟がいるのだが、その弟が国王に即位していた事を知ったゆえ、再会を喜びつつも弟君に重要な話をしに参ったのだ」

麻衣M「ひょっとしてティオフェルの事かしら…ということは何?この方はティオフェルのお生き別れになったお兄様!?」

イプスハイム「私は話した。次はそなたの番だ」

麻衣「私はマリッツァと申します。ケスポントゥ村の小さな小屋家に身を置かせていただいています」

   話を続ける

   ***

麻衣「…という訳なんです。なので私は事実もう生きている人間ではないのです…」

イプスハイム「なるほどね…つまりそなたの想い人にはもう二度と会うことも出来ないし、アラセルバで公に堂々と生きることも出来ないというわけか…」

イプスハイム「話は分かった」

   微笑む

イプスハイム「安心なさい、私はそなたの味方だ」

麻衣「旦那様?」

イプスハイム「ではアラセルバは今、そなたにとって危険で窮屈なのだろう?だったらどうだろう、暫くは私の住む邪馬台国に身を寄せては如何かな?」

麻衣「邪馬台国に?」

イプスハイム「あぁ。そなたに何不自由はさせないと約束しよう。そして時が経ち、王室がそなたの事を忘れた頃にまたここへ戻り、想い人に会いにゆけばいい…」

麻衣「旦那様…」

   イプスハイム、笑う

イプスハイム「そう堅くなるな。私の事はイプスハイムと呼んでくれ」

麻衣「はい…イプスハイム様…」

○アラセルバ宮殿・ティオフェルの寝室
   
ティオフェル「うぅっ…」

   目覚める

ティオフェル「飲みすぎたみたいだ…頭がガンガンする…」

   そこへエゼル

エゼル「王様、お目覚めですか?お召し換えを…」

ティオフェル「エゼルか…」

エゼル「王様どうなさったのですか?ご気分が優れないのですか?」

ティオフェル「あぁ…また飲みすぎてしまったみたいなんだ」

   ゆっくり上体を起こす

ティオフェル「昨日の事もほとんど覚えていないんだ…エゼル、私は何か変なことをやったり口にしたりしなかっただろうか?」

エゼル「ご安心を。その様なことは何もございませんでしたから…」

ティオフェル「そうか、良かった」

   ボンワリ

ティオフェル「私は確か、強引にそなたに連れられて舞踏会に行ったんだろ?そこまでは何とか覚えてるんだ…でも、その後のことが全く思い出せない…」

ティオフェル「夢を見ていたことだけは何となく覚えているんだけどね…現実のことが…あぁ」

エゼル「夢ですか?」

ティオフェル「そう…死んだ麻衣が夢に出てきたんだ。彼女は舞踏会で私の手を取り共に踊ってくれた。夢のまるで生きていたあの時と同じ姿で…」

   静かに話ながら涙を溢す

ティオフェルM「麻衣…きっとそなたは今頃墓地の中で…あるいは生まれ変わった世の元、私の事を恨んでいるだろう…ごめんよ麻衣」

エゼルM「王様は麻衣様にお会いしたことを夢の中の事だとお思いなんだ…どうしよう、本当の事を言うべきかそれとももう少し黙っておこうか?」


○同・クレオの部屋
   
   クレオイライラ

クレオ「王はまだお起きにならぬのか?」

メデア「はい、王様は少しお体の具合が優れぬようでして…」

クレオ「また私に隠れて呑みに行ったのか?」

メデア「クレオ様!」

クレオ「ティオフェルの体調が戻ったら私に知らせなさい。先にエステリアをここへ呼べ」

   ***

エステリア「クレオ様、私にご用とは何でしょうか?」

クレオ「王の婚約発表の件でな…」

エステリア「私に王妃になれとおっしゃいますか?」

   きっぱり

エステリア「でしたら恐れながらクレオ様、私はお断り申し上げます」

クレオ「何故だ!」

エステリア「私は、イプスハイム様の妻になるべくこの国にやってまいりました。勿論今でも私の心はあの方一筋です」

クレオ「エステリア!そなた、まだその様な事を言っているのか!?申したはずだ、イプスハイムはもう王室には戻らん!以前、何のためにここへ顔を出したのかは分からぬが、あれはもうアラセルバを捨てた男なのだ!いい加減に諦めろ!」

エステリア「クレオ様、私の心はずっと昔より変わらずにイプスハイム様だけをお慕いしているのです!たとえどの様にお姿が変わられていようと、エステリアめの心は変わりません!

エステリア「それに、イプスハイム様は必ずこの国に戻られます。以前、お城を出られたことでして、絶対に何か理由があるはずなのです!」

クレオ「理由?」

エステリア「はい、そうですわ。あの方は身勝手で無責任なことをするようなお方ではありませぬ!それはお母上であられるクレオ様が一番ご存知のはずではございませぬか!」

クレオ「エステリア…」

   呆れてため息。

クレオ「そなたも流石、マリシュカ・リオーネの娘だ。その頑固さは母親そっくりだわ」

クレオ「もうよい、そなたの有無は問わぬ!」

エステリア「クレオ様…どうするおつもりで?」

クレオ「エステリア、これは王命だ!」

   王命の巻物を突きつける

エステリア「クレオ様…?」

クレオ「エステリア、ティオフェルとの世継ぎを作れ!そして王妃就任の儀をあげるのだ!」

エステリア「クレオ様!」

クレオ「これは王子と王女のことを考慮しての事だ。エステリア、悪く思うな」

   クレオ、退室。


○同・応接間
   
   数日後。

クレオ「そなたは…またここに参ったかイプスハイム!今さら一体何の用だ!」

イプスハイム「何の用だは酷いではないですか母上、私は実の息子ですよ」

クレオ「それで?」

イプスハイム「王様にお目通りを願いたい。本日はいらっしゃるのでしょう?」

クレオ「王に?用件は?」

イプスハイム「長年会っておらぬ弟に一目お会いしたいと…」

   クレオ、胡散臭そう

クレオ「良かろう…」

   ***

   イプスハイムとティオフェル

イプスハイム「おぉ、ティオフェル!」

ティオフェル「そなたが私の兄上か?」

イプスハイム「そうだティオフェル、久しぶりだな。そなたこの様に無事成長しているのを見て私も安心した。私無きアラセルバの後継はどうなるのであろうと按じていたのだ」

ティオフェル「良く言うよ!」

   不貞腐れる

ティオフェル「兄上のせいなんですよ!兄上さえ真面目でアラセルバ宮殿にいてくだされば、私は王にならずにすんだのに…」

イプスハイム「王でいることが嫌なのか?」

ティオフェル「嫌で嫌で仕方がありません。そもそも私は国王になるさだめではなかったのですから…」

   イプスハイムを睨む

ティオフェル「しかしやっと兄上もこうやって帰ってこられたんだ。ですから兄上、事実を元に戻してください。そのためにこうして私に会いに来てくださったんでしょ?」

イプスハイム「どういうことだ?」

ティオフェル「つまり、兄上が今後のアラセルバをお継ぎ下さいといっているのです」

イプスハイム「ちょ、ちょっと待て!本気でその様な事を言っているのか?」

ティオフェル「あぁ、もちろん私はいつでも本気だよ」

イプスハイム「考え直せ!私がここへこうして出向いたのはそんな理由ではない!」

ティオフェル「そうなの?寧ろその方がずっと嬉しかったよ…」

   ため息

ティオフェル「で、何の用?」

イプスハイム「それがですねぇ、王様…実は私がここへ上がったのは2つのお話をするためなのだ」

ティオフェル「2つの…話?」

   ***

ティオフェル「え?それは一体…」

イプスハイム「そう…それが15年前、私が城を出た理由だ」

ティオフェル「そんな事が…」

イプスハイム「しかし、騒ぎの発端である当時の女中・サルヴァーナの消息が分からない…」

ティオフェル「彼女を探し出してどうするつもりだ?」

イプスハイム「当時の話がまだ彼女とついていない。故に、改めて彼女と話をしたいのだ」

ティオフェル「それで…王室にサルヴァーナを探すために手を貸してほしいと?」

イプスハイム「あぁ。彼女を探して会わせてほしい…」

ティオフェル「では兄上はその女中のことが…」

イプスハイム「まさか!勿論、サルヴァーナ私もそんなつもりではなかった…」

   イプスハイム、思い出して震えだす

イプスハイム「泥酔に任せた私の過ちだったのだ…のんでくれるか?」

ティオフェル「いいよ…」

ティオフェル「それで、そのサルヴァーナと同期で働いていた女中や王族が誰だったかは覚えておいでですか?」

   考える

ティオフェル「ギルデンバッハから父上の時代にかけての話でしょ?」

イプスハイム「あぁ…私の乳母であるアンダリーザ、そして姉上の乳母であるアビガレーゼ」

ティオフェル「その二人は知らぬ名だ」

イプスハイム「それから、サルヴァーナは3人侍女の一人だったから」

ティオフェル「3人侍女って…給仕棟のか?」

イプスハイム「知っているのか?」

ティオフェル「知っているも何も…今でもいるよ。イェドゥーナとイローナとサンドリーナ…」

イプスハイム「彼女だ!」

   ティオフェル、ビクリ

イプスハイム「まさにイェドゥーナとイローナだよ!彼女らが当時、サルヴァーナと仕事をしていた仲間なんだ」

イプスハイム「では早速、私は2人に直接会って話を聞いてみる」

ティオフェル「でも兄上、もう一つあるのだろう?もう一つ私に話したいことというのは?」

イプスハイム「いやいい、大したことでない故これはまた今度の機会にしよう」

   退室しようとする

ティオフェル「ちょっと待った!」

イプスハイム「何だ?」

ティオフェル「兄上の要件だけ私に聞けというか?そんなの不公平だ!」

   むっつり

ティオフェル「サルヴァーナの件、私も協力してやってもいいけど、その代わり…勿論私の頼みだって聞いてくれるでしょう、兄上」

イプスハイム「そなたにも…何かあるのか?」

   ***

イプスハイム「なるほどね…良いだろう」   

   ティオフェルの方を叩く

イプスハイム「私に出来ることなら私とて協力する。んで、そのおなごは?今何処に住んでいる?名は何と申すのだ?」

ティオフェル「冥界だよ…」

イプスハイム「え…」

ティオフェル「彼女はもう亡くなっていてこの世にはいないのだ。私のせいで、彼女は死んでしまったんだ」

イプスハイム「何故…」

ティオフェル「実は私にはもう王子と王女があるんです…3人の子の父親なんだ。しかし王室は子の母親が不明だと騒いでいる…私やメデアが母親の事をいくら言ったとて、母上もブブも誰も信じてくれない…そのおなごこそがまさに子の母親なのに…」

   泣き出す

ティオフェル「数年前、戦が終わった後に私と彼女は大々的な戴冠式を挙げて、子の誕生も王室全員が見届け、母上もブブも喜んでくれたのに今やみんな覚えちゃいない…あれほど大きな出来事だったのに何故…」

ティオフェル「兄上、そのものは自らが王子の母親だと名乗ったが原因で王室の冒涜した謀反者として、火刑にされてしまったのです!実の母親なのに、子に会うことすら出来ず殺されるだなんて無念でなりません!」

イプスハイム「そこで私に何をしてほしいと?」

ティオフェル「亡くなった彼女が実の母親であるという証拠を探して欲しいのです!そして王室が間違っていたと、彼女に謝罪をして欲しい…」

イプスハイムM「うむ?この話…何処かで聞いた話に似ているような…」

ティオフェル「兄上!」

イプスハイム「分かった、引き受けよう」

ティオフェル「本当ですか!」

イプスハイム「あぁ、勿論だとも。ではお互いになにか分かったら報告し合おう。では、私はもう行く」

   イプスハイム、王宮を去る

クレオ「イプスハイムと何を話していたのだ?」

ティオフェル「母上」

   悪戯っぽく

ティオフェル「男同士の話です」


○同・給仕棟
   
   女中たちが働いている。

イプスハイム「そなたたち、イローナとイェドゥーナを見なかったか?」

女中1「お二人でしたら…あちらでミートローフを作っておりますが」

女中2「旦那様はどなたですか?」

イプスハイム「私の事を知らぬか?」

   小粋に

イプスハイム「私は邪馬台国から来たティオフェル国王の実の兄でね、イプスハイムという」

   女中達、手を止めて一斉にイプスハイムを見る

   イローナ、イェドゥーナがやってくる

イローナ「ちょっとあなた達、何をやっているの!?」

イェドゥーナ「王様方の昼食のお時間に間に合わないじゃないか!」

   イプスハイムの方を見る

イェドゥーナ「あ…あなた様はもしや…」

イプスハイム「私が分かるみたいだね」

イローナ「イプス…ハイム様?」

イプスハイム「そう。まさにそなたらの想像どおり、私はイプスハイムだ。イローナとイェドゥーナだろ?」

イローナ・イェドーナ「は…はい」

イプスハイム「又そなたらに会えて嬉しい。ところでなのだが…そなたらに聞きたいことがある、暫しいいか?」

イローナ・イェドゥーナ「はい…」

女中3「ではミートローフの続きは私が」

イローナ「頼む!」

イプスハイム「では、こっちに来てくれ」


○談話室

イローナ「しかしなにゆえです?いつこちらにお戻りになられたのですか?」

イプスハイム「いや、正式に戻ったわけではない…ただ」

   真剣になる

イプスハイム「人を探したいがためこの国に来たのだ。そなたらに心当たりがないかと聞きたいと思った」

イローナ「どなたでしょうか?」

イプスハイム「姿を消した嘗ての女中…サルヴァーナだよ」

   二人、顔を見合わせる

イプスハイム「なにか知っているのか?」

イェドゥーナ「いえ…彼女が今、何処にいるのかは私達も全く知りません」

イローナ「しかしイプスハイム様、当時の件、イプスハイム様は何も悪くないのでございます!サルヴァーナによってイプスハイム様ははめられてしまっただけなのです!」

イプスハイム「どういう事だ?」

イェドゥーナ「あの晩…私達はサルヴァーナから計画の一部始終を聞きました。私達は彼女を止めたのですけれども、彼女は本当に事を起こしてしまったのです」

イプスハイム「というと?」

イローナ「サルヴァーナはイプスハイム様がまだ5つの頃より、貴方様にお熱でした。勿論、美しく何でもお出来になる貴方様は女中達みんなの憧れの的ではありましたが、サルヴァーナは特に想いが強かったようで…恐れ多くも…」

   恐る恐る

イローナ「私はイプスハイム様の妻になるのよといつも言っておりました。エステリア様が入ってきて、彼女が貴方様の侍女になった時は、サルヴァーナは激しい嫉妬にくるい、いつでもエステリア様を憎んでいました」

イェドーナ「そして、そして…」

   頭を抱える

イェドゥーナ「あぁ…恐ろして口に出来ないわ」

イプスハイム「大丈夫、話して」

イェドゥーナ「いざエステリア様とのご婚約となった時、サルヴァーナは殺さんばかりの嫉妬に燃えておりました…そして、エステリア様との婚約が破断になるように…あの様な恐ろしい事を実行したのです。あれは…偶然なんかではありません、元々サルヴァーナが計画して行ったことなのです!まさか…彼女、本当に実行して…まさか、こんな事になってしまうだなんて」

   二人、泣き出す。

イローナ「でもどうか、彼女を探すのだけはおやめください!」

イプスハイム「何故だ?」

イローナ「いえ、彼女が再び姿を表す前にエステリア様と共にお逃げください!」

イェドゥーナ「あの女は恐ろしい女です…時が経ったからって油断をしてはなりません。彼女は、必ずや又…エステリア様をお殺しに戻ってくるでしょう…」

イプスハイム「そんなまさか…」

イローナ「私どもとて、そんな事が起こらぬことを願っております…」

イェドゥーナ「しかしいつ何があるかわからない世の中です…」

イプスハイム「分かった…話してくれてありがとう」

   信じられないという顔で戻っていく。 

   ***

   二人、気が抜けたようにヘナヘナ

イローナ「でも、やはり時が経ってもあの方はお美しかったわ…」

イェドゥーナ「しかしサルヴァーナに会いたいって…今更なんなんだろうね」


○ホテルロコモコ・一室
   
   麻衣とイプスハイム、ワインを飲みながら。

麻衣「イプスハイム様」

イプスハイム「何だ?」

麻衣「急なのですね…本当に明日、ここを去るのですか?」

イプスハイム「あぁ…そなたも早いほうが良かろう」

麻衣「えぇ…では、どうしても別れの挨拶をしたい方がいるのです…いいですか?」

イプスハイム「あぁ、勿論だ」


○アズノシュキン離宮
   
   麻衣とイプスハイム

イプスハイム「アズノシュキン離宮ではないか…」

麻衣「はい…」

イプスハイム「そなた、こんなところにいて大丈夫なのか?」

麻衣「ここに、私を死の縁から助けてくれた恩人がいるのよ」

   ベルを鳴らす

アナスターシャの声「誰だ?」

麻衣「女王様、私です」

イプスハイムM「女王様?」

   アナスターシャ、出てくる

アナスターシャ「おぉ麻衣!そなた無事でいたのか!良かった…会いたかったぞ」

麻衣「私もです、女王様」

イプスハイム「失礼、この方は?」

   アナスターシャ、イプスハイムを見る

アナスターシャ「そなたは…ティオフェル国王の兄上・イプスハイムだな」

イプスハイム「私のことを知っていると?」

アナスターシャ「勿論…何故ならわたくしは…」

   縄文のビーナスを置物を指す

アナスターシャ「5000年まえのアルプラート王国女王、アナスターシャだからだ」

イプスハイム「な…何だって!?どういう事だ?」

アナスターシャ「理由は話すと長くなります。それよりも麻衣、わたくしになにか用事が会ってここに来たのだろう」

ティオフェル「はい…実は女王様に暫しのお別れを言いに来たの」

アナスターシャ「別れ…だと?」


   ***

アナスターシャ「そうか…邪馬台国に…」

   寂しそうに

アナスターシャ「邪馬台国はアラセルバからずいぶんと離れている…少し寂しいが、そなたのためにはわたくしもそれがいいと思う」

麻衣「女王様、私も必ずまたこの地に帰ってきます。どうか、どうかそれまで待っていてください」

アナスターシャ「あぁ、わたくしもまたそなたに会いたい…達者でな」

麻衣「女王様…本当に、女王様の今までの御恩は一生忘れません。戻ったら、今度は私が女王様のために力になります」

   麻衣とアナスターシャ、口づける

イプスハイム「さぁ、ではマリッツァ嬢…麻衣と呼んだほうがいいのかな?」

麻衣「マリッツァで大丈夫です」

イプスハイム「分かった…ではマリッツァ嬢、そろそろ出ようか」

麻衣「はい…」

   寂しそう

麻衣「では女王様…又お会いする日まで…さようなら」

アナスターシャ「あぁ…」

   アナスターシャ、いつまでも見送る。


○邪馬台国・ゴノスーロ宮殿
   
   麻衣を連れたイプスハイム。麻衣、キョロキョロ

麻衣「ここが…邪馬台国?」

麻衣「素敵…思っていたところと全然違うわ」

イプスハイム「そなたに気に入ってもらえれば嬉しいが…」

麻衣「えぇ、とっても好きになれそうですわ!」

   ネリー、ローレル、セリエネ

三人「イプスハイム様、おかえりなさいませ」

ネリー「おや、この方は?」

イプスハイム「アラセルバからお連れした者だ。丁重にお迎えしろ」

三人「はい。」

イプスハイム「ローレルとネリーは今日からマリッツァ嬢にお仕えしろ。私は彼女のことをマリシュカ様にお話してくる…」

ネリー「畏まりました。ではマリッツァ様…」

麻衣「そんなに丁寧に喋らないで普通にして、それに私の名前は麻衣でいいわ。私のあだ名なの」

ローレル「しかし…」

   麻衣、頷く

ローレル「はい、麻衣様」

   ***

   そこへイプスハイム

イプスハイム「マリッツァ嬢、おいでなさい。マリシュカ様がお呼びだ」

麻衣「どなた?」

ネリー「この城の女王様ですよ」

麻衣「え、邪馬台国って卑弥呼様じゃないの?」

イプスハイム「それはもう5000年も昔のお話です。さぁ参りましょう…」

   麻衣を連れていく


○同・広間

マリシュカ「そなたがマリッツァ嬢か?」

麻衣「は…はい」

マリシュカ「話は全てイプスハイムから聞きました」

マリシュカ「私は邪馬台国を一変し、アラセルバとも協定を結びたいと考えていた。故に是非そなたを邪馬台国とアラセルバの友好の架け橋としたいのだ。そこでそなたを私の養女に迎えたい、いいか?」

麻衣「わ、私を養女に?」

マリシュカ「そなたは身寄りがないのだろう?私の娘としてここにいればそなたに待遇の良い暮らしをさせてやれるし、教育をさせてやることも出来る…」

麻衣「で、でも女王様…」

マリシュカ「すぐにとは言わぬ、考えてみてくれ。そなたの返事を待っているぞ」

   ***

麻衣N「こうして私は邪馬台国で暮らすようになりました。女王様への答えはまだ出せぬままだけど、このままでも十分すぎるほど、なに不自由ない暮らしをさせてもらているわ。邪馬台国ってとっても怖くて邪悪なところかと思っていたのに全然予想と違っていた…みんなもとっても親切で優しい」

   麻衣、武術をやっている

ネリー「麻衣様、お願いですからその様なはしたないことはお止めください!」

ローレル「そうですよ!私たちが女王様に怒られてしまいます!」

麻衣「なーに、平気よ。お叱りは覚悟の上だから」

   続ける

麻衣「元はと言えば私は武家出身の娘のようなもんなの。だからアラセルバでもしょっちゅうこんなことして過ごしていたわ」

ネリー「んもぉっ!」

麻衣「さぁポテト!ホース!かかってこい!」

   小野ポテトと蘇我ホース、麻衣の相手をしている

ポテト「麻衣様、もうご勘弁ですぜ。このへんでやめましょうや」

ホース「わしらの体力が持ちませんや」

麻衣「大の中年男が何へこたれたこと言ってんのよ!それでどうやって親衛隊が務まるっていうのさ!?」

   得意げに

麻衣「なら、あんたらの代わりに私が兵士として兵隊に加わってあげたっていいのよ」

ポテト・ホース「麻衣様!」

麻衣「さぁもういっちょ!」

   剣を振って倒れる

ポテト・ホース「麻衣様!!」

ネリー・ローレル「如何なされましたか!?」

ネリー「きゃっ!麻衣様、お血が!」

麻衣「え…?」   


○同・寝室

   麻衣、脈診を受けている。

イプスハイム「モーリス、突然武術をしている時にお倒れになられたのだ…マリッツァ嬢は、どうなのだ」

モーリス「イプスハイム様、幸い…お姫様もお子様ご無事でございます」

イプスハイム「お子…」

麻衣「様?」

モーリス「まさか…気付いていらっしゃらなかったのですか?」

麻衣「何を?」

モーリス「ご懐妊でございます。恐らく…4つきくらいでしょう…」

麻衣「懐妊…?4つき?」

   思い当たる

麻衣「ティオフェル!」

イプスハイム「まさか…そなたがやはり…」

麻衣「はい…そうです。私こそがアラセルバにおります王子と王女の実の母親ですわ。でも、誰も信じてはくれません…そもそもは私が宝石を手放してしまった事がいけないという事は分かっているのですが、まさかこんな事になってしまうだなんて…」

イプスハイム「安心しろ、私がなんとしても必ずそなたが実の母親であるという証拠を見つけ出す!ティオフェルトも約束をしたのだ」

麻衣「王様にお会いになられたのですか?」

イプスハイム「あぁ…しかしティオフェルはそなたがもう亡き者とばかり思っている」

麻衣「そんな…」

イプスハイム「だから、そなたの事を証明して堂々とそなたをティオフェルのもとに返す。だからそれまでもう暫く待っていてくれ」

麻衣「イプスハイム様…」

   全員、頷く

麻衣「皆さん…ありがとう」

イプスハイム「とにかくそなたは、今は体を大事にしろ。ティオフェルとの大切な命なのだ」

   全員に

イプスハイム「みなもどうか身重の彼女を支えてやってくれ。生まれてくるお子はとても高貴なお方なのだ」

全員「はい!」


○同・書斎

   数ヶ月後。イプスハイム、書斎を読み漁っている。

イプスハイム「なぁ、数年前の邪馬台国とアラセルバの卑弥呼の乱について書かれた書物は?」

セリエネ「それでしたら…」

   探す

セリエネ「ありましたわ。こちらにございます」

イプスハイム「ありがとう」

   読みながら目を丸くする

イプスハイム「あったぞ!」

   セリエネ、ビクリ

イプスハイム「これだ!セリエネ!」

セリエネ「は、はい…」

イプスハイム「急いでここへポテトとホースを呼んでこい!」

セリエネ「かしこまりました」

   ***

ポテト「イプスハイム様」

ホース「何のご用でしょう…」

イプスハイム「重要な書類を見つけたのだ。直ちにこれを、アラセルバのアズノシュキン離宮におわすアナスターシャ女王に届けてくれ!」

二人「はっ!かしこまり…」

   顔を見合わす

ポテト「い、イプスハイム様…今何と?」

ホース「アナスターシャ女王ですと!?」















○ゴロスロー宮殿・寝室

ローレル「麻衣様!頑張ってください!後もう少し、頭が見えてまいりましたわ!」

セリエネ「もう少しです、後もう少し…」

   産声

ネリー「おめでとうございます、お生まれになられましたわ。元気な男の子でございます!」

麻衣「あぁ…」

 
   ***
  
   マリシュカが飛んでくる。

麻衣「女王様」

マリシュカ「どれ、見せてみよ。おぉなんとたくましそうな子だ!名は何と申す?もう決めてあるか?」

麻衣「はい…」

   ペンを取る。マリシュカ、羊皮紙を受け取ってみる

マリシュカ「アリパシャ…か。良き名だ!」

マリシュカ「しかしそなたもさぞ辛かろう…ここにティオフェル国王がいればどんなに喜んだか」

麻衣「えぇ…でも仕方ないですわ。あの方の中ではもう、私は死んでいることになっているのですもの…だからこれ以上彼を傷つけたくないの。多分やっと傷も癒、王様として前に進もうとなさっているんですから、私はこのまま彼の思い出の中だけの人間として…」

   ため息

麻衣「そっとしておいてあげるのがあの方のためなんだわ…」

   微笑む

麻衣「女王様、もし今でも女王様の私に対するお気持ちがそのままであられるのなら、どうか私を女王様の養女にしてくださいまし。私、これからは女王様のお側で忠誠を尽くして生きていきますわ」

マリシュカ「マリッツァ!」

   麻衣を抱きしめる

マリッツァ「私は嬉しい、そなたのその言葉をどんなに待ち望んでいたことか!」

マリッツァ「そうと決まれば早速、アラセルバにも協定認証の同意書を持っていくが良い!今日は何と良い日なのだろうか!私はもういつ死んでも悔いはない!」

麻衣「母上様、その様に縁起でもないご冗談をおっしゃらないでくださいまし」

   麻衣も笑う

セリエネ「あ、王子様も微笑んでいらっしゃるわ」

マルキ「では、麻衣様はこれからは私の妹でもあるわけだ」

   麻衣と握手

マルキ「改めて私はエステリアの姉のマルキだ。麻衣様、これからは仲良くやろう、よろしく」

麻衣「こちらこそ」

麻衣M「そうか…邪馬台国の養女になったってことは、エステリアと義理の姉妹になったってことなのね」

   麻衣、アリパシャを愛でながら目を閉じる

麻衣M「ティオフェル…私、また母になったのよ。あんたは側にいないけど、これからはこの子と二人で静かに生きてゆくわ。噂も聞いたわ…あんたはついにエステリアとご結婚なさるのね。おめでとう…これがあなたにとってこれから先の未来、平和で穏やかなでありますように。いつまでも遠いところからあなたの幸せだけを願っているわ…」   
   
 
○アラセルバ王国・セルバ橋

   婚礼当日。アラセルバ王国は賑やか。アリパシャを抱いて橋の上にいる

麻衣M「ついにこの日がやって来たんだわ…王様の事を祝福はしたいけどいざとなると辛いわね…」

麻衣「あぁ私が元々いた現代の世界に戻りたいわ…」

   川を覗き込む

麻衣「この川って結構流れが激しかったのね…」

   ティオフェルとの再会を思い出す

麻衣「ティオフェル…」

   虚ろで心はない

麻衣「この川に沿って東へ歩いていけば、又あの時のように元の世界に戻れるのかしら…?」

   鐘が鳴っている

麻衣「婚礼の鐘が鳴っているわ…おめでとう、ティオフェル」

   そこへツェルナ。

ツェルナ「麻衣様っ!?」

   急いで麻衣の元へ飛んでくる

麻衣M「ツェルナ…?」

ツェルナ「まさかこんな場所でお会いできるだなんて!今、麻衣様をお連れしに邪馬台国まで向かおうとして
いたのです」

麻衣「え?」


○アラセルバ宮殿・大広間
   
   ティオフェルとベールを被った麻衣。

ティオフェル「…」

   重い心で祝辞を聞いている

ペドロ「それでは国王ティオフェル様…」

ティオフェル「はい…」

ペドロ「后エステリア様…」

麻衣「はい…」

ペドロ「婚礼の契りのキッスを…」

   ティオフェル、麻衣のベールをとる

ティオフェル「…?」

   麻衣、微笑む

ティオフェル「え?」

麻衣「王様…」

ティオフェル「麻衣?」

   目を疑う

ティオフェル「いや、そんな筈はない…だって麻衣は…」

ティオフェルM「落ち着けティオフェル、私はまだ正気に戻っていないのか?まだこの様に麻衣の面影の幻を見てしまうのか?」

   目を擦ってまじまじ

ティオフェルM「やはりいる…あぁ私は一体どうなってしまったんだ!」

麻衣「王様、私をよくご覧ください。」

ティオフェル「本当に…麻衣なのか?生きている麻衣か?」

麻衣「はい…」

ティオフェル「ど、どうしてここに…」

   警戒してキョロキョロ

クレオ「私がそうしたのです」

ティオフェル「母上!?」

クレオ「ティオフェル、この者との婚礼を認めよう…」

ティオフェル「しかし、何故!?」

クレオ「ブブより、全てを聞いた」

ブブ「王様、今までの私のご無礼をどうかお許しください」

   歴史書をティオフェルに見せる

ブブ「先日、アナスターシャ女王様よりこれが届けられました。読んでおりましたらこれに…全ての記述がかかれておりました」

クレオ「そなたのまことの名は麻衣だろう?」

麻衣「は、はい…」

クレオ「ご安心なさい。今やもうアラセルバの者はそなたの敵ではありません。そなたが5年前の活躍でこの
国を窮地から救った事、ティオフェルと婚礼を挙げたこと、王子・アラダートと王女・シンティエルラとリヴィエッタを生んだことを私達は忘れてしまってたようだ。そなたは…間違えなく、ティオフェルの后であり、あの子達の母親だ。どうか今までの母の無礼を許してくれ」

麻衣「お止めくださいクレオ様!」

クレオ「これからは母上と呼びなさい」

ティオフェル「では…」

クレオ「マリッツァ、そなたのお陰で邪馬台国との協定と貿易をも結ぶことができました。感謝します」

   微笑む

クレオ「何をしておる?ティオフェル、この者に契りを…」

ティオフェル「はい…」

   涙ながらに

ティオフェル「麻衣、ありがとう。私は今とても幸せだ…」

麻衣「私もです、王様…」

   ティオフェル、麻衣に口づけ。大きな歓声と拍手が起きる

   エステリアも微笑んで拍手。ティオフェル、泣いて麻衣を抱き締める

エステリア「これでやっと王子様と王女様にもお会いになれますわ」

エゼル「お二方とも、とてもお幸せそうだ」

   アラダート、シンティエルラ、リヴィエッタ、不思議そう

アラダート「なぁエステリア、あの方がこれから私達の母上となられるお方か?」

リータ「いいえ、これからなられるお方ではありません。王子様たちが胎内にいる時からあの方は王子様達のお母上なのです。あの方が王子様たちの実の母上なのです」


○同・ティオフェルの書斎

ティオフェル「しかし教えてくれ、一体どう言うことだ?麻衣は今まで何処にいたのだ?そして何故…」

麻衣「邪馬台国のイプスハイム様の元よ」

ティオフェル「なんだってぇ!?」

   ドングリ餅を鵬張る

麻衣「イプスハイム様に初めてお会いした時、この方がティオフェルのお兄様なんだってすぐにわかったわ」

ティオフェル「では何故、兄上は生きている事を私に話してくれなかったのだ?」

麻衣「イプスハイム様は、まだご存知でなかったの」

イプスハイム「マリッツァ嬢に話は聞いていたがそれがそなたの事だとは分からなかった。しかし、そなたからもそのおなごの話を聞いたら以前に私がマリッツァ嬢に聞いた話によく似ている…もしや!?と思ったのだが…確信は持てなかった。そしてまりっつぁ嬢の懐妊が邪馬台国で明らかになった時、マリッツァ嬢から…」

ティオフェル「麻衣の懐妊…?どういう事?」

麻衣「あぁ、あんたにまだ話していなかったわ。私ね、邪馬台国で子を生んだの…勿論、あんたと私の子よ」

ティオフェル「え?」

麻衣「邪馬台国に言って1ヶ月が過ぎた時、邪馬台国で懐妊していたことを知ったの。4ヶ月だった…」

ティオフェル「ということは…」

麻衣「多分あんたとのバカンスの時の子ね」

ティオフェル「あぁ…」

   ***

イプスハイム「ということで、マリッツァ嬢は今まで数ヵ月間、邪馬台国ゴノスーロでマリシュカ女王の元、暮らしていた」

ティオフェル「邪馬台国で…」

イプスハイム「協定と貿易を結んだのもマリッツァ嬢のおかげさ。彼女を大層気に入った女王が彼女を養女として迎えられた。それを機に、アラセルバと親密な関係を築こうということになったというわけだ」

ティオフェル「そうだったのか…」

   麻衣を見る

ティオフェル「ではどうして花嫁としてエステリアとすり変わるとき、城の者はみんな同意の上だっただに私には一言も告げずにこそこそとしたのだ?」

エステリア「これはブブのお考えなのです」

ティオフェル「ブブの!?」 

エステリア「王様を驚かせ、お慶びさせたいと」

麻衣「私も初めは何処に連れてこられたのかわからなかったわ。でも宮殿って分かった時に…」


○(回想)同・中宮殿

麻衣「ここは?」

エステリア「ようこそ麻衣様、ご無事で良かった…」

麻衣「エステリアっ!と言うことは…?」

   キョロキョロ

麻衣「え?」

ツェルナ「さぁ麻衣様、参りましょう」

   ツェルナ、リータ、麻衣の着付けをしている

麻衣「参りましょうって…何処へ?」

エステリア「広間ですわ、王様がお待ちです…」

麻衣「王様が?」

   婚礼姿の自分を見る

麻衣「っ!?」

   逃げようとする

エステリア「麻衣様!どちらに行かれるのです!?」

麻衣「勿論帰るんです!ここは私の様な死人がいるような場所ではありません…さようなら…」

   エステリアを見て微笑む

麻衣「王様とのお幸せを願っております…心よりご祝福いたします。おめでとう…お幸せに」

   エステリア、麻衣の手を掴む

エステリア「麻衣様は、本当にこれでいいのですか?後悔しないのですか?」

麻衣「私は…」

エステリア「麻衣様が王子様達のまことの母上ですのに!麻衣様は王子様や王女様にお会いになりたくないのですか?」

麻衣「え?」

エステリア「麻衣様のためにも、王様のためにも、そして私達のためにもお二人はお幸せになってください。王子様や王女様、王様ですてみんな同じお気持ちですわ!」

   麻衣に歴史書を見せる

麻衣「エステリア…これって」

エステリア「みんなこれを読まれました。今やこの国に、麻衣様をお殺しになろうとなさる方は一人もおりませんわ!」


○(戻って)同・ティオフェルの書斎

麻衣「と言うわけだったの」

ティオフェル「エステリア…リータ、エゼル、スー、ツェルナ…そしてブブ、お前たちの心に感謝するよ」

ブブ「いえ、私達よりも…」

   イプスハイムを見る

ブブ「一番王様を思ってくださったのはイプスハイム様とアナスターシャ女王なのです。お礼ならばお二人に…」

ティオフェル「兄上?アナスターシャ?」

イプスハイム「何、私はただマリッツァ嬢…いや、王妃様を邪馬台国にお連れしただけだ。何もしていない…。それよりも城に取り合い、大きく動いてくださったのは女王様なのだ」

ティオフェル「アナスターシャ…」

アナスターシャ「あなた方がお幸せになれ、本当に良かった。これからは二人で良い国を作っていってくれ」

   そこへアラダート、シンティエルラ、リヴィエッタ。

三人「父上!母上!」

麻衣「王子!王女!」

   三人を抱きしめる

麻衣「やっと会えた!母はそなたらの顔を忘れていないぞ。確かに私の子だ!あぁ…こんなに大きく育ってくれてありがとう!」

   アナスターシャ、アリパシャをティオフェルに抱かせる

アナスターシャ「ご覧なさい、この王子もそなたの子だ」

ティオフェル「この子は?」

アナスターシャ「麻衣が邪馬台国で生んだ子です」

ティオフェル「そうか…この子が、私の子…」

   ティオフェル、アリパシャに顔を埋める

イプスハイム「これこれ、王子が苦しがっているぞ。やめなされ」

アナスターシャ「ティオフェル国王、面を上げなさい」

   ティオフェル、頭を下げたまま

麻衣「ティオフェル…?」

   ティオフェル、静かに泣いている。他全員、顔を見合わせて微笑む。


○アラセルバ市内・酒場
   
   ティオフェル、グテングテン

イプスハイム「弟よ、飲みすぎだぞ」

ティオフェル「いいのだ、今宵は飲む!お代わり!」

イプスハイム「もう助けちゃやらないぞ」

   ティオフェル、ボトルをなん本も

ティオフェル「なぁ兄上…」

   正気を失っている

ティオフェル「私はもう疲れた…国王なんて嫌だよ」

イプスハイム「ティオフェル、何を言うか!?」

ティオフェル「兄上、あなたは私の兄上でしょ?だから事実通り兄上に譲位する…」

イプスハイム「ティオフェル、そなたは酔っているのだ。落ち着いてから話せ」

   ティオフェル、イプスハイムを睨む

ティオフェル「私は酔っていてもいなくてもこの話しはしたよ!最も何れ兄上がお戻りになったら王座は降りるつもりだったからね」

ティオフェル「よーしっ!私は明日の朝会で王座を降りると発表するぞぉ!」

イプスハイム「ティオフェルっ!」

   ティオフェル、寝入る


○エギ通り
   
   麻衣、イプスハイム、ティオフェルを支えてあるいている

麻衣「ちょっと大丈夫?一体何があったの?」

イプスハイム「王様、強い酒を何杯も飲まれまして…」

麻衣「えぇつ!?」

   呆れる

麻衣「ちょっと、本当はそんなに強くないくせに!しかもあんたは国王なんだからしっかりして!」

   ***

   ビジネスホテル・ロコモコの布団に寝かす。


○アラセルバ王室・公会堂
   
   重臣たちとティオフェル。ティオフェル、頭を押さえて胸を擦る

ブブ「王様、いかがなされましたか?」

アミンタ「お体の加減でも優れぬのですか?」

メルセイヤ「でしたら本日はご延期になさってお休みになられた方が…」

ティオフェル「いや、大丈夫だ。今日は一言だけどうしても言いたいことがあったのでお前たちに集まってもらった」

   大声で

ティオフェル「今月を以て、私はこの座を退位する事に決めた」

   ざわざわ

ティオフェル「これからアラセルバの将来は、事実通り兄のイプスハイムに任せることにする!」

イプスハイム「私は反対です王様!アラセルバの王様はあなたしかおりません。どうかお考え直しください、王様!」 

ティオフェル「いや、考え直さない!兄上こそよく考えてみてください!実際ならば今頃は私ではなく、兄上が王位につかれていたはずなんですよ!」

イプスハイム「それは…そうですが!」

ティオフェル「以上…私の話は終了。考えを変えるつもりはない、では解散」

イプスハイム「王様!」

ティオフェル「兄上、また邪馬台国に逃げようったって無駄だよ。そうはいっても今はまだ私が国王なんでね」

   咳払い

ティオフェル「本日より兄・イプスハイムをアラセルバ宮殿に戻すことにする。これは最後の王命だ。謹んで受けるように」

   そこへクレオ

クレオ「王様!」

ティオフェル「母上…」

クレオ「何をお考えなのです!?話が違うではありませんか!」

ティオフェル「母上は口出し無用、王は私なのです。ここは女である母上が来るような場所ではございません!お戻りくださいませ」

クレオ「政も未熟だに何をでかい口を叩いておるか!王妃の事も考えよ。王子たちはどうするのだ?そなた一人の事ではないのだぞ!?」

イプスハイム「母上、落ち着きください。恐らく王様とて色々ありましたから今は疲れておいでなのでしょう。少し休養が必要です。そこでいかがです母上?王様と王妃様に暫くご療養の休暇をお与えになっては…?」

クレオ「休養だと?」

イプスハイム「えぇ。王様が十分にお休みになられる事はこれからの王室の安泰にも繋がりますし、王様もより落ち着いて政務に取り組むことが出来ますでしょう…」

   クレオ、少し考える

クレオ「分かった、良かろう」

イプスハイム「付きは私とエゼル、リータ、ツェルナ、スーで参ります。場所はナグカプ村のジプシー邸で」 

クレオ「無礼者!その様な卑しき場所に王様をお連れする気か!?」

ティオフェル「お止めください母上!ジプシー邸は私の希望なのです」

クレオ「何?」

ティオフェル「あの場所は私の大好きな場所でして、私と王妃の思い出の場所でもあるのです」

クレオ「ふむ…」


○ナグカプ村・ジプシー邸

麻衣「あぁ…こうしてまたこの場所にあんたと来れるなんて夢みたいだわ」

ティオフェル「私もだよ…麻衣。しかし、そなたも相変わらずだな」

麻衣「何が?」

ティオフェル「王を前にしてもその無礼な態度と口の聞き方さ」

麻衣「あら、だってあんたもこの方が私らしくていいんでしょ」

ティオフェル「その通り…畏まったそなたなど気持ち悪くてかゆい」

   麻衣、ティオフェルを小粋に平手打ち  


   ***

麻衣「なら、早速まずは?」

ティオフェル「じゃあ家の掃除をしよう!」

   二人掃除をする

   ***

   二人で料理をする。ティオフェル、麻衣の袖を気にしてチラチラ

麻衣「ん?」

ティオフェル「だーかーらー…付いてるってば」

   麻衣の袖を捲る

   ***

   食事。ティオフェル、麻衣の口についたソースをとる

   ***

   麻衣、大石に凭れて本を読んでいる

ティオフェル「何を読んでいるんだ?」

麻衣「イェヌーファよ」

ティオフェル「イェ、イェヌーファ!?」

麻衣「私の世界にはそういう名前の外国のお話があるの。見てみる?」

   ティオフェル、覗き混もうとする

ティオフェル「うわ…こりゃ私には読めないな…うわぁ!」

   バランスを崩して倒れそうになり、大石に手をつく。麻衣のすぐ近くにティオフェルの顔。二人、気がついて麻衣は目をそらし、ティオフェルはすぐに離れる。

   影からイプスハイムたちが見てクスクス

   ***

   3ヶ月後。

麻衣「ねぇもうどれくらい経つのかしら…」

ティオフェル「さぁね…三月くらいかな?」

麻衣「そろそろ王宮にお戻りになった方がよろしくってよ?」

ティオフェル「まだいいさ…」

麻衣「あらダメよ…」

ティオフェル「嫌だなぁ…やはり私はこのまま平民として、そなたと貧しい中でも幸せにのんびり暮らしていきたい…そなたはどうだ?」

麻衣「勿論私だって、平凡な生活をあんたと送れたらどんなに素敵かって思うわ。一生このまま暮らしていたいくらいよ」

ティオフェル「だったら二人でそうしようよ!」

麻衣「でもティオフェル、あんたが王様で貴族の生まれだって言うことは変えられないわ。だからあんたはこれからも王様としての道を生きていくしかないんじゃないかしら?」

イプスハイム「ティオフェル、王妃様の言う通りですぞ!」

麻衣「私、政治のノウハウとかこの国の事とかはまだよく知らないけれど、国を良い方向に変えていくための知恵だったら私にもあるわ。だから政に関しては私も精一杯支えるし、その他の事だってあんたを助ける。あんたが辛ければ私が力になるから!」

   励ますように

麻衣「アラセルバにはあんたが必要なのよ!だからティオフェル、やめるだなんて言わないで!」

ティオフェル「麻衣…」

   沈黙

ティフェル「ありがとう、分かったよ…やめない」

   麻衣、イプスハイム、顔を見合わせて微笑む

ティオフェル「しかし、王に戻る前にもう一つ叶えたい事があるんだ、いいかい?」

麻衣「何?」 


○ハーロム中央広場
   
   多くの民が集まる中、麻衣とティオフェルの簡素な結婚式。

ティオフェル「一度こうして民の挙式をあげるのが私の夢だったんだ…麻衣、ありがとう」

麻衣「お礼を言うのは私の方よ、私こそありがとう」

アデレ「王様、ご結婚おめでとうございます」

オクターブ「おめでとうございます!」

ティオフェル「ありがとう…」

   アナスターシャ、ティオフェルに近づく。

アナスターシャ「改めてあなたにお祝いを言います。おめでとう…二人で幸せになるんですよ」

ティオフェル「アナスターシャ、ありがとう」

   ポテトとホースも近づく。

ティオフェル「お、お前たちって…生きていたのか…」

ポテト「ご安心ください王様、卑弥呼の呪いはもう解けました。ここにいるのはただの新衛兵のポテトと」

ホース「ホースだけですぜ」

ポテト「心よりお祝い申し上げます」

ホース「これからは邪馬台国とアラセルバ、仲良くやりましょうや!」

ティオフェル「やめろ、なんだか妙な感じだ。気持ちが悪い」

   アデレに気がつく

ティオフェル「あ!」

   小粋に近づく。

ティオフェル「おばあ様、今までありがとう」

アデレ「え?」

   そこへマルコス、クンドリ、テオドル、ルエデリ、ユリ、テクラ

マルコス「王様!」

クンドリ「僕たちが王様をこんな間近でお目にかかれるだなんて夢みたい!」

テオドル「このような場所で披露宴を開いてくださり感謝致します」

ルエデリ「心よりご結婚お喜び申し上げます」

ユリ「おめでとう、僕らの王様!」

テクラ「そしてお妃様!」

   ティオフェルに近づく

ティオフェル「ありがとう、みんな」

6人「うわぁ!」

   ティオフェル、髪を解いて花飾りをつける子供達、驚く

6人「イェヌーファだ!」

ティオフェル「そうよ…黙ってごめんなさいね。イェヌーファの正体は私、アラセルバの王様だったの」

アデレ「おやまぁ!」

   ティオフェルに近づく

アデレ「お前さんは…イェヌーファちゃん?」

ティオフェル「ご親切なおばあ様、今まで黙っていてごめんなさい…私の事…」

アデレ「今までのとんだご無礼申し訳ございません。お許しくださいませ」

ティオフェル「いいえ、そんな事ありませんわ。私は今までおばあ様のご親切に何度助けられてきたことでしょう…それといつも美味しいドングリ餅もありがとう。私はおばあ様の作るお餅が大好きなのよ…」

   男の姿でしゃべるティオフェルに麻衣、笑いを堪える

ティオフェル「また食べに行かせてね」

アデレ「勿論ですとも!また是非お越しください」

ティオフェル「嫌だわ、敬語はよしてよ。今まで通り、イェヌーファとして接してね」

   子供たちを見る

ティオフェル「あなたたちも私の事を王として見ないで、今まで通りジプシーのイェヌーファとして接してちょうだい。また今まで通り一緒に遊びましょう」

子供たち「はい!」

ティオフェル「エゼルとも仲良くしてあげるのよ」

   ワイングラスを掲げる

ティオフェル「それでは始めましょ!みんな今日は存分に歌え!踊れ!飲め!」

   楽士の演奏と共に躍りが始まり、宴会パーティーが始まる。

メデア「ブブ様、これでやっと王室の将来も安泰ですわね。王様もとてもお幸せそうだわ…」

ブブ「あぁ…色々あったが、今の王様のお顔が一番お幸せそうに輝いている」

メデア「ブブ様、改めて私達も…」

ブブ「あぁ…この祝宴に与って…」

   ブブ、メデア、踊り出す。

イプスハイム「エステリア嬢…」

エステリア「イプスハイム様…」

   抱きつく

エステリア「エステリアめは長年、イプスハイム様のことを信じお帰りを待ちわびておりました。誰にも心移さず、貴方様だけを待っていたのでございます…」

イプスハイム「エステリア…」

エステリア「どうかもう、何処にもお行きにならないでください!エステリアめの側をお離れにならないで…」

   イプスハイム、微笑む

イプスハイム「分かっている…今まで苦労をかけたな。私はもう、一生そなたの元を離れないと約束しよう」

   大声で

イプスハイム「母上、父上、私は改めてこのエステリア嬢と結婚をします!」

イプスハイム「エステリア…私の妻になってくれるか?」

エステリア「はい、勿論です…」

   そこへツォリカとティーオン

ツォリカ「イプスハイム」

イプスハイム「誰?」

   まじまじ

イプスハイム「姉上?」

ツォリカ「久しぶりですね。あなたが立派に成長し、姉も嬉しい」

   ティオフェルを見る

ツォリカ「そなたがティオフェルか?」

ティオフェル「え?」

ツォリカ「そなたにははじめましてだな。私は、そなたの姉のツォリカだ」

ティオフェル「あなたが?私の…姉上?」

ティーオン「そして私がティーオン。隣国・プンタ・ピエトーラの国王です」

   ティオフェル、にっこりと握手。

ティオフェル「改めて、私がアラセルバの国王・ティオフェルです兄上、よろしく」

   
   ***
 
   麻衣、ティオフェルと一緒に踊っている

ティオフェル「今日はなんて楽しいんだ。こんな日は生まれて初めてだ」

麻衣「ねぇティオフェル…新婚旅行って物があるのご存じ?」

ティオフェル「新婚旅行?それはなんだ?」

麻衣「結婚したばかりの人が結婚を記念して二人で旅行することよ」

ティオフェル「それも民の行事か?」

麻衣「えぇ…」

ティオフェル「それはいい!私達もやろうか?」

麻衣「えぇ!?」

ティオフェル「実は貿易でマジャール王国から来ていた商人にマジャールへ来てみないかと誘われていて迷っていたんだか、そういうことなら新婚旅行なるものを兼ねてそなたと二人で行こうと思うんだ」

麻衣「ま!」

   ***

   数日後。

ティオフェル「それでは母上、父上、言ってまいります」

クレオ「お気を付けて。しかと任務を全うするように」

ティオフェル「勿論そのつもりです」

メディオス「王妃、頼りない王を頼む」

麻衣「はい!」

ティオフェル「母上、それはあんまりなお言葉です…」

イプスハイム「ティオフェル、本当に行くのだな?」

ティオフェル「はい…故、暫くはここへは戻らぬでしょう。私が戻るまでの間、アラセルバ王国を頼みます」

イプスハイム「分かった…」

ティオフェル「それとエステリアの事も…」

イプスハイム「任せておけ」

ティオフェル「そしてエゼル…」

   首飾りと王冠、リングをエゼルに渡す

ティオフェル「マジャール王国に行くにこれは必要ない…エゼル、私が帰るまでの間お前がこれを預かっていてくれ」

エゼル「僕が?」

ティオフェル「あぁ…再会の契りに」

エゼル「はい!」

   ティオフェル、エゼルの身に装飾品をつける

ティオフェル「それでは、改めて行って参ります…」

全員「お気を付けて」

ティオフェル「麻衣、行こう…」

麻衣「えぇ…」

   二人、旅立っていく

イプスハイムM「ティオフェルめ、上手く逃げおったな…」

エゼルM「多分あの様子だと、もうここへは帰ってきませんね…」

   ***

   ティオフェルと麻衣、旅を続けている。二人の旅路の中、時代が移り変わっていく。

   ***

   マジャール王国で麻衣とティオフェルに子供が生まれる

   ***

   時代は流れていく

   イプスハイム、歴史書を書いている。


○尖り石縄文公園・森の中
   
   現代。麻衣一人、小川の小橋の上に腰を下ろしてミルテのかすがいを編んでいる。

麻衣「よしっと、出来たわ」

   笹舟に乗せて、小川に流す。麻衣、流れる小舟を追いかける。

麻衣N「もしあの日と同じなら私はこの後また、あの残酷で優しいアラセルバ王国に…」

   暫く先に千里。麻衣、気がついていない。千里にぶつかる。

麻衣「あ!」

千里「麻衣ちゃん!」

麻衣「せんちゃん!」

千里「探したんだよ、何処にいたんだよ!」

麻衣「ごめんごめん」

   千里、微笑む

千里「そろそろお昼だよ、ご飯食べに行こ!」

麻衣「えぇ!、私もお腹ペコペコ!」

千里「何が食べたい?」

麻衣「えーと、そうねぇ…」

   二人、手をとって森の中へと走っていく。

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