主役の勇者が最終的に死ぬ運命なんて嫌だ

花波真珠

#17 フェアリーフォレスト①

先へ歩いて行くと、甘い香りが漂ってきた。
眠たくなるようなふわっとした香りだった。

「ハルト様、……凄いところへ来てしまったみたいです」

「凄いところ…?」

霧が晴れると、そこには小さい羽の生えた可愛らしい生き物が
チラチラと飛び交う場所が見えた。
小さい家が木の枝や切り株にたくさん建っている。

「ハルト。ここはフェアリーフォレストじゃ。妖精が暮らす街じゃよ」

妖精の大きさはサッカーボールくらい。
にこにこ笑う妖精たちを眺めるだけで和やかな気分になった。
周りにはピンク色の大きい不思議な花が咲いていて
その花からあの甘い香りが吹き出ているようだった。

「ここのフェアリーフォレストに隠されたココノミを手に入れれば、パワーアップできると聞いておるが……」

「ねぇ、妖精さん、ココノミがどこにあるか知らないかな」

俺は妖精に尋ねた。

「ココノミですかっ?それなら、こっちです」

3人の妖精が手招きをして案内をしてくれるみたいだ。
まさかすぐにパワーアップができるなんて
幸先がいいにも程がありすぎて、少し疑ってしまう。

「ここですここです。この谷の下です」

「えぇ…落ちたら死にますよこの高さは」

「どうすれば……………うわッッッ!?!?」

後ろから妖精が俺の背中をぐっと押した。
俺は足を滑らせて谷に落ちたが、側面のごつごつした岩に捕まった。
もう少しで命はなかった。
心臓がバクバクと震えている。

「ハルト…っ!大丈夫カ!?」

「ケッケッケ、ざまぁみろ勇者」

「私たちを信用したお前らが悪いんだぁよ!!」

上の方から妖精たちが高笑いする声が響いてくる。
岩はみしみしと音を鳴らし、今にも崩れて体が落ちて行きそうだった。
腕がもう限界だった。

「どうやって助けたら……ロープはないし高さ的に降りることはできないじゃろう」

その瞬間だった。

頭が真っ白になって、何も考えられなくなって、俺は手を離した。
ただ、自分が下へ下へ落ちていくのだけが分かった。

どうせ死ぬ運命にある自分は
生きようとする気持ちの価値なんて最初から–––––––––––。





「おい、大丈夫か」

「……んあっ…ここは………」

上の方に点のような光が見えるだけで、真っ暗だ。
俺の横には、あかりを持った女性が座っていた。

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