主役の勇者が最終的に死ぬ運命なんて嫌だ

花波真珠

#7 馴染んできたこの世界


俺たちは、森を抜けて新しいエリアに行くことにした。だいぶゲームの世界に慣れてきた。

今更気づいたことだが、やっぱりこの世界は天気や時間がないらしい。
要するに、エリアによって天気が決まっていて、それは変わらない。そして、朝も昼もないということだ。
だからいつまでたっても眠たくならないんだな。

「勇者様、森はまた魔物が出る可能性がある。気をつけて進むのじゃぞ」


この前倒れたからか、ヤナは心配そうな顔でこちらを見てくる。
「大丈夫だって」と余裕があるように言ってみせたものの、自分の戦いには自信は持てていない。
だってただのサラリーマンだぞ?

「勇者様、お腹空いた!!」
「え〜…あ、あの木の実食べれるんじゃ」


俺は木になった赤い木の実を指差した。
フェラルフは喜んで飛ぶように走っていった。


すると、奥の茂みからピンク色の花びらが飛んできた。その花びらは、俺の手にゆっくりと落ちてきた。

そう、新たなエリアだ…!
こんなに早く見つかるとは思ってもみなかった。

「ヤナ!新しいエリアだぞ!早く森を抜けよう」


木の間から光が差している。その光はもうすぐそこだ。
俺は茂みをかき分けて進んだ。

でも、何故だろう。
光が差している方向に進んでも進んでも、近づけない。ずっと同じ位置にいるような気がしてきた。

「ユウシャサマ、何をしていル…!そっちは最初の町の方向だゾ」

「は?だって、俺はUターンせずに真っ直ぐ進んでて、あそこに森が抜けられるところが……」


くらっと目眩がした。
景色がぼやけて、変な気分だ。
目眩が治ると、光はなく、暗い森の中だった。

「勇者様!今のは多分、香妖夢かようむ。暗い場所によく生息していて、幻を見せる魔物だよ!」

「勇者様、ふらついていたが、大丈夫かの?私は勇者様が心配じゃ…」


心配って…何がだ?
勇者が最終的に死ぬ運命だと分かっているなら心配するのは分かるけど……

ヤナはこのゲームの中のキャラクターだろ?
そんなゲームの設定、知らないだろうし…
こんなの考え出したらきりがない。
今は保留の話題にしておくか。


「勇者様、勇者様ノ名前はなんとイウ?」
「え、あ、ハルト…」

「私、ハルト様と呼んでもイイか?」

この世界に来て初めて自分の名前を呼ばれたのは初めてだ。
すこし不思議な感じがした。

「ず、ずるい、わしも名前で呼んじゃダメかの…」

2人に思わずコクコク頷いた。
フェラルフはきのみを口いっぱいに頬張っていた。

「ゆうしゃしゃは、おえもなまへてよひたいー(勇者様、俺も名前で呼びたい)」


面白くて、つい笑った。

「ふっ、あははっ、全部きのみ食べてから話せよもう」

素直に笑えたのは久しぶりだった。
暗くてジメジメした森が、少しだけ暖かく明るく感じた。

「さて、森を抜けるために歩くぞ!」


この時、背後に迫るなにかには、全く気づきもしなかったのだ。

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コメント

  • 姉川京

    続きカモーン

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