一閃のアパティア
『最強』の存在
太陽が空の頂に届く刻、彼は幾度目か分からない程のデジャヴを今日も迎える。
今日の彼の問い掛けに対する返答は「Yes」。
今回の魔人討伐の同行者は四人組らしい。
剣士の好青年が一人。重戦士の背丈の有る青年が一人。攻撃魔法使いの清楚な女性が一人。支援魔法使いの可愛らしい少女が一人。
皆、大小違えど同い年のように見える。
彼は、その事に特に何も思うこと無くラストダンジョンに足を進める。
同行者四人も彼の後に続く。かと思いきや、一人の少女、支援魔法使いの子が俺に走り寄って顔を覗き込んできた。
「うわ〜、かっこいいな〜、噂以上だ〜」
俺は「そうか」としか言わない。それにしても容姿について面と向かって言われたことは初めてだ。今もなお、その少女は彼のことを四方八方からジロジロと舐めるように見る。
正直に言うと移動の邪魔である。止めて欲しいところだ。しかし彼は何も言わない。否、言えない。
「いくらNPCだからって無反応は寂しいな〜。せっかく間近に可愛い顔があるっていうのに〜」
彼女はそう嘯く。だからといって、彼は何も反応を示さない。ただ、頭の中で考えるだけだ。『NPC』彼はよくその言葉で呼ばれてる。それが何を意味しているかわからない彼は、一度は脳内にて、思考を巡らせるものの一瞬にも満たないスピードでそれを破棄させた。過去に思考を巡らせ、分からないものは、何をしても理解できるものではないと学習しているからだ。そして再び無心で歩く。
「そりゃ、お前の胸に魅力がないからだろ!」
「リアルと姿変えられないから仕方が無いね!」
「あまり気にするなよ」
「みんな〜、あんまりだよぉ〜」
剣士と攻撃魔術師の言葉に重戦士が庇っているようにみえるが、そのお陰で支援魔法使いが泣き喚きだした。
「何をしているんだ」と言いたいが、世界がそれを許さない。彼は、制限に縛られているのだから。
「ほら皆、ふざけてないで行くよ! 最強さんが待ってるんだから!」
「「ごめんなさーい!」」
「ふざけてないもん! 絶対に私を見てもらうんだから!」
どうやら重戦士が、リーダーのようだ。重戦士の言葉に剣士と攻撃魔法使いが同行者である彼に謝りを入れる。彼は「構わない」と変わることなくぶっきらぼうに返すだけだった。そんな彼の視線の先にはブツブツ呟く支援魔法使いの姿があった。
◆◆
「後は、頼んだ!!」
彼は、大規模なスキルを発動したあと、満身創痍な身体でそう口にした。
「最強さん、ナイスッ!!よっしゃ、 みんな決めるぞッ!!」
彼の横薙ぎで足元を崩した魔神に、好機を見たのか剣士の青年が総攻撃を皆に促した。
「『終焉の光剣』!!」
「『虚無の監獄』!!」
「『滅却の重槍』!!」
「皆、頑張ってくださーい!!」
剣士の最上級スキル、攻撃魔法使いの無属性最強魔法、重戦士の最上級スキルが発動される。一人のワイワイ騒いでいる少女がいるが。
それらの攻撃により、魔神はついに陥落した。
戦いを終えた皆は、「終わったー」と口に出して腰を地に落とした。一人を除いてだが。
「やりましたよ〜! やってしまいました〜!!」
そんな興奮状態で支援魔法使いの少女は彼に抱き着く。
「どうでした!? どうでした!?」と聞いてくる少女を無視して、彼は魔人討伐後のお決まりの言葉を口にした。
「──これで、この世界の民も安堵して日々の暮らしを行うことが出来るだろう! 皆様、お疲れ様! そしてこの世界を救ってくれてありがとう!!」
笑顔の彼の言葉に、同行者の諸君全員が両手を空に掲げた。
「終わった〜! 最後の称号ゲット!!」
そんな事を、皆一同に口にして、何処かへと転移する魔法陣が同行者達の足元に展開された。
初めは謎に思っていたが、今ではもう見慣れた光景だ。そう彼は思いながら手を振る。
転移される皆も、手を振る彼に自分の手を大きく振り返してきた。
「絶対に、貴方のハートを射止めますから〜!!」
一人の少女は、そう騒いでいたが……
姿が見えなくなると、彼の足元にも魔法陣が展開される。
そしてまた、いつもの同じあの場所へと戻るのだった。
ユーザーの顔など普段は覚えない彼が、妙に騒がしい少女の印象を強く記憶に残した。
◆◆
それから5年の間、数は減りつつも魔神討伐を幾度となくこなしていった。
遂には、剣士最上級スキル『終焉の光剣』よりも輝きのあるスキルを放つことから彼に〈一閃〉という通り名が付くほどであった。
そんなある日、とうとう運営サービス最終日が訪れていた。
いつもより多い人数を相手に手を振り、同行者の帰還を見届けた彼の足元には、いつもの魔法陣は展開されなかった。
それよりも一回りも二回りも大きい魔法陣が展開されると、彼はいつもとは違う場所へと強制転移されたのだった。
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