【一話完結】ショートショートショート

野灰琉花

ストレス爆発


2×××年。
世界のエネルギー供給は、火力・風力といった自然エネルギーや、原子力のような危険を及ぼす可能性の高いものだった。

しかし、人間の怒りや不満といった『ストレス』をエネルギーに変換する技術が発明された。『ストレス』を専用のノズルから息を吹き混むようにして、専用のカプセルに溜め込み、そのカプセルを回収ボックスに入れるだけ。
回収ボックスから自動でエネルギー発電所に送られて、変換されるという仕組みになっている。

『ストレス』は人間だけではない。
人間に飼われているペットや、家畜といった動物用のカプセルもあり、出来るだけ多くの『ストレス』を集めて、エネルギーを供給する世界になっている。


ストレスをカプセルに吐き出して回収ボックスに入れて、すっきりして晴れやかな気分で眠りにつくのが、僕の日課になっている。
毎日ストレスを吐き出しているにもかかわらず、行き帰りの通勤電車や、会社での仕事や人間関係で、ストレスは貯まる。
『ストレス』をエネルギー変換するのだから、無限で安全なエネルギー源になっていると思いながら、今日もベッドにもぐる。


「カプセルの中の『ストレス』の中身、覗けるって知ってるか?」
エネルギー変換所の作業員の一人が、一緒に働いている作業員にこっそり言う。
「それって、本当かよ?」
「本当だって! この前、運んでいたカプセルをうっかり落としてさ。中身がちょっとだけ見えたんだよ」
「その中身って、どんな感じだった?」
「どっかの奥さんのものらしくて、旦那の給料が少ないとか、子供の成績が良くないとか、ママ友のつきあいが大変とか……そういうのが、ちらっと見えたんだ」
「カプセルの中身って、見ることができるのか」
「俺達には関係の無いことばっかりだし、見ても面白くないけどな」
「そりゃそうだ。何てったって中身は『ストレス』だもんな」
作業員達は笑いながら、作業に戻っていった。



それから、さらに数百年後。
人口の爆発的な増加に伴って、エネルギー源の『ストレス』も爆発的に増えて、エネルギー変換所では処理仕切れなくなり、地球自体が爆発して消滅してしまった。

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