【一話完結】ショートショートショート

野灰琉花

コーヒーと格差


「たまには会って話そう!」
そんなメッセージが送られてきて、疎遠になっていた友人と会うことになった。

職場環境……特に、人間関係と給与の安さに嫌気が差して、半年ほど前に転職をした。今の職場での人間関係や仕事の内容に不満はないが、給与が安いのは相変わらずで。

会う約束をしている友人は、大手メーカーの子会社に入社。いわゆる『IT土方』と自虐的に言うものの、親会社に出向して働きぶりを評価されて、今では破格の好待遇だというウワサは、共通の友人経由で耳に入ってきている。

「やっぱり、会うのやめようかな」
何となく、自分が惨めな思いをするような気がして、後ろ向きになってしまう。



ベタだが、渋谷のハチ公前で待ち合わせ。
服装、バッグ、靴。どれも、俺とは違っていて、金がかかっていそうだ。
その上、彼のはつらつとして、自信に満ちているように見える。

待ち合わせた後、近くにあったチェーン店のコーヒーショップに入ろうとしたのだが、あいにくの満席。別の店を探すことにする。
俺は、別のチェーン店かファミレス、もしくはファーストフードへ行こうと言うと、彼は個人が経営しているような喫茶店の方がいいと言う。

俺は、入った店で使う金額を重視。
おいしいことも重要だけど、財布の中身が寂しいから、できれば安く済ませたい。

彼は、店の雰囲気を重視。
個人経営の喫茶店は、単価が高めのことが多く、家族連れや中高校生のグループがいて騒がしいということがまずないので、落ち着いて話ができるとのこと。
また、チェーン店と違って、こだわりのあるおいしいコーヒーの飲める確率も、格段に高いとも言っている。


ウワサ通り、彼は仕事がうまくいっているようで、財布の中身を心配することは、ほとんどないらしい。
そして、コーヒーを飲む店を選ぶにしても、「店の雰囲気もお金で買う」という姿勢。確かに、店の雰囲気も、「味」のうちかもしれないけど……。



コーヒーを飲む店を選ぶという些細なこと。
……だが、俺と彼の間に決定的な『格差』を感じた。

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