ジーナと言う寵姫

佐野元

寵姫への(強制的な)目覚め

「ん……うむぅ……」

アルトランに得体の知れないモノを盛られてからどれほど時間が経っただろうか。
ジークハートは眠りから覚醒するようにゆっくりと目を開いた。
運が良いのかなんなのか。どうやら毒では無かったみたいだ。

「っあー……頭いてぇ」

鉛の様に重く感じる腕を持ち上げ頭を抑える。医療効果がなくてもついそうしてしまうのは人間の性だろうか。
身体が重く感じるのと同様に思考が寝起きの為か非常にボンヤリとしている。
眼の前には白く豪奢な天井が広がっている。なんのことは無い。ジークハートが今日から一生世話になる離宮の自室と言う名の牢屋だ。

「アルトの野郎……絶対ボディに何発か入れてやる」

禁忌を犯した弟はもう不要なのか。少なくとも毒では無かったが恐らく始末するつもりで盛ったのだろうと察してジークハートは少し遣る瀬無くなった。
しかし、変に生きているせいでこっちは色々ダメージを受けた。それとこれとは別なのだ。
これからどうするか。陛下直々に死ねと言われた訳でも無いしこのままのんびり離宮でぐうたら過ごしても問題ないのだ。

「…………とりあえず二度寝するか」

とにかく身体が重い。まともに考えるのは二度寝から覚めた後だな。そう思い直し寝返りを打とうとしたが身体がびくともしない。
そこでジークハートは隣に誰かが居る事に気付いた。引っ付いて寝る奴と言えば一人しかいない。

「ラス?」

どうせ弟のラスティだろうと高を括った視線の先に居た人物は弟とは違う美しい顔を晒して眠っていた。

「…………」

その相手とは先程会話を交わしながらジークハートに薬物を盛った男、アルト本人であった。

「……えーと?」

ジークハートの頭の中はクエスチョンマークで溢れていた。
何故?
俺が憎いのでは?
面倒なのでは?
頭の中はそればかりがグルグル回り何も完全に動きもフリーズしてしまう。
そんな気配に気付いたのかアルトも深い眠りから目覚めるように瞼を開いた。
アルトの濃い藍色の瞳がジークハートを見据えた。

「……おはよう、ジーク」

ややあって、無言で見つめ合う時間は終わりを告げたのかアルトは愛しいものを目に留めたとばかりに甘い笑みを浮かべた。

「…………おはよう、アルト、兄上」
「ああ、もう私を兄上などと言わなくても大丈夫だよ」

今更兄に対して呼び捨てるのもどうかと思い敬称を付けた返事の答えにジークハートは冷や汗が出る思いだった。

「ああ、私を兄上と呼ばなくても良いと言ったのはジークが嫌いだからと言う訳じゃないんだ」
「……じゃあ、なんで」
「ジークはこれから”私達”の愛しい”寵姫”……つまり妻になるからね。呼び捨てで呼んで欲しいと言う意味だよ」
「は?」

真横でアルトが寝ていた時以上の困惑がジークハートを襲った。
俺……男なんだけど?え、と言うか俺達全員男じゃん……男妾とか無理だし??
まとまらない思考の中で唯一それが確かな事実だったのでアルトに伝える。

「俺、男だし……兄上達とお尻でするってのはちょっと……流石の俺の倫理にも引っ掛かるって言うか……てか、身内だし…………」

とにかくなんにしてもお断りしたい。
もしこれが与えられた罰だとしても今のジークハートの感性としては同性のブツを身の内に押し込めたいと思う事はない。
例え前世が女だったとしてもだ。
しどろもどろに言い訳を並べているとアルトはジークハートの様子を面白そうに笑った。

「大丈夫だよ、ジーク。陛下にはジークに関する全権を俺達兄弟に委ねてくれたから何も心配は無いよ。それに……」

アルトが甘い声で囁いていると突然ふにり、と指が沈み込むような感触を胸元から感じた。
そこに目線を向けると細く男らしいアルトの指が何故かふっくらと柔らかく膨らんだ自身の胸に埋まっている。
混乱の連続で考えることを放棄仕掛けていた時にアルトのうっとりとした声が耳に入り、嫌でも現実を見なくては行けなくなった。

「兄弟達との協議の結果、これから”ジークハート”は”ジーナ”として。女性として、”私達”の妻として生きて行く事になったからね」

ニッコリと幸せそうに微笑むアルトのその顔は新婚の妻にデレデレの夫そのものだったが。
ジーク、いやジーナはこう思った。

(何一つ大丈夫じゃなくない????)


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