日常は崩れさり少年はあの日を想う
肆
 未月樹は倒れ伏していた。腹部からは出血していて、そこに止血処理をし包帯を巻いてくれた少年に思い馳せていた。
 ありがとう、と告げると彼は首を横に振り、「守れなくてごめん」と謝り奥へと歩みを進めていった。
 未月樹は首にかけた金色の指輪を握りしめた。
 これは彼から貰ったもの。彼との思い出が詰まった自分の唯一の心の拠り所。
「...お願い、絢斗くん...私達の力をあなたに...」
 握りながら未月樹は自身に残された最後の残粒子を振り絞って「Thor」の力を少年へ送った。
「後は...あなたが●●さんを救って...」
#
 事態は急速に動いていた。
「みんなっ!?」
「おー、絢斗どうしたんだ?」
「転入生は?」
「そ、それどころじゃないんだ!」
「「?」」
 僕は遙と夕香に事情を説明する。
 まあ、常識人のこのふたりなら信じないとは思うけど──────
「そうか」
「よし、みんな逃げるよ!」
「なんで信じられるの!?」
 2人は何をおかしい事をという顔をして言った。
「「絢斗の言うことをなんで疑う必要がある?」」
...不覚にもジーンと来てしまった。
 僕はどうやら自分が思っているよりもクラスメイトに信用されているようだった。 
「ま、此坂が言うんならそうなんだろ」
「此坂くんがそう言うなら」
「此坂は嘘つけねえからな」
「それにうちのクラスの委員長たちが躊躇いなく動くのなら信じない方がおかしいわよ」
「舞...信じてくれてありがと!」
「わっ...もう夕香ったら」
 想像以上に僕ら3人はこのクラスで信用されているらしく、皆が迅速に僕らの指示に従った。
「此坂、貴重品は?」
「できれば荷物ごと持っていこう!教科書は諦めてくれ!」
「了解!」
「此坂くん、扉は...」
「うん、開けておこうか!なるべく両方ね!」
 クラスメイトの二人がそれぞれ前と後ろの扉に駆け寄ろうとする。と、そのタイミングで
ガラガラガラガラッ
「絢斗くん!」
 明日南が息を切らして教室へ走り込んできた。
心做しか顔が白くなっている。
「大丈夫、みんな逃げられる!」
 走り込んできた明日南にそう叫ぶと、明日南は暗い顔のまま首を横に振った。
「ごめん...もう間に合わない!」
「えっ」
「お、おい、外見ろ!」
 クラスメイトの男子が窓の外を指さす。
 外を...空を見ると、そこに炎の尾を引く一筋の流星が流れていた。
 否、落ちてきていた。
「お、おい、やばくねえか...?」
「うん、やばい...やばいよこれ!」
「グラウンドに落ち─────
 時が止まり  
 思考も止まり
 瞬間、爆音。
 光の爆弾が数十メートル先に落下した。
#
 揺蕩う様だった。
 自分自身がここにいない感じ。
 瞼を上げれば、風景が消滅していた。
「ここは...」
「ここは、深層世界。君の心の中だよ」
 弾かれたように振り向くと、そこに明日南がいた。
「あ、明日南」
「明日南...?私のこと?」
 なにを言っているのだろうか。間違いなくその格好は転入生、明日南未月樹だ。
「ああ、そういうことか」
「...何1人で納得してんだよ。僕にも説明しろ」
 ふふっ、と笑うと明日南モドキは僕に微笑んだ。
「私はね、形がないんだよ」
「...いや、今あるだろ」
「あはは、だからね」
 そういうと明日南モドキは指を鳴らした。
 次の瞬間、そこには夕香がいた。
「なっ」
パチン
 そこには遙がいた。
「そういうこと、わかった?」
「...なるほど、形がないというのはそういうことか」
「うん」
 要するに、と前置きする遙モドキを置いて、
「ここは僕の深層世界。ということは僕の記憶を辿ってその姿に変えているんだな。」
「先に言わないでよ!」
「だが断った」
「過去形!?...まあ、そうか」
 モドキは、はあ...と溜息をつくと後ろを向き、指をパチンッと鳴らした。
「...君にはこれから現世に戻ってもらう。そして、選択をすることになるだろう」
「選、択...?」
「ああ、そうだよ。君は妹と未月樹、どちらかを取ることになる。そして、君は一人の少女を救わなければならない」
 もう1度溜息をつく。
「全く、君も不運だな...未月樹が転校してこなければこんなことにはならなかったのに」
「...よくわかんないけど、とりあえず僕は元に戻れるんだな?」
「ああ、そうさ。君は戻らなければならない」
 さっさとしよう、とモドキは目を閉じる。
そして呟いた...
さあ、目を覚ませ絢斗────────
#
 風が、吹き抜けてゆく。
 未月樹は、病院の屋上にいた。
「...始まっちゃった」
 干されていた白衣が空を舞って、未月樹の上に落ちてくる。それを特に何をするでもなくただ受け止め、俯く。
「私、絢斗くんを守れるのかなあ...?」
to be continued...
 ありがとう、と告げると彼は首を横に振り、「守れなくてごめん」と謝り奥へと歩みを進めていった。
 未月樹は首にかけた金色の指輪を握りしめた。
 これは彼から貰ったもの。彼との思い出が詰まった自分の唯一の心の拠り所。
「...お願い、絢斗くん...私達の力をあなたに...」
 握りながら未月樹は自身に残された最後の残粒子を振り絞って「Thor」の力を少年へ送った。
「後は...あなたが●●さんを救って...」
#
 事態は急速に動いていた。
「みんなっ!?」
「おー、絢斗どうしたんだ?」
「転入生は?」
「そ、それどころじゃないんだ!」
「「?」」
 僕は遙と夕香に事情を説明する。
 まあ、常識人のこのふたりなら信じないとは思うけど──────
「そうか」
「よし、みんな逃げるよ!」
「なんで信じられるの!?」
 2人は何をおかしい事をという顔をして言った。
「「絢斗の言うことをなんで疑う必要がある?」」
...不覚にもジーンと来てしまった。
 僕はどうやら自分が思っているよりもクラスメイトに信用されているようだった。 
「ま、此坂が言うんならそうなんだろ」
「此坂くんがそう言うなら」
「此坂は嘘つけねえからな」
「それにうちのクラスの委員長たちが躊躇いなく動くのなら信じない方がおかしいわよ」
「舞...信じてくれてありがと!」
「わっ...もう夕香ったら」
 想像以上に僕ら3人はこのクラスで信用されているらしく、皆が迅速に僕らの指示に従った。
「此坂、貴重品は?」
「できれば荷物ごと持っていこう!教科書は諦めてくれ!」
「了解!」
「此坂くん、扉は...」
「うん、開けておこうか!なるべく両方ね!」
 クラスメイトの二人がそれぞれ前と後ろの扉に駆け寄ろうとする。と、そのタイミングで
ガラガラガラガラッ
「絢斗くん!」
 明日南が息を切らして教室へ走り込んできた。
心做しか顔が白くなっている。
「大丈夫、みんな逃げられる!」
 走り込んできた明日南にそう叫ぶと、明日南は暗い顔のまま首を横に振った。
「ごめん...もう間に合わない!」
「えっ」
「お、おい、外見ろ!」
 クラスメイトの男子が窓の外を指さす。
 外を...空を見ると、そこに炎の尾を引く一筋の流星が流れていた。
 否、落ちてきていた。
「お、おい、やばくねえか...?」
「うん、やばい...やばいよこれ!」
「グラウンドに落ち─────
 時が止まり  
 思考も止まり
 瞬間、爆音。
 光の爆弾が数十メートル先に落下した。
#
 揺蕩う様だった。
 自分自身がここにいない感じ。
 瞼を上げれば、風景が消滅していた。
「ここは...」
「ここは、深層世界。君の心の中だよ」
 弾かれたように振り向くと、そこに明日南がいた。
「あ、明日南」
「明日南...?私のこと?」
 なにを言っているのだろうか。間違いなくその格好は転入生、明日南未月樹だ。
「ああ、そういうことか」
「...何1人で納得してんだよ。僕にも説明しろ」
 ふふっ、と笑うと明日南モドキは僕に微笑んだ。
「私はね、形がないんだよ」
「...いや、今あるだろ」
「あはは、だからね」
 そういうと明日南モドキは指を鳴らした。
 次の瞬間、そこには夕香がいた。
「なっ」
パチン
 そこには遙がいた。
「そういうこと、わかった?」
「...なるほど、形がないというのはそういうことか」
「うん」
 要するに、と前置きする遙モドキを置いて、
「ここは僕の深層世界。ということは僕の記憶を辿ってその姿に変えているんだな。」
「先に言わないでよ!」
「だが断った」
「過去形!?...まあ、そうか」
 モドキは、はあ...と溜息をつくと後ろを向き、指をパチンッと鳴らした。
「...君にはこれから現世に戻ってもらう。そして、選択をすることになるだろう」
「選、択...?」
「ああ、そうだよ。君は妹と未月樹、どちらかを取ることになる。そして、君は一人の少女を救わなければならない」
 もう1度溜息をつく。
「全く、君も不運だな...未月樹が転校してこなければこんなことにはならなかったのに」
「...よくわかんないけど、とりあえず僕は元に戻れるんだな?」
「ああ、そうさ。君は戻らなければならない」
 さっさとしよう、とモドキは目を閉じる。
そして呟いた...
さあ、目を覚ませ絢斗────────
#
 風が、吹き抜けてゆく。
 未月樹は、病院の屋上にいた。
「...始まっちゃった」
 干されていた白衣が空を舞って、未月樹の上に落ちてくる。それを特に何をするでもなくただ受け止め、俯く。
「私、絢斗くんを守れるのかなあ...?」
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