日常は崩れさり少年はあの日を想う
参
「...情けないな」
 夕香は、そう呟いた。
 彼女の後ろには気絶した追手の数々が。
「ライバルに塩送られて...今更素直になって」
 私は何をしていたんだろうと、自嘲気味に乾いた笑い声を上げる。そして、得物で空中を切り払うと重々しいドアを片手で押した。
「...これが終わったら、」
 私は...君に伝えよう、この想いを。
#
「ガチな方で転校生来ちゃったなおい」
「フラグって折るものだよね...?」
「...何の話ですか?」
「「い、いえ、何でもありませんっ!?」」
 じとーっ
 という効果音が聞こえてきそうなくらい見つめられる。
「...有り得ない」
「ああ、有り得ないな」
「...だから何が」
「「い、いえ、何でもありませんっ!?」」
 天丼である...仕方ないだろう、こちらの話なのだ。「君がうちのクラスに来るかもなんて話をしてたんだ」とか言ってみろ。頭がおかしい判定されて、ドン引かれるだけである。
「...あ」
「「っ!?」」
 ガタッと立ち上がる明日南。僕達は遂にこの人を怒らせてしまったのかと怯える。が、
「えーっと...」
 僕の方を向いてもじもじする明日南。
 そこで何かを察したように、遙が僕に肘を当てる。正直結構痛い。
(おい、自己紹介したか?)
(あ、してないかも)
 転校生自体の自己紹介はしたが、こちらからの自己紹介はしていないのだ。よく気づいたな、遙。相手は名前が分からないのか。
「あー...えーっと、僕は此坂絢斗。好きな風に呼んでください」
「は、はい...で、では絢斗くん」
───ゴオッ
 突如、謎のオーラが教室に満ちる。主に女子を中心に円形に机と椅子が揺れる。
「...凄いな、地震か?」
「やあ、絢斗。その鈍さは犯罪級だぜ」
「ん?」
 遙が何を言っているのか分からないが、とりあえず立ち上がって手を差し出す。
「ま、よろしくね」
 明日南は僕の後方にビクビクしながら手をとる。...ほんとに何が起きてるんだ?
 僕が後ろを振り返ろうとすると、遙に首を固定される。
「なにすんのさ」
「...この世には、知らない方がいいこともあるってことだよ少年」
 少年ってお前もだろ...と文句を言いながらも、明日南の方へ向き直る。
「おーい、明日南さん?」
「...はっ」
 心ここに在らずという感じで呆ていた明日南が正気に帰る。
「...あ、はい。よろしくお願いします」
「はい、よろしくね」
 握手を終え、そこで僕は話が脱線していたことに気づく。
「そういえば、なんか用があったんじゃ?」
「あ」
 そうでしたそうでした、と明日南はぺこぺこする。なんかそういう機械みたいだ。
「職員室に行かなければ行けないのですが、案内していただけませんか?」
「ああ、そんなこと」
 椅子をしまいながら一時間目の準備をする。
「立ち上がって言わなくても、普通に頼めばいいのに」
「あ、ごめんなさい」
「いや、別に悪いことしてないよ」
 教科書とノートを準備して、明日南の方を向くと、またしても後ろから
─────────ゴオオオッ
という音が。
「誰か人為的にブリザードでも起こしたの?なんか寒いんだけど?」
 思わず呟くと、明日南は引きつった笑いを浮かべ、遙は半目で僕を見る。
「な、なんだよ」
「「知らぬが仏...」」
「だから何が!?」
 2人はいつまでも言わなそうなので、黙って教室の外へ向かう。
「あ、待ってください!」
「だが断る」
「え!?」
 僕は明日南を置いて、さっさと職員室に向かうことにした。
#
 明日南の用とは、転入の手続きの最終確認だけだったようで、すぐに終わった。
「そういえば、何かに気づいたような顔してたけど、気の所為?」
「え?...はっ、そうだった!!」
「ふぇ?」
 明日南はポケットから最近発売されたXphoneの継続機を取り出すと、軽く操作して、いきなり顔を上げる。「やばい...」
 明日南はこっちを向いてまくし立てる。
「えーっと」
「絢斗」
「絢斗くん、急いで教室に戻って!ここはきっと危険だよ!」
「...何それ詳しく」
明日南は首を横に振った。
「そんな時間が無い。お願い」
「...なんだかね、普通女の子が危なかったら助けに行くってのが遙の言い分というかポリシーなんだけど...」
「え?」
「あいつなんか世界一回救ってるからなぁ...」
 詳しくはいずれ投稿される「hollow the world」をお読みくださいな。
「誰に言ったんですか」
「読者」
「メタい」
ゴホン、と咳払いをする明日南。
「と、とりあえず教室へ行って皆さんを逃がしてください!」
 了解、と言おうとしてはっとなる。
「え、いや、転入してきたばかりの人の言う事信じられると思う?「──あっ」...ま、僕は信じてみるけどそういうやつばかりじゃないと思うよ?」
「あ...確かにそうですね」
「ま、とりあえず善処してみるよ」
「よ、よろしくお願いします」
 お互い意思疎通が出来たのを確認すると、逆方向へ走り出す。僕は教室へ、明日南は職員室の方へ。
 何が起きるのかまだ分からないし、何も起こらないのかもしれない。未来は不確定すぎて腹が立ちそうだ。
 でも、頼られたのだし、空振ったとしても変な目で見られるのは明日南だし。...ま、まあいいや。とりあえず、宣言通り善処してみよう。
─────この時の僕は知らなかったんだ。
 この後何が起こるのか。そして、自分がどれだけ平和ボケしていたのかを。
 夕香は、そう呟いた。
 彼女の後ろには気絶した追手の数々が。
「ライバルに塩送られて...今更素直になって」
 私は何をしていたんだろうと、自嘲気味に乾いた笑い声を上げる。そして、得物で空中を切り払うと重々しいドアを片手で押した。
「...これが終わったら、」
 私は...君に伝えよう、この想いを。
#
「ガチな方で転校生来ちゃったなおい」
「フラグって折るものだよね...?」
「...何の話ですか?」
「「い、いえ、何でもありませんっ!?」」
 じとーっ
 という効果音が聞こえてきそうなくらい見つめられる。
「...有り得ない」
「ああ、有り得ないな」
「...だから何が」
「「い、いえ、何でもありませんっ!?」」
 天丼である...仕方ないだろう、こちらの話なのだ。「君がうちのクラスに来るかもなんて話をしてたんだ」とか言ってみろ。頭がおかしい判定されて、ドン引かれるだけである。
「...あ」
「「っ!?」」
 ガタッと立ち上がる明日南。僕達は遂にこの人を怒らせてしまったのかと怯える。が、
「えーっと...」
 僕の方を向いてもじもじする明日南。
 そこで何かを察したように、遙が僕に肘を当てる。正直結構痛い。
(おい、自己紹介したか?)
(あ、してないかも)
 転校生自体の自己紹介はしたが、こちらからの自己紹介はしていないのだ。よく気づいたな、遙。相手は名前が分からないのか。
「あー...えーっと、僕は此坂絢斗。好きな風に呼んでください」
「は、はい...で、では絢斗くん」
───ゴオッ
 突如、謎のオーラが教室に満ちる。主に女子を中心に円形に机と椅子が揺れる。
「...凄いな、地震か?」
「やあ、絢斗。その鈍さは犯罪級だぜ」
「ん?」
 遙が何を言っているのか分からないが、とりあえず立ち上がって手を差し出す。
「ま、よろしくね」
 明日南は僕の後方にビクビクしながら手をとる。...ほんとに何が起きてるんだ?
 僕が後ろを振り返ろうとすると、遙に首を固定される。
「なにすんのさ」
「...この世には、知らない方がいいこともあるってことだよ少年」
 少年ってお前もだろ...と文句を言いながらも、明日南の方へ向き直る。
「おーい、明日南さん?」
「...はっ」
 心ここに在らずという感じで呆ていた明日南が正気に帰る。
「...あ、はい。よろしくお願いします」
「はい、よろしくね」
 握手を終え、そこで僕は話が脱線していたことに気づく。
「そういえば、なんか用があったんじゃ?」
「あ」
 そうでしたそうでした、と明日南はぺこぺこする。なんかそういう機械みたいだ。
「職員室に行かなければ行けないのですが、案内していただけませんか?」
「ああ、そんなこと」
 椅子をしまいながら一時間目の準備をする。
「立ち上がって言わなくても、普通に頼めばいいのに」
「あ、ごめんなさい」
「いや、別に悪いことしてないよ」
 教科書とノートを準備して、明日南の方を向くと、またしても後ろから
─────────ゴオオオッ
という音が。
「誰か人為的にブリザードでも起こしたの?なんか寒いんだけど?」
 思わず呟くと、明日南は引きつった笑いを浮かべ、遙は半目で僕を見る。
「な、なんだよ」
「「知らぬが仏...」」
「だから何が!?」
 2人はいつまでも言わなそうなので、黙って教室の外へ向かう。
「あ、待ってください!」
「だが断る」
「え!?」
 僕は明日南を置いて、さっさと職員室に向かうことにした。
#
 明日南の用とは、転入の手続きの最終確認だけだったようで、すぐに終わった。
「そういえば、何かに気づいたような顔してたけど、気の所為?」
「え?...はっ、そうだった!!」
「ふぇ?」
 明日南はポケットから最近発売されたXphoneの継続機を取り出すと、軽く操作して、いきなり顔を上げる。「やばい...」
 明日南はこっちを向いてまくし立てる。
「えーっと」
「絢斗」
「絢斗くん、急いで教室に戻って!ここはきっと危険だよ!」
「...何それ詳しく」
明日南は首を横に振った。
「そんな時間が無い。お願い」
「...なんだかね、普通女の子が危なかったら助けに行くってのが遙の言い分というかポリシーなんだけど...」
「え?」
「あいつなんか世界一回救ってるからなぁ...」
 詳しくはいずれ投稿される「hollow the world」をお読みくださいな。
「誰に言ったんですか」
「読者」
「メタい」
ゴホン、と咳払いをする明日南。
「と、とりあえず教室へ行って皆さんを逃がしてください!」
 了解、と言おうとしてはっとなる。
「え、いや、転入してきたばかりの人の言う事信じられると思う?「──あっ」...ま、僕は信じてみるけどそういうやつばかりじゃないと思うよ?」
「あ...確かにそうですね」
「ま、とりあえず善処してみるよ」
「よ、よろしくお願いします」
 お互い意思疎通が出来たのを確認すると、逆方向へ走り出す。僕は教室へ、明日南は職員室の方へ。
 何が起きるのかまだ分からないし、何も起こらないのかもしれない。未来は不確定すぎて腹が立ちそうだ。
 でも、頼られたのだし、空振ったとしても変な目で見られるのは明日南だし。...ま、まあいいや。とりあえず、宣言通り善処してみよう。
─────この時の僕は知らなかったんだ。
 この後何が起こるのか。そして、自分がどれだけ平和ボケしていたのかを。
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