サンタ X ギルド

ha〆

Bell sound . 3 「キャロル・キャンドル」

生徒指導室での会話の翌日

聖は天谷から"自分にぴったりの仕事"を紹介してもらう約束をしていたので、
放課後の職員室に出向き、天谷が仕事をある程度終えるのを待っていた

「せんせ〜 まだですか〜」

「ちょっと待てって、期末試験の準備とか、俺には色々あるの」

「俺だってゲームの続きとかアニメの続きとかで忙しいんだけどなあ」

それは違うだろ、と苦笑いをしながら天谷は机に広げていた紙をひとまとめにして立ち上がった

「よし、聖  またせたな!」

「やっとかよ」

「まあそう言うなって」

天谷はさっと荷物をまとめ、いくぞ、顎を使って職員室の外を指した

「あれ、進路指導室じゃないの」

「ああ、これから移動だ!実際に見てもらおうと思ってな」

「へえ、いきなりだな」

二人は職員室を出て、駐車場にある天谷の車へと向かった

熟練職員たちの多少高級な車の中に挟まれて止まっている赤い軽自動車に乗り込む

「どーせ乗るなら校長のベンツがよかったなあ」

「無茶言うなって、先生の給料じゃこれでもきついんだから」

聖からの嫌味に顔を歪めながら
天谷は車のエンジンをかけ、スムーズに発車する

少しの間無言だった二人だが、
ちょっとした帰宅ラッシュに捕まったあたりで、天谷が話しはじめる

「聖、ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど良いか?」

「なに?」

「お前はサンタクロースっていつまで信じてた?」

「な、なんだよいきなり」

天谷から投げられた、突然の突拍子も無い質問に
聖は、なんとも言えない表情を浮かべた

「いいから、聞かせてくれよ」

「うーん」

天谷からの軽い催促に、少し悩んだ後、口を開く

「いつまで信じてたってより、
きっとサンタクロースはいるんだと思うよ、俺は」

ほう、と聖の言い方に、少し興味が増したような顔をする天谷

「おれ、記憶の限りだと、小学生の間は信じてたんだよねずっと

でも、中学の時に見ちゃったんだ

友達と遊んでる時、たまたま同じ場所に来てた親がプレゼント選んでくれてたのを」

「なるほどな」

「だから、俺にとってのサンタクロースは、そこで終わったんだよ
気付いてしまったから、そこでおわり

それまでのクリスマス、ずっとサンタクロースがプレゼントをくれてたのか、親がプレゼント買ってくれてたのか、それは聞いてないし、聞きたくなかったから、真相は分からないけど

それを見ちゃったから、俺にとってのサンタクロースってのは、中学最初のクリスマス目前で終わっちゃったんだ」

少し考えたような顔をして

だけど、と聖はつづけた

「俺にとってのサンタはそこで終わったんだけど、

きっと世界中にいる、サンタを信じている子供達、ひょっとしたら大人もいるのかな

そういう、信じてる人達にとっては、
サンタクロースは本物なんだと思う

俺にとっても数年前までは、本物だったようにさ

きっとそんな人達のところには、サンタクロースからプレゼントが届くんだよ」

聖がいい終わった後、少しの間車の中が沈黙が広がる

「おいおい、先生、聞いといて無視すんなよな
だいたいなんで6月にサンタの話なんだよ」

「悪い悪い、先生の予想より上をいくステキな回答を聖がしてくれたもんだからな
感動してたんだよ、100点、はなまるだ」

うるせえ、と少し照れ臭そうに、聖は窓の外を眺める

「聖はさ、例えばサンタクロースがいるとしたら
本当にクリスマスイブの夜だけ働いてると思うか?」

「うーん、イブだけってのは無理があるでしょ
何人子供いるんだよって思うし

12月の初めくらいからは働くんじゃ無い?」

「なるほどな、でもその回答は40点くらいだぞ」

「なんだよ、まるで答え知ってるみたいに」

ニヤニヤと楽しそうな笑みをうかべる天谷

「先生、なんか隠してるだろ」

と、聖は疑いの眼差しを向ける

「ハハハ 隠してるってわけでは無いんだけどな

やっぱり今から行く職場は、お前にぴったりだと思うよ」

「そーだよ、結局なんの仕事がまだ聞いてねえよ」

「それはついてからのお楽しみさ!」

などと言っているうちに、車の群れを抜け
天谷は少しスピードを上げた

それから30分ほど経っただろうか
空は暗くなり始め
街は明るくなり始めた

繁華街を抜け、少し人気がなくなってきた場所にあるBARの前で
天谷は車を止めた

「さあ、ついたよ聖!」

「BARって、おれまだ未成年だしこの店のどこがおれにぴったりなんだよ」

「まあまあ、入ればわかるさ!」

そう言うと、天谷はスタスタと地下にある店内へと続く階段を降りていく

聖は渋々車を降り、彼の後を追った

階段を降りた先に待っていたのは赤い扉

扉には"キャロル・キャンドル"と書かれた淡く光る看板がかけられていた

「さあ、この扉の向こうだよ」

と、天谷が言う

「キャロル…キャンドル…
やっぱりただのBARにしか見えないんだけど」

何も情報を与えられていない聖にとっては全くの未知数のため、顔が歪む

「まあまあ、はやくこの扉をあけてみろって

扉の向こうにあるからさ!
お前にぴったりだと思う仕事と…

この世界の…世界の秘密の一つが!」

「高校教師が何よく分からないこと言ってんだよ、、

開けたらいんだろ開けたら!」

そう言うと聖は取っ手に手をかけ
すこし重たい扉を勢いよく開いた

カランカランカラン

というベルの音とともに、目を疑うような光景が
聖の眼前に広がったのだった




冬はまだまだ先のこと

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