異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

吉原の戦い

マホバを見送り、自らの戦に赴く太夫は自分の部下たちの準備を確認して、ゲキを飛ばす。

「お前たち!一世一代の祭りの始まりでありんす!!!」

その掛け声とともに、舞妓たちは自らの衣装を振り払い早着替えをしてみせる。
それぞれが、今まで来ていた着物よりはるかに煌びやかな着物を纏い、それぞれ楽器を持ち構える。

「お琴」、「小琴ここと」は、その名の通り身の丈ほどある琴を抱きかかえ、「つつみ」は、鼓を肩に持ち、「三弦さんげ」は、三味線を構え、「笛音きね」は、横笛を口元に近づけ構えた。

「一夜の夢に咲く花と、歌われ消えゆく我とても、その美しさを日の元に知らしめようぞ!!」

大きな扇子を両手に持ち開けば、太夫は野を渡る風の如く素早く走り進む。
迫り来ようとしていた敵軍の半分は、マホバにより異界の彼方に消え、仲間が消えたことに戸惑い足の止まった敵軍に向かってひた走る。
その後ろでは、先程楽器を構えた遊女たちが美しき演奏を響かせ太夫の力を倍増させながら、付かず離れず走り付き従う。

「ふぇ、ふぇ、ふぇ。婆婆めも、及ばずながら加勢させていただきますぞ。」

年を取り腰の曲がった老婆の動きとは思えぬほどの速さで走り、太夫の後ろにピタリと付き走る。

「化粧しか出来ない婆婆がこんなとこまで来なくても良い!」

「戦場で化粧が崩れたらどうするおつもりですじゃ?それに、婆婆めも戦えますわい。」

吉原の遊女たちの化粧を担当していた婆婆たち3人のうち、今太夫について来ているのは最も古参で発言力のある婆婆であった。

「無理はしないでくんなまし、、、。」

太夫は婆婆にそう言うと、敵の頭を扇子で切り裂きそう味噌を撒き散らした。

太夫率いる吉原の部隊は、敵軍に囲まれる形で戦いに突入した。

「お琴、小琴!音が外れてますよ!もっと敵を減らしてくんなまし!」

「そんなことを言われても、私達の戦い方は大振りなのでありんす!ぽんぽん技は出せないのですよ。」

彼女たちは、演奏する楽器を武器に敵を相手取っていた。
彼女たちは戦いながら演奏をやめない。
彼女たちの演奏は太夫の為の物であり、彼女たちの演奏には太夫の力を倍増させる力がある。

もちろん、彼女たちにも敵が来ており攻撃を常に仕掛けてくる。
それを退けるのが、黒子2人の役目であり、彼女や黒子の補助をするのが2人の婆婆の役目であった。

黒子や婆婆たちが迫り来る敵を倒し露払いをしても、4人だけで全てを退けるには数が多過ぎる。
どうしても、彼女たちの元に辿り着いてしまう敵がいるのだが彼女たちもただ演奏するだけ、後方支援するだけではない。
迫り来る敵を楽器を持って退ける。
人の丈ほどある琴を振り回し、ぶつけ、潰し、弦を操り突き刺す。

2人の抜けた演奏の穴を、三味線を操る三絃が引っ切り無しにばちを動かし弦を弾く。
必死に弾く三弦の大きな音に敵も集まり集中し出した為、笛音が頭に直接響き影響を及ぼす音を出し敵を攻撃しだす。

「笛音、その音は私たちにも影響がありんす。あまり使わないで欲しいのです。」

「ですが、私はこれしか、、、。」

「鼓!衝撃波頼みんす!」

「ポン!」と言う、なんとも聞き心地の良い音とは裏腹に鼓から出た衝撃波に敵が吹き飛んでいく。
彼女たちが持ってる楽器は多少改造をしてあるが、基本の性能を楽器として扱えるようにしてある為彼女たちにしか扱えない代物であった。

「我らもやりますかの。死化粧しにげしょう!!!」

婆婆たち2人も、若者に負けじと速化粧を敵に施していく。
婆婆たちがやっている化粧の薬には全てにおいて微量な毒素が含まれている。
それが顔というパレットで様々な薬と混ぜ合わさることで強力な毒となり敵をしに至らしめる。

腰の曲がった小柄な老婆2人が戦場を駆け抜け、化粧を施された死体の山が次々に出来上がる。
戦場は乱戦と言えるほど激しく繰り広げられ、たった数名を相手するだけに万の敵は足を止めてはいられない。
敵は次々に吉原を抜けていき、見守っているアサミたちにまでも手を掛けようと進み出した。

「そうは問屋が卸さない!のでありんす!!!【信仰魔法】。」

太夫の戦場に響いた声は、全てのものに届きその目を自分へと惹きつけた。
太夫を見たものたちは、光り輝くかんざしに目を奪われ自分たちが一瞬何をしにここにきたのかわからなくなってしまった。

「美しい、、、。」

その一言を言う為だけに、足を止め心を止めたものたちは太夫の側から離れようと歩みを進めることが出来なくなっていた。
それは例外などなく、太夫を見てしまった敵軍全てであり、敵の将達も同様である。

「わちきを倒さねば、これより先を進むことはできぬ!さぁさ、さぁさ、わちきを殺しに来てくりゃれ。」

全ての男を魅了するかのように、小悪魔的な誘いを見せる太夫。
今までのように高嶺の花のような高貴で妖艶な雰囲気はなくなり、子供のように表情豊かで近づきやすく感じさせる柔らかさを纏っていた。

「さすがですじゃ。これであの者らは、我らを倒すことをまだ先に考えるようになる。ここからが、本番ということじゃの。」

婆婆も今まで以上に大変になる事を感じ取った為か、素早くたすき掛けをして着物をまとめると無駄のない動きで、周りにいた敵5人に化粧をしてみせた。
バタバタと倒れ、さらに次々に化粧を施す婆婆は、息が荒くなってきていた、、、。




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