異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

マホバ直轄部隊「吉原」

現在の魔女の話を聞き、マホバは自分の部隊が来る事に身を引き締めていた。
身構えておかなければ、これから起こるであろう状況に心がついていけないと経験則として学んでいたからだ。

アサミ達と一通りの話が終わった頃、マホバは自分の異界内に入ってくる気配を感じた。

「ちょうど到着したようね。」

スライムが人型のまま動き出し、それに続く形で外に出て行く。
アサミ達は外に出て初めてみる光景を目にした。
花園の中を和服を着た煌びやかな女性を先頭に、行列を作り丘の上にあるマホバの家に向かってゆっくりと歩みを進めている。
時間をかけて、、、遅いと感じる時間が経とうとも、その美しさや妖艶な雰囲気から短く感じ見とれてしまっていた。

「お久しぶりでございます、マホバ様。我らマホバ様直轄部隊「吉原」。今ここに、はせ参じました。」

一番先頭に立っていた、もっとも煌びやかに着飾った女性がリーダーなのであろう。
それに続き、同じ様に和服を着込んだ女性が5人、年老いた老婆が3人、付き人と思われる黒子が2人いた。

この吉原と言う部隊は、これを預かるマホバと違い派手で美しく、高嶺の花と言い換えれるほど華やかな花魁おいらんたちで構成されていた。
マホバ自身、素朴で素は十分に美しい姿だが、着飾ったものと比べれば月とスッポンだった。

「私はこの小隊の長:大名太夫だいみょうたゆうと申します。そして、右から「お琴」、「小琴ここと」、「つつみ」、「三弦さんげ」、「笛音きね」と続きます。この者たちは、私どもの遊郭の実力者でございます。我らはもてなしに秀で、外交や遊びの場を職としているが故にただの飾り部隊と称され続けてきました。此度の戦場にて、そのイメージを払拭させ我らにもそれ相応の実力はあるぞ!と言うところを知らしめるため、どうかマホバ様にはその機会を頂き等御座います。」

マホバの元まできた花魁の集団「吉原」は、跪いた後マホバにそう頼み込んだ。
マホバははじめ困った顔をして、それを拒否した。
それは、魔女様から昔言われた言葉が理由だ。
【中央領域の者を守れ】
その前後の言葉は、中央領域に住む者、関わる者は全て仲間であり、特に魔女に連なる者たちは今回の場合の様に戦いに身を投じることが多い。
だからこそ、マホバは危険を避けるため共に戦うことを提案した。

「申し訳ありません。私たちはその命令に従えません。どうか、お願いいたします。」

「私と共に戦っても、勝った時の評価は吉原の評価にも繋がるのですよ。無理をして危険なことをする必要はないのです。」

「横から申し訳ない。この老いぼれの婆婆の言葉も聞いてもらえんかの?儂らはただ、吉原のイメージを払拭したいだけではないのですじゃ。もちろん、戦闘に参加する機会が今までにない儂らの事をないがしろにする心無い者たちもおります。しかし、実力のない者たちにこれ以上あれこれと言われるのはもう、我慢ままなりませんのです!!!我らの事もそして、マホバ様のこともこれ以上とやかく言われるのはいい加減我慢の限界ですじゃ。」

はじめはゆっくりと落ち着いた様子で話していた老婆であったが、だんだんとその怒りが露わとなりマホバでさえもその気迫に少したじろぐ程であった。
その気迫もあったためか、マホバは結局折れた。



「とうとう、私たちの力を存分に使っていいのですね。」

「無理だけはしない様に。それと、全てを任せることはさせません。今戦場にいる敵兵は3万だそうなので、半分は私が引き受けます。後の半分をお願いします。先に言っておきますが、これは譲りませんから。」

「分かりました。しかし、マホバ様一人で1万5千の敵兵を相手取るとなると、少し無理があるのではないですか?」

現在、東国:イダンより派遣された3万の兵士と、中央領域より派遣された11人が国境付近にある荒野にて向かい合っている。
この11人はマホバと吉原たちである。ちなみに、アサミたちや他の援護の者たちはいない。あくまでも、マホバたちに任された戦場でありアサミたちは見学者でしかない。

イダン側の者たちは、向かい合う相手の少なさに余裕の表情である。
数の差がこれ程までにあれば、いくら実力があるからと言い聞かされていても恐怖に怯えることは決してない。
しかし、それは一般の兵士たちであってそれらをまとめる隊長たちに余裕の色は見えない。
あそこにいる全ての者が、自分たちの進行に対処できる実力がある事を感じ取っていたからだ。
その焦りが、強くあればあるほど余裕はなくなり見る目が変わってくる。
そして、開戦の火蓋が開かれる前に錯乱した一人の隊長の掛け声で唐突に戦争が始まった。

開戦の時刻には少し早かったが、掛け声と高ぶっていた気持ちから一般兵の足は止まらない。
掛け声を高らかにあげ、勢いに任せて走りマホバたちを殺しに全力で向かってくる。

「話はここまで。さて、まずは半分に分けるわ。空間魔法応用して作った特大の異界に敵を取り込むわ。「宝玉起動!」それじゃあね。負けないでね。」

マホバは走り向かってくる敵兵を確認すると、顔を隠している前髪も地面につくほどの長さの髪も全てを纏め上げ高い位置で一本の髪束にした。
そして、取り出した宝玉の説明をして魔法を発動させた。
宝玉からいくつもの光と魔法陣が溢れ出し、敵兵たちを一瞬のうちに異界へと飲み込み何処かに消える。

そして、自らも異界に行く前にギリギリまで話をしていた太夫に振り向きながら命令をした。
初めて見せたマホバの素顔は、赤い目に猫の様な縦長の瞳、肌には龍燐がわずかに浮かび上がりその姿からは穏やかないつもの姿とはかけ離れていた。
マホバが敵兵を倒すために異界に入っていくのを、太夫は最後まで見送り自らの戦いに向かう。

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