異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

開戦のカウントダウン

「皆の者、表を上げよ。多くの民が暮らす我が国で、現在問題になっているのが国民の増加による「国土不足の問題」と「食料問題」である。その他の問題もかんがみて、現刻を持って中央領域への開戦を宣言する!」

この日、東国:イダンを治める「東王:蒼龍・ヴェルクーリ」は各領地を治める貴族たちとの定例会議で中央領域に対し宣戦布告をした。
戦争を起こす際、どこの国がどこの国に、戦争を起こすのか布告しなければならない。そして、戦闘を行う場所を指定し軍人や兵士、徴兵された者のみの参加とする。一般市民を巻き込み、多くの命が無益に費やされないようにするため、各国が守っている暗黙のルールである。
今回もそれにのっとり宣戦布告が出されたが、魔女たちの対応は迅速かつ余裕のあるものだった。

「東国が動いたということは、マホバに動いてもらうことになるわね。一応、管轄は終焉の魔女になってるけど、異論はある?なければ、そのまま伝えて欲しいのだけど。」

「私からはないよ。あの子もすでに十分の実力者となってるしね。マホバ直轄の舞台ならば十分にやっていけるだろうよ。儂らの知る情報以外の不確定要素がなければね。」

「それじゃあ、とりあえず念のため私のとこで確保してる食料をいつでも配給出来るように準備しとくね!あとー、私の部下たちにも色々動いて貰えるように指示を出しとくよ。」

「私たち魔女としての役目は大体決まった、、、。バルマス!各村と街に宣戦布告が出されたことを説明、その後通常通りの生活を送りつつ、非常事態に対しての備えをするように伝えろ。フィナ!マホバ直轄の部隊「吉原」の連中に動くように連絡を!さて、吉原の部隊がどれだけ戦えるのか、こんな馬鹿げた戦争を仕掛けてくる東国の王にどんな賠償をさせるか、考えないとね。」

中央領域は常に隣国4県を監視し、非常時に素早く的確な行動が取れるように動いている。
今回の戦争は、その成果もあり数日前から露見しこちらでも準備を進めていたのであった。

「アサミたちはどうしますか?確か現在東国にいたはずです。ちょうど、マホバの所に来たとか。」

「そうか、ならばそのまま見学でもさせようじゃない。あの子たちにはいい経験になるよ。3人への連絡は私からはするよ。フィナはあの子たちのことを気にせず、自分の仕事に集中しな、吉原の連中は大規模戦闘なんて経験したことないんだから。必要以上に準備を念入りに用意しとくんだよ。戦争は犠牲が出るものだけど、中央領域の誰一人として無駄死にさせるつもりはないからね!」

話がまとまり、それぞれが部屋を出て行く。
その中で現在の魔女だけが部屋に残り、こぶし大の灰色がかった球を出した。
それを、テープルに置き手を叩くと、玉の下に陣が描かれプロジェクターのように別の風景を映し出し始めたのだった。




その頃、アサミたちはマホバの元を訪れていた。先日の侵入者との戦闘から、3人はマホバを実力あるものと認識し、そして近くにいる仲間として図々しくも異界の花園を休憩場所として使っていたのである。

「遊びに来るのはダメじゃないけどね、1日に何度も出たり入ったりされたらこちらとしても、困るんだけど、、、。」

現在、3人はマホバの家でお茶をすすっていた。
アサミは「すいません」と口先ばかりの謝罪をして、お茶やお菓子を楽しんでいる。
マホバは呆れ気味にため息をつき諦めた様子だったか、その姿は本気で怒ったり嫌がっているようには見えなかった。

昔は、ここに私の弟子たちも居たわね。すでに手元を離れた子達だけど、今どうしてるかしら?

顔は見えないがどこか、儚げで寂しそうに見える姿に、3人はマホバを巻き込みつつ世間話で盛り上がろうとしていた。落ち込んだ雰囲気が少しずつ消えてきた頃、突然アサミの陰から従魔のスライムが飛び出してきた。
突然のことに皆一様に驚いたが、スライムは御構い無しに床に円を描くようにクルクルと駆け回りだした。可愛い
アサミが少し気持ちを緩めた瞬間、いきなりスライムが風船のように巨大化し弾ける。すると、中から現在の魔女の姿をしたスライムボディーが現れた。

「「「「えっ!!!!」」」」

「久しぶりだね。といってもまだ一か月くらいしか経ってないけど。」

3人とも驚いて目を白黒させている。タトューもいつもと変わらないように見せているが、顔に驚きのあまり余裕がないことが滲み出ている。

「うまく驚かせられたみたいでよかった。お前たちに渡したこの従魔のスライムには、仕掛けをしといたのよ。いざという時の通信手段としてね。それがこの子の能力。で、そんなことを流暢に話している暇は無くてって、ちょうどマホバもいるのね。なら手間が省けたわ。ねー。ちょっと!だれか、終焉の魔女に、、、。」

まるでフォログラムの様に立体的にスライムが動き、その一動作も完璧に再現して見せている。この通信の原理はタネを明かせば簡単である。
スライムには核があり、これはそれを利用したものだ。核の一部を剥ぎ取り、アサミたちの連れているスライムに擬似核として認識させる。その後本体の核を復元させ魔法陣を持って通信機とする。
スライムには人を通じて入ってくる、立体的な情報を元にアサミ側で姿を構築してもらい、声は本核から聞いた声を向こうで空気の振動魔法を使って再現するだけ。

原理を知れば簡単だしそんなことかと思うことだが、スライムを殺さないように核をいじったり、スライムにも使える様に魔法陣の改良、魔法の習得、何よりしっかりとした調教をしなければ通信するこの能力を得ることは出来ないので、アサミたちはある意味すごい物を受け取っていたのである。

「長ったらしく色々話したけど、要するに東国が戦争起こして中央領域を攻めにくるから、マホバあんた達がなんとかしなさいってことよ。マホバ直轄の吉原の部隊をそちらに向かわせてるわ。敵の数は今把握している段階で3万よ。偵察隊の報告によると、増えすぎた人口の口減らしね。何年かに一度あったりするし。本気で中央領域を落としに来るわけじゃないと思うけど。」

「口減らし、、、。そんな事を国が指導してやるんですか?」

「あー、アサミの世界にはなかったのね。そうよ、土地や食料の問題は無視できるものではないわ。家庭の中でも口減らしは起こる。家族が増えすぎてどうしようもない状況になって、奴隷に家族を落としたり捨てたりする場合もあるの。もちろん、国も簡単に国民を見捨てるわけじゃないと思うけど、国土も有限、生産できる集められる食料も有限。だから必要に応じて戦争して数を減らすの。真っ当な理由だから、家族を奪われても文句は言えないしね。」

世界の悲しい現実。
平和な時間が長くあったために、増えて行た人口による弊害。
その様な理由で費やされる命は、報われるのだろうかとアサミは静かに考えるのだった。


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