異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

初戦闘

アサミは作った水玉や氷を遠くに放り投げ、試し打ちをすると檻から距離を取って身構える。
バルカスはアサミに用意はいいか聞いた後、ゆっくりと檻を開ける。ルーマンは動かない。

「このルーマンと言う生物兵器は、アサミを殺さないように魔法で制御されるようになってる。だか、それはあくまでも殺されそうになる直前に発動するからそれまでは本気で殺しにかかってくる。くれぐれも気を抜くなよ!殺されはしないが、怪我は容赦なくすることになるからな。」

バルカスに脅され、嫌な汗が額や背中を流れていくのを敏感に感じる。
檻は開けられたまま、ルーマンと呼ばれた猿型の獣は許しが出るのを待っているかのように静かに待っているが、話が終わり合図が出されれば飛びかかろうとしているのは目で見てわかるほどに構えている。

「いくぞ、アサミ。・・・・・はじめ!!!」

アサミが頷いたのを確認してかけられた合図とともに、ルーマンが檻から飛び出す。
猿特有の筋肉のバネを使い、どんどん距離を詰めてくるルーマンにアサミは恐怖を感じた。
無我夢中。
そう、振りかざされるルーマンの爪を立てた一撃をアサミを氷の壁が守る。
一瞬にして氷が周りに生み出され、ルーマンの手を飲み込んで攻撃も動きも止めてしまった。

「はぁ!はぁ!はぁ!・・・・。」

尻餅ををつき、荒い息をつく。
動いていなくても極度の緊張で息が切れる。
ルーマンは腕を引き抜こうともがき暴れるが、抜けることはなく騒ぐばかり。
そこにアサミは意を決して、1mほどのつららをルーマンの上に生み出す。が、宙に浮かせたまま動きだす様子がない。

「アサミ、やらなければやられる。それがこの世界だ。お前がどんな世界から来たかは知らないが、その様子から平和な場所で生まれ育ったことは見て取れる。覚悟を決めろ!でなけりゃ、死ぬのはお前だぞ!!」

バルカスがげきを飛ばす。
アサミは、荒い息を吐きながら強く目をつぶりつららを落とす。
叫ぶ声と共に振り落とされたつららは、ルーマンの体を貫き地面を穿ち刺さる。
そのまま、生き絶え動かなくなったルーマンを氷の壁越しに見つめるアサミは、恐怖、罪悪感などは感じず虚無とも言える何もない感情を胸にその場を見つめる。

「アサミ、アサミ!アサミ・・・!初戦闘頑張ったわね。おめでとう、ちゃんと倒せたわよ。」

フィナが抱きしめるが、アサミはえっえ!っと驚くばかり。
氷の壁はすでになく、ルーマンの死体を見て自分でやったことだと考えると不思議な感じになる。

「アサミ、勝てたな。お前はこれから、生き物を殺すことに慣れていかないとならない。今は慣れないところもあると思うが決して負けたり折れたりするなよ。フィナ、アサミを頼む。」

バルカスはフィナにアサミを任せ帰っていく。
アサミはフィナに送られ家路に着く。
着けばシルキーやブラウニーが出迎え、ホット一息。体に入った力が抜け心が段々と落ち着きを取り戻していき、アサミはこの家が私の家で安心できる場所であることを自覚した。

「落ち着いたようね。大丈夫そうでよかったわ。初めて生き物を殺したのよね?辛い思いをさせてしまったかも知れないけれど、その訓練をさせたバルカスを嫌いにならないでね。」

「大丈夫ですよ。私のことを考えてのことだったんですよね。たしかに、いきなりのことで驚いたり気持ちの整理とか出来てませんけど、頭では理解してますから。」

「そう・・・。ありがとうね。バルカスは厳しいけれど、同じくらい優しさを持ってるわ。「生き物を殺す」これがここでは日常的に行われるのも事実だし、私たちと同じ様に付き人となるなら絶対に必要な覚悟よ。前にも話したでしょ?この土地を狙っている人たちはたくさんいるって・・・。私たちは、必然的に命を奪うことを沢山しないといけなくなる。強制に近い形で・・・。だから・・・。」

「なんとなく・・・分かってました。でも、みんなが私の為にやってくれていることはちゃんと分かってますし、私もそれに応えたいので覚悟って程じゃないですけど向き合いたいと思います!」

「そう。無理だけはしないようにね。」

広間のソファーに2人で腰掛け、シルキーの用意してくれたお茶を飲みながら話をする。
アサミが心の内を聞き、優しく頭を撫で心配な眼差しを送るフィナに、アサミは子供のように甘える心地よさを感じるのであった。



アサミの訓練はバルカス指導のもと続けられた。
アサミ自身バルカスのしごきに耐え、それに応え続けた。

「はっ!は!さっさと、死ねーーー!」

アサミは一斉に飛びかかってくるルーマンたちを地面から生やした氷柱で貫き、串刺しにする。

「ギキャーー!!!」

複数のルーマンを倒したのもつかの間。氷柱で捉えきれなかったルーマンが2体、アサミに近づき鋭い爪を振り下ろしてくる。
アサミは、ルーマンの攻撃を容易く躱したり合気道の要領で攻撃をいなしていく。そして、できた隙に内臓を射抜くような正拳突きを入れ2体のルーマンは動きを止める。

「うん!すごいぞアサミ!魔法による遠距離攻撃も体術による近接戦も十分に扱えている。これなら、もう俺の訓練は必要なさそうだな。」

「頑張ったわねアサミ。これで付き人として独り立ちね。」

フィナもバルカスも喜んでくれていることがよく分かった。
アサミはそれが嬉しくて、ニコニコ笑って喜んでいる。もう、殺すことは怖くない。私は強くなった。だから、良くしてくれたみんなに頑張って応えたい。
だから、頑張った。だから今がある。
今のアサミは変わった自分に、自信を強く持てるようになっていた。

「アサミ、バルカスやフィナから報告はもらったわ。随分頑張ったみたいね。これで、一応付き人として正式に動いてもらうことにしたわ。」

「本当ですか!?魔女様!」

「ええ、だから、色々勉強をしてもらうから!」

「えっ!?」

努力の甲斐あってやっと一人前に認められたアサミでだったが、魔女様から不敵な笑みを浮かべて言い渡されたのは再び「勉強」であった。
驚きを隠せないアサミに現在の魔女は続けて詳しい説明を話し出す。

アサミがこれから学ぶのは、この中央領域の重要人物や主要人物、また、ルールやあり方など知っておかなくてはいけないことだと・・・。

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