異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

魔女の眷属:癒しのフィナ

「ローザ、慌てているのは分かるけれど報告はもっと分かりやすく、的確にするようにしてくださいね。」

黒髪に星の光が落ちたような輝きがチラつき、その美しさと気品を際立たせたフィナと呼ばれた女性。

ローザはフィナ様!と叫び指示を待っている。

「精霊たちはあなたたちの邪魔をしているわけではないわ。ただ、この子を守ろうとしているに過ぎないみたい。」
「風と緑の精霊よ、傷つく幼き子を救う事を私は誓う。どうかその手助けをして頂きたい。」

フィナは精霊に語りかけた。
ローザやその部下たちは、息を飲んで見守り精霊たちがフィナだけを通すように道を開け、近づいていくのを見守った。

「精神的なダメージが大きいみたいね。記憶の整理が必要ね。魔力もだいぶ・・・!!!なるほどね、やっぱりこの子が・・・」

フィナは朝美の状態を確認しつつ、癒しながら何かを悟った様子だった。

「この子が、異世界人なのね・・・。ローザそれ以上近づかないで頂戴。なにをするつもりだったのかしら?」

フィナが振り返ると、腰に携えていた剣を半分ほど抜き虚ろな目で朝美を見ていた。
この子供が異世界人なら、この村の消失はコイツのせい。でなければ説明がつない。

「この異世界人のせいで・・・。」

「異世界人の暴走は本人を含めどうすることもできないわ。抑えることができても、自壊していくことを止めることは不可能。あなたの部下には申し訳ないけど、ローザ。あなたの怒りをこの子にぶつけるのは違うわ。」

ローザは歯を食いしばり、部下を連れて消え帰っていった。
1人残されたフィナは、魔法を精霊の力を借りてアサミにかけていく。
傷はたちまち塞がっていき、汚れた服や体も精霊たちがが綺麗にしていった。
次第に精霊たちの数が減っていき、体や魔力には問題無いまでに回復したが朝美が目を開けることはなく、まだ眠ったままだ。

フィナは、そんな朝美を抱きかかえるとローザたちと同じように光をまとって消えていった。



「魔女様。異世界人の子供「アサミ」を連れて来ました。簡単に報告しますと、アサミを捕まえに来た聖軍との接触で暴走を起こし、村一つを壊滅。その際に治安維持担当の部隊長:ローザの元部下が亡くなる結果となりました。その後、治療をしましたが今だ目を覚ましておりません。」

「暴走自体は仕方がないとしても、色々な思惑が混ざり合っているわね。・・・。フィナ、この子に記憶の封印を施しなさい。全てではなく、今回の村消失の理由や暴走に至った痛ましい記憶を。そして、辻褄があうように改ざんを。」

「分かりました。すぐに終わらせます。」

フィナは手術台のようなテーブルに横たわるアサミに魔法をかけ記憶の解析と封印、そして改ざんを施した。
その様子を、壁に背を預け見守る目つきの少し鋭いフィナに似た女性が立っていた。

「ここは・・・?」

「目を覚ましたようね。大丈夫?私はフィナ。あなたを治療した魔法使いよ。」

「えっ、と。フィナさんが私を助けてくれたってこと?確か、村が変な兵士たちに焼かれて、シスターたちと逃げて・・・。みんなは無事なんですか!!!!」

目を覚ましたアサミは、優しく微笑む助けたという女性の言葉に慌てたり混乱することはなかった。しかし、自分がなぜここに居て、どうして助けてもらう事になったのか、だんだんと記憶を遡っていくうちに慌てて大きな声を上げてしまう。

「大丈・・・。」

「お前の言うシスターは発見できなかったそうだ!お前を発見したのは元々は村のあった場所だったが、お前を残して村は消滅。発見できた生き残りはお前だけだよ。」

フィナが鎮めようと声をかけようとしたが、それに被せるように魔女は声を強くかける。
魔女の言葉に、アサミは黙り胸の痛みに気が遠くなりそうになった。

「よく聞きなさい。お前の言うシスターや、他の人間はお前に何と言っていたか覚えている?怒りや復習をして欲しいと言っていたの?」

「えっ、え、えっと・・・。逃げて、アサミだけでも・・・。」

「生きて欲しい、と言ったんじゃない?私だって、同じような立場ならそう声をかけると思うわ。辛いのは分かるけど、託されたお想いを無駄にしちゃダメよ。」

アサミは意識をしっかりと取り戻した。
胸の痛みはより強くなったし、涙も溢れ出て来たがだんだんと気持ちが落ち着いてくる。
フィナはそんなアサミを優しく包むように抱きしめ、泣き止むまで抱きしめた。
魔女もそれを少し優しげな顔をして見守った。


「そろそろ、落ち着いて来たかしら?散々言ったけど、改て自己紹介ね。
私はこの中央領域を統括管理する魔女の1人、『現在の魔女:ディアナ』よ。そして、私たち魔女の眷属のフィナ。あなたの事も教えてくれるかしら?」

「私は甘露木・・・。いいえ、アサミです!」

「ありがとう、アサミ。さっそくだけど、アサミには二つの選択肢があるわ。一つは、この中央領域で私の部下となって働く事。もちろん、そうした場合、衣食住しっかり面倒を見るわ。二つ目は、ここを離れて自分で生きる事。もちろん、何も持たせず1人にするようなことはしないけど、少ないお金をやりくりしたり、何も知らない土地で暮らすのはとても大変なことよ。
私的には前者をオススメするけど、どうする?」

アサミの答えは決まっている。
この世界に来て、しばらく経つがこの世界は元の世界と比べて著しく治安が悪い。
飢えて死ぬ事も、人や獣、魔物に襲われて死ぬ事もあるのだから。
あの村での生活は、教会という住む場所と、シスターがいたから守られていたに過ぎない。

「私にはまだ、自分1人で生きるだけの力も術もないです。何も差し出すものはありませんが、どうかこちらにおいてください!」

「労働力を提供するのだから、何も差し出せないというわけではないと思うけど、まあいいわ。アサミ、これからよろしく頼むわよ!私たちはただ働かせるだけではなく、アサミの頭の方での成長も望むわ。だから、勉強もしっかり頑張るのよ!」

こうしてアサミは、中央領域の現在の魔女付きになり新たなる生活が始まるのであった。

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