短編
虹色のボート
海鳴り風鳴りを越えてゆく。波はざっぱんざっぱんと白い泡となって押し寄せた。
轟く雷が、瞼の裏を真っ白に、もしくは薄紫にした。顔や腕に、小石でもぶつかって来ているように雨が打ち付ける。
小さなボートは誰かに引っ張られているように、波を乗り越えてどんどん進む。
目を開けては閉じてを繰り返す。きりがないと分かっていても、何度も船底にたまった水をすくいだしては、顔を拭う。気が付くとボートの中には色々な生き物がいた。
そこにはボートから這い出ようとするタコがいた。
「このボートじゃだめだ。違うのに乗り換えよう」
そうは言うけれど、乗り換えるためのボートなんかない。とりあえずタコにボートから出るなと手招きする。
「こんなこと止めて、海に飛び込んでみればいいんじゃない」
そういったのは、星の形をしたヒトデだ。それをポイっと投げてみると、どこかに沈んでしまった。きっと、よいところに着地できただろう。
「何がなんでも、このおんぼろなボートにしがみついているしかないわ」
そう言ったのは、恰幅のいいアザラシだった。アザラシを何度もみたけれど、こんなに恰幅のいいのは初めてみた。いまはボートの後ろにいて、どんと構えている。どうやらアザラシが重たくて船がひっくりかえってしまいそう。
海に落とそうと腕でこずいてみる。
「このヒトデナシ!」
アザラシにそう怒鳴られてしまった。申し訳ない気持ちになって、腕でこずくのはもうやめた。
そのうち、ボートは岩に当たってしまった。ボートが岩に乗り上げたあと、あっという間にばらばらになってしまったのだ。
みんなは大きなため息をついて、小さな岩に寄せ集まってぶるぶると震えている。
それから、それぞれで文句を言い始めた。誰が悪いか、自分がどれだけ正しいか認めさせないと気がすまないようだ。岩にいる貝たちも、よく分からないまま口論に参戦しだす。
雨よりも嵐よりも、騒々しかった。ふと気が付くと、雨は止んでいた。空は不思議な色をしていた。黄緑色のまるでワカメを光に透かしたみたいな色をしている。海は海で深海をそのまま持ってきたかのように真っ黒だ。美しいのか奇妙なのか、不気味なのか言いようがなかった。
きっとそれぞれが違う風に思っただろう。そしてみんなあることに気が付いた。
「ひょっとして、海の中のほうが安全なんじゃない」
「だから言ったじゃない」
海面では、ヒトデがぷかぷか浮いてそう言った。それをつついて遠くにやる。ヒトデは小言を言いながら遠ざかっていく。またすぐ戻ってくるだろう。
「それにしたって、なんでボートになんか乗ったの?」
カモメが群れになって、空から呆れたように言う。
みんな顔を見合わせて、なんでだっけという顔をする。嵐にまぎれて、波の間をゴロゴロとしている間に乗り込んでしまったとは気が付いていないみたいだ。
「ボートの欠片を集めてみんなで直さない?」
そう言うと、みんな手伝ってくれてあっという間にボートの欠片を集めることができた。
「それを直したら、また嵐のなかで遊ぶの?」
ヒトデはいつの間にかボートの残骸に乗っていた。
「うーん。それもいいけど、こうしよう。真っ青な空の日に、みんなでぷかぷかと浮かぼうよ。灯台のおじいさんも招待するつもり」
みんながみんな、灯台のおじいさんのことを頭に描いているのが良くわかる。みんな楽しそうに頷いた。
「そうとなったら、ボートを直して飾り付けをしましょう」
ヒトデは急にやる気になったかと思うと「ちょっと失礼」そう言って、私から鱗やら、綺麗な貝殻のネックレスをむしりとっていく。ひっ。っと悲鳴を上げるけれど、ヒトデはおかいまいなしだ。
「人魚の鱗、色とりどりの貝殻、これでいいわ」
自分の鱗をちゃんと見たことがなかったけど、取られた鱗は虹色に輝いている。
すると、誰がおじいさんを呼びにいくやら、その前にボートを直すべきでしょやら、タコとアザラシとヒトデが話出す。そしてやっぱり貝たちも口を挟むと、カモメ達も会話に群がってくる。
それは嵐よりも騒々しくて、海の底にいたみんなが起き出して顔をだしたほどだった。
そしてますます話は盛り上がっていく。みんなはああでもない、こうでもないと言いながら船を直して、鱗と貝殻ですっかりと飾り付けが終わっていた。
しばらくの話し合いのあと、遠くで船の汽笛が聞こえた。
みんなは我に返って、いっせいに海の中にざぶんと潜っていった。タコもアザラシもヒトデも、それに後から集まったみんなも全員だ。
そのあとは近くを大きな船が重々しく通過していき、後には、波が静かに囁くだけになった。
綺麗に直したボートは波によって運ばれていく。きっとどこに行くかは心得ているはずだ。
遠ざかるボートは時々、虹色にきらきらと光る。それは波の合間の光なのかなんなのか、そのうち分からなくなってしまった。
ーーおしまい
轟く雷が、瞼の裏を真っ白に、もしくは薄紫にした。顔や腕に、小石でもぶつかって来ているように雨が打ち付ける。
小さなボートは誰かに引っ張られているように、波を乗り越えてどんどん進む。
目を開けては閉じてを繰り返す。きりがないと分かっていても、何度も船底にたまった水をすくいだしては、顔を拭う。気が付くとボートの中には色々な生き物がいた。
そこにはボートから這い出ようとするタコがいた。
「このボートじゃだめだ。違うのに乗り換えよう」
そうは言うけれど、乗り換えるためのボートなんかない。とりあえずタコにボートから出るなと手招きする。
「こんなこと止めて、海に飛び込んでみればいいんじゃない」
そういったのは、星の形をしたヒトデだ。それをポイっと投げてみると、どこかに沈んでしまった。きっと、よいところに着地できただろう。
「何がなんでも、このおんぼろなボートにしがみついているしかないわ」
そう言ったのは、恰幅のいいアザラシだった。アザラシを何度もみたけれど、こんなに恰幅のいいのは初めてみた。いまはボートの後ろにいて、どんと構えている。どうやらアザラシが重たくて船がひっくりかえってしまいそう。
海に落とそうと腕でこずいてみる。
「このヒトデナシ!」
アザラシにそう怒鳴られてしまった。申し訳ない気持ちになって、腕でこずくのはもうやめた。
そのうち、ボートは岩に当たってしまった。ボートが岩に乗り上げたあと、あっという間にばらばらになってしまったのだ。
みんなは大きなため息をついて、小さな岩に寄せ集まってぶるぶると震えている。
それから、それぞれで文句を言い始めた。誰が悪いか、自分がどれだけ正しいか認めさせないと気がすまないようだ。岩にいる貝たちも、よく分からないまま口論に参戦しだす。
雨よりも嵐よりも、騒々しかった。ふと気が付くと、雨は止んでいた。空は不思議な色をしていた。黄緑色のまるでワカメを光に透かしたみたいな色をしている。海は海で深海をそのまま持ってきたかのように真っ黒だ。美しいのか奇妙なのか、不気味なのか言いようがなかった。
きっとそれぞれが違う風に思っただろう。そしてみんなあることに気が付いた。
「ひょっとして、海の中のほうが安全なんじゃない」
「だから言ったじゃない」
海面では、ヒトデがぷかぷか浮いてそう言った。それをつついて遠くにやる。ヒトデは小言を言いながら遠ざかっていく。またすぐ戻ってくるだろう。
「それにしたって、なんでボートになんか乗ったの?」
カモメが群れになって、空から呆れたように言う。
みんな顔を見合わせて、なんでだっけという顔をする。嵐にまぎれて、波の間をゴロゴロとしている間に乗り込んでしまったとは気が付いていないみたいだ。
「ボートの欠片を集めてみんなで直さない?」
そう言うと、みんな手伝ってくれてあっという間にボートの欠片を集めることができた。
「それを直したら、また嵐のなかで遊ぶの?」
ヒトデはいつの間にかボートの残骸に乗っていた。
「うーん。それもいいけど、こうしよう。真っ青な空の日に、みんなでぷかぷかと浮かぼうよ。灯台のおじいさんも招待するつもり」
みんながみんな、灯台のおじいさんのことを頭に描いているのが良くわかる。みんな楽しそうに頷いた。
「そうとなったら、ボートを直して飾り付けをしましょう」
ヒトデは急にやる気になったかと思うと「ちょっと失礼」そう言って、私から鱗やら、綺麗な貝殻のネックレスをむしりとっていく。ひっ。っと悲鳴を上げるけれど、ヒトデはおかいまいなしだ。
「人魚の鱗、色とりどりの貝殻、これでいいわ」
自分の鱗をちゃんと見たことがなかったけど、取られた鱗は虹色に輝いている。
すると、誰がおじいさんを呼びにいくやら、その前にボートを直すべきでしょやら、タコとアザラシとヒトデが話出す。そしてやっぱり貝たちも口を挟むと、カモメ達も会話に群がってくる。
それは嵐よりも騒々しくて、海の底にいたみんなが起き出して顔をだしたほどだった。
そしてますます話は盛り上がっていく。みんなはああでもない、こうでもないと言いながら船を直して、鱗と貝殻ですっかりと飾り付けが終わっていた。
しばらくの話し合いのあと、遠くで船の汽笛が聞こえた。
みんなは我に返って、いっせいに海の中にざぶんと潜っていった。タコもアザラシもヒトデも、それに後から集まったみんなも全員だ。
そのあとは近くを大きな船が重々しく通過していき、後には、波が静かに囁くだけになった。
綺麗に直したボートは波によって運ばれていく。きっとどこに行くかは心得ているはずだ。
遠ざかるボートは時々、虹色にきらきらと光る。それは波の合間の光なのかなんなのか、そのうち分からなくなってしまった。
ーーおしまい
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