不能勇者の癖にハーレム築いて何が悪い?
25:夢で逢えたら
暗く、しかし暖かな闇の中を漂う様な感覚。
その中に仄かな光が見えた。
これは夢なんだとすぐに理解したはずなのに、体は目覚めることを拒否する様にその闇の中を勝手に進んでいく。
「お兄ちゃん」
「……七海」
俺が自らの手で引導を渡した妹、七海。
もう既にこの世の人ではないはずの妹が、三歳くらいの姿で現れ徐々にその体を成長させていく。
そうか、これは罰なのか。
どんな事情があっても、家族にだけは手を出してはいけなかった。
きっと天がそう言っているんだ、俺はそう考えてその罰を甘んじて受けることにした。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「は?」
こいつは何を言っているんだろう。
もしかしたら、もう少し生きていたら、あの苦しみは少しずつでも緩和されていたかもしれないのに。
そんな希望の芽ですら摘み取った俺に、ありがとう?
「私、ずっと苦しかった。お兄ちゃんに会いたかった。でも、会えないまま一生を終えるのかなって思って、本当は自殺しようと思ってた」
「…………」
「だけど、どういうわけかお兄ちゃんは来てくれた。何でなんだろうね」
「……わからん。偶然って言えば偶然なんじゃないか?」
「ふふ……お兄ちゃん、変わらないね」
そんなことはない。
少なくとも俺は、向こうにいた頃はあんな風に躊躇いなく人を殺したりできる様な人間じゃなかったし、それどころか人と争うことさえも怖がって逃げてきた様な人間だ。
それが知った顔を立て続けに二人も葬って、平気な顔をしている。
そして自身が傷つくことも恐れず魔物に立ち向かっていって、あんな怪我までしているのだから変わってないというのはいささかおかしいだろう。
とは言っても夢が見せるただの幻にそんなツッコミは無意味だとも考えて、俺は黙る。
「私ね……死ぬまでずっとお兄ちゃんと一緒にいられたらって考えてた。もちろんそんなの叶うはずがないし、それでも私にとってお兄ちゃんは小さい頃からずっと、憧れで大好きなお兄ちゃんだったから」
「…………」
やめろ。
俺はそんな大層な人間じゃない。
傷つけ、傷つけることを恐れなくなって……いや、開き直ってそれらを享受しただけに過ぎない。
勇者としての期待だとか、仲間が大事だからとか、そんなもっともらしいお題目を並べ立てて力を振るっているに過ぎないんだ。
しかし……これが罰なんだとしたら、今度こそ俺は逃げてしまうわけにはいかない。
理由はどうあれ、本人が望んだことであったとしても、俺は許されてはいけないことをした。
その事実は俺が死ぬまで……いや、もしかしたら死んだ後になっても、付きまとう事実なんだから。
「これからは私、ずっとお兄ちゃんを見ていられる。だから幸せなんだよ? そりゃ、さっきみたいな無茶ばっかりされたらさすがに心配になっちゃうんだけど。それにもう抱きしめてもらうこともできなくなっちゃったけど、それはお兄ちゃんを慕って集まってくれてる仲間の人たちにしてあげてほしいかな。私は邪魔したりしないし、それどころか応援するから」
「……それは、ありがたいけどな。そう上手く行くもんでもないんだよ」
「何で?」
何でって……そうか、俺は事情までは話していなかったんだっけ。
でも、妹にこれ言うの?
不能なんだよ、って?
「あの人たち多分全員、お兄ちゃんのこと好きでしょ。男として見てるし、すごいギラついた目してたよね」
「ああ、まぁそうだな。明確な好意を向けられてるのは自覚してるよ。だけどな、健全な男女が付き合うことになったら……まぁ、色々あるだろ」
「色々?」
このアマ……本当はわかってて言ってないか?
正直俺としては、こんな恥ずかしいことを身内に打ち明けるなんてこと、たとえ夢の中だとしてもちょっと嫌なんだけど。
「……勃たないんだよ、俺」
「……はい?」
「だから、勃起しないの。できなくなったの。原因は不明。王様からそれ関係の薬もらって飲んでるけど、今のところ改善の兆しなし」
「…………」
自分で聞いておいて、何でそんなぽかんとした顔してんだよ。
俺だって別に好きで不能になったわけじゃないんだぞ。
「まぁ、そういうわけだから、あいつらとどうこうなることは今のところあり得ないってわけ」
「……お兄ちゃんは、昔から精神的にあんまり強くなかったもんね」
よくわかってるな、さすが。
生まれてからずっと一緒にいる兄妹だからこそわかることなのか。
「お兄ちゃんは、多分その弱さを克服しないとダメなんだろうね。多分克服できたら、その……た、勃つんじゃないかな」
「恥じらうくらいなら別に、無理してそんなこと言わなくていいよ。お前のことは結局妹としてしか見てなかった。これは素直に認めるよ。恨んでもいいし、呪ってくれても構わない」
「ひどいなぁ……」
「だけどな」
俺は、七海にちゃんと伝えなければならない。
理由はどうあれ、最期の最後には七海をちゃんと女の子として見ることが出来たんだと。
「お前を殺す直前、俺は確かにお前を女の子として見ていたよ。だから、殺したんだ。ただ一人の、哀れな女の子だと俺は思った。だから俺は、お前を楽にしてやれたのかもしれないってな」
「……そうなんだ?」
「ああ。お前から事情を聴いて、それで俺はお前のことをただただ妹として見れなくなった。ただ一人の可哀想な女の子で、苦しんでいるならその苦しみから解放してあげたいって、ただそう思った。多分妹として見たままだったらもっと違う手段を取ってた」
「そっかぁ……そうなんだ、嬉しいな」
殺されて嬉しいって、何だか狂ってる気がするけど……俺も大概だよな。
もう既に、俺も七海も正常ではない。
だからこんなことをお互い笑って話せているんだろう。
「私には、お兄ちゃんのその悩みを改善してあげることは出来ないんだと思う。だけど、一つだけ言えるなら……仲間を信じて」
七海が俺の額に自らの額を当て、微笑む。
そういや昔、こんなことをやってやった記憶がある。
どれだけ泣いていても、七海はそれで泣き止んで笑っていたっけ。
「今までありがとうね、お兄ちゃん。これからは、自分の為に生きていいんだよ」
「……今までだって俺は、自分勝手に生きてきたけどな」
「そんなことないよ。いっつも人のことばっかり。さっきだってそれで大けがして……もっと身勝手でいいのに」
「十分身勝手さ。ただ助けられた恩もあるし、そういうのは返さないと男じゃないだろ」
「そういうところ、好きだよ。……また、会いに来てもいい?」
そう言った七海は、ぼんやりと体が薄く存在感が希薄になって見えた。
消える時間なのか。
しかしまた会いに来るというのであれば、俺は拒絶したりしない。
本当なら殺すことなく、全て何とかしたかった。
だけど、それ以外に方法が見つからなかった。
俺だって、この世界に来てただ一人の肉親に、また会えるんだったら会いたいという気持ちがある。
「当たり前だろ。お前はこの世界においては俺のただ一人の家族なんだから」
「ふふ……また来るね、お兄ちゃん」
その後すぐに、俺の意識は覚醒した。
先ほど抗い様のなかった感覚から解き放たれて目覚めた体は、汗でびっしょりになっていて頭が鈍く痛み、左腕もやはりズキズキと熱を持っていた。
「あ、目が覚めた……大丈夫?」
「雅樂……」
「うなされてたわよ、あんた……熱あるみたいだからもう少し寝てたら?」
アルカが布を濡らして俺の頭にのせる。
雅樂の熱は大丈夫なんだろうか。
「あ、私? 私ならとりあえず大丈夫。まだ少しだるいけど、明日には回復するよ」
「そうか……俺はどのくらい眠ってた?」
「三時間くらい? とりあえず外は今のところ静かなものよ」
「そうか……ティルフィさんは?」
「私ならここに」
声がした方を見ると、ティルフィさんが立ち上がって俺を見た。
話によれば今はミルズとヨトゥンが見張りをしてくれているらしい。
「雨が上がりましたので、交代してくれるということで、お言葉に甘えさせてもらいました」
「そうでしたか……」
「リン、腕はもう少し我慢して。私の精神力が足りないみたいで」
「別にいいよ……ていうかアルカ、お前こそそれなら休んでくれよ」
女の子に無理させて平気でいられるほど俺はまだ腐っていない。
そう考えて立ち上がろうとしたら、よろけて雅樂とティルフィさんにその体を支えられた。
あんなに雨に濡れたって言うのに、何かふわっといい匂いがした気がする。
「あんたこそ無理しないでよ。うちの要なんだから。私なんかは代わりがいくらでもいるけど、あんたには……」
「そんなこと言うな」
「えっ……?」
「何処の誰だって、誰の代わりにもならねぇし、俺はお前がいなくなったら悲しむぞ」
「ちょっと、な、何言ってるのよあんた……」
明らかにアルカは狼狽している。
というか俺も何でこんなこと言ったのか、という思いが強い。
慌てたりはしてないが、何だか気恥ずかしい。
「も、もちろん他のみんなだってそうだ。みんな個人個人がその人なんだから、代わりなんているわけねぇだろ」
自分でも一体何を言っているのか、と思う。
「というわけだから……回復の要であるお前も寝とけ。とりあえず俺は……」
「凛も寝なさいよ。何ならアルカと添い寝でもしてきたら?」
「はぁ!? ちょっと、何でそうなるのよ!?」
「お互い譲り合ってても仕方ないでしょ。それとも……私に眠らせてほしい?」
ぞくりと背筋が凍る様な感覚。
雅樂は着々と調子を戻しつつある様だ。
よく見ると、ヴァナも隅の方で寝息を立てている。
「……二時間経ったら俺だけ起こしてくれ。雅樂とティルフィさんにも休んでもらわないとだし」
「私も起こしていいわよ」
「お前、ここに鏡ないから顔見れないかもしれないけどな、クマが酷いことになってんぞ。いいから寝てろよ」
まぁそれを言ったら俺もなんだろうし、他のメンバーも大体そうなんだと思う。
だけど目的地が近づいているこの状態で、ある程度メンバーには回復しておいてもらわないと、俺の戦力がガタ落ちしている現状、全滅の危機もある。
それに何より……妹の遺言だ。
こいつらは俺が死なせない。
そのためにも、俺もこいつらも万全でいてもらわなければ。
「……何見てるのよ」
「ま、いっか。一緒に寝ようぜ」
「はぁ!?」
あたふたするアルカを無理やり寝かせて、俺も再び眠りにつくことにした。
起きたらこのだるさも少しは引いてくれているといいんだが。
その中に仄かな光が見えた。
これは夢なんだとすぐに理解したはずなのに、体は目覚めることを拒否する様にその闇の中を勝手に進んでいく。
「お兄ちゃん」
「……七海」
俺が自らの手で引導を渡した妹、七海。
もう既にこの世の人ではないはずの妹が、三歳くらいの姿で現れ徐々にその体を成長させていく。
そうか、これは罰なのか。
どんな事情があっても、家族にだけは手を出してはいけなかった。
きっと天がそう言っているんだ、俺はそう考えてその罰を甘んじて受けることにした。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「は?」
こいつは何を言っているんだろう。
もしかしたら、もう少し生きていたら、あの苦しみは少しずつでも緩和されていたかもしれないのに。
そんな希望の芽ですら摘み取った俺に、ありがとう?
「私、ずっと苦しかった。お兄ちゃんに会いたかった。でも、会えないまま一生を終えるのかなって思って、本当は自殺しようと思ってた」
「…………」
「だけど、どういうわけかお兄ちゃんは来てくれた。何でなんだろうね」
「……わからん。偶然って言えば偶然なんじゃないか?」
「ふふ……お兄ちゃん、変わらないね」
そんなことはない。
少なくとも俺は、向こうにいた頃はあんな風に躊躇いなく人を殺したりできる様な人間じゃなかったし、それどころか人と争うことさえも怖がって逃げてきた様な人間だ。
それが知った顔を立て続けに二人も葬って、平気な顔をしている。
そして自身が傷つくことも恐れず魔物に立ち向かっていって、あんな怪我までしているのだから変わってないというのはいささかおかしいだろう。
とは言っても夢が見せるただの幻にそんなツッコミは無意味だとも考えて、俺は黙る。
「私ね……死ぬまでずっとお兄ちゃんと一緒にいられたらって考えてた。もちろんそんなの叶うはずがないし、それでも私にとってお兄ちゃんは小さい頃からずっと、憧れで大好きなお兄ちゃんだったから」
「…………」
やめろ。
俺はそんな大層な人間じゃない。
傷つけ、傷つけることを恐れなくなって……いや、開き直ってそれらを享受しただけに過ぎない。
勇者としての期待だとか、仲間が大事だからとか、そんなもっともらしいお題目を並べ立てて力を振るっているに過ぎないんだ。
しかし……これが罰なんだとしたら、今度こそ俺は逃げてしまうわけにはいかない。
理由はどうあれ、本人が望んだことであったとしても、俺は許されてはいけないことをした。
その事実は俺が死ぬまで……いや、もしかしたら死んだ後になっても、付きまとう事実なんだから。
「これからは私、ずっとお兄ちゃんを見ていられる。だから幸せなんだよ? そりゃ、さっきみたいな無茶ばっかりされたらさすがに心配になっちゃうんだけど。それにもう抱きしめてもらうこともできなくなっちゃったけど、それはお兄ちゃんを慕って集まってくれてる仲間の人たちにしてあげてほしいかな。私は邪魔したりしないし、それどころか応援するから」
「……それは、ありがたいけどな。そう上手く行くもんでもないんだよ」
「何で?」
何でって……そうか、俺は事情までは話していなかったんだっけ。
でも、妹にこれ言うの?
不能なんだよ、って?
「あの人たち多分全員、お兄ちゃんのこと好きでしょ。男として見てるし、すごいギラついた目してたよね」
「ああ、まぁそうだな。明確な好意を向けられてるのは自覚してるよ。だけどな、健全な男女が付き合うことになったら……まぁ、色々あるだろ」
「色々?」
このアマ……本当はわかってて言ってないか?
正直俺としては、こんな恥ずかしいことを身内に打ち明けるなんてこと、たとえ夢の中だとしてもちょっと嫌なんだけど。
「……勃たないんだよ、俺」
「……はい?」
「だから、勃起しないの。できなくなったの。原因は不明。王様からそれ関係の薬もらって飲んでるけど、今のところ改善の兆しなし」
「…………」
自分で聞いておいて、何でそんなぽかんとした顔してんだよ。
俺だって別に好きで不能になったわけじゃないんだぞ。
「まぁ、そういうわけだから、あいつらとどうこうなることは今のところあり得ないってわけ」
「……お兄ちゃんは、昔から精神的にあんまり強くなかったもんね」
よくわかってるな、さすが。
生まれてからずっと一緒にいる兄妹だからこそわかることなのか。
「お兄ちゃんは、多分その弱さを克服しないとダメなんだろうね。多分克服できたら、その……た、勃つんじゃないかな」
「恥じらうくらいなら別に、無理してそんなこと言わなくていいよ。お前のことは結局妹としてしか見てなかった。これは素直に認めるよ。恨んでもいいし、呪ってくれても構わない」
「ひどいなぁ……」
「だけどな」
俺は、七海にちゃんと伝えなければならない。
理由はどうあれ、最期の最後には七海をちゃんと女の子として見ることが出来たんだと。
「お前を殺す直前、俺は確かにお前を女の子として見ていたよ。だから、殺したんだ。ただ一人の、哀れな女の子だと俺は思った。だから俺は、お前を楽にしてやれたのかもしれないってな」
「……そうなんだ?」
「ああ。お前から事情を聴いて、それで俺はお前のことをただただ妹として見れなくなった。ただ一人の可哀想な女の子で、苦しんでいるならその苦しみから解放してあげたいって、ただそう思った。多分妹として見たままだったらもっと違う手段を取ってた」
「そっかぁ……そうなんだ、嬉しいな」
殺されて嬉しいって、何だか狂ってる気がするけど……俺も大概だよな。
もう既に、俺も七海も正常ではない。
だからこんなことをお互い笑って話せているんだろう。
「私には、お兄ちゃんのその悩みを改善してあげることは出来ないんだと思う。だけど、一つだけ言えるなら……仲間を信じて」
七海が俺の額に自らの額を当て、微笑む。
そういや昔、こんなことをやってやった記憶がある。
どれだけ泣いていても、七海はそれで泣き止んで笑っていたっけ。
「今までありがとうね、お兄ちゃん。これからは、自分の為に生きていいんだよ」
「……今までだって俺は、自分勝手に生きてきたけどな」
「そんなことないよ。いっつも人のことばっかり。さっきだってそれで大けがして……もっと身勝手でいいのに」
「十分身勝手さ。ただ助けられた恩もあるし、そういうのは返さないと男じゃないだろ」
「そういうところ、好きだよ。……また、会いに来てもいい?」
そう言った七海は、ぼんやりと体が薄く存在感が希薄になって見えた。
消える時間なのか。
しかしまた会いに来るというのであれば、俺は拒絶したりしない。
本当なら殺すことなく、全て何とかしたかった。
だけど、それ以外に方法が見つからなかった。
俺だって、この世界に来てただ一人の肉親に、また会えるんだったら会いたいという気持ちがある。
「当たり前だろ。お前はこの世界においては俺のただ一人の家族なんだから」
「ふふ……また来るね、お兄ちゃん」
その後すぐに、俺の意識は覚醒した。
先ほど抗い様のなかった感覚から解き放たれて目覚めた体は、汗でびっしょりになっていて頭が鈍く痛み、左腕もやはりズキズキと熱を持っていた。
「あ、目が覚めた……大丈夫?」
「雅樂……」
「うなされてたわよ、あんた……熱あるみたいだからもう少し寝てたら?」
アルカが布を濡らして俺の頭にのせる。
雅樂の熱は大丈夫なんだろうか。
「あ、私? 私ならとりあえず大丈夫。まだ少しだるいけど、明日には回復するよ」
「そうか……俺はどのくらい眠ってた?」
「三時間くらい? とりあえず外は今のところ静かなものよ」
「そうか……ティルフィさんは?」
「私ならここに」
声がした方を見ると、ティルフィさんが立ち上がって俺を見た。
話によれば今はミルズとヨトゥンが見張りをしてくれているらしい。
「雨が上がりましたので、交代してくれるということで、お言葉に甘えさせてもらいました」
「そうでしたか……」
「リン、腕はもう少し我慢して。私の精神力が足りないみたいで」
「別にいいよ……ていうかアルカ、お前こそそれなら休んでくれよ」
女の子に無理させて平気でいられるほど俺はまだ腐っていない。
そう考えて立ち上がろうとしたら、よろけて雅樂とティルフィさんにその体を支えられた。
あんなに雨に濡れたって言うのに、何かふわっといい匂いがした気がする。
「あんたこそ無理しないでよ。うちの要なんだから。私なんかは代わりがいくらでもいるけど、あんたには……」
「そんなこと言うな」
「えっ……?」
「何処の誰だって、誰の代わりにもならねぇし、俺はお前がいなくなったら悲しむぞ」
「ちょっと、な、何言ってるのよあんた……」
明らかにアルカは狼狽している。
というか俺も何でこんなこと言ったのか、という思いが強い。
慌てたりはしてないが、何だか気恥ずかしい。
「も、もちろん他のみんなだってそうだ。みんな個人個人がその人なんだから、代わりなんているわけねぇだろ」
自分でも一体何を言っているのか、と思う。
「というわけだから……回復の要であるお前も寝とけ。とりあえず俺は……」
「凛も寝なさいよ。何ならアルカと添い寝でもしてきたら?」
「はぁ!? ちょっと、何でそうなるのよ!?」
「お互い譲り合ってても仕方ないでしょ。それとも……私に眠らせてほしい?」
ぞくりと背筋が凍る様な感覚。
雅樂は着々と調子を戻しつつある様だ。
よく見ると、ヴァナも隅の方で寝息を立てている。
「……二時間経ったら俺だけ起こしてくれ。雅樂とティルフィさんにも休んでもらわないとだし」
「私も起こしていいわよ」
「お前、ここに鏡ないから顔見れないかもしれないけどな、クマが酷いことになってんぞ。いいから寝てろよ」
まぁそれを言ったら俺もなんだろうし、他のメンバーも大体そうなんだと思う。
だけど目的地が近づいているこの状態で、ある程度メンバーには回復しておいてもらわないと、俺の戦力がガタ落ちしている現状、全滅の危機もある。
それに何より……妹の遺言だ。
こいつらは俺が死なせない。
そのためにも、俺もこいつらも万全でいてもらわなければ。
「……何見てるのよ」
「ま、いっか。一緒に寝ようぜ」
「はぁ!?」
あたふたするアルカを無理やり寝かせて、俺も再び眠りにつくことにした。
起きたらこのだるさも少しは引いてくれているといいんだが。
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