不能勇者の癖にハーレム築いて何が悪い?
22:殺戮の夜
「えっと……それ、本気で言ってる?」
「まぁな」
俺が思いついた作戦を宿でみんなに話した時、雅樂までもが少し複雑そうな顔を浮かべたのが印象的だった。
それくらい無茶なことを考え付いたと言っていい。
しかし、ちまちまと聖堂を破壊して、とかやっていたらきっと芋づる式に頼み事をされてずるずる行くパターンになることも考えられる。
そう考えると、この作戦は非常に効率的で、最終的には平和的な解決を見る結果になるのではないかと思った。
「リンはそれでいいの? 私は別に、反対はしないけど……」
アルカが心配そうな顔をする。
こいつがこんな顔するなんて、相当なことだと思う。
「まぁ、いいんじゃないかと思うけどな。逆に反対の人とかいるか?」
「反対というか……私は一緒にやってしまっていいのか、と言う思いがありますが」
ティルフィさんは立場的に、この作戦を決行するにあたって気がかりなことはあるかもしれない。
何しろ、この名もなき村を、実態もなき村に変えてしまおうというのだから。
特産があるわけでもなく、ただただ毎日魔物の脅威に晒されて生きるだけ。
助けが来るのを、ひたすら待つだけの生産性皆無で他力本願な連中を、ひたすら俺たちが助け続けなければならない道理はない。
俺たちは一応、魔王討伐を最終目標にしていて、しかも直近ではドラゴンの軍勢を討伐することを命じられているのだ。
こんなところで足踏みをしているわけにもいかないだろう。
「ティルフィさんは、確かに立場的にまずいかなと思わなくもないですね。ただ、この村が消えた場合にそれがこの周辺に伝わるまでには何日もかかるでしょう。訪れる人間が極端に少ないことが理由に挙げられますが……どの道俺たちがやった、っていうのはバレないと思いますけどね」
「なるほど、魔物に襲撃された、と考える方が自然なわけですね」
「そういうことです。俺たちが立ち去った後で、魔物の襲撃を受けて敢え無く全滅。普通にありえる話だし、寧ろ勇者一行が村を消した、と言う方が現実的じゃないですから」
勇者は全世界の人間の希望。
その固定概念を逆手に取ってやる。
俺は勇者である前に一人の人間だ。
楽しくもなれば悲しくもなるし、怒ることだってある。
やりたいことやりたくないこと、好きなこと嫌いなこと。
そう言った人間性までも無視して、これ幸いとやたらめったら頼みごとをしてくる様な図々しいやつに対して怒りを抱くのだって、別に珍しいことでも何でもないだろう。
「他は大丈夫か? 別に反対したからって、特に迫害したりとかは考えてないし俺を思いとどまらせるのが目的であるなら、もしかしたら計画の変更もあり得るけど」
「私は、大丈夫です。何があってもリンさんたちについて行くって決めてますから」
「ヴァナはいい子だね。私は寧ろ大賛成。地図から名もなき村が一個消えるくらい、別に珍しいことでもないんだし、話聞いててイラっときちゃったし」
雅樂はまぁ、予想してた通りの答えを返してくる。
それどころかもはや乗り気で殺る気満々と言った様子だ。
特に反対する者も出なかったということもあり、決行は今夜に決まった。
「さて、どうするの?」
「んじゃまず……ミルズ、それからヨトゥン。二人は障害物を排除しながら村中に火をつけて回ってくれ」
「わかった。障害物って言うのは……」
「その名の通り、邪魔な物全部、人も物も何でも、ですよね?」
「そうだな。頼めるか?」
二人が力強く頷き、夜の村へと颯爽と消えていく。
ヴァナをアルカに任せ、二人は気づかれない様村から出てもらうことにした。
「雅樂はどうする? 単独がいいか? それとも誰かと組みたいとかある?」
「私はそうね……実際やるなら単独の方がやりやすいけど、凛と一緒なら最高かな」
「というか残り三人ですし、一緒に動いても問題ないかと思いますね」
「ティルフィさん、どさくさに紛れて抜け駆けとかしないでね?」
今はそんなこと言ってる場合じゃないんだけどな。
まぁ、別に今回のことだって簡単な部類ではあるんだし、そこまで時間もかからないだろう。
そんな中でイチャついて、なんてしてる時間がある様には思えない。
「んな余裕あるか。行くぞ。とりあえず、一人も生かして帰すな」
こんなことを言っていた時の俺は、一体どんな顔をしていたのだろう。
きっとフレイティアにきた頃とはもう、大分違ってしまっている。
目だってきっと、今までみんなが知る俺のものではないはずだ。
そんなことを考えながら、炎に包まれた村の中を駆ける。
見かけた人影があれば、生死を確認して生きていれば斬りつけ、死んでいれば炎の中へと放り込んでいった。
怯えながら暮らすよりも、一瞬の苦しみののちに楽になれる。
その方がこんなクソの掃き溜めみたいな村で生涯を終えるよりもずっと有意義だろう。
そういう意味では俺は、この村の人間を救っている。
粗方片付いてきたかと思われた時、片腕がちぎれたのか切り落とされたのか……いずれにしても五体満足ではなくなった村長の姿を発見した。
「言い残したことは、ありますか?」
フラフラと村に外へと出ようとしている村長に、声をかける。
「勇者様……感謝いたします。これで、我々は……」
感謝、か。
なら約束だけは果たしてやってもいいか。
そんなことを考え、剣を振りかぶる。
「約束通り、聖堂は破壊しましょう。さようならですね」
そして覚悟の決まったであろうその顔めがけて、剣を振り下ろした。
絶命したのを見届け、そのまま遺体を炎の中へ放り込み、雅樂とティルフィさんを振り返った。
「何だか鬼気迫るって感じ。再会した時とは大違いだわ」
「そうか。あとは見回るだけだけど……この中もう熱くてしんどいだろ。二人は出てていいぞ」
「そんなことを言わないでください。まだ生き残りがいるかもしれませんから。それに私、まだ何もしていません」
雅樂も似た様なことを言って、俺についてくる。
何だかんだこいつらとは長い付き合いになるかもしれない、そう思った。
「全部、終わったのね」
「ああ。ていうかこれらはまだ始まってすらいないんだけどな」
すっかりと焼け野原になってしまった村。
七海の墓はある程度の面影を残していたこともあって、今後墓参りがしたければ訪れることも出来るだろう。
……きっとしないんだと思うが。
「ねぇ凛。何が凛をそう変化させたの?」
聖堂に向かう道すがら、雅樂が尋ねてくる。
俺を変えたもの……多分過去との決別なんだろう。
そんなことを真顔で言うと、雅樂には笑われるかもしれない。
だけど俺のやり方が間違っていようとそうでなかろうと、歩き始めてしまったのだから、この身が朽ち果てるまで俺はやめることはないと思うが。
「まぁ何にしても……私たちは等しく共犯なのよね。聖職者を名乗ることも、もうできないのかな」
「誰かが決めた制約に則って使う術法が、いきなり使えなくなるなんてことが本当にあるのか? 正直俺には眉唾ものだけどな。実際できなくなるんだとしたら、それはもう人間が定めたものじゃなくてそれ以上の何かが動いている計算になるじゃないか」
そう、実際まだアルカには人を殺める様なことはさせていない。
しかし人間の価値観で考えるならばそれを黙認或いは見てみぬふりをした、ということが罪になる。
もちろんこっちでは理由さえきちんとしていれば殺人であっても罪に問われたりはしない。
「ちょっと待ってろ」
俺は剣を抜き、刀身を自分の腕に当てる。
はっと息を飲む音が聞こえ、それでも止める者はいなかった。
何をするのか、理解してくれているのだろう。
「っつ! 結構切れたな……アルカ、治してみてくれ」
肌が露わになっている箇所を軽く斬りつけ、自らの血を流して検証をする。
頭がおかしいと思われても何ら不思議のないやり方ではあるが、誰かにこうしろと言ってもやる人間がいない。
いや、雅樂ならやってくれるかもしれないが、こいつの場合腕まで切り落としたりしそうだからな。
「……出来るのかしら。癒しの光!」
アルカの魔法が俺の腕を照らす。
すると見る見る傷は塞がり、出血は止まっていった。
「見ろ。お前は別に間違ってないってことさ。そして俺たちはお前を頼りにしているんだ。これからも頼むぜ」
不安そうな顔から一転、アルカは表情を明るくして俺を見た。
こいつ、こんな顔もするんだな。
ていうか……こいつでも不安になることなんて、あるんだ。
「そういえば……誰か打撃とか粉砕する系の技って使えたっけ」
ふと考えついた、聖堂の破壊方法。
約束だから、一応こなすだけはこなしてあげないと。
「破壊、ですか。それは聖堂を破壊するってことですか?」
「そうなんだけど……直接聖堂を破壊するってなると、さすがに骨が折れるからちょっと考え付いた方法をやってみたくて」
俺の考え付いた方法は、まずミルズに内部の爆破をしてもらう。
そして内部から魔物をいぶりだすのだが……その前に俺が聖堂そのものを凍結させてしまう。
その凍結した聖堂を、魔物もろとも打ち砕いてしまおう、というものだ。
「完全な粉砕には至らないかと思いますが……私の技の中には一応、破壊を目的としたものがあります」
ティルフィさんはさすが、俺の師匠と言うべき人だ。
仮に討ち漏らしたのがいれば、これだけの頭数いれば何とかなるだろう。
ならばということで、まずミルズに聖堂の中へと爆裂魔法を放ってもらい、中が騒然としたところで俺も凍結魔法を放つ。
いつの間にこんな魔法覚えたんだろう、って不思議になるが、いつの間にか覚えてて自然と使える様になっていたのだから仕方ない。
そして魔法をかけた後少し様子を見て、何も出てこないのを確認した上で、ティルフィさんに合図を出す。
すると細身の直剣を正眼に構えたティルフィさんが剣に闘気を集中させ、直後に飛び上がった。
「……みんな、離れろ!!」
見たことがある技ではなかったが、その威力のすさまじさは何となく俺の頭の中に突如イメージとして流れてきて、俺はみんなに避難を促す。
「分け隔てなく破壊する剣劇!!」
凍り付いた聖堂の屋根より更に数メートル、ティルフィさんは高く飛んで技を繰り出す。
すると内部から凍り付いた聖堂の壁やら屋根やら、そして中にいたであろうモンスターの肉片、骨片、様々なものが凶器となって飛散した。
「っぶね……逃げるの遅れてたら巻き添え食ってたぞ」
「なんつー威力よ……あんなのまともに食ったら普通に死んでるわよ」
崩れ落ちた聖堂から、土煙が上がっている。
誰も怪我などはしていないのを確認して、一息つく。
これでようやく、次に進める。
そう考えた瞬間、地響きがして目の前の瓦礫がせり上がり、夜の闇に巨大な影が浮かび上がるのが見えた。
「まぁな」
俺が思いついた作戦を宿でみんなに話した時、雅樂までもが少し複雑そうな顔を浮かべたのが印象的だった。
それくらい無茶なことを考え付いたと言っていい。
しかし、ちまちまと聖堂を破壊して、とかやっていたらきっと芋づる式に頼み事をされてずるずる行くパターンになることも考えられる。
そう考えると、この作戦は非常に効率的で、最終的には平和的な解決を見る結果になるのではないかと思った。
「リンはそれでいいの? 私は別に、反対はしないけど……」
アルカが心配そうな顔をする。
こいつがこんな顔するなんて、相当なことだと思う。
「まぁ、いいんじゃないかと思うけどな。逆に反対の人とかいるか?」
「反対というか……私は一緒にやってしまっていいのか、と言う思いがありますが」
ティルフィさんは立場的に、この作戦を決行するにあたって気がかりなことはあるかもしれない。
何しろ、この名もなき村を、実態もなき村に変えてしまおうというのだから。
特産があるわけでもなく、ただただ毎日魔物の脅威に晒されて生きるだけ。
助けが来るのを、ひたすら待つだけの生産性皆無で他力本願な連中を、ひたすら俺たちが助け続けなければならない道理はない。
俺たちは一応、魔王討伐を最終目標にしていて、しかも直近ではドラゴンの軍勢を討伐することを命じられているのだ。
こんなところで足踏みをしているわけにもいかないだろう。
「ティルフィさんは、確かに立場的にまずいかなと思わなくもないですね。ただ、この村が消えた場合にそれがこの周辺に伝わるまでには何日もかかるでしょう。訪れる人間が極端に少ないことが理由に挙げられますが……どの道俺たちがやった、っていうのはバレないと思いますけどね」
「なるほど、魔物に襲撃された、と考える方が自然なわけですね」
「そういうことです。俺たちが立ち去った後で、魔物の襲撃を受けて敢え無く全滅。普通にありえる話だし、寧ろ勇者一行が村を消した、と言う方が現実的じゃないですから」
勇者は全世界の人間の希望。
その固定概念を逆手に取ってやる。
俺は勇者である前に一人の人間だ。
楽しくもなれば悲しくもなるし、怒ることだってある。
やりたいことやりたくないこと、好きなこと嫌いなこと。
そう言った人間性までも無視して、これ幸いとやたらめったら頼みごとをしてくる様な図々しいやつに対して怒りを抱くのだって、別に珍しいことでも何でもないだろう。
「他は大丈夫か? 別に反対したからって、特に迫害したりとかは考えてないし俺を思いとどまらせるのが目的であるなら、もしかしたら計画の変更もあり得るけど」
「私は、大丈夫です。何があってもリンさんたちについて行くって決めてますから」
「ヴァナはいい子だね。私は寧ろ大賛成。地図から名もなき村が一個消えるくらい、別に珍しいことでもないんだし、話聞いててイラっときちゃったし」
雅樂はまぁ、予想してた通りの答えを返してくる。
それどころかもはや乗り気で殺る気満々と言った様子だ。
特に反対する者も出なかったということもあり、決行は今夜に決まった。
「さて、どうするの?」
「んじゃまず……ミルズ、それからヨトゥン。二人は障害物を排除しながら村中に火をつけて回ってくれ」
「わかった。障害物って言うのは……」
「その名の通り、邪魔な物全部、人も物も何でも、ですよね?」
「そうだな。頼めるか?」
二人が力強く頷き、夜の村へと颯爽と消えていく。
ヴァナをアルカに任せ、二人は気づかれない様村から出てもらうことにした。
「雅樂はどうする? 単独がいいか? それとも誰かと組みたいとかある?」
「私はそうね……実際やるなら単独の方がやりやすいけど、凛と一緒なら最高かな」
「というか残り三人ですし、一緒に動いても問題ないかと思いますね」
「ティルフィさん、どさくさに紛れて抜け駆けとかしないでね?」
今はそんなこと言ってる場合じゃないんだけどな。
まぁ、別に今回のことだって簡単な部類ではあるんだし、そこまで時間もかからないだろう。
そんな中でイチャついて、なんてしてる時間がある様には思えない。
「んな余裕あるか。行くぞ。とりあえず、一人も生かして帰すな」
こんなことを言っていた時の俺は、一体どんな顔をしていたのだろう。
きっとフレイティアにきた頃とはもう、大分違ってしまっている。
目だってきっと、今までみんなが知る俺のものではないはずだ。
そんなことを考えながら、炎に包まれた村の中を駆ける。
見かけた人影があれば、生死を確認して生きていれば斬りつけ、死んでいれば炎の中へと放り込んでいった。
怯えながら暮らすよりも、一瞬の苦しみののちに楽になれる。
その方がこんなクソの掃き溜めみたいな村で生涯を終えるよりもずっと有意義だろう。
そういう意味では俺は、この村の人間を救っている。
粗方片付いてきたかと思われた時、片腕がちぎれたのか切り落とされたのか……いずれにしても五体満足ではなくなった村長の姿を発見した。
「言い残したことは、ありますか?」
フラフラと村に外へと出ようとしている村長に、声をかける。
「勇者様……感謝いたします。これで、我々は……」
感謝、か。
なら約束だけは果たしてやってもいいか。
そんなことを考え、剣を振りかぶる。
「約束通り、聖堂は破壊しましょう。さようならですね」
そして覚悟の決まったであろうその顔めがけて、剣を振り下ろした。
絶命したのを見届け、そのまま遺体を炎の中へ放り込み、雅樂とティルフィさんを振り返った。
「何だか鬼気迫るって感じ。再会した時とは大違いだわ」
「そうか。あとは見回るだけだけど……この中もう熱くてしんどいだろ。二人は出てていいぞ」
「そんなことを言わないでください。まだ生き残りがいるかもしれませんから。それに私、まだ何もしていません」
雅樂も似た様なことを言って、俺についてくる。
何だかんだこいつらとは長い付き合いになるかもしれない、そう思った。
「全部、終わったのね」
「ああ。ていうかこれらはまだ始まってすらいないんだけどな」
すっかりと焼け野原になってしまった村。
七海の墓はある程度の面影を残していたこともあって、今後墓参りがしたければ訪れることも出来るだろう。
……きっとしないんだと思うが。
「ねぇ凛。何が凛をそう変化させたの?」
聖堂に向かう道すがら、雅樂が尋ねてくる。
俺を変えたもの……多分過去との決別なんだろう。
そんなことを真顔で言うと、雅樂には笑われるかもしれない。
だけど俺のやり方が間違っていようとそうでなかろうと、歩き始めてしまったのだから、この身が朽ち果てるまで俺はやめることはないと思うが。
「まぁ何にしても……私たちは等しく共犯なのよね。聖職者を名乗ることも、もうできないのかな」
「誰かが決めた制約に則って使う術法が、いきなり使えなくなるなんてことが本当にあるのか? 正直俺には眉唾ものだけどな。実際できなくなるんだとしたら、それはもう人間が定めたものじゃなくてそれ以上の何かが動いている計算になるじゃないか」
そう、実際まだアルカには人を殺める様なことはさせていない。
しかし人間の価値観で考えるならばそれを黙認或いは見てみぬふりをした、ということが罪になる。
もちろんこっちでは理由さえきちんとしていれば殺人であっても罪に問われたりはしない。
「ちょっと待ってろ」
俺は剣を抜き、刀身を自分の腕に当てる。
はっと息を飲む音が聞こえ、それでも止める者はいなかった。
何をするのか、理解してくれているのだろう。
「っつ! 結構切れたな……アルカ、治してみてくれ」
肌が露わになっている箇所を軽く斬りつけ、自らの血を流して検証をする。
頭がおかしいと思われても何ら不思議のないやり方ではあるが、誰かにこうしろと言ってもやる人間がいない。
いや、雅樂ならやってくれるかもしれないが、こいつの場合腕まで切り落としたりしそうだからな。
「……出来るのかしら。癒しの光!」
アルカの魔法が俺の腕を照らす。
すると見る見る傷は塞がり、出血は止まっていった。
「見ろ。お前は別に間違ってないってことさ。そして俺たちはお前を頼りにしているんだ。これからも頼むぜ」
不安そうな顔から一転、アルカは表情を明るくして俺を見た。
こいつ、こんな顔もするんだな。
ていうか……こいつでも不安になることなんて、あるんだ。
「そういえば……誰か打撃とか粉砕する系の技って使えたっけ」
ふと考えついた、聖堂の破壊方法。
約束だから、一応こなすだけはこなしてあげないと。
「破壊、ですか。それは聖堂を破壊するってことですか?」
「そうなんだけど……直接聖堂を破壊するってなると、さすがに骨が折れるからちょっと考え付いた方法をやってみたくて」
俺の考え付いた方法は、まずミルズに内部の爆破をしてもらう。
そして内部から魔物をいぶりだすのだが……その前に俺が聖堂そのものを凍結させてしまう。
その凍結した聖堂を、魔物もろとも打ち砕いてしまおう、というものだ。
「完全な粉砕には至らないかと思いますが……私の技の中には一応、破壊を目的としたものがあります」
ティルフィさんはさすが、俺の師匠と言うべき人だ。
仮に討ち漏らしたのがいれば、これだけの頭数いれば何とかなるだろう。
ならばということで、まずミルズに聖堂の中へと爆裂魔法を放ってもらい、中が騒然としたところで俺も凍結魔法を放つ。
いつの間にこんな魔法覚えたんだろう、って不思議になるが、いつの間にか覚えてて自然と使える様になっていたのだから仕方ない。
そして魔法をかけた後少し様子を見て、何も出てこないのを確認した上で、ティルフィさんに合図を出す。
すると細身の直剣を正眼に構えたティルフィさんが剣に闘気を集中させ、直後に飛び上がった。
「……みんな、離れろ!!」
見たことがある技ではなかったが、その威力のすさまじさは何となく俺の頭の中に突如イメージとして流れてきて、俺はみんなに避難を促す。
「分け隔てなく破壊する剣劇!!」
凍り付いた聖堂の屋根より更に数メートル、ティルフィさんは高く飛んで技を繰り出す。
すると内部から凍り付いた聖堂の壁やら屋根やら、そして中にいたであろうモンスターの肉片、骨片、様々なものが凶器となって飛散した。
「っぶね……逃げるの遅れてたら巻き添え食ってたぞ」
「なんつー威力よ……あんなのまともに食ったら普通に死んでるわよ」
崩れ落ちた聖堂から、土煙が上がっている。
誰も怪我などはしていないのを確認して、一息つく。
これでようやく、次に進める。
そう考えた瞬間、地響きがして目の前の瓦礫がせり上がり、夜の闇に巨大な影が浮かび上がるのが見えた。
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