不能勇者の癖にハーレム築いて何が悪い?

スカーレット

18:暑い夜

 まぁ、わかってた。
 長い夜になるであろうことは。
 ただ一つの救いは、ティルフィさんに火の粉がほとんど飛ばなかったことくらいだろうか。


 数時間に及ぶ詰問、そして岩の上に正座という地獄コンボ。
 これだけでもかなりの大ダメージな気がするが、着衣のままであの風呂での状況を再現しろと言われた時はどうしようかと思った。
 しかし俺にだって言い分はある。


 一瞬とは言っても復活した時、俺は誰よりもこいつらに知らせなくては、と服を着るのも忘れて城内を駆けまわり、挙句フルチン勇者なんていう不名誉なあだ名をもらったのだ。
 ということは、だ。
 俺の中ではこいつら>ティルフィさんという公式が出来上がっていると言っても過言ではないはずだ。


 しかしやつらはそれだけでは納得しない。
 そして……間の悪いことに、状況を再現させられた瞬間に俺の暴れん棒は暴れ出すという暴挙に出た。


「…………」
「…………」
「…………」


 沈黙が、とても痛い。
 刺さる様な視線と沈黙。
 誰一人、その場で言葉を発することはなかった。


「……えーとほら、あれじゃね? 薬が効いてきた、とか」
「んなわけないでしょ」
「で、ですよね」


 一言で封殺されてしまい、正直俺としてはこれ以上の反論が出来る気がしない。
 隣で困った様に俺を見るティルフィさんだが、ここで脱げとか言われなくて本当に良かった。


「じゃあ、今度は私たちが同じ様にしてみるから」
「え、マジかよ」
「嫌なわけ?」


 殺気のこもった目で俺を睨み据える雅樂。
 せめてその手にした鎌を、仕舞っていただけませんか。
 ちょん切る気満々じゃないですか……。


「い、痛くしないでくれるなら」
「ティルフィさんはそんな苦痛を伴う様なこと、したわけ?」
「いえ、してないはずですが……」


 だってあの時は握られたのチンコじゃなくて手だし。
 だけどこいつらはチンコ握る気満々だ。
 そうじゃないんだ、と言っても聞く耳持たない。


 こうなってしまったこいつらには、きっと何を言っても無駄なのだろう。


「あの……直接私はそこに触ってはおりませんが」
「はぁ? じゃあ何で勃起したのよ」
「いえ……それはわかりかねますが、私が握ったのは右手です。私が両手で、包み込む様に」


 そう言って、俺の手を握る。
 そう、さっきもこうしてたはずだし、それをこいつらは見ていたはずだ。
 なのに何でいきなり股間に手を伸ばそうとしてるのか。


 こいつらの記憶力ってそこまで残念なの?
 いくら暗がりだからって、さすがにそれはあり得ないかなって個人的には思うんだけど。


「本当にそれだけなの? ペロったりこすったりとかしてないの?」
「するわけねーだろ……」
「あんたには聞いてないから黙ってなさいよ」
「……はい」


 何で当事者なのに信じてもらえないのか。
 別にティルフィさんだから、とかじゃないかもしれないじゃないか。
 もちろん逆もありえるかもしれないけどさ。


 大体年頃の娘がペロっただのこすっただの、やめてくれマジで。
 まぁ男いないとこじゃ割とそういう会話あるとは聞いたことあるけどさ。


「ええと……それは所謂手淫であるとか、口淫のことでしょうか? でしたら、そう言ったことは一切しておりませんが」
「こ、口淫って……」
「直な表現使われるよかいいだろ……」
「黙ってろって言ったでしょ」
「…………」


 んな程度の単語でオタオタしてるくせに、随分偉そうだなこいつ……。
 言っとくがな、男同士の会話じゃ割とダイレクトな表現なんかザラだからな!?
 まぁ、俺はその会話に混ざるんじゃなくて聞き耳立ててたぼっちだったけどよ……。


 てか本人もそういうのしてないって言ってんだから素直に信じてやれや。


「はぁ……まぁいっか。で、どうするの? ここから引き返すわけじゃないんでしょ?」
「ええ、一応テントも持参していますから」
「へぇ……」


 何でそこで俺を見る?
 別に俺ティルフィさんのテントで寝たいとか、言ってないからね?
 まぁ、他のメンバーと一緒よりは命の危険が少なそうな気はするけど。


「ってことは……ティルフィさんもリンと一緒のテントがいいの?」
「いや、だから俺別に外でごろ寝するから……」
「三度目よ、黙ってなさい」
「……はい」
「私と凛はテント持ってないの。だから必然的に誰かのテントにお邪魔することになるんだけど……さっきご飯あげたから、ティルフィさんそのテント私と凛に使わせて、他の誰かのテントに入りなさいよ」
「おい雅樂……さすがにそれは横暴だろ」


 何度も黙ってろと言われたが、さすがにそれは見過ごせない。
 仮に雅樂と一緒のテントになるんだとしても、別にそれは構わない。
 だがあんな風に脅す様な真似をして、無理やりって言うのは何となく俺の中で納得できなかった。


「その、私は……師匠として、寝るときも一緒に教えて……」
「何教えるってのよ。女の抱き方とかまで教えるのが師匠の役目とか言うんじゃないでしょうね」


 そう言った雅樂とティルフィさんの間に、何となく火花が散っているのが見える気がする。
 もちろん気のせいであることには違いないんだが、一触即発と言った様子だ。
 そしてずっと黙り込んでいたヴァナが、怯えながらもおずおずと口を開いた。


「あの……リンさん、もめない様に私のテントにきますか?」
「え?」
「な、ちょっとあんたね!!」
「おいアルカ、脅かすな。相手は子どもだってことを忘れない様に」
「むぅ……」


 貧乳の癖にむくれ顔は少しだけ可愛いと思ってしまった。
 だがここで折れてやるわけにはいかない。
 正義の味方なつもりはないが、ある程度の公平性はパーティに必要だと思うし、今からこんな調子じゃフォルセブクに着くまでにパーティが半壊、最悪崩壊なんてことにもなりかねない。


「ヴァナ、あれか? もしかして一人で寝るの、怖いのか?」
「えっと……」
「凛、十二歳でも普通に女よ。海外じゃ普通に子ども生んでる子だっていたんだから」
「向こうの世界の常識だけど……確かにこっちじゃ普通なんだっけか。でも俺、不能だぞ? お前だって何度も見てきてるだろ」


 自分で言ってて悲しくなってくるな。
 それにまだ向こうの倫理観が残ってる俺としては、正直ヴァナは可愛いやつだが性愛の対象にはならない。
 まぁ実年齢で言ったら四つくらいしか違わないが、この四つが大したことない、って思えるのはもう少し俺が歳取ってからじゃないかと思うし。


「じゃあ雅樂、お前ヴァナと一緒に寝れば? 俺別に何処でも寝られるから」
「そんなこと言って、ティルフィさんのテントに入れてもらうつもりなんでしょ」
「はぁ?」
「ちょっと大人で、スタイルいい美人さんと一緒がいいんでしょ」
「俺がいつそんなこと言ったよ……」


 どうしよう、話が通じない子になってきてる。
 いや、元々だっけ。


「じゃあ……こうしましょうか」


 見かねたヨトゥンが、それぞれのテントを一か所に集めてところどころを剣で手早く切り取って、何とつなげてしまった。
 一体何をしてるんだ、と思ったがなるほど。
 これならみんな一緒だね! ってことか。


 ていうか別に俺と寝ても何もないだろうに。
 そしてこの切っちゃったテント、また畳んで違うとこで組み直すの大変そうに見えるんだけど……俺だけか?




「……暑いな」
「これだけ人間が密集してるからね」


 さっき水浴びしてきたばっかなのに、もう汗ばんできてる。
 人間ってあったかいんだ……とかそんな呑気なことを考える余裕もないくらいに、みんなが俺にくっついてくるからたまらない。
 つくづく不能で良かったと思う。


 元の世界でよく見た、モテる主人公は絶対あれ勃起してんだろ、っていうシーンが何か所もあるけど、俺は文字通り不能だからセーフ。
 この世界に四季という概念はなく、地方によって暑い寒い丁度いい、みたいなのが違うとは聞いているが、この地方は過ごしやすいに分類される地方だ。
 にも拘わらずこんなに暑いってもう、異常なことだろ。


「なぁ……もう少し離れないか? スペースは割と空いてんだから」
「嫌よ。私たちといるのが嫌なの?」
「そうじゃないっての……単純に暑い。そして寝苦しい。不能じゃなかったら暴れまわって終了に出来たかもしれんけど、そういうわけにもいかんしな。明日以降の旅に差し支える」
「……仕方ない」


 そう言って全員が数センチずつだが距離を空けてくれた。
 おかげで少しだけ、ひんやりとした感じがして心地よい。
 正直あのまま寝てたら脱水症状とか起こしそうな予感しかしなかったからな。


「とりあえず薬は飲んだんだし、またいつか治るかもしれんから。その時まで我慢してくれ」


 言い捨てて俺は目を閉じる。
 その俺の様子を見届けたらしいメンバー……おそらく全員が、代わる代わる俺の口元に唇を寄せるのが気配でわかる。
 しかし抵抗することはしない。


 我慢を強いるのであれば、俺だってある程度は受け入れないといけない部分があることを、何となくは理解しているから。
 だからってヴァナまでやらなくてもいいだろ、そう思うが丁度よく眠気が襲ってきたのか、意識が闇の底に沈んでいく感覚を覚えて、俺はそのまま身を任せて行った。

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