不能勇者の癖にハーレム築いて何が悪い?

スカーレット

13:不能な俺が、何の得もないのに勇者になってしまうことになりました

「トレジャーハントですか」
「ええ、まぁ討伐のついでとかでもいいんですけど」


 無茶なお願いをしに来ている、というのは承知の上で俺たちは紹介所を訪ねた。
 ある程度見知った係員のハルアさんに頼めば或いは、という淡い期待とともに掲示板を見るが、そこには望む様なものはなかった。
 あまりえり好みしている場合でもない、というのはわかっているが、それでもみんなを危険に晒すくらいなら、という俺の強い願いもあってみんなは受け入れてくれた。


「んー……今のところないみたいですけどね……」
「そうですか……」


 ハルアさんがないというのであれば、本当にないのであろう、ということで諦めて他のクエストでも、と考えたところで紹介所に入ってくる人影があった。
 三人の仲間を連れてフードを目深にかぶった精悍そうな面構えの男に、三人の……多分女。


「あ、ちょっと待ってくださいね」
「ええ」


 ハルアさんが少し俺たちのところから離れて、その男の方へ行く。
 何となく横入りしやがって、みたいな感情が生まれるが、別に予約してたわけでもないしな。
 それにこの紹介所は人手もあまり足りてないみたいだから、ある程度こういうことがあっても仕方ないと思う。


「ええ、ええ……ええ!? ほ、本当ですか!?」


 ハルアさんが上げた叫び声に、紹介所にいた人間の大半が驚いてハルアさんを見る。
 先ほど入ってきた男との会話で驚く様なことがあった、ということなんだろうと思うが、その話を聞きながらハルアさんがこちらをチラチラ見ているのが気になる。


「……で……なのだ……だから……たい」
「ええ……了解しました。少々お待ちいただけますか?」


 そう言ってハルアさんがこっちに戻ってくる。
 長くなりそうなら自分らでクエストくらいは見繕うけど、なんて思っていたら、どうも様子がおかしい。


「あの……リンさんご一行、ちょっといいでしょうか」
「はい?」


 言うなりそのまま俺たちは別室に連れていかれて、座って待つ様に言われる。
 さっきの連中と何か関連があるんだろうか。
 もしかして雅樂が以前殺したやつらの仲間で、意趣返しを……とか?


 何となくだけどあの男はちょっと普通じゃない感じがするし、仲間もそれなりに強そうだったから、俺たちが戦って勝てるか?
 いや、雅樂なら問題なく葬ったりしそうだけど……。


「お待たせしました。さ、この様なところで申し訳ありませんが……」
「ああ、失礼する」


 そう言ってさっきの男一行が部屋に入ってきて、俺たちの対面の椅子に腰かける。
 そして座るなりその男はフードを取って、俺たちを一瞥した。


「あっ!!」
「ん? どうした、アルカ」
「どうって……この一帯の国、ウルカデーヴァを収める王様よ!」
「は? 王様!?」


 何だってそんな偉い人と俺たち、こんな風に膝付き合わせて座ってんの?
 嫌な予感とかあんまりしないけど、いい予感もしない。




「ハルアさん、申し訳ありませんが説明を」


 その王様とやらの付き人……になるのか?その人がハルアさんを促し、ハルアさんが首肯で応えて俺たちを見た。


「えっとですね……まずこちらは先ほどアルカさんから説明がありました通り、ウルカデーヴァの国王であらせられる、ウルカ王です。そして、今回のクエストの依頼を出されている張本人でもあります」


 王様がクエスト……?
 そんなこと、あるのか?
 少なくとも俺はこの国のこの街しか知らないから、国王がクエストを出すとかそんな話は聞いたことがない。


 だって、憲兵だったりって屈強な兵を従えているんだから、そいつらに何でも任せればいいって思うし。


「今回、皆さんにお願いしたいのは……ドラゴンの討伐です」
「!?」


 その場にいた俺のパーティメンバー全員に戦慄が走る。
 たかが六級……いや、一人一級がいるけど、そんな弱小パーティに頼む類の話か?
 もっと慣れた冒険者だっているだろうし、正直俺たちの手に負える問題じゃない気がする。


「報酬は、このウルカデーヴァの勇者の称号。そしてこれは先払いになるのですが……立ち向かえるだけの装備一式を……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」


 さすがに話が飛躍しすぎている、そう思って俺は止めに入る。
 何だよ勇者って。
 そんなのゲームの中だけで十分だろ。


 俺たちは生活するためにクエストをこなすし、正直おまけで不能が治れば、とかその程度は考えているけど……勇者なんて大それたものを目指してるわけじゃない。
 大体勇者になった恩恵とか、そういうものが全く想像できない現状で、わかりました! とか二つ返事で引き受けるなんてことも出来るとは思えなかった。


「何ですか、勇者って……というかドラゴン討伐って、俺たちまだ六級ですよ!? さすがに荷が重すぎますよ!」
「そうでしょうか? そちらにいらっしゃるオールハントさんなら、造作もないかと思いますよ」
「やはりそこにおったのはオールハントだったか。なら話はそこまで難しくはないだろう」
「あら、私をご存知で? 光栄なことですね」


 雅樂が不機嫌なままで王様の問いに答える。
 まぁ有名人だろうからな、雅樂は。
 しかし付き人も王様も、特に雅樂を恐れている様子はない。


「お前は有名人だからな。警戒対象でもあるが、今はそれよりも勇者の卵を探しているところなのだ」
「卵?」
「そうだ。お前はリンと言ったか。現地人なのか?」
「いえ……異界人です」
「ふむ。なら知らないかもしれないから一応言っておくが」
「王、そこからは私どもが」


 付き人の女の一人が王様を制して、話し始める。
 女はティルフィと名乗った。
 銀色の髪が美しい、ちょっと妖艶な感じの美女だ。


 王様の下の世話とかしたりするんだろうか。


「まず、このフレイティアでは各国で勇者を輩出しているんですが……この国だけは未だにその対象となる様な人間が出てきていません。積極的に探していたわけでもありませんが、それはこの国が今まで平和だったから、というものでもあります。しかしながらここ最近、魔物の増え方が異常であると他国からの通達もあり、また滅ぼされた国もあるという報告も入っています」
「それって……ザラマドルのことですか?」


 ミルズは知っている様で、ティルフィさんはその言葉に頷く。
 割と有名な話なんだろうか。


「かなり屈強な兵を擁していた大国でもあったザラマドルですが、モンスターの大群に襲われて壊滅したという話です。そしてそのザラマドルは、モンスターを束ねる存在……魔王によって占拠された、と」
「…………」


 え、何それ。
 そんな大がかりな話が何でこんなとこでされてんの?
 ていうか俺たち関係ないじゃん。


 ただの駆け出し冒険者一行が何で、いきなり勇者候補になるわけ?
 こんな近場で探したりしないで、ちゃんとした人見繕った方がよくないか?
 だって相手は、国一個滅ぼすほどの軍勢なんだろ?


 そしてこれからも侵攻は続いていくってことなんだと思うし……俺たち程度で何とか出来る様なことじゃないだろ。
 いくら全国で勇者を募ったって、勝てる相手には思えない。


「そこの男なんですが……ナニが使い物にならない、男性失格野郎なんですよ」
「……ん?」


 突然の脈絡もない雅樂の言葉に、王様が眉を顰める。
 もちろん俺だって、何でこんなとこでいきなり知らない人相手に不能であることをバラされているのか、訳がわかっていない。
 そこまでして恨みを晴らしたいほど、昨夜のことが悔しかったのだろうか。


「そんな男らしくもない男に、勇者? 勇気ある者って書いて勇者なのに? ちょっと無理がありすぎませんかね?」
「少年、それは本当なのか?」


 おっと、王様が食いついちゃったぞ。
 しかし男のそういう話を聞いても、眉一つ動かさない従者の人たちはある意味で凄いな。


「ほ、本当ですけど……それが何か……というか、不能であるかは置いといても、俺たちまだギルドの階級で言っても六級程度の駆け出しなんです……」
「ほう。それはまぁいい。勇者に必要な資質は、何も戦闘における能力だけではないからな。もちろんあるに越したことはないんだが」


 そりゃそうかもしれないけど、戦闘能力だってそこまで高くない上に、不能でってなったら俺の何処に資質とやらがあるの? って話にならないか?
 大体、仮に俺が世界を救いました、なんて話になったとして本来であれば勇者様はそりゃもう金にも女にも困らないだろう。
 しかし困らないとは言っても、肝心のブツが使い物にならないんじゃ宝の持ち腐れ感が半端ない。


「ふむ……どうだ、この少年の仲間たちよ。俺にこの少年を一晩だけ預けてくれないか」
「……は?」


 それってアレですか。
 アッー! って感じの……王様の相手とかさせられるんですか、俺。
 全く興味ないどころか、まず確実に遠慮したいんですけど、拒否権とかないですか。


 そして多分俺以外のメンバーもみんな、同じことを考えたに違いない。
 赤くなるどころか青くなって俺と王様を交互に見ている。


「ああ、何やら勘違いをしている様だから言っておくが……俺は男に興味があるわけではない。その不能を治す心当たりがある、というだけのことなのだ」
「え!?」


 またも王様の言葉にみんなが驚かされる。
 当の俺だって、正直今聞いたことが信じられないでいるのだ、周りなんかもっとだろう。


「大体男に手を出した、などと知れれば妻に何を言われるか、わかったものではないからな」


 妻……ということは王妃?
 王様であっても、奥さんはやっぱり怖いということだろうか。


「どうするの? 手がかりになることが一つ出来たわけだけど」


 重苦しい沈黙の中、ミルズが口を開く。
 雅樂は人に預けるなんて、とか言ってる。


「君たちは、届を出してある間柄なのか?」
「えっと……まぁ」


 こんなことを聞かれて答えないといけないとか、どんな拷問だよって思う。
 しかし、はっきりしない態度でいると主に雅樂からまた殺気とかぶつけられそうで怖い。
 あれマジでちびりそうになるし、本当困るんだよな。


「だったら、俺の提案は悪くない話だと思う。君のその症状を治す手がかりを与えて、かつ装備も十分なものを与える。そしてもちろん路銀もそれなりに出そうじゃないか。何なら非戦闘要員に関してはこちらで面倒を見ることも出来るが?」


 ヴァナのことか。
 それは確かにありがたいとは思う。
 本人がどう思っているかは別にしても、危険が少しでも減るというのであれば、俺としてはその提案に乗らない手はないと考えた。


「ザラマドルは山二つほど超えた国でしたよね。既に討伐に向かっている勇者がいたりするのでは?」
「直接魔王本体を叩いてそれで済めば話は確かに早い。ああ言った軍勢は、頭を潰せば崩壊するというのはよくある話だ。しかし……」
「一枚岩ではない、ということね」


 ミルズの質問に答えようとした王様を遮って口を開いたアルカを、ティルフィさん含め全員の従者が睨んだ……気がする。
 一瞬のことだったし、すぐに元の顔に戻っちゃったから何とも言えないけど。


「そういうことだ。隣国のフォルセブクの勇者が旅立って数日で、ドラゴンの軍団が攻め入ってきているらしい。事態は急を要する。君たちにドラゴン討伐を頼んだのは、そういう経緯でもある」
「何で私たちなんです? 他にも強い冒険者は沢山いたのに。資質が、というのは先ほど伺いましたけど」


 ヨトゥンが珍しく口を挟み、王はにやりと笑って俺を見た。
 一体何なんだ?
 さっき男色の気はないって言ってたけど、やっぱりこの人……。


「その少年が、主人公気質の人間だからだ」
「は?」


 今度は俺も俺のパーティーメンバーも、そして王様の従者までもがぽかんとした顔をする。
 何だよ主人公気質って。
 それだけで死地へ赴けって?


 ドヤ顔で答えた王様を、何となく俺はぶん殴りたい衝動に駆られる。
 もちろん不能は治してほしいが……でも断るなんて周りが許してくれないんだろうな。

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