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不能勇者の癖にハーレム築いて何が悪い?

スカーレット

10:小学生は最高だぜ?

「ったくあいつら、どっち行ったんだ……?」


 紹介所の前の通りを一通り、俺の目が届く範囲で眺めてみるもあいつらの姿は見えない。
 宿にでも戻ってるかも、と一瞬考えてみるがあいつらがこのことに関してそう簡単に諦めるとは考えにくい。
 西と東それぞれに分かれた道を、恐らくあいつらは二手に分かれて探しに出たはずだ。


 そうなると、どっちに行っても誰かしらとは遭遇出来る確率が高い。


「……俺だけ帰ってたら、怒るよなやっぱ」


 さっきの雅樂の目を思い出して、また一人戦慄する。
 こんなにも人通りの多い道にいるのに、急に一人になった様な錯覚を覚えた。
 いや……正直今は一人でいる方が気楽かもしれない、なんてことまで考えてしまう。


 今の俺があっちの方面で役に立つことはないし、そんなことであいつらに気を遣わせるのは何となく俺の中の罪悪感が刺激される。
 まぁ、俺がそういうの気にしないで生活したい、というのもあるのだが。
 何より雅樂がいつしびれを切らすかわからない。


 これが一番の不安要素ではある。


「っのガキ! 何してくれてんだてめぇ!!」


 そんなことを考えていた時、通りで男の叫び声が聞こえて、辺りが騒然となった。


「ご、ごめんなさい……」
「てめぇ、何処に目ぇつけて歩いてんだよ! どうしてくれんだこの服!!」


 歳の頃は大体十歳前後だろうか。
 女の子が二人の大人に囲まれて泣きそうな顔をしている。
 手には飲み物を持った少女が、必死で男二人に謝っているのが見えた。


「まぁまぁ落ち着けよ……女のガキは高く売れる。服の代金はお前がついてくれば勘弁してやるよ」


 おっと、いきなりゲスなこと言い出した。
 天下の往来で、と思うが周りは見てみないフリ、厄介ごとに首を突っ込みたがらないのは、一般人としては仕方ないのかもしれない。


「い、いや……」
「おいおい、お前にこの服弁償できんのかよ?」


 憲兵呼んだ方が、とかひそひそ声は聞こえるが誰も動こうとはしない辺り、やはりどこの世界も他人には冷たいのだろう、と思う。
 言ってしまえば少女の不注意で他人様の服を汚してしまったのだから、少女の責任において何処かに売り飛ばされるなり輪姦されるなり、どんな目に遭わされようと仕方ないのだと周りは考えているんだろう。
 見たところ、冒険者が近くにいるわけでもない様だ。


 この時間じゃ大体の冒険者は宿に戻ったりしてるところか。
 俺も厄介ごとは正直ごめんだ、そう思って目を逸らして立ち去ろうと考えた時、少女とうっかり目が合ってしまった。
 もちろん、その目は俺に助けを求めている。


 あーあ……剣もう少し目立たない様に持っておくべきだったかな。


「おい、何処見てんだガキ……ん?」
「げ……」
「おいてめぇ、このガキの知り合いか何かか?」


 もう少し早く、この場から立ち去っておくべきだったと激しく後悔する。
 男二人の矛先は、何と俺に向いてきた。
 少女はガタガタ震えながら俺を心配そうに見ている。


「いや、知らないけど。でもおたくら、やってること大人げなくない?」
「はぁ? 知らないっつったな。だったら関係ねぇんだから引っ込んでろよ」
「いやいや、そんなちっこい女の子いじめて何が楽しいのよ。ストレス溜まってんだったら俺が付き合ってやるよ」


 仕方ない。
 あまり気乗りはしないが、とりあえず剣を抜く。
 二人も短剣は持っているみたいだし、別に卑怯じゃないよな。


「全員下がっててくれ。巻き添え食うから」
「お前、随分余裕だな。自分がどうなるかもわからないってのに」


 どっちかっていうと、こいつらにやられることより憲兵に見とがめられないかっていう方が心配だ。
 というかこいつらよりおっかないのを知ってるから、まず負けることはないだろう。
 万一の時は事故に見せかけてでも殺してしまえばいい。


「ま、どうなるかわからないってのは同感だけどな。お前らが、だけど」


 そう言うなり俺は剣を振り、突進する。
 不意を突かれた二人は俺の動きに対応できず、棒立ちでまとめて倒された。


「んじゃま、手加減はするけど……氷の矢アイスミサイル!」


 倒れたところに体に当たるギリギリのところへ魔法を打ち込む。
 恐怖に歪んだ二人の顔が、泣き顔に変わる。


「ま、待ってくれ」
「いや、待たない」
「頼む、ガキも見逃すから……」
「服の汚れが気になるんだろ?」


 そう言って俺は剣を何度か振るう。
 すると、汚れたと喚いていた方の男のズボンが切り刻まれて切れ端になった。


「これで、汚れは気にならんだろ。あと……もうこの辺うろつくなよ? 次見かけたら殺すからな」


 簡単に実力差を見せつけてやると、男二人は目も会わせないで逃げ帰っていった。
 あれだけ脅しておけば、もう見かけることもないだろう。
 願わくば道中でモンスターにでも食い殺されればいいと思う。


「っと……怪我はないか?」
「あ、す、すみませんでした……巻き込んでしまって」


 よく言うよ。
 俺が剣持ってるの見て俺に狙い定めて助け求めてきたくせに。
 まぁそれはもう別にいいんだけど。


「大丈夫そうだな、じゃあ気を付けて帰れよ」
「…………」
「何? どうかしたか?」


 まだ何か助けてほしい、という様な顔で少女は俺を見つめる。
 一体何だって言うんだろうか。
 しかしまぁ……よく見るとこの子、格好がみすぼらしいというか、服のあちこちがほつれているし、貧乏なのかな。


「帰るところは、もうないんです。街にくれば、働き口も見つかるかなって思って来てみたら、さっきみたいな目に遭って……」
「……ありゃ半分、自業自得じゃないのか? こんな人通りの多いとこで、そんな飲み物持って歩いてたらぶつかったりもあるだろうし。ていうか帰るところがないってどういうことだ? 火事にでも遭ったとか?」


 何でだろう、ほっとけばいいのに、て思っているはずがどんどん相手のことを深堀りしてしまう。
 俺には関係ないし、正直この子がどこでいつ死のうが知ったことじゃないんだけどな。


「……父に乱暴されているところを、母に助けられて」


 おいおいおい……何なんだいきなりこんな重い話からとか……。
 俺あんまそういうの得意じゃねぇんだけどな。
 あとその乱暴ってどの程度なんだ……? ってこれはちょっと聞ける雰囲気じゃねぇな。


「助けようとして勢い余って母が父を殺してしまって……その事実に衝撃を受けた母が私と一緒に心中しようとして……」
「…………」


 どんどん語られる重たい事実。
 いや、全部が本当かどうかはわからない。
 俺にはその判別がつきそうにない。


 だけど何となく、嘘を言っている様には見えない。
 指に巻かれている包帯が、痛そうだ。


「わかった、もういい。話さなくていいから。働き口がほしいんだったか?」
「そうですけど……私に出来ることなんて……」
「お前、金は? どっか泊まるところとかあんの?」
「いえ、ここ三日くらいはずっと橋の下とかで……」


 年端もいかない少女が橋の下で寝泊まりしないといけない世の中。
 それでも街の中なら比較的安全かもしれないが……とは言えさっきみたいに変なのに絡まれて、危険な目に、なんてこともまたあるかもしれない。
 それに関わってしまったら向こうだって、俺を頼りにしてくるのは目に見えている。


「お前、名前は? あと年齢」
「何でそんなこと聞くんですか?」


 言葉と裏腹に少女の目は少しばかりの希望に満ちている様に見える。
 俺に希望を見出したのかもしれないが、ひとまずどうするかはある程度の素性を知ってからでも遅くはないだろう。


「わかんねぇか。どうせ行くとこも金ももうないんだろ? だったら面倒見てやるから」
「で、でも……」
「あー、俺も男だけど、その辺は心配しなくていいぞ。冒険者だから留守がちだし、パーティメンバー全員女なんだ」
「…………」


 何だろう、この少女から感じる、汚物でも見るかの様な視線は。
 これから助けてやろうっていうのに、恩人に向ける視線ではないと思うんだけど。


「ヴァナです。今年十二歳になりました」
「そうか。あとそんな目で見ないでくれ。幼女に手を出す趣味とかないから」
「…………」
「とりあえず今夜は宿に泊まる予定だ。明日からは拠点があるから、そこに移動するけど」
「私、そこに住んでもいいんですか?」
「あー……いいんじゃね? 部屋いっぱいあったし。何ならお前、お手伝いさんでもする?」
「お手伝いさん……」


 ヴァナの家事スキルがどの程度のものかはわからないが、少しずつでも何か覚えてくれる様であれば、家を空けてクエストに励むのもある程度安心して出来る。
 問題はあいつらが何て言うかなんだがな。


「飯、食ってねぇだろ、その様子じゃ。そのジュースで金は使い果たした……そうだな?」
「よくわかりましたね」
「まぁな……俺、異界人だからそういう話詳しいんだよ」


 空港で二百円しかないのにジュース飲んじゃってハゲ呼ばわりされた人の話とかな。
 そんなことを考えていると、目の前から勢いの良い、グゥー、という音が聞こえてきて、目の前の少女は赤面する。


「こ、これはその……」
「まぁ、健康な証だよな。俺も腹減ったからさ、飯食わせてやるからついてこいよ」


 そう言って荷物もほとんど持ち合わせていない様子の少女を連れて、宿に戻ろうかと思った時、背後に不穏な気配を感じて思わず立ち止まった。


「凛……その子何?」
「……雅樂か。他のみんなは?」
「さぁ? まだ行商人探してるんじゃない?」


 ってことは雅樂がその行商人を見つけたってわけか。
 薬が手に入ったってことなのか?


「とりあえずこの子は拾い物。後で家に連れて行くけど、今夜はお前らの部屋に泊めてやってほしいんだよ」


 そこまで言った時、更に背後から足音が複数聞こえて、アルカたちが合流した。
 騒がしくも恐ろしい雰囲気をまとった俺のメンバーを見て、ヴァナの目が恐怖に震える。
 これはまた面倒なことになりそうだが、乗りかかった船だ、何とかしようじゃないか。

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