不能勇者の癖にハーレム築いて何が悪い?
8:温泉を守ろう!
「おら、こっち見ろゴリラ!」
走りながら剣に意識を集中し、冷気を発生させる。
まだ未熟だからなのか、ミルズの様に早く魔力が溜まっていかないので、石などを投げつけてゴリラの注意をこちらに向けるべく俺なりに頑張っていた。
「……強い相手ってのが、モンスターにはやっぱりわかるのね」
「…………」
俺とは逆方向へ走った雅樂がぼそっと呟いた一言は、何故か俺にも聞こえて精神的ダメージを与えてくる。
力の差は理解しているから、そこまで俺を傷つけようとしないでほしい。
不能が悪化したらどうしてくれるんだ……。
「溜まった! 雅樂、巻き込まれんなよ!?」
「甘く見ないで!」
雅樂が鎌で牽制しながらゴリラから離れる。
この距離なら、当たるはずだ。
「食らえ、氷の弾幕!!」
ものすごく恥ずかしい、そう思いながら放った魔法は無数の氷の刃を生成し、ゴリラに向かって飛来する。
何本かは逸れたが八割以上が直撃し、ゴリラは痛みに呻きながらその動きを止めた。
「今だ、雅樂!!」
「あんたも少し離れなさい!! 死の舞踊!!」
雅樂の放った技は有効範囲まで射程を伸ばした鎌ごと本人が回転して、無数に相手を刻むというものだ。
俺が見てきた雅樂の技の中では、これが一番痛そうだった。
そして細切れになったゴリラが沈黙するのを皮切りに、他の巣からもゴリラが次々に現れ始めた。
「……囲まれたわね」
「しゃーない、半分任せていいか?」
「あんた、半分も何とか出来るの?」
ごもっともなご指摘ですな。
もちろん、出来るわけがない。
俺の一角だけでも多分五十くらいいる。
ということは、雅樂の方を含めて百近くいることになる。
そしてあいつらは大丈夫だろうか?
「私たちがいることも、忘れないでよね!!」
アルカのキャンキャンした子犬みたいな声が聞こえて、辺りが光に包まれる。
何かしらの魔法の準備が整ったということだろうか。
「凛、伏せて!!」
「お!? おう!!」
その光で目が眩んでいるであろうゴリラの群れを、雅樂が次々俺の頭上で刻んでいく。
雅樂の鎌の刃は高速で振動しているとかで、触れるだけでも一回で数回の斬撃を与えるとか言っていた気がする。
改めてこいつを怒らせるのは危険だ、と俺は思った。
「炎の爆発!!」
今度はミルズの声が聞こえ、直後に何匹かのゴリラがぐちゃぐちゃになって吹き飛ぶのが見える。
ここまでくるともう、滅茶苦茶だな……。
セオリーもクソもあったもんじゃない。
「ほら、まだ頭上げないで!! 死の呼び声!!」
とどめと言わんばかりに俺の頭上で雅樂が再度技を展開する。
巨大なブラックホールの様なものが生成され、次々ゴリラがそこに吸い込まれていく。
「お、おい……異次元にでも飛ばすつもりか!?」
「まさか。戦利品もらえなくなっちゃうじゃない」
危うく俺まで吸い込まれそうになり、慌てて雅樂の両足にしがみつくという醜態を晒し、雅樂以外の全員から白い目で見られた。
緊急時の緊急措置なんだ、仕方ないだろ!?
決して疚しい気持ちでしがみついたわけじゃないんだ!
そう、俺は決して悪くなんかない。
悪いのはこんな物騒な雅樂の技だ!
「お、出てきたよ」
そんな俺の考えを無視して、雅樂が先ほどまでブラックホールがあった場所を指さす。
何だよ、消えたならそう言ってくれよ……。
その穴から出てきたのは……。
「う、うお……何だこれ」
「凄いわね……」
さっきまで白い目をしていた面々までもが、その光景に目を見張る。
穴から吐き出されたのは、毛皮と肉と骨とが綺麗に切り分けられた無数のゴリラだった。
「へへ、便利でしょ」
一人で今まで戦ってこられたのは、これが理由か。
一人で無数のモンスターを倒せたとしても、その後の戦利品回収がめんどくさそうだもんな。
これは確かに便利かもしれない。
しかしこれはすごい数だな……全員で持っていったとして、全部持てるんだろうか。
「さっきの群れ、メスもいたね」
「…………」
「リン、あれに捕まっとけばよかったんじゃない?」
「は? 何でだよ」
「メスが不能治してくれたかもしれないよ?」
勘弁してくれ。
〇△×が引きちぎられたりしたらどうすんだよ。
あいつら絶対加減とか知らないだろ。
「そしたら童貞もらってもらえたかもしれないのに。残念だったね、凛」
「お前らな……」
使い物にならないものを無理やり何とかされた挙句にゴリラに童貞奪われました、とか別の意味で死んだも同然な気がする。
まぁ今回は命も童貞も無事だったから別にそれはいいんだが……童貞だけダメでした、って場合命が無事でも精神が無事でいられる自信はなかった。
「しかもウタの足にしがみついて、何あれ? 一緒に吸い込まれてればよかったのに」
「アルカお前、物騒だな。仮に吸い込まれてたらそこの戦利品の中に、俺の肉とか皮も混ざってんだからな」
ヤキモチで言ってるんだとしたら、相当性格悪いなと思う。
大体俺の皮とか戦利品として回収して、何処に売るつもりだよ……。
「まぁそれはいいとして……さっきので全部だとしても、巣が残ってたらまた湧くかもしれないから、巣だけでも潰しておこうよ」
ミルズが俺たちの口論を見かねたのか、声をかけてくる。
そして言う通りだと思うので、その提案に従い巣を焼き払って回る。
全てが終わったのは、夕方になった頃だった。
「いや、助かりました。これで少しずつでも客は戻ることでしょう」
報告を済ませると温泉のオーナーは大喜びで俺たちを迎えてくれた。
小さな魔物くらいならオーナーでも何とか出来るらしいが、さっきみたいなでかいので、しかもあれだけの数いるとどうにもならない、ということでしばらくは安泰だろう、とオーナーは破顔していた。
「お礼と言いますか、クエスト受領の時に条件に提示していた入浴ですが、されますか?」
オーナーの奥さんらしき人が、俺たちに入浴を勧めてくる。
泉質に自信あり、ということなのだろうか。
温泉とか正直久しぶりではあるが、何とも気が進まない。
「ここって混浴でしたっけ?」
「ええ、残念ながら男女で分けてはおりませんね」
そう、混浴。
普通の男ならマジかよやったぜ! なんて思うことだろう。
だが何故だか、俺には死の匂いしかしない。
だって、メンツがメンツなんですもの。
「だってさ。もちろん凛も入るよね?」
「あ、いや俺は後でいいかなって」
「許されると思ってるの?」
雅樂とアルカに両腕を掴まれ、俺は身動きが取れなくなる。
こいつら何だかんだ息が合ってきてないか?
「抵抗しても無駄ですよ。覚悟を決めましょう」
「そうだね、私たちみたいな美少女と混浴だなんて、男冥利に尽きるというものだろ?」
頼みの綱だったヨトゥンとミルズまでもが悪乗りし始める。
雅樂は特に表情を変えることなく引っ張られていく俺を見ていた。
見てなくていいから、助けてくれないかな……。
「別に、こないだまでしようとしてたこと考えたら、見られるくらい何でもないわ。そうでしょ、ウタ」
「……まぁ、それくらいはね。でも、見られても何も反応しないんだと、ちょっとだけ悲しいかな」
「……それ、別に俺だけの責任じゃないんだから、仕方なくないか?」
男として、確かにそんな風に言われれば思うところはあるが俺の意志でどうにかなる問題じゃないんだから仕方ない。
そして脱衣所まで連れてこられて、改めて男女分かれていないのだということを思い知る。
「……ああ、マジかよ」
「凛、温泉でタオルをお湯につけるのはマナー違反だからね」
「……知ってるよ」
ここまできたら覚悟を決めるか。
そう考えて勢いよくパンツもろとも脱ぎ去ろうとしたその時だった。
「待って、リン……動かないで」
「は?」
ミルズが半裸で杖を構える。
何かあったというのだろうか?
「ウタ、武器持ってきてね」
「はぁ、なるほど。了解っと」
俺には何が何やらわからないが、二人ともまだ服を半分くらい着たまま浴場に入っていく。
アルカとヨトゥンにも何があったのかわかっていない様だが、脱衣所にいる様言われて待つこと五分程度。
少しの騒音と爆発音があり、ミルズと雅樂は戻ってきた。
そして、二人の手に握られていたのは……三人の男の焼け焦げた生首だった。
走りながら剣に意識を集中し、冷気を発生させる。
まだ未熟だからなのか、ミルズの様に早く魔力が溜まっていかないので、石などを投げつけてゴリラの注意をこちらに向けるべく俺なりに頑張っていた。
「……強い相手ってのが、モンスターにはやっぱりわかるのね」
「…………」
俺とは逆方向へ走った雅樂がぼそっと呟いた一言は、何故か俺にも聞こえて精神的ダメージを与えてくる。
力の差は理解しているから、そこまで俺を傷つけようとしないでほしい。
不能が悪化したらどうしてくれるんだ……。
「溜まった! 雅樂、巻き込まれんなよ!?」
「甘く見ないで!」
雅樂が鎌で牽制しながらゴリラから離れる。
この距離なら、当たるはずだ。
「食らえ、氷の弾幕!!」
ものすごく恥ずかしい、そう思いながら放った魔法は無数の氷の刃を生成し、ゴリラに向かって飛来する。
何本かは逸れたが八割以上が直撃し、ゴリラは痛みに呻きながらその動きを止めた。
「今だ、雅樂!!」
「あんたも少し離れなさい!! 死の舞踊!!」
雅樂の放った技は有効範囲まで射程を伸ばした鎌ごと本人が回転して、無数に相手を刻むというものだ。
俺が見てきた雅樂の技の中では、これが一番痛そうだった。
そして細切れになったゴリラが沈黙するのを皮切りに、他の巣からもゴリラが次々に現れ始めた。
「……囲まれたわね」
「しゃーない、半分任せていいか?」
「あんた、半分も何とか出来るの?」
ごもっともなご指摘ですな。
もちろん、出来るわけがない。
俺の一角だけでも多分五十くらいいる。
ということは、雅樂の方を含めて百近くいることになる。
そしてあいつらは大丈夫だろうか?
「私たちがいることも、忘れないでよね!!」
アルカのキャンキャンした子犬みたいな声が聞こえて、辺りが光に包まれる。
何かしらの魔法の準備が整ったということだろうか。
「凛、伏せて!!」
「お!? おう!!」
その光で目が眩んでいるであろうゴリラの群れを、雅樂が次々俺の頭上で刻んでいく。
雅樂の鎌の刃は高速で振動しているとかで、触れるだけでも一回で数回の斬撃を与えるとか言っていた気がする。
改めてこいつを怒らせるのは危険だ、と俺は思った。
「炎の爆発!!」
今度はミルズの声が聞こえ、直後に何匹かのゴリラがぐちゃぐちゃになって吹き飛ぶのが見える。
ここまでくるともう、滅茶苦茶だな……。
セオリーもクソもあったもんじゃない。
「ほら、まだ頭上げないで!! 死の呼び声!!」
とどめと言わんばかりに俺の頭上で雅樂が再度技を展開する。
巨大なブラックホールの様なものが生成され、次々ゴリラがそこに吸い込まれていく。
「お、おい……異次元にでも飛ばすつもりか!?」
「まさか。戦利品もらえなくなっちゃうじゃない」
危うく俺まで吸い込まれそうになり、慌てて雅樂の両足にしがみつくという醜態を晒し、雅樂以外の全員から白い目で見られた。
緊急時の緊急措置なんだ、仕方ないだろ!?
決して疚しい気持ちでしがみついたわけじゃないんだ!
そう、俺は決して悪くなんかない。
悪いのはこんな物騒な雅樂の技だ!
「お、出てきたよ」
そんな俺の考えを無視して、雅樂が先ほどまでブラックホールがあった場所を指さす。
何だよ、消えたならそう言ってくれよ……。
その穴から出てきたのは……。
「う、うお……何だこれ」
「凄いわね……」
さっきまで白い目をしていた面々までもが、その光景に目を見張る。
穴から吐き出されたのは、毛皮と肉と骨とが綺麗に切り分けられた無数のゴリラだった。
「へへ、便利でしょ」
一人で今まで戦ってこられたのは、これが理由か。
一人で無数のモンスターを倒せたとしても、その後の戦利品回収がめんどくさそうだもんな。
これは確かに便利かもしれない。
しかしこれはすごい数だな……全員で持っていったとして、全部持てるんだろうか。
「さっきの群れ、メスもいたね」
「…………」
「リン、あれに捕まっとけばよかったんじゃない?」
「は? 何でだよ」
「メスが不能治してくれたかもしれないよ?」
勘弁してくれ。
〇△×が引きちぎられたりしたらどうすんだよ。
あいつら絶対加減とか知らないだろ。
「そしたら童貞もらってもらえたかもしれないのに。残念だったね、凛」
「お前らな……」
使い物にならないものを無理やり何とかされた挙句にゴリラに童貞奪われました、とか別の意味で死んだも同然な気がする。
まぁ今回は命も童貞も無事だったから別にそれはいいんだが……童貞だけダメでした、って場合命が無事でも精神が無事でいられる自信はなかった。
「しかもウタの足にしがみついて、何あれ? 一緒に吸い込まれてればよかったのに」
「アルカお前、物騒だな。仮に吸い込まれてたらそこの戦利品の中に、俺の肉とか皮も混ざってんだからな」
ヤキモチで言ってるんだとしたら、相当性格悪いなと思う。
大体俺の皮とか戦利品として回収して、何処に売るつもりだよ……。
「まぁそれはいいとして……さっきので全部だとしても、巣が残ってたらまた湧くかもしれないから、巣だけでも潰しておこうよ」
ミルズが俺たちの口論を見かねたのか、声をかけてくる。
そして言う通りだと思うので、その提案に従い巣を焼き払って回る。
全てが終わったのは、夕方になった頃だった。
「いや、助かりました。これで少しずつでも客は戻ることでしょう」
報告を済ませると温泉のオーナーは大喜びで俺たちを迎えてくれた。
小さな魔物くらいならオーナーでも何とか出来るらしいが、さっきみたいなでかいので、しかもあれだけの数いるとどうにもならない、ということでしばらくは安泰だろう、とオーナーは破顔していた。
「お礼と言いますか、クエスト受領の時に条件に提示していた入浴ですが、されますか?」
オーナーの奥さんらしき人が、俺たちに入浴を勧めてくる。
泉質に自信あり、ということなのだろうか。
温泉とか正直久しぶりではあるが、何とも気が進まない。
「ここって混浴でしたっけ?」
「ええ、残念ながら男女で分けてはおりませんね」
そう、混浴。
普通の男ならマジかよやったぜ! なんて思うことだろう。
だが何故だか、俺には死の匂いしかしない。
だって、メンツがメンツなんですもの。
「だってさ。もちろん凛も入るよね?」
「あ、いや俺は後でいいかなって」
「許されると思ってるの?」
雅樂とアルカに両腕を掴まれ、俺は身動きが取れなくなる。
こいつら何だかんだ息が合ってきてないか?
「抵抗しても無駄ですよ。覚悟を決めましょう」
「そうだね、私たちみたいな美少女と混浴だなんて、男冥利に尽きるというものだろ?」
頼みの綱だったヨトゥンとミルズまでもが悪乗りし始める。
雅樂は特に表情を変えることなく引っ張られていく俺を見ていた。
見てなくていいから、助けてくれないかな……。
「別に、こないだまでしようとしてたこと考えたら、見られるくらい何でもないわ。そうでしょ、ウタ」
「……まぁ、それくらいはね。でも、見られても何も反応しないんだと、ちょっとだけ悲しいかな」
「……それ、別に俺だけの責任じゃないんだから、仕方なくないか?」
男として、確かにそんな風に言われれば思うところはあるが俺の意志でどうにかなる問題じゃないんだから仕方ない。
そして脱衣所まで連れてこられて、改めて男女分かれていないのだということを思い知る。
「……ああ、マジかよ」
「凛、温泉でタオルをお湯につけるのはマナー違反だからね」
「……知ってるよ」
ここまできたら覚悟を決めるか。
そう考えて勢いよくパンツもろとも脱ぎ去ろうとしたその時だった。
「待って、リン……動かないで」
「は?」
ミルズが半裸で杖を構える。
何かあったというのだろうか?
「ウタ、武器持ってきてね」
「はぁ、なるほど。了解っと」
俺には何が何やらわからないが、二人ともまだ服を半分くらい着たまま浴場に入っていく。
アルカとヨトゥンにも何があったのかわかっていない様だが、脱衣所にいる様言われて待つこと五分程度。
少しの騒音と爆発音があり、ミルズと雅樂は戻ってきた。
そして、二人の手に握られていたのは……三人の男の焼け焦げた生首だった。
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