不能勇者の癖にハーレム築いて何が悪い?
1:始まりはゴブリン
今日も一日が始まる。
騒がしく忙しない、仲間との冒険が。
「リン、何をしてるの? 置いていくわよ」
「ああ、今行く」
こうして毎日毎朝起こしに来るのはもちろん幼馴染などではない。
世間ではどうやら幼馴染と言うものはいいものだ、みたいな風潮が広まっていて、漫画やアニメ、ラノベでは主にヒロインとして描かれて大体の人物がツンデレ、というものだ。
ハッキリ言っておこう。
まず、ツンデレ……なのはちょっとだけ合っている。
しかし、断じてあいつはヒロインなんかではない。
そしてあいつはこの世界にはいない。
別に死んでしまったとか、そういう悲しいエピソードがあるわけではない。
ただ、俺がこっちの世界に呼ばれてしまって、あいつとは会うことが出来なくなってしまった、というそれだけのことだった。
こっちの世界というのは、俺が今暮らしている世界、神の涙という世界。
別に俺の頭がおかしくなったわけでも、急に中二的な心境になったとか、そういうことはない。
気づいたら俺はここにいた。
そして、俺は転生者としてこの世界で歓迎された。
とは言っても、転生者自体はこのフレイティアにおいて珍しくも何ともない様で、聞いた限りの話だけど俺で何人目って言ったかな……百は下らなかったと思う。
そして転生者は必ず、フレイティアの現地人よりも優れた能力を持っている。
この辺は割とありふれた設定だよな、なんて思ったのは記憶に新しい。
あと、このフレイティアには元の地球とは違ったおかしな風習があり、様々な物の呼び方が違う。
文明レベルもおそらくは中世とかそのくらい。
だけど発電する仕組みやガスを供給するシステムは作られつつある。
これはおそらく、転生者の誰かが知恵を貸したりして住みやすくするためにそうなったのではないか、という話だった。
そして転生者は、必ず仲間を伴って冒険をしなければならない。
更に言うと、冒険者は何かしらの目標を持って冒険をする必要があり、引退するときにはそれ相応の理由が必要となる。
あと、街中は衛兵やらのおかげで比較的安全ではあるが外に出れば魔物が跋扈している。
お金やらはその魔物を倒して物を売ったり、紹介所で依頼を受けてクリア出来れば報酬を支払ってもらえると言ったものだ。
紹介所の報酬は割といいらしいが、その分難易度も人気も高い。
現在拠点にしている街でもあるヌシャスから、かなりの遠方へと行かされたなんて話もよく聞いた。
転生者に拾ってもらえなかった現地人の冒険者が、慣れないうちに依頼を受けて洞窟に行って帰らぬ人になった、なんて話もよくあるそうだ。
「今日はどうするの? 私たち、まだランクが最低のままなのよ」
そう言って頬を膨らませたのはアルカという神官の女。
水色の長い髪にヴェールの様なものを纏っていて、何となくどっかのシスターを連想してしまう。
物言いも何となく乱暴だし、よくこんなのが神官なんて職業につけたなと今でも思う。
「そうは言うけど、まずはリンに戦い方を覚えてもらわないと。戦闘の要はやっぱり転生者なのだから」
そう優しく諭す様な口調で言うのは、女魔導士のミルズ。
アルカと代わってやったら丁度いいんじゃね?と思うくらいに性格は穏やかだ。
緑色の髪を肩まで伸ばしているが、やや天パっぽい感じの癖っ毛と、垂れた目が特徴的な女。
そして何より乳がでかい。
豊満、という言葉はこの女の為にあると言っても過言ではないだろう。
見事なナイスバディというやつだ。
「まぁ、誰でも最初は初心者ですから……焦って取り返しのつかないことになるよりはいいでしょう? それに私たちは転生者に見つけてもらえた、幸福な方なんですから」
そう言ったのは、女騎士のヨトゥン。
のんびりした性格だし、普段の物言いからはまず想像できないのだが、戦闘になるといきなり性格が変わる。
長く腰まである赤い髪を、編み込みにして束ねていて、動きやすいからと最低限の防御力を持ったスケイルアーマーを身にまとっている。
どう性格が変わるのかと言うと、まず相手を見下す。
言葉遣いもアルカの比ではないほどに悪くなる。
そして敵を攻撃をしながら煽る。
下ネタ満載の煽り文句をあの声で聞かされた晩は、色々と連想してしまって不覚にも自家発電が捗ってしまったのを覚えている。
俺は別にマゾである自覚はなかったが、ああいう風に罵られるのは悪くない、なんて思ってしまったのだ。
「ぶりっ子してんじゃないっての。この中で一番えげつない性格してるあんたの口から幸福、なんて言葉が出てくると腹の皮がよじれるほどに笑ってやりたくなるんだけど」
「……ぶりっ子、というのはもしかして、私のことを言っているんですか?」
早速宿屋のロビーに剣呑な雰囲気が充満していくのがわかる。
何でこいつらを仲間にしてしまったのか、と後悔する瞬間だ。
「ま、まぁほら……何でもいいよ、別に。ぶりっ子だとかそういうの、戦闘に関係ないんだから」
このままだと、また喧嘩になって宿屋から追い出されたりなんてこともあり得るので、俺はそれとなくやんわりと、二人を止めようと声をかけた。
「リン、あなたはこのまな板の上にラムレーズンが乗っている程度の女がいいと、そう仰るんですか?」
据わった目をしたヨトゥンが、俺に笑いかけてくる。
おかしいな、笑っている顔のはずなのに何でこんな凍り付く様な雰囲気を出せるの、この人。
「誰がまな板の上のラムレーズンですって? 無駄肉ぶりっ子が」
ああ、始まってしまった……。
確かにアルカの胸は慎ましくて主張も控えめ……というか皆無かもしれない。
だけど俺は一応、こいつらをそういう目で見ない様努めて来ているのだ。
だって、女ばっかりのこのパーティでそんなこと考えてたら、前かがみになることばっかりじゃないか。
こっちに来てから一か月近く経つが、正直俺は心休まった瞬間というものがない。
だが、俺はそんな中でも純潔を保ち続けている。
立派なことだと思わないか?
まぁ、それと言うのもこの世界の絶対的なしきたりとして、童貞や処女を無理やりに手籠めにすることは殺人よりも重い罪とされているという背景があり、また童貞や処女がそれらを捨てる場合には、国家への届け出が必要になるからなんだが。
その手順をすっ飛ばして情事に及んだ場合、男なら最悪去勢。
そして女の場合は遊郭に売られるという、悲惨な結末が待っているというのだから恐ろしい。
そして童貞や処女という表現は、この世界では一切通じない。
『あんた、フレッシャーズなのね』
不意にそう言われたことがあった。
こっちに来てまだ間もない頃だ。
フレッシャーズ……新人?なんて呑気に考えて、まぁ来たばっかりだし、なんてことを言ったら笑われた。
こっちでは男女問わず未経験者をフレッシャーズと呼ぶ。
そして、情事もクロスプレイと言われ、自家発電はソロ。
隠語か何かなの?と言いたくなるが、地球で当たり前だった呼び方からこういった事情を知らされると、余計エロく感じるのは俺だけだろうか。
また、フレッシャーズは匂いでわかるという。
だからこいつらも俺に一切手を出してはこないし、俺だってちょん切られたりするのはごめんなので手を出さない。
ソロ活動で十分じゃない、という頭もあることから、禁欲に近い生活をしているのだ。
などとグダグダ考えていると、貧乳対普乳の戦いが終わった様で、ミルズから声がかかる。
どうやら漸く出発できそうだ。
「まずはゴブリン討伐を重ねることだと思うんだけど」
そう言ったのはミルズだが、彼女から見て俺は何もかもがなっていない、ということだった。
力だけがあり、それを生かす技術がない。
初めての戦闘を終えた時に言われたことだ。
「そうねぇ……まぁ、ゴブリンでもたまにはいいものを持ってたりするしね。まずは安全に行きましょ」
アルカも渋々ではあるが了承し、ヨトゥンもそれに反対することはなく、俺たちは近場の洞窟へ向かうことにした。
「その剣、どうですか? 使いにくい様でしたらまた買い直した方がいいと思いますけど」
「ああ……まぁまだそんなに使ってないからね。まずは武器そのものに慣れないと」
ヨトゥンが心配するのも無理はない。
彼女はきっと、俺が武器に振り回されていると思ったんだと思うから。
実際初の戦闘の時はやぶれかぶれに剣を振り回すだけで、危うくミルズを切り付けてしまいそうになったりと散々だったのだ。
大体、買い直すにしてもある程度稼いでおかないと宿すらも覚束なくなってしまう。
「着きましたね。松明の用意はいいですか?」
「私が持つわよ。主に戦うのはあんたたちなんだから」
そう言ってアルカが松明に火を灯す。
これ一本で大体二時間弱は、明るさを保てる。
しかし暗いところで目が慣れているゴブリンからは、格好の的にされることも考えられるので一長一短と言ったところか。
「リンは最後列を守ってください。私が前に出ますので。ミルズは魔法で援護を」
「わかった。ゴブリンだからって舐めてかからないでね。あいつら割と狡猾だし、いい武器使ってくることもあるんだから」
実際に帰らぬ人となった冒険者のうち、女性の場合は慰み者にされることが大半だという。
俺らなんかはその最たる例にならなければ良いが、なんて縁起でもないことを考えてしまう。
そう考えるのであれば、俺が前列にとも思うが戦闘経験が俺とヨトゥンとでは天と地ほどの開きがある。
危なくなったらなりふり構わず逃げる算段でも、と俺は考えていた。
「何だか変な匂いしない?」
ミルズが何かに気づいた様で、俺たちを見る。
それを見たアルカがミルズを嘲笑する様に見て、はっ、とため息をついた。
「あんた、まさか漏らしたんじゃ……」
「アルカと一緒にしないでくれる? それとも鼻がバカになってるの? 風邪ひいてるんだったら先に言っておいてくれないと困るんだけど」
今度は貧乳対爆乳か。
どっちにしても騒ぐとゴブリンの的にされそうだし、勘弁してもらいたい。
そして変な匂いの正体は、すぐに判明した。
「これ……男の冒険者ね。この洞窟、近い割に近寄る人が少ないって聞いてたけど」
そう言ったのはアルカだ。
壁にもたれかかる様にしてうなだれた白骨の遺体。
見る限り装備の様なものは一切身に着けていない様だ。
ここまでの状態になるってことは、かなりひどい殺され方をしたか、相当長い時間放置されたか、ということなんだろう。
そして装備がないということは、ゴブリンが身ぐるみ剥いで行ったか仲間が見捨てたか。
「弔ってあげたいわね、聖職者として」
「罠に決まってるでしょ。触るんじゃないわよ」
ミルズもどうやら俺と同意見の様だ。
何か仕掛けられる程度の知能を、ゴブリンは持っていると聞いたことがある。
なのであれば、下手に弔おうなんて考えればこっちが危ういということだって、十分あり得るのだ。
「どうやら、装備はゴブリンが持っていった、と考えた方が賢そうよ。それと……足音がするわ」
少し声を潜めて、ミルズが囁く。
パーティに緊張が走った。
そして直後、複数の足音がこちらに近づいてくるのが聞こえ、俺たちは武器を構えたのだった。
騒がしく忙しない、仲間との冒険が。
「リン、何をしてるの? 置いていくわよ」
「ああ、今行く」
こうして毎日毎朝起こしに来るのはもちろん幼馴染などではない。
世間ではどうやら幼馴染と言うものはいいものだ、みたいな風潮が広まっていて、漫画やアニメ、ラノベでは主にヒロインとして描かれて大体の人物がツンデレ、というものだ。
ハッキリ言っておこう。
まず、ツンデレ……なのはちょっとだけ合っている。
しかし、断じてあいつはヒロインなんかではない。
そしてあいつはこの世界にはいない。
別に死んでしまったとか、そういう悲しいエピソードがあるわけではない。
ただ、俺がこっちの世界に呼ばれてしまって、あいつとは会うことが出来なくなってしまった、というそれだけのことだった。
こっちの世界というのは、俺が今暮らしている世界、神の涙という世界。
別に俺の頭がおかしくなったわけでも、急に中二的な心境になったとか、そういうことはない。
気づいたら俺はここにいた。
そして、俺は転生者としてこの世界で歓迎された。
とは言っても、転生者自体はこのフレイティアにおいて珍しくも何ともない様で、聞いた限りの話だけど俺で何人目って言ったかな……百は下らなかったと思う。
そして転生者は必ず、フレイティアの現地人よりも優れた能力を持っている。
この辺は割とありふれた設定だよな、なんて思ったのは記憶に新しい。
あと、このフレイティアには元の地球とは違ったおかしな風習があり、様々な物の呼び方が違う。
文明レベルもおそらくは中世とかそのくらい。
だけど発電する仕組みやガスを供給するシステムは作られつつある。
これはおそらく、転生者の誰かが知恵を貸したりして住みやすくするためにそうなったのではないか、という話だった。
そして転生者は、必ず仲間を伴って冒険をしなければならない。
更に言うと、冒険者は何かしらの目標を持って冒険をする必要があり、引退するときにはそれ相応の理由が必要となる。
あと、街中は衛兵やらのおかげで比較的安全ではあるが外に出れば魔物が跋扈している。
お金やらはその魔物を倒して物を売ったり、紹介所で依頼を受けてクリア出来れば報酬を支払ってもらえると言ったものだ。
紹介所の報酬は割といいらしいが、その分難易度も人気も高い。
現在拠点にしている街でもあるヌシャスから、かなりの遠方へと行かされたなんて話もよく聞いた。
転生者に拾ってもらえなかった現地人の冒険者が、慣れないうちに依頼を受けて洞窟に行って帰らぬ人になった、なんて話もよくあるそうだ。
「今日はどうするの? 私たち、まだランクが最低のままなのよ」
そう言って頬を膨らませたのはアルカという神官の女。
水色の長い髪にヴェールの様なものを纏っていて、何となくどっかのシスターを連想してしまう。
物言いも何となく乱暴だし、よくこんなのが神官なんて職業につけたなと今でも思う。
「そうは言うけど、まずはリンに戦い方を覚えてもらわないと。戦闘の要はやっぱり転生者なのだから」
そう優しく諭す様な口調で言うのは、女魔導士のミルズ。
アルカと代わってやったら丁度いいんじゃね?と思うくらいに性格は穏やかだ。
緑色の髪を肩まで伸ばしているが、やや天パっぽい感じの癖っ毛と、垂れた目が特徴的な女。
そして何より乳がでかい。
豊満、という言葉はこの女の為にあると言っても過言ではないだろう。
見事なナイスバディというやつだ。
「まぁ、誰でも最初は初心者ですから……焦って取り返しのつかないことになるよりはいいでしょう? それに私たちは転生者に見つけてもらえた、幸福な方なんですから」
そう言ったのは、女騎士のヨトゥン。
のんびりした性格だし、普段の物言いからはまず想像できないのだが、戦闘になるといきなり性格が変わる。
長く腰まである赤い髪を、編み込みにして束ねていて、動きやすいからと最低限の防御力を持ったスケイルアーマーを身にまとっている。
どう性格が変わるのかと言うと、まず相手を見下す。
言葉遣いもアルカの比ではないほどに悪くなる。
そして敵を攻撃をしながら煽る。
下ネタ満載の煽り文句をあの声で聞かされた晩は、色々と連想してしまって不覚にも自家発電が捗ってしまったのを覚えている。
俺は別にマゾである自覚はなかったが、ああいう風に罵られるのは悪くない、なんて思ってしまったのだ。
「ぶりっ子してんじゃないっての。この中で一番えげつない性格してるあんたの口から幸福、なんて言葉が出てくると腹の皮がよじれるほどに笑ってやりたくなるんだけど」
「……ぶりっ子、というのはもしかして、私のことを言っているんですか?」
早速宿屋のロビーに剣呑な雰囲気が充満していくのがわかる。
何でこいつらを仲間にしてしまったのか、と後悔する瞬間だ。
「ま、まぁほら……何でもいいよ、別に。ぶりっ子だとかそういうの、戦闘に関係ないんだから」
このままだと、また喧嘩になって宿屋から追い出されたりなんてこともあり得るので、俺はそれとなくやんわりと、二人を止めようと声をかけた。
「リン、あなたはこのまな板の上にラムレーズンが乗っている程度の女がいいと、そう仰るんですか?」
据わった目をしたヨトゥンが、俺に笑いかけてくる。
おかしいな、笑っている顔のはずなのに何でこんな凍り付く様な雰囲気を出せるの、この人。
「誰がまな板の上のラムレーズンですって? 無駄肉ぶりっ子が」
ああ、始まってしまった……。
確かにアルカの胸は慎ましくて主張も控えめ……というか皆無かもしれない。
だけど俺は一応、こいつらをそういう目で見ない様努めて来ているのだ。
だって、女ばっかりのこのパーティでそんなこと考えてたら、前かがみになることばっかりじゃないか。
こっちに来てから一か月近く経つが、正直俺は心休まった瞬間というものがない。
だが、俺はそんな中でも純潔を保ち続けている。
立派なことだと思わないか?
まぁ、それと言うのもこの世界の絶対的なしきたりとして、童貞や処女を無理やりに手籠めにすることは殺人よりも重い罪とされているという背景があり、また童貞や処女がそれらを捨てる場合には、国家への届け出が必要になるからなんだが。
その手順をすっ飛ばして情事に及んだ場合、男なら最悪去勢。
そして女の場合は遊郭に売られるという、悲惨な結末が待っているというのだから恐ろしい。
そして童貞や処女という表現は、この世界では一切通じない。
『あんた、フレッシャーズなのね』
不意にそう言われたことがあった。
こっちに来てまだ間もない頃だ。
フレッシャーズ……新人?なんて呑気に考えて、まぁ来たばっかりだし、なんてことを言ったら笑われた。
こっちでは男女問わず未経験者をフレッシャーズと呼ぶ。
そして、情事もクロスプレイと言われ、自家発電はソロ。
隠語か何かなの?と言いたくなるが、地球で当たり前だった呼び方からこういった事情を知らされると、余計エロく感じるのは俺だけだろうか。
また、フレッシャーズは匂いでわかるという。
だからこいつらも俺に一切手を出してはこないし、俺だってちょん切られたりするのはごめんなので手を出さない。
ソロ活動で十分じゃない、という頭もあることから、禁欲に近い生活をしているのだ。
などとグダグダ考えていると、貧乳対普乳の戦いが終わった様で、ミルズから声がかかる。
どうやら漸く出発できそうだ。
「まずはゴブリン討伐を重ねることだと思うんだけど」
そう言ったのはミルズだが、彼女から見て俺は何もかもがなっていない、ということだった。
力だけがあり、それを生かす技術がない。
初めての戦闘を終えた時に言われたことだ。
「そうねぇ……まぁ、ゴブリンでもたまにはいいものを持ってたりするしね。まずは安全に行きましょ」
アルカも渋々ではあるが了承し、ヨトゥンもそれに反対することはなく、俺たちは近場の洞窟へ向かうことにした。
「その剣、どうですか? 使いにくい様でしたらまた買い直した方がいいと思いますけど」
「ああ……まぁまだそんなに使ってないからね。まずは武器そのものに慣れないと」
ヨトゥンが心配するのも無理はない。
彼女はきっと、俺が武器に振り回されていると思ったんだと思うから。
実際初の戦闘の時はやぶれかぶれに剣を振り回すだけで、危うくミルズを切り付けてしまいそうになったりと散々だったのだ。
大体、買い直すにしてもある程度稼いでおかないと宿すらも覚束なくなってしまう。
「着きましたね。松明の用意はいいですか?」
「私が持つわよ。主に戦うのはあんたたちなんだから」
そう言ってアルカが松明に火を灯す。
これ一本で大体二時間弱は、明るさを保てる。
しかし暗いところで目が慣れているゴブリンからは、格好の的にされることも考えられるので一長一短と言ったところか。
「リンは最後列を守ってください。私が前に出ますので。ミルズは魔法で援護を」
「わかった。ゴブリンだからって舐めてかからないでね。あいつら割と狡猾だし、いい武器使ってくることもあるんだから」
実際に帰らぬ人となった冒険者のうち、女性の場合は慰み者にされることが大半だという。
俺らなんかはその最たる例にならなければ良いが、なんて縁起でもないことを考えてしまう。
そう考えるのであれば、俺が前列にとも思うが戦闘経験が俺とヨトゥンとでは天と地ほどの開きがある。
危なくなったらなりふり構わず逃げる算段でも、と俺は考えていた。
「何だか変な匂いしない?」
ミルズが何かに気づいた様で、俺たちを見る。
それを見たアルカがミルズを嘲笑する様に見て、はっ、とため息をついた。
「あんた、まさか漏らしたんじゃ……」
「アルカと一緒にしないでくれる? それとも鼻がバカになってるの? 風邪ひいてるんだったら先に言っておいてくれないと困るんだけど」
今度は貧乳対爆乳か。
どっちにしても騒ぐとゴブリンの的にされそうだし、勘弁してもらいたい。
そして変な匂いの正体は、すぐに判明した。
「これ……男の冒険者ね。この洞窟、近い割に近寄る人が少ないって聞いてたけど」
そう言ったのはアルカだ。
壁にもたれかかる様にしてうなだれた白骨の遺体。
見る限り装備の様なものは一切身に着けていない様だ。
ここまでの状態になるってことは、かなりひどい殺され方をしたか、相当長い時間放置されたか、ということなんだろう。
そして装備がないということは、ゴブリンが身ぐるみ剥いで行ったか仲間が見捨てたか。
「弔ってあげたいわね、聖職者として」
「罠に決まってるでしょ。触るんじゃないわよ」
ミルズもどうやら俺と同意見の様だ。
何か仕掛けられる程度の知能を、ゴブリンは持っていると聞いたことがある。
なのであれば、下手に弔おうなんて考えればこっちが危ういということだって、十分あり得るのだ。
「どうやら、装備はゴブリンが持っていった、と考えた方が賢そうよ。それと……足音がするわ」
少し声を潜めて、ミルズが囁く。
パーティに緊張が走った。
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