やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第212話


あれから一週間。
あのフードの……ヴァールという女神の言った試練はまだ、訪れてはいない。
当然睦月たちにも全部話したのだが、ヴァールについては当然わからなかったし、しかも睦月が持ってきた情報がまためんどくさいというか……試練って全員分回ったよね?と言いたくなる様な内容だった。

なのにまた全員分試練やる様な内容。
これもハーレムを作った……のは俺じゃないけど、中心にいる人間の宿命なのかもしれない。

「じゃあ大輝、私買い物と散歩に行ってくるから」
「ああ、了解」

この日、久しぶりに俺は一人で部屋に残ることとなった。
いつもなら誰かしら傍にいるのが当たり前、ということもあって何となくの寂寥感を感じる。

「おはよ、大輝くん」

はずだったのに、騒がしいのがやってくる。
聞きなれた声……と思った声。
いや、その通りなんだが。

「と、朋美?」
「何?私何か変?」

変以外の何と言えばいいと言うのだろうか。
正直な話変……それ以外で言えばぶっちゃけ不気味だ。
あの朋美が俺にくん付け?

いやいや、ないだろ。
それこそジャイアンばりに乱暴、暴虐の限りを……というのはさすがに言い過ぎだが何だか全身に鳥肌の様なものが……。

「明日香ちゃんはどうだった?」
「ど、どうって……何お前、何か拾い食いでもしたの?」
「ひどい……どうしてそんなこと言うの?」

目を潤ませて、上目遣いに俺を見る朋美。
いや、見た目だけなら全然アリなんだ。
可愛いと思うんだよ。

ただ……ただな。
普段と違い過ぎて怖い。
可愛い、って思うのよりも恐怖が上回るのを感じる。

「えっと、言い方悪かった。でもやっぱお前変だよ。俺たちにちゃんだのくんだの付けたりなんかしてなかったし……何よりさっきの発言でパンチの一つでも飛んできておかしくないだろ」
「私、そんな乱暴者じゃないもん……」

え、何これ。
もう少ししたら慣れるのかな。
慣れちゃったら、それはそれで後々元の朋美を受け入れられるか心配なんだけど。

「お願いがあるんだ、大輝くん」
「お、おう……お願い?」
「私の中も、見てほしいんだけど」
「な、中? それは何だ、あれだよな、精神的な」
「他に何があるの? エッチな話だと思った?」
「…………」

まぁ、俺くらいの若い男子ならそう思うのは無理もない。
ほら、エロアニメとかでもあるだろ、断面系。
ああいうの連想したとしても、何の不思議もないし、俺はきっと悪くない。

まぁ何だ……話を戻すとして。
朋美が言う精神の中に入る。
これにしたって、違和感満載な発言なわけで。

だって、こいつ考え読まれたりするの滅茶苦茶嫌いそうなタイプだ。
明日香もそうだけど、本来であればそんなことになれば俺はたちまちボコボコにされて、なんてことだってあり得るのだ。

「見ないと、私の試練が終わらないよ?」
「お前……感知出来てるのか」
「だって、私と桜子の精神が今混ざり合ってるんだもん」
「は?」

混ざり……それは何ですか、百合的な……。
いや待て、そんな場合じゃない。
どういう経緯があったのかわからないが、どうしてそうなった?

「まぁそれは中でわかると思うけど……どうするの?見てくれるの?」
「桜子はどうしてるんだ?」
「家で寝てると思う。私の中でクリアできれば、二人分一気に終わるっぽいし、一石二鳥でしょ?」
「……まぁ、そうかもしれないけど」

俺としては、ここで二つ返事でんじゃ行くか!って感じには思えない。
桜子と精神が混ざり合っているという朋美。
明らかに異常である事態を目の前にして、俺の独断で動くのはちょっと危険……っていうか怖い。

あいなり睦月なりと合流してからが好ましい。
なのにあいつら今何してんだ?
ああ、あいはあれか、散歩と買い物だっけ……。

「どっちにしても睦月ちゃんたちは入れないよ?大輝くんが一人で行くことになるから」
「……そっか。マリーア、いるか?」
「はい、ここに」

こいつだけでも連れていけるなら、何とかなるかもしれない。
そう考えて俺は、マリーアを体内に押し込める。

「そっか、明日香ちゃんの時も魔導書と一緒だったんだっけ」
「まぁな。ある程度の不測の事態にも対処できるかもしれんし、できる準備はしといて損はないしな」

誰かがいないと何もできない、みたいなのはいい加減卒業しないといけない。
俺も神に肩を並べるだけの存在ではあるんだから。
そして何より、こんな喋り方する朋美とか不気味で仕方ない。

あとで思い出して布団に顔を埋めて足をバタバタさせることになる前に、何とかしてやるべきだろう。

「どうすればいい?」
「もう準備いいの?」

以前の時と同じでいいなら、と思った瞬間、朋美が俺に抱き着いてきて、そのまま唇を奪う。
そして俺の意識は闇の中へと引きずり込まれて行った。



「いらっしゃい」

これまた聞きなれた声がして、俺は目を覚ます。
ここは、室内か?

「桜子……だよな」
「うん。朋美もいるよ」

そう言って手を前にかざした桜子の目の前に、何故かスク水を着た朋美が姿を現す。
前々からわかっていたことだが、こいつの胸の大きさがもはや凶器ということもあり、スク水の威力が倍増している気がする。
一方桜子は……。

「お前、その胸どうしたんだ?」
「言いたいことはわかるよ。でも、これは意識の中のことだから……」

推定Dカップ。
普段えぐれ……いや控えめな胸である桜子しか知らない俺からすると、これもまた違和感しかない。
そして朋美と違ってスク水ではなく、セパレートの水着を着ていた。

「どうでもいいけど、何でお前ら水着なんだ?」
「気分?あと変化をお楽しみいただけるかと思って」
「変化って……」

ということは意識の中とは言っても無意識ではなくて、こういう願望がありますよ、ということなのだろう。
だが俺は声を大にして言いたい。
貧乳にだって一定の需要があり、またそれは罪ではない。

女としての価値が胸で決まるなんてのはナンセンスだ。
なのに、言葉にして出すことができない。
何故なのか。

「大輝くんは、胸が大きい方が好きみたいだからね」
「それは誤解だ。でかかろうと小さかろうと、それぞれにいいところがあるもんだ。それを悲観して、普段の自分を否定するなんて……っ!?」

途中から、声にならない。
どういうわけか、桜子がそれを否定しているかの様に俺の声は途切れてしまう。
そして景色は見覚えのない海岸へと切り替わった。

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