やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第209話


「とりあえず、私は一旦神界へ帰って協力者を募ろうかと思ってるんだけど」
「まぁ……それしかないかもしれないな。次回以降魔力を使う相手がいたとしても、マリーアとイヴがいれば何とか出来るかもしれんし」
「私は一応、またちょっと魔界に戻らないといけないから、そんなに頼りにされても困るっていうか……」

立場的なものを考えれば、確かにイヴには魔界を統治する役割があったりするわけで、それを考えると戦力としては危ういかもしれない。
もちろん本番の戦闘になれば未知数だし、弱いってことはないんだろうと思うが。

「まぁ、それは仕方ないけど……あいはどうだ?力になってくれるか?」
「それは構わないけど……他のメンバーが巻き込まれるって決まったわけじゃないんでしょ?」

玲央に何か食べさせながら、あいが答える。
子どもの食べてるものって案外美味そうに見えたりするから困る。

「ほら、大輝もどうぞ。そんなもの欲しそうな顔しないでよ。困ったパパでしゅね~」
「…………」

あいに考えていることを看破されて、玲央に食べさせていたもの……リンゴを剥いたものだったのだが、口放り込まれる。
確かにメンバーが巻き込まれると決まったわけではない。
だけど前例が出来てしまった以上、呑気に構えてもいられないだろう。

「もちろんそうなんだけどさ、出来る用心はしといた方がいいかなって」
「心配なのはわかるけどね。スルーズの場合、確かに強力そうな感じもするし、一筋縄では行かなそうっていうか」
「言いたいことはあるけど、この際飲み込んでおくよ。あいは今回の試練をどう見てる?」
「んー……」

玲央がでかい塊を両手に抱えてかじりついたのを見て、あいは玲央から視線を外す。
美味そうに食べるなぁ。

「正直、強欲っていうワードが引っかかるっていうか……」

強欲……欲深いとか、そういうレベルで済まない感じの不穏なワード。
あいはおそらくそう言いたいのだろう。
睦月が自分で言った様に、出来ることは何でもしてやりたいとか、確かに極まった考え方だと思うし、人間の身ではできないことだろう。

それを叶えられる立場にいるからこその考え方なのかもしれない。
今回は力の特性もあってか残念な結果と見ることもできるのだが、結果としては俺がその部分を叶えたから成功、という事になっている。
もちろん睦月が全部を叶えてしまうのであれば、そこで試練は成立しなくなってしまうのだから、それでいいのかもしれないが……睦月こそこの試練をどう見ているのか、というのが俺としては気になるところだった。

「なかなか上手く言えないところなんだけど、スルーズがどれだけのことを叶えてあげたいって考えてるのか、とかこっちでもある程度把握してないと、身動きの取り様がないんだよね」
「ふむ……」

もっともな言い分ではある。
範囲がわからないから、ということでヤマを張ってもそれが外れてしまえばそれまでだし、その間に別のところで、なんてことだって十分あり得るのだ。

「今回に関しても、正直できることがほとんどないから受け身っていうか、いつでも動ける姿勢を取っておくくらいしかなくない?」
「未来視でもできる人がいればまた違うんだけどな」

とんでもなく呑気なことを言っている、というのは自分でもわかるし何でこんなことを、と思ったが睦月には少しだけ心当たりがあるのか、はっとした顔になった。

「未来……未来か。未来視とはちょっと違うんだけど、とりあえず一人だけ頼れそうなやつはいるね。簡単に頼れるかはわからないけど、相談してみる価値はあるかもしれない」
「本当か?」
「うん……けど、そいつのところへ行くのは私一人でいいや。大輝はちょっとこっちでお留守番しててくれる?」
「あ、なるほど……」

睦月の言葉にあいが何かを察した様な表情を見せる。
え、また俺仲間外れ?

「大輝にはこっちで出来ることがあるかもしれないから。私には私にしかできないこともあるしね。仲間外れとかじゃないよ?」
「あ、ああ……」

何とも浅ましいことを考えた上に、それを看破されるという恥ずかしい結末。
大体睦月が好んで俺を仲間外れにする、なんてことがあるわけがないのに。

「あ、でも……一つだけ先に大輝にはお願いしておきたいことがあるかも」
「おお?何でも言ってくれよ」

何となく頼りにされたのが嬉しくて、俺は思わず身を乗り出してしまう。
お荷物だなんて見方はしてないはずだが、それでも俺って役に立ってるのかな、なんてことをたまに考えてしまうこともあって、こうして頼られるのは非常に嬉しい。

「ソールに連絡取っといてくれる?もしかしたら力借りるかもしれないから。私が単独で行ってももしかしたら門前払いになるかもしれないし」
「母さんに?別にお前なら大丈夫なんじゃ……」
「ううん。万全にしておく必要があるから。不確定要素を抱えたままで動くのは危険だからね。私に協力してもらえる様に言ってくれたら助かる」

いつになく真剣な表情で、睦月は俺に頭を下げる。
慌ててやめさせたが、ここまで睦月が真剣なのはやはり並々ならぬ何かがあるのだろう、という推測が立った。

「わかった、連絡しとくよ。お前に協力する様言えばいいんだな?」
「うん、それで大体伝わると思うから。じゃ、早速行くけど……二階使わせてもらうね」

そう言って睦月は早速部屋にこもり、神界へ行く準備を始める。
あいが玲央のおやつを食べさせ終えて口元を拭いているのを見ると、この光景も守らなきゃ、なんてらしくないことを考えてしまった。

「さて、大輝は早くソールに連絡とって。私は夕飯のお買い物行くから。玲央のことお願いね」
「え?ああ……わかった」

俺はオタオタしてるだけなのに、女連中の強いことったら……。
正直普段通りにしてられてるのは凄いと思う。
こうしてる間にも他のメンバーに被害が、なんて考えてビビり気味になっている俺とは大違いだ。

「お前、顔は俺そっくりなのに中身はあいみたいに強い子なんだな。パパも頑張らないといけないよなぁ」

だぁだぁ言いながら這いずって俺の膝に乗っかる玲央を見て、俺は少しだけ勇気をもらった気がした。
あいの言う通り、俺には俺のできることがあるんだから、その役目を全うしなければ。
そんなわけでオーディン様からもらった端末を取り出して母へ連絡を取る。

『これからそっちにスルーズが向かうから、どうか協力してやってほしい』
『どういうことでしょうか?私に何の用事が?』

返信はええな。
しかしこの様子だと、協力にはあまり肯定的ではない感じがするのは気のせいか?

『俺も詳しいことは知らない。だけど、俺に関することで母さんにお願いしたいことがあるから、って言ってた。断ったりしないでよ?』
『そんなに長時間でなければ、別に構いませんが……今度また玲央と一緒に来てくれますか?』

そんなことでいいなら、と俺は返信を打って睦月の体が眠りについているであろう部屋の方向を見る。
母も玲央が可愛くて仕方ないらしく、人間界へ引っ越したい、なんて言っていたがあの人がこっちで暮らせるのか、と考えた時に少しばかりの不安を感じたりはする。
そうは言ってもあいがちゃんとやれてるんだから大丈夫だろう、と思わないこともないが、毎日会っていたら今みたいな愛情を注げなくなってしまうかもしれないし、今くらいの頻度が丁度いい。

しかしある程度問題が片付いたら、その時は息子として母への親孝行をする期間を作ってもいいな。
あいつらへの言い訳を考える必要があるが、玲央を引き合いに出せばあいつらも強くは言ってこないはずだ。

「その時は頼むぜ、息子よ」

そう言いながら抱き上げてやると、玲央は両手をぶんぶん振って笑う。
ああ、無邪気だ……。
丁度こんな風に可愛い盛りであろう時期に引き離された母のことを思い、俺は玲央とツーショットの自撮り写真を撮影して母の端末へと送信した。

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