やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第205話


「ただいま戻りました」

和歌さんが帰宅の挨拶をすると、疲れの浮かぶ顔で明日香の両親が出迎える。
こんな時なんだから、無理しなくてもいいのに、と考えるがやはり大人の意地の様なものがあるのだろうか。
せめて少しでも疲れを、心労を和らげてあげられたら……そう考えてこれから使うかもしれない、と考えていた力を少しだけ明日香の両親と和歌さんに用いる。

せめて俺たちがここは引き受けて、その間だけでも休んでもらおう。

「大輝、早速で悪いけど……」
「わかってる。何があるかわからんから、二人は離れててくれよ」

マリーアに心の中で呼びかけるとマリーアは本の形から光の玉の様な形に変化し、明日香の体を包んでいった。
そして……。

『主、これは魔力の様です』
「……やっぱりか」

何となく、そうなんじゃないかという予感はしていた。
根拠としては、以前に感じたことがある様な気がしたというもの。
いつだったか……。

割と最近も何度か感じたことがあった気がするのに、どうしても思い出せない。

「大輝、どう?」
「うん……マリーア曰く魔力だそうだ。ある程度、ここまでは想像通りなんだが……」
「明日香ちゃんを救う方法は、見つかりそう?」
「原因探るより、やっぱそっち優先する方がいいよな」

桜子のセリフから、俺は原因や出処を探ることを後回しにすることにした。
兎にも角にも明日香がまず無事に救出されなければ意味がない。
それが上手く行かない様であれば、別の方法を探ればいいのだ。

「マリーア、明日香の意識に入り込めるか?」
『私だけでは不可能です。仮に入れたとしても、主の意志と力が必要になります』
「ってことは、俺も入らないとダメってことか」

女の子の夢の中に入る、というのはどうにも憚られる部分が多い。
仮にエロい夢でも見てたとしようか。
あとで目が覚めた時に、俺がそこに入ってました、なんてことが知れたらどうなると思う?

そう考えるとちょっと、怖すぎて足が震えてきそうだ。

「大輝にしか、現状出来ないみたいだから何とかしてみてほしいんだけどな。後で明日香には私からちゃんとフォロー入れとくよ」
「……その言葉、信用していいんだろうな」

疑っているわけではもちろんないが、どうもこいつは俺の想像の裏を行ってくれる場合が多いから不安になってくる。

「時間ないかもしれないんだよ、大輝くん。後で仮にボコボコにされても、それは明日香ちゃんが元気になった証じゃん」
「お前な、他人事だからって……」

だが桜子の言う通り、時間がどれだけあるかもわからない現状で迷っている余裕などない。
だが、意識に入り込むって……体ごと入るのか?

『主の意識を潜り込ませるので、体はここに置き去りになりますね。ただ、意識なのでほとんど何でもできると思ってもらって大丈夫かと』
「それは、こっちでの人間とか神っていう枠組みから外れるってことか?」
『そうなります。明日香嬢もおそらく、似た状態になっていると考えられますが』

何か今、物騒なことを言われた気がする。
つまり、俺が部外者として明日香の意識に入り込むってことは……明日香の力で駆逐されたりする可能性も考えられる。
何しろ明日香の意識の中ということは、その中では明日香は神であることに等しいのだから。

「……考えてても仕方ないな、行くか」
「頼んだよ、大輝」

二人に見送られ、俺は再びマリーアに呼びかける。
すると、俺の体から何か引きはがされる様な感覚と共に視界が真っ暗になっていった。


「主……主、起きてください」
「ん……」

呼ばれて目を開けると、俺の目の前には知らない外国人の、金髪の女性が立っていた。
誰だ、この人。

「えっと……」
「さっきお名前をつけてくださったばかりなのに、もうお忘れですか?」
「……マリーア?」
「はい。生前の姿がここでは顕現する様ですね」

さっき見た記憶では確かに本人像はなかったが……まさか美女だったとは。
いや、そんなことに感心してる場合じゃないんだった。

「そっか、だから俺も女神の姿なわけね」
「主の真の姿、というものですからね。つまりここでは力も存分に発揮できるということになるんでしょうか」

どうだろう、前に母が言っていたが、太陽が俺や母の力の源。
つまり明日香が味方でいてくれて、かつ太陽をイメージしてくれたりしてくれていれば、という条件つきにはなると思う。
なので敵に回っていたりする場合などは、俺はやや分が悪いかもしれない。

「しかし暗いな……」
「ですね、明日香嬢がどこにいるかの見当もつかない」

一面真っ暗な空間。
真の闇とでも言うべきか、これが明日香の心を表しているのだとしたら、俺たちはもう少し明日香のことに気を付けていなければならなかったのだ、と後悔した。

「とりあえず、この状態じゃ何処行けばいいかわからんし、手あたり次第って話になりそうだ。進もう」

ふわふわとした空間、と表現するのがわかりやすいだろうか。
足元も空気も、何だかふわっとした感じがして地に足がついていない様な漠然とした不安。
この空間の何処かで、もしかしたら明日香が助けを求めているかもしれない。

そんなことを考えながら時間にしておよそ五分ほど進んだ時だった。

「主、見てください」
「……何だ、あれ」

唐突に視界が拓けて、そこに広がっていた光景に俺は言葉を失う。
どうたとえればいいのかわからないが、とにかく明るくなった場所で明日香を発見することは出来た。
しかし、俺の知る明日香とはちょっと違う様な……。

「あっはははははは!!もっとよ!!もっときなさいよ!!」

高らかに笑いながら、明日香がそこでひたすら暴れまわっている。
時には高層ビルを生身の蹴り一発で崩壊させ、飛来する恐竜の様な生物を素手で両断し、襲い来る人間を裏拳一発で纏めて薙ぎ払う。
手からビームを出して口から毒ガスをまき散らし、足で地面を踏みつけると衝撃で無限に襲い来る敵が爆発していった。

見た目は明日香なのに、やってることとあの笑い方はもう、俺たちの知る明日香ではない。

「主……何をビビってるんですか」
「いや、怖いだろ普通に。正直どうしたらいいのかわからん」

あの明日香を直接打倒するなりすれば解決するのであれば、と考えるもやっぱり殴るのはちょっと、と思う。
そうなると、ああなった原因……操ってる人物がいたりするんだろうか。

「主、ここはもう迷っている場合ではないですよ」
「いや、だけど……」
「殴っても蹴っても……最悪消滅させても明日香嬢の体には影響しません」
「いや、精神には影響するかもしれないだろ」

そう言いながら注意深く明日香を観察していると、一つ不自然な点に気付いた。
襲い来る明日香の敵の中で、明日香の攻撃を受けても倒れないどころか、傷一つ負っていないやつがいる。
どういうことだ……?

「さぁ、まだまだこれからよ!それとも、そろそろ私に倒される覚悟が出来たってことかしら?」

多少の息切れをしながらも、明日香はその倒れない敵を挑発する。
すると、その倒れない敵が……顔が全く見えないのに何故か口元を歪めた様な気がして、その直後にまた無数の様々な敵が湧いてくる。

「どうも、あれが元凶っぽいな」
「ですね。ただ……見ている限り明日香嬢は息切れしているだけで、傷一つ負っていないみたいですが」

ますます意味不明な感じになってきた。
これって、もしかして明日香のストレス発散だったりするのか?

「づおおおおおあああああああ!!!」

なんて考えていたら、何と明日香の背中から神界で見た睦月……スルーズの羽に酷似したものが生えてきて、その羽が敵を一瞬で薙ぎ払い、消滅させた。
顔つきも、先ほどまでより凶悪な感じに変化しつつある様に見える。
これはもしかしたら、よくない兆候かもしれない。

巻き添えでぶっ飛ばされる覚悟を決め、俺はマリーアを下がらせて前に出ることにした。

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