やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第199話


準備や何やかんやあって迎えた文化祭当日。
睦月がロヴンさんを迎えに行き、あいは玲央が冷えたりしない様に、って服を着替えさせたりして、俺は朝食を取っている。
正直今回の作戦は上手く行くだろうか、という思いと上手く行ったとして、被害をどれだけ抑えられるか、という不安がやや大きい。

「大輝、朋美さん迎えにいかないの?」
「ん?あー、そういやそうだったな。これ食ったら行ってくるわ」

土日開催ということもあって、朋美も是非きたい、という申し出があったのでなら迎えに行くわ、という約束をしたのは一週間くらい前だった。
本番に弱い、ということはないはずだが、何しろ明日香のクラスが丸ごと巻き込まれるかもしれない、というのはやはり気がかりだ。


「何だか元気なくない?」
「そう見えるか?まぁ、否定はしない。というか、ウキウキ気分ではいられない、ってだけなんだけどな」

朋美にも会うなりそんなことを言われる辺り、極まってるなと思う。
もちろん明日香だって何も考えてないわけじゃないだろうし、いざとなれば力を使うことも考えてはいるわけだが……例によって俺は学校で力を使っちゃうのはちょっと、なんて甘いと思われそうなことを考えているのだ。

「明日香だって、色々考えてはいると思うけどね。でも、もしかしたら明日香は……」
「ん?」
「何でもない。さ、早く連れてってよ」
「何だよ、途中でやめるとか気になるだろうが……」
「いいの!ほら早く!」

女王様ですか、とでも言いたくなる様な理不尽さ。
まぁ悪いことを考えているわけではないだろうから、全部終わったら言ってくれるかもしれないし。
そんな風に考えて、急かしてくる朋美を連れて俺は一旦あいの家にワープする。

「朋美さん、おはよう」
「おはよう、あいちゃん。玲央は今日もご機嫌ね」

玲央を抱き上げて朋美はご満悦の様子だ。
玲央も俺と同じく女にはやたらと懐く……というと語弊があるけど泣いたりすることはほとんどない。
たまに愛美さんが酒臭かったりすると、嫌がるというのは見たことがあるかもしれないが。

「よーう、そろそろ出るのか?」
「おはようございます、愛美さん。それに和歌さんも」
「おはよう、そこで会ったもんでな。お嬢は先に行っているみたいだが」
「桜子も付き合って先に行ってるみたいです。睦月ももうすぐ戻ってくるかな」
「もういるよ」

予期せず背後から聞こえた声に、少しだけ心臓が跳ねるのを感じたがいつも通りの声音の睦月に、その傍らにはロヴンさん。
楽しみだ、という感情が顔から滲み出ていて少し怖い。

「前にも言ったけど、あんまり味には期待しないこと。あくまで子どもが作ったもんだってことを忘れるなよ、ロヴン。ああいうのは味より雰囲気を楽しむものだから」
「わかっている。それよりもお前の妹というのは……」
「そろそろ来るんじゃない?大輝、何か聞いてる?」
「え、俺?いや何も……」

そう言った瞬間、玄関のチャイムが鳴らされる。
どいつもこいつもタイミングいいな、本当。

「おはよう、お兄ちゃん。今日お祭りなんでしょ?美味しいものある?」
「……イヴ、お前もか」

お祭りイコール美味しいもの、みたいな風潮は何処の世界でも当たり前の認識だったりするのか?
祭りなんて数えるくらいしか行ったことない俺としては、リンゴ飴がおいしかったな、くらいの思い出しかないんだが。
まぁ予算はそれなり出ている様だし、そこそこの食材が使えるみたいだ、というのは聞いているし、不味いということはないだろう。

「じゃ、揃ったことだし行こうか。明日香が暴走するなんてことはないだろうけど、一応見守っておかないとだし」
「そうだな、うん……まぁ大丈夫だろ」

大所帯でもあることから車での移動は断念し、俺たちはゾロゾロと連れ立って学校までの道を歩く。
夏休みは私服だったからそこまで気にならなかったが、今日は俺だけ学生服なんだよな。

「大輝、玲央でもたこ焼き食べさせて大丈夫だと思う?」
「歯、少し生えてるんだっけ?でもどうだろうな……クレープとかにしとくのが無難じゃないか?」

タコ、結構固そうだからな。
噛み切れなくて窒息、とか目も当てられないことになったら困る。

学校に到着すると、お祭りムード満点でロヴンさんのボルテージも上がってきた様だ。
睦月から千円だけ渡され、これで好きなもの買ってこいよ、なんて言われて喜んでいる様だったが、さすがにそれは少なすぎやしないか?

「さすがに足りなくない?ロヴンさん、相当食べるんでしょ?」
「朋美、甘やかしと優しさはイコールじゃないんだよ」
「ちょっと可哀想だよ……お金足りません、とか言われて凹んでる神様とか見たくないかも」
「……それもそうだね。神界の威信にかかわるかもしれないから、仕方ない。これだけあれば学校中のもん食ってもおつりくるから」

そう言って睦月は財布から諭吉さんを十枚くらい取り出す。
本当、やることが極端だなこいつ。
ていうか普段からそんな持ち歩いてんのかよ。

「誰かついて行かなくて大丈夫か?何ならあたしついてってやろうか?」
「いいのか?不慣れな場所でもあるから、ついてきてくれるなら助かる」
「まぁあたしもここの卒業生とかじゃないし、ほとんどわかんないけど……」
「とは言っても私と大輝はさすがに明日香のとこからそうそう離れられないからね」
「じゃあ私も行くよ。玲央には色々見せてあげたいし。いいでしょ?」
「まぁ、あいがそうしてくれるんだったら、助かるけど……お前も学校なんて来たことないだろ?」
「大丈夫、ロヴンが好きそうなものを見つけて連れて行けばいいんでしょ?」

そう言ってあいと愛美さん、ロヴンは一緒に校舎に入っていく。
まぁあいと愛美さんがいるなら、とりあえずお金の使い方も大丈夫だろう。

「大輝、私はお嬢が心配なんだが……」
「ああ、でしたね。みんなも一緒に来るのか?朋美も何か食べたいなら……」
「私、そんなに食いしん坊キャラに見えるの?」
「いや、そういう意味じゃないけど」
「朋美は大輝と一緒がいいんでしょ?察してあげなよ、大輝」
「悪かったよ。まぁ腹減ったら言えよな。その時はちゃんと食わせてやるから」

わかってない、とかむくれながら朋美は俺たちと一緒に明日香のいる教室へと向かう。
もうすぐオープンの時間なんだっけか、たこ焼き屋。
急いだ方がいい気がしなくもないが、万一休憩室がオープンしたとしても予防策はある。

「ま、雰囲気を楽しみながら行けばいいとは思うけど……明日香のことだからあのゲスに何かしちゃわないか、心配だよね」
「それな。ああいうこと考えるやつはお仕置きしてもいいと思うけど、それで明日香の今後に影響が出ちゃうんだったら、俺が代わってやる」
「言うなぁ、大輝。お嬢もそれだけ大事にされていれば冥利に尽きるというものだな」

と、そんなことを言っている間に俺たちのクラスのある階に到着する。
俺がゾロゾロと女を連れて歩いているからか、既にかなりの注目を集めてしまっているがそんなのはもう気にしないことにした。

「あー……既に騒ぎになってるっぽいね」
「やっぱりか。明日香は何処だ?桜子の姿も見えないけど」
「ちょっと待ってね、探ってみる」

そう言って睦月が二人の気配を探る。
和歌さんはその間にきょろきょろと周りを見て、明日香を探しながら食べ物も探している様だった。

「桜子は自分のクラスに戻ってるね。明日香は……ちょっと行ってくる」
「え?お、おい」

止める間もなく睦月がその場から姿を消し、俺たちは取り残される。
おそらく教室なのだろう、ということで俺たちも明日香の教室へと向かうことにした。

「お兄ちゃん、悪いやつやっつけるの?」
「あー……まぁ、結果的にはそうなるかもな」
「そうなんだ?じゃあ私もやりたい!」
「……は?いやいや、頼むからお前、大人しくしててくれよ」

こんなとこで魔王が暴れるとか、シャレにならない。
いざとなったら止めないといけないのは明日香じゃなくてイヴとか神界の面々なのではないだろうか、なんて物騒なことを考えながら、俺たちは明日香の教室へと入っていった。

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