やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第197話


「何だか宮本さんのクラスで、不穏が動きがあるっぽいですよ」
「は?」

あの餃子パーティの翌日。
明日香と桜子、睦月と言ったお馴染みメンバーで飯でも、ということで屋上にやってきたところで明日香から発せられた言葉に、二つの意味でびっくりさせられた。
一つは明日香の言葉遣い。

もちろんこれは橘さんが憑依してるから、というのが理由なのですぐに納得できたのだが、もう一つの理由。
この進学校で不穏な動きって、一体どういうことなのか、というところだ。

「ああ、何かありそうだよね。この進学校で何で、って思うけど」
「え?何?どういうこと?」
「私も知りたい。というかどう不穏なのか気になるし」

睦月も何か感じている様だが、俺と桜子には何もわからないままだ。
俺、もしかして平和ボケしすぎてる?

「たこ焼き屋やるって言ってたんですけど……どうも、うちのクラスの落ちこぼれどもがよからぬことを画策してるらしくて」
「うちのって、お前のじゃなくて明日香のだろ。それに落ちこぼれって……」
「休憩室みたいなのを作ろう、みたいな話が先生とか抜きで進んでるみたいなんですよ」
「休憩室……?」

そう聞いて思いつくのは、もちろんラブいホテルとかの有名なヤンデレを生んだ名作アニメ。
学校で、となるとやっぱり後者の方が濃厚なんだろうか。
つっても割とうちの高校厳しいし、先生も見回りなんかをするだろうし……そう上手く行くものなんだろうか。

やっぱり俺の頭が平和なだけで、実はそういう悪いことを考えるやつが一定数いるってことなのだろうか。

「まぁ、大体大輝の想像してる通りのことだと思うけどね。大方監視カメラとかつけて、ってしたいんだろうと思うけど」
「マジかよ。入場にも金取るんだろ?」
「ねね、休憩室って何?何でダメなの?」
「…………」

桜子、お前マジで言ってるのか……と思うがこの顔はマジだ。
あの弟妹の方が何となく現実わかってそうな気がして、少し不憫に思えてきた。

「まぁ……何だ、そのうち一緒に行こうな、休憩できるとこ」
「え?……ああ!」
「漸くわかったんですね。まぁそういうことです。学校で、ってのはさすがにどうかと思うんですけどね、私も」
「別に何しようが構わないけど。……私たちを巻き込まないでくれたら、の話に限定されるけどね。どの生徒が主導してるか、とかそういうのはわかりそう?」
「見た目がアレなので、見たら一発かと。宮本さんが一人で制圧しようとしてたので、ちょっとこうしてお体借りた次第でして」

正義感が強いのか、ゲスが嫌いなのか……どちらにしても明日香はちょっと無茶しそうなのが目に見えてわかるだけに、少し心配ではある。
なので事前に知らせてくれた橘さんには感謝しなければならない。

「ていうかさ、昨日は誰のとこにいたんだ?まさかとは思うけど……」
「長崎まで行ってました。最近皆さんのおかげでそこそこ充電できてますので」
「葵ちゃんずるいよ!」
「…………」

言うと思ったが、まぁ桜子の言った通りの目的なんだろうなと思う。
胸のでかい女の心境だとか、そういうのを経験しておきたい、と。
やや男寄りな発想な気がしないでもないが、橘さんの生前の姿を知ってると妙に納得できてしまう。

「桜子……お前はそのままでいいんだぞ。急激に胸がでかくなったら、それこそ違和感しかないだろ」
「ぐぬ……」

そんな歯茎から血が出そうなほどに食いしばらなくても……そこまでくやしいものなのか?
どの道首謀者がすぐわかる、ということなら水面下で動く程度のことはしてもいい気がする。
しかし今日はバイトして、そのあと施設に寄っておかないと。

睦月たちの活躍によって、俺の暮らしている……とは言っても最近足は遠のいているが一応の住所でもある場所であるところの施設に、あの兄妹は預けられている。
さすがにバイトが終わってからでは寝てしまっているだろうが、様子見てあげるだけでも違うから、とあんなにも熱心に言われては俺も断るという選択肢を持たなかった。
なので今日から動き出すであろう睦月たちに、今日の時点でその辺は任せてしまってもいいだろうと思う。


「さて久しぶりにただいまっと」
「おー大輝兄帰ってきたぞ、大地に澪」
「大輝……兄?」

久しぶりに足を踏み入れた施設で俺が目にしたのは、幼女と戯れて鼻の下を伸ばし、俺を大輝兄なんて気持ち悪い呼び方をする幼馴染の姿だった。

「良平お前……」
「あ?勘違いすんな、さすがに小学生は範囲外で……」
「そうなの?良平兄ちゃん……」
「あ、いや……」

この通りすっかりと良平に懐いたらしい高村の子ども二人は、あれからこの施設で楽しい日々を送っている様だ。
最近こういうのは俺の役回り、とか思っていたけど、たまにはこうして第三者視点で見てみるとなかなか面白いものだと思う。

「いいじゃんか、ちゃーんと責任とって嫁にもらえよ、良平。俺は風呂入って飯食うかな」
「あ、お前大輝!久しぶりに帰ってきたと思ったらそれかよ。つれないこと言うなって!」
「大輝兄お嫁さんいっぱいいるもんね。だから私良平兄ちゃんがいい」
「…………」

大地もやや複雑そうな顔で妹を見ているが、良平なら文句はない、と考えているんだろうか。
そうだと思いたい。
ていうか小学校低学年の子どもをこんな時間まで起こしとくなよ、良平。
紫の上計画でも何でもやったらいいけど、節度は弁えろよ。


そして翌日。
早速睦月たちが動いた成果があったとのことだが、厳密にはまだ何もしてないに等しいという。
だが、間違いなく文化祭当日に退学者もしくは停学になる者が出るのではないか、という内容のメッセージが明日香から届き、ほどほどにしろよ、なんて考える。

ロヴンさんだってあれだけ楽しみにしていたし、あんまり物騒なことは……ねぇ?

「大輝、今日は何もないよね?」
「ああ、ないけど」

学校に着くなり睦月に呼び止められ……って言っても隣の席陣取ってるんだから別にそんな慌てなくても、と思うわけだが。

「何かあるのか?ああ、そういや高村の子どもたちの様子、見てきたぞ。良平にべったりだった」
「大輝のバイト終わった時間でまだ起きてたってこと?小学生なのにねぇ」
「そうなんだよ。まぁ澪の方は将来良平の嫁になる、とか言ってたし、いいんじゃないか?」
「さすがに今から手出したら犯罪だと思うんだけど」
「一応の常識くらいは持ってるだろ、あいつだって」
「そっか、まぁ元気そうにしてるならいいんだ。こっちのことについて、ちょっと話しておきたかったから。放課後明けといてくれると嬉しいかな」
「……?おう、わかった」

わざわざこんな風に言わんでも、俺に予定がないとわかればこいつは問答無用で拉致ったりすると思っていただけに、ちょっと不思議な感じがする。
まぁ俺も橘さんから話を持ち掛けられている一人ではあるので、ここで何もしないのも、みたいに考えたのは確かだし、情報交換はしておいて損はないよな。

「あれ……雨降りそうだな。来るとき割と快晴だったのに」
「そうだね。傘、持ってきた?」
「……いや、折り畳みとか持ち歩く概念すらない」
「じゃあ降ったら入れてあげるから。あ、傘を入れるんじゃなくて傘に入れるんだからね?」
「……いちいち言わんでいい。朝から何言ってるんだお前は」

朝イチからぶっ飛ばしてるな、と思いながらも濡れるのはやだな、なんて思っていたし、そうなったらありがたくご相伴に与ろうか。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品