やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第164話


大輝は今頃青い顔をして朋美を迎えているに違いない。
私はと言えば、朋美を迎えに行って無責任にもマンションで明日香や桜子と女子会に精を出している。
何でこんなことをしているのかと言えば、理由は至ってシンプル。

今回まだ大輝は気づいていない様だが既に試練は発動している。
そして先日満場一致で朋美は嫉妬だ、と言う意見があったが、本当に朋美は嫉妬だったっぽい。
試練はその特性故に、回を追うごとに激化していくというから、今回はこの二人を避難させた。

だって、相手はあの朋美だし。
多分大輝はおバカちゃんだから西乃森さんが媒介になってるとか思ってるんだろうけど、今回は間違いなく朋美だ。
見ててわかんないのかな、って思うが西乃森さんは、ハーレムのことを知って、いいなぁみたいなのはあっても妬んだりしてる様子ではない。

多分彼女の特殊な生育環境に起因しているんだと思うが、彼女は多分恋愛って何なんだろう、ってレベルなんだと思う。
大輝のことも漠然と好きでいるんだと思うし、仮に思いが遂げられなかったとしてもおそらく粘着したりとかそういうことにはならない。
そう、彼女は自分の抱えた感情に答えを出したい、というちょっと変わった感じなだけで、心から大輝と付き合いたいとかそういうレベルに至ってない。

だから矢口くんを引き合いに出したりして、大輝の反応を伺っていたわけだ。
とは言ってもあの朴念仁代表とも言える大輝に、人並みの反応を期待しているんだとしたら西乃森さんの見立ては甘いと言わざるを得ないし、大体において大輝には多分きちんと正面切って伝えなければ気持ちの類は一切伝わらないはずだ。
あの子の脳みそは変わった作りにでもなっているのか、訳のわからない妄想から斜め上の方向に進んでいくし、それこそあの子の読みが的を射ていることの方が珍しいと言っていい。

「でも、相手はあの朋美なのよね」
「まぁ……朋美だっていきなり暴力振るったりはしないと思うよ、多分……」
「多分、ね……。仮に大輝くんが殴られる分にはいつものことだからいいとして、西乃森さんが殴られる可能性もあるんじゃない?だって、朋美はああいうやり方嫌いそうな気がするから」

二人の考察は大体合ってると思う。
そして今覗き見た感じだと、朋美は普通に西乃森さんにビンタを食らわせている。
大事に至ってはいない様だが、あのままほっといたら死人が出たりしないだろうか、なんてちょっとした不安に駆られた。

もちろん大輝もあいもいる状況下でそんなことにはならないだろうが、今日の朋美は普段よりも感情的になっていると言える。
朋美が最近大人しかったのは、夏休みという長い期間を大輝と共に過ごせたということが一番大きいだろう。
次に挙げられるのは、朋美自身がそれによって安定していた、ということ。

つまり二学期が始まって彼女はまた長崎の高校に通うことになるわけだが、それはそれで面倒なことがあったりするんだと思う。
例えば容姿が優れているが故の告白とか。
当然のごとく全部断ってきているみたいだが、朋美からしたらその辺の雑事が煩わしいというのは変わらないのだろう。

そして近くにいられる私たちを羨む気持ちも当然湧いてくる。
人間として当たり前の感情だと思うし、それを問題視しているわけではない。
きっと明日香や桜子だって、朋美と同じ状況になれば似た様なことになっていたんだろうと思うから。

つまりは現状への不満が今回の試練の発端になっていると考えてもいいかもしれない。
けど原因がわかったからって、その対処法までがわかったわけではないという厄介な事態。
朋美が満足すれば試練が無事に終わるのか、はたまた全く別の何かが必要なのか。

いずれにしても頭の固い大輝には荷が重い気がする。
朋美の試練だけど、案外朋美が助けてくれたりなんてことは……どうだろう。
今回に関しては展開が全く読めない。

それに西乃森さんの家庭環境の話とかしてるみたいだけど、それを聞いて大輝がどう動くのか。
これに関しても現状予測がつかないという。

「ひとまず、大輝と西乃森さんが付き合う、みたいな話からは逸れたみたいだね」
「そうなんだ……というか大輝くんも別に付き合おうとは思ってなかったんでしょ?」
「私にもそう見えたわね。何て言うか、あの二人は相性の面で言ったらそんなに良くない気がするわ」

人間の見方ではそう映るのか。
私からしたら、正直あの二人はいつ最高の相性になってもおかしくないポテンシャルを持っていると言ってもいい気がするけど。
好きの裏返しが嫌いである様に、最高の裏返しが最悪、ということはよくある。

現状最悪に見える二人の相性が、何を原因として最高になっても現状おかしいことは一つもない。
私が恐れるのはそこだ。
あれだけ歪んでいる、他力本願な人間がハーレム加入を果たすことで関係が破綻することだって考えられるのだ。

今や死なない体になった大輝に何が起こるかわからないし、運命が変わったのだとしたら……たとえば他のメンバーに危機が、ということだって十分にあり得る。
そう考えると今西乃森さんを加入させる様な事態は出来るだけ避けておきたい。

「よう、大輝のやつどうよ?」
「さっき会った西乃森という子のことは上手く行きそうなのか?」

愛美さんと和歌さんが二人揃ってマンションに帰ってきた。
何となくだが珍しい光景な気がする。

「んー……まぁ、ひとまずの危機は去った……かなぁ」
「ひとまず、か。何かうちの組で出来ることがあれば協力はするが」
「どうだろ、展開が全く読めないからね。ていうか明日香に断りなくそんなこと言って大丈夫なの?」
「私は組の運営にはまだ関わってないから、今は望月に任せているの。だから望月の合図一つで組員は動ける体制を取ってるはずよ」

大輝が聞いたら震えあがりそうな内容の話だが、人海戦術を取ることができる、ということなら利用しない手はないだろう。
とは言っても使いどころを間違えたら警察沙汰になってもおかしくないわけだが。

「あたしも明日は休みだからさ、覗き見しに行きたいんだよな。ダメ?」
「愛美さんのそういうところ好きだよ。まぁ、覗き見をするのは予定にあるから、是非見てもらおうかな。とは言っても明日、大輝はデートについて行くわけじゃないみたいだけどね」
「そうなのか……今日有給でも取っとくんだった」

面白いことには首を突っ込まずにいられない愛美さんが今日の大輝を見たら、腹を抱えて笑っていたに違いない。
和歌さんもなかなかノリノリで現れてくれたし、本当にいい仕事をしてくれる。
少なくとも西乃森さんの心を折ると言う意味ではなかなかのダメージになったことだろう。

そこに愛美さんみたいなエロい大人が乱入したらもう、どうなるのか想像もできない。
私も腹を抱えて笑っていたかもしれないな。

「じゃあ和歌さんの力も借りる場合を想定して……というか状況作っちゃうか」
「っていうと?」
「矢口くんと西乃森さんが接触して少ししたら、組員が絡む様にするとか」
「それだと大輝くんは気づいちゃわないかしら。あの正義マンの大輝くんのことだから、私の組の人間であることを話してしまいそうな気がするのだけど」
「大輝でも構わないから、邪魔する様なら殴れ、って言っとくか?もっとも大輝兄さんを殴るんですか!とか組員は躊躇しそうではあるが」

うーん……どうだろ、案外テンパって大輝は気づかないんじゃないかな。
それに殴り合いとかになったら組員が怪我させられたりしそうで、それはそれで怖い様な。
もちろんちょっとした怪我くらいなら私でも治せるけど。

「大輝とあいにだけ予め事情を話しちゃうのは?朋美にだけ黙っとくの。それが一番面白そうな気がする」
「面白そうって……でもそれが一番被害は少なそうね」
「ホモの組員の人いないの?矢口くんをそのホモの組員に襲わせて……」
「却下。とんでもないトラウマになっちゃうでしょうが。桜子の言いたいことは何となくわかるけど、案外リアルで見たら引くと思うわよ」

桜子は趣味百パーセントで行きたいらしい。
とんでもないトラウマ……それでそっちに矢口くんが目覚めたらそれはそれで結果オーライな気がしなくもない。
少なくとも西乃森さんにとっては、という話ではあるが。

ただ、問題は矢口くんの件が片付いたとして、西乃森さんをどうするか、という話になる。
愛美さんだけは西乃森さんに会ってないから、愛美さんにも見てもらうとは言っても……一人だけ賛成しそうなんだよなこの人。
面白そうじゃん、とか言って。

面白いところから派生してハーレム崩壊とかそういうのはちょっと……。
それに今回のメインテーマは朋美を軸にした試練の解決だから、西乃森さんのことはあくまでおまけなんだよね。
それを理解しているメンバーが果たしてどれだけいるのか、ということが重要ではある。

「まぁ、今回は大輝くんと朋美が主軸なんだから、その点を間違えなければ面白かろうと趣味に走ろうと構わないと思うわ。ちょっとしたスパイスを加える程度なら問題ないんじゃないかしら」
「なるほど、確かにそうだな。明日香は聡明だな、ほんと。じゃあ大輝には連絡入れて、くれぐれも朋美にだけはバレない様に、ってことで」
「そうだね、朋美がキレる程度なら……まぁ、死人は出ないでしょ」

自分で言った最後の一言に一抹の不安を感じつつも、私は大輝に連絡を入れる。
これで朋美の試練が無事決着できる様であれば、また大輝は成長できるということになるのだ。
まぁ、既に女の残酷さを垣間見たかもしれないが……もう少し色々大輝には知ってもらうことが必要だと思うし、今回はあくまで私は手を出さないでおこう。

「何か面白そうな話してた?」
「あ、お前……」
「イヴ……」

何ともまた絶妙なタイミングで現れる妹。
我が妹ながら、こいつはこいつで読めない要素だ。
ちょっと面白そうだからイヴにも何かやってもらおうか。

そんなことを考え、夜は更けていった。

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