やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第159話


「えっと……もしかしてこの人も?」
「…………」

何だか答えるのもバカバカしくなってくる。
これら全てが睦月の手引きによるものではないのか、と勘繰りたくなってくる。

「ていうか宇堂くん、子どもいたの?」
「……はい。話すと長いんだけど……」
「うん、長くていいからその辺詳しく聞かせてもらっていい?拒否権なんか当然ないんだけど」
「…………」
「あれ、何かまずいときに来ちゃったかな、私。昨日言ってた人だよね?私、地ノ神あいです。奥さんじゃないんだけど……でもこの子は大輝の子どもで玲央って言うの。可愛いでしょ」

少し黙ってくれませんかね、あいさんや。
後で沢山構ってあげるから。
何なら玲央のお風呂とかも俺がやるから!

「宇堂くんそっくりだね、この子。疑い様ないかも」
「……そうですか」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいな。じゃ、お邪魔しても何だし私はこの辺で」

絶対に学校の人間にだけは知られてはいけない、そんな秘密が一瞬でバレる。
そしてそんな嵐を巻き起こした張本人は買い物買い物、とか口ずさみながら駅ビルの中に消えて行った。

「……じゃ、詳しく聞かせてもらうかな」

そう言った西乃森さんの目からハイライトが消えている様に見えるのは、きっと気のせいだ。


「へぇ……押しかけ女房ね」
「あ、ああ」

西乃森さんに連行されたカフェにて、俺がすんげぇ嘘ついてるって自覚はある。
だけど神だの何だの正直に言って誰が信用する?
というわけで、俺は咄嗟に思いついたことを口にした。

結果嘘も嘘、大嘘という俺の超絶苦手分野に手を出す羽目になった。

「で、その押しかけ女房さんはいつから一緒に?」
「えっと、夏休み……あっ」
「…………」

早速やらかしてしまった。
だから嫌だったんだよ。
よりによってあいと玲央はまずいだろ。

どう考えてもバレたら俺の人生詰むコースじゃないか……。

「不思議な雰囲気持ってる人だったね。椎名さんみたいに」
「…………」

なかなかどうして鋭くて困っちゃう。
だって元々あいつら同類だもんよ。
そりゃ似た雰囲気持ってたって不思議はないだろうな。

「で、夏休みに知り合って?どうやって子どもが生まれたの?首も据わってる様だったけど」
「…………」

どうしよう、もう誤魔化せる気がしない。
何をどう言い繕っても、嘘にしか聞こえないんじゃないかと思う。

「え、えっと……そう、俺と知り合った時にはもうあいつ、身ごもっててさ」
「はいダウト」
「……ですよね」
「あれだけそっくりな子どもが宇堂くんのじゃないとか、ありえないでしょ。っていうかさっきのあいさん?に同じこと言えるの?」
「……ごめんなさい、黙っててもらうってわけには……」

どんどん立場が悪くなっていく。
しかし何でだろうか、ここへきて西乃森さんはやたらと生き生きしている様に見えた。

「いいよ?別に黙ってろって言われたら一生でも墓の下までも持ってってあげる。もちろんタダってわけにはいかないけど」
「よし、ジュース奢りだな?任せろ」
「…………」
「…………」

誤魔化せるかな、とか思って立ち上がったところで無言の圧力。
これだから女ってやつは……。
仕方なく俺は座り直して、西乃森さんから目を逸らす。

「私の目、見れないの?」
「いえ……」
「疚しいから見れないんだよね?」
「……はい」

くそ……何でこんなことに……。

「要求は簡単。みんなと同じことを私にしてくれたらそれでいいよ」
「は?」

真っ赤な顔して何言ってんだこいつ。
暑すぎて頭どうかしちゃったの?
まぁ残暑厳しいからなぁ……。

意味わかって言ってんだろうか。
ていうか矢口とやらはどうするの?

「二度言わせるの?」
「いや……待って、それはさすがに……」
「拒否権があると思ってる?」
「いや……けどさ……」

どう答えるのが正解なんだ?
ここでわかったよ、今夜は寝かせないぜ!とか言っちゃうのが正解か?
それともバラされてもいいからそれだけは無理、とか言っとく?

さすがに無理、とか言うと角が立つか。
ていうか明日本番って言ってんのに、何で俺がそこまでレクチャーしてやらにゃならんのだ。
そう思って再び西乃森さんから視線を外した時、カフェの外に見てはいけないものを見かけてしまった。

思わず固まってしまい、危うくコーヒーを吹き出すところだった。

「……今度は何?どうかしたの?」
「あ、いや……」

窓の外で俺の視線に気づいてひらひらと手を振ってくる人影。
……そう、普段ならこんなところにいるはずのない鬼神、朋美。
誰だよあいつ呼んだの。

絶対呼んじゃダメなやつだろ、常識的に考えて。
そしてその件の朋美はにこやかに笑って店内に向かって歩いてくる。
ちくしょう、ああやって笑ってれば普通に可愛いのに……死んだな、俺。

「あれ、大輝……新学期始まってもモテモテなのは変わらないんだ?」
「よ、よう朋美……ごきげんよう」
「……なるほどね」

今度は何も言うことなく納得されてしまった。
一瞬で俺と朋美の立ち位置までも把握された気がする。

「あの、違うんだよ朋美。これはな、こちらにおわすお方の明日のデートの予行演習ってやつで」
「へぇ。あ、私桜井朋美って言います。中学からの付き合いの大輝の彼女でして」
「そうですか、私は西乃森美悠って言います。宇堂くんとは同じクラスで……」

何だろうか、両者の間に火花が散っている様な。
気のせいだよな、きっと。
うん、気のせいに違いない。

だって俺別にモテモテじゃないもん。
朋美の妄言にも困ったもんだよな、あっはっは。
……なんて笑って済まされる状況でないことだけは、俺にもわかった。

「大輝の話が本当だとすると、西乃森さんには本命がいるってことでいいんですか?」
「いえ、私の本命は宇堂くんです」
「ぶっ!?」

我関せず、とアイスコーヒーを啜っていたらいきなり爆弾発言が飛び出して、思わずコーヒーを吹き出してしまう。
幸いなことに朋美にも西乃森さんにもぶっかけたりしなくて済んだわけだが、二人から白い目で見られるという結果を回避することはできなかった。

「どういうことよ、大輝」
「ま、待ってくれ、俺も今初めて聞いたぞそんなの!」
「さっき言おうとしたらあいさんが来て、宇堂くんに気配消せとか言われたから」
「あんたね……普通の女子高生にそんなことできると思ってるの?」
「怒るとこそこかよ……」

ちょっと待ってくれ、マジで。
一体何が起こっているのか、俺の頭の整理が全然追い付かない。
じゃあ矢口って誰?

いや明日香がクラスメートだって言ってたからそれは間違いなく存在するんだろうけど。
じゃあ何で矢口の名前を出して、明日のデートを取り付けた?

「あ、私アイスティーで」
「…………」

呑気に注文してる場合か。
俺の整理に付き合えよ彼女……。
しかも隣陣取ってこれ見よがしに腕とか組だしたから、西乃森さんの目の怖いこと……。

「あの、朋美さんや……最近女増えても寛大じゃなかったっけ、お前……」
「事情が事情だったからね。仕方ないかな、って思ってたけど……今回に関しては仕方ないで済まないでしょ。というか必然性がないじゃない」

そう言われればそんな気がしなくもない。
最近増える頻度が高かったからか、俺自身もマヒしてるんだろうか。

「そこで押し負けちゃうんだ、宇堂くん。じゃあ私とは遊びだったってこと?」
「ちょっと待って。遊びもクソも、今日は遊びにきた様なもんだろ」
「大輝、まさかあんた既に手を出した後とか言うんじゃ……」
「ば、バカ誤解を招く様なこと言うな!神に誓って俺は指一本触れてないからな!」
「さっき物陰に連れ込まれた時、手握られたけど」
「…………」

だからって連れ込んだ、とか言うのやめてもらっていいですかね。
いちいち人聞きが悪い。
しかも俺たちが少し騒がしいからか、店内で悪目立ちし始めてるのがわかるんだけど……。

もう俺帰っちゃダメかなぁ。
神はあんたもでしょ、という朋美の視線だって痛いし、何より正直居た堪れないんだが。

「あーあ、私最近構ってもらってないなぁ。ねぇ?」
「……そ、そうでしたっけ」
「あれ、昨日お楽しみだった時朋美さんいなかったの?」
「へぇ、お楽しみ!へぇ……私長崎に住んでるから、普通じゃなかなかこっち来られないんですよ。元々の地元はこっちですけどね」

そんなに構ってほしいなら後でたっぷり構ってやるから。
だから余計なこと言わないでくれ、頼むから。
じゃあどうやってこっちきてるの、とか言われたら説明に困るんだって。

「じゃあどうやってこっちに来てるんです?新幹線とかだと相当な金額になりますよね?」
「それは……」
「おい朋美ストップで。西乃森さん、人には誰しも聞かれたくないこととかあるだろ?」

やっぱりきたじゃんか。
仮にバラすことにするとしても、どうやって信じさせるんだって話になってくる。
よりによってこんな人の多いところで力使うのとか、俺やだからな。

「いいじゃない、何で隠そうとするの?」
「アホか。信じさせる方が大変だってことがわからないのか、お前は」
「アホって何よ!!」

俺の言葉に反応して朋美が今にも噛みつきそうな勢いで立ち上がる。
訳が分からないと言った様子の西乃森さんだが、ここまできて帰ろうとかそういう発想にならないんだろうか。
俺だってもう帰りたいし、そろそろそうなってもらってもいいと思うんだけど。

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