やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第151話


睦月からの着信だから出ないと、という気持ちは大いにあるのだが、もう撮影は始まってしまう。
と言うわけで、あとで酷い目に遭うのはもう仕方ないと割り切って、俺は撮影に集中することにした。
まぁこんなことで怒ったりしない……と思いたい。

『じゃあまずは、ハグから行ってみよう!』

まずは、でそれかよ。
ジャブにしちゃちょいと重すぎませんか、プリクラさん。
しかし何故だろう、時間制限とかあるはずなのに、俺たちが棒立ちでいると一向に時間が進まない。

カウントダウンがされないという不思議な現象が起きている。
イヴを見ると、イヴも不思議そうな顔で機械を見つめるのみだ。

「……仕方ない。イヴ、こっちきてくれ」
「あ、うん」

ちょっと強引かな、と思いながらイヴの肩を抱き寄せて、カメラを見ると、途端にシャッターが切られる。
反応早いな……。

『お次は定番、チッスだよ!』
「…………」
「チッスって何?キスすればいいの?」
「……そうみたいだけど、ここまでさせるプリクラとか俺知らないんだよなぁ……」

やや不信感は募るものの、別にキスくらいならいっか、と思いイヴの顔をこっちに向かせる。

「もう少し優しくしてほしいんだけど」
「あ、悪い……何かちょっと恥ずかしいというか」
「さっき散々したくせに何言ってるの?」
「事実だし、嘘一個もないけどそういうの外で言うのやめような。というわけだから、ほら」

別にほっぺで良かった様な、そう思いながらも唇がくっついたところでまたもシャッターが切られた。
随分と高性能でらっしゃる様だ。
最近の科学の進歩は目覚ましいものがあるな。

だけどもう少し世界の為になる様な用途で使えたりしないもんかね。

『ではではお次はペッティング!』
「…………」

そしてその声の直後、さすがにやりすぎよ!と声が聞こえる。
その後に、ちょっと、声大きいから!とか声が聞こえたと思ったら、機械の後ろからガタガタと物音が聞こえ、その後で悲鳴が複数響いた。

「……やっぱりか、この野郎」
「あ、えへへ……バレちゃったみたい」

俺とイヴとで機械の外に出て、機械の後ろを見るとそこには睦月に朋美に明日香に桜子、あいに玲央と言った面々が勢ぞろいしていた。
社会人メンバーは今日も仕事だろうし、ここにいないのは当然か。

「お前ら、何してんの?俺にイヴの世話押し付けて」
「いやぁ……昨夜はお楽しみでしたか?」
「えっとね、本当にお楽しみだったのは今朝なんだけど」
「お前ちょっと黙れ。まぁ聞いての通りだけど……こいつ魔界に帰らないといかんのだが、何でメンバーにする流れになったんだ?」
「いや、だって……」

睦月が少しむくれた様な顔で俺を見る。
何でそんな顔して俺を見るんだか。

「イヴが大輝のこと随分気に入ったみたいだったから」
「でもお前ら血のつながった姉妹だろ?別の意味でも姉妹になるとか抵抗ないの?もうやっちゃったものは仕方ないんだけどさ」
「元々女は全部大輝のものにする、とか考えてたわけだし……」
「お前、俺を殺したいわけ?さすがに世界中の女とか無理だから。事前に相談くらいしてくれよ」

特別怒ってるつもりはなかったのだが、イヴを始めとするメンバーが俺を少し恐れた様な顔になったので、一つため息をついてイヴを見る。

「私、邪魔だった?」
「……そんなんじゃないよ。ただ突然だったから、びっくりしたというか……悪かったよ、きついこと言って」
「まぁ女なら何でもいい、みたいなところあるもんね、大輝は」
「朋美お前……ちょっと前なら嫉妬に狂って俺を殺すくらいの勢いだっただろうが……。どういう心境の変化だよ」
「状況に馴染んできたってことでしょ。とにかく場所変えない?ここじゃうるさくて話も出来ないから」

どうしてこいつらがここにいるのかはまぁいい。
睦月の言う通り、ゲーセンの中じゃ騒がしくて話にならない、ということで俺たちはファーストフード店に行くことにした。
時間的に少し早いけど、昼飯食ってもいい時間な気がするし。

「イヴちゃんて食べられないものとかないの?」
「……どうだろ、今朝食べた食事も美味しかったし、今のところ人間界で食べられない、ってものはなかったかも」
「あー……そういやお前魚骨ごと食ってたよな。腹とか痛くないわけ?」
「そんな程度でお腹壊すほど弱くはできてないよ。お兄ちゃん、心配してくれてるんだ、優しいなぁ」
「お兄ちゃんって呼ばせてるの、大輝……」
「へ?ち、違うからな!?これは睦月が……」

若干引き気味な目で見る朋美に、俺もさすがに戸惑いを隠せない。
肝心なところは何も説明してないとか、悪意しか感じないぞ睦月め……。

「大輝くん、妹がほしかったの?うちの妹あげようか?」
「は?バカ言えよ。大体お前だって妹みたいなもんだろ」
「大輝くん……桜子のことそんな目で見ていたの?」
「は?いや、みたいな、って言ったでしょ……」
「大輝、ここは口を開けば開くほど墓穴を掘る場面だと思うよ?」

一体誰のせいだと思ってるんだ、こいつ……。
本当、いい性格してやがんな……。
しかしある程度の常識が刷り込まれているからか、イヴは母みたいに紙ごとハンバーガーを食べたりはしない様だ。

こういうところは安心して見ていられる。

「まぁ安心してよ。今日明日は私たちもちゃんと面倒見るから」
「朋美はバイトとかないわけ?俺は明日バイトなんだが」
「大丈夫。最近はそこまでガンガン入れてないから。大輝こそそんなにバカみたいにバイト入れて何がしたいの?何かほしいものでもあるの?」

バカみたいとは失礼な。
別にほしいものはないけど、お金はいくらあっても困るもんじゃないだろうに……さっきイヴにも言ったけどな。
まぁ正直お金の部分で言ったらそこまで俺が頑張らなくても大丈夫そうではあるんだけど、周りに甘える癖とかつけたくないし。

これでも男の子だからな、カッコつけたいんだよ。

「何かバカみてぇに騒がしいと思ったら女の中に男一人とか、どんな集まりだよ、これ」

嘲笑混じりの男の声が聞こえて、振り向くと何となく頭の悪そうな格好でいかにも俺たち落第者です、って自己紹介しながら歩いてる様な人たち。
最近になってもこういうおバカさんは後を絶たない。
嘆かわしいことだ。

もっと他にやることあんだろうに、と思うが関わってもロクなことにならないだろう、と俺はみんなを連れて店を出ることにした。
ビビってる、と思われたら別にそれはそれで。
ある意味ではビビってるからな、主に睦月とかイヴ辺りがやらかさないかって方で。

「おいおい、逃げちゃうのか?女みたいな見た目してるから仕方ないかとは思うけどよ。俺たちにもこの女分けてくれよ」

三人組らしい男の一人が、下卑た笑みを浮かべながら白昼堂々気持ちの悪いことを言い出す。
なるほど、女と見るとそういう発想になるわけか。
いや、俺も割とそう言う妄想には走るタイプではあるけど、口には出さないのが美学だと思わないか?

「大輝、何で黙ってるのよ、こんなやつら……」
「黙ってろ。帰るんで、そこどいてもらえます?」

あくまで刺激しない様に、と俺はあくまで下手に出る。
女連れだから、女に危害が及ばない様に、なんてそんな気取った理由では決してない。
こいつらともめたら、痛い目を見るのは百パーセントあいつらだ。

別にこいつらが痛い目を見ようとどれだけの怪我をしようと知ったことじゃないが、さすがに力の差がありすぎるのはどうかと思うわけで。

「な、何だお前……いててて!!」
「分けてくれとか、図々しいにもほどがあるんだけど。あんたらの汚い手で誰に触れようってわけ?そんな汚い手は、取っちゃった方がいいよね」
「あ、こら睦月……」

呑気なことを考えていると、その間に睦月は一人の腕をひねり上げてしまう。
さすがに喧嘩っ早すぎるだろ、と思い止めに入ろうかと思ったら、残りの二人が睦月に襲いかかる。

「……がっ!?」
「ぶは!!」

もちろん結果は明白で、睦月に蹴りを入れられた二人は壁まで吹っ飛び、そのまま壁にめり込んで気を失った。
そしてそれを皮切りにまだ人の少ない店内が騒然とし始める。

「……おい、さすがにまずいんじゃないか?」
「ちょっと面倒だね。とりあえずこいつには眠ってもらって、と」

腕をがっちり極めたまま、空いた方の手でそいつの額を指で弾くとそいつも眠りに落ちる。
イヴがまだ食べてるのに、と不満をもらすので残ってる分はとりあえず抱えて全員で店を出た。


「お前な……さすがにあれは……」
「言いたいことはわかるけどね。ああいう連中とか、別に死んでも誰も文句言わないと思うよ」
「それはある程度同意するけど、さすがにこっちの人数多すぎるわ。大体あの店、俺割と使うんだけど」
「うん、だろうと思ったから、とりあえずあそこにいた人たちの記憶は操作してあるよ。問題ないって」

店を出て少し離れた公園まで移動して、漸く一息。
イヴはベンチに座って先ほどの残りをむさぼっている。
別にほっとけばいい話ではあったと思うが、俺の対応に女子の面々は不満を持っている様だった。

「あそこで睦月が何もしてなかったら、どうするつもりだったの?大輝くんは助けてくれたの?」
「まぁ……あそこまでやらんかったとは思うけど、助けてたと思うぞ。だって、力の差ありすぎるだろ。さすがにムキになっちゃうのはどうかと思うからさ」
「ムキになれとまで言わないけど……男としてもう少し頑張ってほしいかなって思うかな」

桜子まで……。
でもあそこで俺がキレたりして、全力で対応してたらそれはそれで文句が出たんじゃないかと思うんだが。

「お兄ちゃんは悪くないでしょ?あんな小者相手に、割と紳士的な対応してたじゃん」
「イヴ、ありがとうな。紳士的かは置いといて、指一本でも触れてたらさすがに睦月ほどではないにしても、何かしら動いてはいたよ、間違いなく」
「でも、あんなのあれでしょ。魔界にでも連れてって魔物のエサにしちゃえばほら、殺人とかじゃなくて行方不明事件で済むから」
「お前は……礼を言ったのがバカバカしくなるくらい残酷なこと考えるんだな。確かに結果としてはそうだけど、あんな連中でも家族とかいるかもしれないだろ?もしかしたら彼女とかいるかもしれないじゃん」

まぁ、いないからああいう行動に出るんだろうとは思うが、万が一というのは世の中にいくらでもある。
そして妬まれる様なことをしていた俺にも責任はあるんじゃないかな、と少しは思う。

「まぁイヴも食べ終わったみたいだしさ、まだ午前だし他行こうよ。また同じ様なことがあったら、今度は大輝が頑張ってくれると思うから」

変な期待されても困ってしまうが、そう言われては俺も男として期待に応えないわけにはいかない。
もちろんもめごとなんかなければないに越したことはないが、今度はがっかりさせない様にしよう。

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