やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第115話

「んー……毎回のことだけど緊張するな」
「明日香ちゃんの親にも朋美の親にも睦月ちゃんの親にも会ったんでしょ?あと愛美さんもだっけ。だったら大丈夫でしょ」
「まぁそうなんだけどさ……」


何なら泊まりで連れてこい、という父の声もあって、大輝くんは今日……そして現在時刻は夕方六時半、私の家に泊まりに来る。
実は朋美も家には遊びに来たことがなく、朋美たちと遊んでるときに母にばったり、ということくらいしかなかったはずだ。
だから大輝くんがうちのメンバーの中では初めて、うちに足を踏み入れるということになる。


服装については普段着でいい、ということで大輝くんは普段通りのラフな格好をしている。
まぁ愛美さんくらいの年齢の人の親となるとスーツでも、とか思うんだけど私たちはまだ高校生だ。
第一この真夏にスーツとか、見ているこっちが汗をかきそうで嫌だ。


仲間も連れてきたかったら連れてくるといい、みたいなことを言っていたが、どうしようか迷った挙句に私はとりあえず大輝くんをうちに連れて行く、ということを伝えてこられる人がいるかだけ確認をした。
せっかくなんだから二人で行ってきなよ、と言う意見多数の中、睦月ちゃんだけがついてきた。


「そういや睦月、お前は何で来てるの?」
「大輝、気づいてないの?今渦出てるよ」
「は?マジかよ」


睦月ちゃんの言葉に私も驚いて大輝くんを見るが、大輝くんに変わったところは見られない。
睦月ちゃんは本人ですら気づいていないものに、よく気づけたなと感心してしまった。
ということは、今回私がその渦の触媒になっているということになる。


残ってるの、何だったっけ。
あいちゃんが憤怒だったって聞いてる。
色欲、暴食、傲慢、憤怒と四つ終わったということか。


私は何だろう。
嫉妬?
いや……みんなを羨ましいって思うよりはどっちかって言えば神様が羨ましいって思うことはあるけど、それで身を焦がす様なことにはなってないからなぁ……。


強欲?
実はBLが趣味らしい趣味でなくなってからは、そこまでほしいものとかないんだよねぇ……。
みんながいてくれたらそれだけで楽しいし、漫画とかアニメ見たかったら睦月ちゃんの家行けばいいんだし。


怠惰?
……うん、これしかない気がする。
だって私、今でも正直父に大輝くんたちを会わせるのめんどくさいって思ってるもん。


今までずっと逃げ続けて、向き合うことをしなかった親子関係。
それらと向き合うことがこんなにも面倒だなんて、考えもしなかった。
考えてみたら迷惑な話だよね。


大輝くんとか、本当なら巻き込みたくないから会わせない様にしてたのに。
なのに会うことになって、しかもそのせいなのかはわからないにしても渦まで出てきちゃって。
ここ数日、大切な人であるはずの大輝くんに迷惑ばっかりかけてるんじゃないか、って情けなくなってくる。


「それにしても、毛嫌いされてた俺に会いたいなんて、どんな心境の変化なんだ?」
「うん、何か私にもよくわかんない。ハゲって言ったからなのかわからないけど、突然坊主にしてきて反省した、とか言い出すし。会ったこともない人間を頭ごなしに批判して、結論を出すのは卑怯だから見合いも保留にしてきた、とか言ってた」
「桜子の言葉がよっぽど堪えたんだね」
「坊主か……おい睦月、見て笑ったりすんなよ?あと俺を笑わそうとすんのもなしで」


一瞬そうしている様子が想像できてしまって、思わず吹き出す。
さすが大輝くんは、睦月ちゃんのことをよくわかっている様だ。


「さすがに初対面の人間見て笑うほど壊れてないから。大輝は私に辛辣だよね」
「それだけ付き合いが長いからな。よくわかってるって言ってくれ」
「もうすぐそこだから」


そう言って私の家が見えてきて、大輝くんがはっとする。
そう一度だけ大輝くんは、春海ちゃんの最後を看取った日……春海ちゃんと睦月ちゃんのお父さんの車でここに私を迎えにきたことがある。
もちろん私は外で待っていたから中には入っていないけど、あの時も父はこんな時間に、なんて言っていたっけ。


あとで事情を全部説明したら黙ったけど、あの時から今日までの片鱗はあった気がしなくもない。


「一回だけ、この辺まで大輝くんは来たことあったよね」
「あるな……春喜さんの車で」
「春海の命日になった日、だね」


当然あの時既に危篤状態だった春海ちゃんが、その光景を見ているはずもないので、実際に私の家を見るのは初めてのはずだ。
まぁ何の変哲もない一軒家だし、そこまで大きい家でもない。
それなりの水準で生活するサラリーマンの家庭なんだからこんなものだろう。


「綺麗に手入れされてるね」
「お母さんがね、専業主婦だから。毎日掃除はちゃんとやってるみたい。一回この辺に近所のバカがタバコ捨てた時はお父さんキレてたな、そういえば」


金属バット持ち出して、拾わないならぶん殴る、とか言って凄んでたっけ。
あれ今の風貌でやられたらトラウマものだなぁ。




「いらっしゃい、初めまして。桜子の母のはなです。中でお父さん、待ってるからどうぞ上がってくださいな」


お母さんが出迎えてくれて、大輝くんと睦月ちゃんはそれぞれ持参した土産を渡す。
リビングに入ると、父はソファに腰かけてゴルフクラブを磨いていた。
……演出過剰でしょ、どう考えても。


ていうかそのクラブでゴルフしに行く姿よりも、誰かを撲殺でもしに行く方が似合ってるんだけど。


「やぁ、いらっしゃい。桜子の父の寛人ひろとです。桜子が世話になっている様で」


スキンヘッドの強面が、立ち上がって左手にゴルフクラブを握ったまま大輝くんに握手を求める。
正直恐喝してる絵面にしか見えない。
睦月ちゃんは一目見て、早くも我慢が……笑いの、だけど限界に近付いている様だ。


さすが、何処にいてもブレない子だ。
大輝くんも恐る恐る父の手を取ると、挨拶を返した。


「初めまして、桜子さんと交際させてもらっている、宇堂大輝です。よろしくお願いいたします」
「同じく椎名睦月です。っぶ、よろ、しく……」


大輝くんに続いて挨拶をしようとした睦月ちゃんは、笑いを堪えながらの挨拶に声を詰まらせていた。


「……おい睦月……」
「ご、ごめ……宜しくお願いします」
「……随分と素直な子の様だな」
「…………」


その素直な睦月ちゃんを見ても、特に父は不快感を覚えた様子もない。
それどころか一目で睦月ちゃんのことは気に入った様に見える。
大輝くんについてはまだ測りかねている。


「本当ならあと妹と弟が一人ずついるんだけどね、今日は母方の実家に泊まりに行っているんだ」
「そうなんですね。ちょっと会ってみたかったかも」


大輝くんは、状況を見てではあるけど割と思ったことを口にするタイプだ。
なのでわかるのだが、これは紛れもない本音なのだろう。
そしてそれは父にも伝わった様だった。


「まぁ、どうしても見てみたいなら、また来てくれたらいい。桜子から聞いた話だけではどうにも判断しかねていたが、悪い男ではない様に見えるからな」
「それは、ありがとうごさいます。ですけど、一応今日は一人メンバーを連れてきていますが」


そう言って大輝くんは睦月ちゃんを見る。
そして睦月ちゃんはニヤケ顔を崩さないままで大輝くんを見返して睨まれていた。


「それについては親としてはやや複雑な気持ちはあるよ。だが他でもない桜子がそれでいいと現状を認めて交際しているのであれば、俺としては口を出すつもりはない。その子もかなり愉快な子の様だからね」
「いや、すみません。生でスキンヘッド見るの、二回目なんですけどやっぱり迫力があるなって」
「お前は、余計なこと言うなよ!……すみません本当に……」


母も混じって、どっと笑いが起きる。
大輝くんだけはどうにも居心地が悪そうに見えるが、あの父までも笑っているという現実。
私の中の父のイメージが少し、違うものになってしまいそうだ。


というかさっき、口を出すつもりがないって言ったけど……もしかして見合い断ってきたのかな。
別に興味なかったし、受ける気も毛頭なかったけど、父の立場は大丈夫なんだろうか。


「実際、今日見てロクでもない男だったら、無理やりにでも別れさせて見合いさせようなんて考えていたんだが……見合いは断って良さそうだな」
「え……」


断ってはいなかったのか。
とは言ってもなぁ……この父のことだから先走って見合い話とか進めてるんじゃないだろうか。


「あの、お父さん。私、形だけでも受けるくらいなら……」
「それはダメだ。大輝くんに申し訳ないと思わないのか?そんな不義理な真似をさせるわけにはいかない。それにお前の仲間だって、いい気はしないだろう」
「いえ、別に俺は……」


大輝くんがヤキモチ妬きで、独占欲強いのは知ってるけど……何となく父の顔を潰してしまう様な結果にならないかって、変な心配をしてしまう。


「あれぇ?本当にぃ?こないだ桜子が絡まれてるの見てめっちゃキレてたのに?」


そして睦月ちゃんは何処まで行っても平常運行だ。
煽られてまたも大輝くんに睨まれてるけど。


「お前はまた……」
「だが、大輝くんがそこまで桜子を大事にしてくれているのであれば、俺としてもある程度安心して任せることができるよ。それに……何だか椎名さんも大輝くんも、普通じゃない様な不思議な感じがする。何でなんだろうな?」


その話きちゃったか。
ここは正直に言うべきなんだろうか。
そんな私の心配をよそに、睦月ちゃんは話す気満々だ。


「まぁ普通じゃないっていうか……私も大輝も、あと一人そうなんですけど、人間じゃないんですよ」


ニコニコしながら言う睦月ちゃんを見て、父も母もぽかんとしている。
いや、言ってることはそのまんま正しいんだけど……これで信じる人の方が少ないと思うのは私だけ?
大輝くんも、こいつ何をいきなり……って顔してる。


「人間じゃないって言うのは?」
「どうしたら信じます?何かやっぱり見た方が早いですか?」
「お、おい睦月?」
「いいじゃん、どうせ長い付き合いになるなら知っておいてもらった方がいいでしょ」
「そりゃそうだけど……すみませんね、突然おかしなことを……」
「いや、構わないよ。というか、椎名さんの言うことが気になるな。何かそれを証明できるものがあるのか?」


そう言われて大輝くんは何やら考えていたが、睦月ちゃんは既に思いついているらしく、ニコリとしながら父を見る。
本当、いたずら好きなんだから。


「毛根再生させて、今すぐ毛を生やしたりなんかどうでしょう」
「おいこらお前は!!ほ、本当すみません!」


生まれつきの小者でもある大輝くんは即座に頭を下げる。
そんな大輝くんを見て父は笑い、睦月ちゃんもニコニコしていた。


「……いや、それが本当に出来るんだったら、一番手っ取り早いと思うが。どうなんだ?」
「余裕ですよ、まぁ見ててください」


得意満面の睦月ちゃんに対して大輝くんが頭を抱え、ため息をつく。
睦月ちゃんは父の目の前まで行って、父の頭に手をかざした。


「ちょろーっと頭熱くなるかもしれませんけど、ご辛抱をば」
「ああ、構わないよ。やってくれ」


父の頭の前で、手をわさわさ動かしながら睦月ちゃんはどんどん力を込めて行く。
一度借り物とは言え神力を使ったからなのか、私にも力を使っている時というのはよくわかる。


「……む?確かにぼんやり熱くなってきた様な……」
「ほーら、生え始めてますよ」
「あら、本当だわ!!って、は、早っ!?伸び方早い!!」


父の髪がにょきにょきと生えてきて、早くも五センチくらいになっているのを見た母が仰天する。
そして髪はまだまだ伸び続けている。
ハゲ解消の為の企業のCMの早回し映像を見ている様だ。


「見てみます?はいこれ」
「ん?ああ、ありがとう……うおっ!?」


睦月ちゃんが目の前で鏡を生成して、父に手渡す。
そしてその鏡で自分の頭を見た父も、目を丸くして驚いていた。
努めて冷静でいようとしていた父だが、これには驚きを隠せなかったらしい。


しかしまだまだ伸びて行く髪の毛は、父の肩より下まで伸びて行き、睦月ちゃんが手を止めたところでその成長を止めた。
……別人にしか見えないんだけど。

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