やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第111話

「え、大輝……それって」
「いや、あくまで暫定処置ではあるんだけどな」


大輝はあいと玲央を救出した後、ヘンテコ頭二人に向けて、どうしたら冥界の統治は成るのかという質問をした。
それに対して帰ってきた答えは、神界を襲撃した時の様な魔獣の統率や、簡単な秩序の形成。
冥界の全貌についてはこの二人も知らないらしいが、それらの把握も視野に入れておきたい、ということだった。


もちろんあいは玲央の母親でもあり、私たちの仲間でもあることから完全に冥界の主として移住するわけにはいかない。
大輝だってそんなのを許すはずがないし、何よりあい本人がそれを拒否している。
この二人はそれを完全に無視しようとして、強硬策に出たことから今回の様な惨劇になったのだ。


「まぁ、どっちも譲らないんじゃ前には進まないだろ?だったらやっぱりある程度の妥協策は必要だと思うんだよ」
「って言うと?」
「あい、玲央の子育ては大変か?」
「……まぁ、やんちゃではあるから。大輝に似たのかな」
「それはそれとして……たとえば合間にオーディン様とかフリッグさんに預けたり、睦月たちに預けて一週間に一回程度、冥界に来て色々やってまた帰ってくるとか。そういうのはダメなのか?」
「……なるほど」


珍妙頭の方が何かに気づいた様だ。
二人ともすっかりと戦意喪失している様で、攻撃の意志などは見えない。
あれだけの目に遭わされれば当然と言えるかもしれないが……。


それは置いといて、大輝の案は悪くないかもしれない。
冥界に行きたいということなら、大輝やロキ、オーディンの力を使えばいい。
もちろん今回みたいに何度かゲートを作る手間は必要になるかもしれないが、それについてはこの二人が目印になる様なものを作ってくれれば解決は可能だろう。


「ヘル様が……」
「あいだ。ヘルって名前はもう捨てたんだよ。間違えるな」
「失礼しました……あい様が定期的に来てくださるということなら、私たちとしても文句はありません。それどころか、大いに助かります」
「それに、あいが以前ここを出るときにどんな考えでいたのかはわからないが……しっかりと引き継ぎみたいなことをしてなかったんだろ?それも悪いっちゃ悪い。理解できるか?」


引き継ぎか、その頭はなかった。
確かに必要と言えば必要だろう。
ある程度のノウハウをあいがこの二人に授けることで、今回の様なことはもちろん避けられる。


それに不測の事態が起こった場合にも柔軟な対応が取れるだろう。
この冥界に元々主の様なものがいるのかは不明だが、あいが統治していた頃にきちんと出来ていたということならそのやり方は伝えて行くべきかもしれない。


「そうだね、私もあの時は気持ちが逸ってしまっていたっていうのは認める。それが今回の事態を招いたっていうことなら、反省しないといけないよね」
「誰が悪いって言うか……ただのコミュニケーション不足なんだと思うけどな。これからはその辺少し充実させたらいいんじゃないか?」
「ところで、気になっていたのですが……あなたは一体何者なんですか?あの強大な力は一体……」


思い出して珍妙頭の方が震えて、その震えた相方を見てトサカ頭も顔を青くする。
確かに大輝は名乗らないままでいきなり奇襲を仕掛けてそのまま鎮圧してしまった。
まぁ、名乗ってやる必要はないんじゃないかと思うけど。


「俺は宇堂大輝、太陽の神ソールの息子だよ。いきなり物騒なことして悪かったな。あと、あいが抱えてる子どもの父親でもある」
「……?見たところ女神の様ですが」
「ああ、元は人間の男なんだ。覚醒……って言っていいのかわからんけど、そういう理由があって神になる時は女神なんだよ。ちょっと複雑でな」
「そうでしたか……しかし太陽の神ソールとはまた……身内にそんな強大な力があるとわかっていれば、我々ももう少し慎重に事を運んでいたのですが」


わかったからといって、それがその通りに出来るかはまた別の問題なんだろうと私は思うが、二人がそう思うと言うのであれば、そうなのかもしれない。
もっとも今回はこの二人がこういった強硬策に出たからこそ、大輝の怒りに火をつけたとも言えるわけだが。
彼らがもっと冷静に事を運んでいたなら私たちはあいや玲央の奪還を出来ただろうか。


「とにかく、俺の提案でいいのか?何か他に良案があるなら出しておいてほしい。後になって実はこうしたかった、とか言われてもこっちだって暇じゃないからな」
「……おそらく、問題ないでしょう。こちらこそ、手荒な真似をしてしまい……大変申し訳ありませんでした」


二人が深々と大輝に、あいに、私に頭を下げて、今回の騒動はひと段落した。
私としては不完全燃焼感が大いにあるが、それを言ってしまうと大輝の頑張りが無になってしまう気がして憚られた。




「お騒がせしました、オーディン様」
「おお大輝、戻ったか。すまなかった、わしももっと気を付けておれば……」
「過ぎたことですよ。それに無事解決もできました。今後は度々力をお借りすることになるかもしれませんから、先によろしく言っておきたいと思います」


簡単に、オーディンにも冥界で起こったことを説明した。
大輝はあくまで話し合いで済んだ、と説明したが、あいと私の顔からある程度何があったのかは察したのかもしれない。
オーディンもやや顔色が悪い様に見えた。


「今日はもう帰るのか?ソールに顔を見せたりとかは」
「いや、もう時間も結構遅いですからね、母ももしかしたら寝ているかもしれませんから。それに、以前オーディン様に作って頂いた端末で写真は送ってあるんですよ」
「おお、そんな使い方が……わしもほしくなってきた」
「自重しろよ主神サマ。あいの都合次第だけど、また来ることなんかいつだってできんだから」


他人の子だけど、この場合でも子煩悩って言うのか?
すうすうと寝息を立てている玲央を見て、オーディンはまたも顔を弛緩させていた。
……懲りないやつだな。


「十時近いのか……さすがに子ども連れて歩く時間じゃないな」
「そうだね、さすがに今日はもう帰った方がいいかも」


何だ何だ、この夫婦みたいな会話。
私、当事者のはずなのに急激な蚊帳の外感……。
無性にイラっとくる。


「大輝、帰ったら話があるから。あいは……いてもいなくてもいいや」
「何だ急に……まぁいいけど」


ひとまずオーディンに挨拶を済ませて、私たちは人間界に帰って行った。




「さて、じゃあまず子作りの計画などを……」
「おい、さも当たり前の様にそんな話をしようとすんな。まずって何だ、続きがあんのか?そしていきなり何なんだよ」
「えっと……私、下がってた方がいい?」


あいと玲央を住まわせている住居に戻った私たちは、戻って早々に話を切り出す。
だって、あいだけずるい。
私だって、大輝の赤ちゃんほしい。


そう思ったらもう、止まらなかった。


「いや、さっきも言ったけどどっちでもいいよ。あいはもう仲間なんだし、聞いちゃダメってことはないから。聞きたかったらここにいればいいし、聞きたくなかったら別の部屋に行っててもらっても」
「あのな、睦月……何でいきなりそんな話になってんだ?今日の出来事で絡む様なことがあったのか?」


とりあえず話をするなら、とあいがお茶を淹れに台所へ消える。
二人で残された私と大輝は、話の続きをするわけだが……このままだと話が進展する気がしない。
だって、何でとか言われても理由がほしいから、としか答えられないんだから。


「……笑わない?」
「は?何で笑うんだよ。笑わないよ、言ってみ」
「だって……何だかあいと大輝が何だか夫婦みたいな感じで……」
「…………」


妬ましい。
だって元々大輝は私のだった。
たとえ不可抗力とは言っても大輝とあいの間にあんな風に子どもが出来た、なんて衝撃的なことがあれば、私だって思うところがない訳がない。


もちろん大輝を責める様なこともあいを責める様なこともしないで行こうと、みんなで決めたから責めたりはしないけど、そうなるとこの気持ちのやり場はいずこへ?ということになる。
ということは、だ。
この気持ちを解消するには……子どもを作るしかない。


そうは思わないか?


「というわけだから、ほら大輝、カモン」
「いや、待て待て。何となく言いたいことはわかったよ。だけど、あいのはイレギュラーで不可抗力だから許されたんじゃないのか?俺が意志を持って作ってたら全く結果は違ってた様に思うんだが」
「大輝と私の子どもも可愛かったらきっと、みんなも祝福してくれるよ」
「そうかもしんないけど……でもさすがにみんな黙ってないんじゃないのか?それこそ全員が結果的に子持ちに、なんてことだってあり得そうなんだけどな」


大輝の言うことはもっともだ。
今子どもができちゃうと困るメンバーは、誰だろう。
何となく明日香とか朋美に関してはあの通りの父親だし、何だかんだで笑って済まされそうな気がしないでもない。


和歌さんや愛美さんはどうだろう。
あの二人も結局は問題なさそうではある。
何より和歌さんに関しては反対する人が思い浮かばない。


しかしそう考えると……明日香はやや懸念が残るか。
父親がああでも、母が厳しそうだ。
そして桜子は……今のところ家族の詳細、つまりは構成すらも不明だ。


本人が語りたがらないから、私たちも敢えて突っ込んだりはしないのだが朋美辺りはその辺詳しいのだろうか。
中学からの付き合いだし、家に遊びに行ったりとかはあってもおかしくない気がする。
となると……不確定要素がある以上は軽々しく決めることは出来ない、ということになる。


仮に桜子がオッケー!とか言ったとしても、親が認めなくて最悪勘当、なんてこともあり得る。
そうなってしまっては、平和に行くことは難しいかもしれない。


「お前は今すぐでも困らないかもしれない。だけど、お前が作ったら他のメンバーも、ってなっても何もおかしくない。多分そんなことはお前もわかってると思うけどな。その上で、お前がどうしてもって言うんであれば拒否はしないよ」
「…………」


私が考えていたことを、ある程度は大輝も考えていた、ということなのだろう。
それがわかった上で私にこう言ってくるということは、現状で考えられる懸念事項が一致しているということ。
ならばここで強硬策に出ることは望ましくない。


「言葉にしないと伝わらない、って言いたいんだったら……一応言っておくけど、その……」
「ん?」


これは私としてもちょっと予想外の展開だ。
何やら大輝が顔を真っ赤にして、口ごもっている。


「お、俺にとっては……みんなに順位付けとかするつもりないし、平等にしてるつもりだけど」
「うん、それでそれで?」
「がっつくなよ……やっぱり俺にとってお前は特別なんだよ。お前の代わりなんて誰にも出来ない。だから、その……焦らなくてもだな」


おお、何これ。
こんな展開予想してなかった。
あの朴念仁でお馴染みだった大輝が、私の気持ちを生意気にも読み取ったと?


誰がこんな展開を予想しただろうか。
少なくとも私には予想できなかった。
これは、許さないわけにいかないだろう。


何より、何だか心の中が充実してしまって、非常に心地よくてさっきまでのヤキモチじみた感情は何処かへ行ってしまったのだから。


「何だその緩んだ顔……大丈夫か?俺、変なこと言ったかな」
「……はっ。ああ、いやいや。いやいやいや。大丈夫!大輝の言いたいことは伝わった。……じゃあそのことについては今度、みんなで考えよう、うん、そうしよう」
「お茶入ったよ、って……スルーズ、変な顔してるけどどうしたの?」
「……いや、俺にもよくわからん」


あいが不思議そうな顔をしながらお茶を私たちの前に置く。
多分大輝がこういうこと言うのは、ほとんどない。
だから私は今日特別なものをもらった、ということに非常に満足している。


嬉しすぎて爆発しそうだったので、私は急遽自宅に帰って、枕に顔を埋めてバタバタして、そのまま眠りについた。

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