やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第107話

「……正直驚いたな」


睦月達が帰って、その後食材の買出しに行って夕飯を作ったりしながら色々と教えたわけだが、あいの呑み込みの早さは半端じゃなかった。
具体的にどう凄いのかと言うと、俺の言ったことの要点をきちんとまとめて理解していた様で、見せたり口で説明したことは、やってみろと言うとすぐに再現してみせたし、あらゆる家電に関してもあっという間に使い方をマスターした。
パソコンに関してはちょっとくらい苦労するんじゃないかって勝手に思ってたのに、これもふむふむ、とか言いながら難なく使っていたという。


「私、凄い?」


得意満面のあい。
どうしても俺に褒めてほしいらしい。
あいの目が、さぁ褒めろと言っている。


こういう欲しがり方をされると、どうにも意地悪いことを考えてしまうのは人間のさがなのだろうか。
なんて思う一方で機嫌を損ねるとめんどくさいな、という考えも頭に浮かび、俺は素直に頭を撫でてやることにした。
ちなみに読み書きに関してだけは一から教えていたら時間がかかりそうだったので、記憶を流し込んで済ませた。


「人間の文化に関しても問題なさそうだな。料理のレシピはパソコンで見ることも出来るし」
「人間界って面白いね。文明をここまで発達させてきてたなんて、思わなかったなぁ」
「下等生物、とか言うのはやめてくれよ?それだと俺も半分下等生物の血が入ってるわけだし、睦月以外のメンバーも下等生物になっちゃうから」
「言わないよ。私は元々神が絶対なんて思ってなかったし。寧ろあいつらの方がそういう傾向強かった様に思えるけど」
「あいつら?」


俺が不思議に思って聞き返すと、あいは顔を険しくしながら頷く。
どいつらのことだろう。
神界にそんな考え持ってそうなやつなんていたっけ。


あいつ「ら」ってことは、一人じゃないってことだとは思うけど。


「ほら……神界で話したじゃん。私が冥界にいた時に、私に冥界の統治をしてほしい、みたいに頼んできたって言う」
「……ああ!ああ、言ってたな。そいつらは神が絶対みたいに言ってたってことか?」
「神以外は取るに足らない存在だ、みたいなことは言ってたかな。私はそうは思ってなかったけどね。神にだって得意不得意があって、個性だってあるんだし。それが完璧で満点で、なんてあり得ないでしょ」
「んー、まぁどう感じるかはそれぞれだからな。一概にどれが正しいとか、そういうのはないって俺は思ってる」


実際俺はあいの言うそいつらを見たことがないし、何とも言えないけど。
ただそれを聞いてもあいは考えを変えたりしなかった様だし、別にいいんじゃないかって思ってるけどな。




そして翌日。
食材に関してはとりあえずある程度のストックがあるし、必要なものは大体揃っているからということもあって、今日はゆっくりしようということになった。
二人きりでのんびりというのも悪くないと思うし、あいが加入してからは水入らずというのも初めてだと思う。
それに最近バタバタしすぎて俺もちょっと疲れていたから、ゆっくり休めるのはありがたかった。


「お昼、何食べたい?」


昼前になって、そろそろ何か食べようかな、なんて思っているとあいから声がかかった。
希望を聞いてくるってことは作ってくれようとしているのだろうか。


「んー……何でもいいけどな。昨日の昼がパスタとかピザ……んで昨夜がカレーだっけか」
「私蕎麦って言うの食べてみたい」


蕎麦ってことだと箸使えるかな、なんて要らない心配をしてみるが、よくよく考えると昨日のカレーの時にサラダも一緒に作って食べた。
その時に箸も一瞬で使える様になっていたっけ、と思い直す。


「おお、蕎麦な、いいと思うよ。茹でるか?」
「私やるよ。多分出来るから」


自発的に色々やろうとするのは、いい傾向だ。
情報源が主にネットだってことはちょっとだけ気にかかるが、実際には子どもじゃないんだし俺がとやかく言う必要はないだろう。
情報の取捨選択ができるかどうかは別にして、困ったことがあれば助けてやったらいいわけだし。




「そういえば……」
「うん?」


あいが茹でた蕎麦を二人で食べていると、蕎麦をずぞぞぞ、っと啜りながらあいが尋ねてくる。
食べ方教えてないけど、これもネットで調べたんだろうか。


「お昼寝すると牛になるってネットで見たんだけど、本当?」
「ぶふっ……」


誰かが昔言ってたなぁ、デマをデマと見抜けない人間は、とか何とか。
まぁそもそも人間じゃないわけだが、比喩表現というやつに馴染みがないのなら、そう思い込んでも不思議はないかもしれない。


「どうだろうな?試してみればわかると思うぞ」
「……牛になっちゃったら、どうしよう」
「そしたらそうだな、昨夜のカレーの残りに入れて……」
「私、刻まれちゃう!?」


そんな猟奇的な過程を経て作られたカレーとか食べられるほど、俺は狂っていないつもりだけどな。
まぁ昼寝という文化くらいは神界にもあるだろうから、あとで昼寝をするのも良いかもしれない。
からかうと面白いけど、怒りを買ったらどうなるかわからないから、程々にしないと……。


「あと、一個聞きたかったんだけど」
「何だ?」
「子どもってどうしたら出来るの?人間はどうやってるの?」
「…………」


この質問きたか。
いや、遠からず来る様な予感はしてたんだ。
実際あいは俺より長く生きてるんだし、気になってもおかしくはないだろう。


とは言っても冥界暮らしが長くて人間の文化なんか触れてこなかったから、知らないとしても不思議ではない。
だからって……どう答えるのが正解なの、これ。


「どうして、そんなこと聞くんだ?」
「大輝と私の子どもがほしいから」
「…………」


理由があまりにも直球で、無碍に断るのも悪い気がしなくもない。
だからって、じゃあ実演を踏まえて教えてやるぜ!とかぶっ飛んだことができるほど俺は壊れてないはずだ。
というかそんなことして本当に子どもが出来た、なんて話になったらメンバーにどんな目に遭わされるか……。


「あー、あれだ。いい子にしてる人のうちにな、コウノトリが飛んでくるんだ」
「へぇ、コウノトリ……ってことは、鳥?食べられる?」
「……いや、食べるってのは聞いたことないかな」


食べるの好きだなこいつ……。
ていうか現在進行形で蕎麦食ってるじゃん。
早くも話が逸れそうだから、俺としては助かるんだけど。


「で、そのコウノトリがどうしたの?」
「ああ、そのコウノトリがな、赤ちゃんを運んでくるんだ」
「……?それって、私と大輝の子どもじゃなくない?」
「…………」


ちくしょうが、変なとこで常識振りかざしやがって。
こうなったらキャベツ畑で、って言うのも使えないじゃんか。
他人が遺棄した赤ちゃんだよねそれ、とか言われるのがオチだ。


「神は、どうやるんだっけ?」
「んー、相手の遺伝子を取り出して、とか結合したりとか昔聞いたけど」
「けつ……ごう……」


まさかそんなワードが飛び出してくるとは思わなかった。
まぁ、実際神も人間と変わらない器官はあるみたいだし、不思議なことじゃないらしいけど。
危うく母に手籠めにされるんじゃないか、って思ったこともあったくらいだし。


「人間も結合するの?」
「あ、まぁするんじゃないか?うん」


嘘が下手くそな俺がここで、下手な嘘を敢えてついた場合。
即刻看破されて俺は軽蔑の眼差しを向けられるだろう。
何でわかるのかって?


過去が全てを物語っているからだ……!


「何でそんなに目を泳がせてるの?」
「い、いや?そんなことはないと思うぞ?」
「嘘。私との子ども、ほしくないの?」


待て待て、待ってくれよ。
何で俺、この若さで女から子どもほしくないの?とか詰め寄られてんの?
それも食事中に。


別に将来的な話をするのであれば、ほしくないとは言わないけども。
今すぐって言われたらそりゃ尻込みもしますわ。
だって俺がまだまだ子どもじゃない。


経済力だってないし、時間だって思ったよりないし。
最悪俺が苦労する分には全然構わないけど、子どもとその親に苦労をかけるというのはいかがなものだろうか。
そう考えると、ほしいです!とか気軽に言える問題じゃないと思うんだけど。


「ほしいです、じゃあ作りましょう、ってなる様なものじゃない、と一応答えておこうか」
「何で?」
「子どもってのは、お金がかかるんだよ」
「どういうこと?」


ふむ、神界で育てるんだと勝手が違うということなのかな。
確かに子は宝、なんて言う割に子育てに莫大なお金が必要ってのも何だか変な話だと、俺は思わないでもない。
具体的にどれくらいかかるとか、そういうのは正直知らない。


そういうことを考え出すと、先生ってあれだけの人数抱えてるわけだけど、凄いことしてるんだなって思う。
俺や良平はもうある程度手がかからないとは言っても、まだ小さい子も施設にはいるし、俺たちを抜いてもまだ七人いるんだからな。
それに俺なんて最近ほとんど施設にいない放蕩息子みたいな感じだし。


「子どもだって、何も食べないで育つわけじゃないからな。食費は当然かかる。自分でトイレとか行けないから、オムツだって必要だ。紙オムツを買うにしても、洗って繰り返し使えるのを買うにしても、お金はかかる。ここまではいいか?」
「意義あり!」


何処でそんな言葉覚えてきた……別に下品な単語じゃないからいいけどさ。


「そのオムツっていうのは、私が作っちゃダメなの?その気になれば大輝にも出来ると思うんだけど」
「……あ、そうか。消耗品は作ることもできなくはないのか。盲点だったわ」
「それに子どもの食事だって、その気になれば私は多分作れるよ?」
「服も……そうだな。でも予防接種とか……必要ねぇな。あれ、そう考えると障害って思ったより少ない?」
「人間にはそういう力ないからそんな発想にならないかもしれないけど、神はそこまで苦労して子育てとかしてないんだよ?」
「…………」


説得するつもりが、何故か説得されている俺。
んな神の常識とか知らんし、頭にないからな。
人間の尺度で考えるのが今まで当たり前で、それが今後少しずつ変わるんだとしても、ある程度は人間の発想で暮らすことには違いないだろうし。


まぁ神力はその名の通り万能の力ではあるんだろうけど……人間界で暮らすのであればさすがにそれに頼りきりになるというのはどうなんだろう、と考えるのはやっぱり俺の発想が凡人だからなのか?
というか……そもそも何で、俺の子どもなんかほしいんだろう、あいは。


「俺からも一つ聞きたいんだけど」
「うん、いいよ」
「俺の子どもがほしい理由は?というか、人間界で十五歳かそこらの子どもが子どもを作るっていうのが、発想としてないからって言うのもあって気になるんだけど」
「そうなんだ、それは知らなかった。んー、強いて言うのであれば、大輝の子どもだからほしい。好きな人の子ども欲しがるのって、おかしいこと?」


そう言われたらおかしい、なんて言えないしまぁ……おかしいとは思わないけど。
それにしても真っすぐな目で見てくること。
物事をあまり知らないからなのか、閉ざされた世界で生きてきたからなのか、真っすぐ過ぎて俺にはやや眩しい。


暗黒の神っていう二つ名仕事しろよ……。
ともあれこのまま放置というわけにもいかないから、答えは出さないといけないんだが……どうしたものか。

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