やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記
第74話
「な、何だよこれ……」
大輝の背中から生えた羽は、まさしく私たち神が持っているものと同一の性質を持つものだ。
みんなも私の羽を触って騒いでいたし、それを思い出したのか固唾を呑んで大輝を見つめる。
「は、羽まで生えてきちゃったってことは、さ……もしかしてもう、完全に女の子になっちゃったってことなんじゃ……」
「滅多なこと言うなよ、朋美……そんなわけ……」
「…………」
正直な話、私としても嘘であってほしいし、みんなの意見を否定してあげたい。
だけど今目の前で起こっていることは全て事実で現実だ。
大輝はもう、女神として生まれ変わってしまったのだ。
「何とか言ってよ、睦月!何で黙ってるのよ!!」
「…………」
朋美が半狂乱で私の肩を掴んで揺さぶる。
気持ちは痛いほどわかるが、私にはどうしてやることもできない。
朋美も多分、そのことには気づいている。
だけど何かにぶつけなければ爆発してしまいそうな感情を、付き合いの長い私にぶつけているのだろう。
「よせ、朋美……睦月に当たっても仕方ない」
和歌さんがやんわりと朋美の手首を掴み、私から引きはがす。
朋美としても相当なショックなのだろう、抵抗の意志は見せなかった。
そして和歌さんは朋美の肩を抱いて、俯いている。
「う……ああ……ああああああああ!!」
「っ……!?」
しかし朋美が私から離れた直後、大輝の体の光がより一層強まり、大輝は苦しみの声を上げる。
大輝から感じる神力が今までの比でないほどの強さを見せ、その顔は更なる苦悶の表情に歪んでいた。
「眩しい……!目を開けていられないわ……」
「一体、どうなっちまったんだ、大輝……!」
やがてその光は大輝の体に吸い込まれる様に収束していき、大輝の顔からも苦しみが消えた様に見えた。
神力のうねりも感じない。
「大輝、おい大輝!!」
愛美さんを始めとするメンバーが大輝に駆け寄ってその体を揺さぶる。
私も近くまで行って様子を見るが、大輝は時折呻くのみだった。
「なぁ……大輝の体、さっきまでより熱いんだけどこれ大丈夫なのか?」
「わからない……でも冷やしたりとかが適正な処置になるのかどうかもわからないからね……様子見るしかないんじゃないかな……」
先ほどまでよりも苦しそうではないにしろ、放置しか現状出来ないというのは私としても辛い。
せめて熱だけでも取ってあげられれば、と思って大輝の頭に触れると、大輝は私の神力に反応したのか、少しずつ目を開けた。
「……大輝?」
「う……ここは……」
「大輝!!」
みんなが目を開けた大輝に群がる。
押しくらまんじゅうの様に大輝はもみくちゃにされたが、まだ状況が掴めていない様だ。
「何で、みんないるんだ……?それにこの声……」
そう言って大輝は自分の体をくまなく触っていき、自分の変化を確認した。
「そうか……ロキとフレイヤはやってくれたんだな」
「……ねぇ、大輝、それって……もしかして大輝が自分で望んだって言うのは、本当のことなの?」
朋美が不安そうな声を上げ、私を見た。
大輝の答えによっては、私はとんでもないことをしたことになるのだ。
「本当だよ。最初連れ去られた時は、さすがに混乱したけどさ。それでも俺の生い立ちとか事情を全部話してくれて、俺の中に力が眠っているっていうのが分かった時……俺はロキたちにその力を引き出してもらう様に頼んだんだ」
「っ!!」
一番聞きたくなかった答えだった。
まさかあのロキが言っていたことが本当だったなんて……みんなも私と同じ思いなのか大輝から目を逸らしている。
「それで、みんなは何でそんな物々しい武器とか持ってるんだ?そこにいるのは、睦月の本当の姿ってやつで合ってるか?あとロキとフレイヤは?帰ったわけじゃないんだよな?」
「…………」
誰も答えないことに業を煮やしたのか、大輝は近くにいた朋美の頭に手を当てる。
突然のことに朋美はびくっとしていたが、逆らうことはしない。
そして一瞬神力の発動を感じたが、すぐにそれは収まった。
「……そういうことか……ロキも何で煽る様なことしたんだか……」
「え、ちょっと、何?何したの?」
「……記憶を読んだんだね?」
神力の使い方を、大輝は間近で見ていたからなのかよくわかっている様だ。
そして記憶を読まれた朋美はパニックになって、顔を真っ赤にしていた。
「な、き、記憶って!!お、女の子の記憶読むなんて、何考えてんのよ、スケベ!!」
「お、落ち着けって……ここ数時間のしか見てないから。それにこうでもしなきゃ話は進まないだろ?」
そう言いながら大輝は私を軽く睨んだ。
責めようという意志は見えないものの、私としてはどうしても後ろめたいのでその目を直視することが出来ない。
「まぁ、神は死なないっていうのは知ってるけど……やりすぎじゃないか?ロキ、割と本当のこと言ってたみたいだし。まぁ、言い方というか煽る様な態度取ってたのはロキも悪いかもしれないけどさ」
「……ごめん」
「俺に謝っても仕方ないけどな。あの二人は俺にとっては恩人みたいなもんなんだ。睦月は嫌いなのかもしれないけど……」
「…………」
「だけど大輝、女の子になっちゃったんだよ!?それでいいの!?私たちとの関係はどうなるの!?」
泣き出しそうな表情で朋美が大輝に縋り付く。
確かに女の子になってしまったし、こればっかりはどうしたらいいのか、答えが出ない。
「……お前ら、フレイヤが言ってたことの意味がわかってないのか」
「どういうこと?」
この状況にあっても桜子は比較的冷静な様だ。
あまり悲観していない様に見える。
もしかして女の大輝をもう、受け入れちゃった、とか……?
「俺が不完全だ、ってフレイヤは言っていただろ?あれな、人間とのハーフだからずっと女神でいることは出来ない、って意味なんだぞ」
「……は!?」
一同が騒然として、大輝を見る。
私としてもさすがにその答えは予想していなかった。
もう女としての大輝をどうやって愛して行くか、とかそんなことばっかり考えていたのだ。
「女神でいられる時間自体は訓練次第で今後どうにでも出来るみたいだけどな。多分このまま時間が経ったら俺、また人間の男に戻るだろうって言ってたよ。で、女神になりたかったら変身するイメージだとか何とか」
「…………」
「まぁ人間界では俺普通に男として育ったし、戸籍も男だからどうしようって思ってたのは事実なんだけどさ。納得してくれたか?」
そう言って大輝は私たちを見る。
みんな、まだ大輝が女神の状態だからかその言葉を鵜呑みには出来ないでいる様だ。
「まぁ、それはそれとして……これからどうするんだ?どの道ここにいる意味はもうないんだろ?」
「……まぁ、そうかな」
「他に何かしたいこととかある?」
みんなに一応の意志確認をしておく。
何もやりたいことなどがないのであれば、正直な話私としては早く帰って休みたい。
もちろんあるのであれば付き合おうとは思うが、みんなだってそこまで体力に余裕があるとは思えない。
「あ、ねぇ……でもお節介かな……」
「どうしたんだ、桜子。言いかけてやめるなんて、らしくないぞ」
桜子が何か思いついて、しかし言いかけて辞めるのを、大輝が不思議そうに見つめる。
私には何となく、桜子の言いたいことがわかってしまった。
「あの……大輝くんのお母さん、誰だかわかったんだよね?睦月ちゃんも知ってる神なんでしょ?」
「ああ、まぁ知ってるっちゃ知ってるかな。随分長いこと会ってないけどね」
「ならさ……」
「ああ、そうだな」
「うん、それがいい」
みんなの意見が一致する中、大輝だけは何とも気が進まない様な顔をしている。
せっかく母親のことが分かったと言うのに、会いたくないのだろうか。
「えっと……何て言うか、今更母親って言われても、実感湧かないんだよな。ロキから聞いた時もそうだったんだけどさ」
「それでも、母親は母親よ。生まれて間もない大輝くんに、成長した姿を見せてくれ、って言っていたそうじゃない」
「それに、大輝くんの赤ちゃんの頃の話とかわかるかもしれないじゃん」
「あ、私もそれちょっと興味あるかも」
「うーん……」
どうやら気が進まないというよりは緊張しているとか、恥ずかしいとか、そういう感じなのかもしれない。
きっとどんな顔をして会えばいいのかわからなくて、何を話せばいいのかわからない。
元々いないものとして育っているのだから、仕方ないとは思う。
とは言えここで会わなければ、次はいつになるかもわからない。
なのであれば、私としても会わせてやった方がいいかな、と思い始めていた。
なので渋る大輝の意志は半分無視で、オーディンへの報告の後にでも行くことにした。
「じゃあ、オーディンからもらった薬使うか……って、あれ?」
「……どうしたの?」
私は服の中に手を突っ込んで、くまなく探ってみる。
しかし何処を探しても、あの薬は見当たらなかった。
次第に焦る気持ちが湧き上がってきて、みんなにもそれが伝わってしまう。
もしかして、薬……胸の谷間をすり抜けて落ちちゃった?
「ま、まさか……」
「……ない。薬、どこにも……」
「はぁ!?あれないと、帰れないんじゃないっけ!?」
「う、うん……おかしいなぁ……」
「おい、何処にその薬しまったんだ?預かってるとこまでは見たけど……」
「……富士子ちゃんみたいに、胸元に」
「…………」
みんなは目を丸くして私を見ている。
薄着のせいかな、視線と一緒に寒さが漂ってくる様な感覚がある。
「その服、ポケットなんかついてないわよね」
「おいおいマジかよ……桜子にでも持っててもらった方が良かったんじゃないか?」
「いや、何かパシリみたいにするのも悪いかなって……」
「何であんなときにそんな下らないこと拘ってんのよ……」
あの時は私もちょっと焦ってて、拘ってたというか思いついたまま行動していたという感じだった。
やっぱり焦って何かをするというのはマイナスでしかないんだな、と改めて思う。
しかしそれはさておいて……どうしよう。
「ねぇ、まさかとは思うけど……ここで一生暮らさないといけないの?」
「……えっと、一生ってことは多分ないんじゃないかな。あんまりにも戻らない様ならオーディンだって調査隊くらい派遣してくれるかもしれないし。それに、食べ物ならそこらにいるからさ」
「……あんな魔獣の肉を食べろって!?どんな副作用があるかわからないし、正直怖くて食べられないわよ!!」
まずいことに私と大輝以外は、パニックに陥りつつある。
このままじゃ収拾がつかないかもしれない。
「なぁ、みんなが言ってるのってゲートのことか?」
「そ、そうだけど……」
朋美の記憶をどの程度読んだのかはわからないが、大輝はゲートの存在を知っている様だ。
「それなら俺、作れるよ。やってみようか?」
「は?何で?どういうこと!?」
大輝から飛び出した思いもよらない言葉に、私は思わず大きな声を出してしまった。
もちろんそれが本当なのであればこれ以上のことはないが、にわかに信じがたい。
「ロキが、俺の意識がない間に教えてくれてたっていうか……説明が難しいんだけど、とにかく出来る。これしか方法ないみたいだし、やってみるよ」
「え、ええ?」
大輝の言った言葉が本当なのかはわからないが、これしか方法がないのであればそれに縋るしかない。
本当ならカッコよく薬使って、今頃神界に戻っているはずなのに。
そんな私の思惑はさておいて、みんなは固唾を呑んで大輝の様子を見守っていた。
「こんな感じ……だったよな……」
ぶつぶつ言いながら、大輝はその体に膨大な神力を充満させていく。
どうでもいいけど、こんな超絶可愛い顔した俺っ娘とか萌えすぎて色々やばい。
手探りながら神力を操って懸命にゲートを生成しようとしている姿とか、本当に萌える。
「よし、行くぞ。ちょっとまだコツがわかってない部分もあるけど、一分程度は維持できると思うから。開いたらすぐにみんなで行ってくれ」
大輝がそう言って、両手からあのゲートを生成する。
まさか大輝が、こんなことまで出来る様になっていたなんて。
目の前に現れたゲートを見て、みんなは歓声を上げた。
「す、すげぇ!!本当に出来てる!!」
「大輝、よくやった!!帰ったら好きなものご馳走してやるからな!」
今にも胴上げでもせんばかりの勢いで、みんなが大輝に群がる。
苦笑いで大輝は応えて、早くゲートをくぐる様にみんなを促した。
「睦月、どうした?行かないのか?」
みんながくぐり終えて、私と大輝だけが残った状態。
私は、このゲートが開かれた瞬間から覚えていた興奮を、抑えきれなかった。
何も出来ない可愛い彼氏だと思っていた子が、こんなにも見事な成長を遂げた、そのことに対して私は言い知れぬ興奮を覚えていた。
「……行くよ、さぁ」
私は大輝にキスでもしてやりたい衝動を死ぬ気で抑えて、大輝の手を握る。
笑顔で応えて大輝もその手を握り返して、私たちは二人でゲートをくぐった。
大輝の背中から生えた羽は、まさしく私たち神が持っているものと同一の性質を持つものだ。
みんなも私の羽を触って騒いでいたし、それを思い出したのか固唾を呑んで大輝を見つめる。
「は、羽まで生えてきちゃったってことは、さ……もしかしてもう、完全に女の子になっちゃったってことなんじゃ……」
「滅多なこと言うなよ、朋美……そんなわけ……」
「…………」
正直な話、私としても嘘であってほしいし、みんなの意見を否定してあげたい。
だけど今目の前で起こっていることは全て事実で現実だ。
大輝はもう、女神として生まれ変わってしまったのだ。
「何とか言ってよ、睦月!何で黙ってるのよ!!」
「…………」
朋美が半狂乱で私の肩を掴んで揺さぶる。
気持ちは痛いほどわかるが、私にはどうしてやることもできない。
朋美も多分、そのことには気づいている。
だけど何かにぶつけなければ爆発してしまいそうな感情を、付き合いの長い私にぶつけているのだろう。
「よせ、朋美……睦月に当たっても仕方ない」
和歌さんがやんわりと朋美の手首を掴み、私から引きはがす。
朋美としても相当なショックなのだろう、抵抗の意志は見せなかった。
そして和歌さんは朋美の肩を抱いて、俯いている。
「う……ああ……ああああああああ!!」
「っ……!?」
しかし朋美が私から離れた直後、大輝の体の光がより一層強まり、大輝は苦しみの声を上げる。
大輝から感じる神力が今までの比でないほどの強さを見せ、その顔は更なる苦悶の表情に歪んでいた。
「眩しい……!目を開けていられないわ……」
「一体、どうなっちまったんだ、大輝……!」
やがてその光は大輝の体に吸い込まれる様に収束していき、大輝の顔からも苦しみが消えた様に見えた。
神力のうねりも感じない。
「大輝、おい大輝!!」
愛美さんを始めとするメンバーが大輝に駆け寄ってその体を揺さぶる。
私も近くまで行って様子を見るが、大輝は時折呻くのみだった。
「なぁ……大輝の体、さっきまでより熱いんだけどこれ大丈夫なのか?」
「わからない……でも冷やしたりとかが適正な処置になるのかどうかもわからないからね……様子見るしかないんじゃないかな……」
先ほどまでよりも苦しそうではないにしろ、放置しか現状出来ないというのは私としても辛い。
せめて熱だけでも取ってあげられれば、と思って大輝の頭に触れると、大輝は私の神力に反応したのか、少しずつ目を開けた。
「……大輝?」
「う……ここは……」
「大輝!!」
みんなが目を開けた大輝に群がる。
押しくらまんじゅうの様に大輝はもみくちゃにされたが、まだ状況が掴めていない様だ。
「何で、みんないるんだ……?それにこの声……」
そう言って大輝は自分の体をくまなく触っていき、自分の変化を確認した。
「そうか……ロキとフレイヤはやってくれたんだな」
「……ねぇ、大輝、それって……もしかして大輝が自分で望んだって言うのは、本当のことなの?」
朋美が不安そうな声を上げ、私を見た。
大輝の答えによっては、私はとんでもないことをしたことになるのだ。
「本当だよ。最初連れ去られた時は、さすがに混乱したけどさ。それでも俺の生い立ちとか事情を全部話してくれて、俺の中に力が眠っているっていうのが分かった時……俺はロキたちにその力を引き出してもらう様に頼んだんだ」
「っ!!」
一番聞きたくなかった答えだった。
まさかあのロキが言っていたことが本当だったなんて……みんなも私と同じ思いなのか大輝から目を逸らしている。
「それで、みんなは何でそんな物々しい武器とか持ってるんだ?そこにいるのは、睦月の本当の姿ってやつで合ってるか?あとロキとフレイヤは?帰ったわけじゃないんだよな?」
「…………」
誰も答えないことに業を煮やしたのか、大輝は近くにいた朋美の頭に手を当てる。
突然のことに朋美はびくっとしていたが、逆らうことはしない。
そして一瞬神力の発動を感じたが、すぐにそれは収まった。
「……そういうことか……ロキも何で煽る様なことしたんだか……」
「え、ちょっと、何?何したの?」
「……記憶を読んだんだね?」
神力の使い方を、大輝は間近で見ていたからなのかよくわかっている様だ。
そして記憶を読まれた朋美はパニックになって、顔を真っ赤にしていた。
「な、き、記憶って!!お、女の子の記憶読むなんて、何考えてんのよ、スケベ!!」
「お、落ち着けって……ここ数時間のしか見てないから。それにこうでもしなきゃ話は進まないだろ?」
そう言いながら大輝は私を軽く睨んだ。
責めようという意志は見えないものの、私としてはどうしても後ろめたいのでその目を直視することが出来ない。
「まぁ、神は死なないっていうのは知ってるけど……やりすぎじゃないか?ロキ、割と本当のこと言ってたみたいだし。まぁ、言い方というか煽る様な態度取ってたのはロキも悪いかもしれないけどさ」
「……ごめん」
「俺に謝っても仕方ないけどな。あの二人は俺にとっては恩人みたいなもんなんだ。睦月は嫌いなのかもしれないけど……」
「…………」
「だけど大輝、女の子になっちゃったんだよ!?それでいいの!?私たちとの関係はどうなるの!?」
泣き出しそうな表情で朋美が大輝に縋り付く。
確かに女の子になってしまったし、こればっかりはどうしたらいいのか、答えが出ない。
「……お前ら、フレイヤが言ってたことの意味がわかってないのか」
「どういうこと?」
この状況にあっても桜子は比較的冷静な様だ。
あまり悲観していない様に見える。
もしかして女の大輝をもう、受け入れちゃった、とか……?
「俺が不完全だ、ってフレイヤは言っていただろ?あれな、人間とのハーフだからずっと女神でいることは出来ない、って意味なんだぞ」
「……は!?」
一同が騒然として、大輝を見る。
私としてもさすがにその答えは予想していなかった。
もう女としての大輝をどうやって愛して行くか、とかそんなことばっかり考えていたのだ。
「女神でいられる時間自体は訓練次第で今後どうにでも出来るみたいだけどな。多分このまま時間が経ったら俺、また人間の男に戻るだろうって言ってたよ。で、女神になりたかったら変身するイメージだとか何とか」
「…………」
「まぁ人間界では俺普通に男として育ったし、戸籍も男だからどうしようって思ってたのは事実なんだけどさ。納得してくれたか?」
そう言って大輝は私たちを見る。
みんな、まだ大輝が女神の状態だからかその言葉を鵜呑みには出来ないでいる様だ。
「まぁ、それはそれとして……これからどうするんだ?どの道ここにいる意味はもうないんだろ?」
「……まぁ、そうかな」
「他に何かしたいこととかある?」
みんなに一応の意志確認をしておく。
何もやりたいことなどがないのであれば、正直な話私としては早く帰って休みたい。
もちろんあるのであれば付き合おうとは思うが、みんなだってそこまで体力に余裕があるとは思えない。
「あ、ねぇ……でもお節介かな……」
「どうしたんだ、桜子。言いかけてやめるなんて、らしくないぞ」
桜子が何か思いついて、しかし言いかけて辞めるのを、大輝が不思議そうに見つめる。
私には何となく、桜子の言いたいことがわかってしまった。
「あの……大輝くんのお母さん、誰だかわかったんだよね?睦月ちゃんも知ってる神なんでしょ?」
「ああ、まぁ知ってるっちゃ知ってるかな。随分長いこと会ってないけどね」
「ならさ……」
「ああ、そうだな」
「うん、それがいい」
みんなの意見が一致する中、大輝だけは何とも気が進まない様な顔をしている。
せっかく母親のことが分かったと言うのに、会いたくないのだろうか。
「えっと……何て言うか、今更母親って言われても、実感湧かないんだよな。ロキから聞いた時もそうだったんだけどさ」
「それでも、母親は母親よ。生まれて間もない大輝くんに、成長した姿を見せてくれ、って言っていたそうじゃない」
「それに、大輝くんの赤ちゃんの頃の話とかわかるかもしれないじゃん」
「あ、私もそれちょっと興味あるかも」
「うーん……」
どうやら気が進まないというよりは緊張しているとか、恥ずかしいとか、そういう感じなのかもしれない。
きっとどんな顔をして会えばいいのかわからなくて、何を話せばいいのかわからない。
元々いないものとして育っているのだから、仕方ないとは思う。
とは言えここで会わなければ、次はいつになるかもわからない。
なのであれば、私としても会わせてやった方がいいかな、と思い始めていた。
なので渋る大輝の意志は半分無視で、オーディンへの報告の後にでも行くことにした。
「じゃあ、オーディンからもらった薬使うか……って、あれ?」
「……どうしたの?」
私は服の中に手を突っ込んで、くまなく探ってみる。
しかし何処を探しても、あの薬は見当たらなかった。
次第に焦る気持ちが湧き上がってきて、みんなにもそれが伝わってしまう。
もしかして、薬……胸の谷間をすり抜けて落ちちゃった?
「ま、まさか……」
「……ない。薬、どこにも……」
「はぁ!?あれないと、帰れないんじゃないっけ!?」
「う、うん……おかしいなぁ……」
「おい、何処にその薬しまったんだ?預かってるとこまでは見たけど……」
「……富士子ちゃんみたいに、胸元に」
「…………」
みんなは目を丸くして私を見ている。
薄着のせいかな、視線と一緒に寒さが漂ってくる様な感覚がある。
「その服、ポケットなんかついてないわよね」
「おいおいマジかよ……桜子にでも持っててもらった方が良かったんじゃないか?」
「いや、何かパシリみたいにするのも悪いかなって……」
「何であんなときにそんな下らないこと拘ってんのよ……」
あの時は私もちょっと焦ってて、拘ってたというか思いついたまま行動していたという感じだった。
やっぱり焦って何かをするというのはマイナスでしかないんだな、と改めて思う。
しかしそれはさておいて……どうしよう。
「ねぇ、まさかとは思うけど……ここで一生暮らさないといけないの?」
「……えっと、一生ってことは多分ないんじゃないかな。あんまりにも戻らない様ならオーディンだって調査隊くらい派遣してくれるかもしれないし。それに、食べ物ならそこらにいるからさ」
「……あんな魔獣の肉を食べろって!?どんな副作用があるかわからないし、正直怖くて食べられないわよ!!」
まずいことに私と大輝以外は、パニックに陥りつつある。
このままじゃ収拾がつかないかもしれない。
「なぁ、みんなが言ってるのってゲートのことか?」
「そ、そうだけど……」
朋美の記憶をどの程度読んだのかはわからないが、大輝はゲートの存在を知っている様だ。
「それなら俺、作れるよ。やってみようか?」
「は?何で?どういうこと!?」
大輝から飛び出した思いもよらない言葉に、私は思わず大きな声を出してしまった。
もちろんそれが本当なのであればこれ以上のことはないが、にわかに信じがたい。
「ロキが、俺の意識がない間に教えてくれてたっていうか……説明が難しいんだけど、とにかく出来る。これしか方法ないみたいだし、やってみるよ」
「え、ええ?」
大輝の言った言葉が本当なのかはわからないが、これしか方法がないのであればそれに縋るしかない。
本当ならカッコよく薬使って、今頃神界に戻っているはずなのに。
そんな私の思惑はさておいて、みんなは固唾を呑んで大輝の様子を見守っていた。
「こんな感じ……だったよな……」
ぶつぶつ言いながら、大輝はその体に膨大な神力を充満させていく。
どうでもいいけど、こんな超絶可愛い顔した俺っ娘とか萌えすぎて色々やばい。
手探りながら神力を操って懸命にゲートを生成しようとしている姿とか、本当に萌える。
「よし、行くぞ。ちょっとまだコツがわかってない部分もあるけど、一分程度は維持できると思うから。開いたらすぐにみんなで行ってくれ」
大輝がそう言って、両手からあのゲートを生成する。
まさか大輝が、こんなことまで出来る様になっていたなんて。
目の前に現れたゲートを見て、みんなは歓声を上げた。
「す、すげぇ!!本当に出来てる!!」
「大輝、よくやった!!帰ったら好きなものご馳走してやるからな!」
今にも胴上げでもせんばかりの勢いで、みんなが大輝に群がる。
苦笑いで大輝は応えて、早くゲートをくぐる様にみんなを促した。
「睦月、どうした?行かないのか?」
みんながくぐり終えて、私と大輝だけが残った状態。
私は、このゲートが開かれた瞬間から覚えていた興奮を、抑えきれなかった。
何も出来ない可愛い彼氏だと思っていた子が、こんなにも見事な成長を遂げた、そのことに対して私は言い知れぬ興奮を覚えていた。
「……行くよ、さぁ」
私は大輝にキスでもしてやりたい衝動を死ぬ気で抑えて、大輝の手を握る。
笑顔で応えて大輝もその手を握り返して、私たちは二人でゲートをくぐった。
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