やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第9話

あの失敗とも成功とも言い難い初デートから早くも一週間。
俺は春海の家で勉強に勤しんでいた。
何でこんなことになっているのかと言うと……。


先週のデート終わりに帰ろう、ということになった時、春海から来週は勉強道具を持ってうちに来てね、と言われて特に何も考えずに了解してしまっていた。
毎週末はデートを、という話には元々なっていたのだが、この時俺は深く考えずに返事をしてしまって、前日になって春海に言われたことを思い出して慌てて準備をしたという経緯がある。


実は以前一度だけ、春海の家に行ったことがある。
当の春海は軽い調子で遊びにおいでよ、なんて言ってくれていたのだが、俺には女子の家に行った経験などなく、その頃女子と遊ぶってだけでも冷やかされる様な年齢だった事から、女子の家とかいいのかな、なんて思っていた。
春海の家は、物凄く大きな「お屋敷」というやつだった。


都内であの規模の家とか、今でこそどうやったら建てられるの?って思うものの、当時はそんな知識があったわけでもない。
だから、ああ、お嬢様なのかな、くらいに思っていた。
しかしあれだけでかい家だから、お手伝いさんとかメイドさんみたいなのがいたりするんじゃないかってちょっとワクワクしていたのだが、母親の秀美さんが一人で家事やらを切り盛りしていると聞いて、子ども心に尊敬のまなざしを向けたものだ。


父親の春喜さんは何て言うか、カッコいい大人の見本みたいな人だった。
後から聞いた話では、春海が春喜さんに俺のことを話したら絶望に満ちた顔をしていた、なんて言っていたけど、実際に会ってみたらめちゃくちゃいい人で、俺にもこういうお父さんいたら良かった、とか考えたことがある。


「大輝はさ、高校どうするとか、もう考えてる?」
「は?高校?」


姫沢家での勉強に勤しみながら……とは言っても今日やってるのは出された宿題程度のものだが、春海が俺に尋ねてくる。
勉強デートなんてのも悪くない、と思っていた俺だったが、よくよく考えればここでそれだけで済むなんて思っていたのは甘かったと言わざるを得ない。
そして、正直高校のことなんか考えていない。


というか、まだ中学に入ったばかりのこの時点で高校のことなんか考えてるやつの方が、マイノリティというやつではないだろうか。
もちろん、中学を出たら働いてもいいかな、くらいのことは以前考えたことがあったが、その考えは施設の先生によって打ち消された。
ガキがそんなことを心配するなと、高校くらいは出ておけというのが先生の考えで、良平も同じ様なことを言われていたっけ。


とは言っても、まだ中学に入ったばかりということもあって、高校と言われてもイマイチイメージできない。
だって、そんなの後二年くらいしてから考えたらいいんじゃないの?


「私ね、大輝と同じ高校に行きたいと思ってるの」


そんな呑気なことを考えていると、春海の口から思わぬ言葉が返ってくる。
確かに今離れたところに住んでいて、中学も別々というものではあるが高校で一緒になろうということすら、俺はまだ考えていなかった。


「ふむ……」
「何?嫌なの?」


言われてふと想像してみようなんて考えていたら、春海が詰め寄ってくる。
もちろん、嫌なわけがない。
寧ろいつでもウェルカムだ。


「まぁ落ち着け……そうじゃなくて、高校とか言われてもまだ明確なイメージができないっていうか……だって、俺たちまだ中学入ったばっかりだからさ」
「まぁ、それは事実だけどね。けど、割とあっという間に中学の三年間って過ぎちゃうんじゃないかな。大輝は今、楽しい?」


楽しくないわけがなかろう。
だって、この歳でこんなにも可愛い彼女がいて、充実してないんだとしたらDV的な何かをされてるとかそんなのを疑われそうじゃないか?


「楽しいんだったら、尚更あっという間だよ。パパは経験からそう言ってたし、私もきっとそうなんだろうなって思うから」
「ふむ……だとしたら、そうなのかもしれないな」


春喜さんがそう言うのであれば、おそらくそれは間違いではないだろう。
あの人の言うことには何て言うかこう……説得力みたいなものが満ちている様に思える。


「だからさ、今からだと早いって感じるかもしれないけど、私たち一緒の高校に進学することを目標にしない?勉強苦手なら二人で頑張ったらいいんだし」


二人で頑張る、という言葉に良からぬ連想をしてしまう。
これも男のさがというやつなのだろうか。


「え、えーと春海は勉強得意なんだっけ?」
「今のところ苦手教科はないかなぁ」


予想はしてたが、本当に万能なんだなと思う。
春海が何かを苦手としているところとか、そういえば見たことないかもしれない。


「一応聞くけど、それって公立だよな?私立だとさすがに金銭的な部分でお手上げだからさ」
「もちろんその辺はわかってるよ。公立の共学ね。まぁ、大輝は可愛いから女子高に入っても問題なさそうに見えるけど……」


いやあるから。
めっちゃあるから。
胸は膨らんでないのに、良からぬ妄想でスカートの前が膨らんでたりしたら大変だろ?


「パパは最初私立のお嬢様高校行かせたいって思ってたみたいだけど……今はやりたい様にやってみなさい、って言ってくれてるから」


さすがは春喜さんだな。
その寛大なこと大海のごとし、だ。
言われた通り共学の高校に二人で通うところを想像してみる。


大変よろしいです。
春海と毎日会えるなんて、俺からしたら天国みたいな生活だ。
それどころか、もはやパラダイスじゃないか。


何でもっと早く教えてくれなかったのか……いや、もっと早く言われてたら多分俺理解できてないわ。
とは言っても高校入ったらバイトをしたい、とも考えてるからすり合わせは必要になるんだろうけど。
それに今は俺たちが離れたところに住んでいることもあって、春海が毎回会いに来てくれている。


春海の家は金持ちらしいから、その辺の心配なんて、って言われるかもしれない。
だが、俺個人は男としてそれでいいとは思っていない。
少しでも春海の負担を減らしたいって思うし、余計かもしれないが俺だって突然、きちゃった、とかやってみたいのだ。


「春海の言いたいことはわかった。なら、そうできる様に頑張ってみるのもいいな。高校の目星はつけてあるのか?」


そう言った俺に対して、むふ、と笑って春海が取り出したのは何と、都内の公立上位四校のパンフレット。
本気で仰ってるんでしょうか、このお方。
そしてパンフレットと一緒に参考書の様な物もあるのが見える。


用意周到ですこと……。


もちろん何が何でも絶対にトップの学校と言われてるわけではないし、上位四校のどれかでいいんだよ、なんて春海は言っていたが、それでも俺からしたら夢物語みたいなものだ。
しかし春海曰く、今から学力を上げておけば通常の中間期末のテストで評価も上がって偏差値も上がって、といいことづくめだという。
今まで上位、という言葉と無縁な人生を送ってきた俺からすると雲を掴む様な話ではあるが、その雲を俺に掴ませる為に頑張ってくれてる春海の為に、俺も覚悟を決めることにした。


それからしばらく、なら頑張りますか、ということで参考書と睨めっこを再開していた。
なのに春海は早くも飽きてしまった様で、俺にちょっかいかけようとしてくる。
発案者お前なんだけど……。


「ねぇ大輝」
「んー?」


シャーペンの芯で俺の腕をつついてくる。
布がないとこそういう鋭利なものでつつくのやめれ……結構痛いんだって。


「私のことが大好きな大輝は、受験までの間何処までならしてもいいって考えてるの?」


あれ、いつそんな話した?
告白の時も敢えてそのワード避けたし、仮に言うとしても大とか多分俺つけないんだけど。
いやもちろん嫌いってわけではないけどさ。


「えっと、お前は一体何を言ってるの?」
「だって、最近そういうのなかったし」
「元々控えめでしょうが、俺たち……」


そもそもそういうのって言ってもキスくらいしかしてないし、それだって数える程度のはずなんだが。


「ねぇねぇ。キスって、やり方によってはエロいと思わない?」
「ぶっ!!」


敢えて考えない様にしてたんだけど、何でこいつは遠慮なくぶっこんでくるんだろう。
やっぱりがっついてるのって俺じゃなくてこいつの方だよな、どう考えても。


「舌、入れるのは?それくらいなら、いいよね?」
「だ、ダメです……」


一回入れられましたけれども。
あんなの会う度にやってたら元々バカな俺の頭が、更にバカになってしまいそうな気しかしない。


「あ、あのな?俺は春海と同じ高校に行きたいんだ」
「大丈夫!私が教えるんだから、絶対受かる」
「何処から湧いてくるの、その自信……俺はお前ほど俺を信用できないよ。それに、俺は……お前をもっと大事にしたいって思うし……」


これは間違いなく、偽らざる俺の本音だ。
正直、ここでずんずん先に進めるほど俺は達観してないし、そうなってしまうことで春海を蔑ろにしてしまったりしないか、という懸念の方が強かった。


「前から思ってたけど、大輝って女の子に理想抱きすぎじゃない?」
「そ、そうか……?」
「女の子って、大輝が考えてるよりもずっと、エッチなんだよ?……そんなもの抱くんだったらぁ……」


え?そうなの?エッチなの?
俺バカだから信じちゃうよ?
てか……やべ、立てなくなる……連想して別のとこが立ったせいで……。


「は、春海……?」
「私を抱いた方が、楽になれるんじゃない?」


んべっと舌を出してへらへら笑う春海。
くそ、黙ってやられてたら危なかった……。


「はいストップ!余計なこと言ってくれたおかげで冷静になれたよありがとう!!」


ぐいっと春海を押しのけて、ガードの姿勢を取る。
今からこんな調子で、あんな理解を超えた学力を要求される様な高校とか受かるんだろうか……。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品