やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第3話

一体どうしたらいいのかわからない。
つくづく私は運命に嫌われてるんじゃないかって、思えてくる。
何をどうしても、彼は死んでしまう。


こんなことを、かれこれもう二万回以上やり直してきているが、頭の中にパターンが刻まれるだけで解決策が見えてこない。
二万回というのは、おおよその回数であって正確な回数ではない。


何をしているのか、と言われると一言では説明できないが、簡単に言えば一人の人間の人生を何度も何度も気の遠くなる回数、やり直している。
暇を持て余した、神々の遊びというやつかもしれない。


頭がおかしいとか思われてるかもしれないが、まぁ聞いてもらいたい。
色々と説明が必要な部分については、ちょっとずつ説明していくと思うから。


「スルーズ、誰に話してるの?」
「ああ、いや何ていうか備忘録的な感じで……」
「ふぅん?オーディン様から聞いているけど、これからまた人間界に行くんでしょ?」


今私に話しかけてきたのは、見た目が十代の貧乳少女だけど、運命の女神って言われてるノルン。
まぁ、こんなことを言ってる私も力の女神っていう二つ名を持っている。
女神なのに二つ名が力の女神って、女子力低い、みたいなこと言うやつは結構いる。


そうは言うが私が好きで名乗ってるわけじゃないし、名付けたのも私じゃない。
あのショタじじぃが……こんな二つ名つけてくれたせいで、私はゴリラとか言われることがしばしばあるのだ。
通常時は普通の女みたいな見た目なのに。


「みたいとか言ってる時点で、それはもう女もどきなんじゃ……」
「ノルン、あんたには懲りる、とかそういう概念ないわけ?」
「わ、悪かったからその狂暴なオーラしまってもらっていい?」
「…………」


釈然としない思いはあるが、ここでまた怒りをぶつけても私は何一つ得をしない。


「それにしても、スルーズは大変だよね。使命とは言っても、人間界へ行ってエインフェリアを探さないといけないなんて……」


そう、それが私、力の女神スルーズの使命であり、役職。
元々、ラグナロクに向けて戦力となるエインフェリアを集めることが私の使命だった。
エインフェリアっていうのは、要は人間達の中から誕生する英雄のこと。


そんな彼らの魂を集める、簡単に言ってしまえば徴兵に近いイメージかな?
私の能力で彼らの魂を昇華させてラグナロクで戦ってもらった。


私一人でだって戦えるんだからこんなことは必要ない、当時はそう思っていたんだけど。
意外にも私の集めたエインフェリアたちはラグナロクの戦いで役に立ってくれた。
それどころか彼らが居なかったら勝敗の結果も、最悪私の運命までも変わっていたかもしれない。


しかしラグナロクの終わりと共に成仏とでもいうのか、役目を果たした彼らの魂は消えてしまったので、また新しく、と思ってついつい癖というか職業病というかで今も探してしまっているのだ。
もちろん、第二次ラグナロクまた起きるなんて確証はないが、万一ということもある。


何かあったときの為、備えはいくらあっても困らないと思うし、ノルンもその辺は同意見の様だった。
だが、エインフェリアを集めるその方法がちょっと厄介で……。


「しかも、わざわざ死ぬ運命の人間に憑依するって、大変じゃない?」
「まぁ、確かにね。でもそれが私の能力だし」


エインフェリアを集めるには、人間界へ行って彼らの魂を導いてあげないといけないのだ。
そして、そのためには私の能力が必要になる。
簡単に説明してしまうと、私は自分自身を魂の状態に変化させて、人間界に送り込むことが出来る。


これによって条件はあるが、私は人間に憑依できる。
どういうわけかこの能力は私にしかなく、他の神、女神の誰も同じことができない。
だから私が人間の体に憑依して、エインフェリアを集めていた。


まぁ憑依するための条件の、死ぬ運命の人間、というのが確かにめんどくさいんだけど、それでも探せば結構いるものだし、ノルンがその辺は手伝ってくれているから、思ったよりも苦労しないで対象を探すことができている。


「それに、私が憑依すればその人間があたかも生き返ったように思われるから。助かった対象の肉親が喜んでいる顔を見るのは、割と感慨深いものがあるよ」
「だけど中身がこんなにえげつないやつになってるなんて、両親は思ってもいないだろうね」
「えげつない、ってのは余計だと思うけど……概ねその通りだよ、ちくしょう」
「しっかし、面倒な能力だよね。私たちは普通に羽隠すだけで人間界に降りられるのに」
「そんなこと言われてもなぁ……私はそれができないし、あんたたちは私の様なことができないっていう……何でだろうね、本当」
「まぁでも、スルーズにとってはその能力で人間界に降りる方が好都合なんじゃない?神の姿のままで降りれちゃったら、色々ぶっ壊しちゃいそうだし」
「ノルン、口には気を付けようか。それは暗に私をゴリラ扱いしたいのかもしれないけど、私には刺し違えてでも君を葬る用意があるんだよ……」
「ご、ごめんて……」
「はあ……。まあ、とは言っても、ノルンほど大変とは思わないけどね。私と比べたらノルンの仕事量とか……私なら気が狂ってるかもしれない」


運命の神であるノルンの仕事は、その名の通り運命の管理だ。
おおざっぱに言ってしまえば、運命というのは粗方決められた通りに、決められた方向に向けて動いている。
その運命が大きく歪んでしまったり、本来ありえない方向へ動いてしまったりすることがないかというのを観察したり、微妙な運命の変化があればそれを記録して、等々やることが多岐に渡りすぎていて、正直よくこんな仕事を一人でやる気になったな、と今でも感心する。


「私の仕事はもう、ある程度オートメーション化してあるから。スルーズが思うほど大変じゃないよ。それより――」


そう言ってノルンは、その小さい身体を使って私の目を覗き込んでくる……来た。


「スルーズ……もしかして『やり直し』してるの?何か顔色おかしくない?」


そう、彼女は私の親友というだけあって、必ず気づいてくれる。


「お察しの通り。いつもいつもお世話になっております」
「いえいえこちらこそ……というか、私が作ったシステムなんだから、気づかないわけないじゃない。どうよ、使い心地は?」
「悪くないよ。今のところ不具合なんかもない様だし」


『やり直し』と呼んでいるが、その言葉通り私は憑依先の人間の人生を何度でもやり直すことができる。
私が魂になって人間界に行って、死にかけの対象に憑依する……とまぁここまでは私の能力だ。
エインフェリアを導くという使命のためだが、これにノルンが力を貸してくれている。それが『やり直しシステム』なのだ。


ノルンが構築してくれたこのシステムは多少厄介な部分はあるものの、仕組み自体は単純明快で私の様な脳筋呼ばわりされる様なやつでも簡単に扱えている。
その効果は、憑依先の人生を巻き戻して私の任意で始めからやり直す事ができるというもの。
エインフェリアに成り得る人間というのはとても貴重だ。


まず英雄様というのは、ネズミの子みたいにそうポンポン誕生してはくれない。
だから私は憑依先の人生で英雄候補の人間に近づき、彼らを確実にエインフェリアとして導かないといけない。


そして残念ながら、そんな繊細な任務が私には出来ないってことくらいは自覚してる。
だからノルンに作ってもらったこのシステムで私は憑依先の人生をやり直す。
一回や二回失敗したって関係ない。


確実にエインフェリアに導かなくちゃいけない?
なら出来るまで何度でもやり直せばいいじゃない!という脳筋よろしくの方法を私は採用して、憑依先の人生をやり直せるようノルンにお願いしたのだ。


憑依してからの行動に関しては、ノルンが作ったシステムがナビゲートしてくれるのでそれに沿って行動していけば良いし、時間を遡って、とかそういう部分もノルンがやってくれるので非常に快適だ。


……まぁ、今は快適どころじゃ無くなっているんだけども。


「ふむ。で?今回は何回目なの?二回?三回?十回目くらいかな?」


もはや様式美とも言えるこの質問。
もう何度目だっけな……。


「……ん回」
「はい?」
「二万回。いや、厳密にはもうちょっとあるんだけど」
「……はぁぁぁああ!?今まで、多くても百か二百程度じゃなかったっけ!?……一体何の為にそこまでムキになってるの?そこまでスルーズをさせるものとか、私には想像できないんだけど……」


私は、赤裸々かつ情熱的に語る。
私と、大輝という少年の出会いを。
大輝の魂の輝きの見事さを、その可愛らしい顔を!!


可愛らしい見た目の顔もさることながら、その素晴らしく綺麗で思わず見とれてしまう様な魂の輝き。
現代の人間界において、こんなにも素晴らしい人に出会えるなんて、私は思っていなかった。


早い話が一目惚れした。
私たち神には寿命なんてないから、これから先何万年も何億年も生きることになるが、それだけ生きたところで果たして私はあんな出会いを果たせるだろうか。
なので、猛烈にアプローチして時には強引な手段に出たりして、彼を口説いた。


骨抜きにしたりもした。
私から離れられない様にした。
私が絶対に守る、そう心に決めて。


だけど、大輝は死ぬ。
二万回以上やり直したが、何をどうしても必ず死んでしまう。
だから私は今回の憑依先の人生をやり直している。何度も何度も何度も。


まぁ、彼が死ぬ原因の三割くらいは私が殺してしまったってことがあるんだけど……。
私はこう見えて……いやそのまんまかもしれないが独占欲が強い。
その為嫉妬に狂って、加減を忘れて大輝をぶん殴って首が三回転くらいして死んだこともある。
それをノルンに報告した時、ノルンは腹を抱えて笑っていた。


他には病死、食中毒とか事故死、一回だけでっかいミサイルが突如飛んできて、目の前で木っ端微塵になったこともあった。
ミサイルが飛んできた時ばかりは一瞬混乱したが、すぐに原因と発射元を突き止めて国ごと滅ぼしてからやり直したものだ。


この私がたかが人間に惚れて、何万回もやり直しているという事実を、ノルンは腹を抱えて笑う。


「あっはははは!あんたが人間にベタ惚れするなんて……。ふふふっ。あの力の女神、スルーズが!!抱腹絶倒の驚天動地だ!!第二次ラグナロクがあるとしたら、絶対このことだよね!!」


これも何度も見てきた光景ではあるが、今回はもう怒る気力も少し失せてしまっている。


「好きなだけ笑いなよ。あんたにお仕置きするのももう、飽き飽きしてきてるから。五体バラバラにしてみたり、百舌の速贄みたいにしたり……身動きできない様にして、どれだけ入るかな!って言ってつきたての餅を胃に到達するまで詰め込み続けたりってこともしたっけね」


ピタリと笑い声が止んで、次第に青い顔になっていくノルン。


「いや、その……ははっ……な、何だっけ、その男の子が死なない様にするにはどうしたらいいのか、っていうのはわかったの?」


今まではこの質問に対して決め手なんて呼べるものもなく、ただただ絶望しているしかなかった。
だけど、今回は違う。
ただ一つ、見つけた光明。


本当なら試したくなんか、なかった。
だけど……これを試すと決めたことで、今回はこのノルンの質問に、漸く今までと違う答えを返せる。返せる……のだが。はぁ……。


「……今まで通ってきた道筋全パターンを記憶して、挑んできた。ただ一つだけのパターンを除いてね」
「え?ってことは……それが正解なんじゃないの?何でやらないの?」
「彼は……はぁ……」


まったくもって気が進まないが、ノルンには教えてあげないと。
今回のやり直しも、彼女の手助けが必要なんだから。


「その、ね。……ハーレムを作らないと、死んじゃうみたいで」
「……は?」
「だから、ハーレム!女目一杯囲わないと死んじゃうの!そういう運命なの!逆に言えば、ハーレム作れば死なないんだよ!わかった!?」


つい逆ギレ気味に叫んでしまったが、私は悪くない!
ハーレムを作らないと死んでしまう運命?なんだって大輝はそんなアホな運命を背負っているんだ!?
なぁにが運命の女神だこの貧乳娘!大輝にとんでもない運命を与えやがって。


「え、えっと……ハー……レム……?ある意味で幸せな男だね、その子……」


睨みつける私から目をそらすノルン。
どうやらしらばっくれるつもりらしい。
……まあいいや。いくらノルンでも、人間一人ひとりの運命を全て把握しているわけではないし。


「ええっと、じゃあスルーズ。これからどうするの?その彼……大輝だっけ?諦めるの?」
「そんなはずがない。私は絶対に諦めないからな」
「恐るべき執念……まるで婚期を逃したおばさんが、必死で婚活してるみたい」
「その例えはやめろ。割と心にくる……」


今度は絶対死なせない。
もう二万回以上、正確な回数が分からなくなるまでこの誓いを自らの中で立てきたが、今回のそれはこれまでとは違う。


「で、もうある程度パターンは把握できたんでしょ?」
「まぁ、一応は。最速で彼と出会うに至るルートも、もうわかってる」
「だったら今度はやり直しじゃなくて、ちゃんと大輝って子を生かしたままで帰ってこれるといいね」
「大丈夫……気は進まないけど、試してみるつもりだから――」


――大輝のハーレムルートを!飛ぉべよおおおおおおお!!!




――毎度おなじみ、姫沢春海の奇跡の生還。
死にかけていたこの体が無事生還したことを喜ぶ両親の顔は、何度見てもいいものだ。
何日も昏睡状態だったこの体が突如目覚めて、衰弱していた体は私の神力によって一瞬で全快した。


医者も奇跡としか言い様がない、なんて言っていた。
魔法はないけど、奇跡はあるんだよ。


小学校低学年のこの体に、私が宿ることで並みの人間なんかとは比べ物にならない身体能力、そして超常的な力を持つことになるが、見た目が変わるわけではないので、病み上がりのこの体は休養を余儀なくされた。
毎回のことだがこの時間だけは退屈だ。
両親から聞かされる話の内容も、もう二万回以上聞いている為一言一句違わず、そのブレスのタイミングまで真似できるほど把握している。






『もうすぐ学校へ復学できます。それにあたって、あなたが取る行動を次の内から選んでください』


A 元気いっぱいであることを母親に猛烈アピールの後で二日を過ごす。
B せっかくの休養なんだし、おとなしく当たり障りなく寝て過ごす。




きた、伝令。もう聞き飽きてるんだよね、実際この声も……。
よくテレビで、プライバシー保護の為、とか言って声が編集されてる感じの。


これもノルンが作った『やり直しシステム』の一環だ。
憑依先、今回は春海の人生で運命を左右する岐路に出くわすとこんな感じで選択肢を与えてくる。
この選択肢のおかげで憑依先の人生をパターン化して進めることができ、効率よく使命を果たせる、なんて思ってたんだけど……。
まさか二万回以上もやり直すことになるとはね……。


この伝令は他人事だと思って能天気に、かつ無責任に私の次の行動を提示してくれる。
まあ所詮はただのシステムだし。
一応、選択肢を例外的に無視することもできなくはない。
ただしその場合には、意図しないどころか想像もしない、斜め上くらいの方向へと未来が動いていく。
その例の一つが、大輝に特大ミサイルが!というアレだ。


翌日に退院して帰宅できて、その二日後に学校へ行って良いと言われるわけだが、ここで春海の母である秀美に私が元気であることを猛烈アピールする必要がある。
これをしないだけで、私の体調がまだ思わしくないなんて思われてしまって、大事を取る様に言われて後の重要なイベントを逃してしまい、結果として大輝と出会えないからだ。


「ママ、私もう大丈夫だよ?ほら」


支えのない状態での逆立ち、バク宙、果てはムーンサルトと言った離れ業を披露して、毎回ママを驚愕させる。
これをやらなければ、私はこの後訪れる最重要イベントに連れて行ってもらえないという悲劇に見舞われて、やり直しを余儀なくされる。
今回はちゃんとそれをこなしたので、それほど元気なのであれば、ということになって、彼との出会いイベントに参加できる様になるのだ。


暇を潰せそうな本やCDが春海の部屋にはたくさんあるが、それらは全て、二万回以上のやり直しで飽きるほど読んだり聞いたりした。
学校へ行ける様になるまでのお休み期間は二日と決まっているし、行ったあとでやることもわかっている。
だからこの段階では先ほどの過程以外で、特に何か気を付けなければならないということもない。


そして現時点での最重要項目であるところの大輝との出会いイベントまでは、まだあと五日もある。
大事なのはこの五日ではなく、五日後のイベントなのだ。
言ってしまえば、この五日はマニュアルをなぞる様に暮らしていればいいということになる。


大輝に会うまでに小学校での二日間は言わば、暇つぶしの様なものだ。




「春海、ちょっといいかい?」
「どうしたの?」
「今度ちょっとね、パパの用事で学校休んでもらうことになるんだけど、大丈夫かな?」


パパ曰く来週の水曜が法事で、春海の曽祖父に当たる人物の墓参りとのことだった。
もちろん行かないわけがない。
これでついに大輝と出会えるのだ!


そして当日、私はシャツにショートパンツというラフないでたちでパパのおじいちゃんの家にむかう。
ただの墓参りだから、ということで喪服なんかは着なくても良いらしかった。
少し蒸し暑いし、大いに助かる。


お墓を掃除して花を手向けて手を合わせる。
こんなことに意味なんてあるのかな、とは思うがやらなければまた問題児扱いされる。


おじいちゃんの家で祖父母に挨拶をして、お昼をごちそうになってから外出許可が出たので、お言葉に甘える。
とうとう、その時がきたのだ。


私はすぐに武術の道場を探す。
まぁ、探さなくてもあの輝きですぐに見つけられるんだけど。


心が逸る。
早く彼に会いたい。
鼻息が自然と荒くなっていくのを感じる。




「誰だ?入門希望か?」


道場に到着して、大輝大輝大輝……と思いながら道場の中を見ようとすると、声がかかる。
この人はここの館長で、中年のひげを蓄えた男の人だ。


「ちょっと興味があって……申し遅れました、私は姫沢春海と言いまして……多少の経験があるんですが、見学していってもいいですか?」
「ほー、感心だな。いいだろう、入りなさい」


小学生のする挨拶とも思えなかったが、私はこうして毎回この道場にお邪魔している。
近所の子どもたちから、少し年齢が上の人まで門下にいるらしく、この道場はそこそこ賑わっている。


「どうだね、活気があるだろう?」
「そうですね。こういうの、いいですよね」


まぁ、私が言ってるいいですね、って言うのは大輝の魂の輝きに対してだけなんだけどね。
ふと顔を向けると内側から滲み出る輝きと、あの愛らしい顔。
その彼が、必死で門弟と組手をしているところだった。


ああ……見ていると体の奥が疼いてくる様な感覚が……。


「お、おい君?」


私の不穏な空気を感じ取った館長が、訝しげな顔を私に向ける。


「あ、えーと……あの子、何て言う子ですか?」


もちろん知っている。
知っているが、ここでこのやり取りは避けて通れない。


「ああ、あいつは宇堂だな。宇堂大輝」
「へぇ、宇堂……大輝くん……」


知ってるはずなのに、名前を聞いただけでもう色々やばい。
早くその体に触れたい……戯れたい……。
こうなったら、私が心の年長者として彼を導いてやらなければ……。


焦って無理やり触れる様なことがあってはならない。
ごく自然に、そう、私が飢えていることなど悟られてはいけない。
目的がもう目の前にあるのだ。


演出が必要だ。
喜劇的で、悲劇的で、情熱的かつ画期的な。
大輝に私の存在を刻み込むための、そう!!これは必要な演出……!


「組手を、やってみたいです」


割と大き目の声で言うと、道場内がざわついた。
それはそうだろう、いきなりやってきた美少女が組手したいとか、一体どういう目的なのか、って思うのが普通だと私も思う。


「宇堂と、ってことでいいのか?もっと腕の立つやつもいるが……」
「彼がいいです。彼と、やってみたいんです」


私はこの時もう、既にトキメキ限界突破していて、取り繕うことなどすっかり忘れてしまっていた。
私と館長が彼を見ると、彼もまたこちらを見ている。
戸惑い気味の目がまた可愛い。


「ま、まぁそこまで言うなら……」


よぉーし!!きたきたきたァ!!
中学生になった大輝も可愛らしさが残る感じで大変よろしかったけど、小学生のショタ大輝とか可愛すぎてマジでご馳走。
よだれが垂れそうになるのを堪えるのが大変だった。


「宇堂、前に出なさい」


館長に呼ばれた大輝はめちゃくちゃ戸惑っている。
何度見ても、この戸惑いすら愛おしい。


「宇堂、何をしている?早くきなさい。それとも、この女の子が怖いのか?」


毎度思うが、安い挑発だ。
いくら子どもでも、こんなのに引っかかる様な子って少ないと思うんだけど。
まぁ、引っかかるのが大輝なんだけどね。


「怖いわけがないでしょう!」


うん、チョロい。
チョロ可愛い。
そんなチョロい大輝と、漸く対峙する瞬間がきた。


汗かいてるのに、すごくいい匂い。
瓶とかに詰めて持って帰ってもいいかな?
そんな奇特な思いは顔に出さず、一応名乗っておく。


「私、姫沢春海。よろしくね」
「宇堂……大輝だ。女だからって手加減しないぞ」


この苗字と名前の間を溜めて言っちゃうところとか、マジでやばい。
あんまり……私を喜ばせるなよ……?


さて、うっかり殺しちゃわない様に、気をつけなきゃ……。

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