この世界に埋もれた物語[聖戦戦線]

黒猫

この世界に埋もれた物語[聖戦戦線]

世は、神位争奪戦{十天祭}の時に遡る…


それはまだ、暦なき神のいる世界


神は自らの代理を決めるべく、神位争奪戦と言う不可避な聖戦を巻き起こすのであった。






旧世界…そこには、人以外の多くの生物が存在していた。


ある時を境に、その世界の均衡は揺らぎ、各地で異種間における種の存亡をかけた争いは始まったのだ…


そして生物は本能の指示に従い、心赴くままに戦い、無意識に、どこか、なにかを目指しはじめるのであった。


それが神の異図した十天祭前夜祭だとも知らずに…


〈 十天祭 〉それは、夜明けの前触れを祝う神の祭りであり、またの名を神位争奪戦という。






十天祭の前夜祭は、抜き打ちで始められていた。
それが神位争奪戦の予選となる…


ある時、神は世界の上で手を大きく数回叩いた。
まるで寝ている子を起こすかのように…


その時、世界は昼と夜がひっくり返ったかのような暗闇に包まれ、天を仰ぐと無数の流星が衝突を始めた。


それが世界中で起きた…


その流星の衝突は動物達の闘争本能に火をつけた。


衝突による七色の閃光で、忘れていた過去の記憶を思い出したかのように、眠れる本能が呼び覚まされた。


こうして本能で食う眠るように、生物の闘いは始まったのだ…






時は経ち…数多くいた動物の個体が100分の1になった頃、その前夜祭の幕は閉じた。


突如、晴天の空に七色の雷鳴が唸りをあげた。


その時、声が聞こえた…


時はきた。


我は、十天界の神なり。
名は、始真理ハジマリである。


生けとし生ける万物に告ぐ!


多種多様、ここまで生物が爆発的進化を遂げられたのは、他でもないこの十天祭のためである。


今、この地に集い、生き残りし生物には、神の資質があると言うことである。


そして、生き残った種族の代表には、己の種の繁栄と神の位を得るために、この聖戦に挑んでもらう。


気付いてはいるだろうが我の真言を理解できるのは、ここまで生き残った祝福として、神知〈希望宝〉を与えたからである。


万物共有言語を含め、あらゆる知恵や才能を得たことだろう。


ただこれから行われる十天祭は、聖なる闘いである。


同等の知能で頭の中を見透かされていては闘いにならない、よって神の力は、個々のあらゆる質に依存するようにできている。つまり神知を得たからといって、全ての生物が同じ知能を得られるわけではない。


そして、その神知は、聖戦で戦うために祝福している為、聖戦に参加しない者からは消えてなくなる。また、聖戦に敗北した場合も同時に失われる。


逆に、最後まで生き残った者には、更に神の器が与えられる。


神の器が祝福されることで、神の代理としてこの世界に君臨することとなる。


それすなわち、この星を統べる神に等しい位が与えられるということである。


更に、神の器は血族にも祝福される。


それは種の繁栄において、大いなる種権シードとなるだろう。






十天祭を開催する前に、十天祭の歴史を踏まえて注意事項を説明する。


これは、あくまで神の代理を決めるための聖戦である。
よって、ただ強ければ良いと言う問題ではない。


今から、この世界にある話を1つしよう。


それは、この世界で急遽始まった第一回十天祭のこと、その時の世界はまだ、弱肉強食の流れに支配されていた。


時の神は、今より遥かに過酷で残忍な世界で十天祭を開催するにあたり、敵の少ない生物を順に参加権を与えたのだという。
それは、強者が弱者に従わないという時の流れを汲んだ選別であった。


そして今回同様、神知を祝福された動物達は、聖戦が始まると、強い生物から順に群れで狙うことを考えたわけだ…


当然、終盤に強い生物との真っ向勝負ともなれば、共闘する仲間がいなければ勝算はないに等しくもなるだろうが…


しかし、その最も強いと考えられた生物は、多勢に無勢の状況下において、何も考えることなく全ての相手を倒してしまったという話だ…






これは、神知を与えられた天才の祭典である…


少し考えたらわかることだが、それでは神知を与えた意味がない。


知恵も使えぬ、狂暴な生物が、この世界の神に代わるなら、この世界は真に終わってしまうだろう。


この世界には、今でさえ多くの可能性が満ちている。


つまり良くなることもあれば、悪くなることもある。


例えば、神の息吹で理想郷を築くこともできれば、吹き飛ばして不毛の地にしてしまうこともできるのだ。


神たるもの、神の力を上手く行使できるものでなければならない。


よって資質だけで神の代理は任せられない。






時の神は、すぐに、その生物が神の器に値しないことを知った。


全ての世界において意味がないということはない。


それがわかったことにも意味がある。


更に気付いたという。


この世界を守る神としての役割に。


あのような生物が生きていれば、この星の生態系に未来はないだろう。


それに勝てないのにやり方を考えず立ち向った方にも問題はある…


この世界の縮図では、強い生物が絶えれば、また次の生物が同じ事をしてしまう。


つまり、どの生物が生き残ろうと、この世界は任せられたものではなかったのだと…


そう思った時に、偶然にもあの彗星が衝突したのだという。




そう、この世界に意味のないことはない。


なんと地上に逃げ場はなかったのだという。


そんな中、一部の小型生物は生き延びた。


それは、弱肉強食の世界において、小型生物は生き延びるために幾度となく敵から逃れてきたためだ。


危険を察知しては、敵の居ない地へ移り、時に自ら環境に合わせて特徴、体温等を変化させてきた。




つまり、敵が少なく逃げる事を考えない生物は優先的に絶滅し、危機回避能力が高く適応力の強い生物のみが、時の運に生かされたのだ…




生き延びた小型生物というのは、地上に逃場のない世界において、地中に逃げることにより生き延びたのだと言われている


ただ、彗星の衝突から生き延びた生物たちにも影響はあったのだ。


それは、遺伝子に組み込まれるほど強い謎の記憶と、その記憶の喪失である。


こうして、生物の頭の中には、あるはずのない記憶が眠ることとなった。




その記憶は、少し前に目覚めている筈だ…




それからの生物というのは、本能で闘うことを避けるようになったのだ。




こうして大いなる犠牲と共に、かつての弱肉強食の世界は終わりを告げた。




これが第一回十天祭の結末であり、失敗例である。


あれから十天祭は延期となり、この機が熟すのをまっていたのだ…


これは警告である、わかったとは思うが、この神位争奪戦、力を使うのはいいが力だけで勝ってはならない。




いざ!十天祭を始めよ!!!




こうして七色の雷鳴は消えた…




聖戦の趣旨を理解した種の代表達は、最後まで生き残ることを目指し戦うこととなった。




言わずもがな、まともに戦った戦士は序盤で死んだという…
与えられた力をどう使うのか、その力の使い道が未来を統べる素質だということを、神の説明から理解した戦士達だけが、この聖戦を有利に進めていくのであった。


そして、十天祭は、三つ巴の戦いになった。


雨が続く中、神により最終結果が発表された。


生存するは三者三様、猿、犬、蛇である。


真の夜明けは近い…といい七色の雲は消えた…




果たして誰が勝つのか、それは甲乙丙つけがたいといえる覇道、王道、邪道の戦いとなった。


覇道、その犬は力を軸に、知恵を使い勝ち進んできた精鋭の戦士。


王道、猿は知恵を駆使して、計画通りに勝ち残った知略の戦士。


邪道、知恵は猿に劣り、力は犬に劣るが、蛇の能力を考えれば、猿と犬が同士討ちになり、残った蛇が勝たないとも言えないそんな戦士。




普通に考えれば、この状況では犬が有利だろうと思われた。


もし、助け合うことができれば、相手が犬であろうと猿にも勝算はある。


助け合いは世界を統べる神にとって有意な素質といえるが…


残る蛇と猿が手を組むとは思えなかった…






神は、彼らを聖戦士と呼び、評価として称号を与えたのであった。


神の力により、誰もが1つは、誰よりも優れた能力を1つは得ていた。そして、聖戦士たちは、その開花した能力を「取り柄」と言ったのだった…




蛇は、木の上にいる猿を見つけた…


まいったなぁー猿殿。


(足音はなし…)
お主は蛇だな、ワシと殺る気か?


猿は眼を閉じたまま顔をしかめた…




いやー待つのじゃ。猿殿は知略で、この聖戦を勝ち上がった聖戦士じゃろ?ミーと戦ってどうするのじゃ。
まずは犬じゃろう!?


んー。いったい何を企んどる?
(無防備なワシに近寄りもしない。戦意はないのか)
戦う気がないのなら去るのだ…。




交渉がしたいのじゃ!
猿殿もそんな所で腕を組み、眼を閉じて、悩んでいるようじゃが…力になれ…


失礼な蛇よの~、ワシはこう見えて休息を取りつつも、脳内で犬と殺り合うための模擬戦をやっているんだぞ?


そうじゃったか、それは申し訳ない。やはり{至高の得手}と呼ばれるだけの才覚があるようじゃなぁ~




んっ?さすがここまで生き残った蛇だな。ワシのことを知った者は、誰も生きては帰さなかったはずだが…流れる噂もないのによくワシのことを知っておったのう…


まぁまぁ、それを知った上で相談しているんじゃから、死ぬ前に話だけでも聞いて下さい。
ところで、あらゆる頭脳戦を勝ち抜いてきた猿殿なら悩まなくてもわかるじゃろうが、この聖戦には仕組まれた試練があったんじゃよ。


それは…要するに、犬のことをいいたいのだな?


そうですじゃ、先の悪意ある最後の報告…
それまでの報告というのは、その日の終わりに神により敗者のみが発表されるものじゃったが、最終報告というのは生存者が発表された。
それが、猿、蛇、犬。
あの、犬じゃぞ?おかしいとは思わぬか?
我々は理由なく噛みついたりはせんが、犬という生き物は、考える前に追いかけ、考える前に噛みつく。そして落ち着いてから考える。興奮すら制御できない、そのような犬が、この聖戦において知恵を使い生存してきたとは考えにくいのじゃ…


つまり、その犬は、神の警告に背き、力で聖戦を勝ち抜き、我々の前に立ちはだかったと考えるべきじゃないか?
じゃから犬は…神に用意された刺客のような者じゃと考えるべきなのじゃ。


神の言ったあの「力だけで勝ってはならない」という警告が引っ掛かっていたのじゃ…
そこで、神に神知を与えられるような力があるのなら、力任せの戦闘を強制的に止めることもできたんじゃないかと考えたんじゃ…
そして、神がそうしなかったのは、この聖戦、知恵のみで優勝できるほど甘くはなく、最後に強敵が立ちはだかるように、はじめから仕組まれていたと考えたんじゃ。




蛇よ、言いたいことはわかる。
ワシも始めから、神の警告には従う者と従わない者がいることを想定しての警告だったということは想定していた。
そして、何故そのような事をするのかと考えた時、それはバランスの調節だと考えた。
確かに知恵のみで勝ち残った者から見ると、警告に従わず勝ち残った者は強敵に思えるかもしれんが、もしその警告がなければ、もっと強き者が最後まで勝ち残ったと考えるべきだよ。


神に与えられた物をどう使うか?つまり、その警告も神に与えられた物のひとつだよ。
それをどう使ったのかで運命は変わる。


我々が神に試されているのは確かだ。


ただ警告に従わなかった者のみが強かったとは考えられない。
強き者でも神の警告に従った者はいただろう。
そして力は強くても、無理に知恵を使おうとしたために負けた者もいただろう。
こうして聖戦のバランスがとられたのだと推理する。
それは前回十天祭の二の舞にならないためだろう。




さすが猿殿、追い付けぬほど知能が優れておるのじゃ。それじゃぁ、猿殿の考え方では、あの最終報告も試練の1つであり、神の与えたもうた物だと考えるのじゃな?
そしてそれをどう使うのかが試されている…
神は、最終報告だと言うのに何故?残りの2体の発表ではなく、残りの3体を発表したのじゃろう?




(今ここで蛇を殺すとしたら…最終結果の発表は、ワシと犬だけになってからでも良かったことになる…)
(この世界に意味の無いことはないとすると…この蛇は、わかっていて聞いているなぁ…)


ふーぅ、神は、ワシと蛇が組まんと考えとるわけじゃのう、そう考えると組まねば勝てぬということになってしまうのだなぁ…




そうですじゃ、知恵を絞ってきた我らとは違いあの魔犬はこの戦いにおいて正に邪の道を行く、力で聖戦を生き延びた存在じゃないか、ここで我らが協力せねば勝算はないぞ?




悪いが蛇よ、先程説明したようにバランスはとられているんだ、勝算ならあるぞ?
先ほど終了した模擬戦は100戦90勝10敗だ。


猿殿はまさに天才なんじゃなぁ。
確かにすごい。
しかし、その戦績をどうみるのじゃ?


んー、言いたいことはわかる。命運を分ける戦闘ならば勝率は限りなく100パーセントに近づけなくてはならないということだろう?
勘違いしないでくれ、勝算がないと言われたから、勝算はあると言っただけだ。
協力しないとは言ってない、しかし決断するには早すぎる。


ミーと組めば戦術も増えて、勝てる可能性が増えるのでは無いか?


しかしだなぁ…蛇よ、三つ巴の戦いにまで勝ち残った狡猾な蛇をワシに信用しろと言われてもなぁ…


ミーは、はじめから猿殿に対して知恵で優るとは考えてないんじゃ、それが明白だからこそ交渉したんじゃ、残りの犬と比べても猿殿は断然話がわかるとみた次第じゃ。


猿が優るとみたか、、キッキッキッ
確かに犬なら、交渉の前に噛みつかれていそうだな
話はわかった、今回は命は取らんからもう去るのだ。


猿殿!信用できないのはわかりますじゃ。
眼だけでも開けて見てください!


猿はその眼を丸くした。


アッ、アルビノの蛇が生き延びていたのか!?
どうやってこの聖戦を生き延びてきたのだ!!




まぁ落ち着いてくれ、今から全て説明すんじゃ。


ミーは、生まれつき筋力も弱く、免疫力も低い、不運にもあらゆる劣性遺伝子を持って産まれたんじゃ。


この白い体では動けば的となり、身を隠そうにも自然には溶け込めない。だからミーは、この聖戦、死ぬことで生き延びることにしたんじゃ。
逆に、堂々と動かないことでずっと死体だと思われてきたわけじゃよ。




すばらしい!その短所をどう使うか?という神の問いに明白な答えを出したというのだな。
だからワシの事を知っておったのか、短所を上手く生き抜く術に変えるとは…面白いヤツだなぁ。
何故そこまで、ワシに話す?
いや、わかった…神の報告で生存していることが判明したから作戦を変えざるをえなくなったわけだな?




まさにそうなんじゃ!ミーは神により存在がばらされてしまったから、このまま死んだふりをするわけにはいかなくなってしまったのじゃ…




そうか…しかし、よくそんなに長く死んだふりができたものだなぁ。




猿殿にそう言われると誉められているみたいで嬉しいのじゃよ。
それは、慣れじゃなぁ。
敵が多いから聖戦の前から、息を潜めて生きてきたのじゃ。
ミーは、筋繊維一本動かさず、腐敗臭を放つことまでできるんじゃよ。




やはり、ここまで残る者はすごいのだなぁ。
少しは蛇のことがわかったぞ、信用材料として情報をワシに与えてるわけだな。


しかし、協力すれば勝算があるような事を言っていたが、それはどうするつもりだ?


もし、犬が倒せても、ワシとの戦いは避けられんぞ?




じゃぁ蛇足はこれくらいにして、本題に入るが、蛇の一族には悪いが敗戦しようと考えているんじゃ。


ワシを勝たせるつもりだというのか?


そうですじゃ、ただ頼みが1つあるんじゃ。


無事この聖戦を終えた暁には、蛇という動物を神の使いと言うことで、高い地位に置いて欲しいんじゃ。


つまり、己の命の代わりに種を守ろうというのか?


猿殿に話しかけた時からそのつもりじゃったよ
じゃから死ぬ前に話を聞いてくれと言ていたのじゃ


(拒否する理由もないし、とりあえず様子をみるか…)
その決意、見事だ。交渉に乗ったぞ。


必ず勝とう!!




自分を危険にさらして、無計画にこんな交渉はしないだろう?何かいい作戦でも考えてきたのか?


ミーが考えていたのは〈蜘蛛の意図〉なんじゃ


とあるところに{意図}を取り柄とした蜘蛛がおったんじゃ。


その蜘蛛はいく先々に糸を使った罠を仕掛け徐々に目的へと誘導することを得意としていた。
そして行き着く先には、もがけばもがくほど固く絡まる特殊な糸がある、しかし、どう考えても追い込まれて来たわけじゃから、恐怖のあまり動かずにはいられない。


そんな戦術から、どうやって蛇は抜けたのだ?


ミーは動かずに見ていただけじゃ。


見て?殺したというのか?蛙でもあるまい?


見て殺したのではない、見殺しにしたんじゃよ。


捕まっていたのはヤモリじゃ。


昆虫風情が爬虫類を食らうとは、結末とは容易にわからぬもんじゃよ。


ミーの基本戦術は、仮死戦術を使って一通り観察し、分析、解明、つまり分解することじゃ。そこから得た情報を都合よく利用する。


こんな感じで、都合よく{考察}するのがミーの取り柄なんじゃ。


そして犬のことを考えた時、それが利用できるんじゃないかと思ったんじゃ。
その利きすぎる長所の鼻を短所に変える!


まずミーが囮になり、犬を強臭地帯へと誘導する。さらに気付いた犬が逃げそうな所で更なる強臭で追い討ちし、犬の嗅覚を破壊する。




ワシは鼻づまりだが、見るに蛇も臭には弱かろうに…




先程言ったが、ミーはあらゆる感覚器官が遺伝的に欠損しておるのじゃ、臭いも同種の蛇よりは感知せんのじゃよ。


それに、これはミーが捨て身だから成り立つ戦術なんじゃ、あまり、心配はしないでくれ…


そして、犬は嗅覚からの衝撃に気絶するやもしれん。
そこで弱った犬を毒牙でひと咬み。


つまり、その毒をもって犬を制すだなぁ
しかし、蛇よ、それで噛んだら死ぬのか?


残念じゃがこの毒で直接仕留めた敵はいない。


我らの種族の毒は、象であろうと死ぬような毒なんじゃが即死はしない。


毒が回るまで、しばらくかかるため犬の反撃は免れないじゃろう。


恐らくミーはそこで死ぬじゃろう。


しかし、助太刀は無用じゃ。


犬に毒が回る前に猿殿に万が一のことがあれば、犬の勝利が決定してしまうやも知れんのじゃ。
じゃからできるだけ遠くで隠れていてくれ。
猿殿にはこの聖戦を確実に勝ってもらいたいんじゃよ。


流れはわかった。
そうだな作戦の改善は後にして、本当に蛇を信用してもいいのだな?


やはり、信用はできないか?
ならミーの毒の抗体(血清)でも作るか?


いいのか?


いいのじゃ、それで信用になるならなぁ


(これで毒殺されることはないな)
では、毒をくれ…


(それにしても、この蛇なぜワシを信用しておるのか)
悪かったな疑って…


いやー疑うのは当然じゃよ。




こうして交渉は成立し、猿は蛇と十天祭を勝利するべく協力することになった。




雨季というべきか、雨は続いた…




ここがワシの根城にしているところだ。
雨くらいは防げるだろう。


こんないい洞窟があったとは、しかも地熱も伝わってくるんじゃな。


周辺の地形は熟知しているから犬のことは安心してくれ、それにこの硫黄臭なら犬の鼻も利くまい。




そうじゃなぁ。
この雨が止むまでしばらくかかりそうじゃな。
雨は、ミーの作戦に向かないからなぁ…




そうだな。雨の中、互いが遭遇する可能性は低いだろうから晴れた日が運命の時になるだろうなぁ、この雨では、音も、足跡も、臭いもかきけされる。そんな中、探し回っては体温や体力が奪われるだけだからなぁ。


なら、少しはゆっくりできそうじゃな。


そうだな、生存者がわからなければ、こんなに安心することもなかっただろうなぁ




あの最終報告も、捉え方によっては良いものじゃったというわけじゃな。




何事も使い方、考え方というわけか…
まーぁ、ゆっくりしよう。


ところで蛇の称号なんだ?




神に与えられたあれか?『忍び寄る観戦者』じゃよ。


言ったようにミーは{考察}を取り柄として〈仮死戦術〉で生き残ったんじゃ。
ほとんど尾行して観戦していたから神にそんな風な称号を付けたんじゃろうな。


猿殿の称号は『至高の得手』なんじゃろ?いったいどんな意味があるんじゃ?


それは、中盤戦くらいまでに呼ばれていた通称だなぁ。


おそらく神は変わらぬ者には変わらぬ称号を、変わる者には変わる称号を与えていたようだなぁ。


今では、未来を知る賢者〈推理する得手〉と呼ばれておるよ。なんでも百戦錬磨の頭脳を持っているらしく、先見眼があるとか、未来視ができるとか大それたことを言われているんだが…ワシは、ただ頭の中で考えているだけなんだよ。


そういえば、ミーには不安視があるような事を言っていたのじゃ、それに後見眼。猿殿とは正反対じゃな。


神は言っただろ、皆が同じ力を得るわけじゃない。それは選べないんだよ。それをどう使うかが大事なんだと、それに、正反対の才能を持つ聖戦士が残ったんだとしたら。
神の言葉を借りるなら、意味のないことはない。
全てに意味があるということだよ。


そうじゃったな、神は、こうしてミーと猿殿が協力することを知っていたのか。
もしかして、優勝する者まで全てお見通しなのかも知れんのじゃ。


そうか?


もし、神が全ての結果を知っていたとするのなら、この聖戦で、血を流す意味はあったのか?


もし、神の代理が決まっていたのなら、神が、その代理に、直接結果を告げたら良かったのではないか?


つまり、神が、神の代理を知っていたとするなら…こうして命の奪い合いをする意味は無かったということになる。


この世界に意味のないことが無い。だから、それは神の理に反することになる。


したがって、実際に命の奪い合いが起きている以上、それは、神が神の代理になる者を知らなかったからだということになる。


そして、これまでの犠牲は、神の代理を決めるために意味のある犠牲だったのだと…
いや、そうであったのだと願いたい…というべきか


もし、神が未来を知った上で、あえて犠牲を出したのだとは考えたくないが、もしそうであったとしても、その犠牲には何か意味があることにる。


どちらにせよ、無駄な死ではないが…


神の事情までは知らんが、それには神が代理を必要とする理由が関係しているのかもしれない。




……それもそうじゃな。んーまさに神のみぞ知るじゃな、しかし話が難しいなぁ…




悪いなぁ、自分でもなんでそんなに熱くなったのかわからん。まるで何も考えずに喋っていたようだ。
話は戻るが、称号にある得手というのは、器用な手を得たことから猿の種に多くつけられるようになった称号なんだ。


そしてワシの取り柄は{問食い(モンキー)}
問題の解決を誰よりも得意とする、問い食い(トイクイ)を変化させた猿なりの造語なのだよ。




すごいいい取り柄を持っているんじゃなぁー猿殿は。




いや、しかし良いことばかりではないぞ?ワシは考え過ぎてしまったためにシワが増えてしまったのだ。


そして、シワが増えた事に気付いたことで、更にシワが増えることになった。


どうにかこのシワを隠さないと恥ずかしくて…




なんじゃそれ?なぜ見た目を気にするんじゃ?
そんな時は食って忘れるに限るぞ、ところで腹は空かんか?




蛇は食料でも持っているのか?
ワシも干し肉くらいならあるが。




卵があるのじゃ。
ここから北の山岳地帯に保存してあるんじゃ。


おーぉ卵か。


蛇の仮死戦術…腐敗臭を放つと言っていたが、その卵を利用したのだなぁ。
それは騙されるわいキッキッキッ
お主と一緒なら犬など恐れるに足らんなぁ




それは、ミーにも言えることじゃよ
仮死戦術だけで勝てるほど甘くないのじゃ
猿殿のように頭の回転の早い者が味方じゃと心強い。




一緒に卵を取りに行くか。


そうじゃなぁ。北じゃ…


蛇は、その仮死戦術で何もしないで今まで生き残ってきたのか?


猿殿、ずっと仮死戦術をしていたら餓死戦術になってしまうんじゃよ。


そうだろうなぁ、その卵をどうやって手に入れたのかと思ったのだ。


実は、ミーの仮死戦術は鳥には通用しなくてなぁ。


蛇の仮死戦術を見抜くほど鳥の目が良かったというわけか?


確かに鳥の目は良いんじゃが、それは違うようじゃ。
高い知能を得た聖戦士なら死んだ蛇を食おうとする者は少ない。しかし、鳥は死んだ蛇でも躊躇せず食おうとするんじゃよ。
じゃから仮死状態をしていては、食ってくださいと言ってるようなものなんじゃ。




なるほど、鳥類には知能より優先順位の高い、蛇を狙う習性でもあった言うべきか。
それでどうやって、卵を手に入れたのだ?




少し前まで鶏という鳥と同盟を結んでおったんじゃよ。
話せば長くなりそうじゃから詳しくは食後にでも話すんじゃが、その鳥が卵を取り貯めていてくれたんじゃ。


なるど、蛇も意外に色々あったのだな。


こっちじゃ。


この洞窟の奥じゃ…


おお、こんなに!


食べきれない程の卵があるぞ!?


そうじゃ、しかし奥のは古いから、強臭戦術に使うんじゃ。


とりあえず、ここは構造上寒いから、必要な分だけ卵を確保して帰るんじゃ。






猿は、始めて見る大量の卵に気分がよくなり。
蛇との壁をなくしていくのだった。
洞窟に着くと猿は手慣れたように火をおこした。




今日は盛大に祝うぞ!




鶏の卵と、ヤギ、ブタの干し肉、食べらる草と木の実と果物の盛り合わせじゃ。




猿は、灯りに卵をかざした。


卵はすごいなぁ…くさい臭いでも閉じ込められるとは、まさに奇襲向きだなぁ。キッキッキ…


猿殿それは、新鮮な卵じゃよ。
食事中はやめるんじゃ…喉に通らんくなるじゃろ


蛇の言い方だとまるで味でも変わるような勢いだが、確かに喋りながら同時に食べることはできないからなぁ。
食事に集中するか。


猿殿~そういうところじゃよ。
確かに会話の内容で、味付けをするようには、味は変わらないんじゃが…。


そうだろ?例えば、味のない食物をいくら楽しんで食べても、味は良くならないわけだ。


猿殿にとって食事とはなんじゃ?


簡単な質問だなぁ。栄養摂取だよ。


やはり、そうなんじゃなぁー猿殿は。


ん?蛇は違うのか?
さっきから思ってたんだが、会話の内容で、味や栄養が変わるとでも思ってるのか?


いやーミーも鶏と食事するようになるまでは、栄養すら考えることもなく腹が減ったから食べるだけじゃったんじゃが、変わったんじゃ。


つまり、食事とはなんだ?


まぁ説明は難しいんじゃが、命に感謝することじゃ。
じゃから、それにふさわしい会話がいいんじゃよ。


卵とは命か…ところで、鶏もその卵を食べていたのか?


なんでそうなるんじゃ。猿殿は子猿を食べるのか?


そんなわけないだろう。


なら、鶏もそう言うんじゃよ。


少し難しいなぁ…蛇の思考は。


猿殿の思考は間違ってはないと思うんじゃ。しかし、他にも生きている者はいるじゃろ?みんな猿殿のように賢くないんじゃ。
これは猿殿なら理解できると思うから言うんじゃよ?


今までに猿殿には仲間がいたことがあるか?


仲間とはなんだ?


苦しいときに助け合ったり…困ってることを相談したり、そうやって支えあえる…


蛇よ~そのような者はおらんよ。そもそも、今までに苦しいことも、困るようなこともないからなぁ。
ワシにとって、そんな仲間がいても良いことなどないのだよ。


じゃぁ他の生き物とは考えが合わない事が多いんじゃろう?


誰だって考えは合わないだろう?


合わないと思うのか、合わせようとするのか、その違いなんじゃよ。
仲間には、助け合うためだけじゃなく、楽しいことを分かち合う…ことも、想像もつかない反応や未来に変化が起きることもあるんじゃ。


猿殿は、想像のできる世界を生きていて本当にそれでいいのか?


どう生きることがいいのかなんてわからんよ。


猿殿には、推理することができるのじゃろ?それは、特別な力じゃよ。さっき猿殿の言った、「誰だって考えは合わないだろう」と言うのも推理したらわかるんじゃないか?


ワシの{問食い}で、それはわからんよ。


生きる意味も、その取り柄でわからないのか?


そんな事、考えたこともないからなぁ…


そうじゃとしたら、猿殿にも支えがいるのじゃ。
猿殿は仲間を作るのが苦手なんじゃが、それを知らないから、いらないと言ってるだけなんじゃ。
無意識に知らない事から目を背けているんじゃと思うよ。
今の猿殿は、知らないことを知らないだけなんじゃ。




確かに、ワシにもこんなにわからない事があるとは、今まで考えもしてみなかったわ。
蛇はやはり面白い考えをしているなぁ。
蛇なら、ワシの仲間作りの支えができるんじゃないか?




じゃ、これから仲間を作る方法を1つ教えるんじゃ。


この中で一番美味しい食べ物なーんだ。


ほら、猿殿はバナナだと思ってるじゃろ?ミーとは違うんじゃ。
さっき「猿殿の考えは間違ってない」と言ったんじゃが、それは、猿殿の中では間違ってない答えというわけなんじゃよ。


しかし、よかったんじゃ。




何がだ?


猿殿にも好きな食べ物があったんじゃな。


まぁー食事が栄養摂取なのは事実だが、好き嫌いくらいあるからなぁ。


しかし、あの反応、誰もがバナナを好きじゃと思ってたんじゃないか?


それはそうだな。


味を感じるのは、何故かわかるよね?


それは、味が付いているからだ。


確かに、無味無臭の物を食べても味は感じないが、それは、舌があるからだという答えが欲しかったんじゃが…


それは、そうだな。本当か?本当に味は舌で感じていると思うのか?


んー。まさか…脳だと言いたいのか?


そうじゃ、だから結果的に好きな食べ物が違うんじゃよ。


つまり同じ動物でも、舌を経由して脳に伝わる。目を経由して脳に伝わる。耳を経由して脳に伝わる。それぞれの脳によって感覚が違うと言うわけか?




全ての感覚までとは言い切らんが、味を感じるのは脳じゃよ。それは、様々な動物の食事を観察してわかった事なんじゃが、すごく不味い草を美味しそうに食べるヤツがいたんじゃよ。


なんで食事まで観察を?


この世界には、食べられる物と食べられない物があるじゃろ?じゃから、他の動物が食べている物は食べられる物じゃと考えたわけじゃが、あまり美味しい物に出会えなくて、その不味い草を美味そうに食べる動物を観察して気付いたんじゃ。
その動物はこの聖戦の前にはずっと違う草ばかりを食べていたはずなのに、その草には目もくれず、黙々と不味い方の草を食っていた…
それがまた、その草なんて全然味が違うんじゃ…つまり同じ舌を持つ同じ動物でも、それぞれ脳によって味の感じ方が違うというわけじゃよ。




例えばじゃな、いろいろな動物が、それぞれ太さの違う糸を使って釣りをするとしよう。
当然、太い糸より細い糸の方が感度がいいんじゃ。
それでも、糸を握る動物が鈍感ならいくら細い糸を使っても釣れないわけじゃ。
しかし、同じ動物でも、鈍感じゃない動物がその細い糸を使ったらバンバン釣れるわけじゃよ。


つまり、その糸が舌じゃとするなら、その糸を握る動物が脳なんじゃ!





言ってることはわからないけど、言いたいことはわかったぞ。
なるほどなぁ…皆、感じる味も違えば、それと一緒で、味を求める者、栄養を求める者、満腹を求める者のように、食べる者の脳によっても食べる物の印象が違うと言うわけだな。






じゃな、そして違いを違いのままにしておくのではなく、回りに合わせてみる事でその場を共有する、共有することで相手の好き嫌いを知ることができる、そうやって相手の事を知っていくんじゃ。


その共有が増えると、仲間に繋がるんじゃ。




蛇が言うのは、ワシは、相手の考えなどわからんと言ったが、相手に合わせる事で、相手の考えもわかるようになると言うことだな。




これは、食事だけに言えることじゃないぞ、誰かと何かを共有するというは、そう言うことなんじゃ。


できない者ができる者に合わせるより、猿殿のようにできる者ができない者に合わせる方が簡単じゃろ?


ちなみに、ミーの個人的な考えじゃから、絶対にそうとは言い切れないんじゃ。




なるほどなぁ…そこまで難しい方法でもなのに、ワシは、目に見えないものを最初から見ようとすらしなかったからわからなかったというわけか…




他にワシを考察して何かわかったか?




まぁー隙という隙はないんじゃが…
弱点があるとするなら、それは勝ち続けていることじゃな。
その{問食い}で推理した答えを今まで信じて疑わないできたじゃろ。


確かに勝ち残っている以上、今までその取り柄を使って間違った事はないのかも知れないが、成功があるなら、必ず失敗もあるんじゃよ。
今まで無くても、何事も始めてはあるんじゃ。


つまり、ワシの長所でも短所になりうるということだな。


そうじゃ、推理するのはいいじゃが、それが正しくても、正しいと信じて疑わないのはよくない。


突然、誰も見たことも聞いたこともない現象が起きて作戦が失敗するということもあるかもしれない。


じゃから警戒することも大事なんじゃといえる。
警戒していたら助かる可能性も増えるわけじゃ。




蛇は、やはり、すごいなぁ!確かに推理した作戦を慎重にやるなんてことはしたことなかったわい。




すごい事はないんじゃよ。


ところで、この卵の話の続きはなんだったんだ?


あぁそれは食事中にする話でもないんじゃが?


相手はワシだぞ?そんなに気にするなよ。


それもそうか、話したようにミーの死んだふりというのは、鳥類には通用しなくてなぁ、死骸じゃと思ってもついばんでくるから、色々な対策をしたもんじゃよ。
そんな中、腹を空かせたミーの前で、鶏が取引しているのを見たんじゃ。


そしてその鶏が持っていた取引材料の卵欲しさに釣られて、後を追跡すると、鶏がレイブンの集会に参加していて、なんと発言権まで持っていたんじゃ。


つまり、その鶏はレイブンという組織の幹部じゃったんじゃ。
そこで、その鶏を利用…する…


レイブン!?あの空賊とかいうヤツらか。
ワシも風の噂には聞いておったわい、そうとう賢い鳥が仕切っておったようだが、なんでも内羽揉めで失墜したとか。




ああ、それは空賊のオオトリと呼ばれていた、カラスという黒い鳥のことじゃなぁ。
ちなみに『王を取るオオトリ』とは仲間に呼ばれていたじゃけで、神が与えた称号ではないんじゃ。


ミーもこの聖戦で一番苦戦したのは、レイブンと関わったことじゃ。


でもレイブンの幹部なら、鶏も相当悪いんだろ?
蛇とは合わんと思うのだが?


鶏はレイブンのボスとは真逆じゃよ、夜を告げる烏と、朝を告げる鶏なんじゃから。


レイブンについても話を聞きたいなぁ。
蛇は詳しいのか?


ある程度は知っているのじゃ。
でも、話が変わるんじゃが…


まぁー固いこと言わないでレイブンの話を聞きかせてくれよ。


レイブン、元の名は、デルタホークというらしい
それは、神に代り天から世界を統べるべく集まった、カラス(烏)、タカ(鷹)、フクロウ(梟)の三同盟から始まったんじゃ。


勢力を拡大しようとするカラスと、少数精鋭を考えるタカとの対立が起き、分裂すると思われたんじゃが、タカには力で勝てないカラスが、タカに奇襲したことで組織は変わったんじゃ。








カラスは勢力拡大に推薦していた鳥達と共に、タカの翼を目掛けて夜襲をしたんじゃ。
そして、風を切ることができなくなったタカはすぐに絶命した。


それから、タカが抜け、デルタホークはレイブンに変わり、全ての鳥類を統べるべく勢力が拡大していったらしいんじゃ。


この聖戦に有利なら参加してもいいという考えで三同盟を組んでいた、フクロウは、その惨事に羽音ひとつ立てなかったというんじゃ。


フクロウ…夜の見張り番、レイブンの夜はフクロウ一体に守られている、レイブンのテリトリーに侵入者が現れると、警戒音を鳴らし狩りをするのだという…


ちなみにフクロウに夜襲をかける者はいない…


参加した鳥類でも、タカが最強なら、フクロウは最恐という部類で恐れられていたんじゃ。


通称『一鳥夜狩のぬえ』正確無比な狩りをするために神が意図して作ったかのような鳥、その取り柄は、苦労の無い鳥{夜爪ナイトクロー}じゃったと思うが。


無駄な戦いを避ける為に、能ある梟は爪を隠さず。という言葉まであるんじゃ。
フクロウの真の強さは爪に有らず、その目(認識力)にあるというのじゃ、特別な感覚で夜の世界を昼の世界ように認識できるという、フクロウはタカが襲われた時もはっきり見ていたんじゃとか…無論、狩のカリスマであるフクロウは、高い身体能力に加え、その爪も鳥類では最強クラスの破壊力であることから、苦労が無い鳥と言われるわけなんじゃが。




ある時、レイブンの集会で、幹部フクロウに対して匿名の苦情が寄せられ、議題となった。
フクロウは狩りの成功率は高くとも、気分屋で、来る者拒まみ去る者を追うだけで、侵入者が居なければ狩りをしないことから、協力的じゃないとか、やる気が見られないだとか、そういう問題で幹部からの降格が検討されたんじゃ…


そして、新星のトンビ(鳶)とワシ(鷲)が昇格に推薦された。


フクロウは、知っていた。その二羽が、タカに致命傷を与えた鳥じゃったとな。


これには、普段は大人しいフクロウにも言い分があり、やる気が見られないもなにも、そもそもこの集会に参加をしている時は眠いんじゃと、それに、フクロウが狩りに行ったとして、フクロウがいない夜中に、レイブンの縄張りが襲われたらどうするんじゃ?ということ言ったんじゃ。


フクロウの正論に、議論は持ち越されたまま、それは破棄されることになる。


根拠は無いんじゃがカラスは、トンビとワシに最初からフクロウとタカの席を空けることを約束していたのかも知れない…




それが、もし夕暮れ時にカラスが持ちかた話なら信用してしまうのも無理はない。


それはカラスが最凶と言われる由縁にあるんじゃ。


カラスの取り柄は、{六知ムシの死らせ}じゃ。
その予知能力を本能的にカラスの第六感じゃと信じる者もいるが、カラスの真の力は、その印象が招く先入観にあるんじゃ。
特にカラスのそれは〈潜入観〉と言う。


例えば、死の予言が当たるか当たらないかは別として、誰にでも死の予言をすることはできるじゃろ?
しかし、それを信じてもらえるか信じてもらえないかということが重要なのである。


信じてもらえないのに予言をすると、更に信用されなくなるというわけじゃ。


更に、カラスは予言をしないが、したとするなら、カラスの取り柄は、それを信じさせるものである。


カラスには、そんな不思議な発言力があると言うんじゃ。


誰もが知ってるように、カラスは、その日の終わりを告げる。


カラスが鳴く頃には巣へ帰らないと、夜になると暗くなり危険じゃ。だからカラスは毎日危険を知らせてくれるのだと、かつては、その声をあてに巣へ帰る者は多かった。


これは、毎日かかさず、カラスが鳴くか鳴かないかということが問題ではなく、既にその印象があるということに意図ウラがある。


カラスの先祖には、その特徴的な声で嫌われた過去があった。
それから代々受け継がれてきたのが、この夕暮れの鳴き声。
元は、夜を呼ぶ声じゃったと言う。


夕暮れに鳴いていたカラスでさえその意味までは知らなかった。


意味の忌みさえ忘れられた声達が、知らぬ間に刷り込まれてきたのだ。


最初は、不気味な声だと忌み嫌われていたらしい…
そんな鳴き声にさえ違和感を感じなくなってしまったというのは、聞き慣れたからというより、感覚が麻痺してしまっているからなんじゃ。


神知を得たことで、カラスは先祖の意図を知り、意志を継ぐことになる。


多くの動物は知っている、死のあるところにカラスがいることを…


つまり、カラスが1日の終わりを告げるように、もしかしたら、命の終わりも告げているんじゃないか?と思う者が次第に増えていった。


それは、カラスの綺麗とも言えない声色や、綺麗とも言えない体色に、死というものが結びつけられた結果なのである。


世界の成り行きがカラスの印象を不運を告げる鳥にしたのだ。


そして、カラスは1日の終わりや命の終わりを告げるのだと信じられるようになる。


それは当然の事、命とは1日の積み重ねなのじゃから、カラスはそんな予言など始めからしていなかったのかも知れない。


鳥が死体をつつきたがるのは習性なんじゃ。


じゃから死体のあるところにカラスが居ても不思議ではない。


しかし、死体のあるところで、わざわざ烏を探す者までが現れた。


そして誰かが言った。カラスが鳴いてた、カラスが見てた。俺も見た、俺も聞いた、知ってる、知っている…こうしてカラスの第六感を信じる者が増えた。


カラスは命が失われる日に鳴くのではなく、毎日のように鳴いているだけじゃと思う。


しかし、そう思い込んでいる以上、カラスの言葉を疑う者は少ない。つまり、信用されている。


カラスに逆らうことなかれ、死の宣告は受けたくなかろう。


どのような経緯であれその信用に裏打ちされた、発言には大きな影響力がある。


カラスの言葉を信じる者は多く、特に夕暮れ時の死にまつわるような話なら、それを信用せずにはいられないだろう。


カラスは、その発言力でボスになり、更に勢力を拡大することで信じる者を増やしていったんじゃ。


レイブンのボスとしてカラスが君臨すると、その不吉な印象はやがて最凶という確信へと変わるんじゃ。


最凶…そのカラスの称号は『命狩らす鳥』。狩る側でもなく、狩られる側でもない、狩らす側、つまり、神知を得た動物達でさえ、取りまとめることができる鳥であるということ。


カラスは勝ち上がる為に、目撃者、共犯者などの都合の悪い者を上手く消す、証拠隠滅術〈命取りの刑〉により、カラスは多くの死体の山を築き上げていくんじゃった…


そして、集会で議題になったように、ついに、知り過ぎた御三家のフクロウまでもがその標的となった…


真昼のフクロウは、いつものように羽を休めていた。


白昼の暗殺じゃったが、幹部候補のワシ(鷲)とトビ(鳶)は、フクロウの反撃に散ることになるんじゃ。


フクロウは、降格案の一件から警戒をしていた…


後ろに目があるとも知らず奇襲をかけた鳥達は、その大きな目に一瞬怯んだという。再び目を開けた時には、互いの血で見える世界は真っ赤に染まっていたのだ…
カラスはそれを偶然目撃したのじゃと言う、それは降格に不服なフクロウの組織を壊滅させるための裏切り行為なのじゃと、カラスはレイブンの集会で、それを説明し、緊急事態として全勢力をかけフクロウを抹殺することを宣言したんじゃった。


それは{六知の死らせ}が最も効果的な夕暮れ時の宣告じゃった…


フクロウは、レイブンの縄張りには詳しいが、それより外の世界をあまり知らない!よって縄張りの中に潜伏している可能性が高い。


強き者は別れ複数羽で行動する、心配な者は俺についてこい!


そう言って、何かに鳥憑かれたかのように、鳥達は狩りに出された。


夜が迫っていた…それは、フクロウの世界になると言うこと、夜活動しない鳥達は、フクロウの反撃に恐怖した。


先陣をきったカラスは、暗くなると行動を共にした数羽の鳥を殺し、潜伏に徹したのじゃと考えられている…


そして再び日が昇る頃、数羽の鳥に追われる過労のフクロウは、体力を温存していたカラスの追撃に散ったんじゃった…


こうしてレイブンは半壊滅状態となったんじゃ。




それは鳥肌が立つような話だなぁ
全てはカラスの計画通りになっているのだなぁ…
これがレイブンの悲劇か?


いや、レイブンの悲劇と噂されるのはレイブンが完全に崩壊するまでの話、まだこれは中盤じゃ。ここからはミーも巻き込まれて行くんじゃ。


その決着の朝を告げた鶏は、いいとこ取りをしたカラスに取引を持ちかけたらしいんじゃ…


そしてその後、サギ(鷺)と、ニワトリ(鶏)が幹部になったんじゃ。


それはカラスにとって利用価値があり、なおかつ脅威にならないためなんじゃろうと思われた。


その鶏は、ミーと出会う前から、自分の卵を最も鮮度がいい方法で多く保存しておってな。


この聖戦において食は欠かせないからなぁ、それを取引材料に使っていたと言う話だったな?


まぁーそうじゃな、それで、鶏が集会に行った後に、取引を見ていた事を全て話たんじゃ。


当然、取引というのは秘密裏に行われるものじゃから、口止め料として卵をもらうことにした。


鶏は怒ると思ったんじゃが、驚いていたよ。取引も警戒していたらしいが、今まで尾行していた事にも才能があるのじゃと言っていたんじゃよ。


もう、鶏にはこの尾行は通用しないことを言うと、それを良かったと言っていたんじゃよ。
卵の隠し場所だけは誰にも知られていないらしく。


もし、卵の隠し場所まで付いて来ていたら、不本意なサヨナラになっていたんじゃとか。


さよう、なら、ころす、んじゃとか?


まだ、その頃の鶏には、レイブン幹部の威圧感を感じていたんじゃよ。




そして取引上手な鶏の提案で、ミーの取り柄を買われて情報収集を頼まれ、情報料として今後も卵をもらえることになったんじゃ。


これでミーが卵を狙う必要もなくなり、鶏は卵の隠し場所が詮索されることを回避し、今後もミーが情報収集をするためには、鶏もミーの存在を秘密にしなければならなくなったんじゃ。


この取引は互いの秘密厳守するためにもある。


あれは、互いに利がある取引じゃった。
取引上手な鶏は更に交渉材料が欲しい、蛇は基本的に狩りをしないから卵が欲しい。


更に、仮死戦術の質が上がったというわけじゃ。


当然、その鶏の取り柄は{取引}である。


その{取引}は命約の元に執り行うものである。


それは、一度たりも破られた事がない、神聖な取引であり、命約には、大きく分けて3つ、守らなければならない約束がある。


1つ〈偽ることなかれ〉
言わずもがな、嘘をつくことは禁じられている。


2つ〈荒ぶることなかれ〉
交渉中は、いかなる暴力行為、強要行為も禁じられている。


3つ〈破ることなかれ〉
交渉後に条件を、変更、破棄することはできない。
ただし、両者の合意があった場合はそれを認める。


これらの約束に1つでも反する場合は、神の加護を剥奪されることとなり、あらゆる災難を呼ぶことになる、それは死より重い罰となる。


これらの命約は、神が与えた加護の力により保証されるものである。




鶏が、レイブンの幹部になったのは、その取引能力が組織にとって大きな力になるからじゃと言っていた。


レイブンでは『BB』と呼ばれておったんじゃ。


BB…ブロイラー…バンクか?


いや、バードブローカーじゃったかな?とにかくレイブンの中ではBBと呼ばれていたんじゃよ。


ミーが、鶏のことをカラスと真逆じゃと言ったのには他にもあって、神の与えた称号にもそれが印されていたんじゃ。『生産性を歌う生産者』つまり鶏は、生産性のある取引をする生産者だったんじゃ。


なるほど、鶏とカラスの何が逆かというと…さっき言ったような仕組みでカラスは死にまつわることで信用されるように、ニワトリは生にわつわることで信用されやすい。
例えば、その生産性のある交渉術に特化していることも、その生に関することだといいたいのだな?




そうじゃ鶏は交渉の場で不毛な会話はしないんじゃ。


あと、鶏が言っていたのは、カラスの{六知の死らせ}実は第六感でもなく、夕方六時を知らせるくらいの取り柄なんじゃとか…


まさか、その能力がそれほど恐れられるとは…


まぁーそこがすごいところでもあるんじゃな。


ところで、蛇は鶏が協力することをわかっていたのか?


それはどうかなぁ、この聖戦で他者を信用することは難しいのじゃ。それは…数々の考察から得た知識から話のわかる者だとみて、あとは、自らのやり方で自ら心を開いただけじゃ。
すると、運良く、猿殿のように話を聞いてくれた。


話していると、聞けばその鶏の志しは高くてなぁ。
公平な取引で世界を統べる鳥を目指していたんじゃ。


鶏は、ミーとは違ってちゃんとした目標をもっていたんじゃ


レイブンとは泣く子も黙る空賊じゃったが、鶏は知れば知るほどいいやつじゃったんじゃよ。


じゃから、ミーは鶏と仲間になり、卵をくれることにも感謝するようになったんじゃ。


しばらく行動を共にすると、ついに鶏が真の目的じゃという、カラスの情報収集を頼んできたんじゃ。




それは、レイブンへの反逆行為じゃ。




なんでもカラスには、鶏でも知らない裏の計画があるんじゃとか…


カラスの考察をする為に、鶏にはカラスとの交渉場所を変えてもらった。そこは、ミーがこの聖戦で最も考察に適した環境じゃと思ったところじゃ。


しかし、交渉だけではあまり情報が得られず、カラスを知る為に、もう一羽の幹部であるサギを観察した…




それは、何故だ?もっとカラスを観察した方がいいだろう?




そもそも情報の少ないサギが幹部だと言うことが不自然じゃったから、もしかしたらサギならカラスの弱味を握っているのかも知れんと思ったんじゃ。


なにより、レイブンのボスであるカラスから情報を得るより、その下の者から得る方が簡単じゃろ。




つまりこう言うことか?
親を揺する為に、子供を誘拐する…
いや、それだけでは不十分か、その子供を誘拐する為に、その子供の友達に小さな頼み事をする。待ち合わせ場所に来ない友達を待つ子供に、山に行くと言っていたなどと嘘をいい。誰にも目の付かないところで誘拐する。


その小さな頼み事から、結果的に大きな頼み事を聞いてもらうという作戦か?


まぁ、あっているようなんじゃが、違うような…そうじゃなぁ。ミーが得るのは見えない情報なんじゃから、人目を避ける計画というのはいらないんじゃ。


親を揺する為に、青年を誘拐する。
青年を誘拐する為に、恋人を誘拐する。
恋人を誘拐する為に、恋人の弟を誘拐する。


直接、青年を誘拐するよりは、恋人の弟を誘拐する方が簡単じゃという話じゃな。
じゃから下から調べるんじゃよ。


なるほどぁ、最近蛇は、ワシより賢くなったんじゃないか?


いや、猿殿の推理があらゆる事を想定しすぎてるのじゃよ、考え方が違うだけじゃ、実際の誘拐なら猿殿の方が上手く行くんじゃよ。




そうやってカラスを間接的に調べて情報は得られたのか?


ああ、御名答ビンゴじゃった。
サギという鳥はカラスと恐ろしい計画を企てていたんじゃ…


サギについては、鶏から少し聞いてはいた。
なんでも遺伝子に詳しいようで、ようするに腐りにくい卵や、栄養の高い卵を作ったらしいんじゃよ。


尾行するとサギは、まるでこの世のものとは思えぬ実験場を作っていたんじゃ。


そこでは、鶏の無精卵を孵化させるべく実験が行われていたんじゃ。




すると、サギは、あれだけの無精卵を孵化させ、軍隊でも作ろうとしていたのだな?




そうじゃが、その時はまだ、鶏と取引をした卵しか出回って居なかったから、卵の隠し場所まではバレていなかった筈じゃ。
それと産まれさせるのは鶏ではない、カラスのクローン、名はクラウンクロウじゃとか…


断定はできなんじゃが、サギの取り柄は{取り違え}のようじゃ。カラスとサギがそう話しているのを聞いた。ただ、それが、何故かはわからないんじゃが、卵も割らずに中身をすり替えるようなことができるようなんじゃ。


まさに、神業とはその事か…


更に、まだ、わかったことがある、わからないことがわかったと言うべきか…


もしかしたらサギの中身は別の鳥なのかも知れんのじゃ。鳥なのかもさだかではない。
観察し考察はしたが、正体に疑念が生まれたのは、そのサギだけじゃ。


心配はしたものの、サギからクローンの作り方を聞いたカラスは、用済みのサギとそのサギの取り巻きを排除したんじゃよ。
躊躇せず、カラスはすべてを裏切る鳥じゃった…




このまま、鶏の卵を全て孵化させられては、この聖戦は最悪の展開で幕を閉じるじゃろが、次に狙われるのは確実に鶏だと考え、鶏への報告を優先したんじゃ。


鶏に全てを伝えると、鶏は出会った時のような威圧感を放ち、これが最後の依頼だったのだといい、ミーに卵の隠し場所への行き方を教えたんじゃ。


後で気付いたが、その威圧感は、殺される覚悟した者の殺気じゃったのかも知れん。


雨の降る夕暮れ…いつものようにレイブンの集会が行われた。


そして、カラスは何も無かったかのように、サギが集会に来ないことをぼやいた。


カラスは黒いため返り血は目立たないが、雨に打たれたカラスから落ちる滴は、赤く染まっていた。


赤い足跡に凍りついた空気…


こうなるとカラスは証拠隠滅すらしない、逆らう者を口封じするつもりなんじゃ。
サギは、レイブンの乗っ取り行為、つまり、反逆罪により処刑したといい、反逆者の味方をする者がいれば処刑すると宣言した。


さっきまで、サギの来るのが遅いと言っていたカラスが、開き直ったかのように矛盾した発言をした。


突然、支配者の一面を出したカラスにレイブンのメンバーは恐怖し沈黙した。


何かで縛られているわけでもないのに、何故か口も、体もいうことをきかなくなっていたんじゃ…




あの鶏はこの聖戦において英雄じゃよ。




負けるとわかっていても、この世界を守るために立ち向かったんじゃから。


蛇は、その戦いも見ていたのか?


ミーにできることは、最後まで観戦することじゃからなぁ。本来の依頼はカラスの情報収集じゃったし、カラスの動きが見られたら何かに生かせると思ったんじゃよ。


そしてどうなったのだ?






『レイブンの悲劇』




沈黙を破る鳥がいた…


さて、最期の取引とでもいこうか?


この状況でも取引をしようというのか?
まあ最期だというなのら、俺様の欲しい物もわかっているんだろうから、聞いてやらないこともないが…




吾輩の持っている物が欲しけりゃなんでもくれてやる。
だから、まずは、聞いてもらいたい。
吾輩が、この取引を最期にしたのは、あることを知ったからだ。
それは、神に空を与えられた鳥類の誇りを地に失墜させるものであり、その誇りを失ってまでは生きていたくないと考えたからだ。
そのためにやらねばならぬことがある。




空も飛べない鶏が何を言っているのだ?


鳥類としての誇り?与えられた空?


そんなもののために命を捨てるというのか?




最期だとは言ったが、理由がよく伝わってないようだな?
誇りを失ってまで生きていたくない。とは言ったが
まだ誇りを失ったとは言ってない。


つまり生きるために、その誇りをなんとしても守らなければならないと言う意味だ。


その誇りを失わないためにも、やらなければならないことがある、その為になら、この取引を最期にしてもいいと言うことだ。




そうか…しかし、滑稽よのう。
取引をやめるということは、レイブンを抜けると言うこと、それがどれだけ恐ろしいことか知っているんだろうなぁ。




カラスよ、これ以上、空気を悪くするのはやめてもらえないか。
レイブンの仲間が、怖がってるじゃないか?




ボスに向かってカラスとは…
「汝、荒ぶることなかれ」か、そうやって、わざと俺様を怒らせようとしているのだな。




カラス、お前の取り柄のことは全て知っている。




鶏よ、お前こそ、そんなこと口にして、レイブンの仲間が怯えておるぞ?




吾輩が思うに、レイブンの皆は、想像で恐怖を膨らませてはいないか?
そして、膨らんだ恐怖に隠されて回りが見えなくなっていないか?


何がいいたい?


つまり、恐怖で問題の本質を見失ってないか?


カラスの{六知の死らせ}には、洗脳作用があるのだ。


今、この組織が滅びようとしている状況にもレイブンの仲間は動けやしないじゃないか?


それは、『洗脳』つまりカラスに支配されているからなんだろう?


まるで、レイブンという見えな鳥籠にでも閉じ込められているかのようにな。
そこでは自由に飛ぶことさえゆるされない。
鳥としては、生きながらに死んでいるようなものだよ。




鶏よ、「カラスに逆らうことなかれ、死の宣告を受けたくなかろう。」という言葉を知らんのか?
俺様に逆らうと、仲間が死んでしまうぞ?




それは、違おう!
カラスと関わることなかれ、死の宣告を受けたくなかろう。と言われていたんだよ。
カラスと関わっていると、いつか死の宣告を受けるからなぁ。




あーぁ、言ってくれたねー鶏くん。
ここまで、隠してきたのに…。
さっきから命約に守られているからって酷いこと言うなぁ。
取引の後が楽しみだよ。
でも、ほら、それを聞いても誰も動かないままだよ?




これから、その洗脳という幻を解いてみせよう。


そんなものは一朝一夕では解けない!!!


それが、一朝一夕でもないんだよなー。
毎日鳴いていたのは、カラスだけではないぞ?


洗脳を解くための教訓
1つ「騙されたと思ってやること」
2つ「まずは、声に出すこと」
3つ「そして、体を動かすこと」




待て、やめろ!ついにおかしくなったのか?
鶏ともあろう者が公開の取引の場で、不毛な会話を持ち出すとは!!
取り乱すなよ?最期だからって命約を破るようなまねはないよな?
さっさと、お前の交渉材料、つまり欲しい物を言え!
相手がして欲しいなら、その後にしてやる。


我の欲しい者は、協力である!


俺様の力を貸して欲しいというのか?


最初から何を言っている?
吾輩はカラスではなく、レイブンのメンバーと取引をしているのだよ。


ナニ!?俺様を騙したのかー!?


まさか、攻撃できないとでも思っていたか??
それでは、洗脳にかかっているようなものだぞ。




俺様を騙すとは命約違反じゃー、卵の隠し場所はどこだーーー!!


それに何でもやるとは言ったが、あれは、もう、吾輩の物ではないぞ…?




最初から騙したのかー!
こうなったら、その命をよこせーーー!




戦いは始まったが、それほど力の差はなかった…


吾輩が、飛べないからと言って、この大地を蹴り続けた脚をナメない方がいいぞ!


飛べない鳥がそんな爪を隠しておったとはな!


まだ!交渉はおわってない!!


ここにいる仲間に捧げる。


君たちは一鳥じゃない、吾輩がいるではなないか…


我が名は二羽の鳥、全ての眠りを覚ます者なり。




その声には目を覚ます力がある…


怒れるカラスは、サギの開発した鳥神薬を飲み。
鶏に目掛け飛びかかった…


それは、石のように固まった鳥達の意思が解けた直後だった。


鶏の声には、洗脳すら解かす、目覚めの力がある。




少し前、鳥達は考えさせられていた。


何のための聖戦なのか?


自分達が勝てるか、なんてことはわからない。


しかし、神にしてはならない生物ならわかる。


それなのに、わかっていても何故かできない事がある。
止めなければならないのに、何か突き動かさせないものがある。


見えないけど、それが、思考をさまたげる…


殺したい気持ちはあるのに、反論すらできない。
当然、何を言ってるのか、言葉にもならず…体の自由すらきかない…


やはり逆らってはダメだと繰り返し思ってしまう。




そんな時、鶏は言った。


見える世界を見るあまり、自分を殺してないか?


見方によって見え方は変わる。


今、見ているこの世界、怖いと思うことや、ダメだと思うことが、事実とはかぎらない。


本当の自分を見失ってないか?
自分が何者なのか。


自分より強く、大きい、誰かを基準に生きてはいないか?


それが、自由か?


君達は、レイブンの一員である前に、神に翼を与えられた鳥なのだよ。


こうして、飛べない吾輩でもカラスに立ち向っている!
どうか、その自由な翼には、嘘をつかないで欲しい。


いつかのように、誰の目も気にせず、ただ風に乗り、空を舞い、この世界をその広い目で見ていた時の事を


思い出して欲しい。


初めて空を飛んだ時のこと、飛ぶ前は、自分には飛べないと思っていただろ?


それは事実だったか?


でも、飛べたじゃないか。


その飛べた時の気持ちを思い出して欲しい。


君達にはできるんだよ。


再び、自由の翼を取り戻すんだ。


その言葉で場の空気がたしかに変わった。


交渉成立!洗脳は解いたぞ。さぁ共に戦おう!




そうか…あの時も俺達はできた。


これは、自分達だけの聖戦じゃない。


俺達は、わかってはいた。


このままカラスに従っても死は避けられない、そこでどう死ぬか。何をして死ぬか。


死が避けられぬのなら、どうしても止めなければならない者を止めなければ…


鳥類の誇りがすたる。


鳥神薬を飲み、鶏に向かうカラスに四方から鳥達は飛びかかった。


全ての呪縛は解け、神にしてはならないカラスと鳥類の誇りをかけた闘いが始まった…。


カラスは、サギの鳥神薬で、まるで噂に聞くタカような瞬発力を得ていたのじゃ。


しかし、一致団結した、レイブンもそれに引くことはなく、接戦が繰り広げられた。


途中で、サギの作った幼いクローンが、カラスの加勢をし、そのクローンもろとも、カラス以外のレイブンのメンバーが全滅する結末となった。




そうだよなぁーあの日の神の戦死報告で多くの鳥の名が言われたからレイブンが崩壊した気はしたけど、カラスの死亡は翌日分の報告だったもんなぁ…


あと、気付いたんだが、カラスはレイブンの支配者だろ?並び替えるとブレインの支配者になる、つまり最初から組織を洗脳することが目的だったんだよな?




カラスは、そういうところ腐っても天才なんじゃよなぁ…もしかしたらその自惚れに鶏が気付いたのかも知れんのじゃな…


それにしても、よくそんな凶悪なヤツに挑んだよなぁ~。


そうじゃよなぁ~


ん?次の日に、蛇がカラスを倒したんじゃないのか?


え?あー倒したというか、落としたというか…
あの、悲劇の後、すごい焦ったんじゃよ。


早くどうにかしないと、世界が終わってしまう!


もしかしたら、前回十天祭の二の舞に成りかねないわけじゃし。


とにかく、翌朝からカラスが卵の保管場所を探し始めるのは目に見えていたから、それを阻止すべく策を考えたんじゃ。


そして、カラスが戦場となった集会場の藁で作られた巣に寝静まった頃…


ミーは尻尾で石をつかみ集会場の壁に、全てを知っているから取引をしようと書いたんじゃ。


詳しくは…


全てが黒いカラスへ。
我は、レイブンの秘密を全て知る者なり
サギからは、万が一の時のためにクローンを台無しにする方法を我に託している。
最後にカラスと鶏が交渉に使った場所が見渡せる場所で待つ。
レイブンの亡霊~コカトリス~より


こうだ。




何故??寝込みを襲わなかったんだ?




んー。その時の成り行きなんじゃが…
寝込みを襲って勝つのは、ミーの流儀じゃないんじゃよ。


流儀?


自分の中の正義みたいなもんじゃよ。


まぁ寝込みを襲って神になれる程甘い聖戦ではないか。


うん、そうじゃよ。
じゃから、ミーはカラスの軍隊を作らせない為に、なにより、鶏の仇を取るべくカラスに挑んだんじゃ。




しかし、考えていると、とりあえず眠くて頭が働かないから、その書き置きして、翌朝計画は考えることにしたんじゃ。


カラスはサギを殺した以上、秘密を知るものを生かしてはおかない筈じゃから、なんとかなる筈じゃと思ってなぁ。




なにか己の睡眠欲求を正当化しているだけのように聞こえるが…カラスの方が先に寝てるなら、蛇の方が起きるのが遅くなり焦ったのではないか?




まさに、それじゃ!
しかし、軍隊が作られてもかなわないから、待ち合わせ場所に行かない訳にもいかなかったんじゃ。


もう、こうなると鶏から学んだあの{取引}で、あのクローンの対処法というハッタリを上手く使って、今回はやり過ごす作戦にしたんじゃよ。




いつ来るかもわからない者を待つというのは、いつもは観察する側のミーが逆に観察されているような変な気分じゃったよ…




無論、この場所は、ミーが最も考察に向いてると思って鶏に頼んだ環境じゃから、自信はあったんじゃがなぁ…


木の上で待っていると、見るからに腹を空かせた猫科の猛獣が集まって来たんじゃ。


最初はカラスの刺客かと思ったんじゃが…
すぐに気付いた。見ると、その獣の口元は血で染まり、張り付いていた鳥の羽がヒラリ…。


確かな事は、それがカラスの羽の色ではないこと、血が乾いてないこと、つまり、最近殺されたレイブンのメンバーの死骸じゃと言うことじゃ。


そして、偶然、その獣達が集会場から、烏との待ち合わせ場所を見抜いて来たとは考えにくい。


つまり、カラスが仲間の死骸を撒き餌をして、この場所に獣を集めていたわけじゃ…


蛇の待つ木の下に動物が集まると、空から、木や石が降ってきた。


近くで大竜巻でも起きてなければ、それは、カラスの仕業じゃ。


とにかく急いで考えた…


あいにくミーのいた木は、よく滑るため動物は上がってこれなかったんじゃが…


こうなるとをわかっていたのか?


いや、こうなるとは思っていなかったんじゃが、言ったじゃん、考察に適した環境じゃって、考察するにあたって万が一後ろから襲われたりさぁ…以下、察してくれるかな?


とにかく、その時は話もわからない殺意しか感じないようなカラスをどう対処するか考えてた。


更にカラスは、当たるか当たらないかのギリギリを飛んで、ミーを木の下に落とそうとしてきたんじゃ。


これは、様子を見て、いつか当ててくるパターンの戦術じゃとは思ったが、カラスなりに蛇の毒でも警戒していたのか、届きそうで届かない所を通過してくるのじゃ


カラスがいくら目にも止まらぬ速さで通りすぎようとミーにはお見通しなのじゃよ。
それは、フクロウのように目が後ろになくても、微かな熱の痕跡をたどれば軌道くらいはわかることじゃ。


2回で気付いたが、カラスは確実に後ろから狙って来ていたのじゃ。


じゃから後ろから来る熱に集中して……後ろから来たカラスに合わせて、斜め前に毒を吐いたんじゃ。


それがカラスの進行方向でカラスは急停止できず自ら毒にぶち当たり、回転して地に堕ちたんじゃ。




え?毒で倒したことはないんじゃなかったのか?




カラスは、目に染みたくらじゃろう。もしかしたら見えんようになったかも知れんが…地に落ちたカラスは腹を空かせた大猫に食われたんじゃよ。


それを食った大猫は、口に傷でもあったのか、カラスの骨が刺さったのか、しばらくしてから死んだんじゃが、それは、ミーが毒で殺そうと思って殺したわけじゃないんじゃし…言わばカラスの呪いじゃよなぁ。




こうして、ミーは命がけで鶏の仇を取ることができたんじゃ。


仲間のために戦うとは、すごいなぁ。


命を枯らす鳥か…その称号は伊達じゃないなぁ。
聞いてるだけで、命が減った気がするわ。
しかし、前に毒を吐いて当たらなかったらどうしてたんだ?


おそらく振り返って毒を吐いても、それこそ避けられてしまうんじゃよ。


ミーは昨日カラスを考察して一つの癖を見ていたんじゃ。
癖は、簡単には直せないもので、自分では気付きにくいものじゃから、弱点になることが多い。
鶏から、鳥には利き羽があるとは聞いていたんじゃが、カラスは反射的に回避する時、高確率で右に避けていた。


じゃから、あとは、当たるも当たらぬも運に任せたんじゃよ。


そうか、言われてみるとワシも同じ手なのに左をよく使うなぁ。話に夢中で、食事が止まっておったわ。


そうじゃな。


話は変わったんじゃが、こうして鶏から卵をもらったんじゃ。


猿殿には頼みが1つと言ったが、できれば鶏の事もよろしく頼みたい。


仕方ないなぁ~


こんな美味い卵を毎日産むのならいいだろう。




それで、それからミーは、食事をするときは鶏意を払って、命に感謝するようになったんじゃよ。




なるほどなぁ、少しわかった気がする。


食べ終わったことじゃし、作戦でも立て直そうか?


それもそうだが、蛇は何故そうも死にこだわるんだ?


なんじゃ、まだ、信用してないのか?


そうではない、仲間だから、相手の事を知ろうとしているのだ。
蛇の作戦は理解したんだが、何故、自分が死ぬことを選んだのか…神にバラされたから仕方なくや、種族のために任せる事にした。
それを選んだことはわかったが、死ぬとを選んだ理由がそれだとしたら、それに行き着いた理由はなんだ?




なんじゃそれは猿殿らしくない、わかりにくい質問じゃな。
つまり、より本質的な、死ぬことを選んだ理由に至る理由が気になったわけじゃな?
「あらゆる行動は選択からなり、その選択は行動からなる。」つまり、過去の行動と未来の行動はつながっている、その選択も然りじゃということじゃ。
それを聞かれると…ミーの生い立ちから知らなければならないことがあると思うんじゃが…重い話になるぞ?


蛇の生い立ちに秘密があるのか、話が重くなるのは蛇らしいじゃないか。


見えないところに目を向けるとは、猿殿も変わったんじゃなぁ…


ミーが、この聖戦に選ばれた時は、自分は生け贄なんだと思っていたんじゃ。
なぜならミーの種族の蛇の多くは前夜祭を通過するほど強いのに、その中で何故か体の弱いミーが選ばれたからじゃ。これが手違いでなければ、嫌がらせなのかと思ったのじゃ、おそらく元々優秀な我らの種は、これ以上の力を求めなかったのじゃろうと思った。


だから、開戦早々あきらめて、寝たふりをして食われる事にしたんじゃ…
ここまでの命か…と思って、ずーっと待っているというのに誰も食おうとしないじゃないか。
じゃから、運に巳を任せて、いつ食べられてもいいように、動かずにそのまま考えたんじゃよ。




死ぬ前に思い返してみると…
思えば、今までは、ずっと苦じゃった…
白い色のせいで多くの敵に追われて、同じ蛇からも違う蛇だと嫌われ。逃げながら孤独に生きてきたのじゃ…
我ながらよく生きたと思った。


すると神知の影響か、自分の中で、誰からも嫌われる自分のことが他の誰よりも嫌いになっていたんじゃ。
そもそも、長く孤立していた事を踏まえると、自分の事を考えているのは、自分くらいじゃった。
その時、自分の事を一番嫌っていたのは自分だったということに気付いたんじゃ。




蛇の言ってるのは、カラスと似たような仕組みで、自己暗示のようなものにかかっていたというわけか。
自分というのは、自分が他者に思われていると思うような自分になるものだ。
他者に優しいねと言われたら、他者に優しいと思われていると思い、優しと思われるような自分になる。
逆に、嫌いだと言われたら、他者に嫌われていると思い、嫌いだと思われるような自分になるものだ。
更に蛇は、そんな自分が嫌いになったわけだ。




そうじゃな。
猿殿もそれで少し変わったのかも知れんのじゃよ。


まぁそうして自分の思い込みに気付いたら、もしかしたら今までずっと、そうやって誰かのせいにしてきただけなのかと思い、もし、そうだとすると…このまま死んだら、生まれてからこれまで何もせずただ死んだことになる…
何もしなかった理由は、敵を避けるあまり、自らいい影響も全てを避けてきたからじゃ。


知らなかったとは言え、誰かのせいじゃなく自分のせいで、こうなった今があるのじゃとすると、何一つ、やりたいこともせずに死ぬなんてことに納得ができなかったのじゃ。




蛇は何もしないからこそ、何も状況に変化が起きなかったわけだな。
そして、それに気付いたわけか。




そうじゃ、その考えから更に、良いことをしたら良いことが返り、悪いことをしたら悪いことが返るという法則に気付いたことでミーの命は救われたようなものなんじゃ。
そうと解れば、何もせずに死ぬわけにはいかないから、何か一つでもと自分にできることを考えたんじゃ。




つまり、何かをしたら何かがかえるように、何もしてないのに、その命を返すわけにはいなかいと考えたわけか。




まぁーその時はもっと曖昧な考えじゃったのかも知れんが、ただ、その法則でわかったことがあるのじゃ。
ミーは産まれてこのかた、ずっと生きた心地がして来なかったんじゃが、その考えは勘違いじゃなかった。
生きた心地がしなかったのは生きていなかったからなんじゃとわかった。
じゃから、それからはその逆である、生きた心地というものを求めるようになったんじゃ。




それは…あの時の鳥籠の鳥達と同じように、不本意に生きるということは、生きながらに死んでいるようなものだと、自らの考えで気付いたというわけだな。


そしてその蛇の考えた法則と、不本意に生きてきた経験に基づいた考えに通じるものがあったというわけか。
しかし、生きる意味とは…わからないものだな。




これまでの生き方で今の生き方が決まり、今の生き方でこれからの生き方は変わるんじゃろうな。
話は戻るが、それで自分にできる事を考えたんじゃ…


この聖戦の事を考えると、有利とは言えないアルビノのミーが逃げ延びて前夜祭を生き残り、十天祭に選ばれたことに、何か特別な意味があると考えたのじゃよ。


しかし、いくら考えても、そこから全く何も見出だせなくて…自分の思考法や身体能力も戦闘向きではないのじゃし、そもそも、何もしてこなかったミーに、何かできることを考える、という漠然とした自問から答えを導きだすのには少し無理があるのじゃと思った。


じゃから具体的な自問を考えることからはじめた。




そこで、もう一度、経験した事を考え直してみた。


この聖戦の前から、誰よりも多くの敵に狙われ、同じ蛇からも違う生き物じゃと嫌われてきたんじゃ…


そんな経験があるからこそ、生きているうちにやり返すのじゃろうと思われるかも知れんが、何かをしたら何かがかえるということが念頭にあるから、復讐などは考えないようにしたんじゃ…
そこには、そうやって何度も、自分に言い聞かせる自分がいたんじゃ。
嫌な考えを考えないようにしてるというのに、それが頭から離れない。
それを考えないようにするのは、簡単そうで難しかった。
考えない事を考えようとすると、何故か考えずにはいられなくなるものじゃ。
おそらく、繰り返すそれからは逃れることができないのじゃと思い作戦を変えた。
もはや、思い通りにならない自分との戦いになっていた。
いくら考えないようにしても、そうやって考えてしまうのなら、逆に、考える事で、考えなくなる道があるのじゃろうと考えた。


だから、あえて向き合うことにした。


何があって、どうなったのか?
失ったものはあるけど、生きることに必要な命までは奪われていない。


聖戦が始まってから、逆転の発想で気付かされたことが多かった。
じゃから思っている事の逆をしてみた。


すると、何故か、他者を許すことで、自分が何かから解放されたような感覚になった。
それは…あの時感じた、自己嫌悪のようなものが薄れたかような…
自分を許せないのは、他者を許せないからだった。
全ては自分に返ってくるんじゃった。
つまり、許せば、許される。
だから、一つ許すだけではなく、全てに感謝した。
それも無条件で…


すると、そこには余計なことを考えない自分がいた。


聖戦の前までは、考える前に行動していたのじゃ。しかし、神知というものが与えられてからは、考えずには何も行動できなくなってしまっていた。
得たものも多いが、それで失ったものもあると考えたんじゃ。


じゃから、考えないことにした。


そうこう考えているうちにも、行き交う聖戦士達は見向きもせず素通りしていた…
その時、目の前に答えがあることに気付いたんじゃ。
あれだけ考えたのに、答えはあっさり見つかった。


目に見えないものを見ようとするあまり、目に見えるものが見えなくなることがある…それを故意の盲目というんじゃ。
それは、何かを意識するあまり、回りが見えなくなるだけではなく、目の前のものまでもが見えなくなるという錯覚じゃ。


それを利用したのが、白色特化…仮死戦術なんじゃが。
猿殿はわかっているじゃろうが、ミーは十天祭が開始してからすぐに仮死戦術を始めたようなものなんじゃ。
それまで、何故、敵が素通りするのか?なんてことは全く考えてもみなかった。
何故なら、それは、今まで何度もあったことじゃから。
今まで多くの敵に狙われ、上手く逃げてきたのは事実じゃ。そんな中、敵が素通りするなんてことはよくあったんじゃ。
それは、運が良かったから、食われなかっただけなんじゃろうと思っていた。
例えば、敵の腹が空いてなかったからなんじゃろうとか、蛇の味が嫌いなんじゃろうとかいうふうに思っていたんじゃ。
それが、当たり前のようによくあることじゃから、いつの間にか気にならなくなっていったんじゃ。
そして、今回はわかりやすく諦めているというのに、運が悪くて食われないだけなんじゃと思っていた。


しかし、思えば、この聖戦という戦いの場でも、聖戦士達が素通りをしているわけじゃ…
それでは、腹が減ってないからだとか好き嫌いで狙われないという…今までの考えが全く通らないことに気付いた。
つまり、自分には、自分がどう見えているのか容易にわからんものじゃが、この、どうぞ食べてくださいと言わんばかりの姿勢が、相手から見ると、既に死んでいる蛇にしか見えていなかったということがわかったんじゃ。


そして、自分でも、何故、敵が素通りするのかが当たり前の光景すぎてわからなかったように、それは敵の方から見ても、ミーがいくらしっかり見えていたとしても、どうみてもそれが気付かれないようにしているとは思えないようなことをしていることで、逆にそんなことをしているわけがないだろうと思われてきたんじゃろうと思った。


あり得ないと思い込んだものは、見えても見えなくなる…
見えなくなる、というより認識できないくなるというわけじゃ。


蛇足が過ぎたが、こうしてミーに、何かできることがあるのか考えた結果、「この聖戦を戦わずして勝つ」ということに決めたんじゃよ。


案外、死んだふりをしてみると、聖戦士の取り柄や戦術も観察できて、色んなものが見えてくるようになったのじゃ。そして、それをミーが生きるために活かしていくようになったわけなんじゃ。
なにより気付かれないように観察したり尾行したりするような感覚に、生きた心地がしたんじゃよ。


この聖戦の前から、気付かれないように、怯えながらやり過ごすことや、敵の顔色を伺って行動することもあったんじゃが、その時は逆に生きた心地がしなかったんじゃが、やっていることは変わらならなくても、気付かれないことに気付いたことで何かが大きく変わったんじゃ。


その何かを上手く説明することはできないんじゃが、それからずっと生きた心地と言うのは味わっているんじゃ。
むしろゼロからこの短期間でよくこれだけの、ことができたと思うんじゃ。
じゃから、死ぬのは定めじゃ、それとは別に悔いがないんじゃ。




なるほどなぁ、やはり蛇の考えは面白いなぁ。
何より、それに自分で気付いてきたところがすごい。
誰でも長く備わっていた才能に自分では気づかないものだ、それを他者に気づかされる事はあるが、蛇は敵との接触も避けていたから。その才能に気づかなかったわけだな。
だとすると、蛇の種族の中には、お主のことを探していた者もいたのかも知れんが、それが卓越した逃避能力で見つけられなかったのかもしれんなぁ。
しかし~、蛇がワシにした提案した内容では嫌われていた同種を助けることになるのだぞ?
ほんとに、それでいいのか?




これは、今だからわかることなんじゃが、考え方によっては、ミーは、同じ蛇よりあらゆる感覚が劣るために、見える世界や物事の感じ方でも、仲間達と同じ感覚を共有できていなかったわけじゃ。
じゃから違う種類じゃと思われても無理はなかったんじゃよ。




この聖戦に選ばれた時は、皆が神知を得ていたから、蛇が不利になることはわかっていた筈だが、それでも仲間を信じるというのか?




神から説明もあったようにこの聖戦では頭を使う、ミーは、生まれてからずっと生きるために頭を使ってきた。じゃからそれを見抜いたんじゃないか?
それにミーと同じ蛇は、敵という敵がいないために、頭を使う事が少なかったんじゃ。




蛇は、この聖戦で大きく変わったのだなぁ。




結果的にこの聖戦ではミーの弱点が功を奏したわけじゃし、仲間を憎めば、自分が憎まれるだけじゃと言うのがミーの法則なんじゃ。
例えば、こうしてミーが蛇の尻尾に噛みつくとしよう。すると、尻尾を噛まれた蛇は、ミーの尻尾を噛む。
この繰り返しじゃ。




つまり、その蛇の輪で表したように、蛇の本質的な判断基準は、全ては自分に返ってくるという法則か。
そして殺さない戦術で生き残ろうとしてきたが、生存している事がバレた為、今回の作戦に変えたわけだな。しかし、そのまま、仮死戦術をしていたらどうなっていたと思う?




猿殿、確かにミーの法則では、殺さなければ、殺されないはずなんじゃが…存在がバレては仮死戦術は通用しなくなると思うんじゃ。
そしたらどう考えても、探されてしまうじゃろ?
もし見つかってしまえば、自ら殺そうとしなくても、相手から殺そうとしてくるわけじゃから…ミーの法則通りになるんじゃよ。
おそらく、ミーが先に死ぬじゃろうが、ひと噛みで相手もやがて死ぬことになっていたんじゃよ。




なるほどなぁ、ワシは数々の敵を殺すこともあったが、まだ殺されていない…もしかしたら、蛇の法則というのは、蛇にしか当てはまらない特別な才能なのかも知れないな。


それは、そうじゃろうなぁ。
生き方は自分で見つけるもんじゃよ。
ミーの法則で見れば、敵を殴ることは、同時に自分を殴ってることと同じなんじゃよ。
それが、たとえ殴り返されなかったとしても、形を変えて返ってくるのじゃ。
形があるとは限らないんじゃがな。




そういえば、蛇はカラスの時も直接殺したわけではないから、蛇の法則は守っていたわけか。


まぁ結果的にそうなっただけじゃが…


(もし、カラスがミーを殺すような事があればカラスは死んでいたのじゃが…)
なんにせよ、ミーは、最期まで自分のやり方を信じることに決めたんじゃ。


この流儀を裏切ることは、今までの自分をまた否定することになるんじゃよ。


あーぁ、もう一つ理由があるんじゃ。
勝てるか勝てないかは別にして、猿殿が死ぬ理由を聞いたが、あえてそれを優勝を目指さない理由とするなら、それは、神になりたくないからじゃ。


神がいたのなら、なぜミーをこんな色にしたのか。
神の存在を知ってからはずっと頭の片隅にそれを思っている。
それを神が悪いとは言わないが、好きではないヤツの代りをするというわけじゃから、そんな事は頼まれてもしたくない。
やりたくないことをしてまで無理に生きる意味はないんじゃ。
猿殿が神になって、こんな世界を良くしてくれればそれでいいんじゃ。




なるほどなぁ。それは任せてくれ。
カラスが印象を刷り込んだように、白い蛇には、幸運の印象を与えようか。そうすれば色が違っても嫌う者は減ろう。


それはいいかもなぁ、これから作戦会議の予定じゃったが…もう寝ないか?


眠くなってきた…


こうして、猿と蛇の蛇作は語らわれた…


短い夜が去った頃、蛇が目を覚ますと、猿が何かしていた…


もう起きていたのか…
それはなんじゃ?




ワシは戦闘において、できるだけ楽をして勝つために、自分の力だけで勝つようなことはしないのだよ。
効率的に勝つために、地の利を活かすことが多くてな。


これは言うならば、蛇のために作った戦略板だ。
これでワシの頭の中も再現できよう。


今いる地点がここで、卵の保管場所はここだ。
そしてこれが犬、猿、蛇の代わりだ。


これは戦略が練りやすいんじゃ。


確か蛇は、ワシにできるだけ犬から離れていて欲しいわけだろ?しかし、実際に離れたら、戦況もわからないし、やはり、仲間なんだから、協力した方が勝算があると思うんだ…


協力することが神の与えた試練だったからか…


近くにいても犬に攻撃されない方法でもあればなぁ…


どんなトリックを使えばそんなことが…


あっ!鳥の糞の様に卵を落とすのはどうだ?


空を飛ぶ鳥の様にと言うのか?
木に登るくらいでは、奇襲向いているとは言えんぞ?


いや、できるぞ戦略板を見てくれ。
例えばこんな感じで地形の高低差を利用して、上から下へ加勢すると、距離を取れるし、状況も把握できる。


つまり、作戦通りミーが犬引き付け囮になり
猿殿は、周辺の高地から、腐卵を投下する言うことか


この地形なら、おそらく南の風でない限りそれほど風の影響は受けん。


なるほど、しかし、それでは猿殿の命中率が重要になると思うんじゃが?鳥が糞を当てるより難しいとは思うんじゃが、大丈夫なのか?


それなら策がある。いい機械があってな…
投石に使っていた機械で卵を飛ばせば、一定の力で物を飛ばすことができる。


なんじゃそれ?
百聞は一見にしかずだ、洞窟そこの奥にあるだろう。


こんな物を作れるなんて猿殿はすごいんじゃなー!


いや、これは、違う猿が作った遺品だよ。
何でもエテコウの原理がどうとか言っていたが、今回は、距離を飛ばす為には使わないが、一定の力を加えるために使おうと思っている。


なるほど、これで石を飛ばしていたわけか…
鶏に聞いたことがあるんじゃ、レイブンの天敵とまで騒がせた。陸上生物がいるということを、なんでもその生物の飛ばす石はこの世の物とは思えん速さで、飛ぶ鳥すら叩き落とすという、これがあの噂の兵器か…




なんだ、これを知ってたのか、しかし、これを鳥に当てるとはスゴい精度だなぁ。
流石にそこまでは技術者しか使いこなせんだろうなぁ。


『推理する得手』なら、できるんじゃよ。
しかし、楕円形じゃから卵は石ほど簡単には飛ばせんじゃろうな。


とりあえず、これを移動するのは面倒だから、卵の保管場所の近くに、この機械を作ろうと思う。


こうして、二者は協力し投石機を作ることになった。




確かに、これだけ猿殿が離れていれば安全じゃな。


ダメだーー!
この投石機では衝撃が卵に伝わりすぎて、飛ばす前に割れてしまう。


まさか失敗なのか?


この植物のツルの強度を保ちつつ伸縮性を上げないと…


伸縮性と強度なら、良いものがあるんじゃ。


最高の糸が回収してあるんじゃ。


まさか、話してた蜘蛛を倒していたのか!?


いや、ミーは殺生を避けているのじゃよ、蜘蛛が倒された後に、回収したんじゃよ。


よし、これなら卵も割れない!


しかし、何発も卵を飛ばさないといけないぞ?


これは使わなくなった植物のツルで、卵をまとめたらなんとかなるかも知れないな。
これなら…できれば上空で拡散させたいなぁ…


じゃぁ、ほどけやすく適当に作れば上空でバラバラになるのじゃよ。


卵はどれくらい腐らせてある?


この貯蔵庫は冷たい空気が通るように穴が利用されているんじゃ、そこを閉じると下の穴が開いて、火山の熱がこもり腐るように設計されていたんじゃ。


大玉は一つの塊に100コの卵がまとめてある。
これが10発は撃てる。


見るのじゃ、楕円形が円形に近づいたんじゃ。


バナナの葉と植物のツルに変えるか…


なんとかいけそうじゃな…


やはり、これはやっはり、こうだろう…


結局飛ぶ鳥を落とした方の投石機も使うのじゃな?


これで狙うのは、バナナで作った鳥だがな…


この機械スピードを出せば精度が上がるぞ。


猿殿、その石こそ複数まとめて飛ばせば当たるんじゃよ。


腐った臭いは上に上がるから、これなら上から気づかれずにいけそうじゃな…


簡易的な罠も作ろう…そうだな…


その戦闘準備、作戦会議は夜まで続いた…


あの空を見た誰もが最期の夜だと感じただろう。


今までの夜空が嘘だったかのように星たちが祝福しているようだった。


こんなに星が見えるんじゃ


これは明日は晴れるなぁ


ミーにはこれが星を星と思える最期の星かも知れんのじゃ…


絶対、勝とう。


寝るか~明日は決着の日じゃ。




猿殿~、起きるんじゃよ!


おお、朝食を準備してくれたのか?


まぁーもう最期じゃからな
できることはなんでもしたいんじゃ。


あれ?もう卵はないのではなかったのか?


これは、とっておきの戦利品なのじゃ。
これはあのサギが作った力がみなぎる栄養価の高い卵なのじゃ。


これが言ってたサギの作ったという神知の結晶か!
しかし、少し小さいんだなぁ


小さい理由は後でわかるんじゃ。
これは鶏から貰った、腐らない上に栄養も限界まで上がっている、「命薬、長寿の卵」という代物じゃ


猿殿に頼みがあるのじゃが、この卵は丸飲みにしてほしいんじゃ。


なぜ、そんなことをせねばならん?


猿殿よ、神の与えた物には忌巳があるんじゃよ。
鶏いわく、この卵は、サギの神業によって品質改良されているのじゃ、その緻密に作られた殻にも当然欠かせない栄養があり、それを割ってしまっては、卵の中身が外気と結合して、繊細な成分が壊れてしまうらしいんじゃよ。
じゃから飲み込みやすいように、あえて一回り小さくしてあるんじゃとか。


そもそも蛇という生き物は感謝して、丸飲みするのじゃから抵抗はないが、猿殿がバナナを皮ごと食べるようなもんじゃよ。


(この長寿の卵に、もし毒が入ってても、血清があるからワシは死なない…)


「そうだな」と猿は言い蛇のように飲み込むと、急に苦しみ出した…


慌てる蛇。
「まさか!?何故じゃ?」


笑う猿。キッキッ
「冗談じゃよ、喉につまりかけたわい。」


(ここで猿芝居とは…あなどれん猿じゃのう)
こっ、ここで猿殿に死なれては、力任せで勝つような犬が神になってしまうんじゃよ~。
猿殿には、鶏とミーの事を任せているんじゃ。




悪かった、悪かったキッキッキッ
蛇よ、犬が現れたら、短期決戦になるだろう!


さて、計画通り行こうか!


こうして、持ち場に別れた。




蛇は持ち場に着くと、犬がわかるように、猿の毛を撒いて待った。


(蛇の作戦で毛をやったが、寒いのう…早く来ればいいが。)


風もなく音もない、湿った空気に遠吠えが響いた。


待って居たのじゃ…まさかお前が犬とはなぁ。


(やはり、この戦いは単に力任せで勝てるような聖戦ではなかったと言うわけか…アレは知恵と力を兼ね備えた犬やも知れんなぁ)


猿のような臭いがしたかと思えば、ただの毛とは。
我の他に、エテ公が残っておるだろう?


なんじゃそりゃぁ?


蛇め、一体何を企んどる!?
貴様からは悪意の臭いがプンプンしとるわ。


まーぁそう、毛を立てんと落ち着くのじゃよ犬殿。
焦ったところで結果は変わらんのじゃよ。


我はオオカミ、大いなる神と成る者だ!
白い蛇かと思えば…貴様、キングコブラだな?


(まさか最終決戦が、王の名を持つ者の戦いになるとはな~。神に成る戌とは…戌が何かに成るには少し足りん気がするがなぁ~)


ミーは、キングコブラであってキングコブラじゃないんじゃ。気安く呼ぶな!






なんだ?我が、オオカミだと知ってまだこの状況がわかってねぇのか?
何故、この聖戦が開かれたのか…
我の種は十天祭の前から減りつつあった…
その絶滅を食い止めるべく、これは、神が我に与えた試練なのだ!!


蛇はまさか真言を理解してないのか?
オオカミとはオウカミが変形した御言葉
それは『王神』さらに、王を噛み、つまりは大いなる神と成るものだぞ?
これで、蛇の王には勝ち目がないことがわかったか?




なんじゃそりゃ?酷いこじつけだなぁ??
まさか、理由はそれだけか?




わかりやすく名前に神ってついてるだろ?
それにdogを、並び替えるとgodになるという今後の計画性まで感じる!!




それは~都合がよすぎるんじゃ。
エゴが強いなぁ、ミーからしてみれば、神がそんな簡単にわかるような問題は与えないと思うんじゃ。
見方によっては、犬と神が真逆じゃとも言えるじゃろ?


やはり、こんな時でも犬はよく喋るんだなぁ~。
多少は賢いかと思ったが、期待外れじゃったよ。
今にも飛び付きたくてウズウズしているんじゃろ?


どうやって、お前のような犬が、この聖戦を生き延びたんじゃ?




聞いて驚くなよ?かつてケルベロスと呼ばれていたのは、この我なのだ!!!


あーぁあの地上では、三身一体の魔犬じゃとか呼ばれていたあの3体か…
知っているぞ?キツネとジャッカルまでは聞いてきたが、あと一体がオオカミだったとはな…




そこまで知っているなら噂にもならん無名の蛇は、もう諦めて、我に付いたらどうだ!?
猿など!ひと噛みにして、地位を優遇してやるぞ!?




ケルベロス…って聞いたことはあるんじゃが、それは臆病者の名前じゃろう?ミーがレイブンから聞いた話じゃと、上からはよく見えていたらしいぞ?
そんな事考えたのはキツネのヤツなんじゃろうが、『荒野の掃除屋』の異名を持つジャッカルに、死臭を追わせて敗者の臭いを嗅ぐことで、手負いの傷者を狩っていたんじゃろ?
それも、3対1で…


それがどうやったら三身一体の魔犬になったのかは知らんのじゃが、さっきから笑ってしまうんじゃ。
どう考えてもお前に神の資格はないんじゃ。




そんな高いとこから見下ろして蛇には神になる者としての礼儀がないのか?


ミーはあいにく神の代わりをするつもりはないんじゃよ。


なぜ猿の味方をするんだ!!


お前には関係ないことじゃ。


下に居たオオカミは、木を蹴り跳ね上がろうとしたが妙に滑るその木から滑り落ちた。
すると、揺れた木から腐卵の大玉が、犬を目掛け見事に直撃した。


この木の皮はバナナのように一度剥いであるんじゃよ…それを戻しただけじゃが、神になろうかという者がこんな簡単な手に引っ掛かってしまうなんて…




突然の強臭に、ひるむオオカミ、見上げると蛇の姿は消えていた…




いくら隠れようと蛇にも腐敗臭は付いてる…


移動している…微かな臭いを追えば蛇は狩れる…


なんだ?四方から腐った臭いがする、猿も居るのか…


その場でオオカミは数回回る、鼻がおかしいのか?
そんなわけがない…


( ( どれが本物だ? ) )


近づいてくる臭い…


目が霞む犬…落下傘のように落ちてくる縫い付けられたバナナの葉に気付く事はなく。


パァン!!!バナナの鳥が狙撃された…


何かが弾けるような音と共に、邪悪な雨が降った…


(いくら俊敏な犬でも雨までは避けられまい…本日は晴天なり、雨は降らんが腐卵の雨が降ったとさ。)




全て計画通り…その雨に蛇は歓喜し、辺り一帯は、酷い臭いに包まれた。


空襲の味はどうじゃ?


やってくれたなぁ貴様ら…


猿は、休むことなく腐卵の雨を降らせた。
あとは、戦いの行方を観戦するだけだった。


舞い上がる強臭に視界は奪われる…




これでは貴様もただでは済まんだろう!!仲間も見殺しにする!こんな非道な手が貴様らの作戦だというのか!!




なんでも決めつけるんじゃないよ。ミーには熱感知機能があるんじゃ、目を開けなくとも、お前をはっきり認識しているんじゃよ。




それにこの長く続いた雨のぬかるみ、その足では、まともに歩くこともできまい、当然走れまい、目をつぶって走るようなまねでもしたら、棒に当たって自滅することになるぞ?


しかし、ここまで上手く行くとはなぁー。


失神してないだけ、まだ楽しめるかー?


短期戦じゃとは言われていたが、最期がこんな呆気ない戦闘になるとは…


万が一、お前がミーに勝つとしよう。しかし、その鼻で猿を探すことはできない。もう、お前は神に慣れんのじゃ


なんじゃ?よほど目鼻が痛いのか?
それとも、敗けるのが怖くなったのか?


蛇は犬の足元の沼に潜んでいた…
(蛇は上手く死ぬために、殺されるのを待っていた。)


こんな簡単に終わらせては面白くない。
猶予を与えてやる。
興味があるから、犬の称号と取り柄でも聞いておこうか?


神…が我に与えた称号は…『神追う灰色の探嗅者』
取り柄は…{灰色領域グレーゾーン}…


わざと目立たせる戦術「灰の狼煙」により、敵の気を引き、その隙をつく。


我らの種が風前の灯火故に、そのような曖昧な取り柄を得たんだろう。
灰色は白でもなく、黒でもない、はっきりしないからこそ見えにくい。それが徐々に増してくる。




じゃから、鳥であっても正体まではつかめなかったわけか…


犬があえてその道を極めるなら、次第に誰の目にも着かなくなり、やがて誰からも忘れられるじゃろうが、そうなると絶滅は避けられん、自分で自分の首を絞めているようなもんじゃなぁ。




ケルベロスの名は、陸上では確かに恐れられていた。それが「灰の狼煙」なわけじゃなぁ。
それがまさか猟犬と見せかけた利用犬じゃったとは、ジャッカルとキツネすら死角に利用し、その影に立ち回ることで、自らの身を守り戦ってきたんじゃな。


それすら、仲間が気づかなかったんじゃろが、それで自分だけが上手く生き残ったわけじゃな…




そう、思考の死角をつくのが得意な我にとって、視覚の死角をつくことは容易なことだ。


それに、気付かれないように、我の死角に移動するよう誘導していたとも知らずに…


ぬけぬけと語りよって…


突然、目にも止まらぬ速さで、犬は蛇の首に噛みついた。


所詮、噛めねば毒は使えまい…




(なんという早さ!蛇は噛めたのか?なんの話をしていたんじゃ~こんな時に。しかし、あの鼻ではもう探せまい…待っていれば、死んだかわかるじゃろう。)


死ぬ前に教えておいてやろう。
我が敵の死角に立ち回るのは、常に敵からの死角を予測しているからだ。その取り柄を利用したら、敵が死角に隠れる場合など容易に判別できる。


特に、狡猾な者ほど、その隠れ場所はわかりやすい。


ちなみに、視力がいい者だけが目がいいとは限らない、多彩な色を見分ける者も目がいいと言える。
それと同じ、鼻がいいからといって臭いを強く感じるだけではない。多くの臭いをかぎ分けられる事がいい鼻の条件だ。


それに、臭いには慣れる。
この聖戦を勝ち抜いた我が臭いなどで負けるわけなかろう?




やはり…よく喋る…
犬じゃ…決めつける…な……




こうして蛇は上手く生き絶えた。


嗅覚を完治させてから、猿を探そうとしたオオカミは、蛇を噛んだことにより強力な感染症になり苦死んだとさ…




蛇は、この聖戦、死ぬことで敵を信用させてきたように、最後も死ぬことで猿を信用させたのだった。


猿は蛇が死んだと知った時、蛇を真に信用した。





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