『俺の妹は、こんなに手がかからない!』

黒猫

 第1話『妹の友達!』

「おぉっ、まっつりちゃーん!」






(あーぁ……マツリちゃんってあの人か……)


 昨日、学校行くとき小さい声で挨拶してきた人だ。もしかして、俺が鈴音の兄だって知ってたのか……




「おーっ鈴音! 入学早々学校休むなよー! って何? 髪、染めちゃったの? 千歳ちとせちゃん(桃川千歳)かよっ! アハハッ」


(ほら、黒染めしろって言ったのにー)


「えーっ似合ってるでしょー?」


「それ? 地毛なの?」


(ほらーカツラだと思われてる)


「そうだよぉ!」


(引かれるぞ……)




「えーっ、すっご! めちゃ綺麗に染まってるじゃん!? 可愛きゃっわーっ」




(えっ? 褒めてる?)




「コスプレしてるんかと思ったわーっ」


「キャハハッ」


(キャハハって……)


 ローレンシアさんが鈴音のコスプレをしていることには違いはない……この人もなかなか鋭いなぁ……


 そもそも、この鈴音があの鈴音じゃないって知ってるのかなぁ……でも、直接聞くわけにもいかないし……


 にしても、なんだ? この人のテンション、コスプレ風のローレンシアさんを見てテンション上がってるのか、昨日会った時と全然テンションが違うんだけど……




「ぁっ おっはようございまーす!」




「お、おはよぅ、鈴音の兄です」




色葉いろは まつりって言います」


(『いろは』って言うんだ……珍しい名前)


「あっ、僕は……紫音しおんって言います。鈴音をよろしくね」


(僕って! 俺としたことが……ボク……)




「お兄さんも! 鈴音ちゃんが寝坊したらちゃんと起こしてあげて下さいねっ!」


(え? 鈴音が寝坊して、昨日休んだと思ってるの?)


 そもそも、しっかり者の鈴音は、寝坊しないし……それに俺達は時間差で通学するタイプだったんだよなぁ。当然、昨日は俺の後に鈴音が学校来ているものだと思ってたけどさ……




 にしても、流石に寝坊で1日は休まんでしょ!




「まーつーりー大丈夫だよっ! 今日はお兄ちゃんに起こしてもらったんだもん! アハッ」


(いやっフォローになってないから! 鈴音が一人で起きれない人みたいになってるじゃん……)




 そもそもローレンシアさんに、鈴音の印象を守れって言うのが無理なんだよね……




 それにしても、この2人すごく楽しそうだなぁ……


 高校ってそんな楽しいもんじゃないんだけど……




(おっと、つい、しらけた目をしてしまった!)




「じゃぁ、行こうかぁ……」




 まぁ……溶け込めてるみたいだしいいかぁ……






 ローレンシアさんは、朝からテンションが高いんだよなぁ……それに、朝5時から起こして来たのはローレンシアさんの方からだし・・・・・・








「お兄ちゃんっ! 起きて! 学校だよ!」






(いゃ……まだ、目覚ましは鳴っていない……)




「はーぁーぁっ」


 あくびが止まらない……あまり寝てないって言うのに、激しく肩を揺らされてる俺の身にもなってほしい……まだ、起きたくない……


 ローレンシアさんは、まるで修学旅行に行く日のようなテンションだ……


 部屋の電気がつけられていて、目も開けられない……




 最悪だ……




「あと15分……寝させて……」


 今が何時かは知らないが、まだ2時間くらいしか寝ていない気分だ……




「ねーねー、このホック止めてくれない?」




(ホック?)


 部屋の明かりが眩しすぎて目は開いてないが、その一言に、俺の脳は完全に目覚めた……




 訳あって、今、この布団から出ることは難しい。




 ローレンシアさんは朝から何を言っているんだ……男子という生き物は、それでなくても朝に弱いっていうのに……まさか、これが昨日言ってた『花婿修行』ってやつなのか!?




「わ、わかったよ……わかったからとりあえず電気消してくれないかな?」




 まぁそう言う他ないだろう……ローレンシアさんがホックできないって言ってるんだし、断って昨日の風呂の件みたいにエスカレートされても困る……


 それに、もし、このまま布団から出れなくて遅刻した場合は、どう言い訳する?


 起きていたのは事実だけど……って?


『神谷くん、寝坊ですか?』


『吉野先生……寝坊じゃないんですよ!』


『あら? 妹の鈴音さんに聞いたら、起こしたけど布団から出て来なかったって言ってたわよ?』


『あぁ……いや、ほんとに! 起きてはいたんですけど……』


『なによ、それ! 起きてるのに布団から出られない理由って! それの、どこが起きてるって言うの!?』




 みたいな……いや、流石にそこまで言われないにしても、そんな流れになれば、薄々感付かれるだろなぁ……
 俺は、つまらない高校生活でもいい、でも、せめて美人な吉野先生には、ケダモノを見るような目で見てほしくないなぁ


 なんにせよ、言う通りにしていないと、転校早々雲行きが怪しくなるのは目に見えている……




「はーやーくーホック!」




(でも、それくらいできるだろ!)




「絶対、動かないでよ」




 外からは白いカーテンを通して、淡い明かりが微かに入り込んできていた。その薄明かりを頼りに、背中を向けて座るローレンシアさんの肩に通されたブラの肩ヒモ(ストラップ)からホックをたどる作戦だ。


 微かに見えるブラの肩ヒモから脱線しないように、上手く指先で挟っ……


「きゃっ」


(朝から、そんな声……)


 人差し指の爪が肩甲骨の辺りを擦るように少し触れたようだが、爪なんて直接神経は通ってないんだけど……


「えっ、いや、わざとじゃないよ……」




 っていうか、俺が妹に悪戯いたずらしてるみたいだけど、俺は朝から何をさせられているんだ……?




「もーっ、これだって」


(その急にヒソヒソ声になるの定期かよ!)


 背中を向けたローレンシアさんからブラの両端を渡され、ちゃちゃっとフックを一番長くなるところで止めるんだが……ちゃちゃっとしないと……手がブルブルだ。


 これがまた、若干キツい……


「あぁっ」


(って変な声だすなよ!)


「ぁりがとうございます……」


(お礼かよ!)


 既に部屋は暗いのに、あえて目を閉じているのは、今、自分の不甲斐なさを悔いているからだ……


 俺は、兄だぞ……何を勘違いしてる……


(落ち着け……)


「いや、いいよ……」


 やはり、顔は鈴音と一緒だけど、ローレンシアさんの方が胸はあるみたいだ……


 そが理由で、付けられなかったんだとしたら……外せないから、外してくれって言ってくるのかな?




(いや、もう考えるな)




「もう、鈴音は部屋に戻って……制服にでも着替えてきなよ」




「おっ! らっじゃー!」




 ラジャーって……そんな学校行くの楽しみなのか?




 ローレンシアさん朝からテンション高すぎるんだが……


 そんなテンションにつられて無理に口角を上げられてしまってた。








 忙しない朝だったな・・・・・・








「ねーねー、2週間以内に部活決めないとだけど、鈴音は部活決めてるの?」


(そっか、部活か……)


 ローレンシアさんの運動神経は知らないけど、目立つような部には入ってほしくないなぁ……




「わたっ…… 「あのーっ、色葉さんは部活決めたの?」




「私ですか? わたしは、運動が嫌なんですよね……」




 ローレンシアさんにも、運動部で目立つよりは、文化部で大人しくしといて欲しいんだけどなぁ……


「えっ、色葉さんも運動苦手なんだ……鈴音も文化部の方があってるんじゃない?」


 わかってるよね?……ローレンシアさん……


「もー、そんなに目で訴えなくても、わかってるよっ! お兄ちゃんは鈴音に目立って欲しくないんだもんねっ!」


(いや! ウィンクすんな!)


 俺、目で訴えてた? それに! なんだその意味深発言! なんで目立って欲しくないの?ってなるよね?


「えっ? 鈴音……なんでなの?」


(ほら! 余計な事いうから!)


「あーぁ、知りたい? お兄ちゃん私を取られたくないのよ!」




((えっ?))


 もう、帰りたい……これは、遊ばれてるパターンか……暴走しているだけか? 確かに、鈴音の印象を悪くしない約束はしたよ? でも、おそらく、俺の印象イメージが……もう、原形を留めてないんだが?


 弁明して……俺。




「えーっどういう関係? アハハハッ」


「違うわっ! 運動部は怪我とかしたりするから、お婆ちゃんにも迷惑かけられないんだし!」


「えーっ必死過ぎるーぅ! 鈴音ちゃんのお兄さん面白すぎぃハハハ」




「アハハハッ」




(アハハじゃないから……)




 なんなんだ、このテンション高さ……全く着いていけない……いや、そもそも着いていきたいとも思わないが、かといって、この状況が全く楽しくないかと問われれば、そんなこともない。


 でも、確実にめんどい……




「鈴音って、お兄さんといたらテンション高いんだね!」


(いや、それも違うから!)


 鈴音は、俺と居ても別にテンション上がらない子なんだよなぁ……




「えーっそれはどうかなぁー?」




 いや! ローレンシアさんは! テンション高いんだからさ! それは、否定できなくない? 逆に、隠すの下手か?って思われるわ!






「あっ!」




「おっはー! ひっかりーぃん!」





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