『俺の妹は、こんなに手がかからない!』

黒猫

 第1.5話『妹の友達の友達!』



(んっ)




 道路を挟んだ向かい側に、一見、鈴音より小さめの絶滅危惧種ツインテールが四角い学校指定スクール鞄を持って立っていた。


 その両手で握られたスクール鞄と対比しても、彼女が小さいのは火を見るより明らか……と言える。


 その人は、色葉さんの声に反応し、右手を挙げ、数回ほど体を跳ねるように躍動させたかとか思えば、その軽快なリズムのまま舞うように颯爽と駆けてきた……


 赤い玉の飾りが2つ……その髪留めに結われた黒く長い髪が、風になびくようにしなやかに流れる。




 そんな光景に、見えないはずの風をも見た気がした……




 風に乗る翼……




 その結われた髪もまた翼と言えるのかも知れない。






 なんと、見事なスプリングだ……


(ん?)


 直観的に平城京みたいなことを思ったが……スプリングと言えばいまでもあるのか……


 いやいや、あの弾むように軽い足取りを見させられた後では……その健康的なアキレス腱から良質なバネ、つまりはスプリングを連想したのも致し方ない……




 その人は、一重……人を疑うようなつぶらな瞳が特徴的で……




((って、俺はなに考えてる))




 その人は妹の友達の友達だ。




 ただ……風も吹かないのに、なんとなく新鮮な春の風のようなものを感じたような……






「おはよー。あぁっ! まさか! 鈴音ちゃんですか? 髪、可愛ぃーっ」




 大丈夫かな……ローレンシアさん……
 まさかっていう事は噂に聞いてる程度で面識はないんだよ?




「えーっと!……マツリちゃんの友達ですか?」


(そうだナイス疑問系!)


「そうそう! 私の幼馴染みの星野ほしの ひかりだよ! 一昨日のコスプレックスにも来る予定だったんだけどねー」




「へへぇー野暮用でねぇ」




「へぇーじゃぁ星野さんもコスプレするんだーぁ」




 もう、女が3人も集まれば、五月蝿すぎで話には入れないだろうなぁ……ローレンシアさんのコスプレ愛が炸裂してるけど大丈夫かな? 引かれてない?




「いやっマツリほど本格的じゃないけどねっ! 下の名前で読んでよ!」


(なんか……いい関係築いてるなぁ)


 色葉さんのサポートが万全だなぁ……助かる、助かる。


「ヒカリンっ! そしてこの人は、鈴音のお兄さんの紫音さんね!」




「あっ、どうもっ鈴音をよろしくね……」




「よろしくです! 任せてくだされ!」


「にしても! 鈴音ちゃんって可愛いよね! まさかアイドルなのか?」




「いやいや! それほどでも!」


(いや全然、謙遜している顔じゃないよ!)


 ここは、釘をさしとかないとローレンシアさんがエスカレートしかねない……


「いやっでも、星野さんや、色葉さんの方が可愛いと思うよ? 今年の一年で一番可愛いんじゃない?」




(うわーっ何言ってんだ……俺……)


 明らかに、振り向いたローレンシアさんが頬を膨らませて怒ってる……そんな眉間にシワ寄せた顔が似合うなんて、面白すぎるんだけど……




『絶対! そんな事ないですよ!』


「えっ?」


 2人揃って、そんなハッキリ否定しなくても、よくない?


「鈴音のお兄さん知らないんですか? 非公開ですけど、うちの学校には、今年、女優の卵さんとか! 現役アイドルも入学してるらしいですよ!」


「ふむふむ、まだ、特定してませんけどね!」




 それで、アイドルの話が出てきたのか……じゃぁ昨日は仕事で休んだかと思われていたのか……そう言えば、俺達は転校生でもあるから、そういう意味でも勘違いされやすいのか。
 あーぁ道理で、俺が転校してから気配を消しているとは言え、驚くほど話しかけられたりしないと思ったら、鈴音がアイドルかなんかと勘違いされてて芸能人の兄貴ぶってると思われていたのか?


 だとしたら、かなり、嫌なヤツじゃん……


 妹の七光りとか……




 まさかな……




「あーっ そうなんだぁ……ところでさ! 星野さんは、部活決めたの?」


「私は、決めかねてますねー!」




「なんか、私達、コスプレくらいしか趣味なさそうだよね!」




「あーぁ、じゃぁ演劇部? みたいな?」


「去年、演劇部と茶道部が廃部になったみたいですよ」


「じゃぁ、体験入部とかってないの? やってみてから決めるとか……」


「あーぁ、でも、それは、やりたいことがある人用の……お試しコースといいますか……」


 あーぁ、全く興味ある部活がないんだね……その気持ちわからなくもないわ……


「なるほどねぇ……」


「たった2週間で、どれかに仮入部はしないといけないみたいなんですよー」


「スパルタですよねー」


「あーぁ、そうなのね大変だねー、俺は3年だから部活入らなくてもいいし……関係ないけど……」




『いいなーっ!』




「まぁ、応援してるから、頑張ってよ……」




 着いた。『奏麗そうら高校こうこう』……都会だから小綺麗なのかと思っていたら、女優さんの卵まで通ってるとは……なんか、すごくめんどくさそうな学校だな……


 そもそも女優って私立に行くんじゃないんだな……そもそも卵ってなんだ? 事務所には入ってますけど無名ですみたいな? そういう優越感で天狗になるって人もいるし……黙ってても目立つローレンシアさんが目をつけられなければいんだけど……




 こんなに、1年女子に囲まれてると、遊び人が転校してきたみたいじゃないか……




「昨日から鈴音、体調よくなかったみたいだから……よろしく頼むわ……」


「はーい」


「心配なんですねー」


「だってお兄ちゃんは! 私のファンだからね!」




「ファンじゃないから! ただの兄だよ!」




『アハハハッ』




 勝手に笑ってろ……浮かれてバレるなよ……


 問題起こすなよ……


 約束守れよ……



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