狩龍人と巫女と異世界と

GARUD

13 服選びと繋いだ手

 ナツキを追い払った私は何枚かの下着を選別した。
 フリル、紐のかわいい物を数枚、ちょっとだけセクシーなローライズ物に……アップリケがかわいらしい生地多めの計十点。

 アップリケはアレよ?念の為?
 ほら、好みって人それぞれだし?
 本人は否定していたけど、実は?って事もあるかもしれないし?

 しかしこんな事を考える辺り、私自身キス二回で舞い上がっている感じが否めないわね。

 まぁ顔は好みだし?
 性格もちょっと乱暴でぶっきら棒な感じがするけど、根はイイヤツそうだし?
 スタイルに至ってはキャプテンなアメリカで二の腕とかもうむしゃぶりつきたいくらいだし!

 などと自分で自分に言い訳を入れつつ、店員さんに下着を紙袋に入れてもらって一旦カウンターに預けた。

「さてさて。ナツキはちゃんと私の服を選んでるのかしらね……」

 一人つぶやき、服コーナーへと視線を向け移動すると、そこでは何やらブツブツと小さく独り言をいいながら真剣な表情で女物……それも小さな女の子のサイズの服へ鋭い視線を向けているナツキが居た。

 傍目でみると犯罪者にしか見えない。
 事案である。

「おまわりさ~ん。ここに変態が居ますよ~」
「……誰が変態だ。いい所に来たな」

 ナツキは私を一度睨むと、私の腕を引っ張って自分の前に立たせる。

「な、なに?」
「じっとしてろ」
「えっ?えっ?」

 肩を押さえ、ビシッと直立姿勢で私を立たせ、肩や胸、腰回りなどに両手を這わせるナツキ。

 何しとんじゃのこ変態ロリコン野郎!としばき倒そうと目を吊り上げてナツキを睨みつけた私だが、彼の表情は真剣そのもので……イヤらしい感じが一切ない事に困惑する。

 そうして私がどうしたものか?と思案している間にもお尻からふともも、ふくらはぎへと周っていた。

「なるほど」

 ひとしきり私の身体を弄ったナツキはふむふむと一人で頷いて「待ってろ」と言って私を置いてけぼりにしてササッと移動してしまう。

「……なに?」

 私が訝しんでいると、ナツキは何着かの服を持って戻って来た。

「ちょっと来てみろ」
「う、うん」

 無造作に手渡された服を持って試着室へと移動する私。

 カーテンを閉め、貫頭衣を脱いで手渡された服の一着に袖を通すと、ソレはピタリと私の身体にフィットする。

「……………」

 胸や袖口にフリルがふんだんにあしらわれた淡青の服。
 スカートも可愛らしいAタイプでフリルが上から三段に縫い付けられていて、上上下セットで着た私が鏡に映る。
 その姿は何処かのお嬢様みたいだった。
 
「おい」

 試着室の外からナツキの声がかかる。

「なに?」
「着たならちょっと開けて見せてみろ」
「ちょ、ちょっと待って」

 私は服を着る時にバラけた髪の毛を手櫛でサッと整え、鏡の前で一度回っておかしな所がないか確認。

 うん。問題なくかわいい。

 自画自賛した私はシャッと試着室のカーテンを開いた。

 姿を見せた私をナツキは上から下へと鋭い視線を向ける。

「ど、どう?」
「ピッタリだな。かわいい」

 ナツキのド直球、ドストレートな褒め言葉に私の顔が熱を帯びる。
 ナツキは前に、後ろにと回っては「うんうん」と満足気で、私の体温は最早高熱状態。

 あれだけ酷い言葉を浴びせたのにも関わらず、私の為に真剣に選んでくれたナツキにお礼を言わないと!と熱に浮かされた私はどもりながらもなんとか口を開いた。

「あ、ありが「流石は俺。服のサイズからアバターの素材を活かすファッションまで完璧過ぎる。正に究極のコーディネートだ」…………」

 あれ?
 これって私を褒めたわけぢゃななくて……
 自分のセンスを再確認したかっただけ?
 言わば自画自賛?!

 その事に気がついた私が拳を握ってぷるぷると震わせていると、スカートの着合わせを確認しているのか、しゃがみこんでスカートを摘んでいるナツキが顔を上げた。

「ンだ?何か不満なとこでもあンのか?」

 にしても、やはりこの上下のセットは完璧だったな。とニヤリと笑いながら立ち上がろうとするナツキの顔面に足の裏を叩き込んだ私は悪くない。

「ってぇな!何しやがる!」
「うっさいこの変態!何一人で悦に浸ってんのよ!バカでナルシストでロリコンとか三重苦じゃない!」
「誰が三重苦だ!」

 鼻を押さえて吠えるナツキを無視して私はピシャリと勢いよく試着室のカーテンを閉めた。

「なによアイツ……最ッ低……」

 ギリッと歯噛みしつつ服を抜く。
 ナツキが他にも選んでいた服も何着かあるが、今はとても着る気にはなれず纏めてカゴに放り込んだ。

 どうせサイズはピッタリなんだろうしねっ!

 貫頭衣を頭からかぶり、カゴを店員さんに手渡して下着の袋と一緒に大きめな袋に入れてもらった。

 会計はナツキに任せてさっさと服屋から出る。

「おい、ちょっと待てよ」

 後ろから荷物を持ったナツキが慌てて出てくるのをフンッ!と鼻を鳴らしてソッポを向いた私はズンズンと通りを歩いていく。

「何怒ってンだよ?」
「別にッ!」

 肩に手を回してきたナツキの腕を振り払い、少し小走りに通りの角を曲がったその時

「ヒヒーン!」

 飛び出した私の目の前に馬が現れた。
 正確には馬車に繋がれた馬が、目の前に急に飛び出した私に驚いて前足を高く上げて止まろうとしているところだった。

 当然、相手は馬車だけあって速度もあった馬の足は高く上がっただけで止まらない。

 振り下ろされる馬の足が眼前に迫る。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 竦んだ私は悲鳴をあげて頭を抱えて蹲る事しか出来ず、今にも脳天を踏み砕かんと蹄が迫り────その時は何時まで経っても来なかった。

 私は恐る恐る顔を上げると、私に背を向けて護るように前に立ち、馬の蹄を片手で受け止めているナツキの姿が私の瞳に映り込んだ。

「ッたく……急に飛び出すなってのは現実世界と同じだぜ?──っと」

 私に背中越しに視線を送ったナツキは、受け止めた馬の足を少し横にずらし、馬体に手を添えて倒れないように優しく地に降ろした。

 すると、馬車を操っていた御者さんが飛び降りて心配そうな顔で私とナツキに声をかけてくる。

「だ、大丈夫ですか?!」
「ああ。この通り怪我一つありゃあしねえ」
「よ、良かったぁ」
「こっちこそ済まねえな。連れが飛び出しちまってよ?」
「あ、いや。可愛らしいお連れさんが無事でなによりでした。では私はこれで……」

 ナツキが指でコインを弾いて御者に手渡すと、御者はペコリと頭を下げて再び馬車に乗って去って行った。

「ごめん……あと……ありがと」
「ッたく。何をそンなに荒れてンだか知らねぇが、あンまり心配かけさせンじゃねぇぞ?」

 ナツキは怒るでもなく、私の頭にポンと手を置いて静かにそう言って私を見た。
 私はその手に私の手を乗せて彼を見上げる。

「心配……?」
「当たり前だろ。お前に何かあったら俺は生きて行けねぇよ」
「そ、そっか……」

 突然のプロポーズのようなセリフに、頬がにへらとニヤけてしまう。

 その緩んだ顔を見られたくなくて、私は俯くことでなんとか表情を隠した。

 でも、何となく手を離したくなかった私はそのままナツキの手を握って

「帰るか?」
「……うん」

 神殿へ戻るまで繋いだ手は離さないまま……


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