狩龍人と巫女と異世界と

GARUD

7 現実になる世界

 魔物は死ぬと消滅する。
 私の眼の前にいるナツキが、こいつ何言ってんだ?みたいな顔で私を見下ろしている。

 よく考えればゲームの世界だしそんなもんかと思い直す。
 死体がゴロゴロ転がっているゲームとか考えれば嫌だもんね。
 キスからここまで、肉体的にもかなり生々しい感覚もあり、無意識の内にリアルとごっちゃになって考えてしまっていたのかもしれない。

「ドロップとかは?アイテムとか通貨とか、そういうのは?」
「ンなのは倒した者のアイテムBOXに自動で入ってくるっての」

 ほれっとナツキは何もない掌の上に金や銀色をした円系の物や、何かの牙みたいな物を出しては入れてを繰り返して見せてくれた。

「なるほどなるほど……」
「なるほどってお前、どれも常識だぜ?」
「仕方ないじゃない。まだ初めて一日も経ってないのよ?常識とか知らないよ」
「始めて?巫女になってまだ一日ってことかよ」
「違うわよ。この世界が始めてってこと」

 私はン~と伸びをして体の緊張を解す。

「流石は最新のVRMMOってやつよね」

 ニッと笑顔を作ってナツキを見上げてみる。
 私は彼が そうだな。 と笑顔で返してくれるものだと思っていた────

 しかし、見上げた彼の表情は強張っていた。
 眉を顰め、目を吊り上げている。

「VR……お前、この世界が作りの良いゲームだと思ってたのか?」
「そうでしょ?しかも最新のVRMMOだもん。作りが良くて当然でしょ」

 なに怖い顔してんの?今のやりとりの中でなにか気に触る事でもあったかな?

「ユナ。この世界の先輩として教えてやる」

 スッとナツキの雰囲気が変わった。

「この世界はリアルだ。ゲームでもVRでもない。死ンだら終いの本物の世界だ」

 私の瞳をピッタリと捉え、真面目な顔でそう告げたナツキに私は困惑する。

「いやいや、だって現に、私はゲーム機のドライブっていうマシンに乗って、この世界に来たんだよ?顔や体型だって本物の私とは全然違うし!っていうか本物の方がスタイルいいんだから!」

 顔はこっちの方がかわいいですけど!

「ドライブ……たしかVRMMO創世記の遺物だな」
「遺物ってあんたね!最新だよ!さ・い・し・ん!」
「俺の居た元の世界じゃぁドライブは遺物扱いさ。ちなみに、俺の記憶の中にある最新のマシンはライドオンだ」
「ライドオンってバイクかっ!」
「っと、話が逸れたな……ユナ。何度でも言うがこの世界はリアルなンだ」

 ナツキは何処からか取り出したタバコにパチンと指を弾いて火を点け煙を吐く。

「……二百数十年前」
「な……なにが?」

 なにが?と聞き返したけれど、実のところ私は理解してしまった。

 理解してしまったのだ。

 その年数の意味を……彼の……ナツキの心を捉えるような真っ直ぐな瞳に穿かれて……

「俺がこの世界に召喚されてから経過した年月だ」
「ッ~~~!」

 ただ、その事実を私は拒絶したかった。

「俺も最初はログアウトやゲームでいうところのクリアみたいなものを目指したりもした」

 やめて……

「だが、そんなものは何処にもなかった」

 やめてよ……

「メニューを開いてもログアウトなんてものは存在しない」

 やめてったら……

「当時の人族を苦しめていた魔王を名乗る輩を倒した時、これでクリアだと思った後に続いたこの世界には終わりが来なかったことも」
「もうやめてよッ!なんでッ!なんで私なのッ!」

 私は叫び、耳を塞いでしゃがみ込む

「ちょっと新しいゲームを遊んだだけなのにッ!なんで私?!他にも居たでしょッ!」

 地面に蹲ると涙が頬を伝ってポトリ、ポトリと地面に水の跡をつくる。

「そんなの嫌よッ!パパやママにッもう会えないだなんてッ!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 それからどれくらい時間が経ったのか……
 その間、泣きじゃくる私の横にストンと腰を落としたナツキは私の頭や背中を優しく擦ってくれていた。

 涙も枯れ、顔を上げると空はオレンジ色に染まっていた。

 城壁から見る見晴らしはなんと綺麗なことでしょう。

「やっと泣き止んだかよ」
「グスッ……」
「鼻垂れてンぞ」

 私はナツキの服を引っ張り、チーン!と鼻をかむ。

「うおお?!おまっ!」
「女のコに鼻水垂らしてるなんて言うからよ……」
「この痴幼女がぁ……ひとが落ち込んでると思って優しくしてやれば付け上がりやがって!」
「決めた……」
「あン?」

 私は立ち上がった。

 ナツキは服に付いた鼻水を水の玉を手に出してなにやらコポコポとやりながら急に立ち上がった私を見上げる。

「私、絶対に帰ってみせるわ!そんでもって、ついでにアンタも返してやるわ!」
「いや……無理だって」
「無理じゃない!やるのよ!」
「やるもなにも」
「取り敢えず!おじいちゃんとナツキの話を思い出すと、ナツキは私の物なんでしょ?」
「物ってお前な……」
「封印された岩から巫女である私の力で開放された。まるで西遊記の孫悟空ね」
「ちょっと待てぃ!誰が猿だ!」
「黙りなさい!今日からそう……アンタは私のペットよ!」
「ざ、ざけんなこのアマ!」

 額に青筋を立て、起き上がろうとするナツキに私はピシャリと一喝する。

「正座!」
「何が正座かっこのアバズレが!」

 ポコッ!と頭を叩かれる私

「調子に乗るな!」
「痛いわね!泣くわよ!いいの?!」
「勝手に泣けやこのクソ幼女が!」

 フフッ、ハハッとお互いが表情を緩めたその時だった。

「んな?!」

 ナツキの体から突然湯気が立ち昇る。

「なに?どうしたの?!」
「まさか……時間制限があったなんて……」

 彼の力強い空気がシオシオと萎んだ気がする。
 恨めしそうな顔でナツキは力が再び封印されたのを私に告げた。

 彼曰く、どうやら私の巫女としての力が足りなかったのか、はたまた前に封印を施した巫女の力が強すぎたのか。

 まぁ兎にも角にも私の実力不足という事らしい。



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