狩龍人と巫女と異世界と

GARUD

6 ホンキ

 眼前、眼下に溢れかえるような数の敵。
 おじいちゃんには魔の者と一括に言われていたけれど、実際にはかなりの個体差があった。

 緑の肌をした小人は口を開けて牙を剥き、茶色の肌の二足歩行の豚みたいなのはゲームで言うところの棍棒?みたいなものを持っている。
 他にも明らかに犬だか狼だかの四足歩行の獣や昆虫系の者まで正に様々だった。

 その数を表すならば敵七割、陸三割。

 ナツキは高度を落として街の城壁に着地すると私を優しく地面に降ろした。

「ユナ、お前はこの城壁に居ろ」
「いや、居ろって……最前線なんですけどッ?!」
「ンなもん何も問題はない。黙ってここで俺の圧倒的な強さを眺めていればいいンだよ」
「いやいやいや、飛び道具とか飛んできたらどうすんのよ!死ぬわよ!私簡単に死ぬわよ!ゲームオーバーよいいのッ?!」
「巫女なンだから防壁術式くらい使えンだろ?」
「はぁぁん?!チュートリアルにもない事言ってんじゃないわよ!そんなもの知らないわよ!」
「そンなんで巫女かよ……しかもゲームオーバーだのチュートリアルだのって……」

 何故か憐れむような視線を向けてくる狩人さんは軽く息を吐くと私に掌を向け……

「グレートオーラ、マジックオーラ、リフレクトオーラ」

 キュイン!キュイン!キュイン!

 掌がピカッピカッと三回光り、同時に私の体を何かが包み込むような感覚を感じた。

「なにしたの?」
「簡単に言えばバフを掛けただけだ。これで三十分は近接、遠距離物理と魔法を無効化できるぜ」
「スゴッ!」
「っか、そもそもそンな必要はないんだがな」

 いい子で大人しくしてろよ?とナツキは私の頭に一度手を置くと、ヒョイッと───それはもう軽い感じで城壁から飛び降りた。

 ここ……めちゃめちゃ高いんだけど……

 まぁ、飛ぶ剣なんてぶっ飛んだ物持ってるからいいのか?

 なんて思いつつ、飛び降りた彼を見ていると、なんとその剣を取り出さずに素のまま地面に落下した!

 ズドンッ!

 衝撃音と同時に上がる土煙に私は両目を見開いた。

「ちょっ?!大丈夫なの?!」

 私は心配で、もうもうと上がる土煙の中を目を凝らして見る。

 ドン──!

 突然土煙から飛び出した何かが魔の者の集団に激突する!

「グギャ?!」
「ギャッ!」
「プギー!」

 前集団を突き抜けたソレは、触れた者をぶっ飛ばしながら魔の者の集団へと食い込んで行く

「カカカッ!久しく体が動かせる!楽しい!楽しいぞぉぉぉ!」

 高笑いっぽいのが聞こえると同時に、ドゴン!ドゴン!と重い音と、次いで聞こえてくる魔の者の叫び声。

 ナツキ、無事着地したんだね……なんて今となってはどうでもいい事を思っていると

「ユナぁぁぁ!よぉぉぉく見てろよぉぉぉ!」

 ナツキのそんな叫び声が聞こえた。
 見れば声のした辺りから赤い帯びのような光の柱が立ち昇っている。

「こぉぉぉれがぁぁ!狩龍人ナツキのぉぉ!」

 ボン!と立ち昇っていた光の柱が爆発
 同時に赤く輝く人型の何かが上昇してくる!

「全力だぁぁぁぁぁぁ!」

 赤く輝く人型が地面に勢い良く落ち

 瞬間

 地面が割れるような衝撃が城壁の上にまで届く!
 
「キャッ!」

 その衝撃に、私は思わず尻もちをつき、両手も地面に当てて揺れに耐える。

 まるで直下型の大地震でも起こったのではないか?と思わんばかりのズドンと来る縦揺れに、私は城壁にへばり付きひたすらに耐えるしかないと歯を食いしばる。

 悲痛な覚悟を決めたのも束の間、揺れはズドン!と一度来た後は静かなもので……

「あれ?」

 私は恐る恐る城壁から顔を出して眼前を覗き込むとそこには何もなかった。

 そう、何も無かったのだ。

 いや正確にはポツンと立つ人型の者が一つ。
 それは笑い声からして狩人さんだった。

 しかし、ソレ以外が何もない。

 牙を剥いた緑の小人も……
 飛べない代わりに棍棒を片手に持った二足歩行の豚も……
 犬だか狼の四足歩行の獣も、虫も昆虫も!

 全てが等しく無くなっていた。

 私が呆然としていると、いつの間にかナツキが私の眼の前に居た。

「そンな呆けてどうしたンだ?」

 私が眼の前に現れた彼と、眼前の平野を交互に見ていると、彼の手がニュッと伸びて来て私の視界を覆った。

「ユナ、お前いつまで驚いてるンだよ?」
「いや、だって、さっきまでなんだかうじゃうじゃ居たじゃない?……あれって私の白昼夢じゃないのよね?」
「ナニ言ってるンだお前は」
「いやいやいや、だっておかしいじゃない!百万歩譲ってアンタ……ナツキがあれだけの数を倒したにしたって死体ってのがあるでしょ!それもものすごい数!それが────」

 私はビシッと眼前に広がる平原を突き刺し

「なんで何も無いのよッ!」

 そう、私の言葉通り、眼前の平原には何も無いのだ。
 緑の小人も、豚も、犬も狼も。
 砕けた四肢や弾けた血肉なんていったグロテスクな物も一切なく!
 本当にただの平原になっていた。

 まぁ、地面が陥没したり、割れていたりと彼の力の爪痕は多少残ってはいるが……

 そんなおかしな光景に、彼はさも平然とした顔でこう言った。

「魔物は死ぬと消滅するのは当然だろ?」

 


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