狩龍人と巫女と異世界と

GARUD

5 空の旅はお姫様抱っこで

 ぷはッ……

 ようやく離された唇からは、お互いの唾液が糸引き、タラリと地面に落ちていく。

 彼の腕によって押さえられていた腰から彼の腕が離れると、支えを失った私は膝から崩れるように、すとんと地面に腰を落とすと荒くなった息を吐く。

 身体が火照る……
 全身から熱が噴き出しているみたいに……

 とろんと歪む視界。
 前に立つ彼、狩人さんをチラリと見ると、彼の全身からは湯気のようなものが立ち昇っていた。

「キタキタキタァァァァ!」

 轟──!

 立ち昇っていた湯気が彼の中に一気に吸収された瞬間──彼の身体から熱風が噴き出した!
 まるでサウナの中の熱を超強力な扇風機で直接浴びせられたかのような熱気に、思わず両手で顔を隠す。

「この感覚!溢れ出す全能感!た巫女風凪の封印はここに解かれた!」
「何という……二百数十年経つというのに……相変わらず凄まじい圧力じゃわい……」
「おら!この淫乱痴幼女!何時まで腰抜かしてンだ!」
「ふぇ……?」

 事が終わり、ぼーっと座り込んでいた私の腕を掴み、狩人さんが強引に引っ張り起こす。
 だけど、私は未だに腰と膝に力が入らずカクンとなって前のめりになり

 ぽふん

 私は彼のお腹の辺りに倒れ込んだ。

「あはは……力が入らないや」
「仕方がねぇな」

 狩人さんはそう言って私の背と膝裏に手を回した。

「あ……」

 お姫様抱っこだった。
 私は上半身がダランとならないように彼の首に腕を回してバランスを取る。

 彼の綺麗に整った顔が近付くにつれ、私の視線は自然と彼の唇に向かった。

 彼の唇が二人の混じり合った唾液で艶を帯びている。なんだか凄くセクシーだ。

 この結果を産むのに一役買った事に恥ずかしくなり、チラリと彼を盗み見る。

 失敗だった。

 何故なら……彼の力強い瞳が私の瞳を掴んで離さないのだから。

 初めてのキスの相手ってこんなにも心を……躰を掴むものなのだろうか?


 なんて自分に酔っていた時期もありました。


「飛ぶぞ?舌ぁ噛むんじゃねぇぞ?」
「と……ぶ?」
「出ろぉ!飛剣・龍斬剣!」

 狩人さんが叫ぶと同時に、抱き上げられた私の視界の高さが少しだけ上がる。

 おや?と思った時にはもう遅く、遊園地にでもあるタワーフォールに乗ってしまったかのように、私の視線の高さが徐々に上昇する。

「え?え?!」
「くく。下を見てみな。俺の足元だ」

 言われた通り、首を回して彼の足元を見る。

「チョッ?!浮いてる!剣浮いてる!ってか何コレ!なんで剣に足乗っけて浮いてんの?!うえぇ?!」
「落ち着けよ」
「いやだっておかしいでしょこんなの!」
「こいつあ飛剣って言ってな。幼女にもわかりやすく言えば魔法の絨毯の親戚だな」
「魔法の絨毯ってそもそもお伽噺か二十一世紀のタヌキ型ロボでもないと持ってないやつでしょ!」
「タヌキじゃなくてネコだろ。お前、実は結構余裕あンな?」

 私はフッと鼻を鳴らした。

 生身で空を飛ぶなんてワクワクですがなにか?

「ンじゃ行くか……サイガは……こっちか?」
「逆じゃ!二百年経ってもあいも変わらず方向音痴じゃな!」
「うるせぇ」

 下の方から聞こえるおじいちゃんの声に、剣の先端をクルリと回して向きを変えると遂に私と狩人さんはお空の旅を始めたのです!

 ゆっくりとゆっくりと、駆け足程度の速度で飛ぶ私と狩人さん。
 あっさりと馴れた私は未だにお姫様抱っこで首に腕を回した状態。
 イケメンにお姫様抱っこで空の旅というパワーワード。
 にしても……

「ねぇ?これってもう少し速くならないの?」
「ンとに、お前は余裕あンのな」
「私、ジェットコースターとか周回余裕なの」
「なるほどな。なら────口閉じてろよ?」
「?」

 ニヤリと笑った彼が私を抱く腕に力を込め、しっかりと抱き閉めると同時に少し前のめりに身体を倒すと

 ビュン!

「うわっ?!」

 突発的な突風が頬を突き抜ける!
 まるでジェットコースターが頂点から一気に落ちるような加速感!
 それでいてジェットコースターと違うところは頬を打つ風の強さがさっきとあまり変わらないところだ。
 なんか身体の前に膜みたいなものが出来ていて、風をある程度遮断しているみたいだ。

「どうだ?!」
「凄い凄い!」

 ギュンギュンと流れる景色に私は超ご機嫌!

「……これが巨乳の美女ってんなら最高なンだがなぁ……」
「ロリっ娘で残念でした~」
「お前の名前は?」
「ユナよ!高橋由奈!」
「ユナか。俺の事はナツキと呼べ」
「ナツキね。改めてよろしくね!」
「っと……そろそろ着くぜ」

 そう言うと同時に、ナツキスノーボードのように剣をターンさせて速度を殺すと上空でホバリング。

 斜め下には大きな壁に覆われた都市があった。
 都市はかなり大きく、壁の反対側が見えない。

「なるほど……こりゃあかなりの数だな」
「ん?」
「見えねえか?壁の先だ」
「見えないよ。ってか反対の壁がそもそも見えないんだけど?」
「ン?……あぁ。ユナ、お前視界の端にギアがあるだろ?」
「うん」
「ギアを展開してマップ表示の項目にチェックを入れてみな」

 私はナツキに言われる通り、ギアからシステムメニューを展開し、マップの項目を探してチェック。

 すると、視界の上端に丸い円が現れた。

「なんか丸い円が出て来たよ?」
「したら今度は敵対ユニット表示にチェックだ」
「………敵対ユニット……おお?!」

 丸い円の奥に、赤い粒粒がうじゃうじゃと点灯する。

「なんか赤い点々がうじゃうじゃ点いたんだけど」
「その粒一つ一つが魔の者だぜ」
「一つ二つ三つ……数えられないよ?!」
「ンだな!大量だ!」
「……なんか点々がこっちに向かって移動してるっぽいんだけど」
「そりゃあ城塞都市落とそうとしてるンだぜ?ははっ!この数に取り付かれたら半日も持たずに廃墟だな」

 ナツキは楽しそうにそう言うと、上空でホバリングしている剣を都市の先──魔の者が迫る先端へと移動させる。

 そうして次第に私の視界に入って来たのは魔の者と呼ばれる者達の大軍勢だった。


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